小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

タイムズ編集長とマードック(下)

 タイムズの編集長ロバート・トムソン氏が、今月上旬、メディア・コラムニストから取材を受けた。その様子の(下)である。

―ネットが普及して、ブロガーが増えた。市民ブロガーたちはプロのジャーナリズムの領域を侵害するようになるのだろうか?

トムソン編集長:もうなっている。読者はニュースを自分たちで集めて読む。例えば安いホテルを探すときのように情報を集める。しかし、ジャーナリストの役割が段々少なくなっている、という説には同意しない。ガーディアンやインディペンデントのサイトのトラフィックがあれだけ大きいのは、信頼されているからだろう。

 かつては、家庭で親が新聞を読んだ。今の若い人はもうそうしない。若者たちは、情報の意味を読み取る教育を受けているかというと、どうだろう?(情報を読み取り、記事を書く)ジャーナリストの役割がここにある。

―ネットにアクセスが世界中からあるとすると、例えば報道の自由など米国あるいは英国社会の価値観、つまり民主主義の概念などが外に広がることになる。こういうことは良いことだろうか?

 日本に5年いたが、日本にも報道の自由をはじめ、英米社会と同様の価値観がある。

―私が聞きたかったのは、例えば中国だ。

 中国に言論の自由などの価値観を広めることを恥ずかしく思ってはいけないと思う。中国では今、人々は様々な問題に関して、話すようになっている。西欧の価値観と言われてきた様々なことが、既に中国の議論の中に入っている。

―投資するだけのお金があり、広告主を気にせず紙面を作れ、かつマードック氏からも何も言われないというのがあなたの現在の状況、ということだった。すると、あなたには随分自由があることになる。

 「権力」と言ってもいいと思う。しかし、責任を持つことが課せられている。タイムズの伝統を維持することやメディアとしての役割を果たす責任がある。

ーライバル紙の編集長についてどう思う?あなたのように編集の自由があるだろうか?

 自由はあると思う。英国の新聞業界はすばらしい。

―テレグラフも「すばらしい新聞」だと思うか?

 (笑い)全部に同意するというわけではないがー(注:質問をしたコラムニストはガーディアンに書いている。ガーディアン知識層はテレグラフを馬鹿にする傾向がある)。テレグラフの編集長、ウイル・ルイスは友人なんだよ・・・。ただ、インディペンデントのスタンスには同意しない。

 タイムズは、来年から利益が出ることになった。これはタイムズの近代の歴史でも初めてだ。完全な価格で売っている部数(注:ある程度のまとまった数を販売する、あるいは販促のために販売する、などの場合、ディスカウント価格になる)だけで比較すると、テレグラフよりも利益は大きい。特にネットを通じての収入が大きい。

―日曜版新聞はなくなるだろうか?

 タイムズに関しては、ネットサイトでは(月曜から土曜のタイムズも日曜版のサンデータイムズも)一緒だ。サイトをそれぞれに分けても意味があるかどうか。紙の日曜紙はこれまで通り、デイリーの新聞とは別個に続くべきだ。

―24時間ニュース体制になって、スタッフも24時間働くのか?

 ネットは透明性が高く、確かに24時間体制になっているけれど、一日の中で重点は変わる。紙とネットと言うよりも昼のエディターと夜のエディターと、どっちを重視するか、ニュースをどう分けるのかで苦労している。

―タイムズはイラク戦争開戦を支持した。今はどう思うか?

 大量破壊兵器の脅威が支持の理由だったが、イラクの現状を見ると、破滅的状態だ。しかし、良くなっている部分もあるのではないか。

―イラク戦争開戦の支持はどうやって決定したのか?

 私はよく専門家に話を聞く。自分がすべてて、上から下に指令する、というよりも、社説の書き手など既に様々な考えを持っている人たちの意見を聞く。それで決めた。

―人気の無料紙について、どう思うか?

 今はおもしろい時代になったと思う。タイムズの売れ行きへの影響はあると思う。しかし、一般の読者にとって、それからジャーナリズムにとっても無料紙があることはいいことだと思う。

―ブラウン首相をどう思うか?

 秋の労働党党大会で、「英国人に英国の雇用を」と言った。何かおかしいと思った。今、政府が大きくなっていることに懸念を抱いている。GDPの40%が国に関わるものだ。政府関連の支出は自己肥大しがちだ。削減するのが難しい。

―ジャーナリズムに関して聞きたい。外国特派員が自分の思い込みで記事を書くことをどう思うか。

 客観性を持つのは非常に難しいことだ。自分が強い感情を持ち、こうあるべきということをニュースとして書いたら、悲劇的な間違いとなる。その土地での事実が最も重要だ。

―何故利益があがったのか?

 紙媒体への広告の出稿が強かったこと、部数が伸び、オンライン収入も大きかったことだ。

―オンラインにかけるコストはどのぐらいか?

 算出は難しい。あるジャーナリストがどれぐらいの時間を紙だけのために、あるいはオンラインのためだけに使うのかを計算するのが難しいからだ。あるコンテンツを様々なメディアに出しているのであって、区分けがあるわけではない。ネットを運営する単純なコストそのものは一定している。広告からの収入が大きい。オンラインの収入は前年と比較して45%増えた。

―ガーディアンは米国向けのサイトを作るという。タイムズは?

 1年半前ぐらいから国際版を作っている。読者の3分の1は米国から来る。米国から読みに来る人が増える、ということは、米国を戯画化しない記事を増やすということだと思っている。(注:英国の新聞は米国人、あるいは米国が文化的に一段低いという見方の記事を出す傾向がある。)

 (ロンドンのフロントライン・クラブ、11月7日のイベントより)
by polimediauk | 2007-11-23 07:23 | 新聞業界