ITV,番組参加費の不当徴収事件の大きさ
過去2年間の「不正」の調査を会計会社デロイット・ハスキンスに依頼し、その結果が10月出たのだが、「何故2年だけなのか?」という声が出ている。2年を越えた番組でも不正があったのではないか(逆に、ない可能性は低いと言っていいだろう)という点で、「まだまだ何か隠している」と見ている人は多い。
また、視聴者参加型番組を巡る「やらせ」(鍵カッコつきばかりで恐縮だが、一言で説明しにくいのである)だが、当初明るみに出たのは、例えば視聴者が番組に電話し、その中からクイズの当選者や次回の番組の出演者を選出するという仕組みの中で、(1)技術上のエラーで正しい人物を選出できなかったため、別の人をあるいは架空の名前を当選者として発表していた、(2)既に選出していたが、お金を稼ぎたいので、電話線をつなぎっぱなしにしていた、(3)制作側が、番組のインパクトを高めるために、まっとうに選出された人ではなく、あえて別の人を「当選者」として紹介していたなど、いろいろなケースがある。
本当に「技術上のエラー」だったのか、あるいは故意に電話線をつなぎっぱなしにしておいて、お金をもうけようとしていたのかどうか、現時点では分からない。
この(3)にかかわる、作為的な選出が行なわれていたのが、民放ITVのケースだった。調査書をよく読んでも、その選出方法が入り組んでいて分かりにくいが、「あえて別の人を制作者側が選んでいた」のは確かだった。
調査書を見て、ITVのトップは、「制作側が利益をあげるために、やらせをしていたのではないこと分かった」と結論づけているが、「利益をあげる」ためではなくても、「視聴率を上げるために」やったことは確実で、ウエブサイトからダウンロードできる、今後の活動計画書を見ても、減少した広告収入を上げるために視聴率を上げることが至上命令になっていたことが分かる。
ITVを見ていると、「電話を使った視聴率参加型番組で被害を受けた人は、ご連絡ください。電話代を払い戻します」という広告が出る。期限は来年2月までで、それまでに申し出がなかった場合、余分に受け取ったとされる金額は、チャリティー団体に寄付される。
ガーディアンに載った記事によれば、あるブロガーが言うことには、「何年も前の番組のどの日に自分が電話をかけたかなんて、覚えていない。ITVの方には記録が残っているのだから、ITVが調べて払い戻せばいい」。しかし、これでは経費がかかりすぎるのだそうだ。払い戻しがあるとしても、例えば1回の電話で50ペンス(100円ぐらい)なのだそうだ。これでは、払い戻し願いをする人がたくさんいるとは思えないー。つまり、「払い戻しをします」というのは、聞こえはいいが、そしてそういうオファーをするべきとも思うけれども、それでも一種のポーズだなあと思わざるを得ない。やはりこれは、担当者の首を切る、というか、何らかの形で責任を取らないと・・・。ITVトップは誰の首も切らないと言っているのであるが。
デジタル化時代で、広告料を増やそうとする、英テレビ界の暗い部分が出た事件ではないかと思っている。全く、テレビと言うのは番組を作って放映するところではないのか、と思う。テレビのリモコンや電話を使って、クイズに参加する・・・これではゲーム機と同じだ。
・・・と言うことを新聞協会報11月20日付に書いたが、若干の言葉を付け加えたものが以下である。
英民放最大手ITVが、10月中旬、過去2年間の複数の視聴者参加型番組に電話をかけてきた視聴者から、780万ポンド(約18億円)を不当徴収していたとする報告書を発表した。約1千万人の視聴者が影響を受けた模様で、今年年頭から明るみに出た、視聴者参加型番組を巡る英テレビ界の不正事件では最大規模となる。ITVは不当徴収分を視聴者に返却し、該当視聴者から申告がなかった分は、残金を慈善団体に寄付する。高視聴率、高収入が見込める視聴者参加型番組の制作に走った英テレビ界の問題点を映し出した。
近年、英国では「フォーン・イン」と呼ばれる視聴者参加型番組が人気となった。視聴者は番組内のクイズに解答して賞品を得る、コンテストの勝利者を選出する、次週の番組に参加する権利を得るなどの目的で、番組に電話をかける、携帯電話からショート・メッセージを送る、双方向テレビのリモコンを使って信号を送るなどして、番組に「参加」する。電話をかける場合は、通常の電話料金に情報料として上乗せ料金を払う「プレミアウム・レート」サービスを利用する。
こうした番組は視聴率が上がり、電話代の約半分がテレビ局と制作会社の収入になる。多チャンネル化が進み、視聴率競争が激化していることから、一定の視聴率が得られる参加型番組に各テレビ局は収入を依存するようになった。双方向性を可能にしたデジタル機器の普及も参加型番組の増加に寄与したことを考えると、デジタル化の進展が生み出したジャンルとも言える。
BBCを含めた複数の大手テレビ局の参加型番組で起きた不祥事が明るみに出たのは今年2月だった。原因は主に技術上のエラーがきっかけだったが、編集上の判断から電話参加の結果を反映しない決定をしていた場合もあった。
ITVは、七月、会計会社デロイット・ハスキンス社に独立調査を依頼し、今回出たのがその報告書だった。複数の人気参加型番組で、電話をかけてきた視聴者全員に番組出演の可能性がある印象を番組側は与えていたが、実際には収録場所近辺に住む視聴者からの電話のみを選別の対象にしており、全く選出される見込みのない視聴者の電話を受け付けるなどの行為があり、結果的に視聴者を欺き、電話料金を過剰徴収していた。電話のかけ手が多いほど、ITVの収入は増える。通信・放送監督機関オフコムの調査が入っているが、刑事事件として、英重大捜査局の取り調べ対象になる可能性も出ている。
視聴者参加型番組の不正行為では、BBCが子供番組「ブルー・ピーター」でのやらせ行為でオフコムから五万ポンド(約千二百万円)の罰金を科され、ITVが75%所有する朝の情報番組GMTVはクイズの解答を巡る不正で、2003年から今年まで、年間1千万ポンドを過剰徴収していたため、オフコムから200万ポンドの罰金を課された。GMTのトップは引責辞任した。
ITVの報告は過去2年のみの調査結果だった。それ以前の同様の不祥事はなかったのかどうかに注目が集まっている。グレードITV会長の辞任を求める声も一時、あがった。