小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英国の政治とカネ


 クリスマス商戦たけなわの中、ブレア前首相がカトリックに転向する、というニュースが入った。妻や子供たちが既にカトリックだ。イラク戦争を始めるか否かを含めて、信仰を様々な決断の(心の)よりどころにもしていたようだが、宗教のことを話したら、「人から頭がおかしいと思われてしまう」ことから、ずーっと黙っていた、と最近のテレビ番組の中で語っていた。また、彼の右腕だった人物(アリステア・キャンベル)がニューレイバーは「神はやらない」(=宗教の話はしない、政治に混ぜない)と公言したことでも著名だ。何だか非常にクリスマスっぽい話になっている。

 ブレア氏の遺産の1つとも言えるのが、政治とカネの問題だ。上院議員になる権利を、労働党への融資提供者から選び、いわば議員資格をカネで売ったという疑惑が出た。警察の調査は最後は証拠を見つけ出せず終了したが、ブレア氏自身も警察からの質問を受けた。今朝(22日)、BBCのラジオ4で放映された政治とカネの番組では、「労働党への巨額融資提供者全員が、上院議員になるための推薦者リストに入っていた」と言っていた。

 ブラウン政権になって、政治とカネの関係がまた注目された。

 11月末、不動産開発業者デービッド・エイブラハムズ氏が他人名義で労働党に巨額の違法献金をしていた事態が発覚したからだ。労働党副党首ハリエット・ハーマン氏も巻き込まれた事件は、刑事犯罪となる可能性もあり、ロンドン警視庁が捜査を開始したと言う。「ニューズダイジェスト」に書いたものからまとめてみた。


労働党幹部を揺るがす
英国の政治とカネ



―献金疑惑の主な登場人物

 デービッド・エイブラハムズ氏(63歳):不動産開発業者。2003年以降、66万ポンド(約1億5000万円)以上を他人の名義で労働党に献金。イングランド北東部タイン&ウエア州の元州議員。ビジネス上の別名としてデービッド・マーティンを使うことも。1992年、労働党の国会議員候補になろうとしたが、私生活やビジネスのやり方に関して党から疑問を持たれ、断念。未婚だが、選挙民の受けを狙って、ある女性とその息子が自分の家族であるとして紹介していた。他人名義で献金をしたのは、自分がユダヤ人であるため、「(献金を)『ユダヤ人の陰謀』と言われたくない」、「プライバシーを守りたい」と思ったためと説明している。

 ジャネット・キッド:エイブラハムズ氏の秘書。18万5000ポンド(約4200万円)を労働党に、5000ポンド(約114万円)をハーマン議員に献金。

 レイ・ラディック:建設業者。19万6850ポンド(約4500万円)を労働党に献金。

 ジャネット・ダン:エイブラハムズ氏の会社の従業員の妻。2万5000ポンド(約570万円)を労働党に献金。

 ジョン・マッカーシー:弁護士。25万7125ポンド(約5800万円)を労働党に献金。

 ハリエット・ハーマン労働党副党首:副党首選挙戦でジャネット・キッドから5000ポンドの献金を受ける

 ブラウン首相:党首選で、ジャネット・キッドからの献金を拒否。

 ヒラリー・ベン環境・食料・農村問題大臣:副党首選挙戦でエイブラハムズ氏から直接5000ポンドの献金を受けるが、代理人名義での献金は拒否。

―これまでの経過

 イングランド北東部を拠点とする不動産実業家デービッド・エイブラハムズ氏が、「プライバシーを守りたい」という理由から、4人のビジネス関係者の名前を借りて、約66万ポンド(約1億5000万円)の献金を過去4年に渡って行なっていたことが発覚したのは11月末だった。

 政党・選挙・国民投票法によれば、政党は身元不明のあるいは身元を偽った人物から献金を受けてはいけないことになっている。エイブラハムズ氏が正当な理由がなく、他人名義で献金を行なったとなれば、法律違反行為となる。実際の献金者は名義人ではなくエイブラハムズ氏だと政党側が知りながら献金を受け取っていたとすれば、これ自体も違反行為だ。もし、労働党への秘密の献金を通して、エイブラハムズ氏がビジネス上の利益、例えば自分の会社が関わる土地の建設許可を該当当局から格別に迅速に得ていたとなれば、腐敗防止法(1906年)の違反になる可能性もある。選挙管理委員会は献金の経緯の調査書を11月30日、警察に渡し、捜査が続行中だ。

―「気がつかなかった」とハーマン議員

 エイブラハムズ氏の寄付金は、7月、当時労働党副党首の座を狙っていたヒラリー・ベン議員とハリエット・ハーマン議員にも向った。秘書ジャネット・キッドの名前で献金しようとしたが、ベン議員はエイブラハムズ氏が真の提供者であることを知り、他人名義の献金の受け取りを拒否した。後、エイブラハムズ氏本人の名義で5000ポンドを受け取っている。一方のハーマン氏はキッド名義で同額を受け取り、提供者がエイブラハムズ氏であることに「気がつかなかった」と弁明している。労働党事務局長ピーター・ワット氏は「知っていたが、違法とは思わなかった」とし、事件発覚後、間もなくして辞任した。

 労働党は昨年、上院議員への推薦にからむ巨額融資疑惑に揺れた。2005年の総選挙で労働党に巨額融資をした実業家12人全員が、首相(当時)から上院議員になるための推薦を受けていたことが発端だった。全員が上院議員になったわけではないが、労働党が金銭で貴族(=上院議員)の地位を売ったのではないか、とする疑念が出た。政党は一定額の献金を受けた場合、これを公表する義務があるが、融資として資金提供を受けた場合は、関連法が修正された昨年秋以前はその義務がなかった。

 上院議員疑惑融資スキャンダルの後、政治資金の新たな浄化策を行なうことで各政党は合意したが、事態は思うように進展していない。野党保守党は労働組合を含めて各個人・団体の献金最高額を5万ポンド(約1140万円)に限定する案を提案したが、組合からの献金を大きな収入源とする労働党はこれに反対している。「最も腐敗が少ない政治体制」と言われる英国で、もし改正があるとしても「小規模になる」というのが専門家の見方となっている。

ーそれではどうしたら?

 融資を受ける、あるいは政治献金を受けるのが腐敗につながりやすいのだと仮に考えた場合、解決策の1つとして、「税金でまかなう」という考え方もあるだろう。先に触れたBBCのラジオ番組によれば、「税金でまかなうシステムになっても、規則が増えるばかり。ありとあらゆる手を使って、人は規則を潜り抜け、政治に影響を及ぼそうとする。あまり変わりはないだろう」という声が出た。

 また、ある程度の資金を持った人が、まっとうにある政党の活動の支援をしたいと思って、融資あるいは献金をしたとき、「胡散臭い目で見られるのはごめんだ」、「堂々と寄付したい」という献金者の声も出た。うまい解決策はないような感じがした。

 それでも、ブレア氏の時代の上院議員融資疑惑の件も、今回のエイブラハムズ氏の件も、資金が欲しい労働党が「ありとあらゆる手を使って、少々胡散臭くても、カネを集めた」ことの結果と言えるだろう。「他人名義の献金を受け取ってはいけないと知らなかった」というのは、大嘘と思わざるを得ない。〈常識的に考えて、ルールは知らなくても、何だか変だなと思うのは普通だろうから。)

―日、英、米の政治献金情報の公開度

 日本:政治団体の会計責任者は、総務大臣か選挙管理委員会に対し、年間5万円を超える寄付については、寄付者の氏名など、一つの政治資金パーティーごとに20万円を超えるものについて、支払い者の氏名などを報告する。政党・政治資金団体に対する寄付で、個人の年間限度額は2000万円、企業・労働組合の場合は750万円から1億円まで(資本金などによって変わる)。一つの寄付受領者に対する年間減額は個人からの場合150万円までで、企業・労働組合の場合5000万円まで。
英国:政党本部が受け取った、「正当な献金者」からの5000ポンド(約114万円)以上の献金を選挙管理委員会に報告する。「正当な」とは英国の選挙民、英国で活動をする企業、労働組合、団体、政党など。これに該当しない人物あるいは団体、例えば具体的に特定できない人物あるいは団体からの200ポンド(約4万5000円)以上の献金を受け取ることは禁止。融資もほぼ同様の扱いを受ける。
米国:個人が一度の選挙運動中に一人の候補者に献金できる最大額は1000ドル(約11万1000円)、年間では2500ドル以上(約27万8000円)の献金はできない。候補者は献金を受けた全団体を公表する義務がある。年間200ドル(約2万2000円)以上の献金を受けた個人の名前も公表。
(Source:総務省、BBC、Electoral Commission)

―関連キーワード 
ELECTORAL COMMISSION:選挙管理委員会。政党・選挙・国民投票法(2000年)を下に、設立された独立団体。民主制度の品位と国民の信頼を維持するために存在する。政党の登記、政党や選挙の資金繰りに関する知識を国民に広める、政党や個人の政治資金の集め方や出費内容の公表、選挙制度の水準の維持、選挙結果の公表など、地方及び全国規模の選挙が公正に行なわれるようにする。選挙区を決める境界委員会とも協力する。選挙関連法改革に関し、政府に諮問する。一定額の政治献金や融資を受けた政党はこれを委員会に報告する義務がある。
by polimediauk | 2007-12-23 07:03 | 政治とメディア