小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英大手ネット配信提携の背景

 23日、イングランド南部一帯に濃い霧が出て、ヒースロー空港では数十便が欠航した。私も車で出かける予定だったが、あまりにもミルク色の霧が濃く、旅行を一日遅らせた。日本でこんなに霧が出た状況にあった記憶があまりないが、窓からのぞくと、直ぐ近くの木々が白い雲のような層に覆われていた。外を歩く人は少なく、みんな家に閉じ込められた格好となった。

 クリスマス前に、メディア業界の話を一つ。

 BBCと民放ITV、チャンネル4は、11月末、ネットを通じたオンデマンドでの番組配信で来年から共同事業を始めると発表したが、これはどことなく、日本の新聞業界のANY(朝日、日経、読売のネットでの共同作業)を思わせる動きだった。

 この件の解説を「新聞協会報」(12月18日付け)に書いたのだが、これに加えて考えてみた。放送業、ネット業、映画などの動画エンタテインメント業界の垣根がますますぼやけてきたようだ。「大手があせっている」感じにも見える。来年以降も、どんどん放送+ネット+エンタテインメント界の融合は進むのだろう。

英BBCと民放、ネット配信で提携
新た収入源を模索


 BBCと民放ITV,チャンネル4によるネットを通じたオンデマンドでの番組配信の連携は、ユーチューブなど動画投稿サイトに対抗して新たな収入減を確保するのに加え、テレビのオンデマンド市場で主導権を握ることも視野に入れている。大手のコンテンツ所有者が協力し、独自の動画配信サイトを作る米国の動きを英テレビ界も追っている。

 来年半ばまでに始まる予定の3社による合弁事業は「プロジェクト・カンガルー」(仮称)と呼ばれる。約1万時間の番組を共同サイトから配信。配信は無料・有料が混在する見込み。毎月一定の視聴料を徴収する方法も検討中という。合弁会社の出資比率は3社均等だが、利益分配の詳細は公表されていない。

 3社それぞれが無料(1部有料)で映像をネットを通じ配信するなか、BBCは「1つのサイトで3社の番組が視聴できる」ことや、「放送局がコンテンツ管理の主導権を握る必要性」などを合弁の理由に挙げた。BBCは受信料収入が予定よりも大きく落ち込むことが確実の中、収入源の拡大も目論む。

 合弁会社はユーチューブなど人気の動画投稿・配信サイトに加え、BスカイB,ヴァージンメディアなど有料放送とも競争する。有料放送の契約者は、複数局の過去の番組をテレビで視聴でき、1部保存も可能だ。「カンガルー」も、ゆくゆくはテレビでのオンデマンド番組視聴を目指しており、先行サービスとの差別化が課題となる。

 今回の動きは、米国のNBCとフォックスを持つニューズ・コーポレーションの2社が10月、動画配信サイト「Hulu」を立ち上げたのに続く形となる。米英で放送局が協力して番組配信に乗り出す背景には、動画サイトに投稿された場合、放送局の収入にならないのに加え、有料配信サイト「アイチューンズ・ストア」を運営する米アップル社への不満がある。音楽業界が違法、合法の音楽ダウンロードに苦しみ、音楽著作権保持者に打撃が出た状況を繰り返したくないという放送業社の共通した認識がある。

 米テレビのダウンロード市場の「80%がアップル社のiTuneを通して配信されている」(業界筋)中で、NBCを初めとした放送業者側はアップル社の番組廉価販売に不満感を持つ。BBC幹部も「アップル社が音楽の消費者に与えた貢献は素晴らしいが、音楽著作権権利者にとっては災難だった。放送業界を音楽業界の二の舞いにしたくない」と「カンガルー」発表時に述べている。

 昨年末いち早く参入したチャンネル4のオンデマンドサービス「4oD」、ITVの同様のサービス、BBCiPlayerには新サイトから飛べる仕組みになる予定だ。

 放送雑誌「ブロードバンド」のコノー・ディグナム氏(インディペンデント電子版12月3日付け)は、「カンガルー」がオンデマンド市場で圧倒的な人気を得るには、見たい番組をPCの画面からテレビの画面に簡単に移動させることができるような、PCとテレビの融合が進化するか、あるいは、アップル社のアイポッドのような専門の再生機が必要だとの見方を示した。

 しかし、この2点が未だ実現していない現在、カンガルーは未知数の存在だ。特に、様々なチャンネルの放映済み番組をテレビのリモコンの簡単な操作で選択して視聴できる「キャッチアップ」サービス(BスカイBの「スカイ・エニータイム」など)が普及しつつある中で(私自身も同様のサービスを気軽に楽しんでいる)、果たしてどれほど独自のサービスが展開できるのか。来年のサービス開始まで、「成り行きを見守りたい」という論調が多いのが現状となっている。
 
by polimediauk | 2007-12-24 06:32 | 放送業界