小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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日本の貧困:労働条件 雑感


 日本の貧困問題を遅ればせながら考え出すようになり、手元にあった雑誌を見てみると、「論座」昨年11月号に「特集:現代の連帯」という記事があった。「全労連」の専従者で作家の浅尾大輔さんの原稿で、全労連に労働相談に来た人の話が書かれてあった。低賃金、有期雇用(雇用期間が限定されている)若者たちの話で、解雇の脅し、「セクハラ、パワハラ」といった労働者いじめの具体例が出ている。「生存の破壊、誇りの破壊、未来の破壊」に苦しみ、「働いても働いても生命を存続させることが難しい、働いても働いても自分に自信が持てない、そして将来設計すら立てられない」若者たちがいる、と。

 「・・組合活動を始めた私は、働いている人々の表情を自然に意識するようになった・・・(中略)・・・いつも思うことは、みんな働いている、懸命に働いているのだという極めて単純な事実、しかしそれは耐えられない苦しみや悲しみと表裏をなしている場合があるという認識だ。私は、いつか、その苦しみと悲しみがこの世からなくなればいいと思う」。

 ページをめくると、ルポで、「論座」の小丸朋恵さんがある男性を追う。「船舶造修業・労務管理・正社員」の求人票を見て応募した男性が、採用後、「月給25万円」が「自給1000円」に、各種保健加入が任意加入に、休日が土日祝日から平日に変わったことに気づく。「もうキャンセルできない」と言われ、研修期間中に辞めたら、赴任費用を返還しなければならないと言われて、辞めることができなくなる。重労働の末、紆余曲折あって、「青年ユニオン」に別の職場で働きながらも加入する。新しい職場では、「年俸制」と言われたが、月に80時間の残業代が含まれていたー。本当に、読んでいて苦しくなるような壮絶な状況だ。

 「世界」2月号では、首都圏青年ユニオンの川添誠さんと「もやい」事務局の湯浅誠さんが対談をしている。「反・貧困を軸とした運動を」という題がつく。
 
 「困窮した生活の中で意欲も困窮化してしまう。貧困状態の中では世間を器用に渡るためのコミュニケーション能力もなかなか育てられない。そういう人が真っ先に解雇されてしまう。本人もそれに異議を申し立てたり、たたかっていこうとする意欲を持てない。何度も解雇されていくなかで自分への自信も失われてしまっている。貧困とはそういうもの」、「これだけ貧困問題で取材者が来ても、団交を報じたメディアはほとんどない。貧困を解消する労働運動という側面が、あまり出ない」。「障害者団体やシングルマザーの団体、多重債務問題に取り組む団体も、それぞれの問題の根っこに貧困が存在する。でも、これらの団体が連帯していくという発想がこれまでなかった」(川添氏の発言から抜粋)。

 「貧困の問題には社会的偏見が強いために、当事者が発言しづらい」、「貧困状態に追い込まれた人は、〈中略〉、『溜め』が小さくなっています。発言できるまで、『溜め』が回復していくプロセスを前提に考えなければいけない。生活保護を受けてようやくアパートへ入れた人が、翌日から発言できるようにはなりません」(湯浅氏発言の一部)。

 湯浅氏は丁稚奉公が続く美容師の例をあげ、「美容師に限らず、正社員であっても月給十数万で劣悪な長時間労働を強いられいてる人がたくさんいる」と指摘している。

 川添氏:「ある女性が労働条件が当初の約束とあまりにも違うので辞めようとしたら、『そんなにいきなり辞めるなら一か月分の給与は払わない』と経営者に言われた。その賃金は未払いのまま新しい会社に就職したのですが、給料日まで20日ぐらいある。その間の交通費がまかなえない。このままだと通勤できないために失業してしまう」。

 ・・読めば読むほどにつらいなあと思うのと同時に、自分自身の体験を思い出す。実際に働き出して、当初の労働条件とは違っていたり、急に職務内容や時間が変わったり、経費支払いを約束された後で、突如「経費は払えなくなった」といわれ自腹を切ったりー。ある会社でアルバイトをしていた時、景気が悪化し、他のアルバイト仲間が「人員削減の際には、君から辞めてもらう」と言われた時のことも思い出す。会社が経営不振に陥り、未払いとなった給与、賃金もずい分ある。その時の悔しさ、悲しさを思い出す。労組にまともに入ったことなく、意識が低かった自分自身の未熟さ、弱さも。

 自分自身がいやだなと思ったことは、多くの人にも起きていたし、現在も起きていると改めて感じ、雑誌の記事が頭に残った。

 「世界」湯浅氏によると、厚生労働省は生活扶助基準に関する検討会を開き、11月30日、結論を出した。大臣は生活保護基準の切り下げを言明している。しかし、切り下げで生活保護を受けている人の収入が減るのだと湯浅氏は言う。最近では、「老齢加算や母子加算が削られることで、70歳以上の高齢者や母子家庭の人たちは、すでに収入が二割近くカットされて」いる。これに加えて生活保護基準が切り下がれば、「合計20%以上の切り下げになる」。一般の人で収入が20%以上減れば大変で、「ぎりぎりの生活をしている人にしてみればなおさら」だと言う。「弱い者にだけ収入の切り詰めを求めるのは、どう考えてもおかしい」。

 英国の貧困について、次回、書きたい。
by polimediauk | 2008-01-15 01:08 | 日本関連