小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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風刺画論争後のデンマーク-2

 セルビアで、3日の大統領選で、親欧米のタディッチ大統領が再選を果たした。コソボ自治地区の独立はどうなるのか?もしコソボが独立すれば、欧州のみならず世界の様々な地域の独立運動が高まると予想されている。在英のロシア系ジャーナリストによると、何と、「台湾も独立を宣言する可能性がある」(?)という噂が出ているそうである。まさかそこまで?という感じなので噂に過ぎないだろうけれど、影響は大きいかもしれない。

 日刊ベリタに昨年書いた、現地ルポの転載である。今年=2007年などとなっていることにご留意願いたい。

ルポ:風刺画論争から1年のデンマーク・2 「希望を捨てずに平和的に闘え」 移民融合コンサルタントのアルマジド氏

2007年01月13日日刊ベリタ掲載
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200701131146066

風刺画論争後のデンマーク-2_c0016826_17344390.jpg(コペンハーゲン発)「ユランズ・ポステン」紙に掲載された風刺画が大きな国際論争となっていた昨年2月、この新聞のコラムニストの一人で移民融合問題コンサルタントのファーミー・アルマジド氏は、デンマークで取材をした筆者に対し、論争をきっかけにイスラム系と非イスラム系国民の間に「新たな対話の機会が開けた」と楽観的な見通しを示した。約1年後に再会したアルマジド氏の表情は暗かった。強まる反イスラム感情への懸念が日々高まっているからだ。
 
▽「74%がイスラム系の友人なし」 
 
―イスラム系移民への視線は現在までに変わったのか? 
 
アルマジド氏:移民に対する国民感情を知りたいなら、昨年6月のある新聞の調査を見て欲しい。74%の先住デンマーク人がイスラム教のバックグラウンドを持つ人を今まで友人に持ったことがない、と答えている。69%が、デンマークで将来的にイスラム教の存在が否定的な面で大きくなることに懸念を抱いている。 
 
 米ギャロップ社が行った7月の調査によると、デンマークの移民の社会融合に関して、74%が失敗したと答えている。私自身これはものすごく悪い数字だと思っている。 
 
 同じ調査では、18歳から35歳の若者たちがたくさん外国人や移民の友人がいると答えている。それでもこの年齢層に入る人たちの76%が融合は失敗している、と答えている。この比率は高すぎる。 
 
 書店に行けば、「イスラミスト、ナイービスト」という本が昨年9月発売され、ベストセラーとなっている。 
 
―どんな本か? 
 
アルマジド氏:「イスラミスト」とはイスラム原理主義者、過激主義者を意味する。テロリストともイコールとみなされる。「ナイービスト」は作者の造語だが、イスラム原理主義者たちにナイーブな人、馬鹿な人、ということだ。 
 
 本はカレン・ヤスパーセン氏とラルフ・ピッテルコウ氏の夫婦による共著で、ピッテルコウ氏は左派系社会民主党の党員で元文学部の教授だった。社会民主党党首で首相だったポール・ナイロップ・ラスムセン氏(現首相のラスムセン氏とは別人)のアドバイザーだったが、現在は風刺画を掲載したユランズ・ポステンのコラムニストだ。妻のヤスパーセン氏は前政権で内務大臣を務めたことがある。若い時分は2人とも社会主義者で、移民を肯定的に見ていた。現在は両者が反イスラム教だ。以前は親移民の立場をとっていた政治家、アドバイザーが、いわば180度転換をしたことになる。 
 
 著者は、イスラミストたちの脅威を無視する欧州人は新しい、危険な種族「ナイービスト」(ナイーブな人たち)であり、イスラミストたちをナチズム信望者や共産主義者に例えている。誰でもイスラム教に関して肯定的なことを言う人はイスラミストになる。イスラム教が拡大することを防げない人たち、つまりナイービストたちへの警告の本だ。 
 
 今、デンマークではイスラム教徒なら2つの選択肢しかない。つまり、イスラミスト=イスラム原理主義者か、「民主的イスラム教徒」かだ。「民主的イイスラム教徒」とは、野党社会自由党議員で自分自身も移民のナッサー・カーダー氏が中心となって設立したネットワークの呼び名から来ている。カーダー氏は「良いイスラム教徒」だ、それは、彼が「民主的イスラム教徒」だからだ。もしイスラム教のことを何らかの形でほめたり、熱心なイスラム教徒だと言えば、「イスラミスト」、危険な人物になる。 
 
―「イスラミスト、ナイービスト」がベストセラーになっているのは、風刺画問題の影響か? 
 
アルマジド氏;風刺画だけのせいではない。2001年、現政権が成立してからは、外国人やイスラム教徒の国民に関して、何を言ってもいい、表現の自由を優先するという傾向が強まった。風刺画事件が起きて、現政権は「表現の自由には限度なし」という姿勢を続けた。 
 
―振り返ってみて、風刺画掲載は馬鹿げた決定だったと見ているか? 
 
アルマジド氏;ひどいことだったと思う。ユランズ・ポステンのフレミング・ローズ文化部長は、掲載時の紙面上で「対話を始めるきっかけとしたい」と書いた。しかし相手を侮辱しておいてから対話を始めようとするのはどうだろうか。コーヒーを飲んで、握手をして、対話が始まるのではないか。あのような風刺画では対話は始まらない。掲載した側はそれを知っていたはずだ。 
 
 ユランズ・ポステンには、イスラム教に関する専門家が2人いる。風刺画を掲載するなと警告していた。それでも掲載したのだ。問題が起きるのは分かっていたことを示す。 
 
▽イスラム教徒のジレンマ 
 
―人気ある「民主的イスラム教徒ネットワーク」をどう評価するか? 
 
アルマジド氏:ネットワークは、先住デンマーク国民に対してイスラム教徒が民主的でもあることを示すと言う。私自身は民主的だしイスラム教徒だ。だからといって、外に出て行ってイスラム教の悪口を言う必要はないだろう。 
 
 イスラム教の名の下でテロ活動を行う人がいても、だからといってイスラム教自体が悪いとは限らない。キリスト教のテロリストもたくさんいる。キリスト教自体に問題があるとは限らない。ユダヤ教とユダヤ人の場合もそうだ。宗教自体でなく、宗教を間違って使う人間の方が悪いのだと思う。 
 
 政治家たちがイスラム教のバックグラウンドのある人たちに関して否定的なことばかり言っているので、先ほどの調査のように74%の先住デンマーク人がイスラム系の友人が誰もいない、と答えることになるのではないか。デンマーク国民は寛容精神に富むと言うことになっているが、どうもこの数字からするとそうは思えない。 
 
―デンマークでイスラム系移民擁護の立場で意見を述べる人はいないのだろうか? 
 
アルマジド氏:ユランズ・ポステン紙のライバル紙となる「ポリティケン」紙のトウア・セイデンファーデン編集長が学者とまとめた本がある。セイデンファーデン氏は、問題となった風刺画の掲載は不必要で間違いだった、としている。デンマークに住むイスラム教徒の国民の多くは高い教育を受けており、社会に貢献している、と書いた。結果として非難の的になっている。 
 
―デンマークの多くのイスラム教徒の人たちは「民主的イスラム教徒ネットワーク」をどう受け止めているのか? 
 
アルマジド氏:私は移民問題コンサルタントとして多くのイスラム系国民に会う。狂信的ではない普通のイスラム教徒は、このネットワークに所属したくないという。それは、カーダー議員が反イスラム教だからだ。 
 
 イスラム教徒の若者が過激主義に走る1つの理由は、社会が自分を受け入れてくれないと思ったときだ。受け入れもらうためには、自分は民主的イスラム教徒だと宣言しなければならないとしたら、「自分はいやだ」と背を向けてしまう。 
 
 ここにジレンマがある。デンマークには、高い教育を受けたたくさんのイスラム教徒の若者たちがいる。デンマーク社会の一員だと感じている。しかし、難しいのは、この人たちが自分たちのことを「デンマーク人」と言えば、カーダー議員のグループに入ったと思われてしまう。「イスラム教徒」と言えば、「イスラミスト」と見られる。「どうしたらいいのか、わからない」といわれるのだ。 
 
 カーダー議員は護衛つきで暮らしている。彼が言うところのイスラム教徒の過激主義の青年たちから身を守るためだ。議員は、ある学校にはイスラム過激主義の生徒がいるから自分の子供をその学校に送れないと話す。これがメディアで大きく報道される。人々のイスラム教徒に対するイメージは悪くなるばかりだ。 
 
▽イスラム系の友人もつ「26%」に期待 
 
―疎外感を感じるイスラム系移民の若者を過激主義に走らせる結果になるのでは? 
 
アルマジド氏;もちろんだ。しかし、イスラム教徒の若者たちで、預言者ムハンマドに関する本をデンマーク語で書いて出版したという前向きの動きもある。この本「ムハンマドー月が割れた」で、人々がムハンマドに関する知識を深めて欲しいと願っている。出版記念記者会見に先日行ってきたのだが、メディアが誰も取材に来ておらず残念だった。 
 
 出版に関わった若者たちは完璧なデンマーク語を話していた。父親たちが移民としてデンマークに来て、自分たちはここで生まれた若者たちだ。 こういう人たちを見ていると、デンマークではテロは起きないと思う。しかし、何かがきっかけで社会が自分たちを受け入れてくれないと感じた時、変わる可能性もあるのだ。 
 
─イスラム系移民たちへのアドバイスは? 
 
アルマジド氏:私は、例え74%の先住デンマーク人がイスラム教徒の友人を誰も持っていないといっても、26%の方を見るように、とアドバイスするだろう。26%は君たちを受け入れている、と。肯定的に物事を見て行動すれば、来年はこれが30%になるかもしれない。否定的に考えれば26%が16%に下がってしまうかもしれないのだ、と。あまりにもたくさんのことがマイナスに動いているので、肯定的に物事を見るのはとても難しいが。 
 
 しかし、私は決してあきらめない。若い人にも、あきらめるなと言う。「自分はデンマーク人だ」と言い続けることだ。自分の権利のために闘え、自分がデンマーク人であるために闘え。過激主義がはびこるような機会を与えるな。 
 
 「闘う」と言ったが、良い教育を受け、働き、記事や本を書くなど平和的方法を使え。絶対に、絶対に暴力を使ってはいけない。暴力を使えば状況は悪くなる。民主的な方法で民主的な権利を使って平和に闘うのだ。 
 
 本の出版会見で会った青年たちは熱心なイスラム教徒たちだった。自分たちのモスクはないけれど、それでもみんなで一緒に祈ると聞いた。「もちろん、私たちはデンマーク人だ」と言う。私はとてもうれしかった。(つづく) 
by polimediauk | 2008-02-06 17:35 | 欧州表現の自由