小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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風刺画論争後のデンマーク 3


 英国で販売されている読売新聞(紙)を久しぶりに手にしてみた。日本で売られているものよりもやや薄い(ページ数)感じがしたが、やはり、日本の新聞に限らず英国の新聞もそうだが、紙の新聞はネットとは違う雰囲気がある。ネットだと視界に入らない記事が眼に入ってくる。普段はネットだけのファイナンシャル・タイムズの紙版を購入した時も、探していたトピックに関する記事を偶然にも拾うことができた。検索機能を使えばこの記事を拾うことはもちろんできたのだけれど、様々な関連記事がひっかかって来ることが予想され、この特定の記事を見落としていた可能性が高いように思った。結局、助かったのだった。どの記事をどのような大きさで、どのような重要度で出しているかが分かると、その新聞の作り手の考えも分かる。

 紙の新聞がもう少し安ければ数紙をまとめて毎日買いたいのだけれども。月に日本円換算で1紙1500円ぐらいだったらいいのにな。一紙だけを買うなら3000円位でもいいけれど、やはりいろいろ読みたい。図書館に行ってもいいのだが、切抜きができず、コピーは取れるがやはり自分で所有して好きなように読むのが一番良い。新聞は作るのにお金と人材がかかるからそれほど安くは出来ないだろうし、自分も紙の媒体に書いて収入を得ている部分が大きいので首を絞めることにもなりかねないのが現状だが、紙の新聞の値段はそのうち下がるかもしれないなと思っている。ネットでのニュースのアクセスがもっともっと一般化すれば、紙の割高感が出るだろうから。日本にもルパート・マードックのような人が出たら、大きく変わるかもしれない。


ルポ:風刺画論争から1年のデンマーク・3 「現首相の政策の一部になりたくなかった」と風刺画家のローエル・オルス氏
2007年01月15日12時03分掲載
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200701151203411
(記事内で、今年=2007年であることにご留意下さい。)

風刺画論争後のデンマーク 3_c0016826_21295688.jpg(コペンハーゲン発)2005年秋「ユランズ・ポステン」紙が掲載したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画は、2006年に入り欧州数紙が再掲載したことで表現の自由を巡る大きな議論となったが、デンマークの新聞を開くと、大小の風刺画、イラストがかなり多いことに気づく。全ての権威が痛烈な批判の対象となる風刺画は、デンマークの人々にとって非常に身近な存在だ。この国の政治風刺画家の第一人者で、ラスムセン現首相を長年原始人として描いてきた、ローエル・オルス氏に今回の事件の背景を語ってもらった。同氏はユランズ・ポステンのライバル紙「ポリティケン」に作品を載せている。
 
▽ムハンマド風刺画は現政権の政策を反映 
 
―何故首相を原始人として描いているのか? 
 
オルス氏;ラスムセン氏は1993年、「社会国家から最小限の国家へ」(仮訳)という自著の中で、政府の関与をできるだけ少なくする「リベラル」社会の実現を描いた。首相は超リベラル派、自由主義者だ。そこで何でも自由だった原始時代に戻りたがっているということから、原始人として描いている。 
 
―ユランズ・ポステンに掲載されたムハンマドの風刺画との関わりは? 
 
オルス氏;私自身は関わっていない。ユランズ・ポステン紙が預言者の風刺画を掲載しようとしていることは、デンマークの風刺画家たち全員が知っていた。ほぼ全員がユランズ・ポステンから風刺画依頼の手紙を受け取っていたからだ。但し、何故か私を含めた3人はこの手紙をもらっておらず、私自身は同僚から話を聞いて依頼があったことを知った。もし依頼が来ても断っていただろう。 
 
―何故か? 
 
オルス氏;ユランズ・ポステンでのこのような風刺画の掲載は、現政権の政策の一環だと思っていたし、私はこの政府の政策を支持していないので関わりたくなかった。イスラム教徒の感情を傷つけるかどうかということはあまり考えなかった。(閣外協力をしている)極右派のデンマーク国民党の政策の一部になりたくなかった。掲載には、反イスラム教感情が流れるデンマーク国内の政治事情が背景にあったと思う。デンマークには40人の風刺画家がいるが、デンマーク国民党の政策を支持する人は誰もいない。 
 
―12枚の風刺画が大きな事件になっていったが、風刺画家たちはある意味で犠牲者だと思うか? 
 
オルス氏;そうは思わない。断ることもできた。掲載後にどのような影響があるのか、画家たちは最初予期できなかった、ナイーブだったと思う。参加した風刺画家の中で3人はユランズ・ポステンで働いているので断れなかったのかもしれない。他の数人はムハンマド自身を描いておらず風刺画家を描いたものもあった。 
 
―掲載された風刺画をどう見たか? 
 
オルス氏;少なくとも1つには笑ってしまった。「待て、天国にもう処女はいない」という風刺画だ。(自爆テロを行うと天国で処女に会えるという解釈がある。)しかし、このセリフを言っているのはムハンマドではなく、(天国の門を守っているという伝説のある)聖ピーターだ。最初にこの風刺画はポリティケン紙に送られてきたものだった。2005年のクリスマス特集に使うための候補の1つとして送られてきたものだった。使わなかったのでユランズ・ポステンに回ったと聞いた。 
 
▽背後の極右・国民党の影 
 
―掲載までの背景をどう分析するか? 
 
氏;非常に複雑だ。閣外協力をしているデンマーク国民党が反外国人という姿勢を持つという点を考慮に入れなければならないと思う。首相に関して言えば、彼は非常にリベラル派で、この意味するところは先ほどの本に書いてあるのだが、デンマーク社会を変えたいと思っている。デンマークは、過去100年以上も社会民主主義的考え方で統治されてきた。社会の中の弱い人の面倒も見るという考え方だ。首相はこれを変えたいと思っている。もし金持ちでなかったらそれはあなたの責任であって国家は面倒を見ない、と。首相は政権を取る際に文化革命を起こしたいと言っていた。 
 
―文化革命? 
 
オルス氏;そうだ。約50年ほど前、文化急進派とでも呼ばれる作家たちの流れがあった。その一人はゲオルク・ブランデスと言い、この新聞の創始者の一人でもあった。作家たちは自由にものを言う精神を広めた。 
 
 現政権が成立するまで、デンマークは非常に寛容精神が高い社会だった。デンマーク人のものの見方、考え方はこの作家集団の考えに影響されていた。デンマークにとって非常に重要な流れだが、首相はこれに重要性を見出さない。 
 
 首相は、自分が率いる自由党が国会内で過半数を占め思い通りに事を運ぶためには極右デンマーク国民党の支持が必要と考えた。国民党の党首は一種の人種偏見主義者だ。デンマークの中で社会主義的政策を支持する人と、現政権のようにリベラルな政策を支持する人との間で文化的闘いが起きていることになる。こうした背景があって風刺画が出てきた。 
 
―政府側が意図的に風刺画を掲載させた、とあなたは見ているということか?ユランズ・ポステン側はそのような見方を完全に否定しているが。 
 
オルス氏:ユランズ・ポステンは「リベラルな」新聞だ。首相の政策を支持している。首相は新聞に何が掲載されるかを決定することはできない。しかし、首相は言葉に出して指示を与える必要はない。同じように考える新聞が既に首相の言いたいことを書いているからだ。 首相が独立メディアである新聞に対して何を出すかを指示できないというのは原則としては真実だ。しかし実際にはできる。 
 
 私が今回の風刺画の依頼をもし受けてもやらないと思った理由はイスラム教徒に対する配慮というよりも、現在の首相の政策の一部になりたくなかったからだ。 
 
 それにこのような形でイスラム教徒を煩わせる理由があるだろうか?私だったらこういう形にはしない。イスラム教を風刺の対象にしない、ということではないが。 
 
▽女王も編集長も戯画化 
 
─フランスやドイツの新聞が風刺画を転載したことについて、どう思うか? 
 
オルス氏;全てそれぞれの国内事情があるのだと思う。デンマーク、ドイツ、レバノン、サウジアラビアなども同様だ。国内政治事情のために暴動が必要だと判断する政府もあったと思う。例えば、サウジアラビア政府が了解していなければ、国民による大きな抗議デモは起きない。 
 
 表現の自由はただ使われたのだと思う。レバノンやサウジアラビア、エジプトの「表現の自由」とは?自国内では存在していないのだ。この問題はグローバルに見えても、それぞれの国内事情があって展開したという要素があるのだと思う。デンマークでは、首相がデンマークをリベラル社会にしたいと思い、ユランズ・ポステンが、首相の政策を支持するために風刺画を必要としたのだと私は見る。 
 
―あなたの風刺画をいくつか紹介して欲しい。このカラーの風刺画はイラクの市街地の一角に、カウボーイ姿のブッシュ米大統領と原始人の格好をしたラスムスセン首相が立っている。たくさんの人が血を流しながら地面に横たわっている。犠牲者がたくさん出て、非常に痛々しい様子がでている。 
 
オルス氏:首相とブッシュ氏は、共にテロと闘うためにイラク戦争を開始すると言っていた。「戦争開始前、イラクにはテロリストはいなかった。今はいる。だから、イラク戦争を始めて良かった」、と2人が言っている姿を描いた。 
 
―デンマークの新聞の風刺画には正直驚かされる。裸身、排泄物などの鮮明な描写、政治家など権威を持つ人々に対しての徹底的な戯画化が目に付く。例えば、あなたの風刺画の一枚では、中央に環境大臣が自由の女神のような格好をして立っている。他の閣僚が周りを囲み、閣僚の中で男性2人が下半身裸で、環境大臣に向かって放尿をしており、背景にいる国民党の女性党首は体が後ろ向きだが裸のでん部を露出し排便している。あまりにも露骨で衝撃的過ぎないか? 
 
オルス氏:そうは思わない。女王だって同様のレベルの戯画化に甘んじている。例えばこの一枚はポリティケンの編集長を描いている。編集長は親欧州連合(EU)派だが私は反対派だ。そこで、(2005年)フランスがEUの憲法草案を否決した後、「頭が悪い」編集長は何故そうなったのか理解に苦しんでいる。そこで、私が彼に「フランスのノンは実際にはイエスなんだ」と教えているという場面を描いた。実は、私を雇ったのはこの編集長なんだ。自分の上司であってもこんな風にして戯画化するのがデンマークでは許される。だから、この新聞には表現の自由があると言えるだろうと思う。(笑い) 
(つづく) 
 
*デンマーク政治メモ 
 
 2001年11月、9年続いた社会民主党率いる連立政権を破り、「小さな政府」を目指す右派連立政権が誕生。新政権では自由党のラスムセン党首が首相となって保守党と連立を組み、デンマークの欧州連合からの脱退など過激な政策を主張したデンマーク国民党が閣外協力する形を取った。 
 
 ラスムセン氏は、1993年「社会国家から最小限の国家へ」(仮訳)という自著の中で、政府の関与をできるだけ少なくする「リベラル」社会の実現を描いた。政権取得後は選挙公約通り移民規制策を打ち出して人気を上昇させ、05年2月、総選挙で再選されて現在に至っている。 
by polimediauk | 2008-02-07 21:30