小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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五輪の言論、ヒルシアリ氏の身辺保護費

 前にelmoiyさんから指摘されたトピックだが、英国オリンピック委員会が、北京五輪の代表選手に、開催地で政治的な発言を行わないよう求めていた件があった。13日、委員会はその方針を撤回した。人権団体などからの批判が相次いだことを受け、選手の自由な発言を保障したもの。「政治的に正しくない判断だった」と認めたことになるのだろうか?ある意味では恥ずかしいようなてんまつになった。

 一方、ブリュッセルでは、イスラム批判の元オランダ女性議員、アヤーン・ヒルシアリ氏が、欧州議会の議員に対し、「身辺保護費用のファンドを立ち上げるので、これに協力して欲しい」と呼びかけたが、賛同してくれた議員があまりにも少なかったようだ。このファンドの名前は「EUファンド」と便宜上呼ばれ、ヒルシアリさんだけでなく、表現の自由を行使した後で、何らかの保護を必要とするための支援費ということになるはずだった。

 ヒルシアリさんは、オランダに難民としてやってきて、後で国会議員になった。イスラム女性虐待を告発する映画「服従」で脚本を執筆したことでも知られる。監督が04年、イスラム過激派に暗殺されたが、ヒルシアリさんにも殺害予告が出た。

 それから現在までに、ヒルシアリさんは身辺保護を受けながら暮らしている。06年に米国へ移住してからは、オランダ政府はそれまで負担してきた、身辺保護費の支払いを停止した。そこで、ヒルシアリさんは新たな資金提供先を探している。米政府は「個人の警護に税金は使わない」とする態度のようだ。

 今回、ヒルシアリさんは当初フランスも訪れていたが、彼女をフランスに招いた議員は、身辺保護費の支払いを停止したオランダ政府の対応を「恥」と呼ぶ。しかし、オランダ政府は、ヒルシアリさんがオランダに戻ったら、保護費を払う用意があるようだ。悲しいような、困惑するような事態になっている。

 米国に移住してしまったのなら、オランダ人の税金を使ってヒルシアリさんの身辺警護費を払う必要は、私もないと思うのだが。国レベルでの身辺保護費の負担は、つまり税金を使うわけだから、個人には基本的には適用されない、という米国の論理は、筋が通っているように思う。誰も引き取り手がいない状況になったヒルシアリ氏。これからどうなるのか???
 
by polimediauk | 2008-02-15 07:09