小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

ヘンリー王子の従軍、国策がらみは避けられずー

 プロパガンダ、国策、と書くと報道の王道(?)から遠く離れるように思われるが、例のヘンリー(ハリー)王子のアフガン派遣+メディアの報道協定問題で、いったい報道はどうあるべきだったかと考えると、どうやっても国策的になってしまうのは避けられないように思う。

 ・・・ということを新聞協会報3月11日号に書いた。これに若干付け足してみた。
  
 英国の王位継承順位三位となるヘンリー王子は昨年末からアフガニスタン南部の前線に従軍していたー。米ニュースサイトが2月28日、明らかにした。英主要メディアは国防省からの提案で協定を結び、報道を控えていた。しかし、報道解禁と同時に、従軍中に取材されていた王子へのインタビュー記事、写真、動画などが大量に報道された。協定の是非が議論を呼んだだけでなく、不人気な英軍のアフガン派遣に王子とメディアが使われたのではないかとの指摘も出ている。

 ヘンリー王子は、昨年12月から4ヶ月の予定で、アフガンに派遣された。しかし、米人気サイト「ドラッジ・レポート」が2月末に特報。安全上の理由から派遣期間の途中で帰国することになった。王子はその前にもイラクへ派遣予定となっていたが、現地での役割や派遣時期の報道後、テロの標的にされる可能性が高まり、派遣直前で中止となった経緯があった。

 アフガン派遣を前に昨夏、英国防省は英主要メディアや米メディア数社の編集長らと協議した。国防省側はメディアの協力がなければ王子の派遣はできないとして、派遣期間中は報道を控えるよう求める一方で、派遣の前後と派遣中の代表取材を認め、王子の帰国後に報道することを提案した。メディア側はこれに合意した。国防省は「(メディア側の)自主的な協定」としている。

 報道協定は誘拐事件などを除き異例。今回は他の従軍者の安全に関わる「非常に微妙な問題」(デーリー・テレグラフ紙記者)で、「特別な事例」とされた。国防省とメディア間の橋渡し的役割を果たした、メディア業界団体「ソサエティー・オブ・エディターズ」のサッチェル代表は、「当初は戸惑いを示すメディアもあったが、最終的にはどの社も協定に合意した」と話す。「合意しなければ取材できないという理由もあった」(前述テレグラフ紙記者)。

 しかし、協定外の海外メディアの存在や、ネットの普及で誰かが無記名で情報をウエブサイトなどに書き込めばあっと言う間に従軍の事実は知られてしまう現状をどうするのか、という問題があった。王室の家族が一同に集まるクリスマス時、ヘンリー王子の姿は見えず、勘の良いレポーターであれば「王子は国内にいない」と推測することも可能で、発覚は時間の問題となっていた。

 1月、オーストラリアの雑誌「ニュー・エイジ」が報じ(オーストラリア国内ではこれを批判する声が強く、この雑誌を「ノー・アイデア」(考えもなく報道した)と呼ぶ声も出た)、2月にはドイツの雑誌が推測記事を出した。

 決定的だったのは人気の米ウエブサイト「ドラッジ・リポート」の報道だった。このサイトはクリントン前米大統領と研修生モニカ・ルウィンスキーさんとの男女関係を、既存米メディアが報道をちゅうちょしている間に「スクープ」したことでも著名だ。協定とは無関係のドラッジ・レポートの報道を受け、協定は解除される。

―過熱報道とプロパガンダ
 
 英メディアは取材内容を一斉に報道し始めた。翌日付の紙面で、大衆紙デーリー・メールやデーリー・エキスプレスはそれぞれ11頁を王子の従軍報道に割き、高級紙デーリー・テレグラフも6頁の特集面を制作した。ウエブサイトでは従軍の様子やインタビューの動画を流し、王子の父親チャールズ皇太子が帰還を喜び、現在従軍中の英兵及びその家族に感謝する動画もあった。

 協定を結んだ大手メディアは「安全上の理由」、「特例でやむなし」と説明するものの、反発の声も出ている。BBC編集者が協定の経緯を説明したブログでは、報道の自由を標榜するメディアの欺瞞に対し怒りをぶつける書き込みが目に付く。

 メディア・フォーラム「ポリス」のディレクター、チャーリー・ベケット氏は、個人のブログ上で「もう過去のものになったと思っていた主要メディアの共犯と傲慢さの匂いがする」、「ネットでもっと早く報道されなかったのが残念なぐらいだ」と書いた。

 また、全国紙の報道は多くが王子の勇敢さを称えており、国民には不人気のアフガン派遣に王子とメディアが利用されたとする指摘も出た(2日付、インディペンデント・オン・サンデー電子版)。報道協定、外国メディアの協定破り(協定を守った英メディアは面子がつぶれない)、それを機にしての一斉過剰報道や愛国報道という流れを振り返ると、国策の一環になったという点は否めない。

 (追加)
 王子は今後も海外派遣を希望しており、次回も協定が結ばれるかどうかは注目に値する。例えアフガン派遣が報道され、危険性が増したとしても、「いったん派遣されたら覚悟を決めて最後まで全うするべき」という意見や、「危険な場所への従軍自体がおかしい」という声もあったことを記しておきたい。王子の従軍はどっちに転がっても、「国策」となってしまうことは避けられなかった。

 それと、例のデンマークのムハンマド風刺画事件で、フランス、ドイツの新聞がデンマーク紙に共闘するために風刺画を再掲載したが、英国の新聞は暗黙の協定で一切掲載しなかった。結構、こんな風にちんまりまとまってしまうのも英国の新聞業界の特徴かもしれない。(いろんな意味で島国なのだ・・。)

(以下のサイトには写真もある。やっぱり新兵のリクルートに役立ちそう・・・という声が。)

http://www.afpbb.com/article/politics/2358888/2696733


 
by polimediauk | 2008-03-14 16:19 | 新聞業界