小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ロシアの死 + オランダ、イスラムの映画 

 オランダの話から書くべきだろうけれど、週末、ロシアのジャーナリストの死が気にかかっていた。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/6426043.stm

http://news.xinhuanet.com/english/2008-03/22/content_7839514.htm


http://www.euronews.net/index.php?page=info&article=476352&lng=1

 まず、今月の頭に、コメルサント紙のジャーナリスト、イワン・サフノロフ氏が、モスクワの5階建のアパートから落ちて死んだのである。当初、「理由は分からない」とされていたが、「誰かに殺されたんじゃないかな」と思った。ロシアではあまりにも殺されるジャーナリストが多いのだ。これまでの英語報道を見ただけの判断だけれど。

 51歳のサフロノフさんはロシアのシリアやイランへの予定されていた武器売却に関して記事を書くために調査をしていたと言う。編集長は「自殺するようなふしはなかった」とBBCに語っている。検察局は自殺の線で調べているという。しかし友人や親戚は自殺とは思えない、と。

 国際ニュース安全機関(違う訳もあるかもしれない、略はINSI)の報告によると、ロシアは、ジャーナリストにとって、イラクに次いで、世界中で第2番目にもっとも危険な場所になっているという。過去10年で88人のジャーナリストがロシアで殺害されたという。雇われた殺し屋が殺している、と。

 まったくの憶測だけれど、彼も殺害されたのかな・・と思っているうちに、また死んだ人が出た。

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 今度は22日、ロシアの国営テレビ「チャンネル・ワン」のイリヤス・シュルパイエフ(Ilyas Shurpayev、写真)というジャーナリストで、モスクワで刺殺された。北コーカサスでも地方テレビのテレビ局のガジー・アバシロフ(Gadzhi Abashilov)車の中にいたところを、撃たれ,亡くなった。捜査当局によると、アバシロフさんの死は仕事に関連していたらしい。両記者は、ある地元紙が言及することを禁じている人物だったという。ロシアRIA通信によると。

 ロシアは、怖いなと思う。自分も(武器の話を書くことはないだろうが)ぼやっとしていると流れ弾に当たってしまいそうだ。(それとも、ステレオタイプで自分はロシアを見ているのだろうか??)

ロシアの死 + オランダ、イスラムの映画 _c0016826_8132413.jpg 
 オランダの話になるが、極右国会議員(まだ刑務所に住んでいるのだろうか?)ヘールト・ウイルダース氏がイスラムを批判する映画を作り、これをテレビで放映する予定でいたが、どこも怖がって放映しないので、ウエブサイトを通じて放映するつもりだったが、サイトを米国のサーーバー・ホストが停止してしまったと言う。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/7310439.stm

www.fitnathemovie.com

 ホスト・サーバーの運営者はネットワーク・ソリューション。「憎悪を産み出す言語を禁止するガイドラインをおかしているという苦情があり、調査中」であることを理由にしているようだ。

 短編映画は15分で、イスラム教が「自由の敵」であることを示すものだと議員は説明している。

 オランダ政府は議員の味方に賛同していないというが、「議員」なのだから、国会で何とかできないのだろうか?「表現の自由の侵犯」になってしまうからできないのか?

 まだ公開されていないのにすでにイランやパキスタン(こうした問題ではおなじみの国になったが)からは非難の声があがっている。

 映画の題名はアラビア語の「フィトナ」で、「宗教上の戦いや不一致」をさす、とBBCは説明している。(欧州のイスラム学者ジル・ケペル氏も別の文脈で本の中でこの言葉を使っていたけれども。)

 22日付のオランダのフォルクスクラント紙にウイルダース氏が書いたところによると、「この映画はイスラム教徒についてのものというよりも、コーランやイスラム教についてものだ。イスラム教のイデオロギーは、私たちにとってもっとも重要なこと、つまり、自由を破壊することを究極の目的としている」。

 「フィトナは西欧に対する最後の警告だ。自由を求める戦いは今始まったばかりだ」。

 映画の公開前、議員はネットワークソリューションズのウエブサイトをプロモ用に使っていたが、日曜日になって、苦情をたくさん受けたことを理由に、停止状態となった。

 イスラム教批判をしているために、議員は警護つきの生活だ。04年に、映画監督テオ・フォン・ゴッホがイスラム教の狂信者の青年に白昼、アムステルダムで殺されている。(・・・というくだりはこのブログでしつこく書いてきたので、耳にタコだろうけれども・・・・・・。)

 先日、アムステルダム経由で日本からロンドンに戻る途中、飛行機が遅れ、アムステルダムに一泊することになった。ホテルで夜中テレビを見ていたら、トーク番組があって、右派政治家でやはり殺されたピム・フォルタイン氏がゴッホ監督にインタビューされているクリップが放映された。その後、また延々とイスラムと表現の自由に関して話している様子があって、「まだやっているのか・・・」と驚いたが、ウイルダース議員の映画の件で、「古くて新しいトピック」にまた関心が集まっているようだった。

 まだまだ、オランダの人にとっては、ホットなトピックだった。

 土曜日には、アムステルダムで、1000人ほどの人が、「映画を放映するな」と抗議デモをやっていた様子をテレビで見た。 「イスラム教徒に対する魔女狩りをやめろ」と書かれたプラカードを持っている人もいたそうだ、BBCによると。「もう黙って入られない。憎悪と恐怖がオランダに存在する」と、「オランダが本当の色を出した」という団体(反人種主義団体)の一人は語っている。
 
 一方、これもBBCだが、預言者ムハンマドの風刺画をデンマークの新聞に描き、警護がつく状態になってしまった風刺画家カート・ウェスターガード氏(Kurt Westergaard)は、オランダ政府の上映するなという声にもかかわらず、ウイルダース議員が短編を公開するべきと語っている。

 「デンマークではすべてを風刺する。イスラム教徒もこれを受け入れるべきだ」。

 私自身は、映画は見てみたいが、どうしてこういう短編を作り、こういう形(政治的キャンペーンのように)で公開しようとするのか、と疑問に思う。「表現の自由」の話でなく、政治的パフォーマンスに見える。あくまでも。

 ただ、ある宗教に遠慮して、何も言えない,言いにくい・・・という思いを多くのオランダ市民+欧州市民が持っているかもしれない。この言いにくさ感がいやだ、という人も多いかもしれない。これをどうするか?パフォーマンスでなく、じっくり考える問題ではないかと思っている。

 
by polimediauk | 2008-03-24 08:15 | 欧州表現の自由