外岡さんの「情報のさばき方」を読んで
外岡さんは今(でも?)、朝日新聞の編集局長の方である。ロンドンに3年半駐在され(欧州総局長として)たが、赴任されて早々の頃、たまたま外国報道陣向けの北アイルランド出張団でご一緒した。とても腰の低い方で、時々鋭い質問を北アイルランドの政治家にしていたのを覚えている。
私は外岡さんを個人的によく知っているわけではない。その後、別件でメールを交換したことがあるだけだ。誠実な方、という印象があった。
そこでこの本を読んでみて、やはり人柄が表れている感じがした。いろいろ、新聞記者として、どうやって情報を集め、見極め、原稿を書いてきたのかの手の内を明かしている。ここまでオープンにはなかなかできないのではないか、普通。
外国特派員の話の部分に注目すると、外岡氏が外国で始めて勤務したのは、1989年で、ニューヨーク支局の勤務が最初。そこで当時の支局長に、「電話がなったら助手に任せず、自分で電話を取る事、アポイントも自分で取るように」と言い渡される。米国人に取材したら、「助手にテープ起こしを頼まず、自分でメモ起こしを作る」と言う原則を言われる。
そこで外岡氏はこれを実行する。留学体験がなかった氏にとって、非常に厳しいことを課されたことになった。これはすごいな、と私は思った。
そして、10数年経って、ロンドンに赴任した氏は、「支局長」と名がつくものの、一記者として、他の記者を「同僚」として働く。英国の新聞数紙を自分で読み、切抜きを作ってゆく。これも相当だと思った。
新聞業界になじみのない人は、「自分で英語でアポを取り、自分で現地紙を読んで、何がすごいんだろう」と思うかもしれない。しかし、以前、(ロンドンにある漱石博物館の館長、今は日本在住)恒松郁生さんの「こちらロンドン漱石記念館」を読んで驚愕したのだが、「日本の新聞社の海外支局に働く記者は、助手に当日の新聞のおもしろいものを捜してもらう、見出しを書き取ってもらう」場合が多い、と聞いた。
しかし、もちろん、外岡氏は違ったのである。自分で恥をかき、自分で新聞を読んでいたのである。ここに一筋の誠実さを見る思いがした。「自分で恥をかいてきた」ところが。
「『情報を伝える』ことは、岩登りと同じように、真剣勝負なのだと思います」という箇所が光った。
(蛇足だが、私は欧州を中心に各国で取材をしているが、基本的に英語のみを使う。「現地語を全く知らないのは傲慢だ」と家族に言われてしまっている・・・。)