小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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マデリンちゃん報道の英紙が謝罪+罰金払い 

 少し前になるが(3月末)、昨年から行方不明の英女児マデリン・マッカーンちゃんの両親に関する不当な報道をしていた、英国の新聞数紙が、両親に謝罪し、発行元が罰金を払う、という事件があった。

 これは英メディア界に大きな衝撃を与えた。というのも、BBCをはじめ、どのメディアもマデリンちゃん事件を過熱報道していたからだ。メディア全体へのいわば懲罰的な動きとも受け止められ、メディア問題に詳しいガーディアンは、早速専門家を呼んで、毎週やっている「メディア・トーク」(ウエブサイト上の番組)のトピックにした。

 といっても、これ以降、メディアが自粛報道となるかというと、必ずしもそうではなく、「これからは気をつけよう」という感じではあるものの、残念ながら今後も同様のトピックがあれば、また同じことが起きそうだ。

・・・という顛末を新聞協会報(4月1日付)に書き、これに若干の言葉や情報を加えたのが以下である。

―両親を犯人視し英紙謝罪
 幼児行方不明事件 「容疑者」発表で過熱


 英大衆紙デーリー・エクスプレスなど4紙が3月下旬、行方不明中の両親から名誉毀損で訴えられていた問題で、一面に謝罪記事を掲載した。発行元のエクスプレス・ニューズペーパー社が支払う和解金も55万ポンド(約1億800万円)と、個人の名誉毀損としては破格の金額に上った。エクスプレス社は裁判費用も負担する。発行部数増を狙い、両親を犯人視する報道を続けた4紙に反省を促す声が上がる一方、英メディア全体の報道に問題があったとする指摘も出ている。

 今回の謝罪は、昨年5月にポルトガルの保養地でマデリン・マッカーンちゃん(当時4歳)が行方不明になったことをめぐる報道に対し行われた。日刊のデーリー・エクスプレス、デーリー・スターには3月19日付で、日曜紙のサンデー・エクスプレスとデーリー・スター・サンデーにも23日付で掲載された。

 このうちデーリー・エクスプレス紙は、一面のすべてを謝罪に当て、「根拠が皆無であっったにも関わらず、両親を娘の殺害者とする報道を繰り返し行った」ことを認めた。エクスプレス社が負担する55万ポンドの和解金額は、一人当たり25万ポンド相当が上限とされてきた個人の名誉毀損に対する賠償金を上回る。

 マデリンちゃん事件発生後、両親は連日メディアに登場し、英国内外に捜査への協力を呼びかけた。国民の関心は高く、BBCをはじめ放送局は大手キャスターを現地に派遣し、連日実況中継を行った。高級紙を含めた英各紙も、マデリンちゃん事件を一面に掲載する時期が続いた。発行部数増加や視聴率上昇を狙うメディア側のニーズとメディアの露出度を高めて娘を探し出したいという両親のニーズが合致した。増える取材要請をさばくため、両親は元BBCジャーナリストを広報担当者として使うほどだった。

 毎日の報道には情報が多ければ多いほど良いが、地元警察が「捜査終了まで情報を公にしない」方針を明らかにすると、メディアは地元紙からのリークや憶測に基づく報道を余儀なくされる事態が生じた。

 9月、地元警察が両親を「容疑者」ととして事情聴取を開始した。これを境に、両親の扱いが大きく変わる。犯人と決め付ける報道が日常化し、両親の私生活に関する憶測記事も出るようになった。昨年夏から今年2月まで、問題の4紙は、両親が娘の死体を遺棄した、借金返済のために殺害したなどとする記事を100本以上掲載した。

 謝罪記事の掲載を受け、3月20日付のガーディアン紙(電子版)は社説で、娘が行方不明となり、その後の報道で犯人扱いされた両親は「2度犠牲者となった」と述べた。その上で、「新聞を売るために家族の苦しみを利用した」とエクスプレス紙を非難した。しかしその一方で、マデリンちゃん事件では他紙の報道も過熱。「軽薄で、扇情的で、煩わしい英新聞業界の欠点が出た」(同社説)と指摘した。

 メディア評論家グリーンスレード氏も、19日付のBBCニュースサイトの中で、両親がエクスプレス紙などを訴えたのは「最悪だったから」というだけで、犯人視が突出していたからではないとの見方を示した。「地元からの情報が少ない状況で、メディア間の競争は激しく、憶測を交えたセンセーショナルな記事が出るのは避けられなかった」

 メディアのシンクタンク「ポリス」を主宰するベケット氏は「同様の過熱報道をしてきた他のメディアは(謝罪事件を)警告として受け取るべき」と指摘した(同サイト)。しかし、「ほとぼりがさめたら、同様の事態が起きる」(20日付フィナンシャル・タイムズ電子版)とする見方が、業界内では大勢を占める。

 一方、個人に対する名誉既存事件で新聞が1面全面を謝罪を行った前例には大衆紙サンが、1988年、歌手エルトン・ジョンの私生活に関する記事を巡っての謝罪がある。

 また、名誉毀損ではないが、全面謝罪の最近のケースでは、2004年、デーリー・ミラー紙が、頭巾をかぶったイラク兵に、英兵が放尿をしている写真を掲載し、これがやらせであったことが発覚した事件があった。イラク・アブグレーブ刑務所での米兵によるイラク人拘束者への虐待事件が明るみに出た直後だった。ミラー紙は紙面を通じて読者に謝罪するとともに、発行元のトリニティー・ミラー社は当時の編集長を解任している。

 (余談だが、中に出てくるグリーンスレード氏はメディア・ブログでも著名。この事件で、「エクスプレスを買わないようにしよう」と呼びかけた。ところが、これが読み手の反感を買い、散々な目に。つまり、「不買行為は民主的ではない方法」、「報道の自由を尊ぶあなたがそんなことを呼びかけていいのか?」など。著名人と言えど、さまざまなコメントの嵐に立ち向かわざるを得ないのが現実だ。)
by polimediauk | 2008-04-05 04:40 | 新聞業界