小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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俳優ケビン・スペーシーとBBC  

 日曜日、ロンドンでは、北京オリンピックの聖火リレーを妨害しようとした人々と警察の間で争いが起きて、37人が逮捕された。中国政府のチベット弾圧への抗議のために、リレーを妨害しようとしたのだ。この件は昨日、テレビやラジオで何度も報道された。今朝東京の家に電話したら、家族が出て、抗議デモの話を興奮気味に語っている。日本のテレビで「今まさにその時の様子が、放映されている」と。

 基本的に英国は、ずーっと「中国=人権侵害の国」というスタンスでやってきた。チベットの状況のひどさ(確かにひどい)も延々とドキュメントをテレビで放映してきた。そこで新聞もその論調となる。しかし、ややさめた報道もあり、BBCニュースサイトでは「抗議やボイコットが起きるのは今回が初めてではない」という話を紹介している。

 ややひねた私は、「どうしてリレーをやるのか?」と思う。スポーツの祭典だったら、スポーツだけに力を注げばいいのにな、と。それに、オリンピックが大競技を開催できるほどの大国、大都市のみが主催できるのも気になる。アテネの精神に戻ろうなんてことは言わないけれど、ずいぶんと政治ショー化してしまったなあと思ってしまう。(逆に、あえて規模をどんどん縮小していく・・・なんて、どうだろう?あり得ないだろうがー。)

 最近、私が「良くぞ言ってくれた」と思ったトピックは、米俳優ケビン・スペーシー(「ユージュアル・サスペクツ」)とBBCだ。スペーシーはロンドンの「オールドビック」という劇場を所有してもいる。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/7318812.stm

俳優ケビン・スペーシーとBBC  _c0016826_6105218.jpg そのスペーシーが、数日前、BBCのタレントショーを批判した。ロンドンの劇場街ウエスト・エンドでオープンする、ミュージカル「オリバー」の、ナンシーという役柄をオーデションで選ぶ番組をBBCがこのところ放映している。一度見るとすぐ分かるのだが、10数人のナンシー候補の女性たちが、毎週、歌を歌い、それを審査員が評価した後、テレビを見ている視聴者がBBCが指定する電話番号に電話して、誰が気に入ったかを「投票する」。いわゆる、人気の視聴者参加型番組の1つだ。投票結果は次の日,判明する。同じ候補者が出てきて、誰か一人、もっとも少ない票を得た人が去る。(去るまでの仕組みはもうちょっと複雑なのだが、単純化して書いてみた。)

 最終的にナンシー役の女優が決まるまで、13週間かかる。すると、BBCという公共放送が、13週間かけて、ある商業ミュージカルのプロモーションをしていることになりはしないだろうか?

 これをスペーシーは指摘した。私も常々そう思っていたので(というのも、これがシリーズの確か3回目で、同様のオーディションで、既に2つのミュージカルの主演俳優を決定していた)、やっぱり、と思ってしまった。

 結局、スペーシーが本当に言いたかったのは、自分自身が劇場を持っているので、ミュージカルだけでなく、芝居・ドラマの俳優もオーディションし、これをテレビで見せることがあってもいいのではないか、ということだったらしい。

 それでも、BBCが公共放送としての一線を越えたのではないか、という批判は大いに一理あるように聞こえた。特に、前回2回のミュージカルは、作曲家アンドリュー・ロイド・ウエーバーが作ったものだった。そして、ロイド・ウエーバーは、審査員の一人として、オーデションの査定や、候補者たちのレッスンを監修もしていたようだった。

 もし商業ミュージカルをトピックに使うとしても、どうして同じ作曲家の作品を(ただし、「オリバー」は違う人のようだ)何度も使うのか?チケット販売から得た利益はBBCに戻すべきではないか?と私は思っていた。

 BBCの答えは、「一つの作品というよりも、ミュージカルをかける劇場全体を祝う番組」なので、一線を越えたことにはならないというような説明だ。ここでも私はいやだなと思う。BBCはほとんどの場合、どんな批判があっても、奇妙な理由を挙げながら、自分の最初の立場を頑として変えない。

 BBCのアウトプットが公共放送としての役割からはずれていないかどうかをチェックする、BBCの経営委員会にでもきちっと検証してもらいたいものだ。

 それでも、ガーディアンの「メディア・トーク」という音声コンテンツで誰かが言っていたけれど、「BBCにとっては、非常に視聴率の高い番組なので、おいそれとは手放せない」・・・。
by polimediauk | 2008-04-08 06:13 | 放送業界