小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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オーマイニュース編集長に聞く(上)

 先日、「オーマイニュース」からメールが届いた。私は、2006年8月末、「市民みんなが記者だ!」というモットーで始まったオーマイニュース・ジャパンの市民記者の一人でもある。

 メールは、日本時間の夕方、サーバー接続が遅くなるかもしれないことを、詫びていた。「何とかさん」という人のインタビュー記事が掲載されるから、と。一体誰なのか???だったが、先ほどサイトに行って初めて分かった。自殺しようとした芸能人の女性のインタビュー記事の連載だった。確かに画面表示に非常に時間がかかる。

 しかし、私はうれしかった。これできっとどっとアクセス数が伸びているのだろうな、と。

 「オーマイニュース」は、ご存知の通り、元々は韓国で始まって、英語版もあり、これに日本語版が加わった。メディアと言えば新聞社や放送業社を頭に浮かべる多くの人にとって、「自分のニュース」が書けるメディアは、画期的だった。
 
 創刊当初、初代編集長の鳥越さんがどんどんマスコミに出て、オーマイニュースのことを話したのが遠い昔のようにも思える今日この頃。

 市場が成熟しつつある過程にあるのかなとも思う。ブログの存在、SNSやユーチューブの人気などで、誰でもが自分で思っていることを書いたり、どこかに投稿したりすることが普通のことになった。「個人が書くニュースが満載のメディア」は既に立派な、1つの媒体になったのだし、これを日々具現しているのがオーマイニュースなのだろう。世間的にどんなに重要そうなニュースでも、自分にとって一番重要なのは自分の身に起きたニュースには違いない。

 「自分の身に起きたことを誰かに伝えたい、誰かとシェアしたい」と言う欲求が続く限り、オーマイニュースのようなメディアは続くのだろうが、それでも、米国や英国(あるいは他の欧州の国)でも、全く同様の形を使うメディアというのをほとんど聞いたことがない。(知っている方は教えていただきたい。)そういう意味で、ユニークな存在でもある。

 というわけで、オーマイニュースは一体どうやって作られているのか、作っている人はどんな人なのか、そして今後、どういう方向に進むのだろうーこんな大きな疑問を、平野日出木現編集長に聞いてみた。

 平野さんは以前、日経新聞の産業部に勤務し、「重厚長大産業」を担当していた。その後米国に留学し、ハイテク業界の様子をつぶさに見たようだ。2月末、東京の事務所内で、静かな闘志が湧き上がってくる感じの平野さんの話を聞いた。

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Editor in chief of Hideki Hirano of Ohmynews. Tadayuki Yoshikawa / Ohmynews (JAPAN)

ーどれ位の原稿が毎日届くのか?

平野編集長:大体、30本から40本位。9時には大体一人編集者が来ているので、その編集者が今日直ぐ挙げたほうがいいなというものは自分で見つけて、編集する。彼が1本か2本目の記事をやっている間に僕がざっと見る。30-40本がどんな感じかを見た上で、11時ぐらいになると他の編集者も来るから、他の編集者にも手分けをして編集してもらう。

―どのぐらい頻繁にトップ面は変わっているのか?

編集長:常時変わっている。2時間に1本位の割合で、トップが変わっている。他の市民メディアのサイトよりも動きがある。翌日の朝の午前5時から昼の12時ぐらいまでの分を、僕が大体家で夜中やっている。翌日の朝はこういう感じ、午前中はこういう感じでというのを前日の夜の内に作ってしまう。それで飛込みがあったら、さっきの午前9時に出勤する人がニュースを作って、翌朝の午前には急ぎで出すものを掲載する。

―24時間、ニュースを追うことになりますね。

編集長:そうですね。(サイトの)休みはないんでね。週末は更新しないというサイトもあるけれども、うちは土日も更新している。更新の頻度は、週末全体で回しているが、昼の12時ぐらいには全部がらっと変わっている。

 掲載するのは一日、記事だけでも25-30本。後は写真の記事や動画もあるし、短い川柳やショートニュースもある。

―日経で紙面を作っている時と、オーマイニュースで作っている時では、ニュースを選ぶ際の価値観は違っているのかどうか?

編集長:どれがトップニュースになるかは、あまり箇条書きでは言えないが、これとこれを比べたらこっちが絶対おもしろいというのがあるので、そういう比較感で掲載している。

―サイトの開始から1年半で、原稿の質はどうか?

編集長:上がってきている。トップ4本の中の3本を「サブトップ」と読んでいるのだが、サブトップの原稿は良く見つかる。一番上に据える記事を作るのはそれなりの話が来るときもあるし、原稿がなかなかなくて、こちらで編集部の取材チームが作ってきた原稿を載せたりもする。

 最初は、普通の新聞とかテレビで書いている記事への意見とか反応みたいなのが多くて、要するに、新聞とかテレビで話題になっていることを書かなければいけないと思う人がいたから、どうしてもそういうところの話題には自分で取材にいけなかったりするから、意見とか、感想ばかりだった。

 最初は月間で今は週刊でやっている記事を表彰する仕組みがある。僕らがおもしろいなあと思って選んでいる記事は、各記者が事実を発掘している記事、自分自身で体験したこと、観察したことが入っている記事になる。自分で実際にじかに聞いて、メディアのスクリーニングを通していないもの、テレビで見たことや新聞で書いてあった活字とかではなくて自分で生身で見た情報が入っているものがいいね、ということを何となく、おもしろい・おもしろくないで判断していったら、そういうものが多くなっていった。僕らもそういう風に自覚していった。

 はじめはぼんやりしていて、(どのような記事を求めているかに関して)あまり輪郭がなかったが、段々輪郭が出てきた。それから、今はそれに「少しタイミングみたいなものを考えて投稿したらどうですか」、ということを言っている。市民記者からなかなか旬なものは来ないのかなと思ったので、そこのところは編集部が作っていかなきゃいけないのかな、と思っていて、現実にそうそういう部分もあるが、市民記者から旬なものが集まるようになってきている。

―こうなってきたというのは、例えばユーチューブとか、読者が撮影したりなどしたものを、投稿することが日常化してきたこともあるのだろうか?

編集長:そうかもしれない。僕らも、今、まだ携帯からは投稿できない。それができるように仕組みを早急に開発している。携帯から作って、携帯から撮った写真をあまり字は多くなくていいから、すぐ投稿してくれる形だ。字が少ないとそれだけ編集する時間も少なくなる。写真で撮ってもらって、ぱっぱとあげちゃおう、と。

 市民記者が書いたものは非常に腐りにくい。今読んでもおもしろく、普遍的だ。普通のニュースで、「いついつ何々があった」というのは、すぐ消費されてしまって、古臭く感じる。市民記者が書いた原稿は腐りにくいから、その特性を生かして、結構昔書いた記事が、ヤフーとかに関連記事として貼られることがある。

―ヤフーのサイトには「パブリックニュース」というセクションがあり、オーマイニュースも含めた市民メディアの記事が数本載っているが。

編集長:それとは別に、普段のニュースの関連記事として、オーマイニュースの昔の記事をヤフーの編集部が探して、貼り付けてくれることがある。市民記者の話題が先行していて、後からメディアの波が来て、オーマイのネタが貼られる。前の記事なのに、今になって急にページビューが稼がれるなんてこともある。

 例えば、去年の夏、市民記者が不動産経済研究所から出ているマンション動向を分析して、これを予測する記事が出た。それをヤフーが拾って、1月の発表記事に貼ってくれたので、(オリジナルは)8月の記事なのにそれが読まれた。

―うれしいですよね。

編集長: まあそうですね。紙じゃないメリットはそういうところにある。他の新聞社のサイトはある一定の期間で削ってしまうが、オーマイニュースはずっと残している。今読まれなくてもある話題が起きたときに読まれる可能性がある。

―市民から送られた来た原稿で、オリジナルを生かす編集をしているのかどうかか?自分の経験ではそう感じたが。

編集長: それはそうです。しかし、人によって、「俺が意図しないように書き直した」とお叱りを受けることもある。そこは課題といえば課題。人によっては改悪しているんじゃないかという風に受け止められるちゃうケースも少なくない。

 僕らはそんな構成を大きく変えたりするつもりはそんなになくて、中に書いてある事実が確かにそうなのかということと、後はこんがらがっている文章は、「これはこういうことが言いたいんだろうな」と言うことを、こんがらがりをほぐすというのを役目としている。事実確認と意味を最初に読む読者として、意味を分かりやすくする、意味が分からなければ本人に問い合わせて確認する。それぐらいを編集の目標としている。

―文章に手を入れられただけで反感を持つようなことあるのかどうか。

編集長:最初はそうだった。編集という概念をみなさんが検閲だと思っていた。検閲するのかというクレームが来たので僕らは結構ショックを受けたのだけれど、それは日々の編集作業で、自分が書いたのが分かりやすくなったねという実例を積み上げて行って、ああ、それは編集部にやってもらったほうが良くなっているよね、ということを、一個一個、一人一人に分かってもらう作業を、ある程度時間を経て、してきた。1年半やってきて、皆さんに理解してもらったと思う。

―自分の体験を書いた記事で、例えば既存メディア(新聞など)だったら、それを個人ひとりの体験だけでなく、社会全体につながるような文章やデータなどを入れる場合がパターンとしてある。オーマイニュースはどうだろうか?

編集長:もしそれがトップ記事になるようだと、そういうものを加えているかもしれないが、トップじゃない普通の記事にするには、写真もつけないし、オリジナルの情報に、こちらが付け加えずにそのまま掲載することはある。でも、ちょっとこれはトップにするには物足りないなという時は、こっちで付け加えたり、タイミング的に間に合えば、本人に戻して、「書き加えましたけど、いいですか」という時もある。その余裕がなければ、そのままちょっと膨らましてトップにする、ということはある。最終的に、こちらがどれだけの労力と時間をかけてどれぐらいの記事に仕立てられてあげられるか、という問題になる。

―ニュースに対する見方、考え方は変わったか?例えば、日経にいた時と比較してどうか?

編集長: 市民記者の場合、実際メーカーで働いていた、あるいは医療関係の方など(様々な職業の人)がいて、ある意味で問題が専門的なテーマを扱った記事はオーマイニュースを読んだ方が結構分かりやすい。今の米国のサブプライムローンの問題でも、オーマイニュースで、モノライン(注:金融保証業務だけを行うを専門会社)という、地方の自治体が発行する、格付けのレベルが低い地方債を発行する時に保証をつけてやる会社が、今疲弊してしまって、すると、保証がつけられなくなると、地方自治体が債権を発行できなくなって大変なことになるという話も、最近モノライン、モノラインと出てきているけれども、ちょっと前に、ニューヨークの金融機関に勤めている人が投稿してくれて、モノラインというファンクションがサブプライムローンでやられているから大変なんだよね、ということが書いてくれていた。

 日経新聞もそれなりに記者がいて、専門分野に精通すべく日々努力していて、ある程度のレベルに達しているとは思うのだけれども、でもやっぱり、その仕事をしている人にはかなわない分野がどうしてもある。そういうところは、第3者の新聞記者が伝え聞いてそれを書くのはそれはそれで良さがあるけれども、実際にその仕事をしている人が発信してくれた方が、読み応えがあったり、なるほどね、という部分がある。そういうのがもっと増えてくれるとうれしいなと思うし、可能性はあると思っている。

 新聞記者をやっていて、最近読み応えのある記事が減ってきているなあと、全般的に、僕なんかが思っていたり、そういうふうに言う人が実際、多い。特に経済関係だったりすると、仕事の内容が細分化されてきて、専門家でも、自分の隣のフィールドのことがよく分からないようなことになってくると、それは観察しているだけの新聞記者ではよく分からない部分が出てきている。新聞記者も、実際、専門家にいろいろ聞いてはいるものの、専門家の域には及ばなかったりして、実際に仕事に携わっている人が発信すれば、と。

―でもブログでなく、ニュースサイトで?

編集長:いや、ブログでもいいと思う。ブログっていうのは、やっぱり毎日更新しなければいけないだとか、結構その日々継続していくことに結構力を入れないといけない。自分のサイトをメインテナンスを自分でしていかなければならないという部分の、つまり発信する以外の部分で煩わしい部分がある。

 オーマイニュースはそういうものがなくて、自分がここぞと思うときに出してくれればサイトは他の人の投稿でも埋まっているわけだから、毎日投稿しないと忘れられちゃうから投稿しようという、そういうプレッシャーはない。ほとんど毎日書いてくださる方もいて、それはそれでうれしいとは思うのだけれども、やっぱり、渾身の一発を書いてくれる方は、しばらくぶりに書いても、結構重たい、いい原稿ですぐトップにくる。

 僕も記者時代、毎日毎日、いい原稿はそんなには書けない。そういう意味ではみんなで回転させているから、ブログでアウトプットばかりしていると薄まっちゃうようなところがあるとしたら、気合の入った一発を送ればいいや、と。もしブログとの違いを言うとするとそういうことになる。

 でもやっぱり、ブログは裾野になっている。書くことに慣れている方がいて、でもブログだと結局、自分はある分野のことばかり書いているわけですよ、自分の仕事のことだとか。それでいいんですよ、それでいいし、それでコネクトしていくからいいわけですが、オーマイニュースはどっかにフォーカスしているわけではないから、ここのサイトに来ることによって、自分の得意な分野は自分で書いているけど、他の人の視点をすぐ横で「あ、こんなことを書いている人がいる」、と。ブログのネットワークを通じて探していくのは、どんどん深く、ある分野をより深く知っていくことになるかもしれないけれども、オーマイニュースの場合は、もうちょっと違ういろんな話題が探せる、目に付くのではないかと思った。(下に続く)
by polimediauk | 2008-04-08 23:27 | ネット業界