オーマイニュース編集長に聞く (下)
―今後はどんな方向に進める予定か?
平野編集長: 今取り組んでいるのは、去年の8月からヤフーに配信して(「パブリック・ニュース」の一環)、ヤフー上で結構読まれるようになってきた。半年経って、ヤフーのようなポータルに流すのをもっと増やしていきたい。PCのサイトに流すのと同時にモバイルにも流してゆきたい。そのためのコンテンツをどうやって作るかがこれからのことだ。オーマイニュースの記事は長いので、もうちょっと違うのを作らないといけない。
CNNなんかも、市民メディアを始めたとあって、既存メディアで読者のコンテンツを集めたいと思っているところが結構ある。そこで、やるにしても、自分たちでどうやってその市民のコンテンツをニュースにしたらいいか、というのが一番難しい部分だ。そこは自分たちではできないから、オーマイニュースに頼もうという機運も高まっていると見ている。チャンスはあると思っている。
―読者の顔は見えているか?
編集長: まあまあそうかな。読者は市民記者の10倍くらいの数と見ている。市民記者の数を増やそう、としている。一人増えると10人ビジターが増えると。一人一人の読者がいろんなサイトを見てくれていて、回遊性を高めることをしよう、と。一人の人が1つ見て出て行くか、いろんなところを見てくれるようにするのか。今、市民記者の記事の下に関連記事のURLをつけている。その利用度が非常に高い。関連記事をつけるのは手作業だ。写真や動画の関連記事を作って楽しんでもらう。字だけではいえないところを補うためだ。
―文章を書いてお金を貰っている人、いわゆるプロの人も市民記者として書いているが。
編集長:結構、市民記者は職業記者を嫌う部分があって、その心理的なものはよく分かるんだけど、これは市民記者のサイトだから、何ぜプロの記者に書かせるのかという批判がきたりもした。
―そういうコメントをサイト内で読んで、驚いてしまった。
編集長:でもそんなことは正当の批判だとは僕らは思っていなくて、プロの人にも書いてもらうし、市民の人にも書いてもらう。市民記者の方から、これが市民記者の記事なのか、プロの記事なのか目印をつけて欲しいという人もいるから、今ちょっとそういう編集部発、こっちからお願いして書いてもらった記事だということが見えるような、3月頃からそういう形にしようと思っている。(注:既に、プロの書き手の記事を集めたサイトが実験的に始まっている。)プロのライターの人にも、オーマイニュースに書きたいと思わせるようなサイトにはしたい。市民も集まるし、プロも集まるし、というサイトに。
―プロの方で、原稿料が無料でもいいから一肌脱いで書きたいという人はいないだろうか?
編集長:あまりいない。フリーランスの方で、今お金もらって書いているところには好きなことを書けないからといって、オーマイニュースに書いてくれる人もいる。
ただ、これも需要と供給の問題で、プロのライターが俺は市民記者とは同じレートでは書かないと言っていたとしても、市民記者でどんどん書く人が出てくれば、今だったらこちらからお願いして書いてもらっているが、自然に書ける人が)出てくれば、お願いしなくてよくなる。そういうことが分かって、「そうなるんだから、俺は今から書いて、ポジションを築く」という人もいる。
紙の世界でやっていると、僕なんかもそうだったけれど、職業記者の人はなかなかお金もらって書くというのが、刷り込まれている部分がある。市民記者の場合は、載って、注目を集めるというのが(書く)原動力だと思う。
―編集部の取材専門の方はどういう風に仕事をしているのか?
編集長: 取材をもっぱらやっているのが2人。1人は主に医療関係。医療がらみの記事は結構注目度が高い。関心のままに書いてもらっている。もう1人は写真がうまいので、イベントがらみの取材に関わってもらっている。
―爆発的にアクセス数を増やすにはどうするか?こうしたい!ということは?
編集長:僕はあまりそんな大それたことは・・・。新聞出身者の限界なのか、こういう方向のサイトでみたいなことは箇条書きではいえないが。
最初鳥越さんの力があって、メディアの注目度も高かった。韓国からやってきた、というメディアで、「反日メディアが来るんじゃないか」ということもあって、嫌韓というか、日本の一部の方から注目を集めてしまった。不幸なスタートだった。今は結構、払拭している。
韓国語とか英語では「シチズン」(市民)という言葉は好意的に受け取られているようだけれども、日本では市民という言葉はある種色がついていて、最初、実際に参加してくれる人も、いわゆる市民活動家みたいな人が参加してた部分があった。ここを活動のひとつの拠点に、「楽しいサイトを作ろう」というよりも、ここをある種の政治的な運動の場所に使おうという人が実際にはいたと思う。そう言う人ばかりが集まってしまうと、やっぱり非常に狭い、他の人たちは入りにくいサイトになってしまう。みんなが作るサイトに時間をかけてやってきた。
僕は、そんなに爆発的にいくわけはないだろうと思った。最初はムードがあったけど。これはバブルに違いないし、鳥越さんの知名度があったから、それに引きずられたものだったのではないか、と。それがはがれて、でもその後、またちょっと違った形で、じわじわとビジターを増やしているところじゃないかなと思っている。
―日経からネットメディアに転職し、カルチャーショックはあったのかどうか?
編集長:入って半年ぐらいは、ネットのコミュニケーションに苦労したと思う。記事を書いて、そこで完結すると思って書いているから、そこにいろいろ反応があることや、その批判を受けることに今まで慣れていないから、批判を受けることが、いちゃもんというか、割とまじめに受け止めたことがあって、流すべきものは流し、答えるべきものは答えるというようなことの振り分けができていないことがあった。いろいろ言われていることをまじめに全部受け取めちゃって、ちょっといやだなあと。双方向性というのは・・・
―(つらい面もありますよね。)
編集長:・・ね?そう言う風に最初の半年ぐらい、去年の2月ぐらいまでは結構苦労した。
―今は結構平気?
編集長: それはさらけ出すことの、自分を割りとさらけ出して、脆弱な状態に置くことの強みというか、そういうことでみんなに理解してもらう、というか。自分が出て行って、火の粉を浴びるということを何回かやっていくうちに、まあ、逃げ隠れしていないということと、言っていることが一貫性があるとか、同じことを言って、それをその通りやっているんだなということを伝えるとか、そういうことで徐々に信頼してもらっていった。
最初、見えていないときは、こいつ、何を考えているか分からないという気持ちを当然持っていると思うので、そこでふらふらしていたら、あの時はああやっていたのに今違うじゃないかといわれたかもしれないけれど。
―今のほうが楽しいですか。
編集長:それはまあそうですね(笑顔)。
―日経、読売、朝日が作った新サイト「新たにす」に関してはどんな見方を?
編集長: サイトを今の時点では評価できないと思う。今だったらグーグルニュースのほうが情報量がたくさんあるかも。
今、実際コンテンツを作っている人と、コンテンツを作ってなくてアグリゲートして流すアグリゲーターがいる。アグリゲーターの方ばかりにいろんなリソースが集まっている。コンテンツを作る部分は結構大変なわけだけれども、アグリゲーターは調達して、それはそれで大変な仕事だが、コンテンツを作っている側からすれば、一矢報いたいというところがあると思う。「新たにす」はその第一歩ではないか、と思う。もっと長期に見るべき。(コンテンツを作る側が)逆襲を考えている動きではないかと僕は想像している。
(2月末談、東京の事務所にて)