小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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FTのジリアン・テット記者がプレス賞 

 フランスのルモンド紙が、月曜日(14日)、ストに入るそうだ。

http://www.guardian.co.uk/media/2008/apr/11/pressandpublishing.france

 人員削減に抗議をしてで、64年の歴史の中では2回目だそうである。新聞の発行部数がずっと落ちており、損失も出るばかり。経営陣は他に手がない(削減しか)、と言っているようだ。火曜日に出るはずの新聞は出ないかもしれない。

 なんとなく、またか・・と思ってしまった。昨年、仏経済紙レゼコーやラ・トリビューヌが売却される過程でスタッフがストを起こし、新聞が出なかったことが何度かあったことを思い出したからだ。こんなことをしていては、読者が一番いやだと思うのでは?いや、新聞の使命・一種の文化と考える国(想像)では、国民も逆に支持するのかもしれない(知っている方は教えていただきたい。)新聞=ビジネスという線をくずさない(?)英国からすると、すごいなあと思うばかりだ。(といっても、マードック氏が印刷工場をフリート街から東部ワッピングに移した1980年代は、印刷担当の組合員とのすごい闘いがあったということだが。)

 (追加)フランスの状況については、コメント欄のshibaさんの説明を是非ご覧ください。全く違う見方があります。

 毎年選出される「ブリティッシュ・プレス」賞というのがあるが、今年はフィナンシャル・タイムズ紙が「最優秀新聞賞」を取った。ウエブサイト賞はガーディアンに行った。

http://www.guardian.co.uk/media/2008/apr/09/pressandpublishing

 サンがいくつか賞を取り、アンドリュー・ギリガン記者も調査報道で受賞した。ギリガン氏はイラク戦争開戦時に政府が情報操作をしたのではないか?とする報道をして、政府との対立になり、BBCを自主退職した。後、独立調査委員会が、「政府の情報操作なし」としたので、BBCはトップ2人を失った。(しかし、後で情報を誇張していたことは、事実上、バトラー報告書で証明された。)

 ガーディアンの記事には名前が見つからないが、金融・経済部門で賞を取ったのが、長銀が新生銀行になるまでの過程を書いた本「セービング・ザ・サン」を出した、ジリアン・テット記者である。国営化されたノーザン・ロック銀行の話を、分かりやすく、先見の明を持って書いた、ということであった。

 彼女は元のFT東京支局長である。前に書いたかもしれないが、私が彼女の存在に気づいたのは、FTを日本で読んでいた時だ。日銀関係など金融情報がものすごく早く、いつも日経よりも先にネタが載るので、私はFTを手放せなくなった。FTの紙面を見て、翌日の紙面を(たまたま新聞を作っていた)どうやって作ろうか、とよく考えたものだ。またある時には、日本語の話を彼女が書いていて、「自分は日本語を勉強しているとき、別の人間になる」とあった。普段の自分は男性か女性かをあまり考えなく、生活し、働いている、と。しかし、日本語を使うとそれは「女性語」で、ある特徴を持った人間になる、と。うまく表現できていないが、読んだ時、非常に新鮮に感じた。(自分のことを考えていても、文章では性別はあまり判断できないかもしれないが、しゃべり方は言葉遣いとか選び方がいつの間にか「女性」になっているのだろうと思う。)

 彼女にはロンドンに来てから何度か取材したが、今年久しぶりに会うと、非常に「超」忙しくなっており、???と思っていたら、グローバル・マーケット担当のアシスタント・エディターになっていた(副編集長?ただし、ナンバー2ではないだろう。それぞれの部門のエディターの下だろう。)

 それと、気づいたのは、自分自身がマーケットを動かす人になっていた・・・。マーケットについて書く人ではなく・・。まあ、私の印象のみだが。そこまでしないと、本気になれないのだろう。

 その時のミニ・インタビューである(2月上旬だったと思う)。

―ロンドン証券取引所がずいぶん収益を上げている。クララ・ファース社長の手腕と言うのがもっぱらだが、どう思うか?

テット記者:LSEは地理的に言って場所がいい。これが非常に幸いした。率直に言って、エマージング・マーケットがブームになっていたのだから、ここ2-3年で大きく伸びていなかったとしたら、その方がおかしい。たくさんの企業がLSEにやってきたのだから。地理的にロンドンには利がある。西洋の投資家と新興マーケットをつないでいる。

 それに、(エンロン事件の結果できた)サーベンス・オクスリー法(企業改革法)も大きな機会をもたらした。

―米国では規制がきついからロンドンに来たということ?

テット記者:実際の運用ではこの法律はそれほど厳しくはない。でも、米国でビジネスをやるには厳しそうだな、という印象を植え付けることができたし、これが重要だったのだと思う。

 他にもロンドンにはたくさん利点がある。ファース社長はその利点をうまく生かしたということだ。彼女ができるというせいもあるけど、とってもラッキーだったと言える。利口だったのとラッキーだったのと。

―規制に関してはどうだろうか?他の欧州の証券取引所と比べて、ロンドンの規制はゆるいのかきついのか?

テット記者:ニューヨーク取引所よりは規制が厳しくはないということになっている。規制がないわけではないけど、少ないとは言える。でも、ロシア企業、エチオピア企業に絡んだスキャンダルがLSE(規制が少ないので)もし起きてしまったら、名声に傷がつくと思う。

―新製品の開発という点ではどうか?

テット記者:かなり積極的にやっている。しかし、最大の強みは金融街シティーにあることだ。ヘッジファンドや銀行などがかなりアグレッシブで、ここに集まっている。ロンドンへのビジネスの集積は増えるばかりだ。それでも、NYSEにしろ、ユーロネクストにしろ、手ごわい競争相手だ。

―これからどうなるか。

テット記者:ロンドンへの集中化は強まると思う。しかし、焦点は新しい形のトレードだ。証券取引所を通さずに行う取引が伸びている。

―「プロジェクト・ターコイズ」のような存在か?既存証券所にとっては大きな脅威か?

テット記者:そうだ。

―シティーの中に女性に対する偏見はあるか?

テット記者:もちろん。偏見というより、まず非常に少ない。仕事と家庭からのプレッシャーをうまく処理できる女性は少ない。

―ドイツ取引所とLSEの違いをどう見ているか?

テット記者:ロンドンは株主文化、市場文化の方を向いているが、ドイツはまだ資本主義といえば懸念の対象であり、あまり株主文化がないと見ているように思う。

―国有化されたノーザンロックに関して聞きたい。どう思っているか?

テット記者:まず、英国金融当局によるノーザンロックの処理はひどいものだった。金融規制が非常に情けない状態にあることを暴露した。ノーザンロック事件の経緯で、全くレスポンスすることができなかった。失敗だ。信じられないほどひどかった。

―中央銀行と財務省、金融サービス庁の三権体制はどうだったか。

テット記者:銀行監督業務は中央銀行に戻すべきなのは明らかだ。銀行はもっと積極的に行動を起こすべきだ。流動性をもっと管理するべき。預金保護の体制もうまく機能していなかった。政府も対応が遅れた。

―しかし、ヘッジファンドも含め、何が起きているのかを銀行の経営陣さえも分からないという話を聞くが?

テット記者:基本的にやるべきことがある。バランス・シートに載らない部分を巨大にしてはいけない、自己資本を急激に削減してはいけない・・。銀行側がやるべきことはたくさんあったし、これからもある。ノーザンロックの場合、自己資本率が明らかに落ちていた。

―中央銀行のキング総裁は、ノーザンロックを助けようと思ったが、手を出すとすぐに外に分かってしまうからできなかったと言った。金融行政が透明だからできなかった、と。

テット記者:そんなことは全く意味をなさない。もっと断固として行動するべきだった。他のG7の国でこんな風に行動する人はいないだろう。キング総裁の基本的な問題は、すばらしい学者、エコノミストだし、インフレを一定に保つという点ではすばらしいことをしたけれど、マーケットがどんな風に動くのか、それにどうやってマーケットと相互に影響を及ぼしあうのか分からない、ということだ。

 ダーリング財務相も全くだめだ。本当に強い指導力が必要だった時、それを見せることができなかった。FSAは手が出せなかったし、キング総裁は敵が何かを知らなかった。何かできる人は誰もいなかった。

 いいニュースは、問題が何か分かったこと。これから良い方向に向かうといいと思う。優れた監督体制が必要だ。規制ではなく。問題はいかに管理するか。もっとも、率直に言うと、過度の規制も今はいいかもしれない。

 
by polimediauk | 2008-04-13 06:48 | 新聞業界