小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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ブラウン首相の一瞬の誠実さ

 15日、チャンネル4の夜7時のニュースを見れた人は、メインキャスター、ジョン・スノーがブラウン首相をインタビューした場面を目撃したろうと思う。

 そこで意外だったのが、首相は、結構怒っていた。まじで。笑顔は絶やさなかったけれど。一つ、どうしても言いたいことがあるようで、それは、首相は北京オリンピックの開会式には行かず、閉会式にのみ行くことになっているのだけれど、チャンネル4がこれを「開会式のボイコット」というニュアンスで報道したということだった。

 この機会にはっきりさせておきたいが、と首相は言った上で、「どちらにも出るのは時間がもったいない。次はロンドンに来るわけだから、閉会式に出ることにした。これは最初から決まっていたことであって、ボイコットではない」と言って、その証拠は何かも説明した。

 ジョン・スノーはちょっとたじたじになった。他にも質問をしたけれど、首相の剣幕に驚いたようにも見えた。しどろもどろがち。最近、なんだかちょっと疲れているみたいだなとも思った。それは、時々、誰かに取材をしているとき、相手にこちらの言いたい言葉を無理に言わせることがある。「xxxと言いたいんですね?」と。スノーから言ってしまうのである。すると、テレビに出るのを慣れていない人は、「うーん。まあそうですね」となってしまう。これはまずいなあと思っていた。

 他のこともスノー氏はいろいろ聞いたが、なんとなく、変な感じがした。というのも、その番組は首相の宿敵ピーター・マンデルソン氏が出ていて、関係ないのかもしれないが、マンデルソンはブレア氏の友人なのである。スノー氏のいろんな質問とかが、どうもブラウン首相の敵側からのブリーフィングに頼った感じがしたのである。これは勘でしかないが。

 イラクの英軍撤退問題でも、「あなたたちは英軍を置いてますよね、これをどうするんですか」みたいな聞き方をした。「ユーYOU」と言ったのである。失礼とかそう言うことではなく、「私たちは・・・」になるべきでは???首相側を敵と見ている感じで、これはフロイドの深層心理の何かどうか。

 最後に、止めを刺すみたいに、「最後の質問ですが、一体あなたはどっちの側にいるんですか。税金改革でも困る人がたくさん出るのに」のようなことを聞いたのだが、首相の答えが、少し考えた感じで、「・・・私は恵まれない人、機会をつかもうとしている人の側にいるんですよ」と静かに、言った。考えながら、という感じで。聞いていて、言葉に打たれた。一瞬、誠実さがにじみ出た。この人は政治家として、あるいは首相としてパーフェクトじゃないかもしれないのだけれど(私が言うのもなんだが!!)、少なくとも、いつも「恵まれない人にチャンスを」と考えているだろうなあと思った。一緒に見ていた家族も、ジーン・・・。

 ころっとだまされたのかもしれないけれど、テレビってすごい。思わぬときにいろんなものが出てしまう。
by polimediauk | 2008-04-16 07:14 | 政治とメディア