英住宅価格が「大幅下落」:不景気が再来する?
丁度「大幅下落」という数字を出したハリファックス社のレポートをチャンネル4で見ていたが、「下落、不景気」という、一種の懸念そのものは大きいが、実際はまだまだたいしたことはないんじゃないか?という雰囲気だった。その後のBBCのニュース番組も同じだった。
そこで21日付のガーディアンも、「メディアが不安感をあおっているのではないのか?」という論旨の記事を出していた。
これを読んでいる方でもっと詳しい方がいるかもしれないので教えていただきたいくらいだが、とりあえず、11日ぐらいまでの新聞報道を基にした「現況」とは以下のようであった。
住宅金融大手ハリファックスが8日発表したところによると、3月の平均住宅価格は前月比2・5%の下落で、月間下落率としては1992年以来最大の数字となった。数日前には同業他社も住宅価格の連続下落を発表しており、いつか起きると予測されてきた住宅市場の下落が本格的に始まったとする分析が出ている。果たして住宅市場の停滞や不景気につながってゆくのかどうかーこれが最大の懸念である。
「HALIFAX HOUSE PRICE INDEX」とは、住宅金融大手ハリファックス社が計算した住宅価格指数で、1983年を100とする。英国では1970年代頃から、政府や不動産業者、住宅金融会社が住宅価格指数(HOUSE PRICE INDEX=HPI)を発表してきたが、ハリファックス社の指数は1984年から開始され、国内の住宅市場の動向を査定する重要な指標と見なされている。不動産売買の対象になった約12000の住宅の購入価格、場所、住宅の種類、部屋数、車庫や庭の有無など複数の要素を加味して計算されるが、指数自体よりも標準住宅価格に注目が集まるのが恒例となっている。
そこでハリファックス社の計算によると、英国平均では2008年第1四半期の平均住宅価格が194,893ポンド(約4000万円)。前年同期比では1.1%増で、前期(つまり2007年の最後の四半期)比では-1%。
地域によって、増減にばらつきがある。例えばスコットランドでは、第1四半期平均住宅価格が145,531ポンドで、前年同期比で5.3%増、前期比は0.2%増。ウェールズでは158,707ポンド、前年同期比が5.3%減、前期比が4.7%減。グレーター・ロンドンでは304,781ポンド 前年同期比が2.0%増、前期比が1.6%増。北アイルランドでは 214,266ポンド、前年同期比が3.5%増、前期比が-1.5%減となった。
どうだろう?下がっているとも言えるが、上がっているとも言える。「伸びが鈍化した」、とは言えるのだろう。
ところが、他の数字もあわせると、少々怖いことになってゆく。まず、去る3月、王立不動産鑑定士協会が、過去3ヶ月の住宅価格指数の大幅下落を発表した。住宅金融大手ネーションワイドも、3月の住宅価格が前月比5ヶ月連続下落したと報告。これに上乗せするように、(繰り返しになるが)4月8日には、同じく住宅金融大手ハリファックスが、3月の平均住宅価格が前月よりも約4900ポンド(約100万円)減少し、2・5%の下落となったと発表した。この比率の下落は1992年以降最大だ。
ブラウン首相は、「過去10年間で住宅価格は180%高騰し、過去3年でも18%上昇している。広い視野から見ると、2・5%減でも住宅市場は大丈夫だと思う」と述べ、当初楽観的な見通しを示したが、、エコノミストには悲観論者が多い。金融情報会社「グローバル・インサイト」は、住宅価格は今年7%、来年は8%下落し、「ここ2-3年で20%下落の危険性もある」と予測する(ガーディアン9日付)。
―貸し渋りに苦しむ消費者
住宅価格が下がったのは、平均年収の7倍ほどに跳ね上がった住宅価格が、もう一度購入可能な価格になるための圧力が働いたという見方がある。さらに、米国の低所得者層向け住宅ローン(サブプライム・ローン)問題がきっかけで世界的に生じた信用収縮で(クレディット・クランチ)が落ち幅を拡大させたと言われている。金融機関は貸し渋り状態となり、住宅ローンの拡大にもやや消極的だ。ローンがないので住宅が買えなくなった人が増え、買手が少なくなれば売れない不動産が増える。売り手側は価格を低くせざるを得なくなった(何故下落気味かは様々な説がある)。
住宅ローンの貸付業界団体(CML)によると、2月、住宅購入のために組んだ貸付数は4万9000で、1年前と比較し33%減、1月との比較では3・5%減となった。また、初めて住宅を購入する人への貸付は1975年以来最低だ。CMLのトップは、「信用緊縮が下落の原因で、この傾向はこれからも続く」と予想する。10日、中央銀行が政策金利を引き下げ、5%としたが、金融機関がおいそれと住宅ローン貸付けを増やすと見る人は多くない。
信用格付け会社エキスペリアン社によると、担保にしている住宅の価格よりもローン残高が大きくなってしまった家庭は、全国に8000戸以上あるという。もし住宅価格が10%下落すれば、その数は2万3000戸に増え、20%だと約78000戸となる。
ここで現在の下落が一気に大きな政治問題に発展する可能性が出てくる。というのも、90年代の不動産暴落では、住宅ローンが払えず家を手放した人が多数出た。差押さえ件数の増加を止められなかった当時の保守党政権は、経済政策の失態を問われた。エキスペリアン社の調査では、全国で、差し押さえが出るリスクが大きい場所50地区の中で、47が労働党議員の選挙区だったと言う。住宅価格の下落は様々な社会問題につながる。5月1日の地方選挙を控え、ブラウン首相にとって非常に大きな、手ごわい問題になってきた。
タイムズ紙が、1992年当時と現在の比較をしている。それによると、
*似ている点
―住宅価格の長期上昇が続いていたが、後に急降下した
―経済成長の鈍化
―住宅建設の鈍化。英国王立公認測量士学会の調べでは、建設業の成長率は1996年以来最低の伸び。
―米国の消費者心理が低下。ロイターとミシガン大学の共同調査によると、消費者心理が1992年2月以来最低。
*異なる点
-金利が当時よりはるかに低い。1992年、英国は欧州為替相場メカニズムに入り、金利は15%程になっていた。
―失業が減少した。1992年当時の失業者は300万人だったが、現在は約100万人。
―世界的信用収縮(クレディット・クランチ)が新たな危機になっている。国際通貨基金は世界経済に与える影響を10兆ドルと予測した。
―1992年当時、年間収入の3・5倍で家が買えたが、現在は6倍から7倍必要。
最後に、住宅金融関連の最近の主な動きをアトランダムに拾ってみた。
2008年2月22日:ロイズTSB銀行が、2007年決算を発表し、サプライムローン(低所得者向け住宅ローン)をきっかけとした金融危機で2億8000万ポンドの評価損を計上。
2月27日:金融大手HBOSが2007年決算で、サブプライムローン問題の影響で2億2700万ポンドの評価損を計上。
28日:ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行が25億ポンドの評価損を計上。
3月3日:国際決済銀行が2007年第4四半期の世界の純債券発行額が、前年同期比で45%減と発表。
12日:王立不動産鑑定士協会が、過去3ヶ月の住宅価格指数が大幅に下落したと発表。政府は、08年度国内総生産の伸び率が1・75%-2・25%とし、以前の予想を下方修正。
28日:住宅金融大手ネーションワイドが、3月の国内の住宅価格が前月比では5ヶ月連続下落したと発表した。
31日:国営化された金融会社ノーザン・ロックが、2007年決算の税引き前損益が1億6800万ポンドの赤字になったと発表した。英産業連盟(CBI)が、サブプライムローンをきっかけにした金融市場への影響から、5月末までに金融街シティーに勤務する従業員一万人程度が離職する見込み、と述べた。
4月4日:自由民主党議員が、住宅ローンの支払い滞りのために差し押さえとなる危険性の高い住宅が6万戸ある、とする調査を発表。
8日:金融大手ハリファックスが、3月の住宅価格が前月比2・5%下落と発表。住宅ローン貸付業者団体(CML)が2月の住宅購入用ローン貸付数が、過去16年間で最低だったと報告。
9日:国際通貨基金が、英国の08年の経済成長見通しは前年比1・6%になると予測。
10日:中央銀行が政策金利を0・25%引き下げ、年5%とすることを決定。
11日:米、英、独、仏、スイスの金融監督当局は、サブプライム問題を防止するため、金融機関に対しさらなる情報開示を求める報告書を発表した。
(Source: BBC、政府資料他)