小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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WSJのトップが辞任 マードックの影響大 

 マードック関連のニュースで一日が明けた。

 まず、5月1日のロンドン市長選を控え、マードック傘下の大衆紙サンが、保守党候補のボリス・ジョンソン議員を支持したというニュースがあった。私はケン・リビングストン現市長を心の中で応援しているが、スキャンダル報道などがあり、このところリビングストン氏は分が悪い。世論調査でもジョンソン議員がリードしがちで、接戦あるいは勝つのは難しいなあと思っていた矢先で、ドッキリしてしまった。

 FTによると、15日の紙面でサンはジョンソン支援に回ったという。1992年以降、サンが保守党を支持したのはこれで初めてだという。サンは発行部数が約300万部。たった一つの新聞が特定の候補者への支持を表したからといって、勝つのかどうか?様々な議論があるが、結構、英国ではサンの威力が伝説・神話となっている。

 本当に勝つかどうかは別にしても、「時代の空気」を読むのがうまいのがサン=マードック。少なくとも、次回(2009年か10年)の国政選挙に向けて保守党に追い風が吹きつつあるのを反映した、という見方が正しいのだろう。(記事ではシラキュース大学のジョン・カーティス教授がそう言っている。)

 次に、ニューヨークタイムズのトップ、アーサー・ザルツバーガー氏が、株主に対し、「最近NYTの売却が噂されているが、売るつもりはない」と明言した。一時、金融情報提供会社ブルームバーグが買うのではないかと言われていたが、ブルームバーグ氏(ニューヨーク市長でもある)は、これを否定した。

 しかし、売却の噂が出るのは株価が下がり、広告収入も減り続けているからだ。根拠があるのである。(この件、追記もご覧ください。)

 ニューヨークタイムズをさらに落ち目にさせようとしているのがルパート・マードックだ。

 FTの記事に戻ると、WSJのマネジング・ディレクターのマーカス・ブラウチリ(Brauchli)氏が辞めたという。マードックのニューズ社がWSJを発行するダウジョーンズ社を正式に購入してから4ヶ月経ち、マードックが影響力を強めていた。

 自分が買った新聞はマードック色にしてしまうため、これを防ぐためにWSJは、5人の構成員による独立編集委員会のようなものを作っていた。昨日は、この会議が開かれるはずだった。辞任に関し、何らかの正式発表がある模様だ。

 ブラウチリ氏がマネジングディレクターになったのは11ヶ月ほど前で、WJSの伝統を重んじるスタッフとマードック側(発行人を英タイムズの編集人にするなど、人を自社から呼んできた)との間を調整する役割を果たしてきた。両方の溝は大きくなるばかりだった。

 特に抵抗があったのは、新スタッフが長い特集記事を減らし、短いニュース報道を増やそうとしたこと、さらに、ニューヨークタイムズの対抗馬として、これまでの経済・ビジネス・金融の記事よりも、政治やライフスタイルに関する記事を増やそうとした点だったと言う。WSJの22日付紙面では、マードック氏自身の記事が論説面に出ていたと言う。

 この件で、FTのジョン・ガッパー氏が書いているところによると、「WSJのスタッフは、ニューヨークタイムズから読者を奪おうというマードック氏の考え方に居心地の悪さを感じているのではないか」と指摘している。そして、WSJの独立編集委員会が骨抜きになるのではない、と懸念もする。と言うのも、1981年、英タイムズを買ったマードックは時の編集長ハリー・エバンスと対立し、1982年エバンス氏は辞職したが、この時に存在していた、そして今でもあるタイムズの「独立取締役」たちは何の抗議もしなかったそうである。

 WSJのブラウチリ氏の辞任は米新聞界の、そして金融出版物にとっても大きなドラマだと述べるガッパー氏は、「金融出版物」にはこの新聞、つまりFTも入る、としている。米英の新聞業界に揺さぶりをかけ続けるマードック。立ち向かえる人+もっと資金のある人はいないのだろうか?米英両国で紙の新聞はビジネスとしては苦戦しており、ここをうまく利用して、新聞を買いあさっているようだ。ニューヨークの「ニューズデー」紙も、ニューズ社が購入する直前までいっているようだ。

 (追記:NYタイムズの業績の件に関しては、「メディア・パブ」ブログの23日付に詳しく出ています。ご参照を。21日付にはロンドン市長選でのネットの活用に関する言及があるなど、他では読めないトピックが載っています。すごい!!)

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by polimediauk | 2008-04-23 20:54 | 新聞業界