小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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ロンドン市長選 + 「トムソン・ロイター合併」前夜 

 5月1日、地方選とロンドン市長選がある。ロンドンのイブニング・スタンダード紙は反・現職リビングストン市長で、チャンネル4なども氏の疑惑を暴き出す番組を放映した。もう8年も市長をやっているので、「飽きた」と言う市民もいるだろう。保守党ボリス・ジョンソン議員が人気を博し、世論調査でも10%近く差をつけている。「ボリス」に投票すればクールである、リビングストンはちょっと・・・という「雰囲気」ができつつあるように思う。リビングストン氏は労働党中枢の支持があり、ブラウン首相を巡るマイナス要素(金融問題、スト、「ブラウンじゃ選挙に勝てない」とブレア氏がかつて言ったとか)も足を引っ張る。

 日曜紙を見ていると、オブザーバー社説はリビングストン支持、サンデータイムズはボリス支持。オブザーバーは、リビングストン氏のマイナス要素を挙げながらも、「ロンドンには良いマネージャーが必要だ」と最後には彼を推していた。

http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/apr/27/london08.livingstone

 雰囲気ではボリスが勝っているのかもしれないが、実際、リビングストン氏の本当の対抗馬がいない。ロンドン政治に関わっていた人、公共部門の経営に関わっていた人などがいないのだ。そういう意味では、政策面での本当の闘いではなく、何だかつまらない感じがする(個人的には、自由民主党の候補も含めて、3人の候補者がロンドン市内の難民・移民申請者に「恩赦」を与えるという項目に注目している。)

 問題は、記事の中でも指摘されているけれども、ボリス=保守党、リビングストン=労働党という感じで、中央の政治の戦い(ブラウン対キャメロン)が地方政治、しかも非常に大きな予算を持つロンドンで繰り広げられることではないか。ボリスは保守党を背負い、保守党首キャメロンに言われたように行動しているだけで、自分を背負っていない感じがする。彼自身がどうしてもロンドン、という感じがしない。良かれ悪しかれ、ロンドンにこだわる人に市長になってもらいたいものだ。

 ロイターとトムソンが合併し、「トムソン・ロイター」(Thomson-Reuters)が誕生したが、自社の株価を間違えるミスが起きたりなどし、苦戦のスターととなったようだ。サブプライム問題の影響が続き、金融機関が規模を縮小すれば、金融情報を売るトムソン・ロイターにとって、良い話ではない。

http://www.ft.com/cms/s/0/db7152aa-0cac-11dd-86df-0000779fd2ac.html


 以下は合併直前の話となる。(東洋経済4・12号掲載分に加筆。)トムソンのこれまでの情報(マードックとのからみに注目)を加えた。

トムソン・ロイター合併
プロ市場は2強時代へ


 19世紀半ば、ベルギーのブリュッセルと独アーヘン間で伝書鳩を飛ばして株価情報を伝えたのがその始まりとなる老舗通信社の英ロイター。世界130カ国に2400人ほどのジャーナリストを抱えるロイターは、自他共に認めるトップ通信社だ。しかし、現在のロイター・グループの収入源の90%は、証券会社や銀行に設置するロイター端末機が稼ぎ出すプロ向けの金融情報サービスである。

 世界の市況情報サービス市場は約126億ドル(約1兆2700億円)に及ぶ。業者間のシェア争いは激しく、巨大市場の33%を握るトップ企業は米ブルームバーグ。追っているのが2位のロイター(23%)、3位の加トムソン・フィナンシャル(11%)だ(市場規模、シェアとも「インサイド・マーケット・データ・リファレンス」調べ、2006年)。

 昨年5月、この市場に激震が走った。トムソンがロイターに対して買収を打診。拒否権を持つロイター株主がこの買収を認めたためビッグディールが成立したのだ。買収額は株式と現金を合わせて約87億ドル(約1兆8300億円)。これにより、ブルームバーグを超える世界最大の金融情報会社が誕生することになった。新会社「トムソン・ロイター」は4月中旬に発足する予定だ。(追記:4月17日より)

 2社は互いに補完的な役割を果たすことができる。トムソンは北米に拠点を置き債券に強く、ロイターは欧州やアジアで強く外貨取引や株投資情報に強みを持っている。新会社の売上高は110億㌦以上で、うち60%が金融情報・ニュース部門を集約させた「ロイター」、40%が法律関係の専門書出版などトムソンの既存事業を手掛ける「トムソン・ロイター・プロフェッショナル」という構成になる見込み。総勢5万人の従業員を抱える新会社では、相乗効果により約5億ドル(約490億円)のコスト削減ができる見込みだ。

―ブルームバーグの強み

 しかし、新会社は今後どれだけの間、業界トップを維持できるだろうか。金融情報サービス業界の競争は熾烈で、単純計算で「世界最大になった」として安閑としてはいられないはずだ。

 もともとロイターは、90年代半ば頃までは金融情報端末市場をほぼ寡占。敵はダウ・ジョーンズくらいだった。ところが、米ソロモン・ブラザーズの債券トレーダーだったマイケル・ブルームバーグ氏(現ニューヨーク市長、株式の約70%を保有)が80年代に創業したブルームバーグが急成長を遂げた。ブルームバーグ氏は現場を知るトレーダーとしての経験を生かし、使い易いシンプルな端末機を作り上げ、トレーダーからの支持を獲得したためだ。これにより、市場の構図は一気に塗り替えられてしまった。

 ブランド力、資金力に勝るはずのロイターが、この新興勢力の急成長を許し、トップの座を奪われたのは、なぜだろうか。たとえば、ブルームバーグは端末利用者同士で使えるインスタント・メッセージのサービス(「メッセージを送って欲しい」という時、「ブルームバーグしてくれ」という表現が流行ったという)など、新サービスを次々に投入している。それに対し、ロイターが素早く追随していればまだしも良かったのだが、後追いのペースも鈍かった。「ロイターはインターネットを十分に活用していない」との批判の声も上がった。

 端末の普及数ではブルームバーグを上回っていたものの、1台が生み出す収益はブルームバーグ機の3分の1(JPモルガン社調べ)以下になるなど、経営の効率が悪化。00年のネットバブル期には1株16ドル(約3150円)の高値をつけた株価は03年には1ドル(約197円)を切り、この年に収入でもブルームバーグに初めて抜かれた。

 対ブルームバーグ戦における危機に直面して01年にロイターのトップに就いたのが、テクノロジーに詳しいトム・グロサー氏(トムソン・ロイターの初代最高経営責任者に就任予定)だ。グロサー氏の頭にあったのは金融情報サービス部門で何としても首位を奪回することだった。事業の絞り込みと数千人単位の人員削減により02年12月期には税前で4・93億ドル(約1000億円)もの赤字決算を余儀なくされた。しかし、10億ドル相当のコストカットにより、04年12月期を底にして増収軌道に回復。3月6日に発表したロイターとしての最終決算(07年12月期)では、売り上げは前期比2%増の26億0500万ドルを記録した。

 しかし税引前利益は前期比1割減の2億7300万ドル。利益の伸び悩みが続いていた。ブルームバーグは未上場の合資会社で決算を公表していないため比較はできないが、ブルームバーグのほうが大幅に利益率が高いことは間違いない。単独ではトップ奪回の展望が開けず、ブルームバーグ独走を許しかねないと考え、トムソンとの合併に踏み切ったといえるだろう。

 しかし、トムソン・ロイターの出現で、ブルームバーグが黙ってトップの座を引き渡すはずもない。両社はがっぷり四つに組んでシェア争いを繰り広げるはずだ。プロ向け市場のトップを巡る攻防は、これまで以上に熱くなることは間違いない。


(補足)
―トムソンの英国でのプレゼンス

1953年:ロイ・トムソンが英国で初めて新聞を買収する:「スコッツマン」。買収価格は75万ポンド。
1957年:スコッティシュ・テレビのフランチャイズを40万ポンドで買う
1959年:サンデー・タイムズを買う。
1965年:トムソン・トラベル社を立ち上げ、ブリタニア・エアウエーズを買収
1967年:タイムズを買う
1971年:北海での石油・ガス採掘権を持つコンソーシアムに参加
1973年:パイパー油田が発見される
1974年:クレイモア油田が発見
1977年:スコティッシュ・テレビの利権を売却
1981年:ケン・トムソンがタイムズとサンデータイムズをルパート・マードックに1400万ポンドで売却
1987年:法律系出版社スイート&マックスウェル社を買収
1989年:北海油田利権を売却
1998年:トムソン・トラベル社を上場させる
2006年:AFXニュースをAFPから買収
2007年:デビッド・トムソンがロイターとの合併話を主導する
2008年4月17日:トムソン・ロイターが誕生
(資料:FT他)
by polimediauk | 2008-04-28 18:10 | 新聞業界