ロンドン無料紙とゴミ
東洋経済掲載分の最後はロンドンの無料紙の話だ。(一部カットと加筆してあります。)もてはやされる無料紙だが、「本当にこんなに出していいの?」という思いを実はしている。
毎週20トンのゴミ
ロンドンを悩ます無料紙のゴミ問題は洒落にならないくらいすさまじいものだ。連日、ロンドン市民は無料紙の渦に巻き込まれる。
朝は、駅構内のスタンドに置かれるメトロ(約70万部)、金融専門無料紙のシティーAM(約9万部)、午後にはロンドンライトとロンドンペーパーの2紙(あわせて約90万部)が続く。市内の道路、電車やバスの中、新聞スタンドの脇などいたるところに、新聞が捨てられるようになった。
ロンドンの繁華街、金融街を管轄するウエストミンスター自治体によると、2006年にロンドンライトとロンドンペーパーの2紙が無料紙市場に参入してから、紙のゴミが年間1000㌧分も増加したという。焼却炉で燃やされるか、埋め立て処理される紙のゴミは毎週20㌧にも上る。
一挙に増えた紙のゴミの回収に悲鳴の声を上げたのが、無料紙配布が多い場所の地方自治体だ。「新聞社側がゴミの回収やリサイクル費用を負担すべきだ」、「いや、ゴミの回収は地方自治体の責任だ」という押し問答の後、昨年、新聞社側が目立つ場所に紙のリサイクル用のゴミ箱を設置し、自社が出した紙のゴミに責任を持つことで合意が成立した。
ピカデリー・サーカス駅付近でロンドンペーパーの配布をしていたロニー・パテロさんに聞くと、午後4時から8時の終了時間までに1人で1000部を配布すると言う。雨の日だったが、どんどん新聞がはけてゆく。「ロンドンペーパーのスタート時からやっている」というパテロさん。同じ場所に立っているというので、知り合いも多いようだ。時折、挨拶を交わしたり、短いおしゃべりをするために話しかける人がいる。結構楽しそうな感じがした。
少しして、小型コンピューターを抱えた男性がやってきて、パテロさんと話し出した。友達かと聞くと、「いや、僕の上司だ」。コンピューターの画面に、パテロさんがサインする。こうやって、配布場所に現れたことを「証明」する。おしゃべりを続ける上司に聞くと、彼が管理するのは16人。何時に誰が来て、配布具合はどうだったか、どれ位残ったかなどをチェックするのが仕事だそうだ。
話を聞いていた30分ほどの間に、100部ほどの手渡し配布が終わった。同じ通りの両側にはパテロさんを含めて6人ほどの配布員がおり、その内の半分はロンドンライトの配布員だった。この通りは人通りが非常に激しいうえ、多くの通行人が受け取っていく。そのため、6人いてもかなりの量を配布できるようだ。
今度は地下鉄とサウスウエスト鉄道駅が隣接するボックスホールに行ってみた。地下から出て、サウスウエスト線に入るところに、「ロンドンライト」と「ロンドンペーパー」の配布者がそれぞれの制服を着て新聞を配っている。ライト側は黄色の制服、ペーパー側はブルー。「写真を撮らせて欲しい」というと、ライバルのはずのライトとペーパーの配布員がよりそい、カメラに向かってにっこり笑ってくれた。時々、短い会話を交わしながら、リラックスした様子で新聞を配ってゆく。ライバルでなく、配布現場では仲間なのだ。
ボックスホール駅構内に入ると、手渡されたが棄てられた新聞が既に隅に置かれていた。悲しい光景だ。やっぱり多すぎるのだろう。広告主からすれば、非常に魅力的な広告媒体。広告需要がある限り、無料紙の洪水はしばらく続きそうだ。しかし、私は環境保護には詳しくないけれど、それでも紙の洪水は気になる。非常に複雑な思いがする。お金の論理が色濃くでたのが、これほどの紙の洪水なのだろう。