小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ワーナー・ミュージックのトップの話

 今、FTサイトのビデオの中にワーナー・ミュージック・グループCEOエドガー・ブロンフマン・ジュニア氏(53歳)のインタビューがある。

http://www.ft.com/cms/8a38c684-2a26-11dc-9208-000b5df10621.html

 音楽界と言えば、廉価でダウンロードできたり、ミュージシャンがレコード会社を経由せずに直接自分の作品を販売するなど、怒涛の世界とも言えよう。ところが、話を聞いてみると、部外者が考えるような「危機状態」にはないようだ。音楽業界の話というというよりも、ネット対新聞(紙)やテレビ業界の話としても聞ける。

 若干、抜粋してみた(言葉の言い換え、途中カットあり)。

―音楽業界と言うと、大変だと聞くが。

 確かに「recorded music レコーデッド・ミュージック」(レコード)業界は大変だと言えるかもしれないが、音楽業界の他の分野では大変良い時期だ。コンサート、ツアー、チケット、商品グッズ。マーケットシェアも増えている。力を入れるアーチストの数を少なくしている。少ない数のアーチストに力を入れたほうがもっと効率的だといつも思ってきた。

―何故株価が上がっていないのか?不満に思っているか?

 フラストレーションはない。上がっていない理由が分かるからだ。(株式市場では)今のところ、レコード業界がどうなるか分からないと言う不透明感が大きい。私からすれば、レコード業界はまた上向きになると信じている。デジタル・セールスが上がっているし、業界全体が大きくなる。それが何時起きるかは分からないが。

―レコード業界は底をうったと思うか?

「底」とは言わないが、今後5年間で上向きになるように自分の力を注いでいる。いつそうなるか分からないし、市場は配当金を見るだろうから、株価はそれに反応してしまうのだと思う。

―何がビジネスの鍵になるか?

 レコード業界には購買モデルがあるー人々はレコードを買う。このモデルは続くが、他にもサブスクリプション(購読料)モデル、広告モデル、アクセス・モデル、ネットワーク・ライセンシングなど。4-5つの収入のモデルがある。

 短期的に最大のモデルは携帯市場だ。音楽業界で主力になるだろう。

―何故まだ実現していないのか?

 沢山理由があると思うが、携帯市場業界の人は、データやコンテンツを売った経験がないからというのが主な理由だと思う。

―アップルが携帯市場業界にとって起爆剤になるか?

 アップルは、消費者を本当に理解して、サービスを提供できる会社の1つだ。アイポッドでもアイフォーンでもそうだった。アイポッドで携帯市場全体の注意を引いた。ノキア、ソニー、エリクソンは最高のサービスを提供していかないと、シェアが落ちるだろう。
 
 アップルで不満なのは、全てのアーチストの作品に単一のダウンロード価格を与えるサービスを提供するところだ。しかし、アップルの経営者はシンプルであることが重要だと思ったのだろう。

―ネットの時代になった。音楽業界として、新聞、テレビ業界など既存メディア業界に与えるアドバイスは?

 音楽業界に対する批判は、新しいビジネスモデルに対応するのが遅すぎた、というものだがー。

―公正な批判だろうか?

 2001年ごろ、こういう素晴らしいビジネスモデルがあるよ、とアプローチされていても、私たちは却下していたかもしれない。しかし、実際には、本当に素晴らしいビジネスモデル、とうのは存在しなかった。MP3ファイルが全てのコンピューター上で使えるようになってから、これを止めることができるようなテクノロジーはなかったし、これを利用するような(音楽業界の)ビジネスモデルもなかった。

―海賊版に反対することに力を使いすぎたということはないのか?

 音楽は無料にして、広告で稼ぐ、というモデルがあった。これに従っていたら、私たちは直ぐに破産していた。つまり、たとえ私たちが最高に前向きの会社であったとしても、これをどうやってビジネスにしてやっていくのかを示した人は誰もいなかった。

―もっとオープンにすることもできたのではないか?

 もっとオープンであるべきだったと言えるし、これからももっとオープンにすることもできる。しかし、常に最高にオープンには出来ない、なぜなら私たちには守るものがあるからだ。そのために闘わなければならないからだ。

 しかし、もっとオープンになるとしても、不確かなのは誰にあるいは何に対してオープンであるか、だ。これが問題だ。もっとオープンにできたのではないか?そう聞かれれば、確かにそうだ。でも、それで何かが変わったとは思えない。

―個々のアーチストが消費者に直接作品を届けるというシステムについてどう思うか?

 心配していない。

―もう実行しているアーチストもいるのでは?

 それほど大きい数ではない。例外もあるけれども、このやり方はアーチストにとってペイしないと思う。

―なぜか?

 そのアーチストが有名になって、大勢の消費者を引き付けることができるまでは有効ではないと思うからだ。そこに達するまでに、私たちがアーチストをサポートする。私たちには編集者としての機能がある。例えばピアノバーで人気のアーチストを、レコードを売ってリスナーを魅了できるアーチストにする。

―フェースブックやユーチューブなどがアーチストを見つけ、編集者としての機能を果たせるのではないか?明日のマドンナが生まれるとか?

 疑わしいと思っている。ネットで音楽を出せるようになって10年ほどが経つが、まだ相当する現象は起きていない。

―インターネットは音楽の聴き方を変えたと思うか?

 ネットのおかげで、音楽はもっとモバイルになった。シェアし、コミュニティーを作れるようになった。業界や消費者にとって、何がフェアかが焦点だ。

―あなたが考えるところの、フェアで、ペイするビジネスモデルとは?

 アクセス、サブスクリプション、ネットワークライセンシング(から収入源を得る)モデルだ。

―ネット(の全て)を監視する(警察のように)ということか?

 (常に)監視するのが可能かどうか、(可能としても)それを望むかどうかは分からない。しかし、そうしないと、仕事をたたんでしまうしかない。

 譲れないと思うのは、知的所有権のあるものが無料になってしまうことだ。音楽、映画、ソフトウェア、金融サービス、新聞でもいいが、あなたが書いたものや、小説の作家や、アルバムの作り手が作ったものが無価値になったら、誰も書く人や作曲する人はいなくなる。そうなったら世界は貧しくなる。そういう風にはならないと思う。

―例えばグーグルは、そういうのは古い考え方のビジネスと言うかもしれない。アクセスする人が何百万倍にも増えれば、広告など他の収入源が生まれてくる、と言うかもしれない。これが将来なのではないか?もう止められなくなるのではないか。

 止めようとしているのではない。貨幣化する道を見つけないといけない、ということだ。正直なところ、グーグルが何というかは分からないが、もし視聴者を巨大に増やすことが出来れば、貨幣化する道は見つかってくる。グーグルはユニークなビジネスモデルを持つ。他の産業が必ずしもマネができるというものではないだろう。

―ところで、最近は、ご自身は作曲をしているのだろうか?

 まったくそういう時間がない。今はビジネスと家族(子供が7人と妻)に時間が取られている。
 
氏のバックグラウンド
 http://en.wikipedia.org/wiki/Edgar_Bronfman%2C_Jr.
by polimediauk | 2008-06-01 21:32 | ネット業界