元サンの編集長が立候補でマードックが後押し

「近寄るな、人質を捕まえた」-と言うデービッド・デービス氏
インディペンデント紙、デーブ・ブラウン氏が描いた風刺画(13日掲載、INM)
11日、テロの容疑者を取り調べるために拘束する期間を、現行の28日から42日に延長する法案が、下院で可決された。今後は上院での議論となる。前法務長官だったゴールドスミス上院議員などが「反対する」と既に宣言している。ゴールドスミス氏は、例のイラク戦争開戦が合法か違法かのアドバイスで悪名がついてしまった人物(当初、新たな国連の決議なしには違法としていたが、途中で急に合法に変えた。これを根拠に、ブレア元首相は開戦動議を出すことに・・・。後はご存知の顛末である。)。「法務長官時代、自分はテロ容疑者の取調べに関わる情報に触れる立場にいた。この時の経験から言っても、42日間必要とは思えない」とBBCのTODAYという番組で述べていた。
いずれにしろ、下院はずいぶん意見が割れて、いわゆるリベラル派は「長すぎる」、「28日で十分」と主張。結局、わずか9票の差で可決された。この9票というのが、北アイルランドの政権党の1つ、民主統一党の議員票であったため、「政府は(北アイルランドに投資をするなどの優遇策をちらつかせて)、金で票を買ったのでは」と、野党保守党の影の内務大臣デービッド・デービス氏が批判した。
13日、驚きのニュースがあった。デービス議員が、今回の法案可決も含め、「英国のシビル・リバティーがどんどん制限されていく状態に抗議するため」、議員を辞職する、と宣言したのだ。自分の選挙区が空白になるから、補欠選挙をせざるを得なくなる。これを機会に、国民にこの問題に関して考えて欲しい、と説明した。保守党党首デービッド・キャメロンにとっては寝耳に水の話だった。「保守党の方針として、デービス氏が辞任するのでなく、あくまでデービス氏自身の決断だった。しかし、デービス氏が補欠選挙で立候補するなら、これを全面的に支持したい」とキャメロンは述べた。党首に相談せずに、影の内務大臣が議員職自体を辞任してしまうー。いささか突飛な行動は、キャメロン党首が党内をきちんと管理していないのではないか?という懸念もやや出る。労働党にとっては「保守党は分裂している」と言える、うれしい流れでもある。
補欠選挙の日にちは決定していないが、7月10日頃というのが1つの見方だ。
高級紙を中心にデービス氏の動きの評価を追ってみると、やはり「突飛な行動」という、やや否定的な見方が大半のようだ。一種のパフォーマンではないか、という声も。
デービス氏は保守党が政権を取ったら内務大臣になると見られている人物。保守的な政策を支持してきたが、今回はその逆で、今までの方針とのつながりという面でも突飛だ。しかし、英国政治で右・左の区別がぼやけてきた中の一環とも言えるかもしれない。インディペンデント紙のジョン・レントウル氏が、ブログの中で、「民主主義体制の乱用ではないか」と述べている。「補欠選挙で勝つのは目に見えている。何を証明したことになるのだろう?」と。
http://blogs.independent.co.uk/openhouse/2008/06/daviss-self-ind.html
今のところ、野党自由民主党は候補者を出さない予定だ。労働党が候補者を出すのかどうかは未定。
議会では意見が割れたが、例えば保守系テレグラフなどの世論調査を見ると、国民の大半が42日間の拘束を支持している。政治家(+インテリ)と国民の認識のかい離が出たように思う。
・・・というところまでが実は前段で、元サンの編集長ケルビン・マッケンジー氏が、この補欠選挙で立候補するのが「90%確実」となった、ということを書きたかった。そして、サンを所有するルパート・マードック氏もこれを全面的に支持している、という。・・・とすれば、かなりおもしろい選挙戦が展開するかもしれない。どんな見出しがサンに載るのか?
サンは保守系大衆紙だが、ガーディアンのメディアコラムニストでマッケンジー氏の下で働いていたこともある、ロイ・グリーンスレード氏によれば、マッケンジー体制(1981-1993)の下で、サンは「バリバリに右派化」したそうである。サンが英国で最大の部数を誇る日刊紙になった時期でもある。
http://blogs.guardian.co.uk/greenslade/2008/06/kelvin_will_fight_and_kelvin_w.html
当時は、「強いイデオロギーがあり、俗物性ととてつもないユーモアが混在」していたという。当時のサンにとって、敵は社会主義で、逆に支持したのが個人主義、一生懸命働くことの大切さ、法律と秩序の強化体制だった。また、フランス人、ドイツ人、日本人、アイルランド人を侮辱し、「外国人嫌い」だった。
「マードックはケルビン(マッケンジー氏)を賞賛し、支配した。マードックはケルビンが服従する唯一の人間だった。1990年代に離れ離れになったが、最近は、ケルビンがサンのコラムニストになり、よりを戻した」。
「デービスに勝てないかもしれないが、関心と論争を呼び起こすだろう」。