小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

古いがまっとうかもしれないバーナム英文化相

 通信団体オフコムが、一般市民や業界などから意見を聞き、将来の公共放送のあり方を取りまとめ中だ。通信法(2003年)の下、約5年ごとに公共放送の見直しをするのが役目の1つとなっている。デジタル化が進み、テレビの視聴行動も変わってしまった。そこで、2011年までに新しい公共放送のあり方(例えばBBCのみがテレビライセンス料を受け取り、これを全額自社のために使っているが、これでいいのかどうか)を提言する予定だ。
  
 英国の公共放送はどうあるべきか?これが今、放送業界での大きな話題の1つになっている。そんな中、今年年頭から文化、メディア、スポーツ大臣となったアンディ・バーナム(Andy Burnham)氏(38歳)が注目の的だ。バーナム氏は2001年が議員初当選。元文化スポーツ大臣クリス・スミス氏の特別アドバイザーの一人として、通信法成立までの過程に関わったこともある。

 バーナム氏は自他共に認める「イングランド北部の出身者」(北西部リバプール生まれ)で、ロンドンに集中しがちのメディアに「もっと地方を取り入れる」ことを願う。ブレア前政権がビジネス寄り、ロンドン寄りだっとすれば、やや違う感じの政治家だ。テレビで前に見た時は、当たり障りのないことを繰り返すだけに見えたが、文化相になってから、独自の意見を述べるようになったようだ。例えば、広告費が減って苦しむ民放最大手ITVは、あらゆる面でのコスト削減に力を入れており、できれば地方ニュースを減らしたいと考えている。ところが、これをバーナム氏は否定。英国の公共放送(地上波放送ITVもチャンネル4も基本的にこの中に入る)は地方ニュースの分量など、さまざまな規制がつくが、ITVに課せられた比率を「今年も達成できていないのは遺憾」と述べていた。それと、テレビ番組の中にスポンサーとなる広告主の商品を入れる、「プロダクト・プレースメント」には「絶対反対」という立場を取っている。

 そんなバーナム文化相が、放送関係の市民団体VLVのメンバーと24日、下院でじっくり質疑応答に応じた。VLVは1980年代、時のサッチャー首相がBBCの民営化を画策した時、これを止めようと奮闘してできた団体で、今も当時の運動の中心人物が会長だ。

 2つ前の文化相(テッサ・ジョウエル氏、現在はオリンピック担当大臣)もVLVとの会合を持ったが、ほんの20分ほどで、「自分の言いたいことだけ言って、帰った」とは正反対で、バーナム氏は約束の6時半から15分ほど遅れて姿を現したものの、スピーチの後は15―20人ほどの参加者からの質問を受けた。途中、投票をするために議会内にいったん戻ったが、ほんの10分で会場に戻り、8時ごろまで質問に答えた。「放送業界はものすごいスピードで進化している。一回限りにせずに、年に3回くらいは、VLVの人たちと質疑応答の時間を持ちたい」と述べて、うるさ型が多いVLVの参加者を喜ばせた。

 どんなに口頭でいいことを言っても、自分の主張を最後まで実現する能力とは必ずしも同一ではないかもしれない。それでも、1時間半ほどの会合は熱気を持って終わりを告げた。

 スピーチでバーナム氏が述べたのは、「公共放送の行方に関して、オフコムやBBCなどが報告書を出しているが、いわば業界の人の議論が中心に物事が進むことに違和感を感じる。視聴者、市民の声がもっと入るべきと思っている」

 「公共放送メディアで重要なのは、その放送の水準(の高さ)と質だと思う。これからしばらくの間、これをどうやって維持するのか、(デジタル化が進む)新しい時代にどう発展させていくのかがテーマになるだろう」

 「放送業界の人と話すと、ニューメディア(=デジタル、ネット)からの挑戦でプレッシャーを感じている、と言う。利益をあげないといけないし、プレッシャーは大きいと。しかし、私が言うのは、もし商業的な利益をもっと上げたいなら、公共放送の質や水準の高さ、ニュースの公平さが強みになり得ることを考えて欲しい、と。英国の公共放送のこうした特徴を簡単に捨ててはいけない。公平な、バランスの取れたニュースを提供するという、公共放送の義務は、公共放送の枠にはない放送局(注:たとえばスカイニュースなどの意味)にも適用されるべきだと思っている」

 「広告主の商品を番組内で使う、プロダクト・プレースメントには反対だ。この方針は変えない。英国の番組の品位にかかわることだ。民放はお金がもうかるからこれを実行したいというが、長期的には悪い影響があると思う。編集の品位が失われてしまう。広告販売の手が番組内に入ってくるべきではない。視聴者がある番組を見ていると思っていたら、実は広告を見ていた、ということになってはいけない。番組を見るという行為の意味が変わってしまう」

 「何故ここまでこだわるかというと、調査を見ると、国民が伝統的なメディアに大きく依存していることが分かっているからだ。例えば、オフコムの調査によれば、83%が公共放送によって、何かを学んだと言っており、高い質、水準を評価している。信頼度が高い。86%はテレビのニュースに信頼を置いている」

 「英国の新聞はそれぞれの独自の見方を表に出す。読者は承知で読んでいる。しかし、公共放送は違う立場にある。公共放送のニュースは民主主義を維持する重要な役目がある」

 「もし英国に、米国の(右派)フォックス・ニュースのような存在ができてしまうと、公共放送全体の質を落としてしまうと思う。もっと一定の見方を強く出した方がいいのではないか?、など他の放送局にプレッシャーを与えるかもしれないからだ」

 「地方ニュースというのも民主主義社会の維持には非常に重要で、民放ITVはこれを削減したがっているが、私自身、ITV系列で(昔あった)グラナダテレビで育った人間の一人だ。地方ニュースはITVのDNAなのだから、削減してはいけないと思う」。

 「1999年の地方分権以降、政治状況は変わったが、放送局もこれに応じて分化するべきとは思わない。オフコムの調査では30数パーセントがBBCのニュースは自分たちに関係ない(ロンドン中心だから)と感じている、という結果があった。自分たちの住む場所以外のニュースを見たくないというのではなくて、地方のさまざまなニュースが見たいということなのだと思う」

 反商業主義をあらわにしたバーナム大臣。新鮮だった。良い方向に向かってくれるといいが。
by polimediauk | 2008-06-25 06:47 | 放送業界