小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

毎日新聞の謝罪

毎日新聞が「Wai Wai」で不適切な記事が掲載されていた件で、謝罪し、検証結果を20日付で紙面とウェブに掲載した。

http://www.mainichi.co.jp/home.html#02

 思わず読みふけってしまったが、「悪いところは摘出しました」という感じで、やはり、読者に向けてのメッセージとしてはこういう風になってしまうのだろう。

 いろいろな方がいろいろな感想を持つのだろうし、パーフェクトな謝罪・検証はないかもしれない。それでも、毎日自身がそう思っているというよりも、「読者があるいは世間がそう受け止めているから」ということで、書かざるを得ない表現もあったと思う。

・・・と前置きをしてからだが、謝罪や検証記事を読んで、疑問を持つ、あるいは違和感を感じた点は結構多かった。

 まず、「海外に出た」こと自体が1つの問題であったかような文脈だ(そうせぜるを得なかった事情は理解できるけれども)。たとえどんな内容(日本人として恥ずかしいと思うかもしれないことでも)であれ、日本で出版されている内容が、外に出て悪いことはないだろう。情報を日本内だけで隠し通しておける、と思う方がおかしい。私が今回の事件でまずいと思ったのは、毎日新聞の日本語版では出さない(編集規定に反するなど)と判断されるような内容が英語版で出たことだ。何から何までぴったし同じである必要はもちろんないが、「毎日」のブランドでパッケージとして出す場合、基本的に言い訳は絶対にきかない。日本語で読むにしろ、英語で読むにしろ、読者は「毎日の編集基準に沿ったもの」として読むのである。ある情報を毎日のサイトで出しておいて、「これは毎日ではない」とは言えない。

 海外向けの顔と日本向けの顔を変えてはいけないと思う。もちろんもっと説明がいる、海外読者が読みたがるトピックと日本の読者がおもしろがるものは違うかもしれないから、適宜さまざまな編集作業があるとしても、倫理規定とか根幹になる部分を変えてはいけない。また、海外向けに、ことさら日本の良い面ばかりを強調する、あるいはことさら悪い面や困惑する事実は報道しない、ということが(毎日はそうすると言っているわけではないが)、あってはならないと思う。

 それと、「外国人スタッフが」という言葉が何度も出てくる。これが非常に日本的な感じがする。何故、英文毎日の外国人スタッフと日本人スタッフを分けるのか、という問題だ。どちらも英文毎日の「スタッフ」ではないのだろうか。仕事内容や雇用体系が若干違っていても、同じ仲間ではないのか。直接は書かれていないのだけれども、「外国人=日本の知識が少ない」、「日本人=事情を良く分かっている人」という分け方をしているのだろうか。どうも差別に聞こえてしまう。どちらも「プロ」として仕事をまかされていたのではないのだろうか。それとも、外国人スタッフは1つ下の存在だったのか?国籍はどうであれ、日本に関しての記事を書く・編集するには十分な知識と力量があるからこそ、雇われていたのではなかったのか?「外からやってきた人」が起こした問題、と片付けたがっているような感じがする。

 編集チームの上司(部長職)の役割も十分に機能していなかったようだ。これも非常におかしい。どこかに「歴代部長は英文の紙面内容を十分に理解していなかったのでは」という反省も書かれてあったと思う。部長の立場では紙面内容のすべてをみる必要はないだろうけれど、一般的に、「十分には理解していなかった」状況はよくあることかもしれない・・・残念だが・・・。

 そこで、今度は女性の編集長になるという。これも驚きである。女性の視点が足りなかったから、というのが理由だ。女性の視点は女性でないと持てないのだろうか?男性の視点も女性の視点も分かる人がいない、あるいは編集長になれないのだろうか?この人は日本人なのか(多分?)、それとも「外国人スタッフ」なのか?ウェブの英文マイ地のスタッフは「外国人5人、日本人2人」という表記があった。とすると、いわゆる「外国人」スタッフはある程度の自由裁量を与えられ、おそらくは誇りを持って仕事をしていたのではないか?一人前の「スタッフ」として、仕事をしていたのではないか?しかし、今回の事件で、悪いのは外国人スタッフという結論にしゅうれんしつつあるのかもしれず、一体どんな思いでいるのだろう?事件が起きてから、はしごをはずされた、という感じをしている人もいるのだろうか?問題となった記者には、「編集長」という名刺を提供されていたという。これは結構重い。社外の人で彼に会った人は、もちろんこれを額面どおりに受け取ったであろう。

 諸所の理由から、具体的な表現が何であったかなどに関して、深い説明はなかった。若干の短い説明からは、実際のところ、それほど「不適切」な感じはしなかった。日本で出版されている雑誌でそういう記事が出ているのなら、そして出所が記載されているなら、これ自体は問題がないだろう。個人的に付け加えたところもあったようだが、表現自体が問題なのではなく、「毎日がやった」ところが問題だったのだろう。信憑性、おすみつきを与えてしまったからだ。(以下、内容説明を謝罪・検証記事から貼り付ける。)

掲載した原稿は基本的に、雑誌名を示し、表紙の写真を付した上で、導入部で記事全体を要約し、第2段落以降で元の記事を紹介するというスタイルを取っていた。原稿は1本あたり600語程度で、うち6~8割が転載だった。
 掲載された記事には「料理、獣、悪徳とその愛好者」というタイトルで異常な性的嗜好(しこう)の話を取り上げたもの(07年9月)や、「古くから伝わる米の祭りでは、お肌に効果がある洗顔クリームが評判を呼んでいる」というタイトルで日本の伝統的な祭りを性的な話題に結びつけたもの(05年12月)などが含まれていた。エクアドルやベラルーシなど外国で日本人観光客が違法ツアーに参加しているという記事(03年7月)もあった。いずれも事実の裏付けもないまま翻訳して記事化していた。
 未成年者の性に関する記事などを不適切に取り上げたり、翻訳元に掲載されている数字を算出根拠などを明確にせずに使用して誤解を招いたり、数人の女性のコメントから成り立っている雑誌の記事を「日本人女性の間で増えている」といった表現で一般化するケースも確認した。
 また、防衛政策を美少女キャラクターが登場する漫画で紹介しているという月刊誌記事を07年7月に取り上げた際、導入部の防衛省の説明に「真珠湾攻撃と南京大虐殺で世界に名を知らしめた政府省庁の後継」と加筆したケースがあった。担当記者は「美少女とのギャップを浮かび上がらせるために書いた」と語った。

by polimediauk | 2008-07-20 16:07 | 日本関連