小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

変わる英新聞業界②新たな収益モデル論議

 前に、苦難の英新聞業界の新しい生き方に関して書いたが、新聞協会報の7月29日付けに、もう少し系統立ててまとめてみた。

 すぐに現在の新聞業態がなくなるというわけでは決してないのだが、「今のままではだめだ」という結論は常識となっており、そのためにはどうするかのアイデアがずい分出ている。今が非常におもしろい時期に来ているのかもしれない。
 
英紙の新しい収益モデル論議
 少人数で専門性高めるべき
 ―ネット収入の改善が課題


 広告収入の減少と発行部数の下落が慢性化する英新聞界で、新たなビジネス・モデル形成への模索が続く。かつての悲観論は具体的な打開策を提言する前向きの議論に変わりつつある。その議論は高品質化・専門化、インターネット広告の収益を改善する一方、製作の外注化や組織の徹底的なスリム化を図る方向に修練される流れに収れんされつつある。

―非営利組織の運営も

変わる英新聞業界②新たな収益モデル論議_c0016826_5473123.jpg 現状打開に向け、これまでの新聞社のあり方を変えるべきだと提言したのは、2006年夏の英誌エコノミストの新聞の将来に関する特集(アドレスは記事の最後に)だった。新聞社は部数の拡大という量的な競争に走るのではなく、高品質化、専門化に力を注ぐべきだとした。幅広い読者層に、あらゆる情報を提供する新聞とはまったく違っていた。

 同誌は質の高い報道には豊富な人材と安定した資金が必要となるとして、高価格化や商業主義に左右されない非営利組織による運営を提案。高品質の言論・報道をネットでも紙でも提供する新聞の周りに、調査報道を支援する非営利団体、広い見方を持つ市民記者が存在する構図を描いた。

―グーグル下回る収入

 英国の広告費は06年、ネットが全国紙を抜いた。09年にはテレビ、10年には新聞を含む出版全体をも上回ると予想される。英紙にとりネットからの収入増が大きな課題だ。

 しかし経営コンサルティング会社「アーンスト&ヤング」が3月に公表した報告書によると、英紙がサイトから得る広告収入は検索大手グーグルと比べるとかなり低い。

 報告書は新聞サイトの毎月の固定利用者数を平均で1300万人、月間ページビューが1億1000万回と推定。サイトの広告収入は、07年で1社当たり1500万―2000万ポンド(約32億円-43億円)、固定利用者1人人当たりでは10~13ペンス(9-12円)と見積もった。グーグルの24分の1でしかない。

 増収には、①広告料をページビュー方式と、クリック単価(広告主のサイトにユーザーを誘導して得る収入)方式を組み合わせて設定する②ネットの求人広告サイトを買収する③利用者の志向や行動を分析して広告を出す「行動ターゲティング」を活用する――の3点などが必要とした。

 若者層の取り込みには、SNSサイトなどとの提携、無料配布により新聞を読む習慣を育ませることのほか、紙の新聞に暗号を印刷し、これをサイトに入力すると広告主とタイアップした商品やサービスなどが入手できるようにする、なども提案した。

―新聞社「解体論」

 新聞の不要論は見られないものの、新聞社の組織を見直すべきとする考え方は少なくない。通信環境や技術の発展で、情報収集・発信は既存媒体の特権ではなくなった。個人のブログが広い支持を得て、専門性の高いニュースサイトとして機能する事例が相次いで見られることが背景にある。

 その具体例が英国の独立系政治ブログの最大手(毎月の固定利用者数が約50万人)「グイド・フォークス」だ。政治風刺が主だがスクープ記事も多い。執筆者のポール・ステインズ氏は、既存のブログ・ホスト・サービスを利用し、ほぼ一人で取材から編集、情報発信をこなす。

 ブログ上には複数のバナー広告が並ぶ。ステインズ氏は「専門性のある情報を発信できれば、誰でも利益が出る媒体を作れる」が持論だ。新聞のように「総花的なトピックを追っていない」ことや、「制作費を出来る限り安くする」のが利益を生み出す秘訣だという。

―サブエディーター廃止

 組織を徹底的に小さくするため、製作の外注化や組織の簡素化も急ピッチで進む。独ベルリナー・ツァイトゥング紙など約300紙を発行する欧州の新聞グループ「メコム」のモンゴメリー会長は3月、英上院通信委員会で、各新聞の顔となる見出しを作る重要な職と見なされてきたサブエディターは不要で、印刷工場も「将来、外注化すべきだ」と述べた。

 サブエディター職は無料紙シティーAMが6月末に廃止し、株価下落に悩むトリニティー・ミラー社も7月、削減を発表した。インディペンデント紙を発行するインディペンデント・ニューズ&メディア社は英国以外で発行する新聞に関してサブエディター職を外注化している。

 ガーディアン紙のコラムニスト、ロイ・グリーンスレード氏は6月30日、サブエディターを「新しい時代の最初の犠牲者」とブログに書いた。「新しい時代」には「マスメディア」という言葉は存在しないかもしれないと指摘。「ニッチ市場に向けて、少人数で質の高いスタッフを雇える程度の利益を出す、全く新しい収益モデルが成立する事態を予想せざるを得ない」(7月1日付)との見方を示した。

 エコノミスト記事アドレス(他にもいろいろ面白いアイデアが出ています。)
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=7830218
http://www.economist.com/business/displaystory.cfm?story_id=E1_SRNSTPV

 グリーンスレード氏のコラム(25日付)で、NYタイムズを、米格付け会社スタンダード&プアーズ社が「ジャンク・ボンドレベルにした。やっぱり新聞業は瀕死だ」というブログ(グイド・フォークス)を紹介したものがあります。
http://blogs.guardian.co.uk/greenslade/2008/07/guido_on_the_death_of_the_dead.html
by polimediauk | 2008-07-29 05:42 | 新聞業界