小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

女性主教で英国教会に分裂の危機

 多くの日本人にとってあまりなじみのない話だが、こちら英国では、このところ、英国教会に関する報道がよく出ている。(60-70%の国民が自分はキリスト教徒だと言っているそうだが、それでも、教会に定期的に行く人は少なく、日常生活からは大分離れた存在になっている、とも言われている。)

 このところの話題の中心は、英国教会とその世界的組織「聖公会」が、女性主教や同性愛者の聖職叙任を認めるか否かで割れていること。10年に一度英国で開催される、聖公会の上級聖職者の集会「ランベス会議」(8月3日まで開催)の直前、聖公会の伝統重視主義者らが独自のグループ(Gafcon)を結成し、聖公会の近年の自由主義的な方向性を強く批判するという一幕もあった。

 同性愛者や女性主教を認めるか否かというのは、まさに現代的な問題でもある。傍観者からすれば、同性愛者や女性の主教の下で信者になりたくないという人は、別のグループを結成し、それで幸せになれるならその方が・・と思うけれども、英国教会指導部は何とか1つにまとまる方向で議論を進めているようだ。

 (英国教会:「チャーチ・オブ・イングランド」は聖公会:「アングリカン・コミュニオン」の中で最初に成立。もともとカトリック教会の一部だったが、16世紀のヘンリー8世の離婚問題をきっかけに、独立した協会組織となる。英国内のキリスト教信者全員が英国教会に属しているわけではない。)

 「英国ニュースダイジェスト」今週号で、聖公会やその母体となる英国教会の分裂の危機の原因を追ってみた。(以下では若干編集した。)

伝統派と自由主義派の戦い
 女性主教で英国教会に分裂の危機


―世界の聖公会

 BBCによる聖公会の分布図は:

http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/3226753.stm

英国:1340万人
米国:240万人
カナダ:64万2千人
西インド諸島:77万7000人
西アフリカ:100万人
ナイジェリア:1500万人
スーダン:500万人
ウガンダ:800万人
ケニア:250万人
タンザニア:200万人
中央アフリカ:60万人
南アフリカ:200万人
オーストラリア:390万人
ニュージーランド:58万4800人

*50万人以上の信者がいる地域を表記

―同性愛者に対する各地域の態度

英国:2003年、同性愛者の司祭がレディング主教に選出されそうになり、大問題となる。英国教会内で反対の声が上がり、カンタベリー大司教が司祭に対し主教職を辞退するよう説得した。国教会の決まりによると、同性愛者の司祭は純潔を守る限り、市民パートナーシップを結ぶことが許される。
米国:公然同性愛者を初めて主教として選出。
カナダ:同性愛の聖職者問題で聖公会が割れるべきではないとする声明文を発表している。
西インド諸島:大司教が、米国の同性愛者の主教就任は聖書の教えに反すると表明。
西アフリカ:大司教は同性愛は「不自然」として米国聖公会との関係を断絶。
ナイジェリア:聖書の教えに反すると同性愛に反対姿勢。
スーダン:前大司教が、戦争や貧困など、同性愛よりも重要な問題を議論すべきと発言した。
ウガンダ:聖公会の自由主義的方向性に反対。米聖公会が同性愛者の主教を選んだために、関係を断絶。
ケニア:大司教が同性愛者を教会に入れるべきではないと強く主張。
タンザニア:「同性愛は罪」と大司教が発言。
中央アフリカ:米国聖公会が公然同性愛者を主教にしたことに「失望した」と元大司教が発言。
南アフリカ:公式見解はなし。聖公会内の分裂が消えるよう望むと大司教が発言。
オーストラリア:特に同性愛に関して立場を表明していないが、聖公会内の分裂に「悲しみ」を感じると聖界トップが発言。
ニュージーランド:公式見解を出していない。
(資料:英国教会、BBC他)

―ランベス会議の波乱

 聖公会の上級聖職者たちが、イングランド南部ケント大学で、10年に1度の「ランベス会議」に参加している。従来は、カンタベリー大司教が住むロンドンのランベス宮殿で開かれていたため、この名前が付いた。世界160カ国に約8000万人の信者を持つ聖公会の指導者たちが集まる会議は、聖公会が直面する問題を語りあい、キリスト教の教えについて意見を交換する場であると同時に、友好を深め、結束を確かめ合う場でもある。

 しかし、今年は聖公会内の不和が目立つ。ランベス会議は7月中旬に始まったが、開催直前の6月末、エルサレムに約1000人の聖職者が集まり、「グローバルな聖公会の将来会議」(Gafcon, Global Angrican Future Conference)というグループを結成した。目的は、同性愛者や女性の聖職任命に関する、聖公会の自由主義的傾向を変えさせることだ。ランベス会議には約800人ほどの主教クラスの指導者が参加するはずだったが、Gafconに属すると見られる約200人が参加をボイコットした。

―同性愛者の米主教の衝撃

 聖公会の内部では保守派と自由主義派が何十年にも渡り、同性愛者の扱いをどうするかで議論を戦わせてきた。現在の内部危機の直接のきっかけは、2003年、同性愛者であることを公表していた聖職者ジーン・ロビンソン氏が、米ニューハンプシャー州の主教になった時だった。同性愛行為を罪としてきたはずの聖公会で、高い指導的立場を果たす主教が同性愛者となるとは、保守派にすれば最後の砦が崩れた印象を与える事件となった。自由主義派は教会は時代と共に変わるべきと考えるため、真っ向から意見が対立することになった。

 女性司祭は既に90年代から認められていたが、主教として認められるかどうかで、保守派と自由主義派はぶつかった。保守派は聖書の教えを元に、聖職指導者は男性であるべきと考え、自由主義者は女性主教が認められないなら、女性は男性より一つ下の存在になるとして、女性主教の実現を支持した。

 Gafconの主導者たちは、「聖公会を2つに割る意図はない」と述べたものの、先のロビンソン米主教はランベス会議に招待されず、200人規模の聖職者が抗議で会議をボイコットし、かつ独自のグループまで結成した現状は、やはり「分裂の危機」と言わざるを得ないだろう。

 聖公会の「自由主義化」に反対する聖職者たちの出身国・地域を見ると、西インド諸島、アフリカ諸国など一定の地域で固まっており、旧英植民地であった場合も多い。サンデータイムズ(7月20日付)のコラムニスト、サイモン・ジェンキンズ氏は、大英帝国が自分たちの価値観を押し付けた時代は終わったと指摘する。それぞれの地域にはそれぞれの異なる文化が存在し、性に関する考えも異なる点を挙げながら、「価値観が同一であるふりをする」聖公会がおかしい、と書いた。

 聖公会の母体である英国教会のトップ、カンタベリー大司教はいかに会議をまとめ、溝を埋めるのだろうか?大司教は、会議の終わりまでに、新たな「聖公会の誓約」を発表する、としている。

―ランベス会議とは

 英国教会とその世界的組織聖公会(アングリカン・コミュニオン)の上級聖職者が集う会議。カンタベリー大主教が10年に一度開催を呼びかける。「ランベス」とは大主教が居住する、ロンドンのランベス宮殿を意味する。従来はランベス宮殿で開催されてきたが、参加者が増えて手狭になったため、今年はイングランド南部ケント大学で8月3日まで開催される。参加者は共に祈り、聖書の教えを研究し、聖公会が直面する問題を議論する。会議は非公開だが、教会グッズなどの販売をするマーケットへの訪問は、信者でなくても可能。日程など詳しくは以下のアドレスを参考に。http://www.lambethconference.org/lc2008/marketplace/index.cfm

―女性主教問題とは Q&A

―何故問題になっているのか?

 女性主教を認めれば聖書の教えにそむくと考え、英国教会を去ることも辞さないとするグループと、任命が不可能になれば女性に対する差別になるとするグループが対立している。

―現状は?

 7月、ヨークで開いた総会で、女性の主教を認める方針を賛成多数で決めた。しかし、女性の指導者がいる教区にいたくないとする信者の意思を尊重するため、女性主教の上に、男性の「スーパー主教」を作るという案も出されており、両方のグループが妥協できる仕組みの草案が、来年2月までに作られることになった。

―女性の占める位置は?

 英国では、主教より下位の司祭の職には大勢の女性が就いている。司祭になるために研修を受ける人の半分以上が女性となっており、司祭の4分の1は女性だ。女性司祭が認められたのは1992年(実際に司祭が誕生したのは1994年)。米国、カナダ、ニュージーランド、オーストリラリアでは既に女性の主教が誕生している。英国内では、スコットランド聖公会が女性の主教を認める決定をしているが、ウェールズ地方の教会監督団体は4月、認めないことで合意した。

―聖公会の最高位となるカンタベリー大司教の姿勢は?

 ローワン・ウイリアムズ氏はリベラル派と見なされていたが、英国教会の大司教に任命されてからは同性愛者や女性の主教任命に保守的な姿勢を示している。聖公会が一つにまとまることを重視しているためと言われている。

―同性愛者の聖職者たち①

 ジーン・ロビンソン:2003年、米聖公会ニューハンプシャー州主教になる。現在61歳。聖公会で初めて、公然とした同性愛者でありながら主教となった人物。70年代から同性愛者であることに気づき、結婚して2人の子供ももうけたが、1980年代に離婚し、同性愛者であることを公にした。87年、現在のパートナー(州政府勤務)に出会う。06年、アルコール依存症で治療を受ける。今年6月、両者は市民パートナーシップを結ぶ。主教選出時、州内の聖職者の一部が「教会が割れる」とする声明を出した。世界の聖公会を統括するカンタベリー大司教も聖公会全体への「大きな影響」を表明し、ナイジェリアなど複数の国の司教も懸念の声を上げた。論争が大きくなり、08年夏のランベス会議には招待されなかった。ロビンソン主教の人生はテレビや映画でドラマ化された。

―同性愛者の聖職者たち②

 ジェフリー・ジョン:イングランド東部聖オーバンス教会の首席司祭で神学者。55歳。2003年、英国教会の主教に同性愛者としては初めて任命される見込みとなったが、反対の声が上がり、カンタベリー大司教が説得し、就任を辞退した。オックスフォード大学で進学を学ぶ。英国教会の教えの中にカトリック教会の教えを取り込む「カトリック主義の肯定」運動の創始者で、女性主教の存在を支持する。04年、官邸が聖オーバンス教会の首席司祭に任命した。06年、長年の付き合ってきた男性と市民パートナーシップを結んだ。

*参考
**カンタベリー大主教に関する前のエントリー
http://ukmedia.exblog.jp/8340498/
**英国教会のカンタベリー大主教に関する論評と聖公会の危機に関しては、雑誌「フォーサイト」今年5月号に、タイムズの記者が非常に参考になる記事を書いている。購読者でないと見れないが、どこかで手にする機会があれば目を通してみていただきたい。
by polimediauk | 2008-07-30 06:03 | 英国事情