小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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MI6と報道合戦

 デスクトップのコンピューターを使って、この文書(タイトルMI6)を書き、別の場所にあるラップトップで作業を続けるために、文書を自分宛のグーグル・メールに送った。今開けようとしたら、右のほうに、「MI6に就職しませんか?」などの広告がずらっと出る!アマゾンで本を買った時、おすすめの本が出るのは知っていたが、文書のタイトルから連想・リンクさせて載せた広告なのだろう。やっぱりそら恐ろしいものである。ついついグーグルは使ってしまうが。もちろん、私の行動は常に監視されている。

 何故MI6のことに触れようと思ったかというと、7月中旬、アイルランドに一緒に行った(ベリタに記事を書いた)、ロシアの通信社リア・ノボスチのロンドン支局長マリア・タベク氏と、例の2006年に殺害されたリトビネンコ氏(ロシアの元スパイ、英国に亡命してからは、MI6に雇われていたとも言われている。諸説あり)事件について話す中で、彼女はこの事件を詳細に報道してきたが、どうもMI6とロシア情報筋の情報合戦のふしがみられ、「誰の言うことも全く信じられない」ということを聞いたからだ。

 もちろん、彼女自身がスパイである可能性もある。在ロンドンの外国人特派員にはスパイが少なからずいるというのはほぼ周知だと思う。「スパイ」といっても、「情報収集」という面では特派員も行動は似ているわけで、それほど不思議でもないだろう。

 彼女の言うことに「なるほどな」と思ったのは、ロシアと英国の間で、このリトビネンコ事件を巡って、意見の対立・かいりが激しいからだった。この問題に関しては、英国では、「ロシア=悪人」ということになっている。アンドレイ・ルゴボイというロシア人実業家(今は国会議員、07年英検察が氏の起訴を決定)を、英国側は容疑者として、英国への引渡しを要求しているが、ロシア政府はこれに応じていない。英国では「理不尽な国=ロシア」と見られている。

 昨年夏、ルゴボイ氏の引渡しを要求する英国側とこれを拒否するロシア側との間で、報道合戦が起きた。先のマリア・タベク支局長が、ロンドンの王立国際問題研究所のあるアナリストに取材したところ、「明日にはこの件はすっかり消えてなくなるよ」と言われたという。実際、翌日からは、一切報道はなくなった・・・。つまるところ、氏の推測では、「英国もロシアも(本気で)ルゴボイ氏の引渡し問題を片付けようとしていたのではなく、何らかの別の理由で、故意に騒ぎたてていただけーー本当のもっと大きな問題は、別なところにあったのではないか?」と。

 それと、英関係者が記者会見で、「ルゴボイ氏の引渡しを再三要求し、たくさん書類を出しているのに、ロシア側が応じない」と表明したため、タベク支局長が在英ロシア大使館に聞いたところ、「引き渡しを要求する文書が一枚来ただけ」だったそうだ。もちろん、ロシア大使館がうそを言っている可能性はある。しかし、英側もうそを言っている(誇張している)かもしれないのである。

 リトビネンコ氏は、ロシアの富豪でプーチンの政敵ベレゾフスキー(今は英国亡命・生活中)に生活の面倒を見てもらっていたこともあり、そうするとさらに「誰も信じられない」状態になってゆく。

 7月上旬、英「情報筋」が、「リトビネンコ氏殺害の背後にロシア政府が関与していた」と述べたと報道された・・・。

 ロシアと英国の関係は(少なくとも表面的には)冷戦以来最悪の状態と言われている。この仮説自体を疑う必要があるだろうが、リトビネンコ事件の真相は藪の中だと今のところは言わざるを得ない。

 MI6オタクともいえる、スティーブ・ドリル氏も、「事件の真相は分からない」と言う。大学で教えながら、MI6に関してテレビに出たり、本を書いたりしている人物だ。

 このところ、政府資料が盗まれたり、電車内で見つかったりした事件が相次いだが、これも、氏によれば、「故意に情報を流しているのでないか?」

 何でも、氏によると、MI6の事務所は日本にもあるそうである。

 さらに、イラク戦争の開戦の重要な情報となった大量破壊兵器の存在だが、氏によれば、「MI6は(大量破壊兵器がないことを)最初から知っていた」。これは驚きである。というのも、インテリジェンスの失態ということになっているからだ。「知っていて、情報機関のトップが時の政治家と一緒に行動することを決意したのだと思う」。

 もちろん、氏の推測が当たっているとは限らない。しかし、一つの見方であることは確かだ。

 さらに、自分にとって、「!!」と思ったのは、今テロを防止するため、英政府をはじめとして、各国が予算を使っているけれど(+大騒ぎしているけれど)、実際には、少なくとも英国に限れば、「脅威のレベルは大きくないー特に、かつての北アイルランドのIRAのテロと比べてもマイナーだ」。この点はかつて、それこそ国際研究所でもその旨のレポートが前に出ていたと思うけれども、改めて聞いて、なるほどな、と。

 ドリル氏がMI6オタクになったきっかけは、1970年代のウオーターゲート事件だ。「次第に、英国に興味が移った」。

 テロと言えば、中国で事件が起きた。トラックに乗った人物が爆弾を使って「テロ」(襲撃という言葉を使っている報道を見た)を起こしたようだ。チャンネル4が、元CIA工作員ボブ・ベイヤー(映画「シリアナ」の主人公のモデルになった人)氏が作った、「カー・ボム」という番組を先日放送していた。ベイヤー氏が言うには、「今世界の最大の脅威は核兵器ではない。車を使った爆弾=カーボムだ」と言っていた。
by polimediauk | 2008-08-06 05:39 | 政治とメディア