小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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「フラット・アース・ニュース」の衝撃

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 英国では世間的には夏休みである。もう既に夏休みに入った人もいれば、これから休みをとる人もいる。一概には言えないのだが、多くの人にとって、夏休みは何かをする時である。つまり、山歩きでも、海に行くでもいいが、何かをしないといけない、どこかに行かないといけない。「いけない」というと言い過ぎかもしれないが、そんな雰囲気がある。

 「夏に読む50冊の本」、「子供を連れて行ける避暑地のベスト30」などという特集を新聞が組んだりする。

 英メディアに興味のある方で、まだ読んでいない方がいたら、おすすめなのが、「フラット・アース・ニュース」(ニック・デービース著)である。

 「地球は丸いニュース」というタイトルは変わっているが、中身は現在の英メディアの批判・内幕暴露ものである。ウエブサイトもある。

http://www.flatearthnews.net/

 書いたのは元ガーディアンのジャーナリストだ。調査報道に関わってきたデービース氏は、メディア界そのものを「調査・報道」しようと思い立った。きっかけは、2000年問題だった。1999年から2000年になる時、コンピューターがうまく作動せず、大変なことが起きるのではないか?といわれたことを、覚えているだろうか?メディアは大騒ぎをし、恐怖感を引き起こすような記事が出た。
 
 しかし、2000年になってみると、ほとんど大きな問題はなく、大騒ぎは全くの無駄だった。デービス氏が何故か?を探ってみると、ほとんど全ての報道が互いに記事をコピーしあい、たいした根拠もなく、どんどん「恐怖」を広げていたことが分かった。

 ・・・というのが出だし(ここまでが長いがあきらめずに読むと)で、いかに新聞やテレビの報道が、ロイター、AP、PA(国内通信)という通信社の記事に頼っているか、しかし、通信社ではそれほど事実をチェックしているわけでなく、結局のところ、誰も事実確認を十分にせずに、同じ記事が何度も使いまわされていることなどが書かれている。新聞社に勤める記者はまるで巨大工場で働くスタッフのように、たくさんの原稿を吐き出すことを求められ、ゆっくり考える暇もなく、生産にいそしむ(ここは自分のかつてを思い出した)。

 記者が情報源とするのはほとんど全てがPR素材で(例えば人権団体からのプレスリリース)で、全ての行為・事件が広報を通じて発表されるので、メディアはPR会社に牛耳られていると言ってよい状態だ。

 「調査報道」も度を越した部分があり、サンデータイムズなどの大手新聞が、大衆紙同様、探偵を使って、有名人のゴミ箱をあらしたり、盗聴手段を使って、スクープを探している。人に言えないような情報収集方法、違法行為が表ざたになると、実際に汚い仕事をしているのはフリーランサーだったり、探偵事務所の職員だったりするので、著名メディアは契約を切るだけで、自分たちは知らない顔をする・・・。

 という、読んでいて、本当に衝撃ばかりだった。ただ、最後の方は、どうも作者個人の利害というと変だが、ちょっと偏っている感じもしたのだけれども。この本を読むと、英メディアが全く違って見えてくる。シニカルになるし、暗くもなるが、読んでおいて損はないと思う。英国のメディアに関心があるならば、だが。
by polimediauk | 2008-08-07 05:43 | 新聞業界