熱い!エジンバラ・テレビ会議②TVオンデマンド市場のお金は?
昨年のクリスマス時からアイプレイヤーの本格的サービスの提供が始まり、1週間に100万人が利用している、半年間で1億万回の利用があったなど、大きな数字が広報部を通じてよく発表される。
しかし、オンデマンド市場(ビデオ・オン・デマンド=VOD)に非常に大きな輝く未来があり、既存のテレビはもう古い、とする昨今の英テレビ界の考え方はおかしいのではないか?と、メディアのコンサルト会社「デサイファー・コンサルタンシー」の経営者ナイジェル・ウオリー氏が、エジンバラ国際テレビ会議のワークショップで語り、目からうろこの思いがした。(「テレビのクリスタル・ボール」セミナー、23日)。
「ヤフーテレビの担当者の話を聞いていると、もうテレビは無視しろ、という。しかし、これまで10年間、『もう一つのテレビ』の存在とは何かを研究してきた自分からすると、実は将来は、古いと思われていたテレビにあるのではないかと思う」。
「オンデマンドが増えるので、今までのように、放送局が放送スケジュールを決めて、これを視聴者に与えるという形はだめだ、もう番組予定表は意味がなくなったと言われている。しかし、これも当たっていないのではないかと思う。テレビ受信機ではなく、PCで視聴者はテレビを見るのだとも言われているが、果たしてそうだろうか」。
「VOD市場のすごさを主張しているのは、メディア企業のIT担当者が中心となっている、番組制作者ではなく。これはまずい。VOD市場に何を出すかは番組のチャンネル編成者が管理するべきだ。こんなことが起きるのは、放送局の経営陣がITのことをよく知らないから。言われたままになっているからではないか」。
見に覚えがあるのか、「ニヤリ」とする人が何人か、参加者の中にいた。
ウォリー氏は続けて、テレビの画面の前に座って、「何か新しいものを見せてくれることを視聴者は待っている。『新しさの力』を忘れないようにしたい。テレビの前に座って、ある時間、番組の視聴に熱中するー『今この時』を熱中して見る楽しさは、例えばテレビでスポーツ観戦をする時の熱狂を思い出してもらえば分かると思う」。
また、「多チャンネルと言っても、例えば300チャンネルあったとしても、意外と人が見るのはいくつかのチャンネルに絞られる。結局は、クリエイティブな力の強い、いくつかの大手チャンネルが力を持ち続ける状態になるのではないか」と述べた。
BBCアイプレイヤーやアーカイブサービスの開発の中心人物になったのは、元BBCのアシュリー・ハイフィールド氏だった。最近、グーグルに転職した。しかし、同時に、BBC、民放ITV,チャンネル4が参加する、共同オンデマンドサービス「カンガルー」のプロジェクトのトップでもある。「人気がうなぎのぼりのVOD」というセッションに出てみた。
ハイフィールド氏によれば、3社の協力という形になったのは、ソニーのプレーステーションやアップルのアイポッド、あるいは衛星放送スカイ、アマゾン、BTなどのライバルに対抗するためだ。とても英国の放送局一社のみでは、こうしたライバルに対抗できないと思ったからだ。(日本の新聞社の共同サイトを想像させる動きだ。)
ところが、カンガルーは寡占市場を形成する可能性があるというので、今産業規制団体オフコムの審査が入っている。年内にもサービスを開始していたが、審査終了は11月中旬頃で、何らかの結論が出るのは1月中旬。そこで、もし承認されてもサービス開始はずい分遅くなってしまう。
カンガルーのビデオは大部分が無料で提供されるが、一部は有料となる。また、「BBC」と言っても、商業活動になるのでBBCワールドワイドが担当するそうである。詳細は「言えない」とのことで、ハイフィールド氏はあまり多くを語らず、だった。
このセッションには「BBCビジョン」のサイモン・ネルソンという人も出席し、いかにBBCアイプレイヤーが人気があり、すばらしいかを語った。このアイプレイヤーは国内のライセンス料支払い者ならば無料で使える。しかし、このサービスの開発と維持にはそれ相当のお金がかかっている。無料で提供しては資金が回収できない。だからカンガルーを通じて提供して元を取ろうというのもあるのだろう。
それにしても、BBCはテレビライセンス料の値上げ率が思ったほどではなかったので、コストカットをかなりする必要に迫られているはずだ。BBCのVODサービスは今のところ、「既に放送したものを、後で好きな時に再視聴できる」ものがほとんどで、いわば「2次使用」のためにたくさんの資金を使っている、ということはないのだろうか?番組の制作自体に回るべきお金がデマンドサービス拡大に使われている、ということはないのか?
BBCはでかくなりすぎたのではないかー?そんな疑問とやっかみと怒りを、他の放送局の制作者たちが時には壇上から、時にはちょっとした会話の中で声に出していた。(続く)