熱いエジンバラ・テレビ会議③岐路のITV
通信規制団体オフコムが、今後の公共放送(Public Service Broadcasting)のあり方について、9月中に報告書を出す。これを基にして、資金繰りの構成や番組編成の規則などが、近い将来、変わる見込みだ。
PSBは地上波の放送局全てが入る。例えばBBC、ITVネットワーク,GMTV,チャンネル4、ウェールズのS4C,ファイブ。(英国の公共放送はどうやって運営資金を得ているかではなく、公益のために存在する、の意味合いになる。)公共放送には様々な規制がつく。例えば番組全体に多様性があること、一定の割合の番組はオリジナルの番組であること、再放送の割合など。
ところが、運営資金にやや不公平感が出てきた。つまり、テレビライセンス料で毎年決まった額が入ってくるのはBBCだけで、他の放送局は主に広告収入など自力で運営資金を作らねばならない。これは公正ではないのではないか?つまり、視聴者から徴収するライセンス料は、他の公共放送局と分けてしかるべきではないだろうか?
「べき」論を棚に上げたとしても、多チャンネル化でライバルが増え、広告収入も景気の影響で減少しつつあるテレビ局にとって、「ライセンス料を分けてほしい」、でなければ、「番組構成への規制を取っ払ってもらい(例えそれで公共放送の枠から外されるとしても)、視聴率を上げられる番組の比率を増やしたい、負担が大きい地方ニュースの制作を全面的にやめたい」―と思うところが出てきた。
「BBCのライセンス料をこちらにも分けて」と願うのがチャンネル4で、「規制撤廃」を望んでいるのがITVである。
これに対し、BBCは、端的に言うと、「いやだ。自分のところのライセンス料を少しでも上げたら、こっちの質が落ちる」と突っぱねている。
23日の「PSBの見直し」のセッションには、BBCビジョンのトップ、ジェーン・ベネット氏、チャンネル4のトップ、アンディー・ダンカン氏、ITVの代表としては、BBCのラジオ番組(超人気の「イン・アワ・タイム」)のキャスターでも著名な、メルビン・ブラッグ氏などが出た。
チャンネル4のダンカン氏は「広告収入の減少は景気だけでなく構造的な動き。予算が少なくなれば、独自でオリジナルの番組作りができなくなる。チャンネル4の独自性が失われてしまう」とアピール。BBCのベネット氏は、「既にずい分コストカットをしている。ライセンス料の減少はBBCに不安定感をもたらす。これが番組作りに影響する」と否定的発言。
ITVのブラッグ氏は、ちょっと度を越したような熱心さで、「テレビ市場は完全に変わってしまった。大きな変化が起きている。これまでのようなやり方ではうまくいかない。公共放送であるということで、ITVはがんじがらめにされている。縛りをなくしてほしい。地方ニュースはコストがかかりすぎる。テレビで一番重要な部分は娯楽なのだ」と力説した。ITVのトップ、マイケル・グレード氏が同様の主張を何度もしてきたが、ブラッグ氏は、いつもの「イン・アワ・タイム」での落ち着いたキャスターぶりはどこかに置いてきたようで、オフコムの大批判を熱っぽく語っていた。
あまりにも人が変わったような強い口調で話すブラッグ氏に、「グレード氏からそう言われて、そのまま話しているのか、それとも本気でITVは公共放送枠から抜けるべきと思っているのか」と半信半疑で聞いていた。ブラッグ氏を見る、ガーディアンのデジタル部門のトップ、エミリー・ベル氏も段々眉をくもらす。ITVが公共放送でなくなるとしたら、これは非常に大きい。規制がなくなってしまったら、限りなく「商業化」し、商業上の利益を最優先した放送局になってしまうー。そんなことは公共放送が大きな位置を占める英テレビ界ではあってはならないことなのだ。
ふと、ブラッグ氏はもしかしたら本当に神経を病んでいるのではないかと思ったりもするほどだった。
しかし、ITVの数字を見ると、危機的状態にあるのは確かだ。
http://www.guardian.co.uk/media/2008/aug/07/itv.advertising
今年上半期で15億4000万ポンドの赤字で、9月の広告収入は前年同月比と比較して20%の減だそうだ。テレビ界全体では17%の減。相当厳しい状況にある。広告収入の減少傾向は来年も続くと見られている。
公共放送としての地位を維持するため(一定のニュース番組、宗教番組、ロンドンの外での番組作りなど)に、ITVは2億ポンドを使っているという。22日の会議初日のレセプションで、ITVのプロデューサーの1人が、「公共放送云々の話は、本当に簡単な話で、つまり、お金がないということ」と語っていた。
同日の別のセッション「ITVを救うには?」では、メディアコラムニストのスティーブン・ヒューイット氏をはじめ、パネリストの大部分が、「大メディア企業に買収される」案に賛同していた。「これしかない」(ヒューイット氏)と。(続く)