小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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すっかり変わった?GM食品に対する英国の意識

 リーマンブラザースが破綻し、英バークレズ銀行が一部の買収に名乗りをあげているという。米「フォーブス」誌によると、「まるではげたかのように」、というわけである。リーマンブラザースはソロモン・ブラザースやゴールドマンサックスなど、投資銀行としてかなり日本市場で利を得ていたのではないだろうか?今まで扱っていた顧客やファンド・資金はどこに、つまりのどのライバル社に流れるのだろうか?他者にとってはチャンス!ということになるのかどうか。サブプライムローンのネガティブな影響はこれからさらに大きくなるようで、NHKでも、元FRB議長グリーンスパン氏の「これからも悪化説」を紹介していた。次の米大統領にとっても、この問題をどう処理するかが大きな課題となるだろう。

 英国の話に戻れば、最近、「英国ニュースダイジェスト」に書いたトピックで、どうも世論の風向きが変わってしまったな、と思ったことがあった。一つはGM食品問題だ。

 GM(遺伝子組み換え)食品といえば、その是非に関し、大きく意見が対立するトピックだ。

英皇太子の発言で論争
 GM食品は「環境災害」か?

 
 「遺伝子組み換え(GM)食品の大量生産は、世界最悪の環境災害をもたらす危険がある」、GM食品を作る「多国籍企業による自然の実験は大きな間違いだ」―チャールズ英皇太子は、デーリー・テレグラフのインタビュー(8月13日付)の中で、GM食品を強く批判した。科学者の研究で自然の大地は大損害を受けており、食糧不足が起きる怖さも指摘した。「巨大食品企業」が食物生産を独占すれば、「犠牲になるのは世界中の何百万もの小規模農家だ」、「私たちは、食の安全保障に関して議論するべきだ」と。

 テレグラフ紙のウェブサイトには、読者からのコメントが殺到した。コメントの殆どは「良くぞ言ってくれた」、「皇太子の言う通り」という賛同の声だったが、多くの科学者や知識人からの非難も相次いだ。食糧生産への科学の関与そのものを否定するかのような発言に対し、「科学の効用を否定するとは、あまりにも無知だ」、「皇太子は金持ちなので、食糧不足に悩む世界の貧困層の気持ちが分からない」とする声が出た。

 このところ食費が上昇しており、将来の食糧不足も話題に上る。多くの科学者が、GM作物は、地球温暖化や人口の増加で予想される世界的食料不足を解決する唯一の道と考えている。皇太子発言はこの見方を真っ向から否定した。

 私はこの皇太子バッシングとも呼ぶべき世論の流れに(といっても国民の多くが本当に皇太子バッシングだったかというと、そうでもない感じがしたが)、驚いた。つまり、「英国は反GM食品」の国だったのに、と。政府や食品会社、科学者たちはともかくも、少なくとも国民のレベルでは、GM食品アレルギーが強かったはずなのに、と。何故皇太子発言への賛同の声が小さかったのだろうか?

―賛否両論のGM食品

 GM食品は遺伝子組み換え(生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などに組み込む)を利用してできた作物のうち、食用のものを指す。

 GM食品推進を巡っては、賛成派と反対派が大きく対立している。環境団体を始めとする反対派は長期的な人体や環境への影響に懸念を示す。賛成派は健康被害を及ぼす調査結果はまだ出ていないとし、GM食品は非GM食品と殆ど変わらず、人体や環境への影響も同じかあるいはより安全となる可能性もあると主張する。

 皇太子は環境保護、自然食品、有機栽培などに関心が高い。有機食品ブランド「ダッチー・オリジナルズ」を立ち上げ、別荘ハイブローグでも有機農業を実施。反GM食品の姿勢は一貫しており、デーリーテレグラフ紙に1998年書いた記事の中で、遺伝子組み換えは「神だけに所属する領域」に人々を連れてゆく、と評していた。

 私見を表明した皇太子の発言に非難の嵐が巻き起こったものの、GM食品や超巨大な多国籍企業ビジネスへの漠とした不安感は国民の大部分が感じていることでもあった。しかし、皇太子発言への国民の賛同発言は、どう見てもあまり表に出てこなかった。

 8月17日付けのサンデー・テレグラフ紙で、ウーラス環境担当閣外相は皇太子が「環境災害が起きるとするなら、証拠を示して欲しい」と迫った。科学者及び政府閣僚は「ずいぶん強気だなあ」と私は思ったものだった。以前は、GM食品に対するアレルギーが強い国民感情に配慮して、表立ってのGM食品推進はあまりなかったように記憶しているのだが。

 英国ではGM作物の商業栽培は認められていないが、2000年以降、政府はケースバイケースで試験的な栽培を認めている。皇太子発言は、食料危機を念頭に国民のGM作物への抵抗感を払拭させようとしている政府の努力に水を差す動きだった。

 GM食品・作物の良さを訴えようとする政府の作戦がどこまで国民に受けいれられたのか疑問だが、とりあえず、皇太子発言バッシングは盛り上がったのだった。

 皇太子発言バッシングの背景には、もう1つの理由があったのだと思う。それは、私の察するところ、「王室の人間が政治的な発言をすることに対する嫌気感」である。皇太子の母親となるエリザベス女王は、政治に一切口を出さず、自分の政治信条も決して外に出すことはない。努めてそうしているのである。

 皇太子はこれまでにも環境問題に関する積極的発言などでひんしゅくをかった(香港返還時に、中国の政治家などを蝋人形のようだと書いたという失態も)。「何も知らない王室の人間が、またおせっかいなことを言っている」という文脈でよくコメディー番組などでからかわれる。立憲君主制にいたるまでの歴史もあって、「王室は政治に介入せず」の原則を貫くのが良い、とされる。

 国際アグリバイオ事業団によると、商業栽培開始の1996年以降、GM作物の栽培地は年々増加し、2007年で1億1430万ヘクタールになった。23ヶ国で約5500万人の農業生産者が従事している。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7557644.stm

 (私自身のGM食品に対するスタンスを聞かれそうなので書いておくと、数年前までは反GM食品で、そういう視線で記事を書いていた。しかし、今となっては、非常にテクニカルな話になってきたような気がする。結局のところ、「誰にも分らない」し、「分らないからこそ慎重に」と前は書いていたのだが・・・。そのうちなし崩しになってしまうのではないか。今はチャールズ皇太子のように恐れがあって当然だと思う。どうしても政治問題化してしまう。)
by polimediauk | 2008-09-16 21:34 | 英国事情