BBC記者が見た福田元首相+インディー補足
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/from_our_own_correspondent/7637286.stm
日本の政治のトップが変わるという話は新しい指摘ではないが、まるで「カラオケ」のように曲目が矢継ぎ早に変わり、それに応じて歌い手もどんどん変わっていく・・・という比ゆがおもしろくも聞こえた。
しかし、注目なのは、日本の政治家が外国のメディアとどうつきあっているのかが分る、非常に貴重なエピソードを披露している点だ。
福田前首相の話になるのだが、2006年からBBC特派員として日本にいる記者に、ある時、いよいよ首相と一対一のインタビューの機会が巡ってきた。これまで、「日本を本当に動かしているのは政治家ではなく役人だと言われてきた」という記者が、これをしみじみと実感したのがこの取材だった。
首相の周りのブレーンは、福田氏が何か失言をしてしまうのではないかとかなり心配したようだ。取材日の何日も前から、インタビューではどんなことを聞くべきか、聞くべきでないかに関しての交渉が続いた。
取材当日、記者が取材用の部屋に入ると、スーツ姿の男性たちがたくさんいたと言う。この日、役人たちが福田元首相が話すべき内容として考えたのは環境問題だった。福田氏に話して欲しい内容を「テレプロンプター」(せりふを教える装置)に書き、これを取材者である記者の左耳の後ろの位置においた。これでは自然な受け答えには見えないとBBC側が指摘したが、意に介されなかった。また、インタビューの冒頭で福田氏が声明を読み上げることになった。BBC側はこの部分は放送されないと言ったが、それでもかまわないといわれたようだ。
福田氏が姿を表すと、すぐにインタビューが始まり(通常はインタビュー開始前にちょっとした会話をするのが普通)、氏はテレプロンプターに書かれた声明文を読み始めた。福田氏がまじめにやっているので、記者も一生懸命これを聞いたようだ。この部分は放送されないと分っていても、読むように言われたので読んでいるのだった。
記者は、ちょっとした遊び心から、質問の順番を変更して福田氏に質問をしてみたという。周りにいたアドバイザーたちのあわてた様子を記者は描写しているが、福田氏は動じることなく答え続けたと言う。
記者は、福田氏が「非常にインテリジェントな人物であることは確か」にも関わらず、まるで操り人形のようであったことで、「落ち込んだ」と書いている。
これはもしかして、文化の違い、ということもあるのだろうか?「正しくやろう」、「良いイメージを伝えたい」と思うあまりの行為、一生懸命さが逆にマイナスになってしまったということなのか?
しかし、結局のところ、慣れなのかな、とも思う。外国の報道陣に取材慣れしているかどうか。あるいは外国人とのつきあいがあるかどうか。(あまりびびらず、力まず、自然体でがんばって欲しいものだがー。)
―インディペンデント補足
インディペンデント紙には「あまり読むところがない(読みたい記事が載っていない)」という、メディア評論家ロイ・グリーンスレード氏のコメントや知人の感想について前回書いたが、(実は)こう感じるのは(もちろん)人による。
特に前の編集長サイモン・ケルナー氏の時に明確にされた・強調されたのが、インディペンデントの「オルタナティブな新聞」としての位置だ。発行部数が3倍以上あるテレグラフ紙に追いつき、追い越すことは最初から狙っていないだろうし(少なくとも今は)、「誰もやっていなかったので『ラジカル・レフト』という方向性を選んだ」(ケルナー氏談)インディペンデントは、それなりに健闘していたと思う。人権やマイノリティーに関しての記事は充実していると思う。頁数が多いというよりも、他紙がフォローしていない記事が載る。個人的に読み応えがあると思うのは、日曜版だ。寄せ集め、故意に脅そうとする記事(健康への脅威、薬が危ないなど)もあるが、他にはない視点の記事がある。取り上げる人物も興味深い人が多いように思う。
もともと、テレグラフにいた3人の記者が作った新聞だが、その中心となったアンドレアス・ウイッタムスミス氏によれば、きっかけは「テレグラフがあまりにもつまらなく、新しいことを何もやろうとせず、写真も冒険がなかった」ので、思い切った、斬新な、冒険心に富む、ジャーナリズムの質の高い新聞を作ろうと思ったのだと聞いた。その目的は大体満たされたと思うが、やはり長いこと、ずーっと冒険心を持ち続け、かつセールスも常に上々・・・というのは随分大変のようだ。
とある新聞販売店(ニューズエージェントと呼ばれ、雑貨屋のような感じだ)に日曜の朝、新聞を買いに行ったら、客の一人が店長と話していた。インディペンデントが大好きで、「これ一部を読んだら、もう他の新聞は読まなくてもいいくらい」と言っていた。「私も日曜のインディペンデント、大好きです。おもしろいですよね」と話がはずんだ。店長も私も、この客も有色人種だった。移民の視点から見たさまざまな問題、人種問題、人権問題などをよく掲載するインディペンデントのファンが集まった感じだった。ちなみに、先の「インディペンデントには読みたい記事がない」としたグリーンスレード氏も、同様のことを言った私の知人も「白人」・ミドルクラスの英国人だった。