小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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リーマンブラザーズの破綻と英国経済への影響


c0016826_22431063.jpg ・・・とタイトルに書いたが、私自身、実はこの先が分らない(分っていたら、今頃、大金持ちになっている)。このトピックについて、「英国ニュースダイジェスト」(ウェブでは30日発行)に書いたのだが、丁度1週間前に原稿を出してから、英住宅金融ブラッドフォード&ビングリーが国有化されてしまったし、米国では政府の7000億ドルの金融安定化法案を下院が否決してしまった。(後者は税金でなく、民間資金を使うべきというある米議員の映像が日本のテレビで出ていた。) 何だか世界中の金融機関の動きが恐ろしいまでにつながっていて(互いが互いのビジネスを保証していたり、債権を持っていたり、リスキーだがリターンも大きい金融商品を大量に保有していたり)、どの国もそれぞれに大きな影響が出てきそうだ。あまりおどかしたくはないが、良いニュースがない。右上の写真はエコノミストの表紙で、これも脅しっぽい雰囲気が出ている。

 東京・有楽町(日比谷)にある外国特派員協会の仮メンバーとなって仕事場を使っていたら、米系メディアに書いているA氏と再会した。「もうアメリカはこれで完全にだめになった。いつかはそうなると思っていたけれど、予想があたって悲しい」とA氏は話す。「アメリカにくっついていた国も影響が大きい。欧州、英国なんかもかなりひどい影響があるだろう・・」。次の日ぐらいにブラッドフォード&ビングレーの国有化の話が報道された。

 以下、自分へのメモ的意味もあって、「ダイジェスト」にまとめたものに若干付け足した。


米大手証券が破たん
―英経済にもその影響が


 アラン・グリーンスパン元米連邦準備金制度(FRB)議長が「100年に一度の出来事」と評する事態が、9月15日、発生した。創立から158年の歴史を持つ米投資銀行・証券大手リーマン・ブラザーズが破産申請をして破たんし、米証券第3位のメリル・リンチが第2位のバンク・オブ・アメリカに救済買収された。大手金融機関2つが、1日で消えてしまったのである。米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)も財政危機に直面し、米政府は巨額の公的資金注入を余儀なくされるに至った。

 金融不安の影は英国にも存在する。昨年来の米住宅市場危機を受けて住宅価格には下落傾向が続いており、サブ・プライムローンの焦げ付きが増えている。資金繰りが困難となった住宅金融大手ノーザン・ロックに取り付け騒ぎが起きたのはほぼ1年前だったが、今年2月には国有化されてしまった。同様に資金繰り困難とと噂された住宅金融大手ハリファクスを傘下に持つのが銀行大手HBOS。銀行大手ロイズTSBは、18日、金融懸念を払拭するための政府からの後押しもあって、HBOSの救済合併を発表した。

―リーマンとは

 リーマンは「投資銀行・証券会社」だった。改めて振り返ると、米国で第4位の投資銀行及び証券会社で、ドイツからのユダヤ系移民リーマン兄弟によって1850年に創立された。2008年9月15日、事実上の破たんとなった時の負債総額は6130億ドル(約64兆5000億円)で、米国史上最大の倒産となった。政府、法人、他金融機関などが顧客で、世界中で2万5000人を雇用し、英国では5000人が働いていた。日露戦争(1904年)の戦費調達に協力したこともある。

 1984年、クレジットカード大手アメリカン・エキスプレスに買収されたが、1994年に再度独立し、現社名に戻って再上場。近年では、ライブドアがニッポン放送に挑んだ敵対買収のための800億円の資金調達に関わったことで日本でも著名に。サブプライム・ローン問題での損失処理を要因として、今年9月、6―8月期の純損失が39億ドル(約4150億円)に上り、赤字決算となる見通しを公表。米財務省や連邦準備金制度(FRB)の仲介の下で複数の金融機関と売却の交渉を行ったが不調に終わった。

―英国への影響

 リーマンの破綻が世界的な金融不安として受け止められたのは、この投資銀行が世界中でビジネスを展開し、有価証券の発行などによる資金調達、M&Aの仲介、金利や為替等の金融派生商品を用いた財務リスクの回避などのサービスを提供していたからだ。その破綻は各国の金融機関や企業の経営不振につながってしまう。

 英国の銀行、年金ファンド、ヘッジファンド、一般企業もリーマンと様々な取引を行っていた。全取引の詳細を解き明かすには数か月以上はかかると言われている。リーマンが手がけた金融派生商品の規模は「誰も分らない」ほど巨額と見られ、取引相手は巨大損失を抱えることになる。損失がどれほどになるのか分らない現状では、銀行側が貸し渋りに走る懸念も大きい。

 英国民側からすれば、自分が加入している年金の投資パフォーマンスに影響が出たり、勤務する会社がビジネス不振に陥ったり、個人的にも銀行ローンが借りにくくなったりする可能性がある。過去9年間で最高となっている英国の失業率(5・5%)も上昇する、という予測が出ている。

 ブラウン首相は「世界は非常に速いスピードで変化しているが、グローバルな金融システムの統治がこれに追いついていない」と指摘し、何らかの形で「統治」の仕方を変えるべき、と述べた。言うには易しだが具体策と言うと米英の金融当局、政府首脳部も決め手がないようだ。19日までに米政府やFRBが提案した金融安定化策に市場は好意的な反応を示したが、「根本的な解決策ではない」とする批判も出た。先のグリーンスパン氏は「これからもっともっと悪影響が拡大する」と予測しており、金融不安はしばらく続きそうだ。

ー「米国=世界の金融センター」ではなくなる?

 特定の金融機関の破綻という観点にとらわれず、事態を大きく見れば、果たして世界の金融センターとしての米国の地位はもう消滅した、あるいは消滅して行くのだろうか?それと、実体がない言葉かもしれないが、マーケット至上主義=米国式というビジネスモデル(「モデル」?と言えるかどうかは?だが)はもう古くなったのだろうか?

 先のことは、現状ではまだまだ分らない感じがするが、FTのジョン・プレンダー氏が(シティーに関する著作多数)、大手金融機関は今後、一種のユーティリティーになるのではないか、という仮説を立てている(リーマン危機勃発直後のビデオ映像の中で)。つまりは、電気会社やガス会社の様に(こうした企業も民間企業となってはいるが)、公的サービスとして機能するようになるのでは、と。民間企業が利益至上主義でお金の貸し借りあるいは調達をする、というのではなく。あくまでも「仮説」であろうが、「市場に任せる・任せきる」のが果たしてベストかに関して大きな疑問符がついたわけだから、面白い仮説でもある。

 ・・・しかし、いずれにせよ、今のところは、とにかく「強欲」(グリーディー)という言葉が頭から離れないのである。

―世界の信用不安とリーマン破たん

2004年―2006年:米サブプライム・ローンの焦げ付きが増える
2007年4月―8月:サブプライム・ローンの危機が世界中に広がる
8月9日:仏投資銀行パリバの資金繰り難が表面化
9月:英住宅金融大手ノーザンロックの資金繰り難が表面化し、取り付け騒ぎに。
10月:スイスの大手銀行UBSがサブプライム・ローン焦げ付きで巨額損失を出す。米シティーグループ、米メリルリンチも同様の事態に
2008年2月:2007年の英国の差し押さえ住宅件数が過去9年で最高と判明。ノーザンロックが国有化へ
3月:米証券第5位ベア・スターンズが米銀JPモルガン・チェースに救済買収される。
4月:英中央銀行が信用収縮に悩む銀行に対し、500億ポンド(約9兆8000億円 )を支援する政策の詳細を発表
5月:今年1月―3月期で、英小売業、建設業界の倒産件数急増
7月:英商工会議所が英国が数ヶ月で景気後退に入ると予測。英住宅価格が1991年以来最大の下落
8月:英大手銀行HSBCの上半期の利益が前年比28%の下落
9月7日:米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)に米政府が公的資金注入を決定。
12日;米証券大手リーマン・ブラザーズの株価が年初来最高値から9割超安の3・65ドル(約389円)で終了。
14日:英銀大手バークレイズによる、リーマンの救済買収交渉が決裂
15日:リーマンが連邦破産法11条の適用を申請。メリル・リンチがバンク・オブ・アメリカに買収されることに合意。米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対し、連邦準備制度理事会(FRB)による最大850億ドルの融資が認められる。
17日:バークレイズがリーマンの北米の投資銀行業務と資本市場関連業務を買収することで合意したと発表。
18日:英銀ロイズTSBが、同業HBOSの救済買収に合意
21日:リーマンの欧州事業部門の破産管財人プライスウォーターハウス・クーパースがリーマンの米国持ち株会社に対し、米国に送金した80億ドル以上の移転資金を返却するよう要求
(資料:BBC他)

―世界全体での有価証券の評価損や、融資による損失

計上損失額:5000億ドル
推定損失額:1兆ドル
(資料:IMF、昨年の信用危機開始後からの数字)

―関連キーワード

INVESTMENT BANK:投資銀行。政府、企業あるいは超リッチな資産家に対し、有価証券の発行などによる資金調達、M&Aの仲介、金利や為替等の金融派生商品を用いた財務リスクの回避などのサービスを提供する。個人などから預かった預金を元手に企業に融資を行う商業銀行とは区別される。商業銀行はその収益の大部分を主に企業に融資して発生する利息に依拠し、投資銀行の収益は株式や債券の資本市場における発行時に発行額に応じて徴収する手数料による。(この部分、ウィキペディアによる。)
by polimediauk | 2008-09-30 22:47 | 英国事情