小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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(英サン紙の、有料購読をすすめる画面 ウェブサイトより)

 英国の大衆紙最大手サンが、8月1日からサイト閲読に有料制を導入している。さっと画面を見たところでは、お金を払わないと1本もまともに記事が読めない方式だ。

 サンを発行するニュースUK(旧ニュースインターナショナル社)は高級紙タイムズ、サンデー・タイムズも発行している。両紙がサイト閲読を有料化したのは2010年。サンの有料化はこの動きに沿ったものだ。

 サンのウェブサイトに飛ぶと、最初の月は、「サン+(サン・プラス)」を1ポンド(約140円)で閲読できる、という説明が出ている。2ヶ月目以降は、週に2ポンドを払う。年間契約にすれば、10か月分で1年間、閲読できる。サン+の購読者になれば、携帯端末(タブレット、スマートフォン)でも読めるようになる。

 英国では店頭で新聞を買う人が多いが、サンを小売店で買った場合、紙の新聞にサイト閲読用のコードがついてくる。これを入力して、サイト上で記事を読む仕組みだ。

 サンは読者をひきつけるために、サッカーのプレミアリーグの試合をサイト上で見れるようにしているほか、ほかのサッカー試合の動画や生情報をどんどん出してゆくという。スポーツ好きに焦点を絞った戦略だ。

 サンがプレミアリーグの動画を有料パッケージの中に組み込めるは、ニュースUKの親会社となる米ニュース社が英衛星放送BスカイBの株の一部を持っているためだ。BスカイBはプレミアリーグの試合の多くを独占生中継する権利を持つ。

 タイムズやサンデー・タイムズがネット記事の閲読を完全有料化したとき、ユニークユーザーの90%が減少したといわれている。

 ガーディアン紙に掲載された記事によれば、サンのデジタル・エディター、デレク・ブラウン氏は、サンの月間ユーザーは3200万人だったが、そのほとんどが「単に通り過ぎるだけ」の人たちだった。

 アナリストは有料購読者が30万人を超えないと赤字になると予測している(上記ガーディアンの記事)。

 電子版の有料化を率先して進めてきた英経済紙フィナンシャル・タイムズ(メーター制)は、現在までに、電子版購読者が紙版購読者数をしのぐようになっている。

 一方、英国の高級紙最大手テレグラフ紙はウェブサイトを英国外から利用する際に、月に20本までは閲読無料、それ以上は毎月1・99ポンド(約300円)という課金制(メーター制)を昨年11月から導入してきたが、今春からこれを国内の読者にも適用している。

 これで、ウェブサイトの閲読が過去記事も含めて完全無料なのは、英国の大手高級紙ではガーディアンとインディペンデントのみになった。

―増える有料制の導入

 ウェブサイト上のニュース閲読に課金する新聞社は、英国を含む欧州各国、米国でも増えている。米国では300紙以上が導入中と言われている。

 背景には新聞の発行部数の下落、インターネットでのニュース取得の常態化といったメディア環境の変化があるが、デジタル収入が紙媒体からの収入の落ち込みを挽回するほどには増えておらず、各国新聞界が本気で新たな収入源を模索している様子が見える。

 スイスでは、独語日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」が昨年、ウェブサイト閲読に有料制を導入し、今年3月にはそのライバル紙となる「タゲス・アンツァイガー」が有料制導入計画を発表。

 ドイツでは地方紙「シュヴァーバッヒャー・タークブラット」が3月からサイト閲読に課金制を導入。国内で課金方式を採用する35番目の新聞となった。「もはや新聞を無料であげてしまうわけにはいかない」)(同紙編集長、ドイツ新聞発行者協会のウェブサイトより)。

 ドイツの大手出版社アクセル・シュプリンガー社の全国紙「ウェルト」も昨年末から課金制を導入し、同社の大衆紙「ビルト」は6月から、無料と有料の記事を混在させる仕組みをスタートさせている。

 BILDPlus Digital がウェブ、スマホ、タブレットでの閲読用で月に4・99ユーロ(約650円)、電子ペーパー版を含むのがBILDPlus Premium で、月に9.99ユーロ。いずれも、最初の月は99セントという低い価格が設定されている。

 また、サッカーのブンデスリーグの試合ハイライトなどの視聴を含む特別なパッケージ(月に2・99ユーロ)も提供する予定だ。

 当初無料であったサービス(=ネット版の記事閲読)を有料にする場合、いかに利用者に納得してもらえるかが鍵となる。

 サンのプレミアリーグ動画の視聴が一つのやり方とすれば、発想の転換によるアプローチで成功したのが、フィンランドの大手出版社サノマ社の例だ。

 同社はスカンジナビア諸国で最大の発行部数を持つ日刊紙「ヘルシンギン・サノマット」を発行する。ネット版閲読に課金制を導入したのは08年だ。

 そのやり方は、ヘルシンギン・サノマットの紙版とネット版(パソコン、タブレット、携帯電話含む)の閲読をセットで提供する仕組みだ。

 セットの購読は年間340ユーロ(約4万3000円)。紙版のみは304ユーロだが、少しこれに上乗せするだけで閲読機器を選ばずに読める、として利用者を説得する手法を取った。39万人の定期購読者の中で、3分の1が前者を選択し、新たな収入源の柱となっている。

 一定のブランド力がないと課金制は失敗する。英国の地方紙発行元大手ジョンストン・プレスは思ったほどの購読者が集まらず、10年、課金制を撤回した。

 単独ではネット版課金を維持できないと考える出版者が複数参加し、1つの課金プラットフォームを作っているのが、スロバキア出版界の最大手プティット・プレスの経営陣が2011年5月に発足させたピアノ・メディアだ。

 利用者は週に小額を払い、参加している新聞社の記事をネット上ですべて閲読できる。現在までに、スロベニアやポーランドのメディアも参加するようになっている。

 ネットのコンテンツをお金を払っても読みたいと思わせるような仕掛け作りで知恵を競う時代となったが、英国で無料閲読を維持している新聞の1つがガーディアンだ。

 今後の方針について、アラン・ラスブリジャー編集長がGIGAOMから取材を受けている

 将来、サイト閲読を有料化するかどうかについて、ラスブリジャー編集長は「オープンだ」(決してしないとはいえない)と表明している。

 しかし、英国ではBBCをはじめとした放送メディアがニュースを無料で発信している。英語での情報もあふれるほどある。こうした多くのメディアが出す報道以上のものを、お金をとって提供できるのかどうかー?この点をガーディアンは考えなければならない、という。

 結論として、今のところ、「無料で行く」方針に変わりはないようだ。

 有料か無料かという二者択一ではなく、「良いジャーナリズムをどうやって発信するか」を第一に考えるという。また、中核となる読者は、おそらくお金を払ってでもガーディアンのウェブ記事を読んでくれるだろうが、「ガーディアンの記事は無料で出すべきだ」という思いが強いという。こうした読者の気持ちが、ガーディアンのネット記事の閲読無料化を支えている。

―グーグルニュースと戦うドイツ新聞界

 以前に、グーグルニュースと戦うドイツの新聞社の動きを紹介した

 グーグルニュースが、自分たちがお金をかけて作ったコンテンツを無料で利用している、だから何らかの見返りが欲しい、というのがドイツ新聞界側の発想である。

 今年3月、ドイツでは、新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作権法が成立している。報道機関は、1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持つ。

 8月1日以降、グーグルニュースに自社サイトのニュースを拾われたくない新聞社は、「オプト・アウト」(抜け出る)を申請することになっていた。

 しかし、今朝、どうなっているかを見ると、ほとんどの新聞社が「オプト・イン」(選択する)を選んでいる(AP電)。

 アクセルシュプリンガー社は1日、グーグルからニュースの使用料が支払われることを期待する、と表明しているという。

(新聞通信調査会「メディア展望」掲載の筆者記事を一部使用しています。)
by polimediauk | 2013-08-01 21:37
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(トラッキングをブロックするDisconnectのウェブサイトの画面)

 ウェブサイトを閲読したり、検索エンジンを使うことで、利用者についてのさまざまな情報が広告主に流れるーー私たちはこのことを承知の上でネットを利用しているが、「よく分からないままに、たくさんの情報がとられているようだ」と、少々の懸念を感じる人も増えている。

 特に、6月上旬のいわゆる「スノーデン事件」(元CIA職員エドワード・スノーデン氏が、米国家安全保障局=NSA=による大規模な個人情報の取得を暴露)以降、不安感を強める人が多いようだ。

 こうした中、一気に投資家の注目を浴びだしたのが、ブラウザーのプラグインとして使えるシェアウエアを提供する、米Disconnect(ディスコネクト、「切断」の意味)という名前のスタートアップ企業だ。

 米フォーブス誌の最新号に、このソフトを試したジャーナリストの記事が載っている。

 Disconnectをダウンロードすると、検索バーの中に、緑色の「D」という文字が出て、ウェブサイトが利用者の個人情報の取得をリクエストする数が出る。Disconnectはこうしたリクエストをブロックしてくれるのだ。

 ジャーナリストが2週間使ってみたところ、サイトを閲読する度に何件ものリクエストが出るので、スノーデン氏が言ったように、インターネットは「あなたを監視するテレビだ」ということを実感したという。

 100万人のユーザーを持つDisconnectのウェブサイトには「欲しくないトラッキングはクールじゃない」という文章が出ている。

―米FTCが「追跡しない」というオプションを依頼

 個人情報はいまや貴重な売り物になっている。

 米連邦取引委員会(FTC)は、ブラウザー企業、消費者保護団体、広告主に対し、ネットの利用者に「追跡しないで」(Do Not Track)ツールを使う選択肢を与えるよう求めているが、フォーブスの記事によれば、こうしたツールがどこまでをカバーするべきかについて、関係者間で意見がまとまっていないという。

 プライバシー保護ツールに注目が集まる中、同様のサービスを提供する企業も続々と出ている。

 記事の中で紹介されているのは、撮影した写真を一定の時間の後にネット上から削除するSnapchat,  個人のデータを外部に流れないように保管するPersonal.com、個人情報を暗号化するIPredator、専用のスマートフォンを使って電話、テキスト、電子メールなどを暗号化するSilent Circleなど。

 Disconnectでは、子供用のアプリを開発中だ。開発者は、スノーデン事件で悪名がついた米NSAに勤めていた人物だ。

 Disconnectの創業者の一人、ブライアン・ケニッシュ氏はかつて、ネット広告配信ツールの会社ダブルクリックで働いていた。個人情報を利用する側にいたわけである。また、グーグルでも働き、クローム拡張業務を担当した。

 ケニッシュ氏が懸念を持つようになったのは2010年だという。誰がフェイスブックの広告をクリックしたのかというデータをフェイスブック側が外部に流出してしまったのだ。

 そこで、ケニッシュ氏はフェイスブックに追跡されないようなコードを30分で作り、これを「フェイスブック・ディスコネクト」と名づけた。オンライン上で無料で配布したところ、2週間で5万人がダウンロードしたという。

 スノーデン事件を機に、ケニッシュ氏ともう一人の創業者ケーシー・オッペンハイム氏は、Disconnectをさらに大きくしようと、投資家に資金を募る予定だ。

―「利用者に発言権を持たせたい」

 ある投資家の一人は、「利用者がネットに残す足跡をすべて保存する必要ないと思う。これまでは、人は自分からはプライバシー管理について行動を起こさなかったが、今は違う」。

 一方、トラッキングをブロックし続ければ、デジタル広告市場に大きな影響が出ると指摘する人もいる。

 インターアクティブ・アドバタイジング・ビューローのマイク・ザニス氏は、「ウェブサイトに行って、広告を見るという行為はトレードオフ(交換)なのだと思う。もし広告をブロックしてしまえば、コンテンツを作っている人が飢え死にする」。

 ケニッシュ氏は広告のブロック自体が目的ではないという。それでも、「最近は広告の中に情報取得のリクエストが組み込まれていることが多いので、リクエスト全体をブロックせざるを得ない」。

 目指すのは「ウェブサイトと利用者、最終的には広告主との間に、会話の場を作る」こと。「どんなデータを取られているかについて、サイト利用者に発言権があるようにしたい」。
by polimediauk | 2013-07-31 17:08
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 英兵リー・リグビーさん(25歳)が、先週、ロンドン南東部ウーリッチの路上で男性2人に殺害される事件が発生した。発生から4日後の26日、殺害現場は家族連れを中心とした哀悼者が次々と訪れる場所になっている。

 複数の目撃者の証言によると、22日午後2時ごろ、リグビーさんは英陸軍砲兵隊兵舎に続くジョン・ウイルソン通りの近くで、男性2人に刃物で何度も刺された。その後、男性らはリグビーさんの身体を通りの中央部に移動させた。

 現在までに2人はナイジェリア系英国人のマイケル・アデボラジョ容疑者(28)と、マイケル・アデボエイル容疑者(22歳)と判明している。

 男性らは犯行後も現場を去らず、その一人は通行人に状況を撮影してくれるよう依頼し、イスラム教に由来するメッセージを語った。
 
 撮影された映像によると、アデボラジョ容疑者とみられる男は「われわれは戦い続けるとアラー(神)に誓う」と言い、「イスラム教徒が毎日死んでいる」と続けた。リグビーさんを「目には目を、歯には歯を」という復讐の意味で殺害したことを示唆した。手には血がつき、包丁を持っていた。

 14-5分後に現場にかけつけた警察官らが男性らに発砲し、2人は現在、命に別状はないが、別々の病院に収容されている。

 捜査当局はこれまでに、事件に関係があると見られる数人の男女を逮捕している。

―花束とメッセージがいっぱい

 26日昼過ぎ、ウールリッチ・アーセナル駅から歩いて数分の現場に行ってみた。

c0016826_1395554.jpg 殺害現場を訪れる人は、すでに置かれている花束や花輪、メッセージの数々の多さにまず息を呑む。私自身もそうだった。立ち止まって、一つ、一つを思わず読んでしまうのだ。

 大きな木の下の緑の芝生部分にもっともたくさんの花束が置かれていたが、そこに行き着くまでの通りの柵にも、メッセージ付のカード、写真、英軍関係者が残したと見られる国旗やTシャツ、英軍兵士の人形、ろうそくなどが、ところ狭しとなれべられていた。

 「ゆっくり休んでください」、「世界で最高の兵士だった」、「絶対にお前のことは忘れないよ」、「遺族の方の気持ちと一つになっています」―。手書きのメッセージが多くの花束に付いていた。

 しばらくして、警察官らが花束が置かれている場所からいったん退却してくださいと呼びかけた。遺族が自ら花束をささげたいので、という。みんなが退却してスペースをあけ、一般車の通行も一時停止された。

 20分ほど待っていただろうか。数台の黒塗りの車が通りに入ってきた。数個の大きな花束を持つ葬儀関係者らとともに、リグビーさんの義父イアンさん、母リンさん、妻レベッカさんなど数人が車から出てきた。レベッカさんはピンク色のぬいぐるみをしっかりと腕に抱いていた。2歳の子供はどこかに置いてきたのだろうか?

 イアンさんはリンさんを抱きかかえるようにして車から出た。

 家族らは当初、大きな木の下の壮大な花束の数々の横に、持ってきた花輪を置いた。しばらくじっくりとメッセージに目を通し、ほかの花束や花輪を眺めているようだった。見守る人々は、私も含めて相当な数に上っていたが音を出さず、静かな時間が過ぎた。

 家族は通りを横切り、別の花束の数々の陳列場所に向かって歩き出した。歩道に上る前に小さな段差があり、リグビーさんの母親リンさんがつまずきそうになると、聴衆から大きなため息が出た。転んでしまうのではないかとひやっとしたのだった。イアンさんがリンさんを抱きあげるようにして支えたので、転ばずにすんだ。

 こちらでもまた2つの花輪を置いた後、リンさんが感極まって、大きな声をあげて泣き出した。レベッカさんやほかの家族は輪になって互いを抱きあった。

 20分ほどの家族だけの時間が終り、来たときと同じように数台の車に乗って、去っていった。

 私たちは家族が残した花輪を一目見ようと、動き出した。花輪の1つには、「お父さんへ」とかかれたカードが添えられていた。その上には、赤いリボンがかかり、「夫へ」と書かれていた。

 せいぜい10メートルほどの通りは、いつしか、身動きするのがやや困難なほど、込み合ってきた。

 c0016826_142410.jpg通りの端で、シーク教徒の長老たちが数列になり、テレビカメラの前に並んでいた。シーク教徒の男性たちは頭にターバンを巻いているから、すぐ分かるのだ。

 そばに行ってみると、地元のシーク教徒団体の代表セワ・シン・ナンディズさんが話し出した。「今日私たちがここに来たのは、英兵士の死に追悼の意を表明したかったからです。世界中で英国の軍隊はすばらしい仕事をしています。シーク教徒も英国民として英軍の一員となってきました。先週の水曜日に起きたことは、どんな宗教的な理由からも正当化されません。ひどい犯罪です。これを私たちは絶対に許してはなりません」

 「テロに負けてはいけません。一番悪いのは、テロが起きたからといって、私たちの行動を変えることです。私たちは英国民として、今までどおりに、生きていきましょう。これこそがテロに勝つことです」。

 短い演説が終わると、聞いていた人々の中で拍手が起きた。ある男性が「良くぞ言ってくれた。良いことを言ってくれたよ」と声をかけた。

 テレビは衛星放送スカイニュースの取材陣だった。

 代表の隣にいる、数人のシーク教徒の人たちに、改めて何故来たのかを聞いてみた。

 「哀悼の意味があるが、同時に、シーク教徒をイスラム教徒と混同する人が多い。だから、今日ははっきりさせたかった」と一人が言う。

 2005年のロンドンテロ(イスラム教の過激主義に心酔したと見られる数人の男性たちが首謀者となった)のときも、「シーク教徒とイスラム教徒をいっしょだと思う人がかなりいて、私たちのモスクが攻撃を受けた」。現場の近くには信者が集まるモスクがあるという。

 「宗教は家に置いておくべき。プライベートなことだわ」と女性のシーク教徒の人が言った。

 BBCの報道によれば、22日の英兵殺害事件発生後、反イスラム教感情に根ざしたと見られる攻撃が起きている。イスラム教徒用ヘルプライン「フェイス・マターズ」は事件発生から3日で162件の被害報告の電話を受けたという。また、ソーシャルメディアではイスラム教やイスラム教徒を非難するコメントが相次いでいるという。
by polimediauk | 2013-05-27 01:43
 読売新聞オンラインのデジタル面に、毎週火曜、欧州メディアのデジタル事情について書いている。関心のある方はご覧いただければ幸いである。

 来週は、5月27日に発売される、「BIG DATA」(邦訳版「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」、講談社)の共著者の一人に、本の内容とビッグデータの扱い方を聞いた話を出す予定でいる。

(1)「データ・ジャーナリズム」で未来を予言?
(2)メディア・アウトソーシングの新たな波
(3)既存メディアへの五つの提言
(4)東欧発の人気サービス「ピアノメディア」とは?
(5)データエディターとはどんな仕事?(上)


***

 欧州新聞界の最近の傾向について、「グーグルとの付き合い方」、「無料紙」、「デジタル課金」をキーワードにして、隔月刊行の「JAFNA通信」(フリーペーパーの団体日本生活情報紙協会=JAFNA=発行)など複数の媒体に寄稿した。以下はそれに補足したものである。長くなったので、上下に分けている。

―グーグルから譲歩をひき出そうとする欧州メディア

 検索エンジンといえば、米英および欧州数カ国で圧倒的な位置を占めるのがグーグル。そんなグーグルに対する懐疑の目は、欧州で結構強いように思う。

 英国のメディアはどちらかというと、グーグルに自分たちのウェブサイトの記事を拾ってもらうためにはどうするか?を重視し、「どうせ駆逐できないのなら、協力してしまえ」という雰囲気を感じるが、ほかの欧州数カ国ではそれほど簡単に負けてはいない。

 昨年末来報道されているが、ベルギー新聞界はグーグルによる記事利用(グーグルニュースなど)に料金の支払いを求めている。2012年末、グーグルとの交渉で和解に到達。詳細は明確にされていないが、グーグル側はベルギーの新聞のこれまでの訴訟費用を負担し、かつ、500万ユーロ(約6億4000万円)分の広告を掲載するという。

 一方、フランスでは、今年2月、政府とグーグルが新聞・雑誌業界向けの支援基金を設置することで合意している。基金の規模は6000万ユーロ(約76億円)。この基金はフランスのメディアの電子化促進に使われる。

 フランスでは新聞界がグーグルによる検索の記事の見出しや一部の利用に対し、著作権の支払いを求めていた。これは実現しなかったが、グーグルからお金を引き出したという点では、フランス側のひとまずの勝利ともいえるのかもしれない。あるいは、著作権の支払いにならなかったという点ではグーグルが勝ったのかもしれない。玉虫色の結果である。

 3月には、ドイツで、新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作権法が成立した。「グーグル法」とも呼ばれている。報道機関は、1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持つ。

 交渉は難航した。改正法案支持の与党キリスト教民主党の政治家や新聞界に対し、成立すれば多額の支払いが発生することを懸念するグーグル側による反対派との間で、意見が拮抗したからだ。

 法案は3月1日、連邦参議院(上院)が可決し、22日に連邦議会(下院)での可決を経て成立の運びとなった。法案支持派は「骨抜きになった」と不満を漏らす。というのも、改正法は非営利目的で個人がニュースを利用する場合や引用が短い場合には適用されないからだ。一体、「短い引用」とはどこまでを指すのだろう?譲歩を引き出しはしたものの、これも玉虫色の印象が出た。ドイツ新聞界側もグーグル側も、どちらも「勝った」と主張できるのだ。

 ドイツ新聞界は上院での可決後、法案が成立すれば「自社で生み出したコンテンツのウェブ上での商業利用に初めて決定権を持つことができる」と声明文で述べた。出版社は「検索エンジンやニュースアグリゲーター(他媒体で作ったニュース・コンテンツを集積=アグリゲート=して独自のサイトを作る)と、どのような合意の下に商業目的のコンテンツを提供するかについて自由に決定できる」。上記の条件を考えると「自由に決定」とまで言えるかどうかは疑問なのだが。

 欧州新聞界の話からは外れるが、米通信社APが自社記事の著作権を侵害されたとして、ノルウェーのオンラインメディア「メルトウオーター」を訴えていた件で、ニューヨークの裁判所は3月20日、AP側の主張を認める判断を下した。大手検索エンジンのみならず、ニュース・アグリゲーターと新聞社などコンテンツ制作者側との戦いはこれからも続くかもしれない。

 英国ではドイツ新聞界のような動きはあまり表面化していない。ロイター・ジャーナリズム研究所の調べによると、1週間でどの媒体でニュースを得たかと聞かれ、「新聞」と答えた人がドイツでは68%、英国54%、米国45%。「ネット」と答えたのはドイツで61%、英国82%、米国86%、テレビがドイツで87%、英国76%、米国69%、ラジオがドイツで68%、英国45%、米国33%となっている。

 ドイツのメディア利用者は米英と比較して印刷媒体からニュース情報を取る比率が高い。これを強みとして、新聞界が検索エンジンと戦うことができるーという解釈もできそうだ。

―無料新聞の流れ

 有料で買う新聞の体裁を維持しながらも、広告のみで経費を負担する日刊「無料新聞」(フリーニュースペーパー、あるいはフリーペーパー)がスウェーデンで創刊され、欧州から世界に広がっていったのは1990年代半ば以降だ。欧州の無料紙市場は創刊ラッシュ、バブル崩壊、安定化という過程を経て現在に至る。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)の「世界新聞トレンド2012」によると、2011年、世界で約3600万部の日刊無料紙が発行されているという。

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(欧州無料紙市場の流れ:「ニュースペーパー・イノベーション」ピエット・バーカー氏提供)

―急激に拡大

 日刊無料紙「メトロ」がスウェーデン・ストックホルムで創刊されたのは1995年のこと。

 スウェーデン人のジャーナリスト、ペッレ・アンデションが「新聞は市民に討論の場を提供し、民主主義の核心につながる」という発想から、無料紙の発行を企画。投資会社キンネヴィークからの資金繰りで創刊を果たした。2000年からは同社傘下のメトロ・インターナショナル社(本社ルクセンブルク)が発行。12年にはキンネヴィーク社が投資規模を拡大させるために全株を取得し、現在に至る。

 メトロは欧州を中心にその発行範囲を拡大し、現在では欧州諸国のほかに北米、中南米、韓国、香港など世界23カ国・地域、150都市で840万部を配布する。1部を何人かが回し読みするため、1580万人を超える読者がいると同社は説明する。配布国の半分(11カ国)、配布部数の半分以上(471万部)が欧州だ。

 世界的金融危機の影響から08年には損失を出したものの、2011年には税引き後利益で2000万ユーロ(約24億5700万円)を達成した。近年は軸足を西欧諸国からロシアや中南米に移している。メトロとして発行していながら、所有者が変わった国もある(フィンランド、チェコ、ポルトガル、ギリシャ、ハンガリー、フランス、オランダ、デンマークなど)。

 スウェーデンのメトロに触発されて生まれた無料紙として、スペインでは「20 minutos(ミヌトス)」(「20分で読める」という意味、創刊1999年)、オランダでは「Sp!ts(スピッツ)」(同年)、英国では先のメトロとは別だが同名の「メトロ」(同年)などが先陣グループに入る。

 無料紙は駅構内のラックに積み上げられているか、入り口付近で配布員が乗客に手渡す形を取る。

 無料紙の発行は、

 ①大量の新聞を読み手に配布できる都市型交通機関

 ②これを利用する乗客=読み手

 ③毎日紙面を満たすほど集まる広告という3要素を持つ都市型ビジネスだ。

 ネットでニュースを読む人が増える中で、有料新聞の発行部数はどの欧州の国でも下降気味だが、駅内外で無料で配布される新聞はつい手にとってしまう人が多い。文章は簡素で、記事は短いものが中心となり、通常の新聞よりは読みやすいこともあって人気を博した。2007年ごろまで、欧州各国では無料紙の創刊ラッシュとなった。

 無料紙の市場参入に抵抗する国もあった。

 2002年、フランスでは出版労組員が無料紙の印刷を拒否したり、運送中の無料紙をセーヌ川や路上に投げ捨てる妨害行為が発生した。

 ドイツでは、1999年、ノルウェーのメディア大手シブステッドが無料紙「20ミヌーテン」をケルンで配布したが、大手新聞社数社が対抗する無料紙(アクセル・シュプリンガー社による「ケルン・エクストラ」、デュモン・シャウベルク社による「ケルナー・モルゲン」など)を発行した。2001年、負債を抱えたシブステッドが独市場から撤退すると、先の複数の無料紙は廃刊となった。

 オフィスビル、空港、航空機など一部で無料で配布される新聞はあるものの、ドイツには現在に至っても本格的な無料紙が発行されないままになっている。「新聞は買って読むもの」(ドイツ新聞発行者協会)という原則を貫いている。

 1990年代半ば以降はネットニュースの出現、拡大時期でもある。新聞社や放送局などのニュース・コンテンツの制作者側、そして新興検索エンジンなどが無料で読めるニュース・サイトを続々と設置した。無料新聞の拡大とともに、「ニュースとは無料で読めるもの」という概念が広まってしまったと筆者は見ている。

ー景気悪化、過剰供給から市場淘汰の波

 スウェーデン「メトロ」の創刊から18年経ち、ドイツを除く欧州各国では主要都市の駅前で複数の無料紙を配る配送員の姿が日常的な光景になった。

 無料紙の動向を記録するブログ「ニュースペーパー・イノベーション」によると、欧州での無料日刊紙の配布部数は12年末で約1600万部(27カ国、74紙)。日刊無料紙が国内で最多の発行部数あるいは最大の読者数を持つ新聞となっている国もある(スウェーデン、デンマーク、スイスなど)。2010年では、欧州の新聞発行・配布部数全体の15%を無料紙が占めた(同ブログ)。

 しかし、景気悪化による広告収入の減少や過剰供給による市場飽和などで、2006年以降、「無料紙バブル」は崩壊してゆく。英国の無料夕刊紙「ロンドンペーパー」(09年廃刊)、スペインの「ADN」(2011年廃刊)イタリア「City」(昨年廃刊)、オランダの「De Pers」(同)などが廃刊の憂き目にあった。

 06年、スペインの無料紙の部数は500万部に達し、有料紙も含めた日刊紙市場で50%以上を占めた(「ニュースペーパー・イノベーション」調べ)。36の無料紙が発行されていたが、12年、無料紙の部数は100万部(13紙)を切った。3大無料紙(メトロ、ADN、Que!)は廃刊となり、残る大手無料紙は「20ミヌトス」(67万部)のみだ。

 創刊ブームからバブルの崩壊まで栄枯盛衰はあったものの、無料紙が欧州新聞市場の一角を占めているのは事実だ。(「下」に続く。成熟した市場となった欧州・無料紙市場の今後と、「デジタル課金」と英国新聞市場を検証する。)
by polimediauk | 2013-05-24 17:42
 知人の藤沢みどりさんから送られてきた、『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の出版とイベントのお知らせです。ご参考までに。

***


 TUP速報の藤澤みどりです。大津波に続く福島第一原発の爆発を受けて2011年4月に緊急発 足した翻訳プロジェクトがようやく実り、 チェルノブイリ事故27周年の2013年4月26日に岩波書店か ら『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』が出版されました( わたしも校閲担当として参加しました)。
http://www.iwanami.co.jp/cgi- bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00- 023878-6

 本書の出版を記念して著者のお一人であるアレクセイ・ ヤブロコフ博士(ロシア科学アカデミー) の連続講演会が以下の日程で開催されます。 講演当日にはネット中継が入る予定ですが、お時間のあるかたはどうぞご参加ください。



<東京>
『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』刊行記念
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会
日時: 5月18日(土)午後6時30分~
会場: 星陵会館 http://www.seiryokai.org/kaikan.html
主催: チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクト
共催: ピースボート、グリーンピース・ジャパン、FoE Japan、グリーン・アクション、原子力市民委員会
協賛: 岩波書店
解説: 崎山比早子
司会: おしどりマコ
参加費: 1,000円(邦訳書持参の方は無料)
東京講演会の詳細はちらしをご覧ください。
昨年12月の脱原発世界会議2におけるヤブロコフ博士の講演もこ ちらでご覧いただけます。
http://chernobyl25.blogspot. co.uk/2013/04/blog-post_29. html


<盛岡>
公開講演会「チェルノブイリからフクシマへ--
原発事故の実情と教訓--」
日時: 5月19日(日)午後1時30分~
会場: 岩手大学工学部 テクノホール(工学部正門を入ってすぐ)
主催: 日本科学者会議岩手支部、 原発からの早期撤退を求める岩手県学識者の会
参加費:無料
盛岡講演会の詳細はこちらをご覧ください。
https://docs.google.com/file/ d/16mr4eZp8jZvyZqOJtAH_ hVHzWZlAnSUk09_ Vh3ODNBSZPL8TJGXrlSN3CFk6/edit


<郡山>
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会「チェルノブイリ被害の全貌~
福島への教訓」
日時: 5月20日(月)午後6時30分~
会場: 郡山市総合福祉センター5階集会室
主催: 「ふくしま集団疎開裁判」の会
参加費:無料
郡山講演会の詳細はこちらをご覧ください。
http://fukusima-sokai. blogspot.jp/2013/04/blog-post_ 19.html


<京都>
『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』刊行記念
アレクセイ・ヤブロコフ博士講演会「チェルノブイリから学ぶ」
日時:5月22日(水)午後6時15分~
会場:キャンパスプラザ京都
主催:京都精華大学人文学部細川研究室
協賛:使い捨て時代を考える会/安全農産供給センター
京都講演会の詳細はこちらをご覧ください。
http://www.greenaction-japan. org/modules/wordpress/index. php?p=649


<記者会見>
外国特派員協会報道昼食会: “Lessons from Chernobyl for Fukushima: Consequences for People and the Environment”
日時: 5月21日(火)正午~
会場: 外国特派員協会
主催: 外国特派員協会

by polimediauk | 2013-05-15 23:27
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(米ブルームバーグの情報端末画面を出す、英フィナンシャル・タイムズのサイト)

 世界中で使われている金融情報端末で著名な米ブルームバーグ(本社ニューヨーク)が、端末を利用するトレーダーや金融関係者についての情報(の一部)を、自社の記者が見れるようにしていたことが発覚した。ブルームバーグは経済・金融情報の配信とともに、通信社・放送事業も運営するので、報道の独立性に疑問が生じた。今後の調べにもよるが、顧客情報の守秘義務を破った可能性もある。

 米メディアの報道によれば、FRB(連邦準備制度理事会)が調査を開始しているという。

 以下、12日時点での話ということでお読みいただきたい。

 この事態を、10日、スクープしたのはニューヨークのタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」だ。ウオール街に「衝撃が走った」という( ニューヨーク・タイムズ、同日付)。 

 事件の経緯を「Market Hack」の編集長広瀬隆雄さんが詳しく書いている。

 「おっと、そのブルームバーグ端末を使ってヤバいメッセージを送らない方がいいぞ、『New York Post』によると、ブルームバーグの記者が覗いているから」

  ブルームバーグの企業倫理が問われている!

 簡単に経緯を振り返ると、米投資銀行大手ゴールドマン・サックスがブルームバーグに対し、情報が漏れていることへの苦情を伝えた。きっかけは、ブルームバーグの香港特派員がゴールドマン・サックス社に連絡を取り、同社の共同経営者がブルームバーグの端末をしばらく使っていないようだが、ゴールドマン・サックス社を辞めたのかどうかと聞いてきたという。これで、ゴールドマン・サックスのほうは、ブルームバーグの記者たちが本来は外部に(例えブルームバーグ内でも)出るべきではない情報にアクセスできることを知ったという。

 ブルームバーグのトップ、ダニエル・ドクトロフ氏は10日に社内に向けた電子メールの中で、顧客からの苦情を受けて、先月、記者による顧客情報へのアクセスを狭めたと書いた

 ブルームバーグは世界中に2400人ほどの記者を抱え、31万台を超える情報端末を販売している。1982年に現ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が創業した。昨年の収入は約79億ドル(約8000億円)。そのうちの約85%は金融端末からの収入だ。

 ニューヨーク・タイムズに語った、あるブルームバーグの元社員によると、ブルームバーグ社は1990年代初期、ニュース部門を強化するために端末からの情報を活用するように記者らに奨励したという。まるで営業員のように銀行やヘッジファンドの担当者に電話をかけ、端末の販売を促進させたこともあったという。

 懸念を示しているのはゴールドマン・サックスだけではなく、米銀JPモルガンも同様だ、と ニューヨーク・ポストが伝えている。

 トムソン・ロイター社も同様の金融情報端末を販売しているのだが、早速、声明を発表した。金融情報部門とニュースを発信する通信社部門とが「完全に独立して」運営されており、「記者が同社の顧客に関する情報に、公開されているものを除きアクセスすることはない、特に顧客によるわが社の製品あるいはサービスの利用状況についてはアクセスできない」という(ニューヨーク・タイムズ)。

 ブルームバーグの記者がアクセスできた情報は顧客情報全体のほんの一部で、「たいしたことはない、大騒ぎしすぎている」という見方と、「とんでもない!」という見方とがあるようだ。

―グーグルもやっている・・・?

 英フィナンシャル・タイムズの「アルファビル」というコーナーに、元ブルームバーグ記者のトレイシー・アロウェイ氏が記事を書いている。タイトルは「いかに顧客にスパイ行為を行っているか、ブルームバーグのやり方」だ。

 ブルームバーグに勤めていたころ、記者は「UUID」という端末IDを使うことができた。「金融情報の記事を書くときには、とても便利だった」という。

 先のニューヨーク・タイムズの記事からさらに詳しく使い方を見てみると、ブルームバーグの記者たちは「Z機能」を使うことができた。これで顧客のリストを見ることができた。その後、顧客の名前をクリックすると、UUID機能を使えるようになる。これによって、個々の顧客の連絡先、いつログインしたか、カスタマーサービス部門と利用者とのチャット情報、端末上のどの機能を良く使ったかなどを調べることができた。

 FTのアロウェイ氏によれば、ゴールドマン・サックスが事態を知って驚いたことは理解できるが、もっと驚いたのは「なぜ今まで明るみに出なかったか」。ブルームバーグに働く記者にとっては「利点だった」という。

 また、同社の内部データベースには金融情報サービスを利用する顧客の個人情報(連絡先)や子供の名前、好きな食べ物、趣味などの情報が入っていた。

 「ブルームバーグは金融情報端末市場をほぼ独占していた。その成功の理由には、利用者情報のデータマイニングの成果もあった」とアロウェイ氏。

 顧客情報にアクセスできることで、営業部門のスタッフはより顧客に合ったサービスを勧めることができたという。「しかし、商業部門とニュース配信サービスとの境があやふやになったことは問題だと思う」。

 個人的には、なぜこういうことが何年も当たり前になっていたのかが不思議である。社内で、という意味である。金融情報を売る側と発信する側の「ファイヤー・ウオール」のようなことがあるはずだがー?

 ただ、詳細が十分に分からない部分もあり、一概に「ダメ!」と言えないのかもしれないが、それにしても、ドキ!としてしまう。感覚的に、「やっぱり、これはおかしいだろう」と。当局の調査・捜査の結果を待つしかないが。

 FTの記事につくコメントが興味深い。「グーグルも同じことをやっている。グーグルメールの情報を見て、ニュースを作っている」、「顧客情報を見られていることをうすうす感じている利用者は多い。利用後に跡を消すようにしている」、「FTにも情報を利用されないよう、毎日、紙のFTを別の小売店で買っている」などー。

―ニューヨーク・ポスト?

 あくまで余談だが、このタブロイド紙はメディア王と呼ばれるルパート・マードック氏の米メディア大手ニューズ社が所有している。マードック氏には「敵」というか、ライバルがたくさんいる(マードック氏自身がいつかは自分の手中に入れたいと思っている相手、といってもいい)。一時、リベラル派の新聞ニューヨーク・タイムズの買収を考えたという(実現せず)。

 そして、良質なジャーナリズムを提供するニューヨーク・タイムズではなく、こんな大きなスクープを出したのは、普段はゴシップ記事が多いニューヨーク・ポストであった。「鼻を明かしてやった」という部分があるだろう。

 一方、ニューヨーク市長のブルームバーグ氏は、英FT紙の買収を考慮していると、昨年末報道された。質が高い英米の新聞を買おうともくろんだ・もくろむ人物同士であった。

 マードック氏にとって、富豪・政治の大物ブルームバーグ氏は「仮想敵」といってもおかしくはないだろう。マードック氏にとっては、ちょっと面白いというか、痛快なニュースになっているだろうことが想像できる。

 以上、余談でした。


―金融情報端末市場の戦い ロイターとブルームバーグ

 世界の金融業界で使われている情報端末で、かつて圧倒的な位置を占めていたのがロイター(今はトムソン・ロイター)製だった。(以下、週刊「東洋経済」に掲載された筆者アーカイブ記事に補足。)

 19世紀半ば、ベルギーのブリュッセルと独アーヘン間で伝書鳩を飛ばして株価情報を伝えたのがその始まりとなる老舗通信社の英ロイター。世界130カ国に2400人ほどのジャーナリストを抱えていたロイターは、自他共に認めるトップ通信社だった。

 しかし、ロイター・グループの収入源の大部分は、報道部門でなく、証券会社や銀行に設置するロイター端末機が稼ぎ出すプロ向けの金融情報サービス。業者間のシェア争いは激しく、ロイターがカナダのトムソン・フィナンシャルと合併してトムソン・ロイターになる前の2006年時点(合併は2008年)、巨大市場の33%を握っていたのがブルームバーグ。これにロイター(23%)、トムソン・フィナンシャル(11%)が続いた(「インサイド・マーケット・データ・リファレンス」調べ)。

 2007年5月、トムソンがロイターに対して買収を打診。拒否権を持つロイター株主がこの買収を認めた。08年4月、ブルームバーグを超える世界最大の金融情報会社トムソン・ロイター(本社ニューヨーク)が誕生した。現在、従業員は世界100カ国で約6万人に上る。

 バートン・テイラー・インターナショナル・コンサルティングの調べによると、2011年で金融データ・分析情報市場は250万ドルに達した。ブルームバーグとトムソン・ロイターはそれぞれ約30%のマーケットシェアを持つ。

―ブルームバーグの強み

 金融情報サービス業界の競争は熾烈で、単純計算で「世界最大になった」として安閑としてはいられない。

 もともとロイターは、90年代半ば頃までは金融情報端末市場をほぼ寡占。敵はダウ・ジョーンズくらいだった。ところが、米ソロモン・ブラザーズの債券トレーダーだったブルームバーグ氏(株式の大部分を保有)が80年代に創業したブルームバーグが急成長を遂げた。ブルームバーグ氏は現場を知るトレーダーとしての経験を生かし、使い易いシンプルな端末機を作り上げ、トレーダーからの支持を獲得したためだ。ブルームバーグは端末利用者同士で使えるインスタント・メッセージのサービス(「メッセージを送って欲しい」という時、「ブルームバーグしてくれ」という表現が流行ったという)など、新サービスを次々に投入した。市場の構図は一気に塗り替えられてしまった。

 今回の事件発覚で、ブルームバーグの端末を顧客がキャンセルする動きにまでつながるかどうかは不明だ。あまりにも深くその端末が市場に食い込んでいるからだ。
by polimediauk | 2013-05-12 21:57
 ローマ法王ベネディクト16世(85)が、11日、今月末で退位すると表明した。法王職は事実上の終身職で、自分から退位を申し出るのは約600年ぶりというから、驚きだ。

 高齢のために「心と体の力が任務に適さなくなった」と理由を自ら説明したという。8年間の在任となったベネディクト16世とは、どんな法王だったのだろうか?

 英メディアの報道を追うと、注目された事件として、2006年、イスラム教の教えを暴力と結びつけたビザンチン帝国皇帝の発言を引用し、世界中のイスラム教徒から反発を受けた件、聖職者による未成年者への性的虐待事件、さらに法王庁内の不正に関する内部文書が流出した事件があげられている。こうした一連の事件が、法王を心身ともに疲労させたのだろうか?

 ドイツ・バイエルン出身のベネディクト16世の本名はヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー。ナチスを嫌っていた警察官の父の下、司祭になることを願っていたが、14歳で、当時ドイツ国内で加入が義務付けられていたヒトラー青年団に入団。戦後神学校で学び、司祭になった。

 神学博士号を取得し、ミュンヘン大学などで教鞭を執った。2002年、主席枢機卿に任命、05年、先代のヨハネ・パウロ2世が死去し、法王選挙会(コンクラーベ)で第265代の法王に選出された。ドイツ人の法王就任は950年ぶりだった。「超保守派」と言われ、避妊、中絶、同性愛に反対の立場をとってきた。

―イスラム教徒を「侮辱した」発言とは?

 英国・欧州に住む身として、印象深い事件の1つは、英メディアも取り上げているが、06年のイスラム教にかかわる発言とその影響だ。

 当時、2001年9月11日の米大規模テロ発生から数年たち、イスラム教を暴力やテロと結びつける論調が米国のみならず、欧州でも高まっていた。

 世俗主義(宗教と政治を分離させる)が進んだ西欧諸国だが、過去にはキリスト教が何世紀にも渡って社会の中で中心的な役割を果たしてきた。

 増えるイスラム教徒の国民とのきしみが様々な形で目に付くようになり、オランダでは04年にイスラム教を批判する映画を作った映画監督が、白昼、イスラム教狂信者の男性に殺害された。06年年頭には、デンマークで、イスラム教の預言者ムハンマドなどを描いた諷刺画が世界中で波紋を呼んだ。

 2006年9月12日、ドイツの大学で行った、法王のレクチャーが世界のイスラム教徒たちの反感を買った。法王の発言内容と、その影響を私が当時、記録した文章からたどって見る。(名称の一部と日付は、06年9月当時のものであることをご了解ください。) 参考:レクチャーの英訳

 レクチャーのタイトルは「信仰、合理性、大学 -思い出と反省」である。

 「14世紀、ビザンチン帝国皇帝と知識層のペルシア人の男性との会話」を、法王はレクチャ-の中で紹介した。イスラム教や預言者ムハンマドに関して否定的な言葉を使っているのは、この皇帝だ。「14世紀の皇帝はこう言っている」と法王は言っているのであって、法王自身の思いを直接表現したのではなかった。

 皇帝は、宗教と暴力の一般的な関係について話し出す。ムハンマドがもたらしたものは「悪と非人間性だけだ」として、具体例として、信仰を「剣で(注:つまり暴力で)広げた」としている。

 暴力を使って信仰を広げることがいかに不合理なことか、と皇帝は説く。「神の摂理や自然の摂理は暴力とは相容れない」、「宗教指導者は、暴力や脅しを使わずに上手に話し、適切に説いて人を納得させるものだ」。

 「理性に沿って行動をしないと神の摂理に反する。これが暴力反対への根拠だ」と続け、「皇帝にとってはこのことは自明のことだが、イスラム教の教えでは、神は全てを超越するので、神の意思は、理性的活動も含め、私たちが考えるいかなる範ちゅうによっても制限されない」―。

 レクチャーから3日後の15日の夜、英テレビを見て反応を追った。24時間のニュース局スカイテレビは視聴者からの電話を受けつけ、そのBBC版は、イスラム教側、キリスト教側のコメンテーターを招き、意見を聞いていた。

 キリスト教側のコメンテーターは、「カトリック教のトップとして、自分が信じることを言ったまでだ。当然だ」と言い、ローマ法王庁が「イスラム教批判の意図はなかった」とするコメントを紹介した。

 イスラム教側は「ムハンマドと暴力のことを言うなら、なぜキリスト教の十字軍のことも同時に言わないのか。バランスがおかしい。したがって、イスラム教徒への攻撃だと言っていいと思う」。

―欧州とキリスト教

 今、欧州では、欧州=キリスト教文化、と言い切ってしまうことは一種のタブーとなっている。地理的にも欧州がどこからどこまでなのかが自明ではなくなっている。

 例えば、EUに加盟を希望をしているトルコ。国民の99%近くがイスラム教徒だ。しかし政教分離の国。トルコは欧州と言ってよいのだろうか?

 16日朝、BBCのTODAYというラジオの番組で、イスラム教学者タリク・ラマダン氏とウエールズのカーディフ大司教ピーター・スミス氏がインタビューを受けていた。

 以下は一問一答の抜粋である。

―レクチャーに怒りを感じているか?

ラマダン氏:怒りを感じない。全体の文脈の中で考えるべきだ。最善の言葉ではない、と思った。14世紀の言葉を引用している。こんなことをする正しいときではないし、正しいやり方ではない。私たちは落ち着いて、合理的にこの問題を考えるべきだ。法王はジハードなどの問題を問いかけている。もっと重要なことにはイスラム教の合理性と欧州の伝統に関して話している。ただ、やり方がよくない。

―(暴力を用いるジハードに対する)問い自体は正しいと思うか?

ラマダン氏:もちろんだ。イスラム教の名の下で、ジハードということで人を殺す人々が世界中にいる事態に、イスラム教徒たちは直面している。米国だけでなくイスラム諸国でも起きている現象だ。

 こうした人たちに対し、私たち(=イスラム教徒たち)は、ジハードは「聖なる戦い」でなく、抵抗のことであること、心の中の抵抗であること、抑圧されている状態での抵抗であることを明確にしなければならない。しかし、戦争の倫理性というのがイスラム教の中にあるので、これも説明しないといけない。それにしても、法王は、引用を使ってイスラムにはジハードの問題があると言っておきながら、何故そうなるのかなどを言わないので助けにならない。

―イスラム教を攻撃しているわけではない、ということを、法王がもっとはっきりさせるべきだったと思うか?

スミス氏:もちろん、イスラム教を攻撃していたわけではないし、それが目的ではなかった。

 レクチャーはかなり学問的だと思った。「信仰と合理性(faith and reason)」というのは彼が長年考えてきたテーマだった。私が見たところでは、数世紀に渡り、宗教のために暴力を使うことが正当化されるべきかどうかを議論していた、ということを指摘したかったのだろう。もちろん、結論は、「正当化されない」、ということだ。どの宗教にもいえることだが、もし合理性を失えば、信仰は暴力的、狂信的になる、と。

―前任の法王がイスラム教も含めた全ての宗教の信者とともに祈ったときに、現法王は複雑な気持ちを抱いていた、と聞く。また、まだ法王になる前、トルコがEUに入ることに反対していた、という。人々が法王の真意について疑わしい思いを抱くのも無理はないのでは。

スミス氏:不幸なことだ。彼には以前会ったことがあるが、正直な人物だ。ものごとをよく考えている。トルコのEUの件は、欧州の地理的な範囲を指していたのだろう。

―いや、欧州を地理的でなく文化的集合体と見ていた、と聞く。キリスト教文化のルーツがあるのが欧州、と言っていた、という。

スミス氏:法王は欧州に関していろいろ前から書いている。欧州はいろいろ変わったが、キリスト教的価値観に基づいて作られた。トルコや東欧はイスラム教的価値観が強い。法王が言いたかったのは、異なる文化の間で議論があるべきだ、ということだった。

―欧州の文化の議論についてどう思うか?

ラマダン氏:これは深い問題だ。法王になる前、欧州のアイデンティティーに関して(否定的な)態度を持っていた人物だ。

このレクチャーでも、もし宗教と合理性を切り離せば暴力に通じる、といっている。しかも、この箇所はイスラム教の伝統は合理性とつながっていない、と言った後に来る。

 これは一体どういう意味か?イスラム教は欧州の中心となるアイデンティティーの外にあるということか?トルコさえも、この伝統の一部ではないということだろうか?この見方は危険だし、間違っている。欧州はキリスト教の伝統だけの場所ではない。イスラム教の伝統も入っている。

―つまりあなたは、法王が、イスラム教が合理的な宗教でないと言っている、と見ているのか?キリスト教的見方からすれば、ということだが?

ラマダン氏:(そうだ。)法王は、キリスト教的伝統が合理性とつながっているほどには、イスラム教的伝統は合理性と結びついていない、と言っている。これは間違っているし、多元的価値の欧州の将来にとって危険な考えだ。イスラム教を合理性の範囲の外に置くことで、欧州の範囲の外に置いている。危険だ。

―同意するか?

スミス氏:ラマダン氏の指摘した点が重要だということは認めるが、意見には同意しない。欧州・キリスト教の伝統では哲学や神学は一緒に働くが、私の印象では、イスラム教の伝統ではそうはならない。

ラマダン氏:それは真実でなく、そういう印象がある、ということを言っているにすぎない。

―もし法王が、イスラム教が欧州の伝統の枠の外に存在し、宗教としては合理性とかけ離れている、と解釈しているとすれば、こちらの方がものすごく重要な問題だが。

 スミス氏:だから、私はその点ではラマダン氏の意見に合意しない。法王が言っているのは、2つの異なる宗教的伝統が発展してきた、と。現在のような政教分離の欧州の文化の中で、私たちがしなければならないのは、それぞれの文化や伝統が互いをどう見ているのかを理解することが重要だ、といっているのだと思う。

***

 17日オブザーバー紙の記事(「Pope Benedict’s long mission to confront radical Islam」)によると、「ベネディクト法王は、キリスト教徒とイスラム教徒の間の対話を心の底からすすめようとしている。しかし、テロの暴力と、一部のイスラム教徒の指導者たちがこれを支援していることが、対話の大きな障害になる、とも思っている」。

 「9・11テロの後の法王(当時はまだ法王ではない)のコメントが、こうだった。『このテロとイスラム教を結び付けないことが重要だ。関連付けは大きな間違いだ』とバチカン・ラジオに語った。しかし、その後すぐに『イスラム教の歴史には、暴力の傾向がある』と。」

 「『イスラム教には(暴力に向かう傾向を持つ流れと)、神の意思に完全に自分をゆだねるという流れがある。(後者の)ポジティブな流れを助けることが重要だ。もう一方の流れに打ち勝つ十分な力を維持するために』と」

 「現在の法王にとって、主な対決相手は、攻撃的なイスラム教過激主義と政教分離が進む西側社会だ」。

***

 法王は、2007年、就任後初めてトルコを訪れている。前年のジハード批判に反発するデモが発生したものの、トルコの政治指導部と会談。首都イスタンブールの「ブルーモスク」を訪問した後、正教会のコンスタンディヌーポリ総主教庁も訪れた。レクチャーでイスラム諸国から反発を食らったものの、キリスト教とイスラム教をつなぐための努力をしたのであった。

(このブログの2006年分の記録などから作成しました。)
by polimediauk | 2013-02-12 08:09
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 ロンドン・パラリンピックで、障害者をめぐる環境は変わるのだろうかー?これがパラリンピックの開催地英国で盛んに議論されるようになった。

 29日、開会式が開始される数時間前のイベントで、元パラリンピック参加者の男性と話す機会があった。

 聖火リレーを応援し、パラリンピックを盛り立てようというイベントには、パラリンピック関係者、英国の観光業関係者、文化フェスティバル運営者、メディアが集まった。

 体格のよい男性が、談笑の輪の真ん中にいた。濃紺のさっそうとしたスーツ姿で、少し日に焼けている。ストライプのシャツに水玉のタイも格好よい。

 アラン・ウェザリーさんは元パラリンピック参加者でロンドン在住。視力に障害があって、よっぽど大きな字でなければ読書は不可。紙に書かれた文章を読むには、片目のレンズがふさがれている特製めがねをかけて、紙に顔をくっつけるようにして読む。片目のレンズが曇りガラスのようになっているのは、「実際にほとんど見えないので、もう1つの見える目に集中するため」だという。

 ウェザリーさんを囲む数人はどのように見えるのだろうか?「大体の色や形は見えますが、細かいところまでは見えません。複数の色が手前にあって見えなくなるのです」。

―いつから視力に障害が出たのですか?

 ウェザリーさん:9歳からです。ある朝、眠りから覚めてみると、いろいろな色が眼前に見えだしました。それが今でも続いています。遺伝性視神経症という病気です。私の家族で目が悪い人はいないのですが。

 どんな影響があるかというと、文字を読むときは、目にくっつくほど近くに置かないと読めません。外を歩くときは、たくさんの色が一度に見えるので、周囲の状況の判断が難しくなります。ですから、杖を持って歩いています。

ーパラリンピック選手でいらしたとのことですね。

 英国代表陸上選手としてパラリンピックに参加したのは1980年で、1981年の視覚障害者が参加する欧州陸上選手権では100メートルで銅メダルをとりました。マラソンにも14回参加しています。10回はロンドンマラソンで、ニューヨークやボストンマラソンにも出ました。

 大学ではスポーツとレジャーを勉強しました。視覚障害者を助ける組織RNIBなどで働いた後、現在は児童や若者を対象としたスポーツ振興に力を入れています。

―いつからスポーツを?

 スポーツは10代のころから親しんできました。もっとも好きなスポーツは、視力障害者のテニス(ブラインド・テニス)です。いくつかの選手権のシングル部門で優勝もしています。

 2007年、日本から視覚障害のテニスの選手たちが来ました。そして、どうやってプレーするかを教えてくれたのです。私たちはとても感動しました。特に、全盲の故・武井さん(*武井実良さん、本名は武井視良さん)という日本の方です。特殊なボールの開発に大きな貢献をした、ブラインドテニスの創始者です。日本では、全盲あるいは視力に一部障害のある人が参加している、いくつものテニスクラブがあると聞いています。この中の人たちが英国に来て、私たちに教えてくれたのです。

 ここ4-5年、私は視力障害者のテニスをやっていますが、元は日本からやってきたボールを使っています。音が鳴るボールです。

 2010年、私は日本に行く機会がありました。日本のコーチや選手たちに会って、ブラインドテニスの教え方を学びました。

―今もテニスを楽しんでいるのですか?

 もちろんです。毎週金曜日にやっていますし、土曜日には北西部で選手権があって、勝ちました。

―ウェザリーさんは、一見したところ視力に障害があるようには見えません。どうやって日常生活を行うのでしょう。

 いくつかできることがあります。まず、私には視覚障害があるといいます。そして、助けを求めます。歩き回るときには杖を使っています。

 ロンドンがいいと思うのは、バス、電車などで説明の音声が出るようになっているところです。次がどこの駅かなどが分かります。駅員さんたちも、障害者をどう扱ったらよいのかを知っています。こうしたことで、助かっています。

 特殊なめがねを使って、字をものすごく顔に近づけないと見えません。ほかの人は私がこんなめがねを使ったり、杖を持っているので、ああ、と気づいてくれます。

 それでも、視覚障害があるということを随分と長く説明しなければならないときもありますよ。ほとんどの場合、皆さんは理解してくれているし、「何かできることはありませんか」と聞いてくれますが。

 今は、視覚を失うことへの理解が深まっています。英国では、視覚になんらかの障害を持つ人が200万人ほどいると聞いています。視覚障害について知ってもらうことが大切です。

 私がそのためにやっていることとして、例えば休暇で、美術展などに行くとしましょう。そこで、自分も含めた障害者のためにどんなサービスがあるかを確認するようにしています。

―パラリンピックに参加したくても参加できないほど重症の障害者がいると思います。自分にはできない、関係ないとして、疎外感を感じている人も多いのではないでしょうか?

 11日間にわたるパラリンピックは、確かにエリートの、トップの力を競うものです。しかし、私たちが忘れてはいけないのは、楽しめるスポーツやそのほかの余暇としての活動がたくさん提供されているということです。世界一を競うようなエリートスポーツができなくてもいいのです。

 今日も、聖火リレーがありますね。障害があっても、例えば参加することで、自分がパラリンピックの一部となってゆきます。

 障害の原因は病気や事故かもしれません、兵役によるものかもしれません。ゼロからの出発になります。周囲の支援と助けで、何かを成し遂げることができるようになります。

 私のメッセージは、何でも可能だということ。時として、少し違うやり方をしなければならないかもしれませんが、すべてが可能になるということです。

―意識を変える研修

 イングランド南東部で、「ウェルカム・オール(すべての人を歓迎する)」というサービスを提供する組織で働くリチャード・グレイさんも、イベントに参加した一人だった。

 グレイさんは、ホテル、レストラン、小売店などのサービス業や企業で働く人を対象に、「障害者に対する意識を高める」セミナーで教えている。

 そのプログラムを見ると、「すべての人が一人の個人である」「目に見える、そして目に見えない障害」「バリアを取り除く」などの項目が入っている。「温かく迎える」「車椅子を使う人への注意事項」「アクセスしやすい食サービス」なども。

 グレイさんによると、今のところ、教えるセミナーで「障害者」というのは「車椅子を使う人」を想定している。「将来的には、もっと広げないといけないんですが」。

 パラリンピックがあるということで、「2、3年前から、需要が急激に増えました」。来年以降は、「反動で減ると思います。また増えるとは思いますが」。

 セミナーに参加して、障害者に対する意識を変えてもらい、誰もがより生活しやすい環境を作るのが狙いだという。「セミナー参加者の反応は上々です」とグレイさん。自分がやっているからそんな答えが返ってくると解釈もできるが、実際に「たくさんのことを学んだという人が多い」という。

 しかし、「本当の問題は、こういうセミナーに来てくれないビジネスマン、ビジネスウーマン、経営者たちです。こうした人たちが大部分なのですから」-。

―善玉と悪玉?

 BBCの夜のニュース解説番組「ニューズナイト」では、自分自身が視覚障害者のピーター・ホワイトがパラリンピックと障害者の生活が変わるかどうかのリポートを行っていた。

 この中で、障害者支援の組織「スコープ」のアリス・メイナードさんは、「世間では、障害者は手当てを不当に受け取っているという悪いイメージがある。パラリンピック開催で障害者の世界が大きく変わるわけではないが、(政府による)障害者手当てのカットなど厳しい状態に置かれていることを分かってもらえるのではないか」という。

 障害者で女優のリズ・カーンさんは、「障害者が2つのグループに分離することを懸念する」という。「パラリンピック開催に向けて、素晴らしい競技を行う、人間を超えた存在=スーパーヒューマンとして障害者が描かれた。その一方で、障害者手当てを不当に受け取る悪いやつ、というイメージもある。大部分の人はどちらでもないのに」。

 メダル11個を獲得した、車椅子のタニー・グレイ=トンプソンさんは、「パラリンピックは、御伽噺の妖精の粉のようなもの。これがずっと続くわけではない」。閉会後に障害者をめぐる環境が大きく好転するかどうかについては、「議論の余地がある」。 

 しかし、パラリンピックは「人の心を広げると思う」とグレイ=トンプソンさんはいう。これまではネガティブなイメージを障害者に対して抱いていた人が、「こんな素晴らしいスポーツができる」という見方を持てるようになるからだ。

 これまで何度かパラリンピックの取材をしてきたホワイトは、「パラリンピックではいつも、障害者問題に焦点が当たる。でも、問題意識は時間がたつにつれて、消えてしまう」と述べて、リポートを終えた。

***

 (*ブラインド・テニスの発案者武井さんの話や発祥までの経緯は日本ブラインドテニス連盟のウェブサイトなどに詳しい。http://homepage2.nifty.com/JTAV/)
by polimediauk | 2012-08-30 19:10
 ロンドン五輪開催まで、あと2週間ちょっと。日本で「盛り上がっているかどうか」とよく聞かれたのだが、街中に行けば英国の国旗があちこちに出ているし、英国内の聖火リレーの様子もよく報道されている。テレビも特集番組が続々ではある。リレーの人気(私も近くに来たら、沿道に並ぶ予定)や、チケットの売れ行きはよい様だし、と。・・・これって、「盛り上がっている」ことになるのかな?

 誰と話すかにもよるだろうけど、「五輪?楽しみだね」っていう人は私の周りにはあまりいないけど、これには、もっと別なことにお金を使ったほうがいいんじゃないかとか、ロンドン市内の交通規制があったりすることで、不便になるからなどの理由があるだろうと思う。

 それでも、緊縮財政やいろいろな悪いニュースがたくさんある中で、自国で開催される五輪大会は明るい話だし、やはり、どことなく誇らしい気持ちも少しはあるのだろう。でも、誰しもが多かれ少なかれ「どっかで失敗する(へまをする)んだろうな」みたいなことを感じているだろうとも思う。

 新聞紙面では、五輪を批判するような記事が多い。いったん開催すれば、紙面は1面からスポーツ面まで、五輪(の賞賛)記事でいっぱいになるのだろうけどー。

 現地のニュースサイトのお勧めとして、

*私が時々書いている、「英国ニュースダイジェスト」のロンドン五輪特設サイト
http://www.news-digest.co.uk/london-olympics/
専用ツイッター・アカウント
@olympics_digest

*および「ジャーニー」

http://www.japanjournals.com/index.php?option=com_wrapper&view=wrapper&Itemid=1
その特集記事:ロンドン「十五輪」物語
http://www.japanjournals.com/index.php?option=com_content&view=article&id=2871%3Aolympic1&catid=72%3Asurvivor&Itemid=103
(この記事はなぜか途中のページに飛んでしまうので、必要に応じて、最初のページに戻ってお読みください。)

をあげておきたい。

***

 先月、「英国ニュースダイジェスト」に、五輪開催中のBBCの放送予定について書いた。以下のアドレスにきれいな表がついて載っているが、

http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/9113-london-olympics-tv-schedules.html

 以下は、若干補足した分である。

―すべての協議を生中継

 ロンドンは、7月27日から8月12日まで開催される第30回夏季五輪競技と、同じスポーツ施設を使って、8月29日から9月9日まで開催される第14回夏季パラリンピック競技の主催地となる。

 ロンドンが夏季五輪大会の主催国となるのは、19世紀末に始まった近代オリンピック(ピエール・ド・クーベルタン氏が創設、同氏については「関連キーワード」参照)の開始から数えると、1908年、1948年に続く、3回目。1つの都市が夏季五輪を3回開催するのは、ロンドンが初めてだ。

 そんな名誉ある大会を、「私たちの生涯で最大のスポーツ・イベントだ」と定義するのは、BBCの編集幹部ロジャー・モージー氏である(BBCウェブサイトより)。そこで、「視聴者が一瞬をも見逃さないような、競技報道を行う」と宣言している。具体的には、すべての競技を生中継するという。その放映時間はトータルで2500時間にも及ぶ見込みだ。デジタル時代の技術、メディア環境を使って、視聴者が「いつでも、好きなときに、好きな競技を視聴できるように」するという。

―ストリームや専用アプリも

 BBCの五輪報道の中心になるのは、テレビのチャンネルではまずBBC1だ。このチャンネルは原則として、常時五輪報道を行う。定時のニュース番組がはさまれた場合、補足する形でBBC2が五輪番組を放映する。BBC3も独自の五輪番組を常時放映する。

 BBC1がそのときに扱っていない競技を視聴したり、後で視聴したいときには、デジタル・テレビ用リモコンの「レッド・ボタン」を押し、BBCが設置した五輪専用の24の高品位画質のチャンネルの中から、視聴したい競技を選択する。有料テレビのスカイや、ケーブルテレビのバージン・メディア、あるいはフリービュー、BTビジョンなどの利用者は、こうしてオンデマンド視聴を楽しめる。

 ネットにつながっている、いわゆる「スマート・テレビ」やコンピューターを利用する場合は、BBCのスポーツサイト(bbc.co.uk/sport)が便利だ。サイトは競技の映像をストリーム放送する。生中継の動画は巻き戻しも可能で、競技の最初を見逃してしまった利用者に役に立ちそうだ。スマートフォン及びタブレット向けの専用アプリも用意されている。

 ラジオ好きの人には、五輪開催期間に限って放送される「ラジオ・ファイブ・ライブ・オリンピック・エキストラ」がお勧めだ。

 BBCはまた、「LONDON2012」という特設サイトが立ち上げ、五輪に関わるニュース、スポーツや芸術、地域の情報などを掲載している。開催まで待ちきれない人には、5月19日に始まった聖火リレーの様子を生中継しているウェブサイト(http://www.bbc.co.uk/torchrelay)はどうだろうか。

―パラリンピック放送はチャンネル4で

 夏季五輪後に開催のパラリンピックの放送は民放チャンネル4が担当する。「モア4」などのデジタル・チャンネルやオンライン・サイトを用いて、合計で150時間に上る競技の様子を放送予定だ。パラリンピック用サイト(channel4.com/Paralympics)では、競技の同時ストリーミング放送が視聴できるほか、全選手に関わる情報、パラリンピックで競われるスポーツの情報などを発信する。

 五輪開催中、デジタル時代のさまざまなツールを駆使した、「いつでも、どこでも」の報道を楽しめそうだ。

―関連キーワード:Pierre de Coutertin:ピエール・ド・クーベルタン

 近代オリンピックの創立者、フランスの教育者(1863-1937)。芸術家の貴族の家庭に生まれる。自らもボクシング、フェンシング、乗馬などのスポーツを楽しみ、1887年、スポーツ復興運動を開始。1894年、オリンピック競技大会復活会議を開催。1894年、国際オリンピック委員会の会長に就任。同年、近代リンピックの最初の大会がアテネで開催された。女性の競技参加に反対したため論争を招き、1925年、会長職を辞任。1937年、ジュネーブで死去。「参加することに意義がある」はペンシルバニア司教の講和に感化されたもので、クーベルタンが生み出した言葉ではないが、オリンピックによってスポーツを国際舞台の頂点に押し上げた功績は大きい。
by polimediauk | 2012-07-11 17:15
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 放送批評懇談会が毎月発行する、雑誌「GALAC」6月号に、海外メディア最新情報ロンドン編として、拙稿が掲載されています。

 http://www.houkon.jp/galac/index.html

 以前にこのブログでインタビューした、市民記者を使う「BLOTTR](ブロット)に加え、若者たちによる、一味違うニュースサイトの試みをいくつか紹介してみました。大きな書店さんにはあるかと思いますが、もしどこかで見かけましたら、ご覧くださると幸いです。

 6月号の特集は「震災1年をどう伝えたか?」です。NHKをはじめとした放送局の担当者が振り返り、東北地方のローカル局の担当者も執筆しています。

 ネット上ではマスコミに対する批判が結構あり、かつ、「テレビは面白くない」という声もずいぶん聞きますが、この雑誌を読むと、「こんなに面白いことがたくさん起きている」と感じ、いつも心強く思っています。テレビやラジオにがっかりしている人にも、お勧めの雑誌かもしれませんね、そういう意味では。
by polimediauk | 2012-05-17 00:08