小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:新聞業界( 281 )

(「新聞協会報]」10月18日掲載の筆者記事に補足しました。)

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ソーシャルをニュース源にする比率のトップはギリシャ
(ロイター、デジタルレポート)

 ソーシャルメディアー。日本ではいまだに、「一部の人がやるもの」という認識はないだろうか。市民レベルではそうではなくても、伝統的なメディア組織の中では、という意味でだが。

 インターネット上には、あふれるほどの情報が飛び交っている。ニュースメディアにとって、自社が発信するニュースをいかに読者に見つけてもらうかが課題となった。ソーシャルメディアを通じて読者とつながり、ニュースを「発見」してもらうことが鍵になる。

 英ロイタージャーナリズム研究所が欧米、日本、韓国など26か国で約5万人を対象に調べたところ、ソーシャルメディアでニュースに接する人は51%に上る(「デジタルニュースリポート 2016」)。ソーシャルメディアを「一部の人がやるもの」としていた時代は過ぎ去った。

 英国の主要メディアはソーシャルメディアの利用指針を定め、適宜更新している。

 BBCの指針(2015年版)は、ソーシャルメディアを「編集の仕事に欠かせない」ものと位置付ける。

 (1)視聴者は役立つ情報や価値のあるコンテンツを見つけられる

 (2)BBCは視聴者と簡単につながり、未開拓の視聴者にジャーナリズムを届けることができる

  のが利点だという。

[[image:image01|center|ロンドンの暴動をガーディアンは刻一刻と報じた(ウェブサイトより)]] 

 ソーシャルメディアを使ったジャーナリズムの事例としてよく知られているのが、11年夏にロンドンで起きた暴動をめぐるガーディアン紙の報道だ。

 当時、ポール・ルイス記者は暴動の発生から数日間、スマートフォンを使いロンドンの様子をツイッターで実況中継した。ほとんどガーディアンのオフィスには戻らず、目撃した暴動や人の動きを写真、動画も使い伝えた。自ら見聞したことをつぶやくだけでなく、他のフォロワーや他のメディア・アカウントによるツイートを再投稿(RT)したり、関連情報を集めるためにハッシュタグを使用したりした。

 ルイス氏のツイートはガーディアン紙による5種類の「ライブ・ブログ」に掲載された。数人のスタッフが刻々と事件の発生をつづる。社内の記者が原稿をまとめ、サイトと紙版の両方に記事が載った。

 事件発生の第1報をソーシャルメディアに出す手法は、英メディアでは主流となった。他社に後追いされる危険もある半面、情報の一部を出すことで読者の関心を引くことができるからだ。

 BBC、スカイニュース、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズ(FT)など大手メディアは、記者がツイッターで情報発信することを奨励している。事件の発生時には経過を刻々と報告するライブ・ブログを立ち上げ、記者のツイートをブログに盛り込む。

 同時に、番組やニュースサイト、紙面に記者や関連のツイートから得た情報を生かす。

 余談めくが、英メディアのソーシャルメディア使いを見ていると、日本の伝統的メディア組織の考え方とは違うように感じることがある。

 日本の伝統的メディア組織ではソーシャルメディアは読者=オーディエンス=誰かほかの人=がやっているもの、という感覚があるような気がする。「オーディエンス」の中に、自分が入っていないような。

 ところが、英メディアではメディア界で働く人自身が(その人も市民であるわけだし)ソーシャルメディアを使っており、オーディエンスの中に自分も入っている、という感覚がある。

 この差は結構、大きい感じがする。

==計測対象となるソーシャル==


 欧州のニュースメディアが近年力を入れているのが、閲覧者の行動分析だ。滞在時間のほか、読者への到達を示すソーシャルメディアからの流入率も重視される。

 編集局にはどの記事がどれだけネットで読まれ、どのソーシャルメディアを通じ自社サイトに流入しているかや、競合相手となるメディアの記事の動きなども表示するモニターが置かれる。分析には米チャートビート社などが提供するソフトが採用されている。

 FTは得られたデータを一覧表示し、編集・販売をはじめ全社的に共有する。

 ドイツのヴェルト紙は流入率、滞在時間など複数の項目を基に、記事ごとに点数をつける。その結果を毎朝、記者に電子メールで流す。

 「ソーシャルメディア・エディター」という編集職が設けられ、この人がチームのメンバーとともにニュースの拡散状況を追う。

 FTでは「オーディエンス・エンゲージメントチーム」が、ソーシャルを含むプラットフォームにどの記事をいつどう出すかを記者、デスクとともに決めている。チーム統括のルネ・キャプラン氏は、自社サイトへのアクセスが「20~30%増加した」と話した(15年11月18日付、英専門サイト・ジャーナリズムUK)。

 ヴェルトは閲読数の少ない記事をサイトの目立たない位置に移動させたりするという。一方で「重要な記事は、読者数に関係なく、目立つ場所に置く」ことで質を維持している。

 FTやデンマークのタブロイド紙エキストラ・ブラデットが記事を閲覧する時間帯を調べたところ、朝昼夜の一定の時間にピークがあり、端末の選択も時間により変わることが分かった。

 これは、真夜中の最終版に向け制作していた紙版の時代と、読者との関係が変わったことを示す。

 読者は好きな時に好きな場所で好きなフォーマットでニュースを閲覧している。

  デジタル・ファーストを実践する欧州各紙は「どのようにコンテンツを制作し、いつどう届けるかを考えて出す」方式に転換している。

by polimediauk | 2016-10-25 19:02 | 新聞業界
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「ワールド・プレス・トレンズ」を報告するペイレーニュ専務理事(WAN-IFRA)

 (新聞通信調査会発行の「メディア展望」9月号掲載の筆者記事に補足しました。)

 去る6月12日から3日間、南米コロンビアのカタルヘナで、世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)による第68回世界ニュースメディア大会が開催された(ちなみに、かつては「世界新聞大会」と称していた。「ニュースペーパー」が今は「ニュースメディア」に変わっている)。参加者は約700人のメディア幹部だ。

 大会のハイライトを紹介したい。

「自由のための金ペン賞」はロシアの新聞へ

 報道の自由を振興するために毎年贈られる「自由のための金ペン賞」。今年の受賞者はロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリ・ムラトフ編集長となった。ノーバヤ・ガゼータは、現在のロシアで権力者に対して批判的な報道を全国的な規模で行うことができる唯一の新聞と言われ、汚職、人権侵害、権力の乱用などについての調査報道で知られる。(英語版もある。)

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(ノーバヤ・ガゼータのウェブサイト)

 同紙は1990年、ムラトフ氏と約50人のジャーナリストが立ち上げた。「正直で、権力から独立し、質の高い」新聞を作るのが目的だった。創刊からこれまでに、報道の報復としてあるいは原因不明の理由で6人の記者が殺害されている。編集部員の多くが何らかの脅しを受けるのは日常茶飯事だ。最も著名な例がチェチェン問題を鋭く追ってきたアンナ・ポリトコフスカヤ記者の殺害だ。2006年10月7日、同記者は住んでいたアパートのエレベーターの前で射殺された。誰が射殺を命じたのかは分かっていない。

「ワールド・プレス・トレンズ」発表

 毎年大会開催中に発表される、世界の新聞界の状況をリポートする「ワールド・プレス・トレンズ」によると、世界中で紙の新聞を読んでいる人は約27億人。総発行部数(7億1878万部)は前年比で4.9%増加し、5年間の比較では21・6%増。これはインド、中国他のアジア地域での増加が貢献しているためだ 識字率の向上、経済成長、1部売りの価格の安さなどが理由だ。世界中で発行されている紙の新聞の中で、インドと中国の2カ国での新聞の発行部数が占める割合は2015年で62%に上る。前年は59%だった。

 地域別にみると、アジアでの部数は前年よりも7.8%増。ほかの地域はすべて減少した。

 減少率の低い順から見ると、北米(2.4%減)、ラテンアメリカ(2.7%減)、中東とアフリカ地域(2.6%減)、欧州(4.7%減)、オーストラリアとオセアニア地域(5.4%減)。5年間の比較で見ると、アジアは38.6%増であったのに対し、中東とアフリカ地域は1.2%減、ラテンアメリカが1.5%減、北米が10.9%減、欧州が23.8%減、オーストラリアとオセアニア地域が22・3%減。

 増加組のアジア地域と減少の度合いがきつい欧米+オーストリア・オセアニア地域との落差が激しい。

 2015年における世界の新聞社の総収入(広告と購読料の合算)は推計1680億ドル(約17兆円)。前年より1.2%減、過去5年間で4.3%減となった。14年に続いて購読料収入(900億ドル)が広告収入(780億ドル)を上回った。今後も前者が上回る傾向が続き、その差はどんどん開いてゆく見込みだ。

 新聞社の収入の92%は紙媒体から生じている。世界の7つの大きな新聞市場は米国、日本、ドイツ、中国、英国、インド、ブラジルで、この地域の国の収入が全体の半分以上を占め、日刊紙の発行部数の80%を占める。

 比率としてはまだ微少だが電子版の売り上げは二ケタ台の伸びを見せた。2015年(30億ドル)は前年より30%増、5年間では547%増だ。多くの地域で、紙媒体の発行減で失われた収入を補填するところまで来ている。調査対象となった国の中では、5人に1人がオンラインニュースを有料で購読していた。

モバイルへ

 2015年、世界のスマートフォン出荷量はこれまでで最高記録の14億台に達した。世界の人口の30%近くがスマホを所有している。

 モバイルの成長はニュースメディアにとって大きな機会となっている。米国では80%が、オーストラリアやカナダでは70%がデジタル機器でニュースを読む。米新聞協会の調べでは、米国で新聞をデジタルで読む人の半分がスマホやタブレットなどをデジタル機器で利用している。

 コムスコアによると、米国のデジタルメディアの首位10サイトで37%のオーディエンスがモバイルのみでアクセスしており、31%がモバイル及びデスクトップでアクセスしていた。フランス、ドイツ、日本、オーストラリア、カナダでは、成人人口の3分の1がモバイルでニュースに接しており、この比率は急速に伸びている。

 デスクトップを使うオーディエンスは継続して減少している。米国、カナダ、英国、イタリアではスマホを使ってネットを利用する時間がデスクトップを使った場合の時間を超えている。

 スマホやタブレットがより利用されることになったことで、データを利用するサービス、例えば動画視聴が増えている。シスコが予測したところによれば、2019年までにモバイルによるデータ利用は年間66%増加する。16歳から34歳では95%が動画を視聴し、55-64歳で10人中8人が動画を視聴する。

 フェイスブックで動画を視聴する人は世界で90億人、スナップチャットでは80億人、ユーチューブでは40億人に達している。

 米国でアプリ利用の75%はモバイル機器による。コムストアによれば、トップ5のアプリが利用者の滞在時間の88%を占めている。スマホ利用者の大部分はソーシャルメディアやエンタテインメント関連のサイトに時間を使っている。

広告市場は

 新聞のデジタル広告の収入は全体からするとまだ小さいが、2015年(93億ドル)には前年比で7・3%増加している。5年間の比較では51%だ(PwCグローバル・エンタテインメント・アンド・メディア・アウトルウック2016-2020による)。

 デジタル広告収入の拡大で最も恩恵を受けるのは、相変わらずソーシャルメディアやテクノロジーの会社だ。グーグルが最大で、検索やユーチューブの収入を合わせて670億ドルを稼ぐ。

 フェイスブックの広告収入の80%(約130億ドル)はモバイル機器から生じている。中国ではTencentやBaiduが圧倒的な位置を誇る。

 2015年、すべての業界のネット広告の収入は1700億ドルに上ったが、世界中で広告ブロックを使う人が増えており、今後どのように推移するかその先行きは不透明だ。

 広告ブロックについての調査会社ページフェアによると、モバイル・ウェブ上で広告をブロックする人は4億1900万人に上る。これは19億人のスマホ利用者の中で22%に当たる。2015年、モバイル広告のブロッキングは前年よりも90%増加した。

 プログラミング広告は急速に伸びており、欧米などの成熟した市場ではデジタル広告の半分が自動的にトレードされるようになっている。WAN-IFRAは警告を発している。自動トレードされる広告は出版社、消費者、広告主に恩恵をもたらすかもしれないが、アルゴリズムの生成には信頼性、文脈、設計に考慮すること、質を高めることが重要だ、と。そうでないと、ブランドに損害を与え広告価格を下げることにもなりかねないからだ。

 世界の広告市場を媒体別に見ると、最大はテレビの37%。これに続くのがデスクトップやモバイルのインターネット(30%)、新聞(12.7%)、雑誌(6・5%)、戸外及びラジオ(0.7%)、映画(0.6%)の順となった。

 紙媒体の広告収入は世界全体で7・5%減少し、5年間の比較では24%減。1990年代半ば以降、ネット広告は紙媒体の減少を補う形で伸びてきた。2015年には前年比18.7%増、5年前からは102%増。

 紙の新聞の広告収入が増加したのはラテンアメリカのみ(0.3%増)で、他の地域はどこも減少した。オーストリア・オセアニア地区(15.5%減)、アジア大西洋地区(9.7%減)、北米(7.2%減)、欧州(6.2%減)の順となった。

 ニュースメディアが生き抜くにはどうするか。

 WAN-IFRAのヴィンセント・ペイレーニュ専務理事は「多様化」を挙げている。具体的には広告主への投資(広告主とともにより訴求力の高い広告を作るなど)、電子コマース、イベント事業を行う、メディアやオンラインのスタートアップ企業を買う、など。

生き残りへ社内改革を推し進めた仏ルモンド

 フランスの左派系夕刊紙「ルモンド」(1944年創刊)は、2010年、破たんの間際まで追い込まれた。メディア環境の激変に対処できず、負債が1000万ユーロ(約11億円)に膨らんだが、ラザード銀行の銀行家マチウス・ピガッセ氏、ネットビジネスで財を成したザビエル・ニール氏、イブ・サンローランの共同経営者であったピエール・ベルジェ氏が新たに投資をすることで生き延びた。

 ルモンドグループの社長となったのがルイ・ドレフュス氏だ。「イノベーションの機運を取り入れる」、「才能ある編集スタッフに投資する」、「新たなデジタル戦略を導入する」を柱として、新規まき直しを開始した。

 2011年以降、ルモンドはいくつもの新しい製品、パートナーシップ、イニシアティブを繰り出してきたが、鍵はスピードだった。かつては新たな取り組みを行うのに数年かけていたが、今は3か月単位で考えている。

 オフラインの新たな試みの1つは2014年から始めた「ルモンド・フェスティバル」。読者が編集スタッフと触れ合う場を提供する。様々なテーマについてのディベートが行われる。

 世界ニュースメディア大会で注目されたツールとして、動画、VR(バーチャル・リアリティー、仮想現実)、メッセージ・アプリがあった。

 動画活用については、最も成長度が早いウェブサイトの1つと言われるRefinery29がその実践を紹介した。

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(「Refinery29」の画面)

 Refinery29は2005年に米国で発足し、現在は毎月、2000本を超える記事を掲載する。ウェブサイトへの月間ユニークビジター数は2500万人。モバイルを含めたすべてのプラットフォームでは1億7500万人。電子メールの購読者は200万人だ。

 収入源はブランド品のスポンサー広告が主だが、「ファッションブランドを売るためのサイト」という定義をはるかに超え、女性たちの意識を変えるサイトとして成長している。内容はファッションや美容以外に環境、政治、女性問題、ヘルス、スポーツ、エンタテインメントと幅広い。昨年11月には英国版、今年6月にはドイツ語版をローンチした。フランス語版の開設も視野に入れる。昨年の総収入は8000万ドルを超えた。

 ブランド情報の拡散には「インフルエンサー」を使う。これはソーシャルメディアを通じて情報を拡散する影響力がある人物のことで、Refinery29は一定の報酬を支払っている。

 動画ブームが続く中、Refinery29の動画担当者は「あまり人手もお金もかけずに取り組みたいメディアへのアドバイス」を披露した。

 「鍵はなるべく簡単に自前でやってしまうこと、既存のツールやプラットフォームがあれば、それに乗ること」。

 最初の頃の動画の1つは、スタッフがスケートボードをする様子をほかのスタッフが撮影し、アップロード。「すでにある機材を使って作った。特に品質が高いものでなくてもよかった」。動画は記事に付随した形で制作し、動画の後に記事のアドレスを付けた。フェイスブックのインスタント・アーティクルズにも参加。「特にマーケティング費用を使って宣伝しなくても、検索のアルゴリズムが宣伝してくれる」。ツイッターやメッセージ・アプリ「スナップチャット」の「ディスカバー」チャンネルにも参加している。

次はVRやメッセージ・アプリ

 VRを利用したジャーナリズムについてのワークショップやセッションに参加してみた。

 スマートフォンを段ボール製ビューアーにくっつけて360度画面を体験するワークショップでは、「ジャーナリズムにどう使えるのか、まだはっきり見えない」などの意見が出た。ワークショップのオーガナイザーによると、「VRは実験段階にあり、何をやってもよい」、「どんどんトライしてみるべきだ」という。

 メッセージ・アプリや「ニュース・ボット」(自動的にニュースを収集して配信するプログラム)の活用例も複数のセッションで取り上げられた。

 モバイル・アプリの利用が盛んなブラジルでは、メッセージ・アプリ「ワッツアップ」に対応していない新聞社はないという。

 「メッセージ・アプリを通じて読者にリーチしないと、新聞社は生き残れない」(教育プログラム「ナイト・センター・フォー・ジャーナリズム・イン・ザ・アメリカス」の創始者ローゼンタール・アルヴェス氏)。

 ソーシャルからメッセージ・アプリへ。これからのジャーナリズムの形が見えてきた。

****補足です****

メディア展望」9月号に拙稿以外に興味深い記事がたくさん掲載されています。
 
 例えば「パナマ文書取材の舞台裏」では、この報道にかかわった共同通信の澤康臣記者の講演記録が出ています。

 掲載から1か月を少し過ぎますと、ウェブサイトからダウンロードできますので、アーカイブ号も含め、ご覧ください。

 



by polimediauk | 2016-10-02 20:00 | 新聞業界

昨年末、日本経済新聞社の傘下に正式に入った英フィナンシャル・タイムズ(FT)グループ。英国の経済・金融専門紙として長い間読まれてきたFTのジャーナリズムとは、一体どういったものなのか。

拙著『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社、今年1月出版)の執筆のため、FTのジャーナリストや関係者複数に「FTのジャーナリズムとどういうものか」を聞いてみた。インタビューの一部は本の中にコメントとして入っている。

今回は金融コラムニスト、ジョン・プレンダー氏に聞いた話を紹介したい。

(上)はこちらから

***

ーどうやって質の高いジャーナリストを雇用できているのか。

質の高い記事を書くジャーナリストになることが尊敬に値する仕事だと思われており、大学でもジャーナリストになりたい人がたくさんいる。経済に特化したFTには優れた人材が集まってくる。金融街ですでに働いていた人やシンクタンクで働いていた人もいる。

―プレンダー氏の場合はどのような形で入ったのか。

入社以前にジャーナリストとしての経験があった。ニュース週刊誌「エコノミスト」の金融エディターだったし、その後は外務省のエコノミストだった。

最初はFTの社説を書くために入った。その後は論説を書いた。

―当時から、記事はすべて署名記事

社説以外はすべて署名記事だ。署名でないのはエコノミスト誌ぐらいだ。

―経済専門紙としてのFTで働く記者には、いろいろな情報が集まるだろう。特定の企業からの情報提供もありそうだ。様々な誘惑に負けずに、真実を書くという行為を全うする秘訣は何か。

心の持ちようだと思う。

―情報源との距離の取り方について、社内規則のようなものはあるのか?

利害の衝突がないようにという規則は確かにある。もしある企業の株を持っていたら、その企業について記事は書けない。

最も重要なのは独立しているという気持ちの持ちようだ。特に大企業や金融業界から独立していること。

ジャーナリストであれば本能のようなものを共有していると思う。ジャーナリストを目指すのは何が起きているかを探索してみたい、調査してみたいという気持ちがあるからだ。ビジネスに対しては懐疑心を抱く。

例えば、自分は今は論考記事を主に書いているけれども、以前は調査報道をやっていた。その1つが2000年代初期の米GE社についての記事だ。財務諸表を見ているうちに、子会社が資本不足になっていることに気付いた。危ない状態だった。これを記事化すると、企業側は非常に憤慨した。

私が言いたいのは、FTは世界の大企業を憤慨させても構わないと思っている点だ。もし十分な理由があれば、権力を持つ相手を攻撃することもいとわないのがFTだ。

―記者同士の競争は?

もちろんある。どの新聞社でも記者は互いに競争しようとする。

ただし、FTの記者はおそらく協力しようという気持ちが強いと思う。品位を保つための心意気、集団としての野望を共有している。互いの競争に気がとられることがない。働きにくい同僚と言うのはいるものだ、どこの組織にも。しかし、一般的に言って、FTでは共通した目的を達成するという部分がジャーナリストの間に共有されている。

ジャーナリスト同士が協力し合うという雰囲気を作るのは編集トップの力だ。編集長が職場のトーンを規定する。

―日経の前の所有者ピアソン社から編集への圧力はなかったというが、本当か。

そうだ。ピアソン社はずば抜けてよい所有者だったと思う。編集部に電話してあれを直せ、これを直せと言うことがなかった。このために犠牲を払ったこともある。

例えば、1992年の総選挙では労働党の党首はニール・キノックだった。キノックは左派中道路線の政治家だ。FTは選挙で労働党を支持した。しかし、労働党は負けてしまった。

金融街の多くの人が憤慨した。業界が愛する新聞FTが労働党を支持したからだ。広告を引き上げる企業もあったと聞く。

労働党支持でFTは痛手を背負ったが、ピアソンは当時のリチャード・ランバート編集長を解任しなかった。言及したかどうかも疑わしい。

親会社としてのピアソンは編集長を任命し、解任する権利を持っている。

―金融街(シティ)とFTの関係を知りたい。ロンドンの金融街に働く人が必ず読む新聞だろうか?

シティの中でもやや年齢層が上で、幹部の人が読むのだと思う。デジタル革命が進行中で、ブルームバーグなどの金融情報端末がどんどんニュースを出してしまう。速報として金融情報を出すという役目はFTのものではなくなった。

シティで働く若い人にFTを読んでもらうことが大きな課題だ。

それでも、非常に高く評価されているのは確かだ。シティの金融機関に取材に行くと、幹部はみんな読んでいる。ただし、一部の銀行家をのぞけば、だ。FTは銀行家に対して非常に厳しい記事を出してきた。

私を筆頭に多くのジャーナリストが銀行家のボーナスについて厳しいことを書いてきた。例えば、大きな問題となっているのが、銀行家がもらう報酬のインセンティブの仕組みだ。リスクをとればとるほど報酬が多くなるように作られている。後で利益が出なかった場合でも報酬が支払われる。

FTがあまりにも厳しく批判的な記事を書いてきたので、主要銀行の幹部の中には自分たちが追及されたと感じ、傷ついた思いを抱いている。

といっても、これまで通りFTとの会話を続けている。話をしないと、自分たちの主張さえ聞いてもらえないことを知っているからだ。話をすれば、少なくともジャーナリストを説得する機会が得られる。FTのやり方には一定の合理性があると見る人は多い。

銀行家のボーナスについては、本当にひどいものだった。LIBOR(ライボー)や外為のスキャンダルがあったしー。(注:LIBOR事件は英バークレーズ銀行のトレーダーがほかの金融機関のトレーダーたちなどと共謀し、世界的な金融指標金利を不正に操作した事件で、2012年に発覚。外為不正操作事件では、2015年、米司法省や米準備制度理事会などが欧米の金融機関6社に約60億ドルの罰金を科した。)FTに来て話をする銀行家たちは、こちらが疑いの眼で話を聞いていることを知っている。

―FTの目的は読者に真実を語ること?

全くその通りだ。私たちの義務は読者に伝えること。

―読者は全員が富裕層と言うわけではない?

驚くほどに広範な人々だ。ビジネスあるいは金融界の政策立案者、学者、エコノミストなどが熱心に報道を追っている。左派系の人も良く読んでいる。ほかの新聞に比べて安心感があり、より興味深い記事を掲載しているという。

私のコラムには読者からメールで反応が来る。そのバックグラウンドは様々だ。

―想定している読者層は?

特定の読者を想定していない。ロンドンのハマースミスにある学校で経済クラブがあるそうだ。そこに来て、講演をしないかと言われたことがあった。メンバーは私のコラムを愛読しているそうだ。

メールは世界中から来るので、どんな読者が読んでいるかを一概には言えない。

―FTは知識人が読む新聞で、記者も高等教育を受けたエリート層が中心ではないかと思う。社会の下層で起きていること、現実的な話は分からないのでは?

20年か30年前にはそういう批判があったし、当時はそうだったかもしれない。しかし、今、FTで働く記者を見ると、その社会的バックグラウンドは実に多岐にわたる。人種もそうだし性別でもそうだ。

知的なコンテンツを作っているので、知的な人が執筆するという状態は避けられない。リスクもあるだろう。しかし、メディアは民主的な存在ではない。

何を書くにせよ、高い知的能力を持った、さまざまなバックグランドがある人が書くことは重要だ。編集長はこうしたことが実現するよう、気を配っている。

―FTが日本の新聞社に所有されていることについて

FTはいつかは売却されるはずだった。ピアソンが教育出版に専念したいと言っており、ピアソン社の中では新聞社は特異な存在だった。

いずれ売却されるのであれば、誰にいつ売るのか?可能性のある企業はいろいろあったが、日経は最善だったと思う。良い企業だし、たくさんの強みがあり、FTとは共通点が多い。

懸念もある。英国から見ていると、日経は経団連や大企業に非常に近いように見える。FTの感覚からすると、(権力に対して)上品すぎる。

文化が違う企業が一緒になることへの懸念もある。日本と英国の文化はかなり違う。うまく行くには日経にもFTにもたくさんの経営上のスキルが必要とされるだろう。

どちらも伝統的な新聞社だ。FTにはグローバルなネットワークがあり、二つの新聞のシナジー効果で調和を持って互いを活かせると良いと思う。私は楽観的だ。(終)

(取材:2015年9月)

***

ご関心がある方は、「英国ニュースダイジェスト」のFTについての連載もご覧ください。


by polimediauk | 2016-08-18 15:07 | 新聞業界
 昨年末、日本経済新聞社の傘下に正式に入った英フィナンシャル・タイムズ(FT)グループ。英国の経済・金融専門紙として長い間読まれてきたFTのジャーナリズムとは、一体どういうものなのか。

 拙著『 フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社、今年1月出版)の執筆のため、FTのジャーナリストや関係者複数に「FTのジャーナリズムとは」を聞いてみた。インタビューの一部は本の中にコメントとして入っている。

 一人一人の方の話のトピックは資本主義、金融危機、日英ジャーナリズムの違い、権力との戦い方など多岐にわたった。何回かに分けて全体像を紹介してみたい。読みやすさの点から若干、整理・編集している。

                  ***
 今回登場するのはFTの金融コラムニスト、ジョン・プレンダー氏だ。ジャーナリスト歴はほぼ半世紀にもなる。専門はコーポレート・ガバナンス。

c0016826_6313910.jpg(写真下はFTのウェブサイトより)

 オックスフォード大学を卒業し、Deloitte, Plender, Griffiths & Co社に勤務するが、金融からジャーナリズムに転職。ニュース週刊誌「エコノミスト」の金融エディター、外務省の計画立案スタッフとなった後、FTの社説執筆記者及びコラムニストになった。BBCやチャンネル4などで番組作りに参加する一方で、コーポレートガバナンス、年金運用についての複数の団体でコンサルタント役も務める。ピアソングループ年金ファンドのトラスティーの一人。著作も多数ある。

 筆者がプレンダー氏のコラムを読みだしたのは十数年前になる。そのうちの一つを読んでメールを出したところ、返事が返ってきた。2011年、「東洋経済オンライン」用に一度取材し、今回が2回目のインタビュー取材だ。

 インタビューは2015年9月、ロンドンのサザクブリッジにあるFT本社のレストランで行われた。社内ではプレンダー氏を知っている人が多く、二人で紅茶の入った紙コップを持ってテーブルに向かうまで、何人もが声をかけてくる。何度も長い立ち話になりそうなのを「今、インタビューがあるから」と振り切って、ようやく腰を落ち着けた。

 まず最初に取り上げたのが、プレンダー氏の最新作『資本主義―お金、モラル、市場(Capitalism: Money, Morals and Markets )』(Biteback Publishing)だった。昨今、資本主義について厳しい視線が向けられている。これを歴史的文脈でとらえ、エコノミスト、企業経営者、哲学者、政治家、小説家、詩人、アーチストなどの発言をたどりながら、資本主義とは何かを問う著作だ。

                ***

―執筆までの経緯を教えてほしい。

プレンダー氏:一つのきっかけは、世界金融危機を受けて資本主義への大きな批判が出たことだ。どこか根本的なところがおかしいのではないか、と。グローバル化に反対する「占拠せよ」運動がロンドンや世界の各地で発生したことを見てもわかる。

 資本主義は素晴らしいことを達成できる。人々を貧困から救い出す。日本の戦後から現在までの歴史を振り返れば、うなずけるだろうと思う。そんな事例がほかのアジア諸国でも起きた。最も顕著なのは中国だろう。これにまでにないほどの成長を達成し、生活水準も大きく向上した。しかし、生活水準が上がった一方で、人は基本的な部分で不幸にもなった。

 なぜ資本主義が発展することで人が不満を感じるようになるのかについては、様々な理由がある。資本家が労働者を搾取する、環境に負荷をかける、不平等が広がるという指摘がある。金が金を生むこと自体に疑問を呈する人もいる。

産業革命が転機に

 資本主義についての人々の意識を大きく変えたのは産業革命だった。

 産業革命以降、生産性が大きく高まり、生活水準もこれまでにないほど上がった。欧州経済の規模が拡大した。商行為はポジティブな行為として見なされるようになった。産業革命こそが資本主義を表すものだと思う。

 しかし、アブラハムの宗教(創世記のアブラハムを重要視する宗教。主にユダヤ教・キリスト教・イスラム教)観がある国では商行為への敵意が基本的に存在していた。私たちの多くの中に染みついているし、儒教文化の中でもそうだろうと思う。

 そして今、資本主義の合法性について新たな問いが生まれている。果たして、本当に良い体制なのか、と。

―執筆にはどれぐらいの時間がかかったのか。

 資本主義について私がジャーナリストとして働き出したころから考えてきたことの集大成だ。

 今70歳で、これまでを振り返りながら書いたので、何十年もかかったとも言える。

―今回の金融危機が発生して、衝撃を受けたか?

 衝撃ではなかった。2003年に出した本(『脱線する』Getting off the Rail)ですでに発生の可能性を指摘していた。

 また、2007年までに警告を発する記事がFTに出ていた。クレジットクランチが始まり、貸し付け体制が崩壊していた。規制監督機関は規制遵守の役目の大部分を銀行にゆだねるという愚かな方法を行っていた。

 したがって、金融危機が発生したこと自体には衝撃を感じなかった。しかし、危機の規模には驚いた。米国をはじめとして世界中にあれだけ広がるとは思わなかった。

 金融市場が比較的安定していたのは1929年の米ウオール街の株暴落(1929年10月末)とそれに続く世界大恐慌の後からブレトン・ウッズ体制(1944年から1971年のニクソンショックまでの間、世界経済を支えてきた国際通貨体制)が崩壊した1970年代までだ。

 この間、金融市場が安定していたのは株価大暴落とその後の銀行危機に対応するための規制が非常に厳しいものだったから。金融システムの悪用に対する米国側の規制体制は非常に厳しいもので、銀行をまるで公共事業者のようにしてしまった。リスクを取り、利益を上げることを最大目的とする事業ではなくなった。銀行業は非常に退屈なものになり、起業家精神にあふれた人材は業界を離れた。

 現在の状況を見てみよう。先の金融危機以降、規制監督者や政策立案者たちが銀行業を公共事業者にしていないことが分かる。銀行業は多くのリスクを取るビジネスになっている。

 私が見るところでは、銀行はいまだに資本不足だと思う。グローバルに非常に大きな存在となったために、銀行の経営トップでさえ何が起きているのかを十分に把握していない。業務が非常に複雑化しているために、行内で何をやっているかのすべてを知っている人はほとんどいない。

 銀行が破たんすると、その国の政府が処理にあたるが、銀行の業務は国内だけではなくグローバルに広がっている。国際決済銀行や世界の中央銀行によってさまざまな対策が講じられ、秩序立てた債務整理が行われるように努力が続けられているが、グローバルな規制監督機関がないので、完全な対策を繰り出すことができない。

 銀行を公益事業体のようにしてしまうか、小規模に分割してしまうかなどの手段を行わない限り、また金融危機は起きる。

批判をしても相手から尊敬されるには

―プレンダー氏の記事を読むと、銀行規制の仕組みをかなり批判している。金融業界との関係が壊れるということはないのか?

 私のジャーナリストとしての経験から言うと、物事が間違った方向に行ったとき真実をそのまま相手(間違った人・組織)に述べると、相手から尊敬され、恐れられる。相手に優しすぎて批判をしない場合よりも、だ。

 敬意を保つ距離感を持つほうがいい。自分の言うことが事実に基づいて、真実であることを相手も知っている限り、その人はあなたに話しかけることを止めない。

 非常に慎重に動いた場合、だからと言って間違いをした相手があなたを尊敬してくれるとは限らない。

 人がFTを尊敬するのは、世界に向かって何が起きたのか、どこで間違ったのかを伝えるからだと思う。

 金融危機の前後、FTは銀行や規制組織について非常に批判的な記事を出してきた。

―FTのジャーナリズムの特徴を知りたい。例えば、米国の経済紙ウオール・ストリート・ジャーナルと比べて、どこが違うのか。

 米国と英国のジャーナリズムには大きな違いがある。米国ではニュースと論説(コメント)の間の線引きがはるかに厳しい。

 英国ではしばしばニュース記事に意見が入っている場合がある。事実から外れた事を書くのは許されないが、もっと個人の思いが入った記事を書く。

 また、英国には経済学のジャーナリズムの伝統があると思う。

 ウオール・ストリート・ジャーナルを見てみると、経済についての論考記事は外部の人が書いていることが分かる。著名な経営者、連邦準備制度理事会の委員など。エスタブリッシュメントに属する有名な人を招いている。経済学の知識が入った良いリポート記事はたくさんあるが、論説となるとどうだろう?

 FTでは社内の記者が世界経済で起きているどの事柄についても、書き手の意見が入った、十分に練られたかつ面白い論考記事を書いている。(続く)

***

 ご関心がある方は、「英国ニュースダイジェスト」のFTについての連載もご覧ください。
by polimediauk | 2016-08-14 06:23 | 新聞業界
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 6月23日、英国でEU加盟の是非をめぐる国民投票が行われ、離脱派が全体の51・9%の票を取得して勝利した。負けたのは48・1%の残留派。

 この「48%」に向けて創刊された週刊新聞「ニュー・ヨーロピアン(新欧州人)」が健闘を続けている。創刊日は7月8日。価格は2ポンド(約280円)だ。

 当初は4週間発行する予定で、定期刊行物とまでは言えないので「ポップアップ新聞」(にわかに発行される新聞)と自称してきた。4週間目を超えて、ニュー・ヨーロピアンは黒字化しているという。

 創刊号の部数は4万部、その後3万部が発行されている。10号までは続ける予定だ。

 発行元はイングランド地方東部ノーリッチに本拠地を置く出版社アーチャント社だ。

9日間で発行までこぎつける


 ニュー・ヨーロピアン紙の編集長マット・ケリー氏がBBCラジオの「メディア・ショー」(11日放送)で語ったところによると、同氏が創刊を思いついたのは国民投票の結果が出た翌日だった。

 「通りを歩いていて、多くの人が結果に落胆している様子を見た。まるで誰かが亡くなったみたいだった」

 「結果に怒りを持ったとき、どの新聞を買って読むだろうか?」ケリー氏は頭を巡らせたが、該当する新聞はなかった。

 1986年、インディぺデント紙が創刊されたとき、有名なキャッチフレーズがあった。それは「インディぺデント紙は独立している。あなたは?」である。「インディペンデント」は「独立」を意味する。インディペンデント紙を買って、小脇に抱え、「自分は独立している、自分の意見を持っている」ことを示すのがカッコいいとされた。

 「あんな新聞が自分たちで作れないかな、と思った」。

 そこで、アーチャント社の上司に新聞の創刊案を話してみた。翌週、会議室で議題にかけられ、創刊が決定された。創刊号が市場に出たのは9日後のことだった。

 ケリー氏はテクノロジーの発展があったからこそ、数日で紙面のデザインを作ることができたという。全国に新聞を届けるための体制がアーチャント社にすでに整っていたことも強みだった。

 「ポップアップ新聞」とは造語で、何か月もかけて準備するのではなく、面白いアイデアがあったら、すぐに市場に顔を出す新聞、という意味だという。人気がなくなったら、すぐに店を閉じることもできる。

 ニュー・ヨーロピアンは48ページ。左派系高級紙ガーディアンのコラムニスト、ジョナサン・フリードランド氏、元官邸の戦略局長だったアリステア・キャンベル氏、バージンメディアグループのトップ、リチャード・ブランソン氏などの著名人によるコラムのほか、欧州ではやっていること、特定の国の紹介など盛りだくさんだ。

 筆者は英国での選挙権はないものの残留派を支持しており、毎号手に取ってきたが、ことさら親欧州を強調しているニュー・ヨーロピアンは「偏った新聞だなあ」と常々思ってきた。

 英国の新聞は不偏不党が要求されないので、偏っていても構わないわけだが、度が過ぎるとコラムの主張の信ぴょう性が薄れ、つまらなくなる。すべてが親欧州を勧めるためのプロパガンダにも見えてくる。

 もう少し落ち着いて、欧州のことを語る論調になってもいいように思うのだけれども、これが一定の人気を得ているのは、おそらく、確かに他にはこういう新聞がないからだろう。

紙の新聞創刊、途絶えず

 紙から電子へとニュースを読む読者は移動しているが、英国では紙の新聞の創刊がまだまだ続いている。失敗例が多いにもかかわらず、である。

 ミラー社が発行した「ニュー・デー」(2月創刊)が5月に廃刊となり、イングランド地方北部のニュースを掲載する「24」(6月創刊)も7月に廃刊となった。

 欧州を専門とする新聞では、新聞王ロバート・マックスウェルが1990年に「ザ・ヨーロピアン」を創刊。2年後、富豪バークレー兄弟(現在のテレグラフ紙の所有者)が買収した後、98年に廃刊となった。当時の損失額は7400万ポンドに上ったという。
by polimediauk | 2016-08-12 20:37 | 新聞業界
 2月末に出たばかりの英国の新しい新聞「ニューデー」。前向きのニュースを明るく伝える、政治的にはニュートラルと言う英国の新聞界では珍しい編集方針でスタートし、私自身も時折買っていたが、明日6日付が最後で、市場から消えてしまうことになった。

なぜ消えることになったのか?

 同じく在英ジャーナリストの木村正人さんがすっきり分かる形で論考を書いている。

 一部始終についてはそちらを拝読いただきたいのだが、「紙はもうだめだから」「デジタルの世界だから」・・・という理由に若干、付け足してみたい。

「紙だから、無理だった」…だけではない

 ニューデー廃刊の理由として、「紙だから、無理だった」と言うのがまあ、普通の理由になるのだろうけれども、それ以上のもろもろがあったように思えてならない。

 と言うのも、数週間前のスタート時からもうすでに、紙はだめ・・・という状況が続いていたからだ。

 では、何がダメだったのだろう?以下は私が考えるいくつかの要因だ。

ライバルが多すぎた

 まず、ライバルが多すぎた。ロンドンの例をとってみよう。朝は無料紙メトロがある。駅構内にうずたかく積まれている。通勤時に電車に乗るとき、これをついつい取る人は多い。

 午後には夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」が出始める。これも無料である。その日に起きたニュースが夕方には読めるので、非常に便利。夕方、ロンドン市内の電車に乗って、スタンダードを手に取ってない人を見ない・・・なんてことは一度もない。

 1日のうちに、メトロ、スタンダードと言う2大無料紙が出ているのである。

 さらに、高級紙「インディペンデント」の簡易版「アイ(i)」がある。これが1部40ペンス。実に読みやすい。かつ、内容はしっかりしている。ということで、今、26万部程出ている。本家のインディペンデントは5万部ぐらいになって(かつては40万部)、とうとう3月末で、紙版を廃止。電子版だけになってしまったのである。

 このほかには大衆紙で手軽に買えるサン、デイリー・メール、デイリー・ミラー、デイリー・スターが20ペンスから40ペンスぐらい。

 高級紙ガーディアン、タイムズ、テレグラフなどはその4倍以上の値段になる。ページ数も多い。さらっと読みたい人が敬遠するのも無理はない…残念ながら。第一、高級紙(日本の全国紙に相当)を読むような人は、教育程度が高く、スマホの利用率も高いから、アプリでニュースを読むのが得意中の得意である。よっぽど家で定期購読している人でないと、スマホでニュースを通勤時に読んでしまうのだ。

値段が高すぎる

 上の「ライバルが多すぎる」にも関連するのだが、値段がニューデーは50ペンスで、これは少々高いのである。つまり、「アイ」のライバルとなるのだから、それより高いなんて・・・それで買ってくれると思ったら…それはやっぱり無理でしょう。

 アイは非常にブランド力が強い。インディペンデントが本家だけれど、紙版を廃止して電子版オンリーになった時、アイだけは別の新聞社=ジョンストンプレス=に買われてしまったぐらいである。

 発行元のトリニティー・ミラー社はアイの大人気を見て、それにあやかろうと思ったらしいけれど、ニューデーの価格をアイより高くするなんて、無謀だろうと思う。これでは勝てない。

諦めが早すぎる

 それにしても、諦めが早すぎるのである。毎日、部数が減って、赤字が出るのはさぞつらかっただろうと思う。

 しかし、ブランドが浸透するには時間がかかる。英国内の地方の隅々にまでその名が知られたとは思えない。

 出版社は、このデジタル時代に紙の新聞を普及させようと思ったら、相当の覚悟、つまりはかなり深いポケット(お金)がないとだめだ。でっかいテレビのコマーシャルをどんどんやり、少なくとも半年間は赤字大覚悟でやらないとー。

 BBCの記事にガーディアンのメディア評論家ロイ・グリーンスレード氏のツイートが載っていたのだけれど、これは最初から最後まで出版社の経営の大失敗であって、決して編集長のせいにはするなと書いている。私もそう思う。

 この記事の中には、紙で読む新聞を楽しんでいた人のコメントも紹介されている。

 新聞は命ある生き物だと思う。あるいは、料理でもいい。心を込めて作っている途中で、「時間がないからやめなさい」と言われたら、どうするだろう。

 命を吹き込んだ何物かを作るとき、そこには作った人のエネルギー、心意気、血と汗と涙が投入されている。新聞の場合は相当な額のお金もだ。

 明日6日が最終号と言うことは、5日の編集作業が最後。最終版を印刷所に送ったら、編集部の仕事は終わりだ。想像だけだが、部内の熱気と沈痛を思うと胸が痛む。

 結局のところ、ニューデーは経営陣の不十分な経営計画の犠牲になったのだと私は思う。
by polimediauk | 2016-05-06 05:35 | 新聞業界
 (新聞協会発行「新聞協会報」の筆者原稿「英国メディア動向3」――4月12日発行ーーに補足しました。訂正:ガーディアンの損失額を訂正しました。4月26日

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が主催した会議「デジタル・メディア欧州」(ウィーン、4月20日―22日)に参加する機会があった。これに合わせ、ウィーン及び独ベルリンの新聞社を視察したが、どこの国でも電子版からいかに収入を得るかで格闘していた。

 会議の前に書いた、英国の状況を紹介してみたい。

 英国のメディアが使う言語は国際語となった英語だ。ネット上には英語の情報があふれている。BBCが無料のニュースサイトを大きく展開している上に、米国の新聞社サイトは英語のニュースサイトとして大きなライバルとなる。そんな中での各紙の闘いである。

紙版廃止、有料化、第3の収入

 ネットでニュースを読む習慣が定着する中、紙の新聞がいつかは消えるのではないかと言われていたが、先を暗示するような動きが英国で3月末にあった。

 英全国紙インディペンデントとその日曜版インディペンデント・オン・サンデーが、それぞれ3月26日と20日、紙版の最終号を発行したのである。今は電子版のみになってしまった。紙の終えんを示す象徴的な出来事だった。

 新聞界は、デジタル時代になってビジネスモデルの転換を迫られている。英国の新聞各紙は積極的に電子版ニュースを拡充してきたが、ここにきて、いよいよ本格的な変貌を遂げる必要がでてきた。

有料化の効果は

 英新聞界の生き残り策の1つは電子版の有料化だった。

 この点で最も成功した新聞は経済紙フィナンシャル・タイムズだろう。経済紙という強みを生かし、一定の本数のみを無料で閲読できるが、それを超えると有料購読者のみが閲読できる「メーター制」を導入し、着実に購読者を増やした。1年前からは1ポンド(約160円)で1か月間記事を閲読できるトライアル制を展開し、2015年末時点で購読者を78万人(紙版と電子版のみの合計)に増加させた(前年比8%増)。電子版のみの購読者は56万6000人で前年比12%増。有料購読者の3分の2が電子版での購読者だ。

 一般紙で電子版有料制を導入したのはタイムズとその日曜版サンデー・タイムズだ。メーター制ではなく、購読者でなければ原則一本も読めない完全購読制を採る。購読者になるとさまざまな文化的イベントに無料あるいは割引価格で参加できるようになる。

 3月から別々だった両紙のウェブサイトを1つにし、平日は午前9時、昼、午後5時の3回のみ更新するように改めた。週末は昼と午後6時のみ更新となった。読者が速さよりも質を求めていることが分かったためだ。

 2010年の導入時は先行きが危ぶまれたが、今年2月時点で、両紙は合計で40万1000の有料購読者を持つ。内訳は17万2000が電子版のみで、22万9000が紙版のみあるいは紙版と電子版のセットでの購読者という(発行元ニューズUK社発表)。前年比で2.2%増だ。タイムズの場合は、紙の部数が38万9051、電子版のみは14万8000で、合計では53万7051部となる。ニューズUK社は電子版が成功したと受け止めている。

タイムズは「高い壁」

 しかし、「有料の壁」を作ったことで、月間読者数(紙版読者、電子版読者の合計)では低い位置にいる(ナショナル・リーダーシップ・サーベイ調べ)。2014年でタイムズの読者は490万人だったが、ほかの高級紙はその倍以上だ。インディペンデントは1040万人、ガーディアンは1630万人、テレグラフは1640万人だった。

 高級紙の中で最も紙の発行部数が多いテレグラフは2013年にメーター制を導入したが、購読者数を公表していない。

 インディペンデント、ガーディアンは過去記事も含め、すべてを無料でウェブサイトに出してきた。

 サン、デイリー・メールなどの大衆紙もサイト上で無料で記事が閲読できるようにしている。サンは一時、有料制を導入したが思うような数の購読者を得ることができず、無料派に戻った。

無料サイトが厳しく

 ガーディアンを発行するガーディアン・ニュース&メディア社は、3月決算で5860万ポンドの営業損失を抱える。今後3年間での黒字化を目指し、大幅な経費削減を実行予定だ。編集部門725人、営業などバックオフィスの150人の中で250-310人程度を削減する。編集部門からは100人程度の削減になる見込みだ。

 紙媒体の広告収入が前年比で25%下落する市場の逆風が吹いた上に、米国版ガーディアンの開設への投資も経費を拡大させた。広告をブロックするトレンドも響いた。営業経費が過去5年で23%増大する一方で収入は10%増となり、追い付かない状態となった。

 ガーディアンは今後も電子版の閲読無料方針を維持するつもりだ。黒字化に向けて期待をかけるのは購読者を増やすことに加えて、「第3の収入源」つまり会員制度だ。会員となって毎月5ポンドから60ポンドを払うと、本社で開催されるイベントに優先的に出席できる。

 業界サイト、プレス・ガゼットの編集長ドミニク・ポンスフォード氏は、無料派ガーディアンが巨額の損失を抱える一方で、完全有料制を導入したタイムズとサンデー・タイムズが「黒字化している」ことに注目し、「約900人のスタッフを無料のウェブサイトから得る収入ではまかなえないことが明確になった」と述べている(1月26日付記事)。

***

 フィナンシャル・タイムズさえも厳しい状態にある…という記事を朝日新聞のデジタルウオッチャー、平和博記者が書かれているので、そちらもご参考に。
by polimediauk | 2016-04-24 19:25 | 新聞業界
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(エコノミストの「グローバル・ビジネス・レビュー」紹介サイト)

***「新聞研究」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。***

 日本経済新聞社の傘下に入った英国の高級経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)。FTはデジタル化を成功裏に進めた、グローバルなリーチを持つ媒体だが、英国にはもう1つ、「デジタル化」、「グローバル化」で群を抜く媒体がある。ニュース週刊誌エコノミストだ。

 エコノミストの電子版のみと紙版を合わせた購読者は約155万。拡大のけん引役は電子版だった。読者の大部分が英国外に在住する。

 エコノミストは、昨年春から英語と中国語による新サービス「エコノミストのグローバル・ビジネス・レビュー」(the Economist Global Busines Review, GBR)を展開し、今年1月からは日本発のメッセージアプリLINEにアカウントを設け、チャートや動画を提供するようになった。

 米サイト「ニーマン・ラボ」に掲載された記事を中心に、エコノミストのアジア戦略を見て、その後にソーシャルメディア戦略についての記事も紹介したい。

中国語、英語どちらでも読めるGBR

 中国語、英語のどちらでも記事が読めるアプリGBRは、エコノミストの171年の歴史の中で初めての2か国語サービスだ。

 これまで長年にわたり、外国語版を作る案は構想されてきたが、「コストがかかりすぎる、実用的ではない」という理由で却下されてきたという(エコノミスト誌のデジタル・エディター、トム・スタンデージ氏、サイト「PRニュースワイヤー」、2015年4月7日付)。テクノロジーの発展で電子版での2か国語サービスが容易に実現できるようになった。真っ先に取り上げたのが中国語だった。

 スマートフォンやタブレットでアプリをダウンロードすると、月の最初に10本の記事が配信される。その後は平日に1本配信され、合計で月30本ほどの配信となる。

 記事は1年間保存されるので、オフラインでの閲読に便利だ。英語版か中国語版かに簡単な操作で変更できるほかに、段落でダブル・クリックすると、その部分の翻訳が読める。料金は月ぎめでは5・49ポンド(1ポンド=159円計算で873円)。年間購読では49・99ポンドだ。支払いはアイチューンズを使って行う。

 ニーマン・ラボの記事(2015年4月7日)によれば、エコノミストの購読者の内訳は数が大きい順から北米(876,420)、欧州大陸(248,415)、英国(223,915)、アジア(152,282)、中東及びアフリカ(26,921)、ラテンアメリカ(19,371)となった。

 GBRの想定読者の居住地は主として中国、香港、台湾、マレーシア、シンガポールなど。この地域でのエコノミストの購読部数はそれほど大きくはない―中国は8,000(その64%が電子版のみ)、香港とシンガポールがともに11,000だ。エコノミストの記事が非公式に中国語に翻訳され、ソーシャルメディアで目にすることが多いというスタンデージ氏は「需要はある」と強気だ。

 有料サ―ビスのGBRは、広告収入からの脱却を目指すエコノミストの戦略にも合致する。総収入の中で読者からの購読収入の割合は、2014年で55%。2015年には60%に達したと予想されている。

グローバルな展開には多言語で

 英語は最も有力な国際語だが、世界的にリーチを拡大させることを狙う英語メディアはほかの言語でのサービスも行っている。

 米ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は英語以外に中国語、日本語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、韓国語で電子版を展開している。日経傘下のFTも中国語の電子版がある。英BBCのニュースサイトは日本語、アラビア語、ペルシャ語などを含む28言語で閲読できる。

 エコノミスト誌の編集幹部らによると、エコノミストとしては特定の地域を対象にしたサービスを想定するというよりも、「世界中に散在する読者」に向けてコンテンツを作っている。国際情勢に関心がある知識層がエコノミストの読者になるからだ。

 今年1月末、エコノミストは日本発メッセージ・アプリLINEにアカウントを設けてサービスを開始する、と発表した。同様のサービスとしては利用者がはるかに多いWhatsAppあるいはFacebook MessengerよりもLINEを選んだ理由はエコノミストがFacebookやTwitterを通じてつながっている読者とLINEの読者とが「互いを補完する関係になるから」とスタンデージ氏は言う(ニーマン・ラボ、今年1月28日付)。

 LINEは2015年末で2億1500万人の利用者を持つ。その67%が日本、台湾、タイ、インドネシア在住者だ。LINEの専用ステッカー、関連書籍、ゲーム、広告などの販売によって約1200億円の収入を上げた(2015年)ことも魅力だったのかもしれない。

 LINEにはほかにWSJ,BBC,TechCrunch, Mashableなどもアカウントを作っている。エコノミストではチャートのほかに写真、名言、動画などを出してゆく。
 
 「どのプラットフォームにどのようなコンテンツをどう出してゆくか、人材や費用のリソースをどのように割り当てるかに頭を悩ませている」とスタンデージ氏は語っている。

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(エコノミストのウェブサイト)

ソーシャルメディア戦略とは?


 経済や世界情勢について難しいことばかり書いているような、お堅い雑誌のようにも思えるエコノミストだが、実は世界中に3500万人のフォロワーを持つ、ソーシャルメディアでは大きな位置を占める存在でもある。

 なぜそんなことが可能になったのか?面白おかしい話が分かりやすく書かれているわけでもないエコノミストのソーシャル戦略について、英国の新聞業界サイト、プレスガゼットが取材している。

 今年3月29日付の記事を紹介してみたい。

 3500万人のフォロワーと言うのだが、そのうちわけは

 -ツイッターのフォロワーが1570万人
 -フェイスブックの「いいね」が750万
 -グーグルプラスが1010万人
 -リンクトインのメンバーが140万人
 -インスタグラムのフォロワーが39万人
 -タンブラーのフォロワーが21万8000人
 -ユーチューブの購読者が14万2000人

 だという。

 これだけ広がった理由について、エコノミストの副編集長トム・スタンデージ氏はまず、「それぞれのプラットフォームがグローバルにサービスを展開しており、エコノミストのコンテンツもグローバルな視点で書かれているからだ」と説明する。

 英国の新聞だったら、英国で起きていることが報道の中心となる。しかし、エコノミストは世界中をカバーする。そこで、グローバルなプラットフォームではこれが利点になるという。

 また、米テレビアニメ「シンプソンズ」の中で使われたことから、エコノミストのことが広く知られたという。番組の中で登場人物がエコノミストを手にしており、エコノミストを読むほど利口であるという文脈で使われた。そこで、エコノミストのコンテンツをシェアすれば、自分が物知りであることがアピールできることがプラスに働いたという。

 エコノミストの中にはソーシャルメディアの専門チームがいて、どのプラットフォームにどんな見出しでいつ出すかなどを研究し尽くしている。どれぐらいの文章を入れるのか、どんな反応があったのかを細かく分析する。

 コンテンツそのものが簡潔な文章で書かれ、分析力があり、必ずユーモアが入っていることもソーシャルメディアと相性がいいのだそうだ。

 検索エンジンでエコノミストの記事を見つけた人よりも、ソーシャルメディアからやってきた人の方が再度やってくる可能性が高い。この点でもソーシャルメディアに力を入れている。

 将来はメッセージングアプリが最も有力になると見ており、この記事の中でも、スタンデージ氏は特にLINEの可能性を高く評価している。
by polimediauk | 2016-04-04 23:51 | 新聞業界
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 (「新聞協会報」2月23日号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

 英紙インディペンデントの紙版が3月末、姿を消すことになった。電子版に完全移行する。全国紙では初めてだ。ネットでニュースを見る習慣が広がる中、「紙の新聞の終えん」がいよいよ現実化したと受け止められた。

 記者による創刊をはじめ英新聞界の革新を担ってきた同紙は、電子版だけで成功する初の全国紙になれるか。

メディア環境の大きな変化

c0016826_13571994.jpg「紙に印刷されたニュースにお金を払う人の数が少ないことに尽きる」ーー同紙のアモル・ラジャン編集長(写真右、プレスガゼットより)は読者に対し、電子版オンリーに移行する理由をこう説明した。

 平日発行のインディペンデントは3月26日、日曜紙インディペンデント・オン・サンデーの紙版は3月20日の発行が最後になる。

 2013年、29歳で編集長職に就いたラジャン氏は「就任初日から、いつかこんな日が来るのではないかと思っていた」と保守系週刊誌「スペクテーター」に書いた(2月18日付)。「それでも、実際にそうなると、大きな衝撃だった」。

 インディペンデントの紙版廃止の背景には、メディア環境の激変が大きい。

 英ABC協会の調べによると、新聞の発行部数は10年前には約1200万部に上ったものの、現在は700万部と約半分に減少した。新聞専門サイトのプレスガゼットによると、この間、約300の地方紙が廃刊となった。広告も紙からオンラインに移っている。2010年比で、全国紙の広告収入は3分の1に落ち込んだ。

 各紙は紙からの収入減を電子版から補えないジレンマを抱える。損失を抱えたり、利益を減らしたりしながら、デジタルへの投資を続けてきた。

 インディペンデント紙による電子版への完全移行の決断は、影響力が大きい全国紙が紙媒体を手放した意味で、メディアの激変時代を象徴する動きといえよう。

 加えて同紙に特有の理由として、(1)有力新聞だが所有者が数回交代し、安定した経営に恵まれなかった、(2)電子版への十分な投資が行われず、新聞全体のプレゼンス低下につながったーーの2つが挙げられる。

 ちなみに、2015年12月時点でのインディぺデントの発行部数は約5万6000部。簡易版「i(アイ)」は28万部。インディペンデントの日曜版は9万2000部だ。

 完全電子版成功の鍵は、前年比33%増の訪問者数(日間ユニークユーザー数は280万人)をてこにどこまで存在感を広げられるかにかかっている。テクノロジーやジャーナリズムへの投資が道を分けそうだ。

 電子版への完全移行で、インディペンデント紙の従業員150人のうち、100人前後が職を失うもよう。25人が新規に雇用される。

 地方紙グループのジョンストン・プレス社に売却されるiは、紙版を維持する。編集スタッフは35人増の51人になるという。

 i紙のコンテンツは独自の記事に加え、インディペンデント紙や、同じESIメディア社の傘下にある無料紙ロンドン・イブニング・スタンダード、ジョンストン・プレス傘下の地方紙が提供する。

タイムズー「紙版の終わりではない」

 同じく全国紙のタイムズは2月13日付の社説で、同紙にとっては「今後長い間にわたって、紙版と電子版が共存するだろう」と書いた。

 「広告収入がネットに流れたため、新聞社の収益構造は大きく変わった」が、「読者と強いきずなを持つ新聞には大きな価値がある」。読者がタイムズを紙で、オンラインで、あるいはタブレットのアプリで読もうが構わない、という。

 かつては放送界がニュースを報道することで新聞界は危機にさらされたが、各紙は常に革新を続けてきた、だから「紙版と電子版は共存してゆくだろう」。

英紙の革新を担う

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 インディペンデント紙は1986年の創刊以来、英新聞界で革新的な役割を担ってきた(創刊号の1面、左)。

 写真を大きく扱う1面、意見の明確な表明、タブロイド判への移行などが象徴する。

 創刊者はデイリー・テレグラフ紙にいた3人の記者。東西冷戦下での核兵器の是非、新由主義を政権が標ぼうする中での国営企業の民営化、労使紛争の頻発など政治イデオロギーの違いによる社会的な対立が激化していた。こうした中、「特定の勢力に組みしない、インディペンデントな(独立した)新聞」として始まる。

 ひときわ大きく印象的な写真を全国紙で初めて1面やニュース面に使い、新鮮さ、大胆さを強調した。新しいジャーナリズムの息吹を感じた他の高級紙の若手の記者が続々と集まった。89年には、同じ中道左派系のガーディアン紙を抜き、約42万部の部数を達成した。

 しかし、ルパート・マードック氏が率いるメディア大手ニュース社が「戦争」を仕掛ける。同社が発行する保守系紙タイムズを使って安値競争を開始したのである。インディペンデント紙はこれによって大きな打撃を受けた。日曜紙の発行も経営の重荷となり、2003年頃までには20万部前後の部数に減少してしまった。

思い切って、タブロイド判に

 挽回に向け03年秋、タブロイド判を発行する(04年、完全に移行)。当時、人気を集めていた無料紙メトロがタブロイド判だったことに注目した。しかし、インディペンデント紙のような高級紙(クオリティー・ペーパー)にとって、これはかなりの決断力を要した。小型タブロイド判は大衆紙のサイズで、「タブロイド」と言えば、ゴシップ記事が中心の低俗な新聞というイメージがついていたからだ。

 当時の編集長サイモン・ケルナー氏に筆者が聞いたところによれば、「編集室の全員が反対した」という。しかし、編集長の職権でこれを推進。多くの人の不安をよそに、タブロイド判は大当たりとなった。

 この影響で、他の高級紙もサイズの変化を試みる。タイムズがすぐに後を追って小型化し、ガーディアンは縦に細長いベルリナー判となった。

 タブロイド判の採用後、「まるでポスターのような」と言われたデザインが目立つようになった。同じく左派系のガーディアン紙との差別化を狙い、意見を明確に出す紙面作りも打ち出す。「ビュー・ペーパー(視点の新聞)」とも呼ばれた。当時をほうふつとさせる紙面展開となったのが、2015年1月のシャルリエブド事件への抗議を表した表紙である(画像、右下)。c0016826_14191512.jpg

 しかし大きく業績を回復させられず、元KGBの富豪アレクサンドル・レベデフ氏に10年3月、1ポンド(約140円=当時)で買収された(現在は息子のエフゲニー・レベデフ氏が実権を握る)。電子版から十分な収入をあげられずに悩む英新聞界に、同紙を買う体力がある企業家はいなかった。

 同年10月、i紙を創刊。高級紙が簡易版を出すのは初だった。当時で20ペンスの定価は本紙の5分の1。高級紙の内容を大衆紙以下の値段で提供するのも初の試みだった。

 インディペンデント紙は、初物続きの新聞だ。

 富豪の企業家が経営する伝統がある英新聞界で記者が創刊した点が既に初めて。新しいジャーナリズムの創出、タブロイド判への転換、簡易版の発行――。紙媒体の廃止という点でも先陣を切った。
by polimediauk | 2016-03-07 13:53 | 新聞業界
(「新聞協会報」に掲載された「英国メディア動向」コラム第一回目に補足しました。)

 ニュースを画面で読む習慣が一般化した英国で、新聞の発行部数の下落が待ったなしだ。電子版だけになる可能性も視野に入る中、高級紙「インディペンデント」が、とうとう3月末からその道を選択することになった。業界再編や人員削減が進んでおり、読者との「関係性」を重視する動きもある。

二ケタ台の前年同月比下落も

 英ABCによると、10年前の2005年10月時点で、日刊全国紙の総発行部数(11紙)は約1200万部。2015年10月(同じ新聞の簡易版を別紙として数えると12紙)では約684万部となり、10年間で510万部以上減少した。

 昨年10月の数字を細かく見ると、前年同月比で下落率が二ケタ台かこれに近い新聞が12紙中5紙あった。月によってばらつきはあるが、「前年よりは二ケタ台下落」という傾向が何年も続いている。

 ABCが15年2月に発表した、地方紙の発行部数(2014年上半期分)は、前年同時期と比較して平均10%の下落だった。

 一方、電子版へのアクセスは好調に伸びている。ABCによると、全国紙から地方紙まで、ほとんどの新聞のウェブサイトの日間ユーザー数(10月時点)が前年より大幅に増加した。

 新聞の収入の大部分は紙媒体の発行によって得たもので、電子版からの収入はその何分の1にしか過ぎないため、発行部数の大幅下落は新聞の経営に大きな打撃となる。各紙はコスト削減、人員整理を行うか、廃刊を決定せざるを得なくなった。

 新聞業界のニュースを伝えるウェブサイト「プレス・ガゼット」は、過去10年間で約300の地方紙(有料、無料)が廃刊となったと推定している(10月8日付)。世界金融危機(2008年)発生時、地方紙は1万3000人の記者を抱えていたが、ガゼットの調査によると、現在までに半分に減少した見込みだ。

 地方紙の出版社同士の合併・再編も続いている。地方紙大手ノースクリフとリッフェ地方紙グループが2012年に合併して成立したローカル・ワールドは、昨年10月末、別の大手トリニティー・ミラーに買収された。200以上の地方紙を発行する巨大な地方紙出版社が生まれた。
読者とつながる方向へ

 広告収入の代わりに各紙が目を付けているのが読者からの支援だ。読者とのかかわりを深めることで、収入を増やすことを狙っている。

読者との関係性を作る

 3つの例を紹介したい。

 1つは会員制だ。ガーディアンは、購読料を支払う形とは別個に、読者に経営を支援するための会員になってもらう制度を構築した。無料会員、有料会員どちらも選択できるが、会員になるとガーディアンが開催するイベントに出席できるなど特典がある。

 2つ目は、地域社会を巻き込み、協同組合型で発行する新聞の誕生だ。地方季刊紙「ブリストル・ケーブル」(2014年創刊)は、地元民の意見を拾い、読みたいという記事を取材・掲載する。毎月1ポンド(約190円)を払うことで、読者一人一人が新聞の共同経営者になる。現在、編集スタッフは無給で働き、運営資金のほとんどは寄付による。発展途上ではあるが、「紙でじっくり読みたい」という読者の強い希望に支えられているという。

 3つ目はウェブサイトにやってくる読者(オーディエンス)の活動を徹底分析する動きだ。

 ページビューを増やすことは重要だが、これに加えて、オーディエンスの滞在時間やソーシャルメディアでの拡散度など「かかわり度(エンゲージメント)」を重視するようになっている。

 エンゲージメントが高くなると、媒体とオーディエンスとの関係が深まる。オーディエンスを満足させれば、すでに有料購読者であれば購読を継続するし、非購読者であれば購読者に転換する確率が高くなる、という考え方だ。

 エンゲージメント強化に力を入れる新聞の1つがフィナンシャル・タイムズだ。

 「オーディエンス・エンゲージメント・チーム」を発足させ、編集部の中央部に座らせている。

 サイトにある記事を掲載する場合、これをいつ、どのようなコンテンツ(例えば画像、インフォグラフィックスなど)とともに出すか、ソーシャルメディアとどのように連携して出してゆくのかを編集スタッフとともに決めてゆく。

 また、記者や編集者のコンピューターに表示されるダッシュボード「ランタン」を見ると、記事がどれぐらいの人に読まれたかなど、エンゲージメント度が即座に分かるという。
by polimediauk | 2016-03-05 03:10 | 新聞業界