小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:新聞業界( 282 )

(「新聞協会報」に掲載された「英国メディア動向」コラム第一回目に補足しました。)

 ニュースを画面で読む習慣が一般化した英国で、新聞の発行部数の下落が待ったなしだ。電子版だけになる可能性も視野に入る中、高級紙「インディペンデント」が、とうとう3月末からその道を選択することになった。業界再編や人員削減が進んでおり、読者との「関係性」を重視する動きもある。

二ケタ台の前年同月比下落も

 英ABCによると、10年前の2005年10月時点で、日刊全国紙の総発行部数(11紙)は約1200万部。2015年10月(同じ新聞の簡易版を別紙として数えると12紙)では約684万部となり、10年間で510万部以上減少した。

 昨年10月の数字を細かく見ると、前年同月比で下落率が二ケタ台かこれに近い新聞が12紙中5紙あった。月によってばらつきはあるが、「前年よりは二ケタ台下落」という傾向が何年も続いている。

 ABCが15年2月に発表した、地方紙の発行部数(2014年上半期分)は、前年同時期と比較して平均10%の下落だった。

 一方、電子版へのアクセスは好調に伸びている。ABCによると、全国紙から地方紙まで、ほとんどの新聞のウェブサイトの日間ユーザー数(10月時点)が前年より大幅に増加した。

 新聞の収入の大部分は紙媒体の発行によって得たもので、電子版からの収入はその何分の1にしか過ぎないため、発行部数の大幅下落は新聞の経営に大きな打撃となる。各紙はコスト削減、人員整理を行うか、廃刊を決定せざるを得なくなった。

 新聞業界のニュースを伝えるウェブサイト「プレス・ガゼット」は、過去10年間で約300の地方紙(有料、無料)が廃刊となったと推定している(10月8日付)。世界金融危機(2008年)発生時、地方紙は1万3000人の記者を抱えていたが、ガゼットの調査によると、現在までに半分に減少した見込みだ。

 地方紙の出版社同士の合併・再編も続いている。地方紙大手ノースクリフとリッフェ地方紙グループが2012年に合併して成立したローカル・ワールドは、昨年10月末、別の大手トリニティー・ミラーに買収された。200以上の地方紙を発行する巨大な地方紙出版社が生まれた。
読者とつながる方向へ

 広告収入の代わりに各紙が目を付けているのが読者からの支援だ。読者とのかかわりを深めることで、収入を増やすことを狙っている。

読者との関係性を作る

 3つの例を紹介したい。

 1つは会員制だ。ガーディアンは、購読料を支払う形とは別個に、読者に経営を支援するための会員になってもらう制度を構築した。無料会員、有料会員どちらも選択できるが、会員になるとガーディアンが開催するイベントに出席できるなど特典がある。

 2つ目は、地域社会を巻き込み、協同組合型で発行する新聞の誕生だ。地方季刊紙「ブリストル・ケーブル」(2014年創刊)は、地元民の意見を拾い、読みたいという記事を取材・掲載する。毎月1ポンド(約190円)を払うことで、読者一人一人が新聞の共同経営者になる。現在、編集スタッフは無給で働き、運営資金のほとんどは寄付による。発展途上ではあるが、「紙でじっくり読みたい」という読者の強い希望に支えられているという。

 3つ目はウェブサイトにやってくる読者(オーディエンス)の活動を徹底分析する動きだ。

 ページビューを増やすことは重要だが、これに加えて、オーディエンスの滞在時間やソーシャルメディアでの拡散度など「かかわり度(エンゲージメント)」を重視するようになっている。

 エンゲージメントが高くなると、媒体とオーディエンスとの関係が深まる。オーディエンスを満足させれば、すでに有料購読者であれば購読を継続するし、非購読者であれば購読者に転換する確率が高くなる、という考え方だ。

 エンゲージメント強化に力を入れる新聞の1つがフィナンシャル・タイムズだ。

 「オーディエンス・エンゲージメント・チーム」を発足させ、編集部の中央部に座らせている。

 サイトにある記事を掲載する場合、これをいつ、どのようなコンテンツ(例えば画像、インフォグラフィックスなど)とともに出すか、ソーシャルメディアとどのように連携して出してゆくのかを編集スタッフとともに決めてゆく。

 また、記者や編集者のコンピューターに表示されるダッシュボード「ランタン」を見ると、記事がどれぐらいの人に読まれたかなど、エンゲージメント度が即座に分かるという。
by polimediauk | 2016-03-05 03:10 | 新聞業界
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 皆様、あけましておめでとうございます。

 今年もどうぞよろしくお願いいたしします。

 今月末に、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)という本を出します。

 昨年夏、日経がフィナンシャル・タイムズ(FT)を買収するという報道が出ました。買収処理の完了日は11月末。FTは日経傘下に入りました。

 日経については日本では知っている人が多いですが、一体、FTとはどんな新聞なのか?

 実は、本家英国でも実際に中身を知っている人は少ないのです。その理由は?実際にはどんなジャーナリズムを実践しているのか?どんな歴史があって、なぜ「デジタル化に成功した新聞」と言われているのか、そして日経とはどこが違うのか?

 そんな点をまとめてみた本です。

 もしよろしかったら、書店に出た時に見ていただけると、幸いです。

 また、FT関連、メディア関連の情報のアップデートのために、フェイスブックでページを作りました。年末に社内で発表された新人事の様子を最初のエントリーにしてあります。もし本の書評が出たら、これも掲載していきたいと思っています。

 2月27日は、大阪心斎橋にある「スタンダードブックストア」さんで、フォトジャーナリストの小原一真さんとのトークが開催されます。小原さんは、太平洋戦争下の空襲で犠牲を負った子どもたちの戦後を追った、貴重な写真集「Silent Histories」を刊行されました。こちらの本は主として海外での販売向けで、日本では限られた書店しか置いていないそうですので、大阪近辺にお住まいの方は、ぜひこの機会をご利用ください。

 どうぞよろしくお願いいたします。

 ***

 関連の話

 東洋経済オンライン

日経によるFT電撃買収は、うまくいくのか わずか2カ月で大型買収を決めた事情とは?

「FT買収競争」に敗れた会社の次の一手とは? 独アクセル・シュプリンガーの戦略を読む

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by polimediauk | 2016-01-07 17:10 | 新聞業界
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           (フィナンシャル・タイムズの週末版)

 (日本新聞協会が発行する「新聞協会報」(9月29日付)に掲載された原稿に若干補足しました。)

 7月末、日経が英高級経済紙「フィナンシャル・タイムズ」(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを英出版大手ピアソン社から約8億4400万ポンド(約1600億円)で買収するというニュースが世界中を駆け巡った。年内とされる案件の処理が終わりに近づく中、買収のメリットや英国での反応を概観してみたい。

 売却自体はかねてから噂されていたが、日経は買い手候補として名前が挙がっておらず、直近では独新聞大手アクセル・シュプリンガー社が有力視されていた。

 買収案件の処理には年内一杯かかるとみられ、現時点で買収後の具体的な計画についての情報は限られているが、買収のメリットや英国での反応はどうか。

巨額買収の目的は

 過去50数年の所有者ピアソン社がFTグループを手放すことを決めたのは「教育事業に専念する」ため(ファロンCEO)だった。一方の日経側は「グローバル化、デジタル化」を理由として挙げている。

 具体的なメリットとして、FTは同じく新聞業を営む企業の傘下に入ることで、ジャーナリズムを追及するための継続した投資が見込め、アジアでの足掛かりを強化できる。日経は急速に電子版購読者を伸ばしたFTからそのノウハウを学び、世界的なメディア企業としての位置を獲得できる。

 世界的なニュース配信ビジネスは、ブルームバーグ、トムソン・ロイター、ダウ・ジョーンズなど、限られた大手の戦いとなっている。英調査会社エンダース・アナリシスのダグラス・マッケーブ氏によると、日経がFTとともにメディアグループを形成することで、日経は「グローバル・プレイヤーの1つになった」。

 買収金額が巨額過ぎるのではないかという見方があるが、質の高いニュースを生み出す媒体への大きな投資は最近のトレンドの1つだ。投資先は米新興メディアのボックス・メディアやバズフィード、老舗ワシントン・ポスト(アマゾンによる買収)、オランダのマイクロペイメントのスタートアップ「ブレンドル」など、枚挙にいとまがない。

 これまでにも日経にはFTの翻訳記事が時折掲載されてきたが、今後はさらにこれが深化し、共同企画、取材、調査、カンファレンス開催が実行される可能性は高い。

英メディアの反応と今後

 FTの読者は高額年収の富裕層が中心のため、日経は国際的な富裕層ネットワークも手中にする。これによって、新たなビジネスの展開、新規広告主の開拓、紙面の変化(特定層に向けたコンテンツの拡大)もあり得る。編集人員、経営幹部らの人事交流が進めば、さまざまな刺激を受けて日経の報道自体が変わることもあるだろう。シナジー効果が広がりそうだ。

 日経による買収は英メディアを驚愕させた。アクセル・シュプリンガー社が買収するという報道が出た直後の日経買収合意の報道であったこと、西欧圏ではなく日本という言葉も文化も大きく異なると考えられる会社が買い手であったためだ。

 大きな不安感と懸念も広がった。大規模な人員削減があるかどうか、編集権の独立が維持されるかどうかー。

 英国では新聞社が統合・整理を行い、大幅な人員削減を行うのは日常茶飯事だ。また、外国企業にメディアが買収され、「削減しない」「編集権の独立を維持する」と新所有者が約束しても、結果的にはそうならなかった例(1980年代に豪出身のルパート・マードック氏によるタイムズ、サンデー・タイムズの買収や、同氏による、2007年の米ダウ・ジョーンズ社買収に伴う、ワシントン・ポスト紙の編集部刷新)が強い記憶として残っている。
 
 英国の新聞は17世紀、王室とこれに対抗した議会との戦いを報道することで大きく成長した歴史があり、「新聞=権力を監視するメディア」という意識が強い。いかなる権力からも独立していることが原則だ。その一方で、長年、富裕な所有者が自分の政治信条に沿った編集方針を新聞に持たせるという流れが続いてきた。

 所有者からの恣意的な干渉を受けずに、自由に、独自の立場から紙面を作ることは読者の信頼を得るためにも非常に重要であり、これを信条にしている新聞の一つがFTだ。

 ピアソンはFTの編集方針には一切干渉しなかったといわれている(ただし、編集長の選任権は持つ)。7月24日付のFTの投書欄には元編集長三人が連名で投稿し、日経に対し編集の独立性の保障を求めた。

 将来、日経が支持基盤として持つ日本の企業社会についてのスキャンダルをFTは自由に報道できるだろうか?また、日経本紙はどのように扱うか。FTと日経はそれぞれ異なる編集方針を持つため、特定の記事の扱いが異なるのは当然だが、場合によっては「遠慮して報道を控えた」と見られる場合もありそうだ。日経の報道姿勢に厳しい視線が向けられている。
by polimediauk | 2015-10-09 21:02 | 新聞業界
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(ラスブリジャー編集長の、現職での最後の記事ーガーディアンのサイトより)

 左派系高級紙「ガーディアン」の編集長アラン・ラスブリジャー氏が、29日、20年にわたる編集長職を終えた。ぼさぼさ頭に黒縁のめがね、学者然としたラスブリジャー氏が去るのは、寂しい思いがする。

 最も印象深い事件を一つだけ挙げると、あのスノーデン報道(2013年6月以降)が思い出される。これは、米英の諜報機関による、世界的な監視・情報収集体制を暴露した報道だ。情報源は元CIA職員エドワード・スノーデン氏(ロシアに亡命中)だった。

 「国家の機密を外に出す=国益に反する」報道について、英国政府、政治家、情報機関側から批判が出るのは避けられなかった。

 ラスブリジャー編集長は下院の内務問題委員会に召還され、報道の意義や負の影響について、下院議員たちに問いただされた。このような委員会には呼ばれるだけだって、びびってしまいそうである。「君はイギリスという国を愛していないのか」と聞いた議員もいた。

 ラスブリジャー氏はどんな質問にも堂々と、かつ熱意を持って答え、ガーディアンを痛めつけようとした議員の発言を見事に切り返した。なんとも根性が座った人だと思ったが、もちろん、後で判明するように、情報機関の役人から、スノーデン・ファイルが入ったラップトップコンピューターのハードドライブを破壊されるといった脅しも経験していた。

 スノーデン報道の前には、「メガリーク」という言葉を生んだ、内部告発サイト、ウィキリークスが媒介役となった、巨大な量の米軍の情報ファイルの暴露報道があった(2010年)。情報をリークした米兵チェルシー・マニング(当時はブラッドリー・マニング)は軍事関連情報をリークした罪などで、35年間の禁固刑を受刑中だ。

 メガリーク報道では、どんな内容になるかを事前に教えてくれと米政府関係者に電話で迫られたが、それには答えずお茶を濁した・・・という。(メガリーク報道にご関心のある方は、以前のエントリーをご参照されたい。)

 調査報道記者デービッド・リーが主導した、「エイトケン事件(武器調達の収賄事件)」もあった。ラスブリジャー氏が編集長になってからほんの3ヶ月の頃の話である。(以下、以前のエントリーから抜粋・引用。)

 1995年4月10日、ガーディアン紙は、ジョナサン・エイトケン財務副大臣(当時)が、サウジアラビアから兵器契約に絡んで賄賂を受け取っていたと1面で報じた。同紙とグラナダ・テレビの調査報道番組「ワールド・イン・アクション」(WIA)の記者による調査を基にしていた。WIAは、エイトケン氏の武器調達大臣時代の賄賂受領疑惑を「アラビアのジョナサン」と題する番組で、同日午後8時から放映予定だった。

 ところが、エイトケン氏は放映3時間前に記者会見をし、「嘘と嘘を広める人」への「戦い」を始めると宣言した。番組は放映され、同氏は名誉棄損で提訴した。

 有力政治家との真っ向からの対決である。

 しかし、同氏のパリのホテルでの宿泊代が賄賂であった証拠をガーディアンとWIAの共同取材が明るみに出し、1997年、同氏の敗訴が確定した。99年、同氏は偽証罪と司法妨害で有罪となり、18か月の実刑判決を受けた(実際の受刑は7か月)。裁判費用が膨らみ、同氏はロンドンの自宅を売却しても足りず、破産宣告を受ける羽目になった。

 ラスブリジャー氏の指揮下で、かずかずの調査報道が掲載されたが、近年はデジタルジャーナリズムへの投資で英国内外で広く知られるようになった。英国の新聞の多くがウェブサイトの閲読を有料化(メーター制)しているが、ガーディアンは過去記事も含め、すべてを無料でやっている。ここでも、筋を貫いた。

 「オープンジャーナリズム」(メディア組織に勤務する人員だけでコンテンツを作るのではなく、読者、視聴者、専門家、外部のITエンジニアといった、「他者」を巻き込んでコンテンツを作る)の提唱者でもあった。(ガーディアンのオープン・ジャーナリズム

 ラスブリジャー氏は編集長として最後の記事を書いている。

 これによると、その経緯は:

1979年:ガーディアンでの勤務開始
1988年:いったんガーディアンを離れていたが、特集面の編集者として戻る
1992年:小冊子「G2」を創刊(修正しました。)
1995年1月:編集長、就任
1997年:英新聞界では初めて、オンブズマン制度を作る
1999年:ウェブサイト「ガーディアン・アンリミテッド」開始
2005年:縦に細長い、ベルリナー判に変更
2006年:論考・オピニオンをブログ形式で出す「コメント・イズ・フリー」を開始
2008年:ロンドンのキングス・プレースにオフィスを移動
2010年:ウィキリークスのメガリークス報道
2011年:巨大電話盗聴スキャンダルを暴露
2013年:スノーデン報道
2015年5月29日:編集長として最後の日

 30日から、キャサリン・バイナー氏が編集長となる。創刊以来、初めての女性編集長だ。

 ラスブリジャー氏は夏から、ガーディアンを所有するスコット・トラストの会長となる。

 ご関心のある方は、ラスブリジャー氏やガーディアンについてはこのブログでもちょくちょく書いてきたので、ブログ内検索を使って、いろいろ探してみていただきたい。
by polimediauk | 2015-05-30 03:26 | 新聞業界
 (以下は「新聞通信調査会」が発行する「メディア展望」8月号に掲載された筆者の原稿に若干補足したものです。)

***

 去る6月9日から3日間にわたり、イタリア・トリノで世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が主催する「第66回世界新聞大会・第21回世界編集者会議・第24回世界広告会議」が開催された。WAN-IFRA(本部、独ダルムシュタット、仏パリ)は世界の新聞社の国際的な組織で、報道の自由、ジャーナリズムの質の向上、メディアビジネスの活性化などを主たる活動内容とする。

 毎年開催される新聞大会の最終日のセッションで紹介された「新聞界のイノベーション 世界リポート2014年」(英イノベーション・インターナショナル・メディア・コンサルティング・グループ作成)から、新聞社のデジタル戦略の成功例として頻繁に紹介される英フィナンシャル・タイムズ(FT)の事例を中心に見てみたい。

 レポートの冒頭には英BBCの元経営陣トップで、現在は米ニューヨーク・タイムズの最高経営責任者(CEO)となったマーク・トンプソンのエッセー「質の高いジャーナリズムはスイスの時計のように機能する」が載っている。

 高品質だが高価格の製品を生み出してきたスイスの時計業界は、安い時計が販売されるようになった1960年代以降、大きな経営課題に直面した。しかし、価格は低いがデザインに優れた「スワッチ」と高級腕時計の2つの流れを作ることで生き延びた。ネットで大量の情報が無料で手に入る現在も、ジャーナリズムに投資する伝統メディアには生き残る道がある、という主張である。「出所と説明責任、つまり原稿の背後には事実関係や報道について責任を持つ編者と発行人がいると知っていることが、以前にも増して重要になっている」。

 最初に取り上げられた事例がFTだ。同紙は電子版・紙版を合わせた発行部数が今年上半期平均で65万2000部に達した。前年比8%増。購読者の63%が電子版の購読者だ。広告収入よりも購読による収入のほうが多い。ジョン・リディングCEOは「広告収入はすばらしいが、読者と直接的な関係を作る(=読者からの購読料で運営)」方向に舵を切ったことを明言している(サイト「メディア・ブリーフィング」今年3月)。

 編集体勢も大きく変わっている。ライオネル・バーバー編集長は編集スタッフに向けて新編集方針をしたためるメールを複数回送っている。一部を抜粋すると、「紙版はグローバルな、1つの版のみを制作する」、速報よりも「文脈の中でニュースを出す」方向にシフトする、「電子版・日刊制作用の統合編集室の補完として紙版制作の小さな専従チームを位置付ける」、など。編集部全体の人員数を減らしながらも、電子版専従スタッフの比率を少しずつ増やしていった。

 電子版購読者拡大のけん引役は07年に導入した、メーター制だ。一定の本数の記事は無料で読めるが、それ以上になると有料購読者にならないと読めない。ここで獲得した読者の閲覧傾向を30人のスタッフによるデータ分析チームが徹底検証した。その成果の1つが、独自の速報サービス「ファーストFT」。24時間、リアルタイムで短いニュースを発信する。世界各地にベースを置く、ベテランの書き手が専従で担当している。

 デジタル化推進にはスタッフの頭の中を変える必要もあるということで、12年からは「デジタル学習ウイーク」と呼ぶトレーニング・セッションを継続して行っている。

 最終的に紙版は消えるのだろうか?

 バーバー編集長が米「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」誌(13年7月号)に語ったところによれば、「紙版には価値がある。それに、印刷された新聞を読む層が存在している」。どうやらしばらく継続しそうだ。「タブレットやデスクトップで読む場合と(紙版では)閲読感が異なる」とも語る。

 レポートはこのほかに米ワシントン・ポスト紙を個人で買った米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOの決断や欧州の新興ネットメディアを紹介し、300人以上の編集スタッフを一堂に集めるマルチメディアの編集室を新設したコスタリカのナシオン・グループの事例なども掲載している。
by polimediauk | 2014-09-10 18:41 | 新聞業界
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(オランダ「ブレンドル」を立ち上げたアレクサンダー・クロッピング。ブレンドル提供)

 イタリア・トリノで先週開かれていた、世界新聞大会(+世界広告会議、編集者会議)。毎年開催されている会議で、筆者にとっては昨年のバンコク大会についで、2回目の参加だった。(読売オンラインで大会の模様について2回書いているので、ご関心のある方は参考にされたい。「ネット時代のメディアの変革者」、「報道の自由を守る戦い」)

 今年の大会は、たった1年でこれほど変わるかと思うほど違っていた。自分自身が非常に知的刺激を受けた。そのいくつかをまとめてみた。

(1)クロスオーバーの時代(紙かデジタルかの二者択一ではない)

 米ニーマンジャーナリズムラボのコラムでも著名なケン・ドクターが、あるセッションのモデレーター役を行い、そこで言ったいろいろな言葉が刺激的だった。

 「インターネットが広く使われるようになって23年。私たちはいろいろなものごとを変えた革新的なデジタル時代の終わりにいる」、「終わりの始まりだ」という。

 「終わりの始まり」という言葉がしっくりきた。皆さんもそう思われないだろうか?ネットがあれば何でもできる、よい方向に物事が進むのだという「インターネットのユートピア主義」が終わったことを多くの人が気づいていると思う。グーグルは便利だが、その巨大さにやや疑問を持つようになった私たちだ。どんなに暗号をかけても、米情報機関が情報を収集できる状態にあることも分かってきた。

 インターネットで何ができるのか?改めての問いである。私たちは注意深くネットを利用する必要に迫られている。デジタル技術による変革が終わったわけではないが、一つの時代が終わりになりつつあるのだろう。

 そして、ニュースといえば「紙がネットか」という問いを発する人がいる。ネットでニュースを見る人が増えたから、紙の新聞はいらないのだ、紙の新聞は古臭い、もういらない、そうしたら、新聞社がつぶれてしまう、いやつぶれたっていいではないかー?妄想をどんどん進める人がいる。

 しかし、「ちょっと待てよ」と。

 実際には、世界の新聞のトレンドを見れば(これも新聞大会が毎年発表)、北米やオーストラリア、欧州では発行部数が大きく下落しているのだけれども、アジアでは増えている。世界は一様ではない。

 紙の部数が慢性下落の英国で、電子版購読者をどんどん増やしているフィナンシャル・タイムズやニュース誌エコノミストは、現在のところ「紙の発行も続ける」といっているし、紙は一部で続くのだ、これからも。みんながみんなタブレットを持っているわけではないし、紙のほうが都合がいいと思う人もたくさんいるのだ。

 そこでドクターが言うのは、私たちは現在、紙とデジタルが共存する「クロスオーバー(重なり)の時代に生きている」。二者択一ではなく、「重なり」なのだ。

(2)「紙がこれだけがんばっているぞ!」が消えた

 昨年の大会では、インドの新聞社の代表者が登壇し、「紙媒体がこれだけ伸びている」と自慢げに語ったものだ。現在もこの新聞はおそらく部数を堅調に伸ばしているのかもしれない。しかし、「紙でも大丈夫さ」、「これだけ出ているのだから工夫をすれば、まだいける」といった風潮が今年は消えた。

 紙「も」がんばっている、さまざまな工夫があるというアプローチはあったけれども、紙でもこれだけいけるぞという雰囲気はなくなった。紙媒体「だけ」でやろうというビジネスモデルが、片隅に追いやられた。

(3)新聞ニュースのキュレーションサービスが拡大

 日本で言うと、グノシー、米国で言えばフリップボードのようなサービスが、欧州でもどんどんと出てきた。特色として「大手新聞社・雑誌社が全面協力している」点がある。20代の若者たちが新聞社とライセンス契約を結び、新規のニュースサービスを開始している。

 例えばオランダのブレンドル(オランダの新聞社記事と英エコノミストの記事を掲載)だったり、スイスのワトソン(「シュピーゲル」記事を掲載)だったりする。今回の大会には参加していないが、私が以前に紹介したドイツのniiu(ニュー)もこれに入る。

 ブレンドルは記事を一本ごとに買える仕組み。ワトソンは閲覧が無料。Niiuは定額制だ。

 ブレンドルやniiuは、新聞社にとっては怖いサービスだ。1つの新聞社が電子版を月の購読料約3000-4000円(ニューヨークタイムズは5000円換算)で提供するところ、複数の新聞の記事が読めて月に1300円相当(niiu)だったり、バラ買い(ブレンドル)ができてしまうのだ。

「普段新聞を読まない若者に、ニュースを読んでもらうには、1つの新聞の記事が読めるだけじゃ十分じゃない」とブレンドルの共同創業者アレクサンダー・クロッピングは筆者に語った。「いろいろな新聞の記事を選べるぐらいじゃないとだめ。しかも1本をとても安く買えなければだめだ」。

(4)広告なしで、購読料のみでジャーナリズムを作る「コレスポンデント」

 オランダのコレスポンデントについては何度か書いた。大会にも出席していたので、後で編集長のミニインタビューを紹介したい。年間60ユーロの購読料を払ってもらう代わりに、広告をつけずにサイトを運営している。

 質のよい記事を読みたいという読者がいるからこそ、続くのだろうかー。そんな読者をどうやって作るのか、あるいは見つけたらよいのだろう?

(5)新しい組織でないと、できない

 オーストリア西部にラスメディアという複合大手メディアがあるのだけれども、ここの社長がプレゼンで見せた2枚の写真が忘れられない。1枚がいわゆる普通の新聞社のオフィスの様子。コンピューターがあって、机には山積みの資料。ごたごたしている。もう1枚が、スタートアップ企業のオフィス。「いかにも」という感じではあったが、白い長い机に、カラフルな椅子。机の上には果物が入ったかごが置かれている。全体的にすっきりしている。おそらく、前者で働く人はスーツを着ているだろうし、後者で働く人はTシャツにジーンズだろう。

 たかが服装、たかがオフィスのデザイン?いや、違う。この2つのオフィスでそれぞれ働く人の考え方は相当違うはずだ。違うからこそ、見た目も違ってくる。「見た目だけ」では決してないのだ。

 新しいことをやりたいと思ったら、どっちが適しているだろう?答えは一目瞭然だ。

 これに気づいたユージン・ラス社長は、新規ネットビジネスは別組織にするという。「勝手にやらせる」形を作る。

 「コレスポンデント」の創業者たちも「既存の組織にいてはだめだ」と思い、飛び出した。ウェブサイト「ネクスト・メディア」の編集長だったエルンストヤン・ファウスと全国紙「nrc.next」の元編集長ワインバーグの2人に会場で話を聞いてみた。今はファウスが発行人、ワインバーグがサイトの編集長だ。

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(「コレスポンデント」のワインバーグ=左=とファウス)

 どちらも20代で著名サイトや新聞紙の編集長になっていた。オランダではその年齢で編集長になるのは普通なのかと聞いてみると、「普通ではない。僕たちは特別に優秀だった」と語る。

 「既存のメディアにはない、新しいジャーナリズムを追求したかった」(ワインバーグ)。

 オランダに住む知人ジャーナリストに評判を聞いてみると、「前評判が高すぎて、実際にふたをあけてみたら、期待したほどではなかった感じもある」という厳しい答えが返ってきた。「でも、読者と記者がつながる形にしたのは新しいし、功績だと思う」。

 ワインバーグは、コレスポンデントの画面を見せながら、記事には「一般的なニュース」と、「専門的なトピック(経済、教育、テクノロジー、紛争、開発など)を扱うニュース」とがあるという。読者はそれぞれの専門を担当する記者をフォローできる。記者1人には「ガーデン」と呼ばれるミニ・ホームページを持たせている。自分の記事を掲載し、読者に対話を呼びかけ、取材中の原稿の進ちょく具合を報告する。

 「ネットサイトのジャーナリストのお給料は、既存メディアに比べて、かなり低いのではないか」、「書き手を見つけるのに苦労はしていないか」を聞いてみた。

 ワインバーグによると、報酬は「大手メディア以上とはいえないが、まずまず十分なほどを払えている」という。

 記事の本数のノルマはなく「書き手が準備が整ったときに原稿をこちらに送ってくれる」。直しは原則校正レベルで、ワインバーグが編集長としてあれこれいうことはないそうだ。原稿の発注はせず、書き手が自分で何を書くかを決める。書くほうにとっては書きたいことが書ける、天国のような場所なのだ(!!)

 ただ、サイトの品質コントロールのため、「書き手の選択にはかなりの時間をかけた」(ワインバーグ)。選りすぐった人がジャーナリストになっているのだという。

 伝統的なメディアの方はどうか?

 先日、ニューヨークタイムズの経営体制についての詳細なリポートが出て大きな話題となったが、あるセッションで、モデレーターが「あのリポートを読んだ人は?」と問いかけると、出席者のほとんどが読んでいた。

 デジタル化では進んでいる新聞社として知られている「あの」ニューヨークタイムズでさえ、実際は頭の切り替えが相当大変であったことをリポートは示したようだ。多くの人から「驚いた」と言う声を聞いた。

 同時に、「実はうちの新聞社でも編集スタッフの頭の切り替えに苦労している」という人も結構いた。つまり、「紙の新聞の1面に記事が載る=あがり」と考える記者たち、「ネットを敵と見る」、「ソーシャルメディアを自分では使っていない」などなど。

 伝統的な会社を一生懸命、デジタル化に対応させようとするより、いっそ、新しく始めたほうがいいーそんなことも1つ、いえるかもしれないと思った。

(6)コミュニティー=ニュース空間

 去年の大会で、グーグル本で知られる米教授ジェフ・ジャービスが、、これからのメディアは「関係性を読者と持つ形をとる」、と言っていた。読者とのコミュニティー空間=メディアである、と。

 実は去年はこれを聞いたとき、分かるようで分からなかった。「そんなこと言っても、どうやって運営費を稼ぐのか?いわゆる、マネタイゼーションはどうするの?」と思ったからだ。お金が稼げなかったら商売にならないし、絵に描いたもちだな、と。

 ところが、最近は米国で大手メディアにいたジャーナリストがどんどん新しいネットサイトを作ってゆくようになった(ネイト・シルバー、グレン・グリンワルドなど多数)。それでもぼうっとした認識だった。力があるジャーナリストがファンを作り、ファンを中心に読者を増やし、コミュニティーを作り、サイトとしてもどんどん力をつけてゆくー。すごいなあと思いながらも、xxさん(著名ジャーナリスト)だからできたのだろう、米国だからできたのだろうと漠然と思っていた。

 しかし、今年、初めてその意味がわかった。

 つまり、フェイスブック、ツイッター、ライン・・・なんでもいいが、私たちの多くは何かを読んだり、見たり、知ったりする行為をソーシャルメディアで、つまり知っている人やフォローをしている人の口コミで行っていないだろうか?

 テレビ番組だってそうだ。日本でいくつか非常にヒットした番組がいくつかあったとして、その番組について友人、知人、学校や会社の仲間同士で話題にしなかっただろうか?これが「コミュニティー」であり、「関係性」だ(私の解釈によれば)。誰かが何かコメントしたことで、あるものについて知ったり、価値判断をしたり(物を買ったり)しているわけだ。

 私は結構ツイッターをよく使っているが、面白いと思ったことについて、あるいは読んでもらいたい記事があるときなどに情報を出しているのだけれども、決して強制ではない。情報を広めたい、シェアしたいという自然な気持ちでやっている。仕事ではないのである。一種のコミュニティー、関係性がそこにある。

 単に、私も、そして互いにフォローしあう人たちも、興味や関心が共通しており、「自分と同じようなことに関心のあるxxさんが見ている情報って、何?」という自然な、非常にゆるいネットワークである。実は「ネットワーク」とさえ呼べないような、ふわふわとしたものだ。いわゆる「サロン」でさえもない。中心がないような、非常にかるーい、興味+関心で結ばれた層なのだ。

 もしこれも「コミュニティー」と呼ぶなら、コミュニティーそして関係性が今、ニュースを出してゆくときにも強く求められるようになった。ネット上の口コミで情報が広がってゆく。メディアができることは読者との関係を作ることなのだーーこれでやっと、ジャービス教授が去年に言っていたことに納得がいった。

(7)ネットで書かなきゃ、だめ

 ネットの世界がすべてではもちろんないが、何らかの形でネットに自分が思うところを出していくことは重要だ。もしあなたがニュースの世界で生きているならばー。ずっと昔は、紙媒体=表、ネット媒体=オータナティブという裏表のような関係があったと思う。今はだんだんそうではなくなった。ネットが表になってきた。

 ネットで発言しないと意味がないぞー。これをひしひしと感じて、帰ってきた。

 私自身はフリーランスとして、主として紙媒体に書いて生活を支えているのだけれども、収入の大小にかかわらず、「ネット=表」として活動していかないとまずいことになるなと感じた。自分にとっては、大きな宿題ができたことになる。

 最後に:日本の情報をもっと外に出そう

 今回は朝日新聞社取締役(デジタル・国際担当)西村陽一氏が登壇。朝日のデジタル戦略の目新しさに会場内が感心していたようだった。

 日本も先のグノシー、ラインに限らず、面白いメディアのスタートアップがたくさんある。日本の外でこれをプレゼンし、ほかの国のスタートアップと情報交換するのは、大いなる刺激になるに違いない・・・。そんなことを思った。来年は、どんな風になっているのだろう。
by polimediauk | 2014-06-17 17:24 | 新聞業界
(以下は、「新聞協会報」5月13日付掲載の拙稿に若干補足したものである。)

ー業界からの独立性を高める意図

 来月、英国の新聞・雑誌業界に新たな規制・監督組織が立ち上がる。

 大衆紙の大規模な盗聴事件発生への反省を機に設立される「独立出版基準組織」(通称「IPSO」=Independent Press Standards Organisation)だ。報道基準の遵守体制を厳格化し、巨額の罰金を科す力を持つ。先に自主規制組織として機能してきた「報道苦情処理委員会(「PCC」=Press Complaints Commission)」の後を引き継ぐもので、IPSOが発足次第、PCCはなくなる。

 IPSOには多くの新聞社が参加する見込みだが、主要新聞のいくつかは参加を保留中だ。

 設立までの経緯やPCCとの違いに注目してみた。

ー大衆紙の盗聴事件を受けて

 IPSOのキーワードは「新しい」、「毅然としている」、「独立」だ。「独立」は外部の組織の意向を受けないという意味とともに、新聞・雑誌業界内の権益との癒着がないことを示す。

 業界から真に独立しているかどうか、実際に自分たちの報道不正をどれだけ果敢に裁けるかーこうした点が新規制組織の評価の勘所となる。

 組織発足までを振り返ると、きっかけは2005年に発覚した、日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」による、政治家、著名人などに対する携帯電話の伝言メッセージの盗聴疑惑であった。

 2011年7月、盗聴の犠牲者の中に失踪した14歳の少女がいたとガーディアン紙が報道し、国民的な関心事となった。

 ニューズ紙は報道から数日後に廃刊され、まもなくしてキャメロン首相が新聞界の文化、慣行、倫理について調査する委員会(判事のブライアン・レベソン氏が委員長)を立ち上げた。

 12年末、レベソン委員長が報告書を提出。委員長は報告書の中で、PCCが盗聴疑惑の解明に不十分な役割しか果たせなかったことを指摘し、新たな規制・監督組織の立ち上げを提唱した。

 新聞界は新組織の設立におおむね同意したものの、報告書が組織の発足を「法令に基づく」と書いたことで、大きく反発した。英新聞界は法令によらず、自主規制で活動を続けてきた長い歴史があるからだ。

 業界内で代替案を統一できないままに時が過ぎた。その後、報道被害者を支援する団体「ハックトオフ」のロビー活動もあって、レベソン提案を具体化するための政治的動きは途切れることはなく、13年3月、与野党3党は法令化にはよらず、女王の勅許(「王立憲章」)による設置案で基本合意した。10月、女王の諮問機関・枢密院がこの組織の設立を承認した。

 しかし、この後、新聞界の調整は難航した。政府案には乗らず、独自にIPSOを設置する動きでまとまるようになったのが13年末であった。

ーPCCでは不十分

 PCCは1991年、大衆紙による著名人のプライバシー侵害記事が相次いだことへの反省から発足。自主規制組織として先に存在していた新聞評議会(1964年発足)を刷新させた。

 「新聞の自主規制体制を管理する独立組織」として新聞社、雑誌社が加盟し、報道についての苦情処理を主な任務とした。運営資金は加盟社からの拠出金により、その管理は別組織の「新聞基準財務機関」(PressBof)が行った。

 別組織で報道倫理規定委員会(業界関係者がメンバー)を作った倫理規定を元に苦情を処理した。

 PCCは新聞・雑誌社から拠出金を受け取っているが、業界からは独立した組織とする。

 その構成は

 (1)PCCの方針を決める委員会(17人体制、委員長を含めた10人が業界関係者)

 (2)事務局

 (3)問題が生じたときに業界とは別の見方ができる「独立査定者」

 (4)任命委員会(3人体制、委員長、PCCの会員、独立査定者)―であった。

 レベソン報告書はPCCを強く批判していた。業界からの「独立性に欠けていた」、「苦情が取り上げられても、対応は不十分で、PCCに批判されたジャーナリストへの懲罰行為が欠けていた」。さらに、PCCは新聞界への批判を阻止し、「盗聴事件への調査ではニューズ紙を支持したことで、信頼を失った」。

 新設されるIPSOはPCCとは違う組織であることを明確にしなければならなくなった。業界外の人材の投入割合を大きくすることで業界からの独立性を高め、本格的な自主規制・監督組織となることを目指している。

 ウェブサイトによると、IPSOの機能は:

 (1)「報道規定の違反に関する苦情を処理」

 (2)「規定が遵守されているかどうかを調査」

 (3)「内部告発用ホットラインの設置」、

 (4)「苦情を持つ読者と出版社側との間に裁定サービスを提供」

 など。

 重大な規定違反、不正などがあった場合、最大で100万ポンドの罰金を科す力も持つ。

 調査の実行、ホットラインの設置、裁定サービスの提供、罰金を科すなどの機能はレベソン報告書が提案した規制組織、そして昨年与野党が合意した規制組織案にも入っていた。IPSOはレベソン案をほぼ踏襲した組織になり得る。

 IPSOに参加を希望する出版社は会員合意書に署名する(6年間有効)。IPSOの規則を変更する場合、会員全体の66%の得票が必要だ。取締役会と苦情を処理する委員会のそれぞれが12人体制で、7人が業界外の人物、5人が業界関係者(全国紙から2人、地方紙・スコットランド紙から2人、雑誌から1人)とする。運営資金は全国紙が62.4%、地方紙が32%、雑誌が5・6%を負担する。

ー真に独立しているか?

 IPSOの取締役任命委員会(5人体制で、3人が業界外の人物、タイムズ紙編集長、元地方紙編集長)は、今年2月、取締役会の会長職を公募し、4月29日、控訴院判事アラン・モーゼズが選出されたと発表した。「IPSOが新聞界から十分に独立していないという懸念がこれで緩和されるだろう」(業界紙プレス・ガゼット、同日付)。一方、ハックトオフは「新聞大手が実権を行使するようになるだろう」とする声明を発表した。

 IPSOに参加していない大手紙はガーディアン、インディペンデント、経済紙フィナンシャル・タイムズだ。IPSOの業界からの独立性に疑問符がついていることがネックと言われている。

 FTは組織には加わらず、独自の苦情処理体制を設置すると発表した(4月17日付)。編集上の苦情を受け付ける職を新設する。この人物は編集長からは独立している。また、読者が記事の内容についてコメントを残したり、編集スタッフと意見を交換する機会を拡大する。

 大規模盗聴事件で、国民の新聞報道への信頼感は損害を受けた。はたして、失われた信頼をIPSOは取り戻せるだろうか。
by polimediauk | 2014-05-20 06:48 | 新聞業界
 ロンドンで、新たなテレビ・チャンネル「ロンドン・ライブ」が先月末、放送を始めた。チャンネルのオーナーは、ロシア出身の英国人エフゲニー・レベデフ氏だ。高級紙インディペンデント、無料夕刊紙ロンドン・イブニング・スタンダードなどの所有者でもある。新聞だけじゃなく、テレビまで持ってしまったのである。

 まだ始まったばかりで、今のところ若者をターゲットにしたようなトーンが目立つ。しかし、まだまだどうなるか分からない。何とか、続いてほしいものだ。

 デジタル時代のテレビチャンネルの開始ということで、サイトで一部生放送が見られるようになっている(少なくとも英国では)。視聴者からのフィードバック、投稿もどんどん受け付けている。さて、どうなるだろうー?

 月刊誌「新聞研究」の3月号に、「世界のメディア事情 ―英国」編を寄稿した。タイトルは「英インディペンデント紙に売却話 ―紙受難時代の生き残り策とは」である。

 以下はそれに若干付け足したものである。部数が少し前の数字なのだが、現在もそれほど変わっていないので、トレンドをつかむことはできると思う。

発行部数はどんどん下落、そしてインディーは?

 長年、新聞の発行部数が下落傾向が続く英国で、4大「高級紙」の1つインディペンデントが売却先を探している。以前からその噂はあったものの、同紙関係者が年明けに買い手を探していることを公にした(ちなみに、今年3月の話として、先のエフゲニー・レベデフ氏は「買いたい人があれば、真剣に考える」という意味であると述べている)。

 インディペンデントこと通称「インディー」は2010年、元KGB職員で富豪のアレクサンドル・レベデフ氏(エフゲニー氏の父親)が負債を背負う代わりにほんの1ポンドで買収した。一旦は息を吹き返したと思われたが、膨らむ損失をカバーしきれなくなったようだ。英国新聞界の紙媒体受難時代を表す事例となった。

 インディーのこれまでとガーディアン紙の販売努力に注目してみた。

大衆紙、高級紙、日曜紙とは

 英国の新聞は頻度(日刊、週刊、平日版、日曜紙など)、大きさ(大判ブランケット判、小型タブロイド判、細長いベルリナー判)、内容や読者層の違い(大雑把には大衆紙と高級紙)、発行地域(ロンドンで発行される全国紙とそのほかの地域の地方紙)などに分かれている。

 タイムズ、デーリー・テレグラフ、ガーディアン、インディーが4大高級紙(経済専門のフィナンシャル・タイムズ=FT=も入れると5大高級紙)だ。主として知識層を対象としている。

 大衆紙はサン、デーリー・ミラー、デーリー・メールなどで、高級紙よりも文章が読みやすく、誇張した表現が目立つ。芸能人のゴシップや人物を中心に据えた、感情に強く訴えるものが多い。

 各紙の共通の悩みは発行部数の下落だ。英ABCの調べでは、ほとんどの新聞が前月比で部数が減少している。前年同月比では二ケタ台の下落という新聞もある。

 まさにこの「二ケタ台」に入るのがインディーだ。12月の発行部数は6万7266部。前月比で0.66%減だが、前年同月比だと13・8%となった(ちなみに英国の人口は日本の半分である)。

 だし、ウェブサイトのブラウザー数は、そのほとんどが各紙ともに前月比及び前年比で大きく伸びている。インディーの場合も例外ではなく前月比で5.45%増、前年同同月比で39・64%増。紙受難の時代である。

ネットと廉価版に押されて部数が激減

 同紙の栄枯盛衰は、現在の英新聞界の縮図のようだ。

 1986年の創刊後、一時は40万部ほどまで部数を増やしたが、低価格競争、ほかの高級紙の支配的位置に押され、2003年ごろには20万部前後まで落ちた。同年秋、通勤電車の中でも読みやすい小型タブロイド判に転換させて人気を回復させたが、次第にまた部数が下落した。ほかの新聞がウェブサイトの拡充に力を入れる中、インディーは同規模の投資をできずに年月が過ぎた。

 一時は廃刊の噂も出たが、2010年2月、レベデフ氏に買収された。同氏は、同年10月、インディーのコンテンツを使いながらも一つ一つの記事が短く、若者層を主要読者とした簡易版「i」(アイ)を創刊。値段はインディーの当時の価格の5分の1(20ペンス)であった。

 このときのインディーの発行部数は約18万部だった。2年以上がたち、7万部を切るまで落ち込んだが、アイは29万2488部に到達。読者は安く、さっと読める新聞を求めていた。

 インディーとその日曜版インディペンデント・オン・サンデー、アイとその日曜版を発行するインディペンデント・プリント社は2012年9月決算で175万ポンドの営業損失を抱えている。

電子版の成功例はFT

 英国の新聞の電子版で最大の成功例はFTだ。一定数が無料で読めるメーター制を巧みに使い、電子版購読者が紙の販売部数を超えている。

 テレグラフは昨年春からメーター制を導入した。タイムズとサンデー・タイムズは有料購読者にならないと一本も読めない制度を2010年から始めた。昨年10月、両紙の電子版の有料購読者数は15万人に達したという(両紙の発行元ニュースUK社の発表)。

 同じく同社が発行するサンは、昨年8月から有料閲覧制をウェブサイトに導入。サッカーのプレミアリーグのハイライトを視聴できることなどを売りに、年末までに11万7000人の購読者を獲得した。

ガーディアンはどんな工夫をして紙を売っているか

 紙媒体の販売戦略として、ガーディアンは同紙の日曜版に相当するオブーザーバー紙と共同キャンペーンを展開中だ。

 例えば、ガーディアンの土曜日付を買うと、2週間分のクーポン・シートが付くというキャンペーンをやっていた。シートにはミシン目が入っており、14枚のクーポン券となる。2枚分がオブーザーバー用、12枚分(月曜から土曜日の6日間x2週分)がガーディアン用だ。

 1枚をちぎって、小売店でガーディアンあるいはオブザーバーを買うと、店頭でクーポンに記載された金額分が引かれる。

 また、両紙の掲載記事の中から、特に若者にアピールしそうな記事(著名人のインタビュー、娯楽系のトピック、社会問題など)を選び、小型タブロイド判の数ページの新聞にし、街頭で配るという手法も実践している。若者層は紙の新聞を取るという行為自体になじんでいない場合があることを想定し、まず手にとって、読んでもらうことを狙っている。

 紙の新聞が売れなくなっている英国で、様々な試みが行われている。

 どこも大変なのである。
by polimediauk | 2014-04-03 07:55 | 新聞業界
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 今回は、英日曜紙オブザーバー編集室の見学記である。

ーモダンなビル

 オブザーバーは前回紹介したサンデー・タイムズのようにいろいろなセクション(付録、雑誌など)が本紙につ
く。いずれもカラフルでレイアウトに凝っている。サンデー・タイムズよりももっとリベラルで、社会正義のための企画を出すことが多いように思う。

 オブザーバーの編集室は日刊紙のガーディアンと同じビルにある。とてもモダンなビルで、美術館と見間違えるほどだ。

 編集室のレイアウトはサンデー・タイムズと非常によく似ている。違いは、カラフルな待合室、ミーティング用のソファーがあちこちに置かれているところだ。

 案内は午前10時過ぎに始まったので、ちょうど、ガーディアンの編集会議が進行中だった。会議室の1つには、長い黄色のソファーがいく列にも並んでいる。一方のソファーにはガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長が座り、編集部員たちが向かい合うソファーに座っていた。結構、「上から」という感じに見えたが、どうだろうか。もっとフラットな感じかなと思ったので、意外だった。

 部内の壁に、その日のガーディアンの紙面をそれぞれ印刷したものが貼り付けられていた。この貼り付けたものを使って、編集部員らが議論するようだ。

 ガーディアンの編集室を過ぎて、オブザーバーの編集室に入る。ここでも壁にはいくつかの紙面が貼り付けられていた。この日は木曜日。まだ少ししかできていない。貼られていたのは「ニューレビュー」という冊子の紙面だった。これは紙の質も本紙と少し変わっていて、とてもきれいな冊子である。

 面白いのは、マルチメディア用の施設(ガーディアンと共用)で、ミニスタジオがいくつもあった。記者はマルチメディア(ビデオ、音声)をやることも要求される。マルチメディア専門の人がいるというよりも、「すべての記者がやれるのが原則」なのだ。

 社内には、3匹の子豚のぬいぐるみも置かれていた。3匹の子豚がニュースの中心になり、これをテレビ、ウェブサイト、紙の新聞で読むというテレビのコマーシャルを作ったときに使われたぬいぐるみを模したものだった。

 オブザーバーの編集スタッフは数十人だが、記者は一ケタ台であるようだ。相当にギリギリの数字である。

ー紙の新聞を読む若い人は少ない

 案内をしてくれた人の話によれば、若い人の間で紙の新聞を読む人は少ないし、周りでもほとんどいないという。それは「ウェブ上でただで読めるから」。言外に、「だから、お金がもうからないのも当たり前だよ」という感じだった。

 ガーディアン、オブザーバーはウェブサイト(両紙で共通)上の記事の閲覧を無料にしている。携帯機器で読むための有料のアプリを提供し、そこそこ売っているけれども、このアプリを買わなくても実際には無料で記事が読める。

 紙の販売・広告収入が大部分で、デジタル収入の比率は小さいが、デジタル収入のみに注目すると前年比「30%増」だという。

 ガーディアンやオブザーバーの記者などが講師として教える「マスタークラス」という収入源もある。記者が調査報道のやり方を教えるなど。受講者として出席するには1回で300ポンド(約4万7000円)、400ポンド(約6万3000円)に上るー決して安くはない。

 収入拡大の期待がかかるのはウェブサイト上の動画につける広告だという。

 英国に「プレスクラブはあるか?」とも聞いてみた。案内をしてくれた人は、親善クラブのように解釈したが、日本の記者クラブに相当するものはないのかと踏み込んで聞いてみると、「(ほとんど)ない」とのこと。唯一、似ているものは国会記者クラブ。国会記者証を持たされ、議場にプレスとして入ることができたり、官邸のブリーフィングに出られる。省庁の建物の中にオフィスを置いて、情報を得る形はとっていないのかというと、必要がないという答えだった。省庁の方からプレスリリースを出すなど、何でも今はネットで情報が公開されているからだ、と。

ージャーナリストになるのは難関

 英国で大手メディアのジャーナリストになるのは、かなりの難関だ。サンデー・タイムズでも採用するのは年に2-3人。この枠に入るのは相当難しい。

 そこで、たいていの人が親や親戚、友人・知人のつてをあてにする。今回、サンデー・タイムズやオブザーバーを案内してくれた人もそれぞれ、家族がマスメディアに何らかのコネを持っていたので、最初に足を踏み入れることができた。最近はジャーナリズム学校を通じて入る人もいるという。

ー売る努力

 オブザーバーのオフィスに行く前に、最寄のキングスクロス駅近くの道路の交差点で、「週末版」を宣伝する人が何かを配っていた。見てみたら、ガーディアンとオブザーバーからいくつかの記事を抜粋した、数ページの特別版だった。

 これとともに、小型カードに見えるチラシもくれた。紙が小さく折られているのを開けてみると、クーポンだった。1枚1枚を切り取って、お店に行けば、その日のガーディアンやオブザーバーを安く買える。

 ガーディアンやオブザーバーがいつまで存続するのかは分からないが、無料化した夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」のかつての販促を思い出した。なんだか、涙ぐましい努力であった。

 今回の訪問の次の日曜日、私はオブザーバーを買った。月に一度、「テック・マンスリー」(テクノロジーとサイエンス特集)の小冊子がつくことになったのだ。レイアウト、紙の質、発想、記事の内容など、こちらの頭を大いに刺激してくれる。

 それからほぼ毎日、クーポンを使いながら、ガーディアンやオブザーバーを買い続けている。
by polimediauk | 2013-09-22 18:33 | 新聞業界
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 (ニュースUK社が発行する、サン紙とタイムズ紙)

 今月中旬、英日曜紙サンデー・タイムズと同じく日曜紙のオブザーバーの編集室を知人とともに訪れる機会があった。

 短時間の訪問だったが、生の空気を吸って見えてきたことがいろいろあった。ここで、概要を紹介してみたい。

 その前に、「日曜紙」の意味を簡単に説明してみよう。

 英国の新聞は発行日の違いから、月曜から土曜まで発行される日刊紙(平日版)と、日曜日にのみ発行される日曜紙とに分かれる。キリスト教の教えの影響で日曜は長年「特別な日」と考えられ、両紙はそれぞれ別個に発展してきた。発行元は同じ場合でも、日刊紙と平日紙ではそれぞれ編集長や編集スタッフが別になる。

 4大日刊高級紙デーリー・テレグラフ、タイムズ、ガーディアン、インディペンデントの系列日曜紙は、それぞれサンデー・テレグラフ、サンデー・タイムズ、オブザーバー、インディペンデント・オン・サンデーとなる。

 日曜紙はその週を振り返る解説記事や読み物的記事に加え、テレビ・ラジオの番組予定の小冊子、数々の特集の小冊子、映画のDVDなどがつく(最近は経費節約のためか、DVDがつくことは少ない感じがする。)かなり分厚く読み応えのある日曜紙だけを購入する人も多い。

 一方、月曜から土曜まで発行される平日紙だが、土曜日版は普段の日よりも厚い。日曜紙をほうふつとさせる解説記事、読み物、番組予定の小冊子などがつく。土曜日版は日曜紙のライバルともいってよい。

 近年は、日刊紙、日曜紙、ウエブの編集部門を統合する現象が発生している。理由は経費節約だ。紙の新聞の発行からの収入にたよってきた新聞社の経営は苦しくなっている。

ーサンデー・タイムズ

 米メディア企業ニューズ社(ルパート・マードックが会長)の傘下にあるニューズUK社が発行するのが大衆紙サン、日曜大衆紙サン・オン・サンデー、高級紙タイムズ、日曜高級紙サンデー・タイムズだ。

 この複数の新聞を制作するビルは、ロンドンの地下鉄タワーヒル駅から、ワッピング方向に歩いて数分の場所に建つ。新しいビルだが、周囲は3メートル以上もの高い塀に囲まれていた。

 編集室の案内が始まる前に、テーブルに新聞を広げて紅茶を飲んでいたら、横にあった自動販売機にアジア系女性(50代ぐらい)が来て、チョコレートを買っていた。担当は、投書欄だという。何人でやっているかと聞いたら、2人でと聞いて、びっくりした。ずいぶんと少人数でやっているのだなあ、と。もっと若い人がやっている印象があった。(後で考えると、週に1回の発行だから、少人数でも驚くほどではないのかもしれない。)

 ツアーは午後3時半過ぎに開始。広い、近代的な編集室に大きな画面のコンピューターが乗っている机が整然と並んでいる。ところどころに、新聞が積んである。昔の日本の新聞社の編集室を思い浮かべるとずいぶんと違うが、日本では今はこんな感じのようだ。

 タイムズの編集室は別フロアにあったので、案内されたフロアはサンデー・タイムズのみである。

 ニュース、特集(「フォーカス」)、雑誌(後述)、スポーツ、ビジネス、写真などのコーナーに連れて行ってもらって、その時々、紹介された。それぞれ、紹介された人が立ち上がって、挨拶してくれる。

 特集面のデスクの一人が通りかかり(女性)、今度のトピックは東京五輪で、超ハイテクになりそうだということを書くという。

 ほかにもデスククラスで、小部屋に入っている人が女性。結構、編集幹部で女性が多いというか、目に付いた。たまたまかもしれないが。

 女性記者の一人は、ハイヒールで短距離を走った人の話を書くそうで、自分も一緒に走るのだといってうれしそうに話してくれた。

 声を荒げるような人はおらず、整然と、静かに、編集作業が続いている感じがした。

 個人的に面白かったのは、写真のコーナーである。写真デスク(50-60歳前半ぐらい)の人と少し話した。24年ぐらいサンデー・タイムズで働くという。どれぐらいのスタッフがいるかと聞いてみたら、社員としてはゼロだという。

 昔はたくさんいたそうだが、今は社員としては雇用としてない。その代わり、フリーの人をどんどん使うという。働くほうからすると、不安定である。しかし、これが現実なのだ。サンデー・タイムズに載るといわれて、いやというフリーの人はいないだろう。

 このデスクが、引き出しから取り出したのが分厚い手帳。これはフリーの人などの連絡先が入っている、ずしっとしたものだった。かなり年月がたっているし、使い込まれている。この手帳こそ、彼の財産であり、サンデー・タイムズの財産でもある。

 (余談になるが、テレビや新聞でフリーの人を使う場合は非常に多い。たとえば、3・11の震災とその後の原発事故で、BBCの報道がすごいと日本でほめた人がいるそうだが、BBCの社員が作った場合もあれば、フリーのジャーナリストたちが取材・制作したものをBBC枠で流していたという面もあったと、知人から聞いた。)

 一通り終り、紅茶を飲んでいたテーブルに戻って、紙面を説明してもらった。

 サンデー・タイムズはポジション的にはタイムズの日曜版といってもいいのだが、もともとの誕生の経緯は違う。それでも、前の経営者でカナダ出身のトムソン一家が2つとも買って(サンデー・タイムズは1959年、タイムズは1966年)、ずっと続いてきた。後にマードック氏が買収した(1981年)。

 日刊のタイムズは保守系・伝統的高級紙(ただし、英与党の保守党支持ではない)といってよいだろうと思う。サンデー・タイムズはタイムズよりもちょっとリベラルだろうかー?

 サンデー・タイムズは高級紙・日曜紙の部門では一番売れている新聞で、今は100万部ぐらい。ただ、どんどん部数は落ちている。タイムズは40万部ほどだ。

 サンデー・タイムズに限らず、日曜紙はたくさんの別冊がつく。本紙、付録・別冊として、自動車・運転、スポーツ、ビジネス、求人、それに「ニュースフォーカス」という別冊がある。これとは別に、2つの雑誌がつく。1つは若い女性向け(ファッション、料理、化粧、ゴシップ)と、文化・書評・映画評・テレビ・ラジオ欄の「カルチャー」。「カルチャー」はなかなか、読み応えがある。新聞の文化批評(本、映画、テレビ、ラジオ、演劇、音楽など)は英国知識層にとって、欠かせない存在。これを読むか、内容を知っていることが大切だ。

 サンデー・タイムズでは子供や若い人も読んでもらえるよう、マーケティング戦略を工夫している。その週は動物をテーマにした、ポスターをつけた。これを見ながら、家族で会話をしてもらうことを狙う。日曜は家族が一緒に、ゆったり過ごす日だ。

 英国の高級紙はすべて原則、全頁がカラーだ。サンデー・タイムズもそうだった。

ー相次ぐスクープ

 サンデー・タイムズはスクープ報道でも知られている。一体どうしたら、毎週毎週、スクープを出せるのかというと、政界やさまざまなところに情報のネットワークを張っている。常に仕込んでいるわけである。

 また、政界やビジネス界、そのほかニュースを報道してもらいたい側は、もっとも影響力が強い媒体を常に探している。日曜の朝、もっともインパクトの高い知的媒体はどこだろうか?サンデー・タイムズがトップに来る場合が多い。(でなければ、BBCの午前中のニュース番組。)

 サンデー・タイムズとタイムズがプッシュしている電子化の話では、購読者になると、「タイムズプラス」というクラブに入ることになる。そうすると、ウェブサイトで記事が読める(通常は、無料では読めない)と同時に、サッカーのプレミアリーグの試合の生中継などの情報、たとえばゴール情報などがスマートフォンなど携帯機器に独占的に送られる。

 メンバーになると、文化的イベントにも安く参加できたりする。クラブに入れば「知的エリート層」になった気分が味わえる・・・という風にして、売っているわけである。(次回はオブザーバー紙の訪問記)
by polimediauk | 2013-09-22 06:30 | 新聞業界