小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:新聞業界( 282 )

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(シブステッド社のウェブサイト)

 今回はノルウェーとオーストリアのメディア企業の取り組みを紹介する。

ーノルウェーの新聞業界とシブステッド社

 ノルウェーは人口約480万人を擁し、220-230の新聞が発行されている。

 メディア企業が会員となるノルウェー・メディアビジネス協会によると、人口の81%が新聞を読み、49%が オンラインで閲覧している。62%が一紙以上の有料購読者だ。ドイツ同様、幅広い層が新聞を購読している国と言える。

 新聞の総発行部数は220万部ほどで、12年は前年比3・8%の減少となった。

 最大の部数を誇るのがアフテンポステン(朝刊紙、約22万部)、これにビージー(VG=Verdes Gang=ヴェルデス・ガング、約18万部)、アフテン(アフテンポステンの夕刊版、約9万6000部)、ダーグブラデット紙(約8万8000部)が続く。

 メディア大手シブステッド社は1839年、クリスチャン・マイケル・シブステッド氏が立ち上げた。1860年に創刊したクリスチーナ・アドレッセブラード紙が、現在のアフテンポステン紙になる。複合メディア企業として7800人の従業員を抱え、29カ国で事業を展開している。

 シブステッド社のCEO、ロルフ・エリク・リスダール氏は12年版年次報告書に、「デジタルへの転換」と題した文章を寄せた。

 このなかで3つの目標を掲げ、「世界的なデジタルメディア企業になる」、「競争力とイノベーションを実行する」に加え、「クラシファイド広告に大きな重点を置く」と記している。クラシファイド広告戦略は市場制覇を最重視し、参画する市場の数を増やし、あくまでナンバーワンの位置を確保してこそ、意義があると強調する。

 戦略の柱となるのがメディアコンテンツの出版(電子版を含む)とオンラインのクラシファイド広告サービスだ。

 シブステッド社はノルウェー国内の新聞・出版、ウェブサイト運営のほか、複数の新聞、通信社、オンラインの金融サイトなどを所有・運営する。

 スウェーデンでは大手紙アフトンブラーデットやスベンスカ・ダーグブラデットを発行している。また、ノルディック地方最大のテレビ・映画会社メトロノーム社も所有する。「20分で読める」無料紙をフランスでは「20 ミニュット」、スペインでは「20ミヌトス」などの現地に適応した言語で発行する20ミン・ホールディング・エージー社も傘下に置いている。

 オンライン・クラシファイド広告分野は8つのサイトを運営中で、そのほか14のサイトについては該当市場で首位になるべく先行投資を続けている。

 8つのサイトとは、(1)フィン・ノー(ノルウェー)(2)ブロケット・セとビトビル・セ(両者ともにスウェーデン) (3)ルボノコワン・エフアール(フランス)(4)はアヌンティス(スペイン)(5) インフォジョブズ・ネット(スペイン)(6)ダンディル・アイイー(アイルランド)(7)スビト・アイティー(イタリア)(8)ウィルハーベン・エーティー(オーストリア)。

 そのうちのいくつかを詳しく見ると、

 (1)のフィン・ノーはノルウェーで首位のクラシファイド広告サイトで、車、不動産、求人などを扱う。携帯電話の利用が増え(利用者の30%を占める)、自動車部門の収入が前年比14%増、不動産部門は12%上昇した。

 (2)のブロケット・セはスウェーデンで最大規模のクラシファイド広告サイト。ビトビル・セは同じくスウェーデンのサイトで、車専用のクラシファイドサイトとして知られる。両者を合わせた収入は前年比12%増。

 (3)のルボノコワン・エフアールは、日に50万の案件が掲載されるフランスの著名サイト。前年比で収入は52%増加した。06年にスタートしたサイトで、当初シブステッド社は50%の株を所有、10年に全株を取得した。

 (4)以降は、市場でトップになるべく成長中のサイトだ。スペインのアヌンティスは複数の専門サイトの総合サイトとなっているが、2%の伸びにとどまった。26%と高率の失業率に悩むスペインで、インフォジョブズ・ネットも苦戦し、収入は12%減少した。

 本格運営に向けて投資段階にあるサイトは、欧州各国(ベルギー、ポルトガル、ハンガリー、ルーマニア、フィンランド、スイス、イタリア)、アジア(フィリピン、インドネシア、マレーシア)、ラテンアメリカ(ブラジル、チリ)、アフリカ(モロッコ)に広がっている。

 12年のシブステッド社の営業収入を見ると、前年に比べ増加しているのはオンラインのクラシファイド広告だけ。クラシファイド広告の営業収入は全体の四分の一を超えるまでに成長しており、同分野に力を入れる戦略もうなずける。

ーオーストリアのラス・メディアも独社を買収

 独アクセル・シュプリンガー社やノルウェーのシブステッド社のように、国境を越えてクラシファイド広告サイトを買収する動きは、他の欧州メディア企業にも広がっている。

 オーストリア最西部フォアアールベルク地方にある複合メディア企業ラス・メディアは、約1500人の従業員を抱え,2つの日刊地方紙フォアアールベルク・ナヒリヒテン(Vorarlberger Nachrichten 、通称VN、発行部数約7万2000部)、ノイエ・フォアアールベルク・ツァイトゥング(約2万5000部)を発行する。

 フォアアールベルクはスイス、ドイツと隣接し約37万人の住人がいるが、この地方のウィーンから西に700キロに位置するシュバルツァッハに本拠を置く。主力はVN紙で、フォアアールベルク州の新聞市場の57%を占め,読者のほとんどが定期購読者だ。

 2紙のほか週刊誌、ネットサイト、ラジオ局、ブロードバンドのインターネット・プロバイダー・サービス、携帯電話サービス「テルコ」(Telco)、地上電話通信サービス、ワイファイネットワーク、デジタル広告ネットワーク、保険契約、印刷工場を提供・運営する。ウィーンとザルツバーグに支店を置く。さまざまなメディアを保有しているため、フォアアールベルクの住民のほとんどが、同社のいずれかのサービスに接している。

 1945年の創刊以来、ラス家が経営を担当し、現在のユージン・ラス社長も同様だ。オーストリアをはじめ、ドイツ、ハンガリー、ルーマニアでも新聞を発行したり、ポータルサイトを運営しており、従業員の3分の1はデジタル部門で働いている。

 デジタル時代を生き抜くため、05年にドイツのクラシファイド広告会社大手クオーカ社を買収し、07年にVMデジタル社を設立した。

 クオーカ社はドイツで18の週刊新聞を手がけ、月約60万部を発行する。そのウェブサイトはドイツのクラシファイド広告サイトの最大手とされる。サイト上に掲載される自動車、不動産、美容グッズなど多種多様な広告は500万件を超える。

 VMデジタル社は、クラシファイド広告、モバイル、電子商取引の領域にあるオンラインメディア企業への投資や買収に特化する目的で設立された子会社。既に10以上のポータルサイトを手中にしている。

 今年6月上旬、タイ・バンコクで開催された世界新聞・ニュース発行者協会による世界新聞大会で、筆者はパネリストの一人として参加していたユージン・ラス社長と話す機会があった。

 ラス社長はスマートフォンを指さして、「この存在で、クラシファイド広告の将来像が大きくと変わった」と語った。「若者はわざわざコンピューターを開けて、モノを売買しない。携帯電話でさっと決済を済ませてしまう。ここに未来がある」

 「収入源として、クラシファイド広告を非常に重視している」と述べ、今後は利用者の好みにあったクラシファイド広告サイトが増え、合わせて大手企業に買収されるケースが増えるだろうと予測する。

 鍵を握るのは「いかに他にはない特徴を出せるか」。その具体例として、ラス・メディアはペット売買専用のウェブサイトをハンガリーで立ち上げ、重機械のクラシファイド広告を専門に扱うサイトをドイツでスタートさせたという。

 「紙の新聞業はオーストリアで十分収益を上げられるビジネスだが、これからはデジタル。しかも携帯機器を利用したアクセスの比重が増える」と見て、積極的なデジタル戦略を展開している。

(ラスメディアについては読売オンラインの拙稿もご参考に。)

ー終わりに

 米英のメディア動向を追っていると、「記事にどうやって課金するか」に議論が集中しがちだ。

 しかし、欧州大陸のメディア企業は新聞発行で蓄積したブランドと資金力を武器に、消費者同士がネット上で物品やサービスを売買するビジネスオンラインのクラシファイド広告に果敢に進出している。

 自分たちが発行する新聞にどのように広告を集めてくるかに頭を悩ませるよりも、利用者もそして広告主も「新聞メディア」という仲介を必要としない未来を察知して、ネット上の売買のためのプラットフォームを提供している。

 新聞を広げて求人広告をながめる習慣は今後、廃れていくかもしれないが、生活にかかわる情報の交換、売買はこれからも続く。ネットの普及で、売り手と買い手が直接、物を売買する行為はさらに盛んになるかもしれない。

 欧州メディアの試みは、これからの新聞と広告との関係を考えるうえで大いなる刺激となりそうだ。(終)

***

 「日経広告研究所報270号(2013年8月号)」に掲載された筆者記事に若干補足した。
by polimediauk | 2013-09-19 17:26 | 新聞業界
 先日、欧州の新聞社の経営をネット広告という観点から、レポートにまとめてみた。以下は「日経広告研究所報270号(2013年8月号)」に掲載されたレポート記事に若干補足したものである。

***

ーはじめに

 多くの人々がネット上でニュースを読むようになった。新聞各社は読者と広告主をいかにひきつけるかに知恵を絞っているが、デジタル収入が購読料や広告料といった紙媒体の発行に伴う収入を補うほどには成長していないのが実情で、欧米諸国の新聞社は苦しい戦いを強いられている。

 その打開策として、従来無料だったウェブサイトの閲読に課金制(いわゆる「有料の壁」)を導入するところが増えている。焦点は、新聞社の最大の売り物であるジャーナリズムコンテンツに、「ネット情報は無料」と解釈する利用者がおカネを払うかどうかである。

 欧州大陸の新聞社のなかには、課金制を段階的に導入しつつも、オンラインのクラシファイド(classifieds)広告(日本で言う三行広告に近く、「売ります」「買います」「募集」などの広告を地域やジャンルに分類して掲載する)会社を次々と傘下に収めることによって、デジタル収入を増やそうとする会社も散見される。

 ここでは、国境を越えたデジタル広告業界で収益を拡大しているドイツのアクセル・シュプリンガー社を中心に、ノルウエーのシブステッド社などによるネット広告会社の買収戦略を紹介する。

ー欧州新聞界概観

 まず、世界の新聞市場の中で、欧州の状況を見てみよう。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が今年6月上旬発表した最新版「世界の新聞トレンド」(世界70余カ国で発行されている新聞の2012年の数字。業界規模で90%を網羅)発行部数は前年比で0・9%減少した。地域別にみると、アジアは増加したものの、北米(米国・カナダ、6・6%減)、西欧(5・3%減)、東欧(8・2%減)が全体の足を引っ張った。

 2008年と比較すると、欧米諸国と他地域の差はさらに拡大する。北米は13・0%減、西欧は24・8%減、東欧は27・4%減と2ケタのマイナスが並ぶ一方、アジアや中東・北アフリカはそれぞれ10%前後の伸びを記録した。

 広告収入をみると、07年までは伸びていたが、08年から下落に転じた。12年の全市場平均は2%減だったが、08年と比較すると22%の減少だ。紙の新聞の広告媒体としての地位は明らかに揺らいでいる。

 一方、欧州委員会が作成した「新聞出版産業」リポート(12年発行)によると、欧州連合(EU)27カ国内の新聞社は約9000社(07年時点)にのぼる。これは雑誌も含めた出版業の1割に当たり、約30万人(フリーランスは含まず)が新聞社で働いている。

 一日あたりの新聞発行部数は減少傾向にあり、05年の8500万部が09年には7400万部になった。

 欧州諸国を新聞の発行部数の大きさで順に並べると、ドイツ(全体の28%)、英国(21%)、フランス(10%)、スペイン(8%)、イタリア(6%)、オランダ(5%)となる。

 広告収入は07年まで伸びていたが、08年から下落に転じた。欧州新聞発行者協会の調べによると、新聞社収入の約5割を広告料が占める。この割合が85%近くに達する米国に比べて、欧州の新聞社の方が経営のバランスがよいと言われるゆえんだ。

ードイツの新聞業界

 ドイツ連邦共和国(人口約8100万人)では、毎日約2280万部の新聞が発行されている(12年第3四半期、独ABC調べ)。前年同期と比較すると、約82万部(3・5%)の減少だ。

 ドイツ新聞発行者連盟によると、14歳以上の国民の70%が毎日、新聞を情報取得のため利用している。世界的に見ても、新聞がよく読まれている国と言えるだろう。

 この連盟は298の日刊紙(総発行部数約1650万部)と13の週刊新聞(同約100万部)の利益を代表する団体で、地方色が豊かなことが特徴。全体の95%が「地方紙・地域紙」のカテゴリーに入る。

 連盟のリポート(12年11月発表)によると、ドイツの新聞業の収入は、かつて広告が三分の二を占め、残りが販売・購読料だったが、01年から03年にかけての広告不況を経て、現在は比率が逆転した。11年の新聞界の年間収入は85億1000万ユーロと、前年の85億2000万ユーロをわずかに下回り(0.1%減)、広告収入は37億7000万ユーロと前年比で2・2%減少した。

 広告市場全体に占める新聞広告の割合も徐々に小さくなっており、2000年には29%だったが、11年には20%強となった。

ー独社、デジタル企業化を宣言

 アクセル・シュプリンガー社(Axel Springer、以下AS社と略)は1946年、アクセル・シュプリンガー氏が出版業を営む父の後を継いで立ち上げた。欧州で最大手の複合メディア企業の1つで、ドイツ新聞市場では最大、雑誌市場でも国内第3位に入る。約1万3000人の従業員を雇し、活動拠点はドイツのほかハンガリー、ポーランド、チェコ、フランス、ロシア、スペイン、スイスなど34カ国。230以上の新聞・雑誌を発行し、160以上のオンラインサービスを提供、テレビ・ラジオ局も保有している。

 ドイツ国内の日刊紙市場で23・6%のシェアを持ち、著名な新聞としては「ウェルト」(高級紙)、「ビルト」(タブロイド紙)、「ベルリナー・モーゲンポスト」(地方紙)、ポーランドのタブロイド紙「ファクト」など。ドイツ語版米「ローリングストーン」誌も発行している。

 最もよく知られているのがビルト紙で、発行部数は300万―400万部だが、1部を3人で読むと仮定し約1200万人の読者がいると同社は見ている。

 AS社は13年3月に発表した年次報告書の冒頭で「紙メディアは重要」としながらも、目指すのは「第一級のデジタルメディアグループとなることだ」と宣言した。(プレゼン資料もご参考に。)

 12年の年間売上高は33億1000万ユーロ(前年の31億8490万ユーロから3・9%増)にのぼるが、成長のけん引役は同22%増の11億7420万ユーロ(前年は9億6210万ユーロ)を達成したデジタルメディア部門だ。この大半が広告収入で、25・4%増の9億9200万ユーロ(前年は7億9120万ユーロ)を確保した。

 同社は近年、売り上げの半分をデジタル事業収入にする目標を掲げており、12年は同比率が37・2%(前年は約33%)になった。04年当時、総収入の98%は印刷物発行によるもので、デジタル収入は残り2%だったことを考えると、急激な変身を遂げていると言えるだろう。

 12年の紙媒体発行に伴う収入は前年比3・5%減だったが、広告収入は同9・4%増加した。

 AS社のデジタルメディア部門は3本の柱で構成されている。

 1本目は「コンテントポータルとほかのデジタルメディア」だ。収入は前年比27・8%増の3億8740万ユーロ(前年は3億300万ユーロ)。ビルトやウェルト、そのほかウェブサイトからの収入となる。

 2本目が「パフォーマンスマーケティング」で、同4・4%増の4億5660万ユーロ(前年は4億3720万ユーロ)。オンラインマーケティング会社ザノックスなどの収入だ。

 3つ目の「アクセル・シュプリンガー・デジタル・クラシファイド(Axel Springer Digital Classifieds、以下ASDC社)」は12年にAS社が70%、国際的投資会社グローバル・アトランティック社が30%を出資して設立した会社で、各国に散らばる傘下のネット広告企業を統括する。売上高は48・9%増の3億3000万ユーロ(前年は2億2180万ユーロ)。傘下にはフランスが本拠地のセロジャール・コム(不動産のサイト)、求人会社トータル・ジョブズ・グループのステップストーン、ドイツの不動産売買サイト、インモネット・デなどがある。

 最高経営責任者(CEO)のマティアス・デップナー氏によれば、同社のデジタル戦略が成功したのは、オンラインの求人、不動産広告などが貢献した面が大きく、ASDC社を立ち上げて、同部門の成長スピードをさらに上げ、国際的な拡大を目指している。

 クラシファイド広告戦略は、国際化と国内、地方化の2つの方向性を持つ。

 ASDC社は12年10月、ドイツの地域情報サイトであるマイネシュタット・デを運営するアレスクラー・コムを買収した。マイネシュタット・デはドイツの1万を超える市町村向けサイトのポータル(玄関)サイト、月間平均6700万人が訪れる。マイネシュタット・デ社のポータルサイト利用者は、地元ニュースのほか、求職、自動車あるいは不動産の売買、その他クラシファイド広告を目当てにサイトを訪れる。

 ポータルサイトには地域ごとのサイトが設定され、その地域独自の情報(都市・町の基本情報、余暇情報、イベント情報、映画の上演情報、ビジネスディレクトリーなど)が掲載されている。

 AS社によると、買収の目的は地方広告市場への参入だが、マイネシュタット・デ社のブランド力確保と全国レベルでの広告展開の補強という狙いもあった。

 AS社は、ネット専門の広告サイトを次々と買収している。

 09年には欧州内の求人情報サイト大手ステップストーン社を1億1100万ユーロで、2011年には仏のセロジャール社を6億3300万ユーロで買い取った。ステップストーン社は1996年にオスロで創業後、職探しサイトとして欧州内でサービスを拡大させた。ドイツ国内だけで毎月500万人を超える訪問者を誇る。

 自動車専門広告サイト、オートハウス24デ(19.9%株を所有)、不動産サイトのインモネット・デ、書籍、電子本、音楽などさまざまな電子商取引サイトのブエシェル・デ(33・3%株を所有)、金融情報サイト、フィナンゼン・ネットなども傘下に置いている。

 12年のステップストーン社による英トータル・ジョブズ社買収も、欧州内での拡大(国際化)、ネット広告部門の成長という両輪戦略のなかで重要な位置を占める。

 トータル・ジョブズ社は英国でトップの職探しのサイトだ(ユニークユーザーは月間700万人)。1億3200万ユーロで買収し、欧州の求人サイト市場で強固な地歩を築いた。

 AS社は昨年11月、ベルギーの不動産情報サイト、インモウェブを買収。サイトは月間240万人のユニークユーザーを持ち、13万600件余の情報を掲載する。

 同月には、スイスの複合メディア大手リンギエ社と折半出資のリンギエ・アクセル・シュプリンガー・メディアが、ポーランドのグルーパ・ワン・ピーエル社の発行済み株式のうち75%を取得した。ワン・ピーエルはポーランドのインターネット利用者の70%にリーチすると言われる大手サイトだ。リンギエ・アクセル・シュプリンガー・メディアはポーランド、チェコ、スロバキア、セルビアといった東欧や欧州中部で新聞・雑誌事業の展開を目指している。

 AS社は広告主に向けての情報開示にも力を入れている。ウェブサイトの場合、利用者の男女比率、年齢、教育程度、収入に加え、ユニークユーザー数、訪問(ビジット)数、ページ・インプレッションを公開している。(「下」に続く。ノルウェーとオーストリアのメディア、終わりに)
by polimediauk | 2013-09-18 19:26 | 新聞業界
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(食についてのトピックをコラージュした画面 ラ・プレスのサイトより)

 本題に入る前にー。

 2020年の東京でのオリンピックの開催決定、おめでとうございます。

 日本では、原発や震災のことを考えて、「五輪開催どころではない」と考える方がたくさんいらっしゃると思います。おそらく、私も日本に住んでいたら、そう思っていたでしょう。

 しかし、2012年にロンドン五輪を観戦してみて、オリンピックは夢を持たせるという部分があることを実感しました。「フィール・グッド・ファクター」(心地よくさせる要素)が最大の貢献と英国でよく言われたものです。ポジティブな気持ちが生まれる、これが大きいと。

 個人的には、スポーツとお金が結びついていること、潤沢な資金を持つ大都市でなければ開催できなくなっていることなど、どうもぴんと来ない部分がありますーー純粋にスポーツを楽しむことはできないのだろうか、と。もっと社会的によい効果を生み出すために大きな方向転換をしてもいいのではないか、と。

 それでも、自分たちが自身が前向きに将来への歩を進めるための一つの機会として、日本に住む方が奮起してくれればと強く願っています。

 一つのことを(五輪開催)をやるから、別のこと(震災関係でやるべきこと)ができない・・・という風には考えず、全方向で思考・実行されることを願っています。

***

ーネット閲読に課金したカナダ紙 「グローブ&メール」の戦略

 電子版の閲読を有料にするかどうかで、世界中の新聞が悩んでいる。バンコクで6月に開かれた世界新聞大会のセッションの1つ「有料の壁:課金するか、しないか」から、異なる対応を選択したカナダの2紙を紹介したい。

 カナダの有力紙「グローブ&メール(Globe and Mail)」は課金を選択した。

 同紙は「グローブ」として1844年に創刊。1936年に現在の名前になった。トロントを本拠として約32万部を発行している。ジョン・スタックハウス編集長の話は次のようなものだった。

 10年、グローブ&メールはオンライン版の閲読に課金制を導入する方針を決め、12年秋に「グローブ・アンリミテッド」として新しいウェブサイトを開いた。

 そこでは、(1)無料記事、(2)一定数が無料で閲読できるメーター制の対象となる記事、(3)プレミアム・コンテンツとして有料の壁の中でのみアクセスできる記事、などを分けた。

 月に10本までの記事を無料で閲読でき、これ以上は毎月19・9カナダドルの購読料金を払う(最初の月のみ99セント)。紙の新聞の購読者の場合、週に5日以上の契約であればサイト閲読は無料となり、金、土、あるいは土曜日のみを購読契約している場合、料金は4.99ドルだ。

 経済ニュースを強みの一つとするグローブ&メール紙ならではのサービスとして、記事コンテンツだけではなく、利用者が関心を持つ個別の企業のニュースや株価を随時表示する「ダッシュボード」というサービスも作った。

 当初の懸念は「有料制で読者がつくか」、そして「有料の壁に入りたがらない書き手をどう説得するか」だった。

 現在、電子版の登録者43万4000人のうち、有料読者は8万1000人。約20%である。

 名前が知られている記者は自分の記事が課金域にはいることに抵抗があったというが、実際には有料購読者の中でしっかり読まれていることを知って、納得したという。

 スタックハウス編集長は、グローブ&メールが課金制導入の過程で学んだ教訓を次のようにあげた。

 
「良いジャーナリズム(そしてブランド)は読者を増やす」
 「コンテンツを増やす(有料化で、利用者の滞在時間や1回ごとのページビューが増加)」
 「編集室をオープン化する(市場調査、デジタル技術者や広告担当者からの依頼に快く応じる、閲読データの分析、検索エンジンに拾ってもらうための工夫、そして編集室、マーケティング、広告、デジタル部門の幹部らが毎日ミーティングし、その日のサイトの最優先事項を決める、など)
 「購読者の動きに対応する計画を立てる(有料読者が減少した場合の対応、サイトのさらなる最適化や無料コンテンツとの組み合わせ方の工夫など)」
 「無料サービスを利用して有料コンテンツを売り込む(無料の動画で利用者を引き込む、無料のソーシャルメディアを利用する、など)
 ホットなニュースを利用する(ニュース発生時、話題性が高い間に速報、分析、関連記事、動画などをタイミングよく出すことで、有料購読に誘導する)
 「有料購読者にインセンティブを提供する(電子本の提供や編集長による著名人インタビューなどのイベントに招待など)」


 スタックハウス編集長は、電子版が制作費を負担できるほどの収入を得るのにどれくらいかかると思うかという質問に対し、「3年から5年」との見通しを示した。しかし、現在コンテンツの制作には紙の新聞の制作リソースを使っているので「計算は難しい」という留保もつけた。

ータブレット版無料の仏語紙 画面の斬新さで挑む「ラ・プレス」

 カナダのフランス語圏ケベック州モントリオールの「ラ・プレス(La Presse)」はオンラインのタブレット版を無料で提供するサービスを今年4月から始めた。

 同紙は129年前に創刊された中流層向けの日刊紙で、週に170万人の読者を持つ。

 ギー・クレビエ社長は、紙の新聞の将来が不透明なため「行動を起こさざるを得なくなった」と語った。同社の調査では、1998年から11年の間に新聞の購読者は22%減少した。特に減ったのは24歳から34歳の読者層で54%も減っていた。「編集室の雰囲気は暗かった」

 ラ・プレスが目をつけたのはタブレット端末だった。「スマートフォンは普及率が10%に達するまでに7年かかったが、タブレットは2年半」という調査結果に賭けることにした。

 タブレット版開発のために4000万ドルを投資し、そのうち200万ドルは読者の嗜好や広告の効率性についての調査に使われた。2400万ドルが技術者の給与、600万ドルがハードウェア、800万ドルがソフトの開発に使われた。

 現在、欧米諸国ではタブレット版での記事閲覧を有料にするところが多いが、ラ・プレスは無料に決めた。「ネット上でニュースを無料で閲読する風潮は、これからも変わらないだろう」と判断した結果だ。

 今年4月のサービス開始から5週間で20万人の購読者ができた。閲読時間の平均は週日で1日35分、週末は70分という。

 会場を驚かせたのは、新聞社のサイトとしてはユニークな画面の新鮮さ、華麗さだった。一つ一つの画面が、写真と記事の組み合わせ方、色づかい、動画の配置などファッション雑誌のようだった。

 画面を開くと、ニュース、議論、アート、スポーツなどの項目が左手に出る。左に画面をスワイプすると、紙の新聞で言うところの1面になる。上部にいくつかの選択肢が出て、メインのストーリー(本記)、ニュースの中に出てくる人物に焦点を当てた記事、解説、動画などを選ぶようになっている。一つの事件をマルチメディアを使って多角的に読ませる仕組みだ。

 印象的な報道写真を背景にし、右側に解説記事のコラムを埋め込んだ画面では、背景はそのままでコラム内を上下にスワイプさせながら記事を読む。

 アートや食、旅行などのトピックを扱うページでは、横長、縦長などの複数の記事がカラフルなパズルの一片のようになって、横長のタブレット画面を構成する。それぞれの記事を触れると、その記事が大きく画面に広がる。

 会場内から思わずため息が漏れたのは、英国の人気歌手アデルを扱った画面だった。複数の画面に分割されており、その1つでは歌手の新作アルバムの批評記事を掲載。別の部分に触れると、アデルが歌う動画が始まる。この曲が気に入ったら、アマゾンのサイトに飛んで、アルバムを購入出来るようにもなっていた。ラ・プレスの画面からアマゾンのサイトへの移行が非常にスムーズで、「ため息」のような音が会場内から出たのはこのときだった。

 画面の使いやすさに加え、聴衆を感心させたのは、広告の工夫だ。ラ・プレス社では、3年間の準備期間中、どんな広告が最も注目を集め、クリックに結ぶつくかなどについて、「徹底的な調査を行った」という。画面のどの部分に視線が行くのか、目の動きも研究した。

 例えば、2つの口元を写した写真を掲載。あるメーカーの歯磨き粉を使えば、「輝くような白さになる」ことを宣伝するため、利用者が画面の一部に触ると、一方の口元の歯が真っ白になるようにした。「双方向性が鍵」とクレビエ社長は述べた。

 社長は「将来、紙媒体での発行をしなくなっても、十分に収益があがるような質の高い広告を増やしたい」という。質の高い広告を使うことで、広告料を上げるのが戦略だ。今後も無料化を続行するという。

 文章で表現しても、十分には感触が伝わりにくいと思うので、アイパッドをお持ちの方は、一度ダウンロードしてみることをおすすめしたい。

ー読者データの徹底利用

 ウェブサイトを見ていると、自分の年齢、住んでいる地域などに関連した広告が掲載される場合がある。私たちは、こうした現象にもはや驚かなくなった。しかし、メディアが読者について大量の情報を把握しているかを実際に知ったら、おそらく衝撃を受けるだろう。

そんなことを考えさせたのが、4日の世界新聞大会のセッションで、日刊タブロイド紙デーリー・メールを出している英出版社デーリー・メール&ゼネラル・トラストの傘下にあるDMG Mediaのケビン・ビーティーCEOの説明だった。

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(どれほどの情報を収集しているかを示すDMGメディアの説明)

 同社のウェブサイト「メール・オンライン(Mail Online)」の月刊ユニークビジターは4600万人で、世界でも有数の新聞サイトになっている。

 同サイトは、どの記事にいつどれぐらいのアクセスがあるかをリアルタイムでチェックしている。ある記事が最初に読まれたのはいつか、ページビュー別の記事のランキング、1分毎のページビューを表示し、10分毎のページビューのトレンドを線グラフにして分析する「リアルタイム・アナリティクス」画面を作成している。ページビューを上げるために、ランキングの状況によって、適宜、記事の見出しを変更したり、記事内容を変更している。

 同社はサイト利用者についての詳細な個人情報を収集している。例えば、ビーティー氏が紹介した「豊富な顧客データ」の表によれば、利用者の「名前、生年月日、住所、電話番号、電子メールのアドレス、独身か既婚か、収入、持ち家か借家か、職歴、フェイスブックのプロフィール、ツイッターのハンドル名、関心事(例えば映画、ファッション、スポーツ、ニュースなど)、どんなウェブサイトによく行くか、ゲーム好きかどうか、休暇にどこに行ったか、何を買ったか」などの情報を持つ。

 メール・オンラインは広範囲でかつ詳細な情報を次のように取得しているという。

 (1)ウェブサイトへのコメントを残すときにソーシャルメディアのプロフィールを利用させる、(2)ニュースレターを送るときに個人情報を取得する、(3)スマートフォン、旅行などの商品を無料あるいはディスカウント価格で提供するためのコンテストに参加させる、(4)「フラッシュマーケティング」(割引価格や特典がついたクーポンを期間限定でインターネット上で販売する手法。数十時間の間に集客と販売および見込み顧客の情報収集が行われる)サービス「ワウチャー」(Wowcher)などだ。

ーデンマークの試み 利用者データを徹底収集

 4日の広告フォーラムのセッションでは、新聞がオンラインサイトを活用して収入増をはかっている具体例が示された。

 デンマークのユトランド半島北部(北ユラン地域)を拠点にする複合メディア企業ノアユースケ・メディア(Nordjeske Medier)の出版部門の統括責任者ヘンリク・ブラン氏の説明だ。

 同社は、ニュースサイト、ウェブショップ、モバイルサイト、アプリ、電子ペーパー、マーケティングなどの多数のデータ収集地点から利用者の情報を集め、収入増加に役立てている。

 ひとつは「再マーケティング」である。利用者があるサイトを見ていて、そこに出ていた広告が、利用者が移動した先のサイトにも再度出るというやり方だ。クッキー情報(利用者が訪問した回数や前回のアクセス日時など)を利用する。新聞サイト側は、利用者が最初の広告でクリックをしなくても、再度これが掲載されることでクリックした場合に、収入を得ることになる。

 また、「対話マーケティング」という手法では、出版社が発行するニュースレターを通じて、利用者と直接的な関係を持つ。ニュースレターの発行部数は6万部で、これは北ユラン地域の人口の1割にあたる。この6万人について、メディア側は性別、年齢、持ち家か借家かなどの詳細な情報を持ち、その特徴に応じた広告を利用者がサイトに来たときに出していく。利用者それぞれに適応した広告を画面に出すと、クリック率が「5~10%上がる」ので、メディア側の収入が増える仕組みだ。

ー個人情報の収集についてメディアは説明すべき

 英国のDMGメディア社やデンマークのノアユースケ・メディアの例を見ると、ウェブサイトを提供するメディア側が利用者・閲読者の広範囲な個人情報を取得していることが分かる。

 メディア側が個人情報の取得に熱心になるのは、ページビューを増やしたい、あるいは利用者にあった広告を出すことでクリック率を上げたりして、ターゲットを絞った広告をプレミアム広告として、より高い広告掲載量を広告主に要求できる利点があるからだ。

 また、収入とは別に、ネットニュースには読者の興味に合わせた「個人化」が求められる傾向があり、メディア側のニーズと利用者のニーズが一致したかのように見えるかもしれない。

 しかし、私は、メディアからの説明責任が十分に果たされていないように感じる。

 ウェブサイトを訪れると、クッキー情報を利用することの許可を求められることがある。私たちの多くは「許可する」を選ぶのではないだろうか。しかし、あるサイトを見ていて、次のサイトに移動したときにも前のサイトの広告が一緒に移動しており、この広告をクリックしたら、1つ前に訪れた新聞社のサイトに収入が入るというデンマークのメディアのような手法について、どれだけの利用者が自覚的に認識しているだろう。

 取得される情報の大きさについても懸念を覚える。英国のメール・オンラインのどれだけの読者・利用者が、名前から趣味嗜好までの情報を発行会社が把握していることを、十分に理解しているだろう。

 サービスごとに、個人情報の提供は常に同意を求められているはずだが、それでも、収集された情報の総体について想像するのは難しい。

 メディア側は、どんな情報を取得しているのかを一度、利用者に開示するべきではないだろうか。

 一方、デジタル時代の言論空間で、個人の無記名性が減少しつつあるのではないかとも思う。かつて、新 聞は、キオスクやスタンドでふらりと気軽に買えるものであった。買い手は自分の名前や住所などを売り手や作り手に教える必要はなかった。新聞の定期購読・宅配率が日本ほどには高くない多くの国で、紙の新聞の場合は、今でもそうである。

 しかし、ネット時代になって状況は変わった。コンピューターやスマートフォン、タブレットの画面からニュースを読む私たちの多くは、知らないままいわばプライバシー情報を切り売りしながら、さまざまな言論を読んでいる。それ以外の選択肢はなく、この傾向はますます強まりそうだ。この点が、私には居心地が悪い。

 大会開催と同時期に、元米CIA職員の男性が米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集の実態を暴露する報道が出た。「国家の安全保障のためには、監視されても仕方ない」と考える人がいる一方で、「過度の監視は違法だ」と考える人もいる。

 ビッグデータの活用が提唱される中、読者・視聴者の信頼感に基礎を置くメディアの立ち位置はどうなるのだろう。(終)
by polimediauk | 2013-09-08 21:20 | 新聞業界
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(自由のための金のペン賞 のタン・トゥ・アウン氏(右) WAN-IFRA提供)

 月刊誌「Journalism」(8月号)に、6月に開催された世界新聞大会のレポートを書いた。最新号(9月号)が出たので、これに補足したものを2回に分けて出してみたい。

 世界新聞大会については、読売新聞オンラインの「欧州メディアウオッチ」でも何回か書いたが、入りきれない部分がたくさんあった。

***

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)主催の「第65回世界新聞大会、第20回世界編集者フォーラム、第23回世界広告フォーラム」は、6月2日から4日間、バンコクで開かれた。

 「革新、ひらめき、双方向」をテーマにうたった今年のイベントには、66カ国から約1500人のメディア幹部が出席し、90人のスピーカーが自社の取り組みを紹介した。
 
 WAN-IFRAは、世界の新聞社の国際的な組織で、約1万8千の紙媒体、1万5千のオンラインサイト、120カ国以上の3千余の企業が会員となっており、報道の自由、ジャーナリズムの質の向上、メディアビジネスの活性化などを目指して活動している。

ー新聞は世界の25億人に読まれている

 世界の新聞界の現状を見てみよう。

 大会で発表された「世界の新聞トレンド2013年版」(実際の数字は2012年のもの)によると、世界中で約25億人が日刊紙を紙媒体で、6億人が電子版(オンライン)で読んでいる。新聞メディアの総収入は2000億ドル(約20兆円)に上る。トレンド調査は、70カ国以上の新聞メディアのデータを基につくられ、業界の健康状態を判断する目安として広く利用されてきた。

 新聞の世界での総発行部数は、12年で約5億2300万部となり、08年に比べて2%減少した。

 地域ごとの状況には大きな明暗がある。欧州の新聞発行部数は08年に比べて26.5%減、北米(カナダ、米国)でも13%減っている。一方、中東・北アフリカやアジアでは08年から12年にかけてそれぞれ10%ほど増加している。

 広告収入の総額は12年に世界で約934億4600万ドルで、08年に比べて22%減った。08年と12年の比較では北米で42%(非常に大きな数字である)、欧州で22%減っている。逆に、ラテンアメリカでは37・5%、アジアでは6・2%それぞれ増えている。

―「自由のための金のペン賞」はミャンマーの経営者に

 WAN-IFRAが毎年選ぶ「自由のための金のペン賞」(Golden Pen of Freedom)はミャンマーのイレブン・メディア・グループの最高経営責任者タン・トゥ・アウン氏に贈られた。民主化を弾圧するミャンマー政府による検閲に負けず、報道を続けてきたことが評価された。

 同氏がイレブン・メディア・グループを3人で始めたのは13年前。現在は450人のスタッフを抱える。2003年には同グループの編集者が国際無償資金協力援助の悪用に関する記事を書き死刑(後に懲役3年に変更)を宣告され、自身も11年に短期間拘束されたという。

 タン・トゥ・アウン氏は受賞のスピーチで「軍事政権がどんな嫌がらせをしようと、自分のジャーナリズム、倫理、基準は変えなかった」と述べた。

 世界の報道の自由度を調査した「グローバル・プレス・フリーダム・リポート」も大会で発表された。

 これによると、昨年6月から今年5月までに殺害されたジャーナリストは54人(ブラジル6人、カンボジア1人、エジプト1人、メキシコ3人、イラク2人、パキスタン9人、パレスチナ2人、フィリピン1人、ロシア2人、ソマリア10人、南スーダン1人、シリア15人、タンザニア1人)。内戦が続くシリアでの殺害人数が突出している。この中には、大変残念ながら昨年8月に命を落とした、独立系通信社ジャパンプレス所属の山本美香さんが含まれている。

 6月5日、編集者フォーラムは朝のセッションでジャーナリストの安全性をテーマとして取り上げた。

 パキスタンの英字紙「ドーン」のザファル・アッバス編集長は、2008年から13年に85人の同国のジャーナリストが殺害されたと報告した。ジャーナリストたちが誘拐され、拷問を受けたことは何度もあるという。同紙の記者には自宅にまで警備をつけるようにしており、アッバス氏自身にも武装警備員がつくという。出かける際は複数の車を乗り継ぐようにしている。

 しかし、「国内のほとんどのジャーナリストはこのような警備がついていない。カメラに保険がかかっていても、カメラマンには保険がついていないことが多い」。

 メキシコの「エル・シグロ・デ・トレオン」紙のエディトリアル・ディレクター、ジャビエ・ガーザ氏は記者の安全性確保のためにさまざまな手段を講じている、と述べた。同紙は麻薬カルテルの縄張り争いの地となっているラグラ地域をカバーする。この地域では麻薬事件絡みで殺害される人が増えている。2007年には年間89人だったが、昨年は1085人に増加したという。

 エル・シグロ自体も攻撃のターゲットとなった。今年2月には編集スタッフ5人が麻薬組織関係者に誘拐された。現在ではメキシコ連邦警察が同紙のビルの周囲を武装警備している。

 エル・シグロ紙では記者などの安全確保のためにガイドラインを設定している。同紙での「勤務を示すIDを身に着けない、」「紛争場所への到着は、警察による警備体制が敷かれた後にする」、「デスクとの連絡をたやさない」、「銃撃戦の模様は当局による公式情報のみを報じる」、「銃撃戦で特定の犯罪グループの名前を出さない」、「個々の記者名が特定されないよう、ソーシャルメディアは会社の公式アカウントを使う」など。また、犯罪報道は署名記事にせず、数人の記者が輪番で書くようにしている。

 安全性確保の方策を実施しながらも、「新聞がこの地に存在し続ける」ことの重要性をガーザ氏は強調した。「自己検閲はしないようにしている。そんなことをしたら、存在意義を放棄することになる」。

 報道の自由の観点から開催国タイがそ上に上ったのが、刑法第112条によって定められた不敬罪の適用をめぐる問題だ。

 タイでは国王、王妃、王位継承者あるいは摂政に対して中傷する、侮辱するあるいは敵意をあらわにする者は刑法第112条に違反したとして3年から15年の禁固刑に処される。米人権保護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、不敬罪の裁判は2005年までは年に4、5件だったが、2006年以降急速に増え、累計で400件を超える。政治的異端者を押さえ込む道具として使われているという懸念が出ている。

 WAN-IFRAが以前から異議を表明してきたのが、タクシン元首相派の雑誌「ボイス・オブ・タクシン」の元編集者ソムヨット・プルエクサカセムスック氏の処遇だ。今年1月、同氏は2010年掲載の記事により、不敬罪で懲役10年、名誉毀損で懲役1年を言い渡された。2011年8月から身柄を拘束され、バンコクの刑務所で受刑中だ。これまでに何度も保釈を求めているが、却下されてきた。

 4日、WAN-IFRAや大会参加メディアの代表者22人はシナワトラ首相と会い、不敬罪の「誤用」による禁錮刑を科されたジャーナリストたちがいるとして、事態の改善を求めた。

―紙媒体の力とは

 紙での新聞の発行もまだまだ捨てたものではないー。そう思わせる事例を、インドの大手メディア企業ABPグループの最高経営責任者D.D.パーカヤスサ氏は、5日、新聞大会のセッションの1つで紹介した。

 同グループはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、学校、デジタルサイト、英語の雑誌などを所有・運営する。印刷物とテレビ・ニュースを総合すると、6000万人以上にリーチしているという。テレビニュースの視聴率ではインド内でトップ(市場の28%)。ベンガル語の新聞市場では64%を占める。

 しかし、悩みは若者層の読者が比較的少ないことだった。そこで、若者向け新聞の創刊を前に潜在的読者層へのインタビュー取材を200回行ったという。その結果、成功に向けての5つの要素が判明した。

1 小型タブロイド版にする
2 幅広い分野のコンテンツ(政治だけではつまらない)―国際ニュース、スポーツ、娯楽、漫画小説、セレブリティー、心を揺さぶるような独自の記事、日曜日には文化や文学―を入れる
3 紙面をカラフルに
4 手ごろな価格
5 「新聞=古い」という固定観念を覆すため、若さを前面に出した広告を打つ

 この5つを考慮して、昨年9月、カルカッタ市で創刊の運びとなったのがタブロイド版のエベラ(Ebela)だ。

 発行から6週間で、発行部数は約27万8000部。読者の30%は30歳以下だ。ほかのベンガル語の新聞は20%相当と推定され、若い層の比率が他紙よりは高い。フェイスブックでは、15万人から「いいね!」を集めたという。(つづく)
by polimediauk | 2013-09-07 19:00 | 新聞業界
 少々前になるが、雑誌「新聞研究」(今年7月号)に世界の新聞のレイアウト(デザイン)について、書いた。以下はそれに補足したものである。

 新聞のレイアウトは、それぞれの地域によって違う。カラフル、アート、遊び心ーそんな言葉が浮かんでくるのが、今回紹介する世界の新聞だ。


***

わかりやすさを考える 
デザインで訴求力を高める
<米SND「世界の最優秀デザイン新聞賞」の巻>


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(ドイツのヴェルト・アム・ゾンターク紙の紙面。赤いコードはこの次の3ページにわたり、続く)

 世界各国でニュースメディアの紙面制作にかかわる約1500人が所属する非営利組織「ニュースデザイン協会」(the Society for News Design=SND、本部米フロリダ州)は、今年2月13日、第34回「世界の最優秀デザイン新聞賞」の受賞者を発表した(デザイン=紙面構成のこと)。

 1979年発足のSNDは毎年、優れた紙面の新聞を選出している。会員の中から推薦で選ばれた20人余が審査員となる。

 審査には5つの基準がある。「ニュース価値」、「情報をいかに編集したか」、「情報をどのように構築したか」、「美的体裁」、「革新性」だ。

 これ以外に、SNDが最優秀作品を選ぶ時の一般的な基準がある。

 新聞賞発表の際のプレスリリースを見てみよう。

 例えば、「文字の字体(フォント)が統一されていること」、「記事の重要度に応じて順列をつけた配置にしていること」、「余白を生かしていること」などが「良い」とみなされる。また、「見た目がすっきりとしていること」が大事な一方で、「インパクトがあって、記事(=伝えようとしていること)を読ませること」はそれ以上に重要となる。

 芸術的なポスターのような美しさばかりでは、情報を伝え、考える機会を提供する新聞の機能が不十分になってしまう。

 実際の受賞作品と審査員評を見てみよう。

―余白を効果的に使う

 今回の受賞者はスウェーデンの日刊紙「ダーゲンス・ニュヘテル」、ドイツの日刊紙「ツァイト」、ドイツの日曜紙「ヴェルト・アム・ゾンターク」、カナダの週刊新聞「グリッド」、そしてデンマークの日刊紙「ポリティケン」だ。

 紙面を実際に見ないと感覚がつかみにくいと思うので、ウェブサイトで具体例をご覧になっていただければ幸いである。

 スウェーデンのダーゲンス・ニュヘテル(上記サイトのスライド2から20)はタブロイド版の日刊紙だ。その紙面の特徴は、審査員によれば「硬派と軟派のトピック、長短の記事が混在していること」。通常の大型ブランケット判よりも紙面のサイズが小型になるが、写真使いの巧みさでまるで大判を広げたような迫力を持つ。

 紙面には記事がたくさん詰まっているものの、余白空間をうまく使い、視覚に訴える(=ビジュアル)要素(写真、イラストなど)が生きているという。

 ドイツのツァイト紙(スライドの22から41)は「長い記事を掲載し、すべての人を満足させようとは思っていない」のが特徴だ。この新聞も紙面の「余白部分の使い方が絶妙」で、重要な要素を引き立たせ、かつ視覚ツールが目に迫ってくる、と審査員は指摘している。

 「それぞれの紙面が美しく、1つの作品となっているが、同時に、深みのある内容が掲載されていると読者が感じるようになっている」。ツァイト紙が最優秀デザイン賞を受賞したのは、今回で6回目となる。

 2011年に創刊されたばかりのカナダ・トロントの週刊新聞グリッド(スライド42-72)の特徴を審査員は「楽しい、知的、大胆、信頼が置ける、洗練されている、若い」と表現した。

 読者の声を紙面に積極的に反映し、地方色を出す工夫として地図や画像で注目の場所を掲載。犬についての特集記事を出した号は、「グリッド(The Grid)」という新聞紙名を犬の怒鳴り声「grr」をもじって「The Grrid」に変えたことも審査員を微笑ませたようだ。

―「こうあるべき」という約束を自ら破る 

 前回に続き、最優秀デザイン新聞賞を受賞したのが、デンマークのポリティケン紙(スライド74から98)。「印象的な写真使い、興味深いトピック、挑戦的な編集、強い遊び心」が決め手となった。中心になるのは記事だが、ビジュアル・ツールを自在に使って、独特のトーンを出した。「挑戦的」、「遊び心」とは「新聞紙面とはこうあるべき」という約束を自ら破ることを意味するようだ。

 紙面いっぱいを手書きの漫画で埋めた実例(以下はその一部を拡大したもの)がある。記事の内容を際立たせるためにツールを柔軟に使う、そのために編集部員がじっくりと想像力を働かせるーこれがポリティケンの秘密のようだ。
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 1つの紙面にいくつもの記事を入れたり、次の面に誘うための導入を入れたりする新聞が多い中、ドイツの日曜紙ヴェルト・アム・ゾンターク(スライド99から122、上記写真掲載)はほとんどの場合、「1つの紙面で1つの記事を原則としている」。また、長い記事が読者を退屈させないよう、作り手が知恵を絞る。

 例えば、余白空間や大きな写真を駆使する。文字のフォントは2つに絞り、統一感を出す。イラストを頻繁に使い、ある面で使ったイラストを発展させた形でほかの面に新鮮な形で使う。08年に最優秀賞を受賞した同紙の紙面構成は「一つの文化の域に達している」と審査員は書いている。(終)
by polimediauk | 2013-09-07 15:17 | 新聞業界
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 15歳の英国人少年が開発した、ニュースを要約して見せてくれるアプリ「Summly(サムリー)」を、ヤフーが買収したニュースを記憶していらっしゃる方は多いと思う。また、堀江貴文ライブドア元社長がハフィントンポスト日本版松浦茂樹編集長との対談で、「ニュース長すぎ。たとえば新聞も長すぎ。新聞の記事って内容がない割にはけっこうだらだら書いてあって。ネット時代は長くて400文字」と発言したことも、まだ記憶に新しい。

 そんな中、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、29日から、刻々と発生するニュースを、24時間、短文で出してゆくサービス「fastFT」を開始した。

 PCを使っている場合、通常のようにFTのウェブサイトをあけると右コラムに「fastFT」が出る。これをクリックすると、fastFTの画面になる(29日はサービス開始初日だが、今後、若干、ナビゲーションは変わるかもしれない)。アイパッドやアイフォーンでも画面のサイズに合わせた形で出るようになっている。

 fastFTの画面では、カテゴリー(経済、マーケットなど)の次に1行の見出しが出る。いつ出た記事か(何分前かなど)の表記があり、その下には、1つの文章あるいは1つか2つの段落が出る。

 その1つ1つの記事だが、見出しだけでは全体は分かりにくい。しかし、その下につく1つ(あるいは2つの)文章で、大体話が分かるようになっている。

 もしそのトピックに興味があれば、「オープン」というタブがあるので、これをクリックすると、短い「記事」が読める。これ自体が「伝えたいこと全体の要約」ともいえる。開いてみると、とにかく短く、フィナンシャル・タイムズの通常の記事であれば、3分の1もいかないかもしれないほど。

 この「記事」の中には、FT紙の通常の記事、つまり、長い記事へのリンクが参考として入っているときもあれば、入っていないときもある。つまり、このfastFTは、通常の記事を読んでもらうことを目的としているのではなくて(そうしようと思えばできるのだけれども)、ここでほぼ完結することを狙っている。

 fastFTの面白いところは、

―ロイターなど通信社と競争しているわけではないが、「速報をすばやく知りたいときに、ほかのサイトに行くのではなく、FTに来てもらえる」
―忙しい人にとって、見出しだけ見るだけでも十分だ
―しかし、本当に1行の見出しだけで足りるかといったら、実際、そうではないので、「見出しと1-2行の要約」だけを読むと、長い記事を読まなくても良い
―さらに、ほんのもう少しだけ読みたい人には、短い記事が提供されているので、ここまで読んで、後は長い記事(ウェブサイトの通常の記事)を読まなくても良い
ー通常の長い記事を読ませることを狙っていない

という部分だろう。

 FTサイトはメーター制の課金制度をとっているので、月に8本までは無料で閲読できるが、それ以降は購読者にならないと読めない。

―要約で足りること

 かつて、数多くの媒体から情報を拾ってくるグーグルリーダーやRSSが大変な人気だったけれど、今となっては、読み手が一番読みたい媒体が短文式で速報を伝えてくれれば、時間的にも非常に助かるわけである。

 「サムリー」のときもそう思ったのだけれど、この「要約のみで足りる」方式はこれからもどんどん増えるのだろう。読み手としてはオリジナルの情報源のサイトに飛ばなくても良い、情報発信側としては無理にオリジナルサイトに読者を引っ張らないというのが、新鮮に思える。

 これは、読み手にとっても、書き手にとっても、メディア企業にとっても大きな動きだ。例えば書き手の場合で言えば、自分で考えて書いて、編集者が構成や事実確認や表現などを見て、「1つのコンテンツ」=商品として、サイトに記事を出すとしよう。ところが、これからの読み手はこのコンテンツを読みにはこない。「要約」で足りてしまうからだ。ビジネスモデル、広告モデル、ニュース情報消費モデルがどんどん、変わっている。

 改めて、FTのサービスの話に戻れば、fastFTを担当するのは8人のベテラン記者。世界の各地域に記者を置き、24時間、情報が途切れないようにする。世界のどこかでマーケットはあいているのだ。この8人は、FTの通常の記事に読者を引っ張るために要約を作るのではなく、ここだけで完結する記事を作っている。

 携帯端末の利用者を想定して、ビジネスの要約ニュースを発信するという試みは、米アトランティックもQuartzというサイトでやっている。こちらは閲読無料だ。

 アイフォーンのアプリとして使えるCirca Newsも要約ニュースが楽しめる(動く画面を見るには、アイチューンズでアプリをダウンロード)。サマリーによく似ている感じだ。ニュース源は第3者から提供され、編集スタッフが要約・編集して出している。ニュース源を知りたい場合、「i」マークをクリックすると、元記事が読める。

 特定のニュースのアップデートが欲しい場合、「購読する」を選択すると、新しい情報が入り次第、教えてくれる。先日の米ボストンマラソンのテロ事件では、多くの読者がアップデート情報を希望したという。

 ニュースは要約した形で読む、元の長い記事にいく必要はない、要約だけでもずいぶんと面白いし、役に立つー。この傾向は前から発生していたけれども、フィナンシャル・タイムズまでもが新たな形で導入し、ますます広がっている感じがする。

参考記事

Financial Times launches fastFT

FT launches breaking news tool “when 140 characters doesn’t cut it”

Circa hires Anthony De Rosa away from Thomson Reuters to expand its editorial ambitions

The Atlantic’s Quartz is here at last but will it pay?
by polimediauk | 2013-05-29 21:02 | 新聞業界
 欧州無料紙業界で、国境を越えてビジネスを展開しているのが最大手メトロ・インターナショナルに加え、ノルウェーのシブステッド、スイスのタメディアだ。

 スウェーデンの有力大衆紙「アフトンブラーデット」を所有するシブステッドは傘下に20 Min Holding AG社を置き、「20ミニッツ」のフランス版、スペイン版を発行している。

 シブステッドの国際版無料紙部門の足を引っ張るのがユーロ危機で経済が大きな打撃を受けるスペインの「20 ミヌトス」(読者数210万人)だ。11年の営業収益が前年比で400万ユーロ減少した。逆にフランス版(読者数280万人)は収益を前年比で16%増加させている。

 無料紙が新聞市場の30%を占めるスイスでは、13の日刊紙と20のニュースサイトを含む約40紙を発行するタメディアが有力だ。スイスの3つの公用語である独語、仏語、イタリア語で出す「20 Minuten」(ツヴァンツィック・ミヌーテン)の発行で大きな位置を占める。ウェブサイト「Swissinfo」によると、紙版の読者は200万人、オンラインでは50万人を数える。

―広告主の「干渉」、報道の質は?

 欧州の無料紙には、その報道内容について、有料新聞と同様の期待がかかるようになっている。

 例えば、新聞市場の30%を無料紙が占めるオーストリアだ。首都ウイーンを中心に50-60万部を発行する無料紙「ホイテ」は、地下鉄構内での配布の独占権の是非が議論の的となったり、ウイーン市など政府系組織からの広告収入の比率が高く、広告主に好意的な紙面づくりをしているという批判が出ている。

 無料紙は短時間で読み切れるように制作されているため、無料紙の配布が拡大するにつれて、全体では報道の質が下落するという懸念も表明されている。

 Swissinfoに掲載された記事「良質な情報、民主主義には不可欠」(2012年12月14日付)の中で、チューリヒ大学の公共空間・社会研究センターの研究者たちは、報道の質とは「さまざまな内容や意見があること、関連性はもちろん、背景説明を含む報道価値があること」と定義する。さらに、「質の低い一般メディアがエリート向けのより質の高いメディアを駆逐する傾向が続けば、民主主義に悪い影響を及ぼす」と警告している。

 これに対し、無料紙発行大手タメディアの広報担当者は、無料紙やオンラインメディアについて、「読者にそれほど深く掘り下げた情報を必ずしも提供しないが、そのような出版物にも需要はある」と反論している。

―「ライバルはネット、携帯端末」か

 日刊無料紙を生みだした国スウェーデンで新聞の将来を研究する、ミッドスウェーデン大学のインゲラ・ボードブリ教授は、国内の無料紙(2011年で76万2000部発行)の今後に悲観的だ。

 ネットでニュースを読む人が増え、紙の新聞を購読する習慣が廃れつつあることや、電車内では新聞よりも携帯電話などの端末機器を操作して時間を過ごすことが一般化しているからだ。

 また、有料紙と無料紙は競合相手にはならないという。スウェーデンでは有料新聞は日本のように購読者となり、自宅に宅配される形で読む。通勤時に読む無料紙と有料紙とは異なる時間に消費されている。

 「無料紙と時間を奪い合う競合相手は携帯端末」だ。「15年後、無料紙は今の形では存在しないかもしれない」とボードブリ教授はいう。同時に、「有料紙も毎日の発行ではなく、週に2回発行などに変化していく可能性もある」と付け加えた。

 一方、世界の無料紙の動向を記録するブログ「ニュースペーパー・イノベーション」を運営し、オランダのユトリヒト大学で教鞭をとるピエット・バッカー氏は、携帯端末と日刊無料紙は競合しないと見る。

 無料紙は「通常は新聞を読まない若者層に配布されている」点から、ユニークな位置にいるとバッカー氏はいう。

 同氏は「欧州内での無料紙の読者数は増加、あるいは安定化している」として、その将来を楽観視している。

 スウェーデン・メトロの創刊を誰も事前には予測していなかったように、欧州新聞事情の地図はさらに書き換えられることがありそうだ。

―無料・有料・デジタル化の棲み分け

 最後に、無料新聞の人気が高い英国の例から、有料紙やその電子版との棲み分け状況に注目して見る。

 筆者が住む英国・ロンドンでは、朝刊無料紙メトロ(アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社発行)、無料金融紙「CITY AM」に加え、午後には無料夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」(イブニングニュース社)が駅近辺で配布される。

 主要全国紙(有料紙)の3月の発行部数(英ABC調べ、4月はサッチャー元首相の死で特需があったので3月を比較)を見ると、前年比で2桁台の下落が珍しくない。

 特に大きな下落を記録したのは左派系高級紙インディペンデント(25・23%減、約7万5000部)。正反対の動きとなったのが同紙の簡易版で価格が5分の一以下の「i」(アイ、10.58%増、約29万部)。

 ウェブサイトのユニーク・ユーザー数は大部分の新聞が二ケタ台で増加した。英国の新聞社サイトは過去記事も含めて無料閲読の場合が多く、広告収入が主となるが、紙媒体の運営を補うほどには大きくなっていない。

 ロンドンで電車に乗ると、紙の新聞を手にしている人が目に付くが、ほとんどが無料紙(朝刊「メトロ」、経済専門紙「City AM」、夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」など)だ。3紙合計でロンドン内で平日平均で約210万部が発行中だ。スマートフォン、電子書籍閲読端末、パソコンなどの画面を見ている人も多い。

 3紙の部数は安定しており、City AMは2月時点で前年比32・17%の伸びを見せた。インニング・スタンダードはかつて有料紙だったが、09年秋から無料紙となり、部数を3倍近く増大させた。

 朝刊無料紙メトロや夕刊無料紙スタンダードは、通常は紙の新聞を読まない人も含めた幅広い層に配布される。あまり外出しない人向けには無料のコミュニティー紙が無料で自宅に届けられる。無料新聞は英国で新聞文化の1つになっている。

 一方、電子版の有料化を率先して進めてきた経済紙フィナンシャル・タイムズは、電子版購読者が紙版購読者数をしのぐようになっている。

 また、高級紙タイムズ、その日曜版サンデー・タイムズは10年から電子版に完全有料化(購読者にならないと一本も読めない)を進め、両紙合計で約30万人を超える購読者(昨年12月時点でタイムズは12万7540人、サンデー・タイムズは11万8888人)を獲得した。

 携帯電話やタブレッド版では課金制をとってきた大衆紙サンは今年下半期からウェブサイト版にも課金制を導入すると発表している。

 高級紙の最大手デイリー・テレグラフは、ウェブサイトを英国外から利用する際に、月に20本までは閲読無料、それ以上は毎月1・99ポンド(約300円)という課金制(メーター制)を昨年11月から導入してきた。4月からはこれを国内の読者にも適用している。

 これでウェブサイトの閲読が過去記事も含めて完全無料なのは高級紙ではガーディアンとインディペンデントのみになった。

 地方紙は課金にしても十分な収入が得られない、仕組みの導入に一定の資金がかかることなどから、すぐには追随しない模様だ。

 タイムズなどが課金制を導入する前後、経済専門紙は別としても、一般紙で電子版有料制が成功するのかどうか、あるいは民主主義の観点から情報を囲い込むことの是非が随分と議論された。

 しかし、紙媒体の下落が加速化し、利用者が多い電子版による情報発信を維持するためには、課金制を導入せざるを得ないほど、切羽詰った状態になってきた。

 窮状打開のため、経費削減、人員縮小に拍車がかかっている。高級紙では数十人単位で編集部員が削減され、編集作業の効率化、機械化が進む。

 紙の新聞は無料で配られたものを読み、ネットでは好みの新聞や記事にお金を払って読むーこれが新たなメディア環境として現実化しつつある。有料新聞は紙媒体での発行をいつまで続けられるか。限界への挑戦となってきた。

 (隔月刊行の「JAFNA通信」(フリーペーパーの団体、日本生活情報紙協会=JAFNA=発行)などへの筆者寄稿記事に補足しました。)
by polimediauk | 2013-05-25 17:23 | 新聞業界
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(レベソン報告書をテーマにした、英インディペンデント紙のウェブサイト)

 前回、英国の新聞メディアを規制する新たな枠組み作りへの動きと、そのたたき台となる「レベソン委員会」による報告書(昨年末発表)の内容を紹介した。

 レベソン委員会とは新聞の文化、慣習、倫理を検証する独立調査委員会のことで、大衆紙での電話盗聴事件の反省を受けて、2011年夏、キャメロン首相が立ち上げたものだ。

 報告書は具体的な自主規制組織のひな型を提示した。そこで、これを受け入れるのか、受け入れないのかが議論の焦点となった。「何もしない」では済まされない。数ヶ月にわたる委員会の公聴会で、さまざまな報道被害にあった人が出てきて、証言を行ったからだ。新聞界は行動を起こさざるを得なくなった。

 今回は、現在までの動きを伝えたい。このエントリーの一部は、月刊誌「新聞研究」4月号掲載の筆者原稿に補足したものである。

***

 報告書は報道被害を防ぐため、法に基づく自主規制・監督機関の発足を提唱したが、法的規制への反対論、慎重論が新聞界のみならず、政界やその他言論界で根強く、与野党の基本合意到達までには時間がかかった。

 連立政権を担う与党・保守党は法令化による設置に反対し、同じく与党の自由民主党と野党・労働党は法令化を支持してきた。

 最終的に王立憲章に基づく設置案で3党が基本合意したのは今年3月18日。もしこの案が成立に向けて動く場合、関連法案(犯罪と裁判所法、企業と規制改革法)が修正される見込みだ。

 新規制組織は新たな法律の立法化にはよらず、以下の形をとる。

 ―国王の勅許(王立憲章)によって設置される

 ―訂正や謝罪記事の掲載を命じたり、報道倫理に反した場合は最大で100万ポンド(約1億4千万円)の罰金を新聞社に科す権限を持つ

 ―新たな倫理綱領を設定し、人事や運営資金の面で新聞界からも政界からも独立している

 ―報道の被害者には無料で利用できる裁定サービスを提供する

 ―政治家からの干渉を生じさせないため、下院議員の三分の二以上の支持を得ないと、この王立憲章を変更できない。

 新たな法律の立法化がないことで、これをレベソン報告書の「法律に基づく設置」を拒絶したと見る保守党は3党による基本合意を同党の勝利としたが、自民党と労働党は関連法の修正と言う形ではありながらも、「法律に基づく設置が実現した」として、両党の主張が成果をもたらしたと表明した。政治問題化してしまったわけである。

 新聞界では、新聞社が加盟する英報道苦情委員会(Press Complaints Commission=PCC)の委員長ハント卿が中止となって、報告書発表前から、報道に関する問題を調査し倫理綱領の違反者には罰金を課すという新たな権限が備わる組織の設立に向けて、話し合いを続けられてきた。しかし、報告書は「独立性に欠けている」として、ハント案を却下した。(余談だが、英新聞界の規制の話でPCCをほめているような記事を見たら、眉唾である。業界と近すぎる組織として英国では認知されているからだ。)

―「法律に基づく設置」で意見割れる

 英イングランド地方(人口の5分の4を占める地域)で印刷物の出版に事前検閲を課した印刷免許法が失効したのは、17世紀末だ。新聞言論を法律で規制するという考え自体が、英国ではなじみが薄い。

 このため、新規制機関の「法律に基づく設置」については意見が大きく割れた。

 キャメロン首相は、報告書の発表日(昨年11月29日)、国会で、法律を制定して立ち上げるのは、「ルビコン川を渡る」ほどの大きな動きになる、と発言。法令化は「将来、政治家が新聞界に規制を課する危険性が出る」として、反対の姿勢を見せた。

 翌30日、全国紙の大多数が報告書の記事をキャメロン首相の写真付きで1面のトップに掲載した。一風変わった紙面を作ったのが左派系高級紙インディペンデントだ(上の写真)。

 英国名物の魚のフライとポテトチップス(=フィッシュ・アンド・チップス)がレベソン報告書の表紙に包まれた写真を掲載。見出しは「明日はフィッシュ・アンド・チップスになる」(ごみになる、の意味)。その理由は、「1年以上、500万ポンドをかけてできた2000ページの報告書が、公開から数時間でキャメロン首相に報告書の主要部分、つまり規制の法令化を拒絶されたからだ」という。

 同紙編集長は社説の隣の記事で、「新聞ジャーナリズムは(レベソン委員長の専門となる)法律のように厳格な職業」ではなく、「直接性、即時性という性質を持つ」営みだと指摘した。

 右派系大衆紙「デイリー・メール」はレベソン報告書をトップ記事にしなかった。「キャメロンが自由のために戦う」と題された社説では、「国会や特殊法人が入ってくれば、17世紀末以来、国家の干渉からの報道の自由が危うくなること」をレベソン委員長は理解できないようだ、と書いた。

 その後、規制組織設置への交渉は長引いた。報道被害者団体「ハックトオフ」が今年念頭にに報告書の提案を立法化するための試案を公表し、2月には、保守党が王立憲章案を提案した。報道被害者側や自民党、労働党はあくまでも「新たな法令化による設置」を主張したが、最後には妥協した。

 与野党が基本合意案に達した翌日(3月19日)付の各紙社説を見ると、これまで法令化を支持してきたフィナンシャル・タイムズ紙は「ページをめくる -自主規制は死んだ、さあ、英国の新聞が適応しなければならない」とする見出しをつけた。新たな規制組織が真に新聞界から独立していることが重要とし、機能させるのは「新聞界の責任だ」と主張した。

 同じく支持派のガーディアン紙は、社説で、妥協案が現実化されるかどうかは「保証されていない」と書く。新組織に参加しない大手新聞があり、組織の外の印刷メディアに対する損害賠償額が大きくなることを懸念する。

 法令化に反対のサン紙は、「成り行きを見守ろう」とする社説を出した。真っ向から基本合意に反対の姿勢を出してはいないが、インターネットのメディアがどう規制されるのかが不明、政府の意向で報道内容が変更され得る、国家による監視社会が実現すると指摘し、「報道の自由を維持すると確約したキャメロン首相には失望した」と結論付けた。

 法令化反対派のテレグラフは、17世紀末の印刷免許法の失効以来、自主規制のままであった新聞や雑誌の運営に「国家を関与させる方策」を国会が決定した、と書いた。

 同じく3月19日、3つの大手新聞社アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社(デイリー・メールなどを発行)、ニューズ・インターナショナル社(サン、タイムズ他)、テレグラフ・メディア・グループ社(テレグラフ他)、ノーザン&シェル社(デイリー・スター他)は声明文を発表し、最終交渉の場に新聞社の代表が参加していなかったこと、基本合意案には新聞業界内で未解決の重要な論点が含まれていることなどを指摘し、新組織に参加するかどうかについて、法律上の助言を受けていることを明らかにした。

 フィナンシャル・タイムズのライオネル・バーバー編集長は同日、BBCラジオ4の番組に出演し、最終決定の場に報道被害者団体の関係者が出席した一方で、新聞界からは誰も参加していなかったこと、業界内でまとまりつつあった自主規制機関の設置交渉が事実上棚上げになったことに不満を漏らした。「この規制組織に参加するかどうかは決め兼ねている」。

 地方紙を代表する新聞協会は、基本合意が地方紙業界に「大きな負担となる」と指摘。「組織に入らない新聞への罰金や裁定サービスが実行され場合に苦情が殺到することへの懸念」を表明した。

―新聞界の大部分が参加して、新たな設置案を提示

 世論調査のいくつかでは、多くの国民が「法令化による報道規制」を支持した。報道被害者団体「ハックトオフ」は法令化による規制を望んだものの、最終的には主要与野党が合意した「王立憲章による設置案」を支持した。

 今月中旬から、この設置案を王立憲章として認めるかどうかについて、諮問機関・枢密院が議論を開始することになっていたが、4月末、新聞各社が新たな王立憲章による設置案を提示。

 これを受けて、枢密院は23日まで、与野党合意案と新聞社による案について、国民から意見を募集する。その結果を見ながら、どちらの案を推奨するかを6月以降に決めることになっている。

 新聞社らによる設置案では、国会議員の関与をできうる限り減らし、新聞社側の人員が新・自主規制機関でもっと重要な位置につけるようにする。また、新聞報道への苦情を集団で行う手続きを複雑化し、新聞社が苦情攻めにならないようにする。

 メディアのシンクタンク「エンダース・アナリシス」のクレア・エンダース氏は、新聞社案は「レベソンの提言からさらに遠くなった」と述べている。

 地方新聞の団体である「ニューズペーパー・ソサエティー」や新聞発行者協会などによって提出されたが、11の全国紙の中で、左派系ガーディアンとインディペンデントは賛同していないという(BBC報道)。

 どちらの案が実現するのか、現時点では不明だが、PCCは「新聞社に近すぎる」と批判されてきた過去がある。さて、報道の自由を維持しながらも、報道被害を防ぐ自主規制機関の設置が実現できるだろうか。

***

参考
 
Q&A: Press regulation
by polimediauk | 2013-05-05 05:08 | 新聞業界
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 本日3日は、「世界報道の自由の日」(ワールド・プレス・フリーダム・デー)だ。1993年、国連総会が5月3日を「世界報道の自由の日」として指定した。報道の自由の重要性について人々の意識を喚起し、各国政府が世界人権宣言の第19条に基づく表現の自由を尊重し支持する義務を認識するために定められたという。

 2日、国連はどの国でもジャーナリストの安全が保障されるように行動を起こすことを求める声明文を発表した。

 UNESCOによれば、過去10年間で600人を超えるジャーナリストが命を落としている(個人的には、もっと多いのではないかと思うがー)。そのほとんどが紛争地での取材中のできごとだ。また、ジャーナリストの命を奪った相手はほとんどが裁きを受けない状態となっている。

 報道の自由度が高いと思われる英国で、報道規制をどうするかについて大きな議論が起きている。昨年11月末、「レベソン委員会」が報告書を出し、これを土台に新たな規制の枠組みを作ろうとしているが、今日現在、意見が一つにまとまっていない。

 この件はブログでも何度か書いてきたし、日本でも若干知られているとは思う。おそらく、「報道規制?報道・言論の自由を奪うのでは?」という懸念を引きこすだろうと思う。

 しかし、規制への流れが出たのは、新聞報道(特に大衆紙)による過度のプライバシー侵害、違法行為すれすれの取材方法など、目に余る行為が何十年も続いてきたからだ。
 
 日本的感覚からすれば、「そこまでやるの?」ということが多い。例えば、個人情報を探るために私立探偵を使うとか、情報を買うとか。ゴミ箱漁りという手もあるそうだ。一度、どこかで何とかしないと・・という部分があった。

 昨今は日本で既存マスコミへの批判が表面化している。この点から、英国の報道(主として新聞)規制の話は少し参考になるかもしれない。つまり、報道の自由の維持と行過ぎた取材の防止をいかに両立させるかである。

 ただし、一つ記しておきたいのが、規制に対するメディア組織の行動が日英で結構異なる点だ。

 これはほかの多くのことについても言えるのかもしれないが、例えば「xxxをやってはいけない」と当局が決めたとしよう。業界内の約束事でもいい。英メディアは規制を課されること自体に抵抗するが、その次の段階では、規制を結構無視する、あるいは何とかこれを潜り抜けようとして知恵を働かす。「xxxをしてはいけない」と言われて、すぐに言うことを聞く・・というわけではないのが英メディアだ。

 英レベソン委員会の経緯と報告書の概要を、「新聞研究」4月号に書いた。以下はこれに若干補足したものである。

 尚、この報告書は全体で2000ページ近くの大作で、私の概要も結構長い。メディアの動きに深い関心を持つ方のために、あるいは学問的な資料としてここに掲載しておくが、英国の新聞界の反応や現状を知りたい方はこの次を拝読願いたい。

英メディアの自立と規制 レベソン委員会 報告書の概要

―はじめに

 2012年11月末、英国の新聞界の文化、実践、倫理を検証する独立調査委員会が、法律に基づく独立規制・監督機関の設置を求める報告書を発表した。過去300年以上にわたり自主規制に委ねられてきた英新聞界は、大きな挑戦状を突きつけられた。

 委員会は、日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙」(廃刊、以下、NOTW紙)での電話盗聴事件を受け、2011年夏、キャメロン首相が発足させた。委員長となったブライアン・レベソン控訴院判事の名前をとって、通称「レベソン委員会」と呼ばれている。

 NOTW紙の盗聴事件とは、2005年、王室関係者の携帯電話の伝言を同紙の記者と私立探偵が盗み聞いたことが発覚し、07年、記者と私立探偵に実刑判決が下った事件だ。2011年7月、左派系高級紙ガーディアンが、9年前に誘拐・殺害された少女の携帯電話も同紙の記者らが同様に盗聴し、「伝言を削除した」と報道したことで、国民の間に同紙の過剰取材に対する強い嫌悪感が発生した。ガーディアンの報道から2日後、NOTW紙の廃刊が決定され、数日後にレベソン委員会が設置された。

―調査の経緯と目的

 委員会の付託事項は2つに分かれる。

 第1部は「新聞の文化、実践、倫理の調査」だ。盗聴事件が発生した新聞界の実態把握が目的で、個人情報の保護や規制の有効性、不正行為の実情などを広く検証した。同時に、新聞と警察や政治家との関係及び3者のそれぞれの関係も調査対象とした。

 調査が広範囲にわたった背景には、盗聴事件の実態が明らかになるにつれ、かねてからの新聞報道の悪癖(プライバシー侵害、容疑者の犯人視報道、倫理の欠落など)への不満感が一気に噴出したことがある。

 新聞と権力側との「癒着」も広範化の要因だ。例えば、盗聴事件発生当初、ロンドン警視庁は捜査の範囲を矮小化した。09年、ガーディアン紙が盗聴は組織ぐるみであったと報道すると再捜査を求める声が出たが、警視庁は再捜査の可能性を短時間の考慮で却下した。警視庁幹部とNOTW紙の発行会社ニューズ・インターナショナル社(=NI社)の経営幹部とが友好関係にあったことも判明し、メディアと警察との親しすぎる関係が事件の全容解明を阻んだのではないかという疑念が高まった。

 政界と新聞界、特にNI社やその親会社米メディア大手ニューズ社の幹部(最高経営責任者は「メディア王」ルパート・マードック氏)との密接な関係も、耳目を集めた。キャメロン首相は先の盗聴事件発生時のNOTW紙編集長を官邸の広報責任者として雇用していた上に、ニューズ社経営陣らと個人的な友好関係を持っていた。さらに、2011年夏当時、ニューズ社は39%の株を所有する英衛星放送局BスカイBを完全子会社化する案件を進行中で、首相及び担当大臣が便宜を図ろうとしたとする懸念が出た。

 上記を踏まえ、委員会は過去及び現状を把握した上で、言論の自由、多様性、独立性、高度の倫理・報道水準を維持するための政策や規制体制を推奨することを目指した。

 第2部はNI社やほかの新聞社・メディア企業での違法な取材行為についての調査だが、開始時期は未定だ。現在、盗聴事件の再捜査に加え、公務員からの情報買取やハッキングによる違法な情報取得と汚職疑惑について捜査が続行中で、すべての司法過程終了後に第2部が開始されることになっているからだ。電話盗聴事件をきっかけに生まれたレベソン委員会だが、事件の解明自体は調査対象に入っていない。
 
 委員会は2011年7月13日に発足し、8月末から調査の証拠となる文書の受付を開始。9月、10月には、国民に向けて現状の把握と問題の提起の機会として勉強会などを開催した。

 11月中旬から翌2012年7月までは、ロンドンの王立高等法院で公聴会が開かれた。マードック氏を含む新聞社経営幹部、編集長、記者、警察幹部、私立探偵、労働組合幹部、人権擁護団体、歴代首相を含む政治家、報道の被害者、メディア学の学者など合計337人が召喚され、宣誓の下、委員会で質疑を受けた。さらに300余人が証言はせずに文書のみを提出した。調査報道を遂行するために公に顔を出せない記者などを除き、ほぼ全員の証言がカメラで撮影され、委員会のウェブサイトに動画と証言内容の書き取りが掲載された。調査費用は約500万ポンド(約74億円、2011年7月から12年10月末まで)に達している。

―報告書は4部構成

 報告書は、最初の概要部分が46ページ、本文に当たる部分は4巻構成で約2000ページに上る。

 第1巻は委員会の立ち上げ、調査方法、目的、新聞と公益、新聞界が置かれている状況、報道規定、司法上の問題、警察の捜査、個人情報保護法の違反状況、電話盗聴事件などを扱う。第2巻(437ページ~)は新聞の文化、実践、倫理に注目し、新聞と国民の関係、NOWT紙の報道と報道被害の実例、新聞と警察の関係についての調査結果をまとめた。第3巻(997ページ~)は個人情報保護と新聞、新聞と政治界、言論及びメディア所有の多様性について言及。第4巻(1477~1987ページ)は報道苦情委員会(Press Complaints Commission=PCC)の役割と実践を検証し、法令化による独立規制機関の設置を推奨した。

 報告書の内容を、新聞報道と国民、PCCの機能、新聞と警察、データ保護、政治家との関係、最後に規制の行方の面から、紹介してみる。

―新聞報道と国民

 約8ヶ月続いた公聴会で、最も注目を集めたのが報道被害者による証言であった(概要部分及び第2巻パートF-5他)。02年に誘拐・殺害された少女ミリー・ダウラーちゃんの両親も証人となった。失踪後の数ヶ月、執拗にメディアに追われた両親は、少女の携帯電話の留守番用伝言が更新されていたので、「生存への望みをつないでいた」(母親)。ガーディアン紙の報道でNOTW紙の記者が伝言を聞いていたこと、伝言の一部を「削除」したことを知り、大きな衝撃を受けたという(証言の3ヵ月後、警視庁の調べで削除の事実が証明できないことが判明し、ガーディアン紙は訂正記事を出した)。

 2007年、マッカン夫妻はポルトガルの保養地で幼児の娘が失踪した経験を持つ。新聞各紙から夫妻を犯人視され、母親が娘を失った悲しみをつづった日記の一部を本人の同意なしにNOTW紙に掲載された。ゴードン・ブラウン前首相は、財務相だった2006年、息子の病気を大衆紙サンに暴露された。

 報告書によると、一部の新聞はネタを追うために業界の倫理綱領が「存在しないかのように振る舞い」、「罪なき人々の人生に大きな苦難や大損害をもたらした」

 「あまりにも多くの新聞記事があまりにも多くの人から苦情の対象になりながら、新聞が責任を取る例が少なすぎた」

 NOTW紙については、「規則順守体制に失敗があった」、「個人のプライバシー保護や尊厳への敬意が欠如していた」と指摘した。

―PCCの機能

 新聞報道の水準を維持するための規制体制について、報告書は、加盟新聞社による報道苦情委員会(PCC)が十分に機能していなかったと結論付ける(概要部分及び第1巻パートD-2他)。

 「根本的な問題」は、PCCは規制組織ではなく、苦情を処理する組織であった点だと報告書はいう。

 PCCは、業界からの「独立性に欠けていた」。運営資金を調達するために新聞・定期刊行物から拠金を集めるのが「新聞基準財務機関」(PressBof)だが、業界の上層部が会員となっていた。

 PCCへの参加は任意で、比較的に少ない人数に権力が集中しているため、「広範な領域を処理できなかった」、「充分な財源がないので、効果的な調査をすることができなかった」

 「苦情が取り上げられても、対応は不十分で、PCCに批判されたジャーナリストへの懲罰行為が欠けている。編集長への批判もなかった」

 PCCは新聞界への批判を阻止し、「盗聴事件への調査ではNOWT紙を支持したことで、信頼性を失った。真剣な調査がまったく行われなかった」

 PCCは昨年3月、廃止予定であることを発表している。

―新聞と警察

 報告書は、警察が報道被害について市民を十分に守りきれなかった実態を記す(概要部分及び第2巻パートG他)。

 ロンドン警視庁は、「NOTW紙による盗聴で犠牲になったかもしれない人への通知に失敗した」、09年のガーディアン紙の報道後に発生した再捜査への声を「すぐに否定した」上に、何ヶ月にもわたり「自己防御的な考え方をした」。

 しかし、「メディアとの関係において、警察に大規模な汚職が発生している証拠はなかった」

―新聞とデータ保護

 公的機関の情報公開と個人情報の保護を促進するための特殊法人「情報コミッショナー事務所」(ICO)は、02年、ある私立探偵事務所から個人情報の売買の可能性を示す大量の情報を押収した。当人の同意を得ずに個人の機密情報を取得し、公開するあるいは調達する行為は、個人情報保護法第55項の違反となる。2006年、ICOは捜査の実態を2つの報告書で明らかにした(「モーターマン作戦」)。

 調査期間の対象となった3年間で約1万7000件に上る情報取得・売買の要請があり、その大部分が大手新聞、雑誌などの記者によるものであった(概要部分、第1巻パートE-3及び第3巻パートH他)。

 ICOはメディアによる個人情報の違法利用を阻止しようとしたが、新聞業界によるロビー活動や司法体制の不備から、「私立探偵のノートにあった個人情報法違反行為について、ジャーナリストは誰も取調べを受けない」結果となった。ICOは、「新聞に対して、公式にも非公式にも、規制にかかわる捜査あるいは実行行動を行わなかった」。このため、「被害者の地位を守る機会が失われた」

―政治家との関係

 報告書は新聞とメディア界の関係について、国民の多くが感じてきたことを記す。「過去30-35年、あるいはそれ以上の長い間、英国の与・野党は」、「新聞と近すぎる関係を持ってきた」(概要部分及び第3巻パートG)。政党は「一部の新聞から好意的な扱いを得ることを期待して」、「不釣合いなほどの時間、注意、リソースを費やし」、「世論の国民へのニュースや情報の提供を過度に管理しようとした」

 公務に就く人への国民の信頼は減少し、「政治家と新聞とが、公益に反して、権力と影響力を互いに交換した」という認識、懸念が高まった。

 一方、ニューズ社によるBスカイBの完全子会社化の案件については、判断を下す立場にあったジェレミー・ハント文化・メディア・スポーツ大臣(当時)の側に重大な偏向があったという信頼できる証拠はなかった」と結論付けた(概要部分及び第3巻パートI-6)。

―規制の行方

 報告書は、報道被害を出しても適切な処罰が与えられず、規制が機能していない現状を変えるには、新たな、独立自主規制・監督機関を立ち上げるよう推奨する(概要部分及び第4巻のパートK)。

 規制機関は、法令によって設置され、現役の新聞編集長、経営者、政府から独立している。この法律は新聞の自由を支援し、守る明確な義務を政府に置く。

 運営は理事会が担当する。この会には、前編集長、経験豊かなジャーナリストなど新聞業界の経験を持つ人が参加できるが、現職の編集長、現職の下院議員や政府閣僚は任務に就けない。

 機関の財源は新聞業界と理事会が合意によって調達し、倫理綱領は、理事会員と現職の編集長が構成する綱領作成委員会によって決める。

 綱領は「言論の自由の重要性、国民の利益(公益、公衆衛生と安全性を守り、国民を大きく間違った方向に導くことを防ぐなど、個人の権利)を考慮に入れる」。

 理事会は、新聞報道に対する、適切で迅速な苦情処理メカニズムを持つ。
 
 倫理綱領の違反となる苦情があった場合、理事会は、新聞媒体に訂正と謝罪の掲載を指令する権限を持つ。しかし、「いかなる状況でも、記事の掲載を停止させる権限は持たない」。理事会は自らが問題を検証する権限も持つ。

 違反行為があった場合、理事会は新聞社に対し、売り上げの1%(しかし、最高金額は100万ポンド=約1億4500万円)までの罰金の支払を命じることができる。

 報道被害者と新聞社側の問題解決のための裁定所を設ける。より早く低価格の裁定サービスを利用できるようにする。

 新たな既成機関が新聞界、国会、政府から独立した存在であることを保証するために、外部の認定組織を置く。報告書が推奨する選択肢は、通信・放送業界の規制監督団体「オフコム」である。

 倫理に反した行為を求められたジャーナリストには内部告発用電話相談サービスを提供する。

 ICOに刑事訴訟を扱う権限を与え、新聞業界と相談の上で、個人情報の処理にまつわる指針を策定する。また、「個人情報保護法違反、プライバシー侵害、秘密漏洩など、メディアによる違法行為に適用される損害の見直しがあるよう」提唱した。

 警察との関連では、「オフレコ・ブリーフィング(オフレコでの背景説明)」という言葉の使用をやめるべき」と報告書は言う。報道しないことになっているバックグランド・ブリーフィング(=参考情報としてのブリーフィング)を意味する場合は、「『報告できないブリーフィング』(unreportable briefing)」と呼ばれるべき」と細かく指定した。

 英国警察長協会に加盟する警察官は、メディアとの接触のすべてを記録し、政策あるいは組織にかかわる事柄が議論になるのであれば広報担当官が立ち会う。

 政党指導者、閣僚、野党の首脳陣らは、メディア所有者、新聞編集長、編集幹部との長期的な関係について、四半期に一度、すべての会合及び会合以外の形(手紙、電話、テキスト、電子メールなど)での連絡の頻度や概要などを報告するように提案されている。

 言論及びメディア所有の多様性を維持するために、政府は「定期的に多様性の定義や状況について検証をするべきだ」。

 メディアの合併案件がある場合、担当大臣は独占防止当局に案件を照会する前に、合併への賛成と反対の関係者と相談する。当局に照会した場合は、照会理由を公表するべきとしている。(終)

***

 (次回は英新聞界の反応と現状について紹介します。)
by polimediauk | 2013-05-03 19:56 | 新聞業界
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(好調に部数を伸ばす英新聞「i(アイ)」のウェブサイト)

 週刊「新聞協会報」(4月2日付)に、英国の新聞界の生き残り策について書いた。以下はそれに若干補足したものである。

 今回、英国の新聞界の状況を改めて見て、私はあることに気づき、空恐ろしくなった。それは、いくつかのことが発生していたからだ。

 まず(1)経費削減やテクノロジーの発展により、生身の人間よりも機械・テクノロジーを代用する傾向が強まっている

 (2)給料を払う人員をおかず、代わりに人件費がかからないソーシャルメディアの情報を活用したり、市民ボランティアを「記者」の代わりにする動きが出ている

 ことだ。

 つまり、表題にもつけたが「現場を追われる記者たち」なのだ。フリーランスの仕事で言えば、低賃金化、無料化は職業自体を消失させる可能性もある。

 ジャーナリズムはこれからは(ほぼ)無給の作業となってゆく(一部著名書き手を除く)のかもしれないーーあと5年もすれば、である。いや、3年かもしれない。

 ・・・話が先読みすぎたかもしれないが、今回の執筆は、そんなことを考えさせる機会となった。

***

英新聞界の生き残り策は

効率・デジタル重視 -現場を追われる記者たち

 インターネット上で無料のニュース情報があふれる中、紙媒体でニュースを伝えてきた新聞社の経営は、日本のみならず英国でも厳しい状態にある。

 新たなメディア環境の出現に対応するため、英新聞界は組織再編、人員削減、編集作業の定型化など様々な取り組みを行っている。生き残り戦術を紹介したい。

 まず現況に注目すると、主要全国紙の2月の発行部数(平日平均、英ABC調べ)は前年比で二ケタ台の下落が珍しくない。例外は左派系高級紙インディペンデントの簡易版で、価格が本紙の5分の1の「i(アイ)」だ(12・7%増、2010年創刊)。本紙の部数(約7万5000部)はi(約29万8000部)の三分の一以下になった。iの成功は読者が読みやすくかつ価格が安い新聞を欲していることの表れだろう。

 地方紙(ABCの調査に参加した450の日刊、週刊紙)は昨年下半期で前年同期比6・4%減。日刊紙で前期より部数を伸ばしたのは2紙だけだ。

 ウェブサイトの利用状況は紙の発行部数とは逆で、ほとんどの新聞社サイトがユニーク・ユーザー数を二ケタ台で増加させている。

―人員削減、組織再編

 紙媒体からの収入の落ち込みと読者のネットへの移行に対抗するため、新聞各社は組織再編を行ってきた。目立つのが人員削減の規模や編集部員まで対象としている点だ。

 多くの地方紙を発行するジョンストン・プレスは「デジタル・ファースト」戦略の下、一部日刊紙の週刊化、モバイル機器用新アプリの発売、記者を無給の「市民記者」あるいはフリーのジャーナリストに入れ替えるなどを実行中だ。昨年1年間で約1300人が整理された(現在の人員は約4300人)。

 全国紙でも数十人規模で人員削減が続く。640人余の編集部員を抱え、給与凍結中のガーディアン・ニュース・メディア社は100人の希望退職者を募り、60人弱が応じた。

 1月、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙はデジタル化への投資を進めるため、35人の編集部員の削減と、デジタル専門の記者10人の新規雇用を表明した。

 平日に発行される新聞と日曜紙との編集統合(通常は異なる編集部を持つ)も相次ぐ。2月、インディペンデントとインディペンデント・オン・サンデーの編集部が統合された。

 テレグラフ・メディア・グループ(平日紙デイリー・テレグラフと日曜紙サンデー・テレグラフを発行)は、3月、両紙を統合し、550人の編集部員の中で80人を削減すると発表した。同時に、デジタル専門の人員50人を新規雇用する。

 広告収入への依存度が全国紙よりは高い地方紙業界では昨年11月、地方紙110紙を統合する新会社ローカル・ワールドが生まれた。2月、同社はコンテンツ制作以外の職を運営経費が低いインドにアウトソーシングすると発表した。

―編集の定型化と最適化

 編集作業の効率化を推し進めるトリニティー・ミラー社(全国紙デイリー・ミラーと地方紙130紙を出版)は、「ニュースルーム3.0」と呼ぶ方式を全国の編集現場に導入中だ。

 狙いは本紙及びウェブサイト上で「出版するまでの過程に人の手が介在する数を最小限にする」こと。紙版の制作では定型書式を5つ用意し、記者は書式に納まるように原稿を入力する。ネット用の原稿作成では、「マルチメディア記者」が編集ページに直接原稿を入力し、見出しもつける。

 「コミュニティー編集者」職が新設され、「コミュニティーコンテンツのキュレーター」たちを管理する。キュレーターたちは読者から寄せられた情報や意見(=無料情報)などをまとめる。記者の確認を経て、サイトに記事が掲載される。

 一方、既に電子版購読者が紙版購読者を超え(2月時点で電子版購読者は31万6000人、紙版が28万6000人)、着実に電子版購読者を増やしているFTでは、無料会員や購読者データの分析に力を入れている(米サイト「Nieman Journalism Lab」3月14日付)。

 消費者分析の専門家を中心に約30人がデータ班として活躍する。まず利用者の行動から統計モデルを組み立て、何が起きているかを分析する。その結果をFTの戦略とどう結びつけるかを全社的に説明する。経営幹部からの質問に答え、情報を提供する。購読者の利用行動からどのようなサービスにつなげることができるのかを練り上げる。

 ここまで徹底してデータ分析に人材を投入している新聞社は少ないのではないだろうか。

 FTはまた、ガーディアンが以前から提供している、掲載記事の電子書籍化を始めている。「FTが編集する」というシリーズで、100頁に満たないが、アマゾン他複数の電子書籍ストアで購入できる。

 英国の新聞サイトは海外からのアクセスの比率が半数を超える。これを利用して海外サイトを立ち上げているのがガーディアンだ。昨年の米国版ガーディアンに続き、オーストラリア版を準備中だ。独自の編集長を置き、地元に密着した記事を掲載する。

 テレグラフ紙は昨年11月から、海外からウェブサイトにアクセスする利用者に、20回までは閲読が無料だがそれ以上は月に1.99ポンド(約300円)の購読料を課するサービスを開始した。インディペンデント紙も同様のサービスを提供している。

 テレグラフ紙は今年3月末、この課金サービスを国内の利用者にも適用すると発表した。大衆紙サンはネット版閲読課金サービスを今年後半から開始する。サンの「売り」は、普段は特定の放送局でのみ生中継される、サッカーのプレミアリーグ戦の動画が視聴できることだ。

 新規分野に飛び出すのがインディペンデントなどを所有するロシア出身の実業家エフゲニー・レベデフ(レベジェフとも表記)氏だ。

 放送・通信業の監督機関「オフコム」は地方での放送免許を次々と認可中で、2月、ロンドン地方の新放送局「ロンドンテレビ」の放送権をレベデフ氏に与えた。早ければ9月から放送開始予定だ。想定視聴者は約400万戸。インディペンデント紙が赤字状態の中で、テレビ界に進出する意図を聞かれた同氏は、「影響力の増大」を挙げている。

ー地方紙は

 2012年上半期で発行部数を伸ばした地方紙の一つが英南東部件ケント州のダートフォード・メッセンジャー紙だ。ボブ・バウンズ編集長は「その土地の会話の中に入るのが支持されるための鍵だ」という(プレス・ガゼット紙、3月13日付)。

 同紙のウェブサイト(「ケント・オンライン」の一部)には、紙版発行より前に、多くの記事が掲載されている。この中で取り上げられた話題がソーシャルメディアを通じて広がり、住民の会話に反映されるという。同紙にはフェイスブックの友人やツイッターのフォロワーが多数存在する。

 サイトを開くと住んでいる場所を聞いてくるので、「ダートフォード」と入力すると、中央部に「コミュニティー・ニュース」のコーナーが見える。アルファベットから町の名前を選択すると、その町の紹介や町で発生したニュースが読めるようになっている。ハイパーローカルの典型的な例だろう。 

 英新聞界の取り組みを見ていると、新規の分野に踏み込もうという経営陣の意欲を感じる。しかしその一方では、経費削減のために人手をテクノロジーで代行する動きやそれまでに記事を書いてきた記者の数を切り詰め、デジタル知識に長けた人員を新規雇用するなど、効率性とデジタルを重視するあまりに、相当の知識や経験を持つ新聞記者が現場から押し出される状況が見えてくる。

 広告収入と部数を売って収入を得る紙媒体の発行、そしてネット版(無料、有料)のいずれの場合でも、収益を生み出すのはコンテンツ、中身だ。「すべての収入の基になるオリジナルのコンテンツを人員削減後も提供し続けることができるのだろうか」と、オブザーバー紙のコラムニスト、ピーター・プレストン氏は疑問を投げかけている(3月17日付)。


 
by polimediauk | 2013-04-07 19:55 | 新聞業界