小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ:新聞業界( 282 )

 違法すれすれの取材行為、個人のプライバシー侵害、間違いがあってもなかなか訂正を出さず、もし出したとしても申しわけ程度―こんな英新聞界の現状を変えるために、法的規制組織設置への模索が続いている。

 前に何度か紹介してきたが、きっかけは大衆紙(廃刊済み)の大規模電話盗聴行為の発覚だ。

 昨年末、現状改革に向けての調査委員会の報告書が出て、今、新聞関係者、与野党、国会で議論が続いている。

 新たな既成組織は、政府からも新聞業界からも独立していることが条件だ。これを一体、どうやって作るべきなのか。

 1月29日号の「新聞協会報」に、この委員会の報告書とその後の動きについて書いた。以下はそれに、若干付け足したものである。全体の流れが分かると思う。

***

盗聴事件で英調査委員会が報告書
―新たな新聞監督機関の設置を推奨
 各紙、一様に法令化反対

 英大衆紙による電話盗聴事件を受けてキャメロン首相が設置した、新聞界の文化・慣行・倫理を検証する独立調査委員会が昨年11月末、8ヶ月にわたる調査の後、報告書を発表した。法の遵守を軽視した一部の新聞の報道が「罪のない国民の人生を大きく破壊した」として、法に基づく、新たな独立規制・監督機関の設置を推奨した。

―法規制には賛否

 英国の新聞界は、17世紀末に印刷物を事前検閲する法律が失効したことで、過去300年以上、自主規制によって発展してきた。

 法による規制が機関化した場合、報道の自由が脅かされる懸念があり、新聞界や一部の政治家、言論の自由擁護団体などが反対している。一方、報道被害者らや野党労働党は、被害を止めるには業界による自主規制では不十分として、法令化を強く支持している。

 調査委員会(委員長のレベソン控訴院判事の名前を取って、「レベソン委員会」)発足の遠因は大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(廃刊)での王室関係者の電話盗聴事件(2005年発覚)だ。07年には同紙の記者と私立探偵が実刑判決を受けた。その後、盗聴対象が数千人規模であった可能性が示唆され、11年夏、02年に失踪した少女の携帯電話も盗聴されていたことが発覚。国民の間に強い嫌悪感が広がり、委員会の設置につながった。

 委員会は新聞経営者、編集長、記者、政治家、警察関係者、報道被害者など約340人を公聴会に召喚した。

 2000ページを超える報告書は、プライバシー侵害、嫌がらせ行為、警察や官僚からの情報売買、他人に成りすまして個人情報を取得する「ブラギング」、コンピューターへの違法ハッキングなど常軌を逸する取材手法が常態化した一部の新聞の報道が「言語道断」のレベルにまで達していると指摘した。

―PCCは解消へ

 英国の新聞界には公式の規制監督団体がないが、これに最も近いのが、各媒体が任意で参加するPCC(Press Complaints Commission=英報道苦情委員会)だ。新聞報道への苦情を処理するのが主目的で、参加メディアが運営資金を出す。独自の報道規定も設定している。

 レベソン報告書は、PCCが電話盗聴事件の解明に力を発揮できず、違法な取材行為や過熱報道を減じることもできなかったことから、PCCを「非効率的」(キャメロン首相)、「権限のないプードル(注:プードルは大きな権力におもねる存在)」(野党党首)とする見方に「同意する」と述べている。

 PCCは新聞の違法報道などに懲罰を課す機能を持っていないが、盗聴事件の矮小化に努めた大衆紙発行元の経営陣の説明を額面通りに受け取り、事件の深刻さを暴露したガーディアン紙の報道を批判するなど、業界の膿を温存させる側についたことが低い評価につながった。PCCは現在、組織解消の過程にある。

 報告書は、警察については「大規模な汚職の証拠はなかった」としながらも、幹部が大衆紙の上層部と親しい関係にあったことを批判。政治家は新聞界と「親しすぎる関係」を持ち、「過去30年間、(社会の中の)公務の認識に損害を与えた」と結論付けた。

 各紙は報告書の批判を受け入れたものの、法に基づく規制・監督機関の設置には一様に反対の姿勢を示した(デイリー・テレグラフ紙社説「レベソン報告書を実行しようーただし、新聞規制の法令化はやめよう」、12年11月29日付)。

 懸念は、国会議員が恣意的に法律を変更し、報道の自由を脅かす体制となる可能性だ。キャメロン首相も報告書発表日、法律による規制への懸念を表明した。

 報告書が推奨する規制監督組織は、「高い水準のジャーナリズムを促進する、個人の権利を守るという2つの役割を持つ、独立の」存在だ。具体的には、(1)苦情を聞く、(2)報道の高水準を維持する(逸脱者には適切な制裁を下す)、(3)苦情・紛争解決のために公正で、迅速、安価な裁定の仕組みを提供する。また、違法な取材行為への関与を求められた記者を保護するため、告発者用ホットラインを設ける。

 PCCは任意参加であるため、すべての新聞社が会員にはなっていない。新組織への参加を促すための方法として、紛争解決のための裁定体制を利用する場合、組織外の新聞社は巨額の損賠賠償を支払うなどのペナルティーを設ける。

 運営役員には、現職の編集長、議員、政府関係者は入れない。新たに報道基準を策定し、違反した場合は、最大で新聞社の売り上げの1%か100万ポンド(約1億4300万円)の罰金を課す。

―違法取材根絶できるか?

 レベソン報告書は、「新聞を法的に規制する組織を設立するのではない」、と書いた。組織への「参加を促し、独立性や効率性が実現されているかを検証できるように、法律に基づく形を取る」のだと説明する。

 新組織自体の独立性と効率性を監督する存在として、報告書は通信・放送業界の監督機関、情報通信庁(オフコム)(あるいはこれに類似する組織)を挙げた。

 しかし、オフコムのトップは政府が任命するため、「政府による新聞界の統制」という面が出てしまうことが一部で指摘されている。

 新たな自主規制体制を構築するため、新聞業界ではPCC幹部を中心に、法制化をしない形での組織の設置に向けて意見を調整中だ。野党労働党は昨年末、報道の自由を謳う法律の立法化に向けての提案を発表し、報道被害者団体「ハックトオフ」も年頭に報告書の提案を立法化するための試案を公表した。

 2月12日には、連立政権を担う与党・保守党が、国王が法人格を与える勅許に基づいた設置案(「王立憲章」方式)を取りまとめて、発表した。「レベソン報告書の趣旨に反する」、「新たな法律の立法化をするべき」(野党労働党)と、批判が出た。

 複数の案が錯綜しており、一定の方向性が見えるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

 行過ぎた新聞報道を是正するための調査委員会は、過去にも数回、実行されてきた。報道被害を防止し、違法取材を根絶するための仕組みが今度こそできるのかどうかー。英新聞界は曲がり角にいる。
by polimediauk | 2013-02-14 22:30 | 新聞業界
 英フィナンシャル・タイムズの2月9-10日号に掲載された、「アマゾンのこん包を解く」が、ウェブサイト上で多くのコメントを集めている(ネット上の購読は登録制で、場合によっては課金購読となることにご注意)。

 本文の前には、「オンラインの巨人が英国で数千人を雇用した。それなのに、なぜ従業員の一部は幸せではないのか?」と書かれている。

 イングランド地方中西部スタッフォードシャーの元炭鉱の町Rugeleyに、1年半前にアマゾンの巨大倉庫が建設された。地元の雇用に大いに役立つとして当初は大歓迎されたものの、実際には悲喜こもごもの展開となっている、と記事は書く。

 スタッフの仕事は8時間シフト制で、休み時間は30分。英国の最低賃金は時給6・19ポンド(約900円)だが、基礎的な作業についてはこれよりほんの少し上の6・20ポンドを一律に払っているという。ほとんどがアマゾンが使う人材派遣会社からの雇用という形をとり、病気で休んだ後で、首を切られたスタッフもいる。正社員としての雇用までの道は険しいという。

 仕事の1つは、大きな倉庫に山ほどある本の中から、顧客が欲しい1冊を探し出して運ぶこと。この職種の人は「ピッカーズ」と呼ばれる(ピック=取り出す)。台車を押して、顧客の注文に応じて、本の棚まで行き、持って来る。

 アマゾンには、この作業を最も効率的に進めるための歩き方を計測するソフトウェアがあるそうだ。ピッカーズたちはそれぞれ衛星誘導システムがついた機器を手に持ち、この機器がどの棚にどのようにして行けば最適かを教えてくれる。

 忙しい日には1日に7マイル(約11キロメートル)から15マイルも歩く場合もあるそうで、アマゾンのマネージャーの一人は、「君はいわばロボットのようなものだ、人間の形をしているけれどね」、「ヒューマン・オートメーションだ」という。

 この町のアマゾンの倉庫には、毎日、「現場歩き」を行うマネージャーたちがいる。マネージャーの一人マット・ピーダーセン氏は、FTの取材者に倉庫を見せながら、「今日はどんな理由で作業が停止したのか、どうすれば改善できるのかをスタッフに聞く」という。

 このマネージャーのほかにも、ラップトップが乗っている、車輪付きデスクを押しながら、現場を監視している人もいるという。どこで作業が遅れているのかをチェックしている

 1990年に炭鉱が閉鎖されたRugeleyでは、その後十分な職がない状態が長く続いた。アマゾンの倉庫建設によって、地元に根付いた、長期的な雇用が生まれると期待されたが、これまでに200人ほどが正社員化し、残りの大部分がテンポラリーであることに、地元の政治家は不満を持っているという。

 記事の中には、前向きな話として、正規雇用となって週に220ポンドをもらう人の例や、アマゾンだけが臨時採用体制をとっているのではなく、英国全体で、正社員ではなく臨時職員として人を雇用する企業が2008年以降特に増えている、とする説明がある。また、「仕事があるだけもいいではないか」という声や、「終身雇用の世界は終わった」という地元不動産会社の運営者のコメントも紹介している。

 この記事を読んで、スタッフの働きぶりには驚かざるを得なかった。「人間のロボット化」の言葉も強く印象に残った。

 しかし、記事は「アマゾン=悪者」という見方が強く、一方的な感じもした。「なるべく安い本をアマゾンで買って(米英ではアマゾンで買うほうが通常の書店で買うよりもかなり安い)、即、届けてもらいたい」という消費者側の意向が、低賃金+重労働の職環境を作り上げている面もあるだろう。

 記事にはかなりのコメントが集まっていた。批判的なものが多い。

 いくつかの論点を追うと

 *バランスに欠けている

 *低賃金+重労働+ロボット化は、アマゾンだけではない。低い価格でサービスを提供する企業は、どこでも同じようなことになるのではないか

 *実態が知られ、これに対して抗議の声をあげることで、働く環境が変わるのではないか

 *ドイツでは違う状況になっている(職場環境の改善があった)

 *仕事があるだけもよいと思う

 *米国のLehigh Valley (Pennsylvania)でも、2011年の夏、問題が発生した

 など。
by polimediauk | 2013-02-10 08:58 | 新聞業界
 先月21日に、「日本のメディア関係者との会話で見えてきたもの -本気の議論をするには?」というエントリーを出した。


 この中で、「本気の議論」がネット上でさらに深まるためには(=もっともっと、面白み、深みを出すためには)どうしたらいいかという流れになり、以下のように書いた。

***

 例えば新聞・雑誌の論考・意見が、ネット空間にもっと出てもいいのではないかと思う。具体的に言うと、例えば新聞の解説記事が、多くの人が読めるように=つまりは、無料か廉価で=どんどん出ればどうかと思う。

 経営上の理由があることは承知しているのだけれども、ネット空間の言論の更なる充実化、厚みを出す1つの方法として、解説面に出ているような記事が、どんどんネットに出て、これが一定の量になることが必要ではないかと思う。
***

 英国の新聞や放送メディア(=BBC)がネット上で無料で記事(過去記事、解説記事含めて)を出す状況が長い間続いており、これが大いに議論やソーシャルメディアの活況につながった状況を踏まえての説明だった。

 しかし、ロンドン大学でメディアの多元性を研究中の山田隆裕さんからメールを頂き、「単純な無料化は質の低下につながる可能性も考慮しなければならない」のではないかという趣旨のコメントを頂いた。

 そこで、自分が「ジャーナリズムの生成にはお金と時間がかなりかかる」ということを、見逃していたことに気づいた。

 以下は山田さんのご指摘の主要部分である。

***

 ネット空間の言論については、同様の問題意識を持っておりますが、その言論空間にお金を支払う仕組みが確立していない ことが一つの問題としてあると思っています。新聞、雑誌、テレビにおいてジャーナリズムが発展したのも、綿密な取材、高度な分析・議論、編集を資金面から支える仕組みがあったからこそで(だからこそ別 に記事にされていますBBCのワールドニュースも質の向上のために収入を上げることを目標とされていると理解しています)、現在の(無料で見られる)ネッ ト空間にはそういったことに対して資金面から支える仕組みが確立していないことも 、今後のネット空間における言論の更なる充実化に向けて、課題になっているのではないかと感じています。

 資金面で支えられていない取材、分析には限界がありますし、現在の新聞や雑誌、テレビが無料でネット空間に公開することになっても、それが新聞・テレビ の経営基盤を不安定にすることにつながるのでは、そういった取材、分析等に対する資金の流れが滞り、これまでの新聞、雑誌、テレビにおける言論の質の低下、ひいては言論全体の質が下がるのではないかとも懸念しております。


***

 「資金面で支えられていない取材、分析には限界」があるーこれはしみじみ、自分でも感じている。

 山田さんからは、言論空間のみでなく文化面で起きていることとして、音楽家佐久間正英さんのブログ(昨年6月のエントリー)をご紹介いただいた。「無料」あるいは「なるべく安く」という流れ・要求が、日本の音楽を文化として向上させることを難しくしていることについてのエントリーだ。

 音楽家が音楽を諦める時


 BLOGOSサイトには、佐久間さんのインタビュー記事も:

 音楽プロデューサー・佐久間正英氏が語る「音楽業界の危機的状況」

***

 現在、ネット上でさまざまな情報が無料で出ており、簡単に情報発信もできるようにもなった。これはこれで素晴らしいのだけれども、きちんとしたものを作ろ うとすれば、やはり相当の時間やお金がかかる。ここをカットしたら質が下がってしまう。この点 を書き手+読み手でもある人(自分を含め)や、メディアの将来に興味のある人は忘れてはいけないと、改めて思った。
by polimediauk | 2013-02-06 00:49 | 新聞業界
c0016826_7324769.jpg
 
(英議会でレベソン委員会の報告書についての声明を出す、キャメロン首相=中央=BBCのサイトより)

 大衆紙での大規模電話盗聴事件の発覚を機に、英国の新聞の文化、慣行、倫理について検証していた独立調査委員会(委員長の名を取って「レベソン委員会」)が、昨年秋からの調査を終えて、29日、報告書を発表した。

 犯罪行為すれすれの取材手法や度を越したプライバシーの侵害報道を2度としないように、という意味をこめて、キャメロン英首相がこの委員会を昨年夏、設置したので、報告書には、「今後、どうするべきか?」の提言が入っている。具体的には、「どうやって、新聞界の行過ぎた報道を規制するか」である。

 現在のところ、監督機関的な存在は、あえて言えば「報道苦情委員会」(PCC)だが、これは読者からの新聞報道についての苦情を受け付ける団体で、「規制、監督」的な機能はほとんどないといってよい。

 そこで、レベソン委員会が提唱したのは、新聞の報道水準を上げるために、新たな自主規制機関を作ること。設置は法令に基づくこと、と。

 法制化については、キャメロン首相は29日午後の議会討論で、懸念を表明している。

 ここ数日、あるいは数ヶ月、「どのような規制監督組織があるべきか?」について、活発な議論が交わされそうだ。

 報告書は全体で約2000ページの長いもの。概略だけでも50ページ近くとなった。

 要点は:

 新聞については

 「英国の新聞界はほとんどの間、非常によく機能してきた」

 しかし、電話盗聴事件やプライバシー侵害の報道が続いており、「新たな、厳しい監督組織が必要だ。ただし、これは法によって新聞界を規制することを意味しない」

 「新聞報道についての苦情を処理するために、裁定所を作るべき」
 
 「ネタを追う中で、一部の新聞は(守るべき)規定がまるでないかのように振舞ったことが何度もあった」

 「これが罪がない人々の生活に損害を引き起こし、権利や自由が踏みにじられてきた」。

 新聞界と政界の関係については

 「過去30年間、すべての政党が新聞界と緊密すぎる関係を維持してきた。これは公益ではなかった」

 新聞界と警察との癒着については

 「一部の警察関係者に問題となるような行動が見られたものの、警察内で汚職が広がっているという証拠はなかった」

 報告書の発表にあわせて、レベソン委員長は、午後1時半過ぎからロンドン市内でスピーチを行った。スピーチが終わり、集まった新聞関係者や委員会で証言を行った人々が会場から少しずつ出てきた。

 報道被害にあった犠牲者らを代表する弁護士は、会場近くで報道陣に囲まれ、法律に裏打ちされた独立報道規制機関の設置を高く評価したものの、「そんな機関の設置は難しい」「新聞界は行動を起こさないだろう」という意見も複数見受けられた。

 PCCの委員長で、PCCをベースにした新たな自主規制機関の立ち上げを提唱していたハント卿も否定的な見方をした一人。「法律で報道の自由を規制するのは、受け入れられない」。

 「法律で報道の自由を規制する、とは委員長は言っていないが」とBBCの司会者に指摘されても、「PCCを基にした機関の設置がよい」と主張した。

 発表後、議会ではキャメロン首相が報告書についての見解を表明。各議員による質疑応答が続いた。首相と大手政党の党首らは、1日前に報告書を受け取っているので、練った見解が出せるのである。

 首相は「報告書の原理を支持する」としながらも、「新たな法律の立法化には反対」と述べた。「そんなことになったら、まるで『ルビコン川を渡った』ような、元に戻れない事態になる」と表明。この「ルビコン川」という表現は、規制を嫌う新聞業界が良く使う。政治家、法律、国家の権力など、もろもろの大きなパワーの干渉には、英国の新聞界は常に反対の立場を取る。

 一方、与党保守党と連立政権を組む自由民主党党首ニック・クレッグ氏、野党・労働党のエド・ミリバンド党首は、法律に裏打ちされた規制監督機関の設置に前向きの姿勢を見せた。

 連立政権の中で意見が割れてしまった。次回の総選挙は2015年だが、クレッグ氏とミリバンド氏が意見をともにしたことで、これを一種の政治危機と見る人もいる。

―犠牲者の胸のうち

 メディア報道の中心は、「規制・監督機関がどうなるか?」だが、報道の犠牲者のことを忘れるわけにはいかないだろう。

 BBCのメディア記者トーリン・ダグラス氏は、BBCサイトのブログの中で、報告書から伝わってくるのは、「新聞報道への強い手厳しさ」だと書く。

 例えば、報告書は、新聞が「センセーショナルは報道をすることを最優先し、人にどんな悪影響があるかについて感知しない」として、ダウラー夫妻やマッカン夫妻の例を挙げた。

 補足説明をすれば、委員会設置のきっかけとなった電話盗聴事件は、大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(既に廃刊)で発生した。この新聞の記者がダウラー夫妻の少女ミリーちゃん(後に、誘拐、殺害されたことが分かった)の携帯電話の伝言を盗み聞いたことが分かっている。また、失踪した子供を持つマッカン夫妻の場合は、メディアに執拗に追われたばかりか、地元警察に犯人視された母親が苦しい心のうちを語った日記の内容を、本人が知らない間に紙面で暴露されてしまった。

 レベソン委員長のニューズ・オブ・ザ・ワールド紙への批判は鋭かった。

 「従業員がビジネスのために犯罪行為を働いたら、ほとんどの企業が驚愕するはずだ。ところが、ニューズ・オブ・ザ・ワールドはそうではなかった。警察が(後に逮捕される王室記者に)逮捕状を出したとき、同紙のスタッフが逮捕を阻もうとしたのである」。

 倫理に反する行為に従事していたのは、この新聞だけではなかった。「あまりにも多くの新聞のあまりにも多くの記事が、あまりにも 多くの人から苦情の対象になってきた。そして、新聞の責任、あるいは巻き込まれた人への影響という点から、ほとんど何も行われなかったのである」-。

 ダウラー夫妻の弁護士マーク・ルイス氏は、民放チャンネル4の取材で、「キャメロン首相が、法律に基づいて、新聞界を規制する組織を立ち上げる提案をそのままは支持しないといったので、がっかりした」と述べている。

―公益とは?

 さて、果たして新聞界はどんな動きを見せるだろうか?明日の新聞が楽しみになってきたが、注意したいのは、言葉の魔術だ。

 例えば、「公益」という言葉である。「公にとって良いこと」を普通は指す。少々手荒な手段を使っても、公益のために真実を探り当てるー。これは良いことであるに違いない。

 しかし、大衆紙のいいわけ的な常套句に、「たくさんの人が新聞を買っている=公益がある」とする解釈がある。「読者が関心があること=公益があること」という論理だ。すると、どんなに破廉恥なゴシップ記事でも、新聞が売れている、「読者が買ってくれている」、だから、「公益があるのだ」というわけである。詭弁?確かにそうであるが、まじめな顔でそういう記者や経営陣が結構いる。

 「新聞に法的規制を課したら、英国は言論の自由がない国になってしまうージンバブエのように」。これも詭弁ではないだろうか。簡単に、一斉に口を閉じてしまうような新聞業界ではないのだから。

 先にも書いたが、今後の議論の最大の焦点は、新聞の規制監督をどうするか?

 レベソン委員長は、「新聞業界がよく話し合って、業界から独立した規制・監督機関を作って欲しい」、これまでのような「報道の犠牲者が出ないように」とスピーチで述べていた。ただ、こういう機関の設置には「法的根拠があるべき」という立場。

 これを新聞業界は、「法律によって、新聞の報道の自由が大きく規制される、ルビコン川を渡るようなものだ」と主張しながら、強く抵抗する可能性がある。(実際に、28日昼のBBCラジオの番組で、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙を発行していたニューズ・インターナショナル社のCEOがそう話していたのである。)

 経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のライオネル・バーバー編集長も、「報告書で新聞業界の醜さが出た、衝撃を受けた」とFTサイトの動画で語っているが、「法的規制の介入には懸念がある」と話している。

ー外国はどう見たか?

 報告書が出る前日の28日、BBCラジオの「メディア・ショー」が、在英外国メディアにレベソン委員会や法的規制について聞いている。外国メディア協会の会長は「報道の自由がある英国で、新聞の報道に法的規制がかかるようにもしなれば、大きな衝撃となる」、「世界には報道の自由があまりない国がたくさんある。英国の例を見て、早速、報道規制を強めようという国が出てくるだろう」と述べた。

 民放チャンネル4のニュース番組に、29日、出演したのが米国のジャーナリスト、カール・バーンスタイン。ニクソン元米大統領失脚につながる報道を行った、元「ワシントン・ポスト」紙の記者だ。

 「報道に法的規制をかけるなんて、大間違いだ」という。

 英国の新聞では「盗聴行為など、犯罪行為が行われていた。どうして逮捕し、罰しなかったのか?報道の自由を守るには、刑法をちゃんと行使して、違法行為を取り締まることさ」。

ーインターネットはどうする?

 新聞報道を検証したレベソン委員会の存在自体に古めかしさを指摘した人もいる。ガーディアンの元編集者の一人で、今は米国で教える、エミリー・ベルだ。レベソン委員会は「もう関係ない」というわけだ。

 インターネットで情報を収拾することが普通になった今、紙の新聞のあり方を云々すること自体が古いし、第一、どんなに新聞報道を規制しても、ネット界ではさまざまな情報が出てしまうのだ、と。

 確かに、英国の新聞業界の最大の敵は、発行部数がどんどんと減っていること。その代わり、ウェブサイトの利用者はぐんぐん伸びてはいるのだが。

 私自身は「いまやネットの時代なんだから、紙の新聞報道の規制云々を考えること自体がナンセンス」とは、まったく思わない。

 確かにネットオンリーの言論が無数にあるけれども、新聞が発信するネット情報も膨大だ。紙の新聞を手にする人はまだ多いし、市民が報道の犠牲になる場合、ネットが情報元である場合よりも、紙の新聞がそうであった場合が、圧倒的だ。

 放送局がニュース番組作るとき、参考にするのは新聞だ。新聞の調査報道は健在だし、スクープも多発している。言論全体で、「新聞自体が関係ない存在」には、まだなっていないのが現状だ。
 
 数百万あるいは数千万規模の人の目に毎日触れる言論について、そのあり方をしっかりと考えてみることには意味があるように思う。

 それでも、主として紙の世界でルールを課しても、ネットには出てしまう・・というのも事実だ。

 最近、英国では、ツイッター上で名誉毀損があったとして訴える人が目立つ。勝訴して賠償金を得る人も。ネット上での情報発信は、意外と発信者が判別しやすい。今後、人を傷つけるようなネット情報をどうするかに、ますます、関心が向くようになるだろう。
by polimediauk | 2012-11-30 07:16 | 新聞業界
 おとり取材や裏情報の買収で政治家や企業の不正を暴く一方で、有名人の私生活やスキャンダルをあの手この手で暴露する、英国の新聞界。無名の市民がいったん事件の容疑者になってしまったら、実名・顔写真入り報道は日常茶飯事だ。後で無実であることが判明したらー?それはもう「後の祭り」。汚名を着せられたままの人生となる。

 「報道の自由がある」と自負する英国の新聞界は、超パワフルだ。その論調によって総選挙の結果を左右できると見なされているために、政界ににらみを利かせられる。さらに、うっかりしたら私生活についての中傷記事を延々と書かれてしまう可能性があって、政治家にとっては怖い存在だ。

 そして、こんな新聞界の言論を規制する団体や特定の法律は、事実上ないにも等しい状態が続いてきた。検閲によって印刷物を規制した最後の法律は、17世紀末に失効している。

 しかし、29日昼に提出される報告書が、過去300年以上新聞界が享受してきた報道の自由を脅かすことになるかもしれないー。そんな懸念にかられた新聞界は、「法による規制、反対」という趣旨のロビー活動を白熱化させている。

 この報告書は、通称「レベソン委員会」がまとめたもの。「レベソン」とは、委員長となったレベソン控訴院裁判官の名前に由来する。昨年7月、キャメロン英首相が英国の新聞界の文化、慣習、倫理を検証するために設置した。

 そのきっかけは、日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド(News of the World)」(「NOW」紙)による、大規模な電話盗聴事件だ。

―ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙とは

 英国の新聞は、内容によって大きく2つに分けることができる。

 1つはタイムズ、ガーディアンなどの高級紙。これは日本でいうと、全国紙に当たる。もう1つが大衆紙(小型タブロイド版なので、タブロイド紙ともいう)だ。後者は、有名人のゴシップ、セックス、スポーツ記事などが中心で、高級紙の何倍もの部数で売れている。

 NOW紙は、日曜にのみ発行されている大衆紙で、日曜紙市場では英国でトップの部数を誇った。おとり取材や、スターの弱みを握り、その秘密を「告白」させてインタビュー記事を作るなど、ありとあらゆる手段を使って、スクープを飛ばした新聞である。

 しかし、大規模な電話盗聴事件が発覚したことで、昨年7月、168年の長い歴史を閉じ、廃刊となった。

 この盗聴事件、もともとは2005年ごろに発覚し、07年にはNOW紙の記者と仕事を手伝った探偵とが逮捕・禁固刑となっていた。しかし、当初思っていたよりもはるかに多くの盗聴行為が行われていたことが後になって、次第に分かってきた。

 2009年、ガーディアンの報道をきっかけに、捜査を広げるべきだという声が出たが、当時のロンドン警視庁幹部はこれを却下。NOWの当時の編集幹部や、発行元の会社の幹部も、「記者一人が関係していた事件」として、組織ぐるみではなかったと主張し続けた。

 新聞界の自主規制団体「報道苦情委員会」(PCC)もNOWや発行元の幹部の話を信じてしまった。

ーミリーちゃん事件で、山が動く

 盗聴事件が、国民の心を大きく動かしたのは昨年夏のこと。

 ミリー・ダウラーちゃんという14歳の少女が、2002年、ロンドン南部で失踪した事件があった。自宅でアイロンがけをする様子が、よくテレビのニュース番組の中で紹介された。多くの英国民がミリーちゃん失踪事件を長年記憶していた。

 昨年7月上旬、ガーディアン紙は、NOW紙の記者らが、このミリーちゃんの携帯電話の伝言メッセージを聞いていた、そして、古いメッセージを消していた、と報道した(後に、消していたかどうかは不明となっている)。メッセージが消されていたため、ミリーちゃんの両親は娘がまだ生きていると思い、望みをつないでいたのである。もしこれが真実だとすれば、プライバシー侵害どころではない。他人の電話の伝言を聞いていた、そしてことによったら伝言を消していたというのは、刑事事件の捜査妨害にもなりかねなかった。

 そこでようやく、警察が動き出した。国民の中に、「そんなことまでしていたのか!」という大きな怒りがわきおこった。もはや著名人の電話が盗聴されるレベルの問題ではなくなった。

 ガーディアン紙の報道によれば、さらに続々と盗聴例が出てきた。小学生女児らの殺害事件で、その家族の携帯電話を盗聴していた、あるいは、イラクに派遣された英兵の携帯電話にアクセスしていた、など。どの例も、国民の心をかき乱した。

 国民の怒りの急上昇振りに、NOWの発行元ニューズ・インターナショナル社は、何か行動を起こさざるを得なくなった。そして、ガーディアン紙の報道から数日後の7月7日、NOW紙の廃刊を決定した。電光石火の決断であった。

ー首相にも火の粉が

 キャメロン首相にも火の粉が降ってきた。

 というのも、2005年の盗聴事件の際にNOWの編集長だったアンディー・クールソン氏を、官邸の広報責任者として雇用していたからだ。ミリーちゃんの電話盗聴事件が発覚した頃までにクールソン氏は辞任していたけれども、雇用していたことで首相の判断に疑問符が付いた。その上に、7月8日、クールソン氏は、電話盗聴と汚職の疑いで逮捕されてしまったのである。

 窮地に追いこまれた首相が立ち上げたのが、レベソン委員会であった。NOWの盗聴事件のような違法行為が今後起きないように、新聞界の慣行や倫理を検証するのが目的だ。

 NOWでの電話盗聴事件を追うと、警察、メディア、政治家の癒着が浮かび上がってくる。

 例えば、なぜ警察が、初期捜査で一部の盗聴についてのみ、取り上げたのだろうか?2009年にガーディアン紙が盗聴は当初よりもはるかに大規模に行われていたと指摘した際に、なぜロンドン警視庁は再捜査を簡単に却下したのか?

 また、NOW関係者による「たった一人の記者が関係していただけ」という説明が、なぜ長い間、検証されてこなかったのかー?

 キャメロン首相の政治的なおよび個人的な関係にも、この事件は影を落とした。NOW紙の元編集長を官邸の広報責任者にしていたことは先に書いた。これに加え、NOW、および同紙と同じ発行会社が出している大衆紙サンの元編集長で、発行元ニューズインターナショナル社のCEOにまで昇進したレベッカ・ブルックス氏とキャメロン氏は個人的な友人同士でもあった。パワーエリートたちが、公私共にくっついている状況が見えてきた。

 また、ニューズ・インターナショナル社の親会社は米メディア複合企業ニューズ社だ。この会社のCEOはメディア王と呼ばれる、ルパート・マードック氏。マードック氏は、1970年代末のサッチャー保守党政権以来、英メディア界、および政界で大きな影響力を持つといわれてきた。

 とすると、例えば、マードックとキャメロンやほかの政治家とが癒着していたがために、電話盗聴事件が本格的に捜査されてこなかった、とも言えるのではないだろうかー?そんな風に思う人も出てきた。

 不十分な捜査を行ったロンドン警視庁では、マードック・メディアとの近すぎる関係に疑念が持たれ、当時の警視総監と、先に2009年の再捜査を却下した幹部とが辞任する事態にまで発展した。

 こうして、NOW紙での電話盗聴事件は、政界、メディア界、警察を巻き込む、大きな事件として認識されるようになった。

ー報告書が問題とするのは何か?

 昨年秋に始まり、今年夏に終了したレベソン委員会の公聴会には、プライバシー侵害の犠牲者となった著名人に加えて、新聞経営者、編集長、記者、私立探偵、放送業界経営陣、人権擁護団体の代表者など、190人近くが出席し、質疑応答を受けた。

 29日に発表される、委員会の報告書のポイントは、NOWでの盗聴事件のような、常軌を逸した報道が行われないようにするにはどうするかについての提言だ。具体的には、新聞界の規制の見直しである。果たして新法を立法化するのかどうか。

ー法的規制か、否か?

 この文章のはじめの方で、英国の新聞界を規制する法律が事実上ないと書いた。

 少々説明を補足したい。

 1930年代、当時の保守党党首スタンリー・ボールドウィンは、新聞界を「責任を持たない(果たさない)権力」と呼んだ。「まるで、売春婦のようだな」、と。

 ここでの「新聞」とは、当時の新聞王ビーバーブルック卿とロザミア卿が出していたデイリー・エキスプレス紙とデイリー・メール紙である(ちなみに、両紙は現在も健在)。この2つの新聞を使って、ビーバーブルックとロザミアは、保守党が大英帝国内での自由貿易政策を採用するよう、圧力をかけていた。

 英国の新聞界が最後に法的に規制を受けたのは、1694-95年ごろ。「印刷・出版物免許法」が失効し、2度と更新されることはなかった。これで当局の認可を得ずに出版物を発行することができるようになった。

 第2次大戦後、新聞界の巨大過ぎるパワーを抑えるためにいくつかの調査委員会が開かれたが、新聞界は常に「自主規制」で自分たちの力を維持してきた。

 現在、業界の規制団体として挙げられるのは「報道苦情委員会」(PCC)だが、これは基本的に、新聞の読者からの苦情を受け付けることと、業界内の倫理規定を決めるのが主な仕事だ。PCCへの参加は各新聞社の意向に一任されている。

 PCC設立のきっかけとなったのは、新聞のプライバシー侵害などの過熱報道に業を煮やした世論を背景として立ち上げられた調査委員会「カルカット委員会」(1991年、委員長のデービッド・カルカット議員の名前を取った)。2年後、委員会は、PCCが規制機関としては十分に機能していないとして、新聞報道の苦情を取り上げる裁判所の設置を推奨した。

 しかし、当時のメージャー政権はこの裁判所の設置まではいかず、1997年に発足したブレア政権も後回しにして、今日に至った。

 英国の新聞報道は、汚職、名誉毀損、通信傍受法など一般的な法律によって規制されているものの、新聞を保護するあるいは規制する特定の法律があるわけではない。

 例えば名誉毀損に値する報道があった場合、PCCに苦情を言っても、該当する新聞に小さな謝罪記事が出るのがせいぜいなため、裁判で解決する形になる。しかし、裁判費用が巨額となるため、訴えることができるのは著名人など一部の人に限られる。一般市民にとっては、泣き寝入りしかないのが現状だ。

 また、規制の話になると、一斉に徹底抗戦の様子を見せるのが英新聞界だ。規制といえば、「自主規制」しか、認めないのだ。

 やりすぎの報道があるにしても、「法的規制は必要ない」と考える政治家や一般市民、人権団体なども、実はかなり多い。まさに「報道の自由」に関わる問題だからだ。

 それでも、さすがにNOWでの盗聴事件以降、「今のままではいけない」という意識が新聞界にも共有されてきた。今回に限っては、何らかの新たな方法を導入せざるを得なくなってきた。

 特に、昨年秋からの公聴会で、報道被害にあった人々が次々と証言を行い、新聞界のマイナス面が大きくクローズアップされてしまった。何もしないでは済まされなくなってきた。

 小説ハリー・ポッターシリーズの作家JKローリングさん、歌手のシャーロット・チャーチ、俳優ヒュー・グラント、各新聞の編集長、記者、探偵、キャメロン首相をはじめとする政治家、警察関係者など、さまざまな人が証言を行った。その模様はレベソン委員会のウェブサイトでライブ中継された上に、その書き取ったものがサイトに後で掲載され、一種のドラマがずっと続いてきた。(つづく)
by polimediauk | 2012-11-29 08:37 | 新聞業界
 前回、「外から見たら、日本のメディア(特に新聞界)はどう見えるか」と日本のメディア研究会で聞かれ、自分なりの感想を述べたことを書いた。

 「現状維持、組織維持を重要視しているように見える」と答えたと書いたが、これは答えの半分で、残りの半分があった、もし、例えば大手新聞社が米ニューズ社CEOルパート・マードックのような人物に乗っ取られ、大幅リストラになったらどうなるかについても自分の意見を述べてみた。あくまでも、仮想の話である。

 別にマードックでなくても、「大幅リストラ」(例えば記者が大量にリストラされるなど)になったらどうなるか、と。

 これは、そういう仮想が実際に起きると思うからではなくて、日本のメディアの、特に新聞界の社会の中に占める位置について、考えるところを言って見たいと思ったからだ。

 日本の新聞の評判は、ネットでこれまでによく目にしてきた。どちらかというと、良くない評判のほうが多かったけれども、その評判が悪ければ悪いほど、これは新聞への期待の強さを表すのだろうと思った。話題にならないほど無関心ではなく、怒りを感じるほど気になる存在なのだろう、と。

 同じ新聞と言っても、英国の場合は期待度がかなり低い。それぞれの新聞が好き勝手なことを書いているので、記事を読むときには少し差し引いて内容を受け取る人が多いと思う。

 例えば、日本の新聞が大資本に乗っ取られた・買収された場合、そして大規模リストラなどが発生した場合、私はこれが「大きな社会不安につながるだろう」と研究会で話した。新聞への期待度が(英国よりは)高そうな日本の場合、いわば「最後の砦」的な新聞がもしばらばらになったら、大きな不安感が発生するだろう、と。

 東日本大震災や不景気、若者を中心とした雇用不安などに揺れる日本で、さらに社会的不安が増すのは、良くないと思った。

 日本と外国とを比較するとき、おそらく、多くの人が言うのは、「日本は安全」ではないかと思う。震災や原発事故でそう思う人の数は日本では減ったかもしれないが、夜道を歩いていて恐怖感がない国の1つが日本という部分は今でも変わっていないと思う。定時に電車がやってくるとか、官庁のサービスが、汚職の懸念をせずに進むことが期待できるとか、日本に住んでいれば当たり前と思うようなことが、意外と、他国では普通ではなかったりする。

 しかし、新聞社のような存在が大幅リストラの対象になるとしたら、安心感、安全感が揺らぐのではないか。特定の新聞社の将来というよりも、社会不安を引き起こすかもしれないほうが心配だ。

 大量失業者をどうするかという問題もある。

 英メディア界では、ライバルのメディア会社に再就職するのは珍しくないし、新聞業界では整理部門などでたくさんの「カジュアル」と呼ばれるアルバイト勤務者がいる。メディア界での人の動きが流動的であれば、リストラされても生きる道があるが、ライバル社への異動などまったくなしの日本の新聞界では、一度リストラされたら、行き場がなくなるか、再就職が難しくなるだろう。

 ・・・とすると、このまま、「ゆっくりとした変化」しかないのかなあと思った次第だ。

 今、期待するのは、新しいメディアの勃興だ。ウェブサイトではBLOGOS,CAKESのほかにも、たくさん出てきた。ヤフーをはじめ、個人ブログの集積サイトもこれからさらに増えそうだ。もちろん、ニコニコ動画もある。大学生の間で、新しいメディアを作る動きもある。こうした一連の新しいメディアがずーっと長く活動を続けていけば、次第にメインストリームのメディアとして認知されるだろう。既存の大手メディアで働く知人のなかで、組織を離れ、フリーとして働き出した、あるいは働き出す予定の人も出ている。どちらも50歳前後で、自分たちなりに将来について考えるところがあったのだろう。

 私は日本のメディアの将来を悲観していない。自然淘汰があるだろうから。
by polimediauk | 2012-11-17 23:27 | 新聞業界
c0016826_23531136.jpg
 放送批評懇談会が出している、月刊メディア雑誌「GALAC」の12月号に、英国メディアのコラムを書いている。

 今回は、「地味だが深いドラマ堪能の秋 -第1次大戦の傷跡や若者の選択を辿る」という題で、「パレーズ・エンド」(上記写真)と「ルーム・アット・ザ・トップ」を紹介している。

 前者は小説家で出版業者のフォード・マドックス・フォードが書いた、第1次大戦前後の話で、「ルーム・アット・ザ・トップ」は、「怒れる若者たち」の1人、ジョン・ブレインが、1957年に出した小説だ。

 必ずしも、今この小説がテレビ番組化される必要はないのだろうが、BBCが両者をドラマ化。多くの犠牲者を出した戦争や人生について考える秋となっている。

 どこかで、手にしていただけたら、幸いである。

 以下は、雑誌のウェブサイトから、目次。


http://www.houkon.jp/galac/index.html

***


GALAC/ぎゃらく No.187/2012年12月号
表紙の人/岡田将生  写真/山﨑祥和

定価780円(税込み) 11月6日発売!
編集・発行 NPO法人放送批評懇談会
発売 角川グループパブリッシング


特集 世界のテレビ賞に挑め!

世界の主な賞

世界にチャレンジするNHKの戦略

制作者よ、世界にチャレンジせよ!/吉田敏江

受賞者の手記
  NHK広島放送局「火の魚」/行成博巳
  東日本放送「津波を撮ったカメラマン」/千葉顕一/加藤東興
  関西テレビ「レッスンズ」/木村 淳
  中部日本放送「笑ってさよなら」/大園康志

国際エミー賞の審査員を務めて/四宮康雅


---------------------

「たね蒔きジャーナル」打ち切り/高瀬 毅

第15回「ギャラクシー賞入賞作品を聞いて、語り合う会」報告/塚本 茂

Interview

THE PERSON
和田かおり 文系の発想をITで実現する!

旬の顔
岡田将生 甘いマスクの裏に秘めたるもの。

連載

CMアーカイブの旅/高野光平
GALAXY CREATORS[橋本祐子]/ペリー荻野
ローカル局の底力[テレビ熊本]/松田竜介
海外メディア最新事情[ロンドン]/小林恭子
GO!GO!コミュニティFM[FM軽井沢]/清水とも子
視聴率リテラシー/藤平芳紀
ニュース・メタボ診断/小林直毅
今月のダラクシー賞/桧山珠美
MEDIA REVIEW[IT/映画/マンガ/MUSIC/ステージ/本]
GALAC NEWS/山本博史
TV BEST&WORST

ギャラクシー賞

月評 2012.9[テレビ部門/ラジオ部門/CM部門/報道活動部門]
  2012.8[マイベストTV賞]

by polimediauk | 2012-11-09 23:53 | 新聞業界
 実際に、どんな形でオープン・ジャーナリズムを実践しているのかを(下)で紹介したい。

―ガーディアンの7つの実践

 英メディア界で、最もオープン度が高い媒体の1つがガーディアンだといわれている。

 ガーディアンのウェブサイトで「オープン・ジャーナリズム」(http://www.guardian.co.uk/media/open-journalism)
のページを開くと、7つの共同作業の方法が記されている。

 ①「私たちが書く記事の形成を手伝う」項目では、原稿執筆中の8月現在、ロンドン五輪にかかわる写真を写真投稿サイト(Flickr)に送る、ブログサイト(Tumblr)やツイッター、フェイスブックでのフォロー、あるいは五輪についての自分にまつわる話をメールで送付、さらにサイト上の記事やブログにコメントを残すことを奨励している。

 ②「トップの記事をどうやって報道しているかを探索する」という項目をクリックすると、ニューズデスクライブという「ライブブログ」が開く。ライブブログとは、その時々の状況を刻々とつづってゆく、放送で言えば生中継の形のブログである。

 その日の編集過程を読者に見せることが目的だったが、これは、現在は「オープンニュースリスト(Open Newslist)」http://www.guardian.co.uk/news/series/open-newslist
というサイトに移動している。しかし、中身は同じである。どこの新聞社でもやっている日々の編集会議を公にしているのだ。

 画面中央下には2つのリストがあって、左側がニュース一般の仮の見出しが並ぶ。右側がスポーツ用リストである。それぞれの見出しの後ろには記者の名前が出る。

 ここに表記されたトピックについて、読者はツイッターを通じて、専用ハッシュタグ(#opennews)を使って自分の意見を残すことができる。担当記者でツイッター・アカウントがある場合は、記者のアカウントに直接メッセージも送れる。

 #opennewsというハッシュタグがついたツイートは、画面右のコーナーに常時表示され、ここを読んでいれば、デスクあるいは編集長がどのようなことを考えているのかが分かる。読者がもし公にせずに情報を送りたい場合は編集部の電子メールに送ればよい。編集部は寄せられた意見についていちいち返答はしないが、目を通しておく。

 何を載せるかの最終決定権は編集部が持っているが、「あなたの意見を聞かせてほしい」というスタンスである。スクープネタは競争相手となる報道機関の目に触れてもらいたくないので、出さない場合があると断り書きがついている。

 編集会議や編集幹部の思考プロセスをここまでオープンにしているのは非常に珍しいのではないか。

―書評、写真、データストア、なんでもオープンに提供

 ③「書評に洞察を加えよう」では、自分で書評を書くかあるいは他の人が書いた書評(ガーディアンの記者による書評もある)にコメントを残せる。

 ④「写真を共有しよう」では撮影した写真をFlickrのガーディアン専用サイトに投稿することができる。写真を撮ることで1年を記録に残すプロジェクトや、撮影技術を互いに向上させるための「カメラ・クラブ」もある。

 ⑤「アルバム評を作ろう」は③の書評の音楽版である。

 ⑥「ガーディアンのジャーナリズムを使って新しい方法を作り上げよう」の項目をクリックすると、「オープン・プラットフォーム」のサイト(http://www.guardian.co.uk/open-platform)
が現れる。ガーディアンと協力してアプリケーションソフトを構築するためのサービスだ。2009年からベータ版として開始され、10年から本格提供となった。

 中身は「コンテントAPI(アプリケーション・インターフェイス)」(ガーディアンの1999年以降の記事、タグ、写真、動画の約100万点を必要に応じて選択・収集して利用するサービス)、「データ・ストア」(記者が集めた数字情報や視覚化されたデータ情報のディレクトリ。世界中の政府にかかわる数値情報をデータ化した「世界の政府データ・ストア」もある)、「政治API」(選挙結果、候補者や政党、選挙区に関するデータを提供)、「マイクロアップ・フレームワーク」(構築したアプリをガーディアンのサイトに直接組み込める仕組み)に分かれる。

 コンテンツAPIの具体例の1つがイングランド地方観光局のウェブサイトVisit Englandとの協力であった。オープン・プラットフォーム(OP)を利用して、インタラクティブなオンラインマップを作り上げた。

 これにはまずOP用API(ソフト)を利用して、ガーディアンの関連記事がグーグルの地図作成ソフトに送られ、場所ごとに振り分けられる。Visit Englandが設置した「Enjoy England」というウェブサイト上のマップにはガーディアンの記事が存在する場所を示す青い旗がいくつも並んだ。利用者は自分が訪れた場所についての感想などをインプットすることもできる。利用者のインプットがある場所には赤い旗がついた。


 このマップはEnjoy Englandのウェブサイトに掲載されると同時に、同じものがガーディアンのウェブサイトにも掲載された。OPアプリを通じて、更新も同時だった(現在、ガーディアン上にはこのサイトは残っているが、Enjoy Englandとの同時掲載は終了している)。

―OPアプリを提供して、ビジネス機会の拡大も

 オープン・プラットフォームを提供することで、ガーディアンは自力ではできなかったサービス(例えばさまざまな携帯機器で使うアプリの制作・販売)を提供でき、それによって新たなビジネス・チャンスや広告収入などの恩恵を得ている。

 利用方法にはさまざまなレベルがある。例えばコンテンツAPIの場合、あるブロガーが「キーなし」を選択し、ガーディアンの記事の見出しを自分のサイトに無料で組み込むことができる。利用料は無料だ。

 次が「ティア2」で、利用者はガーディアンからコンテンツにアクセスするための電子上のキーをもらい、サイト上にガーディアンの記事全体を掲載できる。

 これも利用料は無料だが、その代わりに、ガーディアンは利用者に提供する記事に広告を埋め込み、広告の利用度などを追跡するトラッキング・コードをつける。同じ記事を24時間以上掲載できないなど、いくつかの制限がつく。ガーディアンはトラッキング・コードを分析し、ターゲットを絞った広告を出すなどの利用ができる。

 最後が「ティア3」で、動画も含むすべての記事が掲載可能で、広告はつかない。この場合はガーディアンに使用料金を払う必要がある。

 オープン・ジャーナリズム参加方法の⑦は、読者欄担当編集長(Readers’ editor)との連絡だ。編集長は読者から寄せられた意見、懸念、不平不満などを編集部からは独立した立場で処理する。「オープンドア」というコラムを持ち、定期的にジャーナリズムにかかわることについて書く。訂正欄の担当もこの編集長の管轄だ。

 このほかにも、ガーディアン本社に読者を招き、執筆者と議論に参加する「オープン・ウィークエンド」というイベントの開催など、さまざまな参加・共同作業の機会を提供している。

―ガーディアンは物足りない、市民のニュースサイト

 ガーディアン程度のオープン化では物足りないという人たちもいる。先にも述べたが、ガーディアンのブログサイト「論評は自由」では、政治家からNGOのスタッフまでさまざまな人が書き手となっている。書き手として参加するには、まずはガーディアンの担当デスクから書き手に足る人物としてお墨付きをもらわなければならない。少々敷居が高いのが難点だ。

 そこで、2010年、起業家アダム・ベイカー氏は市民ジャーナリズムのサイト「Blottr(ブロット)」(http://www.blottr.com/
)を立ち上げた。

 「既存の大手メディアのサイトは似たようなニュースばかりが並んでいる」、「事件の現場に出くわして、すぐに情報を伝えても、大手メディアは容易には掲載してくれない」-そんな思いを持っていたベイカー氏は、かつて大衆紙大手デイリー・メールで販売を担当していた。ネット広告の会社を立ち上げ、これを売却して得たお金を元手にブロットを始めたのだ。

 「市民ジャーナリズム」という言葉自体、英国ではやや古めかしく聞こえるものとなっていたが、スマートフォンの普及で画像や文字情報を送信することが以前よりもはるかに簡単になったこともあって、新しい道が開けてきた。

 ブロットへの投稿は簡単だ。名前と電子メールを登録した後、自分が見たこと、ニュースだと思ったことをウェブサイトの投稿欄から入力し、送信するだけだ。誰に許可をもらう必要もなく、すぐに掲載される。

 文法上の間違いや情報の真偽の確認はどうするのか?ブロットの編集スタッフが、記事が投稿されると事実関係を必要に応じて確認の上、修正する。また、読者や他の投稿者も他人の投稿記事に「補足する」ことができる。こうして、記事は共同作業として完成されてゆく。

 現在、市民記者は5000人を超える。アクセスは200万人から300万人ほど。サイトの収入は広告、企業のスポンサーシップ、ユーザーが作ったコンテンツをブログやサイトに組み合わせるテクノロジー「ニュースポイント」から。すでにドイツとフランスで同様のサイトを現地語でスタートさせている。

 アダム氏によれば、記者は市民やジャーナリズム専攻の学生などで、自分のブログをすでに持っている人など。自分が書いた記事がニュースサイトに載っているのを見たいという人は「かなり多い」。

「実際に現場にいる人が、自分の見たことを書けば、最もインパクトがある」ともいう。昨年、起業を奨励する英国の企業経営者たちが選ぶ「斬新なビジネス」賞を受賞した。

 今年8月4日付のサイトを見ると、トップには「マーク・ダガン:暴動から1年」という見出しの記事が出ていた。

 丁度1年前に、ロンドンを中心にイングランド地方各地で暴動が多発した。もともとは、ロンドン東部トッテナムで黒人青年ダガン氏が警察に誤射殺されたことがきっかけであった。筆者はトッテナムを訪れ、この1年を振り返り、現場の様子を伝えた。写真がややぼやけた感じであるのが気になるが、記事の構成などはこれまでのニュース報道の体裁をとっており、自然に読むことができる。

 記事の最後には、信憑性についてクリックする欄が設けられていた。この記事に補足する、あるいは関連した記事を投稿するためのボタンもついている。

―素晴らしい実験であるが「成功というにはまだ早い」

 論文「オープン・ジャーナリズムの試み(The Case for Open Journalism Now)」を書いた南カリフォルニア大学の研究者メラニー・シル氏によると、米英でオープン・ジャーナリズムが実験的にでも実行されるようになったのは、「ここ4-5年」であるという(米サイト「ポインター」今年1月9日付)。

 同氏は、この論文の中で、オープン・ジャーナリズムについて、「質の高いジャーナリズム」を集団の努力の集結で実現する、読者・視聴者の「ニーズによって動く」サービスと捉えている。この点で、オープン・ジャーナリズムは市民に発言権を与える手法ともいえよう。

 米ジャーナリスト、マシュー・イングラム氏は、ニュースサイト「ギガ・オムニ・メディア」の記事(7月31日付)で、最も興味深いメディアとしてガーディアンを挙げている(ちなみに、ガーディアンの発行元とギガ・オムニ・メディアは資本関係を結んでいる)。

 米国の主要新聞がウェブサイト閲読に「有料の壁」を打ち出す方に動く中、ガーディアンはこれを拒否し、読者をさまざまな形で編集過程に参加させるジャーナリズムを率先しているからだ。

 しかし、7月中旬に発表された2011-12年度の財務見通しでは4420万ポンド(約54億円)の営業損失を見込んでいるため、このジャーナリズムを「成功と呼ぶにはやや早い」「すばらしい実験ではあるが」と書いている。

 私が気になるのは、ガーディアンの報道機関あるいは論壇として立場、持続の問題である。他者の参加を奨励した結果、報道・言論機関のコアとなる頭脳部分を担う編集者たち・記者たちがやせ細ることにはならないかという点だ。デジタルやテクノロジー分野に力を入れるあまり、ガーディアンは「ジャーナリズム『も』やるIT企業」になってしまわないだろうか?

 オープン・ジャーナリズムの究極の姿は、メディア組織を解体させてしまう可能性をはらむだろう。ひょっとすると、組織自体は分解しても、ジャーナリズムの生成が続行すればよい、とガーディアンは考えているのかもしれない。

 オープン化が進んだ未来のジャーナリズムはもはや組織を必要とせず、さまざまな、かつそれぞれはばらばらの担い手(書き手、編集者、統括者、配布者など)が、力を合わせて作り上げるものになるのだろうか?

*****関連サイト***

*ガーディアンのオープンジャーナリズムのウェブサイト
http://www.guardian.co.uk/media/open-journalism

*裁判にかけられる子豚たちの姿を示すガーディアンのサイト
http://www.guardian.co.uk/media/gallery/2012/feb/29/three-little-pigs-behind-scenes?intcmp=239#/?picture=386693266&index=12

*オープン・プラットフォームのサイト
http://www.guardian.co.uk/open-platform

*Enjoy England企画のインタラクティブ・マップ
http://www.guardian.co.uk/enjoy-england

*編集会議の様子を見せるOpen Newslist
http://www.guardian.co.uk/news/series/open-newslist

*市民参加型のニュースサイト「Blottr」
http://www.blottr.com/
by polimediauk | 2012-10-11 17:34 | 新聞業界
c0016826_1801040.jpg
 
(ガーディアンのウェブサイトより)

 朝日新聞の月刊メディア雑誌「Journalism」9月号に、英ガーディアン紙のオープン・ジャーナリズムについて、書いた。 http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14191

 ネットは日進月歩のスピードが違うとよく人が言うが、この原稿を書いた8月上旬時点では「オープン・ジャーナリズム」と書いても、一体何人がぴんと来るかなあと思っていた。

 10月上旬の現在、多くの人が、ぼやっとでも何らかのイメージをお持ちではないだろうか?そう、さまざまな人を巻き込んで作ってゆく、ジャーナリズムの形のことだ。

 このコンセプトについては、大分前から少しずついろいろな人が話題にしてきたが、はっきりと英語圏で「オープン・ジャーナリズム」という言葉が出てきたのは、数年前のようだ。

 私もここ数ヶ月、注目してきたが、考えるうちに、少し恐ろしくなった。「オープン」がどんどん進むと、究極的には「バラバラ」ということになるのではないか、と思ったからだ。また、アノニマスやID詐欺など、知らぬうちにハッキングされる例もよくあるようだ。外に対してオープンであることは、そういうリスクもあるかもしれない。

 ・・・先を急ぎすぎたかもしれないが、先の原稿に若干付け足したものを、長いので2回に分けて掲載したい。

***


英ガーディアン紙が実践する「オープン・ジャーナリズム」って、何?(上)

 
 メディア組織に勤務する人員だけでコンテンツを作るのではなく、読者、視聴者、専門家、外部のITエンジニアといった、「他者」を巻き込んでコンテンツを作る動きが、英米で広がっている。既存メディアが特権的存在として議題を設定し、これに沿って一方的に情報を受け手に流すのではなく、他者とともにコンテンツを作り上げる形だ。

 こうした、いわゆる「オープンな」ジャーナリズム生成の背景には、双方向性を持つ媒体としてのインターネットやソーシャルメディアの発展・普及がある。

 「オープン・ジャーナリズム」を率先して実行している、英ガーディアン紙の例を紹介してみたい。http://www.guardian.co.uk/media/open-journalism

 膨大な量のデータをジャーナリズムに入れ込むことで新たな報道の形を生み出す「データ・ジャーナリズム」は、オープン・ジャーナリズムの一種と捉えることもできる。この点から、本誌(「Journalism」)で連載が続く「データジャーナリズムを考える」特集(特に今年3月号掲載の小林啓倫氏著「ネットの力を取り込む新たな調査報道のあり方」、7月号掲載の平和博氏著「国際ジャーナリズム報告-各国で続くデジタル報道の挑戦と協力」)もあわせてご参照いただきたい。

―CM「三匹の子豚」で新ジャーナリズム宣言

 今年2月、ガーディアンは「The Whole Picture(全体像)」をキーワードに、「オープン・ジャーナリズム」を宣伝するキャンペーンを展開した。目玉になったのは、テレビ放映された、三匹の子豚を主人公とする2分間のコマーシャルだ。民放チャンネル4系列で放映後、約8万2000件のツイートがあったという。

 コマーシャルの中身は、こういうものだった。

 炎の上で、ぐつぐつと何かをゆでている大きな釜の様子が映し出される。「悪い狐が生きたままゆでられた」というガーディアン紙の見出しが出る。

 警察が3匹の子豚の家を取り囲み、窓ガラスを叩き割って中に入った後、子豚たちを逮捕する。

 若い女性が、子豚の逮捕劇のテレビ報道をガーディアンのサイト上で視聴している。ブログやツイッターで一斉に論争が発生し、警察による子豚の拘束が手荒すぎたのはないか、という批判も出る。

 逮捕された子豚たちは裁判にかけられ、狐を保険詐欺に引っ掛けたことが判明した。しかし、子豚が詐欺に手を染めたのは住宅ローンが払えなくなっための生活苦が原因だった。

 子豚への同情心が一気に高まり、低所得者層と住宅ローンの支払いが問題視されてゆく。高利を課す悪質ローンに対する抗議デモが発生し、議員が法律を改正する動きにまで発展する。

 情報の伝播に参加した多数の人々の顔写真が画面一杯を覆う。「物事は全体を見ないと分からない」という意味を込めた「The Whole Picture」という文字が出る。次に「The Guardian」という紙名が出て、コマーシャルは終わりとなる。

 さまざまなプラットフォームを使いながら真実を明るみに出すのがガーディアンの仕事だ、というメッセージが伝わってくる。

―「共同作業と参加」を説くラスブリジャー編集長

 ガーディアンのウェブサイトにあるオープン・ジャーナリズム宣言の動画の中で、アラン・ラスブリジャー編集長は、インターネットの利用が常態化した現在のジャーナリズムは、大量生産で新聞を発行し、上意下達で情報を受け手に届けた「19世紀型のジャーナリズム」とは一線を画すと語っている。

 「ツイッターを見れば分かる。いまや、情報はリンクされて受け手に届く。受け手もジャーナリズムに参加している」。

 ジャーナリストは専門家ではない、世界のさまざまな問題について、他者の意見を入れなければ「物事の十分な説明はできなくなった」。

 読者に対してオープンに、参加を奨励し、ネットワーク化を強めることで、「真実により近づくことができる」。

 そして、「真実を報道することが私たちがジャーナリズムをやる理由だ」と説明する。

 他者との共同作業の具体例とはどういうことを言うのか?

 ラスブリジャー編集長は、国会議員の灰色経費問題で、40万点に上る議員の経費支払い情報をサイト上に公開し、2万3000人の読者がその解読に手を貸したことを一例としてあげた。

 複数のインタビュー記事によれば、ラスブリジャー氏が「オープン化」の必要性を考え出したのは1999年ごろだという。

 先の子豚のコマーシャルは、発行元ガーディアン・ニューズ&メディア社(ガーディアンのほかに、日曜紙オブザーバー、および両紙のウェブサイトであるguardian.co.ukの制作・運営)が昨年6月発表した、「デジタル・ファースト」という新たなマーケティング戦略に沿ったものだ。

 利用者の志向が紙媒体からデジタル版に向かうトレンドを反映した動きで、2015年までにデジタル収入を現行のほぼ2倍の1億ポンド(約122億円、8月5日計算)に増加させる予定だ。

 目玉は、これまでのように単なる販促活動で読者を増やすよりも、「共同作業と参加」を通じて、直接読者との関係を深める点だ。

―ネット環境が育てたオープンなジャーナリズム

 「オープン・ジャーナリズム」の概念はまだそれほど一般的ではないかもしれないが、インターネットをここ何年か使ってきた多くの人にとって、「オープン」という言葉自体はなじみがある概念であろう。

 インターネット導入以前の英国では、情報発信者としての大手メディアと受け手側の読者あるいは視聴者との関係は、情報が発信者から受け手に流れる、「上から下へ」の一方通行的な動きだった。

 これを変えたのはインターネットだ。1990年代半ばごろから、公共放送最大手BBCや新聞各紙がニュースサイトを立ち上げた。ネット導入以前には実現できなかった、読者・視聴者の声を吸い上げ、公的空間に乗せる恒常的な仕組みができた。

 具体的には、例えば、ウェブサイト上に掲載された報道記事に対し、読者が直接コメントを残せるようになった。記者が好むと好まずにかかわらず、読み手がいわば勝手に論評を書いてしまう状況である。自分が書いた記事は、自分や編集デスクの思惑とは別の観点から読み手に論評される。

 こうした論評つき記事はウェブサイトの一角に位置を占める、つまり、コンテンツの1つとなった。英国メディアは、ウェブサイト上にコメント欄を設けたことで、これまでほぼ独占してきたコンテンツ生成工場のドアを読者・視聴者に向かって大きく開けたことになった。

 その後、ハイパーリンク、トラックバック、ソーシャルメディアの利用など、情報の共有化、共同作業化がどんどんと進んできた。情報発信が簡易になったため、情報の送り手と受け手とはどちらが主とも従とも言えない、フラット化に向かった。

 この間、BBCは「公共のためのサービス」という観点から、そして新聞各紙は他紙(米国の新聞やニュースサイト、ニュース・アグリゲーションサービスなど)との「競争」から、情報の共有化、共同作業化をそれぞれ積極的に取り入れてきた。

 ガーディアンが「オープン・ジャーナリズム」と言う時、現在までに同紙も含むほかの英メディアがさまざまな形で読者・視聴者からのインプットを、ネット・テクノロジーの普及によって、自分たちのジャーナリズムの中に入れてきた経緯を盛り込んだものである。

―ユーザーが生み出すコンテンツ利用 最初のピークはロンドンテロ前後

 英メディアが利用者からの情報を最も必要とした例といえば、2005年7月、ロンドンで起きたテロ事件であろう。

 爆破された地下鉄の車両の中の様子を乗客が携帯電話で撮影し、これをBBCなどに送った。市民が生成したコンテンツがBBCのジャーナリズムの一部として報道された。「市民ジャーナリズム」の時代が本格的に到来した、と当時は盛んに言われたものである。

 BBCは現在も、事件・事故が発生すると視聴者からの情報提供をウェブサイトを通じて募る。事件発生現場にBBCのスタッフが到達するにはどうしても時間がかかる。現場の生の状況を伝える市民からの情報は重要なニュース素材の1つとなっている。

 ウェブサイトのスペースを読者に開放するサービスも定着している。保守系高級紙テレグラフは、無料で設置できるブログ・サービス「マイテレグラフ」を2007年から提供している。ガーディアンは幅広い層の書き手が参加するブログサイト「Comment is free (論評は自由)」を常設している。

 また、有料メーター制をとる経済紙「フィナンシャル・タイムズ」や完全有料購読制(購読者にならないと一本も読めない)の「タイムズ」、「サンデー・タイムズ」のウェブサイトを除くと、英国の新聞はウェブサイト上で過去記事も含めてすべての記事が無料で読める。BBCのニュースサイトも同様だ。

 その意味では、英メディアはデジタル世界において、「オープン」であり続けてきたといえよう。

 これは必ずしも利他的理由からではなく、先述したがBBCは公共サービスを提供する必要性、そして新聞各紙はライバル紙との競争がインセンティブとなったからだ。

 英国の放送、新聞、ネット・メディアは「いかに読者・視聴者(そして広告主)から喜んでもらえるか、支持を得るか」で競争をしている。(続く。次回は、具体例)
by polimediauk | 2012-10-10 18:00 | 新聞業界
c0016826_2072739.jpg
 新聞の発行部数が次第に減少しているという状況は、日本ばかりか欧州でも同様だが、確固とした経営基盤を持つおかげで、ベルリンを本拠地とする独新聞「Die Tageszeitung(ディ・ターゲスツァイトング)」(通称Taz)の経営は安定しているという。10月1日付の英ガーディアン紙が報じた。

 Tazは一風変わった組織体系を持つ。約1万2000人に上る読者が新聞を共同所有しているのである。

 Tazの創刊は1979年。当時の西ドイツでメディア界が保守系に終始していることに嫌気がさした有志たちの手で、左派系新聞として誕生した。

 ドイツでは政府が新聞に助成金を出す制度があり、約6万部の発行部数を持つTazは発行を続けてきた。しかし、1989年にベルリンの壁が崩壊し、ドイツは東西ドイツの再統合への道を進む。これを機に新聞助成金が減少し、1992年、Tazは破産状態となった。

 ガーディアンによると、窮地を救ったのが協同組合化の動きであった。読者が新聞に資金をつぎ込み、Tazは生き延びた。

 新組織となってから20年を経た現在、協同組合には1100万ユーロ(約11億2400万円)の資金があるという。組合員となった読者は、提供資金の大小にかかわらず、同様に物言う権利を持つ。日々の新聞の制作には口を出せないが、年次総会では運営の仕方について議論できる。例えば、フリーの書き手の賃金を上げることには同意し、原発の広告の掲載禁止には反対した。

 140人が働く編集室の組織構造は限りなくフラットだという。ガーディアンの取材に答えた副編集長は「一人ひとりがフリーのジャーナリストの気持ちで働いている」という。それぞれが書きたいテーマについてその正当性を主張するので、交通整理が大変なのだ。組織がフラットであるがゆえに「黙れ!」という人がいないのだという。副編集長とはいえ、駆け出しの記者よりも給与は500ユーロ(約5万円)多いだけなのだ。

 ドイツ新聞協会によると、新聞の発行部数は年々減少している。2011年第1四半期では、一日に平均2380万部が発行されている。前年同期比では約93万部、あるいは3.7%の減少である。

 しかし、電子版に限ると約14万4000部が発行され、これは前年との比較では51・2%増であった。

 新聞協会の広報担当者によると、「紙版の新聞からの収入は全体の95%」で、電子版からの収入はまだまだ少ないようだ。目下の懸念の1つは「電子機器で情報を取ることが習慣になっている若者たちにいかに新聞を読んでもらうか」だという。英国あるいは米国の新聞界では「紙版の減少をどうするか」が最大の懸念だが、ドイツ新聞界は「まだまだ、大丈夫―少なくともあと5-10年は」だそうだ。
by polimediauk | 2012-10-03 20:07 | 新聞業界