小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:新聞業界( 282 )

 朝日新聞の月刊メディア雑誌「Journalism」9月10日発売号が、「安全・危険をどう伝えればいいか」を特集している。

 目次は以下。

特集:安全・危険をどう伝えればいいか


◎[対談]安全・安心をどう報じるか
科学的事実と社会心理の葛藤

武田 徹(評論家)×高橋真理子(朝日新聞編集委員)


◎「放射能と食」をめぐる報道
判断のモノサシとなる情報を提供

大村 美香(朝日新聞編集委員)


◎福島から見る低線量被曝報道
議論の前に姿勢を明らかにせよ

藍原 寛子(ジャーナリスト)


◎放射線リスクをめぐる混乱と課題
――低線量、内部被曝、子ども、合意形成

甲斐 倫明(大分県立看護科学大学理事/人間科学講座環境保健学研究室教授)


◎リスク情報を伝えるために
メディアが知っておくべきこと

中谷内 一也(同志社大学心理学部教授)


[メディア・リポート]

◎新聞

裁判所に取材源を明かした
日経の原則無視とメディアの鈍感

藤田 博司(ジャーナリスト)


◎新聞

元兵士たちの「最後の証言」
「8月の定番」を超えた重みと手応え

小島 一彦(中日新聞社編集局編集委員)


◎放送

日本のテレビ局は
なぜ反原発の動きを報じ損ねたのか?

金平 茂紀(TBSテレビ執行役員=報道局担当)


◎ネット

あなたの点数はいくつ?
ネット上の影響力を表すクラウトスコア

小林 啓倫(日立コンサルティングシニアコンサルタント)


◎出版

ここまで来た書籍のデジタル化
今こそ欲しい「紙の本」への想像力

福嶋 聡(ジュンク堂書店難波店店長)


[海外メディア報告]

英ガーディアン紙が実践する
オープン・ジャーナリズムって何?

小林 恭子(在英ジャーナリスト)


[新人記者のための「めざせ! 特ダネ」講座]最終回

〈ベテラン時代=挑戦編〉

「介護タクシー」と老画家の大作
覚悟と迫力に「慢心」を打たれる

井口 幸久(西日本新聞社編集委員)


[カラーグラビア]

プノンペン郊外 緑のトタン屋根の並ぶ村で

高山 剛(写真家)


[ジャーナリズムの名言]

別府 三奈子(日本大学大学院新聞学研究科・法学部教授)



朝日新聞全国世論調査詳報

2012年7月定例RDD調査


 この中で、海外メディア枠で、私は、ガーディアン紙の「オープン・ジャーナリズム」について寄稿した(安全・危険特集外)。これは、読者からのインプットを積極的に導入して、ジャーナリズムを作っていこうという試みだ。

 多少、ガーディアン紙のマーケティング戦略という面がある「オープン・ジャーナリズム」なのだが、詳しくみると、目からウロコ的に教えられることが多かった。幾分大げさに言えば、世界はオープン・ジャーナリズムの方向に進んでいるのは間違いない感じがする。

 もしどこかでお手にとられたら、めくってみていただけたら幸いです。
by polimediauk | 2012-09-07 20:07 | 新聞業界
 パラリンピックの熱い戦いが続いている。担当放送局となったチャンネル4が視聴者を大きく伸ばしている。チャンネル4の歴史にとって、画期的なイベントになった。

 先駆けて行われたオリンピック(五輪)の英国での報道振りを、月刊誌「新聞研究」9月号に書いた。
http://www.pressnet.or.jp/publication/kenkyu/120831_1845.html 「ロンドン五輪から吹くデジタルの風」特集の1つである。以下は筆者の原稿に若干補足したものである。

 なお、日本人選手の活躍を英メディアがどう報じたかは、以前にもツイッターで紹介したが、駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン「EU マグ」 に書いている。http://eumag.jp/behind/d0912/

 この記事で、特に注意を喚起したいのが、「多国選手にかかわる記事は、あくまでも、たくさんある中の1つ」であるということ。これは通常の日でも同じなのだが、日本について英メディアで大きく報道することは、先日の震災を場合をのぞき、ほぼないのが現状だ。

***

ソーシャルメディアの利用拡大 -英国の五輪報道 現地リポート

 夏季五輪の開催地としては3回目になるロンドンで、7月27日から繰り広げられたスポーツの祭典が8月12日、終了した。

 英国内の五輪への反応とメディア報道の様子をリポートしてみたい。

―消えたしらけ感

 2005年の招致決定から開催直前まで、英国民の中で五輪への盛り上がりに欠ける時期が長く続いた。

 予算超過で税金負担が増えることへの懸念、競技場が建設されるロンドン東部の再開発というもう1つの目的実現への疑問、開催中は国内が五輪一色になってしまうことへの嫌気などがあったといわれている。

 しらけ感が怒りに変わったのは、開始前に発覚した一連の不祥事であった。会場近辺の警備を担当した警備会社G4S(ジー・フォー・エス)が間際になって約束していた人員数を調達できなくなり、急きょ、数千人の兵士を警備支援に手配せざるを得なくなった。開催10日前には、サッカーのチケット50万枚が売れ残り、販売中止・回収の憂き目にあった。

 大きな変化が起きたのは、7月27日の開会式のテレビ放映であった。映画監督ダニー・ボイル(「スラムドッグ$ミリオネア」など)が演出した、3時間強にわたる式典には「驚きの島」というタイトルがついた。イングランド地方の田園を模したセットで始まり、産業革命から、国民健康保険制度の開始、ポップ音楽の隆盛など、英国の歴史を切り取って見せた。圧巻は見事な聖火台の出現だった。花びらの形をした複数のしょく台に聖火で火をともすと、これが見る見るうちに垂直上に立ち上がり、1つの聖火台に変身した。夜空に広がる大量の花火が後に続いた。

 国内で2700万人が視聴したこの開会式の様子を翌日の新聞各紙は絶賛した。「黄金色の驚き ーさあ、競技を始めよう」(サン)、「英国が最高の状態を見せた -ロンドン2012の幸福で素晴らしいスタートだ」(デイリー・エキスプレス)、「驚きの夜」(ガーディアン)など。

 当初、会場内で空き席が目立つ点などが問題視されたものの、英国の選手が次々とメダルを獲得すると、悲観論は一気に消えた。BBCテレビの著名司会者で、皮肉屋として知られるジェレミー・パックスマンが「もう誰も英国を(スポーツが)だめな国とは思わない」と題するコラムを執筆するほどだった(サンデー・タイムズ、8月12日付)。

―圧倒的な力を見せたBBC

 五輪報道で圧倒的な強さを見せつけたのは公共放送BBCであった。前回の北京五輪では493人のスタッフが報道を担当したが、今回は765人に増加。「本格的なデジタル時代の五輪」とロンドン五輪を位置づけ、「一瞬も見逃さない」をキャッチフレーズに全競技の生放送を試みた。

 具体的には、メインのチャンネルとなるBBC1と通常は若者向けチャンネルBBC3を五輪専用チャンネルに設定し、追加で、新たに24の五輪専用チャンネルを設けた。合計26のチャンネルで、約2500時間に相当する競技の様子を生放映した。

 有料テレビサービスの契約有無によってはすべてのチャンネルをテレビ受像機で視聴できない家庭もあったものの、BBCスポーツのウェブサイト上ではすべてが視聴可であった。かねてより番組の再視聴サービス(BBCアイプレイヤー)はよく利用されてきたが、五輪放映では生中継中の動画の巻き戻しも可能で、まさに「見逃さない」形になった。

 BBCの生放送はスマートフォンやタブレット型機器などさまざまなプラットフォームでも同様に視聴可能で、通常のBBCのサービス同様、無料で利用できた。BBCによる五輪放送は、今後の大きなスポーツイベントの放送における一つの標準を作ったといえよう。

 一方、新聞界は、当日の競技の様子はネットで、翌日の紙面では競技を振り返り、その日の観戦を補助する情報を伝えた。

 ロンドンの朝刊無料新聞「メトロ」は通常平日発行だが、五輪開催中は毎日発行に変更。五輪公式スポンサーとなったアディダスによる特製紙面が、新聞を包み込む形(通常は広告が新聞の中に挟みこまれているが、これが逆になっている)、すなわち「カバーラップ」を使って、五輪ムードを出した。

 ほとんどの新聞が五輪競技のニュースのみを集めた別冊を連日発行し、その日にどこに行けばどんな競技が観戦できるかや五輪チャンネルの放送予定を特集面で紹介した。

 各紙は五輪専用の取材チームを立ち上げ、高級紙では最も発行部数が多いデイリー・テレグラフの場合、外部のコラムニストの起用も含めて200人を配置したという。英国の全国紙の編集スタッフは大手でも数百人であるため、200人がいかに大きな数字かが分かる。

 紙面制作で各紙が腕を競い合った例の1つが1面の写真と見出しだ。英紙は見出しに語呂合わせなどの言葉遊びをよく行う。無理な駄洒落になる場合もあるが、思わずにやりとさせるものが多い。メダルを獲得した選手の姿のみを1面に大きく載せ、これに一言か二言の短い見出しをつけるのが定番となった。

 ウェブサイト上では五輪特集のスペースをトップに配置し、「ライブ・ブログ」という形で競技の様子を配信した。「ライブ・ブログ」というのは放送で言えば生放送(=ライブ)にあたり、今起きているイベントを現場からあるいはテレビ画面などで追っている記者が短文で記録してゆく形を取る。必要に応じて同僚記者のあるいは一般市民の関連ツイートや、他のニュース媒体の関連情報も入れてゆくという、「キュレーション」の手法でもある。

 ライブ・ブログの目玉は現場にいる記者からの生の情報になるが、記者の取材用にスマートフォンやiPadを持たせ、情報を入手次第ライブ・ブログ用に送信・表示できるコンテンツ・マネジメント・システムの採用も広がっている。

 ネットのインタラクティブ性を生かした工夫としては、地方紙を発行するニューズ・クエスト社は五輪競技場の地図と旅行を組み合わせたマップを作成した。それぞれの競技場の場所をクリックすると施設の説明が出るほかに、現在の交通情報やロンドン市内のレンタル自転車の利用状況などが分かる。ガーディアンは31人の英国選手の体を分析したガイドを作った。カーサーを選手の体のイラストに合わせると情報が表示され、クリックすると、動画が視聴できる仕組みだ。

ーツイッターの活用

 前回北京五輪(08年)と比較して、大きく発展したのがソーシャル・メディアの世界だ。国際オリンピック委員会も選手や関係者にソーシャル・メディアの利用を奨励した。

 英メディアが最も頻繁に利用するのが、友達交流サイトFacebook(ページを設け、ここから情報を発信したり、支持者を増やす)や短文投稿サイトTwitter(情報の送受信を行う)だ。特に後者はその即時性、情報発信のしやすさ、細切れに情報を出すことでまとまりのある原稿を作れることから、ジャーナリズムの1手法として重宝されている。

 今回の五輪では、左派系高級紙インディペンデントの米国駐在記者が、ツイッター社からアカウントの停止措置を受ける事件があった。

 問題となったのは同紙の米ロサンゼルス支局員ガイ・アダムス記者のツイートだ。五輪の米国での放送権は民放NBCが所有しているが、7月末の五輪開会式の模様をNBCは米国西海岸地域で生放送しなかった。録画放送が日本で言うところのゴールデンタイムに流れたのは、ロンドンでの生放送から6時間後であった。

 これをNBCの批判者たちは、「NBCは高額の放送権料を支払っている。ゴールデンタイムに放映すれば最大の広告収入が得られるので、故意に放送を送らせた」と解釈した。

 アダムス記者は放送遅延に義憤を感じ、NBCを「最低、強欲」、「完璧にろくでなし」などとツイートした。そして、自分のフォロワーに対し、NBCの五輪放送責任者の電子メールアドレス(局の公式アドレス)に抗議のメールを送ろうと呼びかけた。

 ツイッター社には、他者の個人および秘密の情報当人に許可なく流すことを禁じる規約があるという。一連のツイートに気づいたツイッター社側はNBCに連絡を取り、NBCがツイッター社にアダムス記者のアカウント使用停止を依頼。ツイッター社はこれを受け入れた。

 ツイッター界は一斉にこの措置に反発した。NBCの責任者のメールアドレスはあくまでも局の公式アドレスであって、個人的なアドレスではないのだ。「言論封殺だ」という声が出た。また、米ジャーナリスト、ダン・ギルモアは、ツイッターとNBCが五輪ビジネスで提携関係を結んでいることが裏にあるのではないか、と書いた(ガーディアンのブログサイト、7月30日付)。

 まもなくしてツイッター社は事の重大性に気づき、謝罪。アダムス記者のアカウントはまた使えるようになった。

 一連の経緯について、元ガーディアンのデジタル・メディア責任者で今は米大学で教えるエミリー・ベルは、ネット上の世論を無視して大手メディアが活動できなくなったことを示している、と書いた(ガーディアン、8月5日付)。

 デジタル技術によって、世界中に情報が伝わるようになった。ネット、あるいはベルが言うところの「第2の画面」(パソコン、携帯端末、スマートテレビなど、双方向性がある視聴プラットフォームの画面)は「決して受動的な体験ではなく、情報を共有し、第1の画面(テレビ受像機の画面)が提供できない不足分を満たす存在となった」。ロンドン五輪は、テレビ局が決めた番組予定にしたがってコンテンツを視聴する最後の五輪になるかもしれない、とベルは結んでいる。

 最後に、日本人選手にかかわる英報道について触れておきたい。全競技が放送されたため、フォローできたのは幸いだったが、競技終了直後の生インタビューがないため、歯がゆい思いをした。例えば、メダル獲得など素晴らしい成績を残した場合でも、BBCは選手が英国人ではない限り、生インタビューを行わない。たまに米国の選手が加わるのが関の山であった。金銀を外国人選手が取り、銅を英国人選手が取った場合、インタビューは銅獲得者のみという、ちぐはぐさがあった。

 人やサービスの国際化が進む中、英国でも各国の選手の動向に興味を持つ人は相当な数に上る。新聞も含め、いかに他国選手の情報を臨機応変に出すかには再考が必要だろう。

 そして、もし2020年に東京に五輪が招致された場合、BBCのように全競技を無料で生放送できるかどうか?新聞界では、記者が縦横無尽にツイッターで情報発信をすることが普通になっているかどうか?日本のメディア界にとっても、考える論点を多く残したロンドン五輪報道であったと思う。(終)




 








 
 
by polimediauk | 2012-09-04 19:27 | 新聞業界
 新聞の電子版(ウェブサイト)の閲読に課金するのかしないのかーこの点について、英国の新聞界の雰囲気が、最近になって随分と変わった感がある。

 この点について、日本新聞協会が発行する、企業の経営陣向け発行物「NSK経営リポート」(2012年夏号)の中の「新聞経営World Wide」という欄に原稿を書いた。以下は、それに若干付け足したものである。

***

英国新聞界電子版事情
―有料化へのタブー消え、デジタル利用増で市場変化



 英国では、長年にわたり、「ネットで読むニュースは無料」という考えが支配的だった。

 公共放送BBCや検索エンジンが提供する無料のニュースサイトが影響力を持ち、新聞各紙は自社ウェブサイト上で過去記事も含めてすべての記事を無料で公開してきた。

 しかし、スマートフォンやその他の電子端末の普及を機に有料化の壁(=ペイウオール)を立てる新聞社が増え、成果をあげている。ここ2年ほどで、ニュースの消費をめぐる環境は様変わりした。

―快進撃のフィナンシャル・タイムズ

 電子版の成功例として真っ先にくるのが経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)である。

 FTは、ウェブサイトの閲覧をメーター制(一定の本数を無料で閲読でき、それ以降は有料)にしてきた。無料閲読でも名前と電子メールの登録を必須とし、無料分は当初、月に30本、その後は10本から2~3本まで、頻繁に変更した。現在、紙の新聞と電子版の両方を購読の場合、毎月90ポンド(約1万1000円)、電子版のみでは29ポンドなどの料金体制をとる。

 電子版購読者数は今年4月時点で約28万5000人と、2年前の倍以上だ。ウェブサイトへのアクセスは2月時点で1日に90万人(前年比で36%増)。特に伸びているのがスマートフォンでの利用で、過去半年間と比較して66%増、タブレットでの利用では71%上昇した。

 (補足:やや混乱するかもしれないが、最新情報を付け加えておく。現在までに、電子版購読者は紙の発行部数を上回っている。今年6月の紙の発行部数は世界で29万7225部で、電子版購読者数は30万1471人だ。電子版の購読者の伸びは、下記のガーディアンのコラムニストの計算によれば、前年比で31%増だという。電子版閲読のための登録者は約480万人だった。)

 成功の秘訣は経済紙という強みのほかに、「『電子版購読』という商品を販売する小売店」という方針を強気で貫いたことだという(FTコム担当執行役員ロブ・グリムショー氏)。

 小売りのポイントは、売るに足る品物つまり記事の質だが、それ以上に「登録や購読の際の支払い過程を徹底的に簡素化する」(同氏)ことが重要という。広告収入に頼らない収益構造を目指すFTは、電子版からの収入のみで経営をまなかう方向に向かっている。

 FTの強気戦略を如実に示したのが昨年6月、携帯端末用閲読アプリをアップル・ストアから引き上げたことだ。アプリ利用による収入の30%をアップル側に提供することや顧客情報をアップルが保管することを問題視した。FTはアップルを通す必要がないブラウザー上で動作するウェブアプリを自前で構築するために、IT関連企業の買収までした。顧客情報の自社保管によって、きめ細かいかつ単価が高い広告を打つことができる。データマイニング用の宝を手中にした。

ータイムズ、サンデー・タイムズの実験成果は?

 2010年夏、一般紙のタイムズ、その日曜版のサンデー・タイムズがウェブサイトを完全有料閲読制にした。購読をしないと一本も読めない。一般紙では成功しないのでないかという懸念があったが、発行元の発表によると、今年1月時点で、タイムズの電子版購のみの読者数は約11万9000人、サンデーは約11万3000人を記録。紙媒体の購読者は電子版を無料で読めるため、紙での発行部数(それぞれ約40万部と約96万部)を合わせると、1日換算ではタイムズには52万人、サンデーには108万人のデジタル読者がいるという。業界内ではこれを「成功」と見ている。

 課金制導入前はタイムズのサイトには月間2000万人ほどの固定ユーザーがいた。これがほとんどが消えたことになるが、プレミア価格の広告が出せる少数のユーザーに絞る方針を取った。タイムズは長年赤字経営だったが、来年には黒字化の予想が出ている。

 他紙は携帯端末を対象とした課金化に動いている。各種調査によれば英国では成人の約半分がスマートフォンを所有しており、あと3年で、これが75%にまで伸びると予測されている。タブレットは10年時点で10%が所有していたが、その後、急速に伸びている。書籍閲読用端末アマゾン・キンドルも普及率が高い。各紙はこうした携帯端末で新聞を閲読するときに使うアプリ自体を有料にしたり、アプリが無料でも記事閲読に購読制を導入している(ただしブラウザー経由では、記事のすべてが無料で読める)。

 ショッピング、娯楽、情報収集など、消費および知的行動の大部分が、今やデジタル空間で発生するようになったー私はこの点が、かつてはタブーだった有料化が受け入れられてきた最大の理由ではないかと思う。

 紙ではなく電子版での閲読が定番になりつつある中、「ブランド力のあるコンテンツをデジタルで読むならお金を払う」という考えが浸透してきた。

 といっても、質の高い無料情報があふれるほどある英語圏のネット環境の中で、利用者にお金を払ってもらうには、あくまでも「相当のブランド力」が必要であることを忘れないようにしたい。

ft.com/about us
http://aboutus.ft.com/corporate-information/ft-company/#axzz24H5CIaS4

How the Financial Times achieved a digital milestone
http://www.guardian.co.uk/media/greenslade/2012/jul/31/financialtimes-digital-media
by polimediauk | 2012-08-22 21:19 | 新聞業界
 前回英国の無料新聞の拡大についてのエントリーを書きました。この原稿を書いていて、流れの中に入らなかったのだけれども、非常に重要なことがありました。それを、コメントをいただいて思い出したので、補足しておきます。

 それは何かというと、この、「短くて読みやすい、安い値段あるいは無料の新聞だけじゃ、物足りない」ということなのです。確かに、電車の中とかで、ささっと読むにはいいのですが、そして、忙しい通勤者とか、若者とかだったら、ほかにやることがたくさんあるだろうし、携帯電話でニュースをさっと見る感覚で、こうした、安いあるいは無料の新聞があるのは、非常に便利です。また、広告主にとっても、都合がいいです。

 でも、それだけじゃ、物足りない。

 いくら忙しくても、やっぱり、(時には)深い記事を読みたかったり、もっと知りたかったり、感動したかったり、はっと気づいて、考えるヒントがある・・・そんな情報を、読み手は欲していると思います。

 実際、私という一人の個人の例を見てもそうです。確かに、私は新聞を読むことが仕事の一部ではありますが、例えば映画評論家と映画の関係がそうであるように、個人として知的に面白いかどうかが、新聞を読む(あるいは映画評論家だったら映画を見る)行為の根っこにあります。

 そんな私にとって、無料新聞の記事だけだったら、ちょっとつまらないです。実際には、電車の中で楽しく読んではいるのですが、これだけではさびしいです。もう少し詳しいものが読みたいし、もっと知りたいのです。自分よりもっと深いことや新しいことを知っている人が書いた論考などを読みたいです。また、安い新聞「アイ」のような、子供っぽいデザインも、あまり好きではありません。すでに読みたいという気持ちがあるので、過度にこびてもらう必要はないのです。自分でお箸を持ってご飯を食べられるので、誰かに口元まで食べ物を運んでもらう必要はない、と

 一定のクオリティーのある情報が詰まったものを読みたいという欲求はこれから、決してなくならないでしょうし、こういう欲求を持つ人もいなくならないでしょうーこれまで、何百年もの間、「知りたい」という人間の知識欲が世界を動かしてきたのですから(新聞産業の収益構造は変わるでしょうけれど)。
 









 
by polimediauk | 2012-05-16 23:54 | 新聞業界
 日本生活情報紙協会(http://www.jafna.or.jp/)が隔月で発行する、「JAFNA通信」4月号の「マーケティング最前線⑫」コラムに、英国の無料紙市場について寄稿している。以前にも、無料紙の動きと将来について、少しこのブログで書いたが、さらに詳しくなったものが以下である。今回、流れを追ってみて、いかに新聞界が無料紙に影響を受けたかを改めて知り、いささか衝撃を受けた。

***

英国の新聞界を大きく揺るがせた無料新聞の波
 -その発祥と成長の経緯から、将来を探る


 英国でも、日本同様、企業、地方政府、中央政府の各省庁、公的及び民間団体、そして個人によるさまざまな無料の出版物が発行されているが、本稿では、新たな市場を創出したという意味で画期的な無料新聞に焦点を当ててみたい。

 現在、ロンドン近辺のみに限っても、英国では平日一日に約160万部の無料新聞が発行されている。英国の無料新聞(=無料紙)の生成から発展の経緯、そして今後を分析してみる。

―「無料新聞」とは何か?

 本稿で言及する英国の「無料新聞」(フリーペーパ、フリーシート)だが、大きな特徴として、これが正真正銘の新聞であることが挙げられる。この点は欧州各国でも同様である。広告掲載が主になって、これにニュース情報「も」掲載されているといった類の発行物ではない。紙面構成も日本で言うと朝刊全国紙を思わせる体裁になっている。有料新聞にしてみれば、ライバルと目される位置に立つ。

 有料新聞と大きく異なるのは、短時間で読めるように、1つ1つの記事が通常の新聞よりは短くかつ読みやすい文章になっている点だ。「20分で読める」のが謳い文句だ。通勤時に電車の中などで読み終えてしまうことを想定している。有料新聞はブランケット判と呼ばれる、朝刊サイズの大判が多いが、無料紙は小型タブロイド判が基本だ。

 配布方法は、毎朝、駅の外で配布員が直接手渡すか、駅構内に置かれたラックに山積みにされる。通勤電車の中で無料紙を読み終えた乗客が車内に新聞を残しておくと、新たに乗車してきた人がこれを座席から拾って読むという光景はおなじみとなった。

 想定読者は年齢が20代から40代後半の仕事を持つ人々だ。一定の可処分所得を持つ層になるので、こうした層にアピールする物品やサービス(例えば携帯電話、化粧品、娯楽、旅行など)の広告がメインとなる。

―英「メトロ」の創刊は1999年

 1990年代半ば、スウェーデンで無料新聞「メトロ」が創刊された。その後、欧州を中心に世界各国で無料紙の発行が広がってゆく。現在、メトロ・インターナショナル社(本社:ルクセンブルグ)が発行する無料紙「メトロ」は世界の1000都市以上で発行され、約1700万人が読む。

 英国では、スウェーデンの新聞の英国上陸を察知したアソシエーテッド・ニューズペーパーズ社が、1999年、英国版無料朝刊紙「メトロ」をロンドンで創刊した。発行部数の長年の下落に悩んでいた英国の新聞界は、当初、「無料紙=中身がない新聞」という見方をしており、「メトロ」を脅威とは見ていなかった。

 ところが、毎朝、駅構内の新聞ラックに置かれている「メトロ」があっという間に無くなる現象が起きた。読者の大きな支持を受けて、アソシエーテッド社はロンドン市内の発行部数を増やすとともに、地方都市版も次々と発行した。

 創刊から5年後、「メトロ」は100万部前後の発行物に成長した。英国の当時の発行部数の最大は大衆紙「サン」(約300万部)で、これに同じく大衆紙「デイリー・メール」、「デイリー・ミラー」(いずれも約200万部前後)が続いた。「メトロ」は英国で4番目に発行部数が多い新聞となった。

 ちなみに、英国の新聞は、大雑把に言うと「高級紙」(「タイムズ」、「ガーディアン」、「デイリー・テレグラフ」、「インディペンデント」など)と「大衆紙」に分かれる。前者に最も近いのは日本では全国紙である。後者は文章がより読みやすく、ゴシップ、娯楽関係の記事が多い。発行部数の面からは大衆紙が圧倒的な位置を占める。例えば、「サン」が300万部を出していた頃、高級紙は4大紙の部数を合わせても300万部を切るほどであった。

―無料が好まれる背景

 「メトロ」を支持する理由として読者が挙げたのは、「無料であること」、「小型で持ちやすいこと」、「読みやすい」、「報道が中立」であった。これは、有料新聞に対する反対票でもあった。当時、高級紙は大判で、混雑した電車の中では広げにくかった。また、英国の新聞は編集部の政治方針や価値観を明確に表に出す。「中立なニュース」はあまりない。このため、「新聞報道は偏向している」とする批判を招く原因ともなっていた。

 「無料」は英国メディアを理解するうえでの重要なキーワードでもある。

 というのも、英国のニュース市場で大きな存在となる英国放送協会(BBC)は、日本のNHKの受信料に相当するテレビ・ライセンス料を運営費として、国民に幅広い娯楽・情報番組を無料で放送している。BBCのニュースサイトにアクセスすれば、動画も含めたニュース情報が無料で入手できる。

 さらに、英国の新聞界は、長年にわたり、自社ウェブサイト上の記事を過去の分も含めてすべて無料で提供してきた。インターネット上でも無料でさまざまな情報が提供されており、ネットが普及するにつれて、いつしか、「ニュース情報=無料で得るもの」という感覚が出てきた。こうした中での無料新聞の発行は、多くの英国民にとって時代感覚に適応した動きであった。

 広告主にしてみれば、若者層、通勤客層に対象を絞って出稿できる無料新聞「メトロ」は、好景気を享受していた英国で、効率的な、魅力ある媒体であった。

 小型判で人気となった「メトロ」は、部数下落に苦しむ高級紙の体裁にも影響を及ぼした。

 2003年、「インディペンデント」紙が大型判と小型判を平行発行。後に小型判のみに移行した。小型判には「大衆紙」、つまりは低俗な新聞というイメージがついていた英国で、思い切った転換であった。同紙の小型判化は「斬新」と評価され、部数を一挙に伸ばした。「タイムズ」もまもなくして小型判化し、後に、「ガーディアン」は縦に細長い「ベルリナー判」に変更した。

 2005年には、ロンドンの金融街シティ近辺で配布される、経済・金融専門の朝刊無料紙「CITY AM」が創刊。今年年頭時点で約10万部を配布し、想定読者は35万人という(ウェブサイトより)。

 2006年、朝刊無料紙「メトロ」の人気にあやかろうと、発行元アソシエーテッド社は今度は夕刊無料紙の発行を計画した。

 「サン」や「タイムズ」などを発行するニューズ・インターナショナル社もこれに参入し、同年夏、「ロンドン・ペーパー」を創刊した。数日後、ア社も「ロンドン・ライト」を創刊し、ロンドンの新聞市場に新たに100万部を超える新聞がなだれ込んだ。一つの通りの両脇にライバル紙の配布員が並び、競うようにして通行人に新聞を手渡す光景が見られた。

 無料紙の乱立で窮地に陥ったのが、創刊から180年余の歴史を持つ有料夕刊紙「イブニング・スタンダード」であった。

 スダンダード紙は駅構内の専用ブースで新聞を1部50ペンス(当時の値段で約80円)で販売してきた。決して高い値段ではなかったが、朝刊無料紙「メトロ」の市場参入や、ネットの普及によって読者の中に強く根付いた「ニュースは無料」という固定概念が災いし、苦戦を強いられるようになった。その上に新たに夕刊無料紙2紙が入ってきたことで、スタンダード紙の販売部数は40万部から20万部に半減した。専用プリペイドカードの導入やコスト削減も功を奏さず、2009年1月、ロシアの富豪で旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元スパイ、アレクサンドル・レベジェフ氏に1ポンドという廉価で買収された。

 2008年秋、米投資銀行リーマン・ブラザース破綻をきっかけとした金融危機以降、英国経済は不景気に向かった。広告収入の激減に英メディア界は苦しみ、「ロンドンペーパー」と「ロンドンライト」は09年秋、廃刊となった。

―「スタンダード」も無料化、新たな有料化の動き

 レベジェフ氏は、2009年10月、「スタンダード」紙を無料化した。買収直前には年間10億ポンド相当の負債を抱えていたとはいえ、もとは有料で、長い伝統を持つ新聞の無料化は、少なからぬ衝撃を持って受け止められた。

 レベジェフ氏が買収後、すぐに手をつけたのは、スタンダード紙の新たなブランド化であった。

 まず、高級層向け雑誌「タトラー」の編集長をイブニング紙の編集長に就任させた。高額のマーケティング費用を費やして(「今まで読者の意向を無視した紙面づくりをして、ごめんなさい」などの文句が入った謝罪広告が著名)注目度を高めた。当初は有料新聞のままだったが、「ロンドンペーパー」、「ロンドンライト」が消えた後で、無料化に踏み切って部数を伸ばした。

 筆者は、無料で新聞を読むことに慣れた読者がいたことが成功の大きな理由の一つではないかと思う。朝刊無料紙メトロの後の時間帯に、ロンドン市場には無料紙はなくなっていた。夕方、帰りの電車に乗る通勤客は、ラックからさっと拾える新聞となったスタンダード紙をついつい手にしてしまうのだ。「朝はメトロ、夕方はスタンダード」というパターンができあがった。

 買収直前は17万部ほどを販売していたスタンダード紙だが、現在は70万部近くが配布されている。同紙は、無料紙の回し読みが習慣となった約150万人のロンドン市民にリーチしているという(ウェブサイトより)。読者の74%は上流から中流層で、15-44歳は69%、全体の62%が男性だ。不景気とはいえ、これほどターゲットが絞られている媒体は、広告主にとって魅力的な存在だ。

 一方、「メトロ」のほうだが、アソシエーテッド社の親会社DMGT社の2011年度年次報告書によると、同紙は8200万ポンド(約106億円)の収入を上げている。これは前年度比14%増。「メトロ」は英国全体で140万部近くを配布しており、ウェブサイトを訪れるユニーク・ユーザー数は440万人に上る(昨年9月時点)。これは前年同期比47%増である。

 無料化がトレンドとなる中、2つの派生した動きが発生した。

 1つは、長く続いた部数の下落で背に腹をかえられなくなった新聞各紙が、デジタル版の有料化を始めたのだ。まず、「タイムズ」などニューズ・インターナショナル社傘下の新聞が、ウェブサイトの閲読を2010年7月から有料化し、かねてから、サイト上で無料で読める記事の本数を限定してきた経済高級紙「フィナンシャル・タイムズ」は無料閲読の本数を減少させた。また、最後までサイト記事の無料閲読の方針を維持してきた「ガーディアン」も、携帯機器で閲読するアプリの有料化、タブレットでの閲読の有料化などを段階的に導入している。

 もう1つの動きは、レベジェフ氏がスタンダード紙の次に買収したインディペンデント紙が、2010年10月末、弟分の新聞として「i(アイ)」を創刊したことだ。

 「i」は無料ではないが通常の高級紙の5分の1の価格(一部20ペンス)で販売され、1つ1つの記事が短くて読みやすい。小型タブロイド判で、視覚を重視している点なども「メトロ」を始めとする「20分で読める」無料紙に非常によく似ていた。「インディペンデント」は現在、約17万部を発行しているが、「i」はすでに24万部を超えている。読者は本紙よりも「i」を好んでいるのである。

 英国での無料紙隆盛のさまを見ていると、将来の新聞の姿が見えてくるようだ。ネットが普及した現在、読者はもっと安い値段で新聞を入手したがっている。より短くかつ読みやすい記事を求めていることも判明した。電車に乗ったときに、窓の外を眺めるよりは、何かを読むことを選択する人がかなりいるのは心強い。

 無料新聞の人気は、有料新聞を発行する新聞社に対し、「人々は違った形で新聞を読みたがっている」ことを告げているようだ。放送業界のように運営経費を広告や助成金でまかないながら、コンテンツ自体は無料(か廉価)で提供するという方法を新聞業界がまともに考えてみるときが来たのかもしれない。少なくとも、読者はそう言っているように見える。広告にのみ頼るようでは不景気の折に経営が不安定になりやすいため、この点への考慮が肝要だがー。(終)
by polimediauk | 2012-05-15 18:26 | 新聞業界
 先日、16日から18日まで開催されていた、「ロンドン・ブック・フェアー」に、久しぶりに顔を出してみた。非常な活況振りであった。電子書籍の最新動向などを聞き、大変多くの刺激を受けて帰ってきた。その件は、また改めてご紹介したい。

***

以下は、新聞協会報4月17日号掲載分に補足したものである。

***
 

英新聞界のデジタル戦略 
ー「ソーシャル」を導線に、専用閲読アプリで課金


 
 英新聞界はこれまで、インターネットでの自社記事の閲読を、過去の記事も含めて原則無料で提供してきた。

 しかし、スマートフォンの普及やタブレット型電子端末の販売により、こうしたチャンネルを通じての閲読を有料化する動きが進展している。新規読者の開拓には、ソーシャル・メディアを新たな活路とする。各紙のデジタル戦略をまとめた。

ータイムズ電子版の成果

 2010年夏、タイムズ紙とその日曜版サンデー・タイムズ紙がネット上の記事閲読を「完全」有料化した。完全とは有料購読者以外は一本も閲読できない設定だ。

 英国には、長年、「ネット上のニュースは無料」という認識が存在してきた。有料化(一定の本数の記事を無料閲読とし、その本数を超えた場合有料とする「メーター制」を採用)を導入していたのは経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のみであった。

 タイムズ紙の有料化は、一般紙が果たして他紙と差別化できるコンテンツを有料で提供できるのかを問う試みとなった。

 今年2月、発行元ニューズ・インターナショナル社は、タイムズ電子版の有料購読者が1月時点で約11万9000人、サンデー・タイムズでは約11万3000人と発表した。これは業界内で一定の成功と受け止められた。

 というのも、1月時点で電子版の一日の平均読者数はタイムズの場合が約52万人、サンデー・タイムズが約108万人となり、紙媒体の発行部数とほぼ同じかこれを上回る(注:紙媒体の購読者は電子版を無料で読める)までに到達したからだ。

 両紙のサイトは、有料化以前には2000万人を超える月間ユニーク・ユーザーを持っていたものの、大きな収入源にはなっていなかった。紙媒体の発行部数は減少傾向が続き、英ABCによると、同じく1月の発行部数はタイムズが前年同月比10・88%減、サンデー・タイムズが同6・87%減と大きな数字だ。

 タイムズの売り上げ収入の5分の1が電子版の購読料から発生するようになっており、有料化は今後も続く見込みだ。

 特に電子版の伸びが著しいのはタブレット型端末iPad(アイパッド)を通じての購読だ。過去半年間の購読者の伸び率はタイムズで35%増、サンデー・タイムズで80%増。両紙合計のアイパッドでの利用者の平均収入は国内の平均所得者の約四倍を稼ぐ高額所得者だ。広告主にとっては、購買力が高い魅力的な層を手中に入れたわけである。

―タブレットのみ有料も

 FTの電子版有料購読者は3月発表時点で約26万7000人。FTは景気の動向に左右されない経営を目指しており、広告収入よりも購読料収入の比率の増加に力を入れている。

 親会社ピアソンによると、FTの収入の47%が電子版コンテンツによる。米国ではすでに電子版収入が広告収入を超えた。

 そのほかの新聞は、サイトでの閲読は無料のままとし、スマートフォンやアイパッドでの閲読アプリを通して有料化している。

 例えばガーディアン紙は、1日3本までは無料で閲読できるがそれ以上が有料(iPhone:アイフォーン用は半年間で2・99ポンド=約382円、1年で4・99ポンド、アイパッド用は毎月9・99ポンド)となる専用閲読アプリを提供する。端末で見やすいように画面が設定され、ソーシャル・メディアへの投稿も容易だ。ただし、専用アプリを使わずにサイトにアクセスした場合、無料で記事を閲読できる。

 利用者が専用アプリでの課金を受け入れる背景には、動画・音楽配信サービス「アイチューンズ」で少額決済に慣れた利用者層の存在がある。

 複数の地方紙出版社は携帯電話での閲読は無料で、タブレット端末でのみ有料とするなどばらつきがある。

―「ソーシャル」で導線作り

 ソーシャル・メディアは潜在的読者を自社サイトに誘引する方法として活用されている。

 新聞社がフェイスブック上に専用ページを開設し、「友達」が閲読した記事の一覧がこのページ上に表記される手法はこれまでにもあったが、ガーディアン紙はこれを一歩進め、専用アプリを開発した。

 同紙が昨年9月に導入したアプリを使って、友達が閲読したお勧めの記事をクリックすると、フェイスブックのアプリ内でガーディアンの記事が読める。

 フェイスブック内に利用者が滞在し続ける形のアプリの効果は劇的だった。導入から5ヶ月で、約800万人がダウンロードし、電子版の記事を閲読した(同紙3月21日付)。

 導入以前、電子版への訪問の40%が検索エンジンによるもので、ソーシャル・メディアは2%であった。導入後は後者が一時30%を越えた。最多訪問者は、最も新聞を読まない層といわれる18歳から24歳の若者たちであった。

 インディペンデント紙も専用アプリ(120万人がダウンロード)を提供中だ。(ただし、記事をクリックすると、同紙のサイトに飛ぶので、ガーディアンの場合とは少々違う。各紙がそれぞれに開発している状況である。)

 新聞社側が提供する内容(=記事コンテンツ)は同じでも、利用者が馴染み深いソーシャル・メディアを入り口として使うことで、自社サイトへの強力な導線を作り上げた。

 一方、経済週刊誌「エコノミスト」はフェイスブックの専用ページへの訪問者の中でページが気に入ったことを示す「いいね!」ボタンを押した人の数が100万人を超えたと発表した。

 もはや広大なネット空間で自社サイトを開設しているだけでは十分ではなく、ソーシャルの空間の中で顔を見せてこそ、読者を誘い込むことができることを、各メディアの試みは証明しているといえよう。

 メディア動向を調査するエンダース・アナリシス社によると、英国で携帯電話による広告収入は2011年で2億300万ポンドに達した。これは前年比157%増だが、ネット広告全体ではわずか6%を占める。

 しかし、スマートフォンの所有率の伸びが欧州内で最も早い英国では、2015年までに成人の75% (現在は半数) がスマートフォンを所有するようになるという。そこで、広告収入もこれにつれて大きく伸びるとエンダース社は予測している。

 携帯電子端末での閲読を前提とした収益化戦略やサービスの工夫がますますの課題となってきた。(終)
by polimediauk | 2012-04-22 02:24 | 新聞業界
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 6日夕刻、ロンドンの帝国戦争博物館(Imperial War Museums)で、世界各地での戦争報道で知られるベテラン写真家ドン・マッカリン(Don McCullin)と、現役の戦争報道写真家たちが、アフガン戦争について語るイベントがあった。「50年間、戦場写真を撮ってきたが、何も変わらなかった」とクールに語るマッカリンと、「戦争の記録を残したい」という若手写真家たちとの違いが色濃く出た夕べとなった。(写真右はマッカリンによる、ベトナム戦争で「シェルショックを受けた米兵」1968年。)

 イベントは、博物館で開催中のマッカリンの写真展(4月15日まで)に付随して行われた。
http://www.iwm.org.uk/exhibitions/shaped-by-war-photographs-by-don-mccullin

私がノートに取ったメモ書きを元に、その雰囲気を再現してみたい。(名前――McCullin――の日本語表記はマッカリン、マッカランの両方あるようだ。とりあえず今回はマッカリンにした。)

 パネリストとして出席したのは白髪のマッカリン、米国出身の戦争写真家ケイト・ブルックス、元英空軍にいたアリソン・バスカビル(両者は「フォト・ジャーナリスト」として紹介されていた)、英領北アイルランド出身のドノバン・ワイル、英軍付属の写真家(アーミー・フォトグラファー)のルパート・フレールであった。最後にそれぞれのウェブサイトを紹介しているので、ご関心のある方は、どんな写真を撮っているのかをご覧いただきたい。

 また、マッカリンについて少々補足すると、イベントでの発言のみをたどるとクールでシニカルな感じがするが、写真展を見ると非常に熱い思いで戦場で仕事をしていたことが分かる。自分の功績を謙遜する、非常に思慮深い人物であることも。

 マッカリンはロンドンで生まれ、ハマースミス芸術工芸建築学校で写真を学んだ。1950年代半ば、英空軍に勤務後、写真家としてのキャリアを積んだ。キプロス島での市民戦争の写真で、1964年、世界報道写真賞を受賞。英国人でこの賞をとったのは彼が初だ。その後、主にオブザーバー紙、サンデー・タイムズ紙向けに紛争地での写真を多く撮った。近年は、戦争報道から離れ、ポートレートや自然の情景、様々な暮らしの写真を撮影している。

―アフガン戦争にはいつ行って、どんな写真を撮ったのか?

マッカリン:私が行ったのはずいぶん前だ。1980年ごろ。当時はムジャーヒディーン(イスラム義勇兵)に面倒を見てもらっていた(*)。自分は友達だと思っていたが、そのうち、こちらの荷物の中身を盗むようになったので、「悪い人なのかもしれない」と思い出した。

(*補足:1970年代末、アフガニスタンは大きな政情不安に見舞われた。78年に軍事クーデターで社会主義政権が樹立し、国名がアフガニスタン民主共和国に変更された。これに対して全土でムジャーヒディーン=イスラム義勇兵が蜂起し、1989年まで続くアフガニスタン紛争が始まった。ウィキペディア参考。)

 まったくばかげたことだが、自分が本当の戦いから故意に隔離されていたことを知らなかったのだ。間抜けなことだった。まともな写真は撮れなかった。お茶を飲んでいる様子などを撮ったりした。自分は写真家として失敗したのだと思う。

 アフガン人は外から来る人を嫌う。たくさん戦士がいるし、戦うことが好きなのではないか。

 私は軍隊の付属(従軍撮影者)にはならなかった。写真家として自由でありたかったからだ。アフガン戦は長い戦いだ。軍の付属になったら、よい写真は撮れない。例えば、負傷した自国の兵士の写真を、もし従軍であったら、撮影できないだろう。

ケイト・ブルックス:アフガンに行ったのは、2001年12月。9・11テロ勃発からまもなくだった。当時、米国はオサマ・ビンラディンをなんとしても捕まえようとしていた。

 2005年にも行った。比較的平和になっていたので、市民の暮らしを撮影した。米国人はアフガンのことに関して無知なので、記録をすることが大事だと思ったからだ。従軍写真家になるかどうかだが、今はそうしないと危険すぎると思う。

アリソン・バスカビル:英空軍に勤務していた時から、写真は趣味だった。記録に取り、目撃することが楽しかった。そこで、ウェストミンスター大学で写真を学んだ。自分は前線に行ったはじめての女性兵士となったが、兵士の人間としての側面を写し出したかった。そこで肖像写真が増えた。アフガニスタンは、戻って探索したくなる国だ。

ルパート・フレール:もともとは爆弾処理を担当していた。前から写真には関心があって、写真撮影をやるようになった。

―若手写真家の話を聞いて、どう思ったか?

マッカリン:戦争では市民の犠牲が出る。軍隊に埋め込まれた形で写真を撮るとき、一緒にいる兵士の攻撃の先にあるものは何か、どこに向かっているのか、そこで何が起きたのかー自分だったら、そんなことを考えてしまうだろう。「攻撃された側に対する懸念は抱かないのだろうか」、と話を聞いていて、思った。

フレール:自分は兵士であり写真家でもあるが、いざとなったら、兵士の部分が先に来る。写真家であっても、軍服を着ているから、市民は怖いという感情を持つようだ。兵士は外から来た人を簡単には信用しない。でも、自分は仲間の1人だから信頼してくれる。アフガン市民の中でも、子供たちは人懐っこい。ペンやチョコレートをあげるからかな?アフガンの言葉は分からないけど、数少ない、自分が知っている言葉に「カラム」がある。これはペンを意味するそうだ。

ドノバン・ワイル:自分は通常、まとまった写真を撮るとき、1年か1年半をかけて仕上げる。その土地を知り、建築物を知る。しかし、アフガニスタンに行ったときは6週間しかなく、時には数日あるいは数時間でカメラの位置を決めなければならなかった。これがつらかった。

 (プロテスタント系住民とカトリック系住民との対立が暴力事件の頻発につながり、英軍が派遣されるに至った)英領・北アイルランドで生まれ育ったので、兵士がいる光景は見慣れていたが、アフガニスタンで戦場に行ったとき、居心地悪く感じた。自分はカナダの軍隊に付属して出かけたが、写真を撮りやすいようにとみんなが協力してくれた。戦争写真は、自分の過去、そして将来の歴史を写しとることだと思う。

マッカリン:近年、戦争写真というと、それ自体が魅惑的なものになっていることが多い。(そうはならないよう)注意しなければならないと思っている。

 戦争写真を撮っても、何も変わらないと思う。それに、アフガン戦争は勝てない戦争だと思う。

バスカビル:私は戦争写真は重要だと思う。何が起きたかを記録に残すことが重要だ。

マッカリン:私はアフガンの将来に楽観的ではない。今、米英がアフガン軍のトレーニングなど、様々なことをしているが、私たちが撤退したら、消えてしまうと思う。西欧が考えるところの民主主義は根付かないと思う。賄賂の習慣が根深い。どんなに犠牲を払っても(兵士が亡くなっても)、アフガニスタンは変化しないと思う。

(会場にいたベテラン写真家からのコメント):9・11テロ勃発の頃、ちょうどニューヨークに戻るところだった。しかし、テロが発生したので、もちろん飛行機はキャンセルされたが、私はニューヨークではなく、アフガンに行くべきだと思った。そこで、13日から14日かけて、パキスタンからアフガンに向かった。

 その後、当時アフガンで政権を担当していたタリバンに圧力をかけて、報道機関を中に入れてくれと頼んだ。そこで、少人数の報道関係者が中に入り、10月、アフガン戦争が始まると、市民の犠牲者の姿を撮影することができた。

 タリバンが私たちを中に入れたのは、もちろん、自分たちのプロパガンダのためだった。レーダーが爆破された場所に連れて行かれた。私たちは、病院に連れて行ってくれ、と頼んだ。そこで運び込まれた人の写真が撮影できた。

―会場からの質問:ここは「大英帝国(=インペリアル)博物館」であるが、これにちなんで、聞きたい。アフガンにいたとき、自分たちが「大英帝国の側から来た人間」と思っていたかどうか。

ブルックス:その言葉の意味をどう解釈するかだが、まあ、「アフガン人は戦うことが好きだから」なんていうのは、とても植民地主義的な考え方だろうと思う。そんなことはない。誰だって平和がほしい。ただ、外国軍が自国を占拠したというスタンスから、こちらを見ていることも事実。

バスカビル:私も同意だ。現状でよいと思っているアフガン人はいない。食べ物や衣類、住む場所など、人間の基本的ニーズを満たしたいと思っている。

フレール:私は英軍の兵士だから、英軍が行くところにはどこでも行く。英軍がやっていることを撮影している。しかし、自分がやっていることはプロパガンダではない。本当に起きたことを撮影している。

 私が撮影した写真をこの博物館で展示して、多くの人に見てもらいたい。私が撮影したことから、何らかの教訓が得られるのかどうか、見てほしい。過去にどこが間違ったのか、あるいはどこが正しかったのか、を。

ワイリー:自分にとって、アフガンに行くことは写真を撮るという仕事をする機会なのだと思う。

―(会場から)軍隊の付属として行くべきかどうか?報道の自由はどうなる?

ブルックス:付属になるかどうか、これは個人のまったくの自由だ。リスクを負えるかどうか。

フレール:軍隊の一部だとしても、アフガン市民との相互交流はある。付属であることは、自分にとっての安全のみばかりか、自分にかかわる人々の安全にもつながる。

マッカリン:写真家としては、そもそもアフガン戦に行くべきかどうか、どんな目的で行くのかを考えるべきではないかと思う。シリアにしてもアフガンにしても、過去50年間、変わっていない。英国人を失うほどの犠牲を払うべき価値があるかどうか、と。

ワイリー:犠牲を払うべき価値があるかどうかで悩むのは実によく分かる。自分は(カトリック系とプロテスタント系の住民の争いが続いた)北アイルランドで育ったからだ。

マッカリン:アフガンに行くよりももっと行くべき場所、撮影するべきものがここ英国にあるのではないだろうか。先日、英北部に行った。貧困度が深いと思った。国内にもたくさん報道するべきことが起きている。

ブルックス:戦争で何が起きたかの記録をとるために、自分としては、写真家は戦場に行くべきだと思う。しかし、マッカリンの言いたいことは理解できる。私はリビアで写真を撮ってきたが、不毛感を持った。撮影の中心は、いつも亡くなった人や葬式の写真だ。これでいいのか、と。何故これを、世界中の人に見せなければならないのか、と。

 戦争は平和をもたらさない。(戦場で写真を撮っていると)感覚がなくなる思いもする。フォトジャーナリストになったのは、何かを変えようと思ったからなのに、と。

バスカビル:私は自分のことを「戦争写真家」ではなく、単に写真家だと思っている。写真は視覚的に純粋だと思う。人々に情報を与えることができる。自分は写真で世界を変えようとは思っていない。病院に行って、犠牲者の写真を撮っても、外に出さないことがある。出しても、みんな感覚がなくなっているので、思ったほどのインパクトを与えないからだ。そこで私は(ポートレートなど)別のやり方で、写真を撮ってきた。

―会場からの質問:写真家として戦場に行って写真を撮った場合と、兵士が写真家でもある場合と、どちらがより真実に近づけるのか?

フレール:その場にいる人間の1人としては、現場にいる兵士・写真家のほうが真実に近づけると思う。兵士たちは外からやってくる人には警戒心を抱く。私は仲間の1人だから。

ブルックス:それは人によって違うだろうと思う。

バスカビル:兵士が写真家だと、確かに近くから撮れる。でも、写し出すのはプロセス(=過程)ではないだろうか。ストーリー(物語)を見せないのではないか。

フレール:兵士であり写真家という役割は、まるでジキルとハイドのように2つの面がある。病院で傷ついた人の写真も撮れるし、どこにでも入れるというのは兵士だから。アフガンの子供にカメラを向けるとき、自分はどちらの側にいるのだろうか?死にそうな人を助けるのか、あるいは撮影をするのか?戦争写真家にはこんなせめぎあいがある。

ーベトナム戦争での写真の役割とアフガン戦での写真の役割の違いは何か?

バークスビル:文化も時代も変わった。米ライフ誌に掲載された、ベトナム戦争の写真は、米国民に大きな衝撃を与えた。そんな写真を今まで見たことがなかったからだ。

 今ではデジタル写真がある。SNSがある。すぐに情報が出る。即時性がある。フィルムに撮った映像を紙に焼いて・・・という意味での写真には、もはや即時性が失われている。

ブルックス:私もそう思う。いまや、多くの写真家は動画を撮っている。また、ベトナム戦争と違って、アフガン戦争は敵が見えない戦争だと思う。

マッカリン:ベトナム戦争で、はだしの少女の写真は強い印象を与えた。最終的に私たちは、ベトナム戦争を終結させることができた。しかし、それまでに多大な犠牲があった。

 戦争とは、誰にとっても勝てないものなのだと思う。

***

プロフィール:

ドナルド(ドン)・マッカリンは76歳。ロンドン生まれで、都会の下層階級の暮らしや戦争報道で知られる。写真展のアドレスを再度挙げると:
http://www.iwm.org.uk/exhibitions/shaped-by-war-photographs-by-don-mccullin
 また、グーグルでDon McCullinで検索すると、撮影写真がどっと出てくる。

ルパート・フレール
http://www.army.mod.uk/news/press-office/16687.aspx#
アリソン・バスカビル
http://www.alisonbaskerville.co.uk/
ケイト・ブルックス
http://www.katebrooks.com/
ドノバン・ワイリー
http://www.magnumphotos.com/C.aspx?VP=XSpecific_MAG.PhotographerDetail_VPage&l1=0&pid=2K7O3R1VT2KC&nm=Donovan%20Wylie
by polimediauk | 2012-03-08 21:26 | 新聞業界
 朝日新聞が出している月刊メディア雑誌「Journalism」の3月号に(私も1つ原稿を書いているが)、興味深い記事がいろいろ出ている。

 データジャーナリズムに関する詳しい記事(小林啓倫氏著)も興味深いが、私にとっての目玉は、朝日・奥山俊宏記者が書いた、オリンパスの元社長による、日本の新聞批判である。

 オリンパスの損失隠しを最初に書いたのは、月刊誌「FACTA」であったという。これが2011年7月。それ以降、日本のマスコミはこれについてずっと書かないまま。英訳記事を手にした当時の社長ウッドフォール氏が、ここに書いていることは「事実なのか?」と菊川会長(当時)に聞いたことがきっかけで、一連の大きな動きが起きる。

 社長職を解任されたウッドフォード氏が、損失隠しに関わる資料を持って、内部告発をしようと思ったとき、声をかけたのは、日本のメディアではなく、英フィナンシャル・タイムズだった。金曜に記者と会い、翌土曜日には1面の記事となった。奥山記者はウッドフォード氏と、日本の新聞が何故、FACTA報道後に書けなかったのか、日本のメディアの問題点などを議論しあう。これが1つの記事になっていて、その後、記者はFTの記者とも会って、どのような経緯で資料を受け取り、すぐに報道できたのかを探る。

 日英の新聞報道の違いが垣間見える2つの記事だ。奥山記者が「何故、日本の新聞がほかのメディアを引用して書けないのか」を説明するところが面白い。1つには名誉毀損があるからだという。いろいろ、考えさせられた。どこかで入手されたら、ご一読をお勧めしたい。

朝日「Journalism」
http://publications.asahi.com/ecs/66.shtml


 
by polimediauk | 2012-03-06 21:18 | 新聞業界
 米メディア複合大手ニューズ・コーポレーション(ニューズ社)を巡るドラマ(展開場所=英国)が、新たな山場をむかえている。

 同社の会長は世界のメディア王といわれるルパート・マードックで、ニューズ社の苦難はマードックの苦難でもある。

 まず、ニューズ社の傘下にあった、英国の人気・日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」が、昨年7月、電話盗聴事件を巡って、急きょ廃刊となった。この事件自体は2006年ごろ発生し、07年には同紙の記者1人と私立探偵が有罪・実刑判決を受けている。その後、ついこの間まで、ニューズ社側は、「盗聴はたった一人の記者が関与」、「経営陣は知らなかった」と主張してきた。

 この主張が、ガーディアン紙の調査報道によって、2009年ごろから崩れてきた。実はもっと大規模に行われていたのだ、と。

 これが実によく実感できたのが、電話を盗聴されていた著名人らがニューズ社から和解金を受け取って決着をつけたケースが次々と報道されるようになってからだ。たった一人の「ごろつき記者」による行為どころか、組織的に、大掛かりに行われていたことの、動かしがたい証拠であった。もちろん、これは少し前からほぼ周知だったが、続々と和解金額が報道されると、改めて、その規模の大きさに衝撃が走った。

 和解した60人の中の1人が、歌手シャーロット・チャーチだ。和解金額は30万ポンド(約3800万円)だが、裁判費用の負担も入れると60万ポンドになるという。24日には、BBCなどの報道機関の情報公開申請によって、「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」に雇用された私立探偵グレン・マルケア(王室関係者の携帯電話の伝言メッセージを盗聴した罪で、2007年に有罪判決)は2001年から5年間の間に、2200回以上、盗聴を行っていたことが分かった。

 何とか盗聴事件を片付けて、次に進みたいニューズ社側。2月26日、マードックは、平日発行の人気大衆紙「サン」を、廃刊された「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の抜けた穴を埋める形で、「サン・オン・サンデー」として「創刊」した。部数は300万部を超え、英国の日曜紙市場で首位となった。廃刊直前の「ニューズ」紙よりも多いぐらいの部数である。

 しかし、巻き返しは長く続かなかった。翌27日、新聞界の倫理・慣行を見直すために開かれている「レベソン委員会」に出席したのが、ロンドン警視庁の幹部スー・エイカーズ。エイカーズは新聞界と警察の関係に不正なことはなかったかどうかを調査中だ。

 そのエイカーズが、サン紙は、警察、政府、医療関係者などに現金を支払って情報を買っていた(疑いがある)と暴露したのである。サンには「違法の支払いを行う文化がある」、と。

 警視庁は、最近、サン紙の編集幹部らを贈賄容疑で次々と逮捕しており、「やりすぎではないか」とサン紙やほかのメディアからも批判が出た。しかし、エイカーズは、委員会の場で、情報の売買は公益のためではなく、ゴシップなどのネタを取るためであり、ある情報提供者は年間8万ポンド(約1000万円)もの賄賂を受け取っていた、と述べた。

 警察官のみならず、官僚も、そしてほかの公的組織勤務者もサンに情報を売っていたと警視庁幹部が宣言したことは、かなり重い。この委員会では、証言の前に、宣誓を行うのだ。

 果たしていつまでニューズ社は英国での新聞発行を維持できるだろうかー?同じくニューズ社の傘下にあるのは、高級紙タイムズやその日曜版のサンデー・タイムズ。この2つがなくなるとは思えないけれども、サンはどうか?サンについて、マードックは、「(賄賂は)過去の話だ。今はクリーンだ」と主張するのだがー。

 一方、29日になって、マードックの次男ジェームズが、英国での新聞発行を担当するニューズ・インターナショナル社の会長職を辞任する、という発表があった。親会社ニューズ社の副最高執行責任者としての職務は維持する。今後は、米国での勤務となり、テレビ事業に専念するそうだ。ニューズ社が39%の株を持つ、英衛星放送BスカイB社の会長職は変わらない。

 マードックは、長男ラクランをかつては世継ぎと考えていたが、ラクランが経営上の考え方の違いでニューズ社を一旦去ってから、次男ジェームズが自分の後を継ぐ、と見ていたようだ。

 しかし、ジェームズは、「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」での盗聴行為の全貌について十分に把握していなかった(あるいは把握していたが、「把握していなかった」と発言した)ことがたたり、評判が落ちた。組織ぐるみの盗聴であったことを示す、あるメールがあったのだが、これをジェームズは「受け取っていない」と長らく主張した。しかし、実は受け取っていたことが後で分かった。「受け取っていたが、読まなかった」などと説明したが、後の祭りであった。

 先のレベソン委員会は、警察と新聞界の関係を探るための聞き取り調査を、連日、行っている。3月1日には元警視庁幹部らが召喚され、証言を行う。その1人が元警視総監。ニューズ社幹部と警視庁の「親しすぎる」関係がどこまで明るみに出るかが焦点だ。

 結局、一連の電話盗聴事件+新聞の廃刊事件は、記者が違法行為を働いたかどうかという問題というより、核となる部分は権力に関する問題(=権力の癒着)だったのだと、ガーディアンのニック・デービス記者が27日付の記事で書いていた。

関連記事:
マードック氏次男、ニューズ英子会社会長を辞任 http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C9381959CE0EBE2E0978DE2E3E2E1E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;da=96958A88889DE2E0E2E5EAE5E5E2E3E7E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2
レベソン委員会ウェブサイト(ストリーム放送で、証言が見れる)
http://www.levesoninquiry.org.uk/






 
 
by polimediauk | 2012-03-01 08:32 | 新聞業界
 組織ぐるみの電話盗聴事件が発覚した、英国の日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」が、昨年7月、廃刊になったことを覚えていらっしゃるだろうか?

 今月11日、同じくニューズ・インターナショナル社が発行する、今度は日刊の大衆紙「サン」の編集幹部ら5人が、警察や公的機関への情報提供をめぐる贈収賄容疑で逮捕される動きがあった。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-16999659

 逮捕されたのは、5人に加えて、英南部サリー州の警官、英軍関係者、国防省関係者それぞれ1人で、合計8人である。

 「サン」は、日刊紙市場最大の約270万部の発行部数を誇る。

 「サン」で逮捕された人物とは、BBCの推定によると、写真エディターのジョン・エドワーズ、チーフ・リポーターのジョン・ケイ、外国特派員ニック・パーカー、記者ジョン・スタージス、アソーシエト・エディターのジェフ・ウェブスターだ。逮捕と同時に、それぞれの自宅やニューズ・インターナショナル社の事務所が家宅捜査された。現在までに、逮捕者全員が、保釈されている。

 BBCニュースのウェブサイトは、「サン」が「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」のように廃刊になる可能性については否定する意見をいくつか載せている。私が見たところでは、たぶん、廃刊にはならないが、それだけ事態が真剣だということだろう。

 それでも、「絶対廃刊がない」とも言い切れない。何しろ、ニューズ社は、電話盗聴に対する国民の怒りが大きくなり、広告主も腰を引き出すと、電光石火でニューズ紙の廃刊を決めたからだ。「廃刊の危機」というのが、現状に一番近いのかもしれない。

―警察への賄賂がなぜ、今問題に?

 少し過去をさかのぼると、電話盗聴事件というのはすでに2007年に、当事者が刑務所に入って、一件落着したと思われる事件であった。

 しかし、盗聴という違法行為が、「一部の記者」だけではなく、広い範囲で行われていた、とする報道を、2009年ごろから、ガーディアン紙が開始。ニューズ社はこれをずっと否定し続けてきたが、昨年夏、失踪された少女の携帯電話にも、記者がアクセスしていたとガーディアン紙が報道したことで、国民的な怒りを引き起こしてしまった。

 これが、日曜に発行されている新聞の中では最大の発行部数を持つ「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」の廃刊につながり、警察の大掛かりな捜査が前後して始まった。

 この「ニューズ」紙での盗聴事件については、昨年夏に大事件に発展するまで、警察が同紙や発行元に対する捜査を十分にはしてこなかった疑いが出ている。

 その理由というのが、どうも、警察や、あるいは政治家がニューズ紙、あるいは発行元のニューズ・インターナショナル社、ひいてはその親会社米ニューズ社の会長ルパート・マードックと「近すぎた関係を持っていたから」らしいのであるー少なくとも、そんな疑念が出ている。

 大きなメディア、メディアの所有者、警察、そして、政治までもがくっついていた、と。お互いにぼろが出ないように沈黙を守っていた、と。

 「政治」というのは、キャメロン首相が、何ヶ月か前まで、もとニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の編集長を、官邸顧問として雇っていたのである。また、首相や閣僚らは、マードックやニューズ社が発行する複数の新聞の編集幹部らと、定期的に会合を持っていた。

 廃刊をきっかけとして、警察はいくつかの調査を続行中だが、その1つはニューズオブ・ザ・ワールド」紙での電話盗聴事件の全貌を調べること、ほかには、メディアが警察にお金を払って、情報を買っていたかどうかを調べることにある。

 「サン」編集幹部が贈収賄容疑で逮捕されたことで、警察の捜査が「ニューズ」紙のみならず、少なくともニューズ・インターナショナル社のほかの新聞にも及んでいることが分かる。

 ちなみに、同社が英国で発行する新聞とは、サンのほかに、高級紙のタイムズ、サンデー・タイムズだ。

 「サン」の編集長ドミニク・モーハンは逮捕に衝撃を受けたが、「新聞の発行を続ける」と述べているそうだ。モラルの低下を防ぐためか、今週後半にも、マードックが米国からやってきて、ロンドンでサンのスタッフに会う予定だ。

 ニューズ・インターナショナル社の従業員がBBCの記者に語ったところによると、サンの編集スタッフは「怒り」、「経営陣に裏切られた」と感じているという。

 今回の捜査につながった情報の出所とは、ニューズ・インターナショナル社が自ら立ち上げた、一連の事件解明のための委員会が警察に提出した資料だ。

 元ニューズ・オブ・ザ・ワールドの副編集長だったポール・コンニュイ氏は、BBCの取材に対し、「警察内部や軍隊にいて、内部告発のためにメディアに連絡をしたい人たちが、後で逮捕されるようだとおびえてしまって、できなくなる」と懸念を示した。

―タイムズもコンピューターをハッキングした情報を使っていた

 タイムズ紙といえば、英国内外で高級な新聞として評判が高いが、ぼろが出た事件が、最近あった。

 電話盗聴事件を反省し、新聞界の倫理水準や慣行を調査するため、レベソン委員会という調査委員会が設けられた。今、メディア関係者を公聴会に呼んで、聞き取り捜査を行っているが、この中で、メディアの外の人が聞いたら、首を傾げてしまうような、独自の慣行が暴露されている。

 以前、匿名の人物が書く「ナイトジャック」というブログが人気を博していた。警察官の仕事をしながらの見聞を書いたブログは、優れた政治ジャーナリズムに与えられる「オーウェル賞」を2009年、受賞した。

 同年、タイムズで働いていた記者がブロガーの実名を探し当てた。ブロガーは実名が公表されないよう、報道差し止め願いを出した。これを扱った裁判で、ブロガーが負け、実名(リチャード・ホートン)が公開された。

 このとき、タイムズの記者はブロガーのコンピューターに違法アクセスして、名前を見つけていた。タイムズの弁護士はこの経緯を知っていたが、タイムズのジャームズ・ハーディング編集長は、「この件に関して、何も知らない」とレベソン委員会で述べていた。

 しかしどうも、ハーディング編集長は報道差し止め願いの裁判が起きていた段階ですでに「違法アクセス行為によって、情報をつかんだ」ことを知っていたようなのだ。差し止め裁判の裁判長は違法アクセスの事実を知らされていなかった。もしこの事実を知らされていたら、差し止めを支持する判決が出たかもしれないのだ。

 つくづく、「人はなかなか、(保身やそのほかの理由で)本当のことを言わないものだなあ」、と思う。「違法行為でも、これを編集長がーーどこの新聞でもーー知っていて、やらせていた」という事例が、どんどん明るみに出ている。あまりよいニュースはない。

 レベソン委員会が新聞界と警察との関係について、聞き取り調査をはじめるのは2月27日からである(13日、更新)。


 
by polimediauk | 2012-02-12 09:24 | 新聞業界