小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:政治とメディア( 235 )


公式会見、何故出るの?

 ロンドンの外国プレス協会では、毎週3回(月曜、火曜、木曜)午前11時から、英首相官邸の会見・ブリーフィングが開かれている。

 重厚な黒いドアを押して建物の中に入り、ダーク・ブルーの絨毯が敷き詰められたらせん階段を上ってゆくと、左手に「音楽室」と呼ばれる部屋がある。様々な団体の会見場として使われている。

 部屋に入ると、左側に60-70ほどの椅子が並べられ、演台が右手に作られている。会場が込み出すのは10時50分頃。

 イギリスの通信社PAの政治記者で、英ロビー記者会の幹事となっているジョン・スミス記者が一番前の席の右手に座る。テレビでよく見かける政治記者たちが前列に座ることが多いが、特に誰がどこに座るかは決まっていない。

 後ろの席に座ることが多いのが、ガーディアン紙の政治記者マイケル・ホワイト氏だ。よく通る声で、コメントを述べたり、質問したりする。

 11時きっかりになると、官邸広報官がブリーフィングを開始する。その週、あるいはその日に内閣のメンバーがどこでどんなスピーチをするのか、誰と会うのかなどを説明して行く。

 このブリーフィングで明らかにされる情報は、その日の朝までに官邸に集められた情報で、朝9時半頃、それぞれの政府の部署のプレス担当者たちなどが一同に集まり、情報交換をして得られたものを基にしているという。

 プレス協会でブリーフィングをする官邸広報官の言葉が聞き取れないとき、聞いている内外の記者たちは、「どこで開催されるのか?」「もう一度、言って欲しい」など、適宜、聞き返す。

 質疑応答に入ると、説明された今週の予定などのトピック以外にも、記者たちは自由に聞きたいことを聞く。

 昨日(1月31日)のトピックとしては、前日行われたイラクの選挙に対する英政府側の評価、英空軍C130輸送機のバグダッド近郊での墜落事件に関する詳細の問い合わせなど多岐に渡った。墜落の原因に関して詳細を問われると、広報官は「知らない、分からない。国防省に聞いて欲しい」。アメリカの新国務長官ライス氏が金曜日にブレア氏と会見することが明らかにされたが、時間や場所は「未定」。

 こうしたブリーフィングは、「ただ単にその週、その日の予定を発表しているだけ」「重要なことは、一切知らない、分からない、で通した」とも聞こえるのだが、実際に「その日の朝の時点での確かな情報」として官邸側が発表したという点、様々な言葉尻のニュアンスから、ある事柄が本当か嘘か推測できる点、次にどこに行けば必要な情報が取れるのかが分かる点など、政治報道を専門にする記者にとっては、様々な情報に満ち溢れた時間ともなる。「官邸は否定しているが、本当か?」など、ブリーフィングでの応答をベースにして他の情報源から情報をとることもできる。

 ガーディアンのホワイト記者は、「月曜日の朝の会見は、必ず出るようにしている」という。20数年政治記者をやっているホワイト氏が、果たして今さら出席する必要があるのか?電話一本で情報を取れるのではないか?更に深く聞いて見ると、「ライバル紙がどんな質問をするのかを知ることが、参考になる」と答えた。

 もちろん、各記者がどんな目的で会見に出、どんなアングルの記事を書こうとしているのか、他の記者に話すわけはないが、24時間を情報収集に使い、「どんなことも見逃したくない」政治記者にとって、一本調子で淡々とその週の予定を読み上げる官邸広報官のブリーフィングは、記者経験が豊富であればあるほど、いかようにも料理できる素材となるようだ。

 時には、広報官ではなく、大臣が会見をすることもこれまでにあったが、ちょっとした言葉遣い、ニュアンスに深い意味が込められていたことがあった。

 私自身が遭遇した例を挙げてみたい。

 現在でもそうだが、特にイラクとの開戦前のイギリスでは、この戦争が合法なのかどうかが人々の大きな関心の的となっていた。

 こうした中、フーン国防相が会見に出席。記者たちは、「開戦根拠は?国際法から見ても、違法な戦争ではないか?」と執拗に聞いた。国防相は、「合法だ。合法である理由を、なんとしても見つける。私は元弁護士だったから」と答えた。

 結果、実際にそうなった。首相と親しいと言われるゴールドスミス法務長官が、「この戦争は国際法から見て違法」としてきた持論を、開戦直前、突如変更し、「合法」としたからだ。(「合法」とした際の詳細な論旨の流れは、現在でも「国家機密」として明らかにされていない。)

 ストロー外相も、やってきた。その時もやはり、「開戦は違法ではないか?」と問い詰められた。外相は安保理決議を持ち出して説明を試みたが、この中で、「誰だって戦争を始めたくはない」といったストロー外相。「白々しいなあ」と思って聞いた私だったが、後に様々な人が出した暴露本で、ストロー外相が、最後の最後まで開戦には反対だったことが判明した。今思うと、ストロー氏は、何がしかの思いをこめて、「誰だって・・・」と言っていたのだろうか?

 こうした貴重なコメントがいつ出るか分からないという意味では、気が抜けないブリーフィング・会見だが、外国プレス協会で現行のようなブリーフィングが開催されるようになったのは、2002年の秋。

 かつては、官邸広報官が記者にブリーフィングしている・・ということさえ、「秘密」とされていたのだ。

 そして、「外国人ジャーナリストが所属する外国プレス協会で官邸のブリーフィングが行われる」と発表されたとき、一斉に反対の声を上げたのはイギリスの政治記者たちだった。

 (続く)
by polimediauk | 2005-02-01 19:35 | 政治とメディア

ドアは一応開いているものの・・・

 日本の記者クラブ制度が外国人ジャーナリストたちから「閉鎖的」と思われている、と聞く。特に問題にされているのが、官庁側の記者会見・ブリーフィングに、クラブの会員でないと、一般的には出られない・出にくいので、情報収集の面で差が出る、という。

 イギリスでは、行政側が開催する記者会見に関して言うと、基本的にはジャーナリストであれば誰でも出られる。国籍の別や、特定の記者証があるかどうか、媒体が新聞なのか雑誌なのか、はたまたフリーペーパーなのか、報道機関の規模なども、関係ない。

 例えば、ロンドン市長の会見は毎週火曜日の朝、市庁舎で開かれているが、基本的に身分証明書があればいい。「会見に来ました」と受付に言えば、すぐボディーチェックの段階になり、「何者か?」を全くチェックされずに、会見室まで入れることも多い。

 英首相官邸が主催するブリーフィング会見は、2名の広報官が日によって交代しながら、行っている。

 場所は、長い間官邸の一室か国会の会見室だったが、2002年の10月からは、外国プレス協会で開かれている。

 外国プレス協会とは日本の外国特派員協会に相当する団体で、様々な国から派遣されたジャーナリストたちが払う会費と、英外務省からの補助金で運営されている。会員数は、現在ざっと700名ほどだ。大手メディアだけでなく、フリーのジャーナリストのメンバーも多い。

 協会の建物は、地下鉄ピカデリーサーカス駅から歩いて数分にあり、19世紀後半、イギリスの首相だったグラッドストーン氏の私邸だった。

 入り口のドアは、鍵がかかっていることもあるが、特にブリーフィングのある日は、開いている。すると、基本的には、これもまた物騒な話だが、「誰でも」入れる。

 入り口で誰かが身分証明書を見せなさい、と要求することは、ない。

 私は、かつて日本で文部科学省の記者クラブに短期間所属していたことがあり、ここのクラブは自由度が高いと言われていた。それでも、もちろん、文部省の建物に入るときには、写真つき身分証明書を見せたものだった。

 イギリスで、全く記者証を見せることなく、英政府のブリーフィング会見に出席できるという事態を、どう解釈したらいいのだろう?

 必要があってブリーフィングに来るわけで、よっぽどの物好きでなければ、わざわざ協会の会見に出ようとはしないだろうから、ここにたどり着いたという事実、ここで会見が開かれていることを知っている人、イコール、来るべき人たち・・・とでも見なしているのか、それとも大雑把なだけなのか?

 一応は、「外国プレス協会のメンバー、及び内外の記者証を持っている人」に出席が認められている、ということになっているが、実際は、ジャーナリストであれば、誰でも、出られるのだ。いや、入り口でのチェックがないのだから、ジャーナリストである必要さえもない。

 このブリーフィングの様子をタイプしたものが、同じ日の夕方、官邸からメールで送られてくる。このメールを受け取ることは、誰でもできる。官邸のウエブサイト上で、メールを受け取りたいと申し込むだけだ。

 かなりオープンに聞こえるだろうか?

 しかし、本当にオープンか?というと、「ドアは開いているのだが・・」という答えになってしまう。

 その理由と、今朝(1月31日月曜日)の会見の様子を次回から伝えたい。
by polimediauk | 2005-02-01 06:02 | 政治とメディア

偏向メディア報道は変わるか?

 欧州推進派シンクタンク「フェデラル・トラスト」のブレンダン・ドネリー代表によると、イギリスのEU報道は偏向している。

 では、国民の側のEU感情はどうなのか?今後の政治の動きはどうなるのか?を聞いて見た。

―EUに対するイギリスの国民感情をどう見るか。

 国民の意見は分かれていると思う。EUに対する不快感を多くの人が持っている。しかし、統一された意見が存在しない場合、そのいわば真空・空白状態を他の何かが埋めることがある。イギリスがEUから脱退することを望む極右派の英国独立党が昨年6月の欧州議会選挙で躍進したのも、ブレア政権がEUに関する国民の意見を統一することができないでいるためにできてしまった政治的空白を、埋めたのだと思う。

 誤解も多い。国民の大部分はEUからの脱退論を支持しないが、EUの規則や責任に縛られたくない、とも思っている。イギリスの主権を守るべきだ、権利を守るべきだ、と思っている。しかし、EUには加盟していたいが、EUの規則に縛られたくない、という論理は、結婚はしたいが別々に住みたいと言っているようなものだと思う。

 一方では、もう既に欧州の統合は適切なレベルまで進んでおり、これ以上は必要ない、とする人たちがいる。しかし、人によってどれが適切なレベルなのかの定義が違う。

 EU憲法は、全25加盟国が批准しないと成立しないが、一つの国がさらなる統合に反対したために、EU全体が前に進めない、という状態がいつまでも続くわけがない。将来的にフランスとドイツがより緊密な協力関係を結び、EUの中心になってゆくと思う。

―EU憲法批准のため、イギリスでのイエス票を増やすにはどうするべきか。

 アイデンティティーの問題をどうにかしないといけない。イギリス国民の多くは欧州を、イギリスのアイデンティティーを脅かす存在として見ている。私は逆だと思っている。欧州は、イギリスのアイデンティティーを強化すると思う。

 イギリスはアメリカの一部ではないし、アジアの国でもない。南米の国でもない。文化、歴史、その他全ての面で、イギリスがアメリカと違う点は欧州の国であることだ。

 時として、イギリスは欧州とアメリカの中間にいる、といわれることがある。正しくないと思う。歴史的にも地理的に言っても、欧州の方にはるかに近い。

―しかし、EU憲法を批准し、さらに将来的にイギリスがユーロを導入すれば、例えば英イングランド中央銀行が自国の金利を決めることはできなくなってしまう。主権の点から言えば、欧州中央銀行に牛耳られる点に抵抗を感じる人も多いのでは?

 そう考えるのは、エリートだけではないか?大部分の国民がそういったことを考えるとは思えない。それほど細かいところまでは。スコットランドやイングランド北東部に行けば、「英中央銀行がイギリスの金利を決めて、うれしい」という声は殆ど聞かないはずだ。

 ロンドンにいる人にばかり意見を聞いていると、全体で何が起きているかを見逃すことがある。

―イギリスのユーロ導入はあり得るか?

 近い将来は難しいだろうと思う。導入反対論が幅をきかせすぎている。

 (ユーロ推進派の)ブレア首相と(慎重派の)ブラン蔵相との間の、互いに対するライバル心も邪魔をしている。ブラウン蔵相は導入には否定的なようだ。蔵相になる前はブレア氏よりも欧州推進派だったので、やや意外だが。

 イギリスの大蔵省の責任者となり、経済の好転に非常に上手であり、他の誰の手も必要としないという評判が高まったのと、ブレア氏に対するライバル心などがあって、導入否定派になったようだ。

―ユーロ肯定論者の声が小さいようだが。

 一晩で否定的なムードを変えることはできないだろう。しかし、政府が1年でもいいから欧州に対して肯定的なキャンペーン、議論を展開することができるなら、ムードは変わってくる。しかし、こうしたキャンペーンをまだ始めてさえいない。

―政権を支持しているタブロイド紙のサンが、ユーロ導入賛成に回ったら、どうだろうか?

 編集方針に合わないものは載せないだろう。タイムズやデーリーテレグラフはそうするかもしれないが。

 一般的に言って、高級紙は、左派のガーディアンも含めて、時々右派の記事を掲載することがある。高級紙はバランスの取れた新聞であるーということになっているので、少なくとも表面的に両方の意見を掲載しようとするからだ。タイムズはそうするだろうし、テレグラフもそうする。しかし、サンは(ユーロ反対というこれまでの)自分たちの編集方針にはそぐわない記事は載せないだろう。

 国民の気持ちを変えようと思うならば、時間をかけることだ。決意、エネルギー、長期にわたるキャンペーンが必要となる。政治家が演説を一度行い、それで国民の意見を変えることができる、と思うとしたら、それは間違いだ。

 もしブレア氏が、本当にイギリスにEU憲法を批准し、最終的にはユーロを導入したいならば、これからは違う戦略をとるべきだ。もっと積極的、はるかに率直で、EUに関して肯定的なものになるべきだ。政府全体にこの戦略を徹底させるべきだ。 ブレア氏が欧州を好意的に話した後でブラウン蔵相が否定的に話すといった、これまでのパターンが繰り返されないようにするべきだ。

―イギリスがユーロを導入するには、5つの経済テストに合格すること、という条件を政府はつけたが、どう見るか。

 これを単純に「経済テスト」と見れば、議論の肝心な部分を見落とすと思う。ユーロ圏への参加は、純粋な経済問題ではないからだ。

 5つの経済テスト自体もおかしい。テスト全体は、「ユーロ導入がイギリスの経済に恩恵をもたらすかどうか?」を聞いていることになるが、例えば、テストのうちの一つが、金融界への影響だ。何故製造業では駄目なのか?外国企業の投資もテストの1つだが、ユーロに入っていようがいまいが、投資には関係ないという説もある。

 全ては政治的決断にかかっている。経済ではない。 政治的に環境が整えば、ユーロ参加もありうると思う。

 政治的統合に対する国民の反感が強いイギリスでは、ユーロ導入は経済でなく政治的決断だという真実を言わない方が政治家にとっては都合が良いから、誰も何も言わない。メディアも、こうした文脈からはあまり報道しない。

―総選挙が5月に予定されている。保守党の政権奪回の可能性をどう見るか。

 保守党は200年以上の歴史があるが、常に社会の様々な層の人々を代表してきた。こうした人々を結び付けてきたのは、既存の社会的合意を維持することを支持する、という点だった。

 20世紀前半、保守党には穏やかな保守主義と穏やかな自由経済主義とが共存していた。サッチャー氏の首相在任時代、これが極端な自由経済主義者と極端な保守主義になっていった。

 保守党内の均衡は破壊されてしまった。保守党は穏健派の政党だったので、いったん党内の均衡が破壊された後でも、イギリス社会の様々な支持層を内包してゆくことができた。しかし、いったん均衡が破壊された後で、再度均衡を築くのは難しい。.これが現在まで続いている。ある保守党支持者を喜ばせるための政策が必ず他の支持者を侮辱することになる、といった事態が起きている。

 保守党は分裂化しつつあると思う。かつて非常に成功した政党でも、党内の分裂の度合いがある程度を越してしまうと、政権をとることはできないと思う。 自分が生きている間、保守党政権はないと見ている。 (この項終わり)

ーーーー


フェデラル・トラスト(http://www.federaltrust.co.uk/)はロンドンに本拠を置く、1945年創立の左派系独立シンクタンク。欧州におけるイギリスの役割、地方分権、グローバル・ガバナンスなどの調査が中心。政党直結のシンクタンクが幅を利かせるイギリスで、党利党略に捕らわれない欧州政策の提言と調査リポートに定評がある。ドネリー氏は、英外務省、欧州議会、欧州委員会での高級官僚としての勤務の後2003年1月より現職。1994年から1999年までは欧州議会議員。
by polimediauk | 2005-01-25 19:18 | 政治とメディア

国民投票まであと一年

 ウクライナ、トルコなど、欧州連合(EU)加盟に熱い思いを寄せる国がいるかと思うと、既に加盟しているのにEU熱がかなり低いのがイギリスだ。

 25カ国に拡大したEUの新たな基本条約となるEU憲法の各国での批准が、スペイン(2月)を筆頭に進んでいくが、2006年に予定されるイギリスでの国民投票は、否決されるという見方が、現時点では強い。

 左派系シンクタンクのフェデラル・トラストのディレクター、ブレンダン・ドネリー氏は、英国民の反EU感情にはメディアの影響が大きいと言う。

 イギリスでの国民投票の詳細な日程の発表が一両日に迫る中、「偏向」メディア報道の原因と今後の英政界の動きを聞いてみた。

―イギリス国民はEU憲法の国民投票を否決するのでは、と見られている。要因は?

 まず、EUに対する報道が偏向している状況があると思う。必要な情報が不足し、常に否定的な文脈で書かれていると思う。わざと誇張したり事実を捻じ曲げたりしている。

―何故そうなっているのか。

 様々な理由がある。1つには、イギリスのマスコミは情報の伝達よりも娯楽報道に関心を持っていると思う。ヨーロッパ人、(EU委員会の本部がある)ブリュッセルに住む人々、欧州議員たちを面白おかしく戯画化して書く。センセーショナルなネタがあったら、これに飛びつく傾向がある。

 2つめは、政治上の理由だ。イギリスで影響力をもつ大手の新聞は、EUに対して敵意を抱いていると思う。 タイムズ紙のように、新聞の所有者がオーストラリアやアメリカなど、イギリス以外の地域に関心がある場合もある。政治的に右派なので反EUの姿勢をとる新聞もある。イギリスでは右派は反EUだからだ。

―「政治的に右派なので反EU」というのは、高級紙で発行部数が最大のデーリー・テレグラフの事か?

 そうだ。他には、タブロイド紙のサン、デーリー・エクスプレス、デーリー・メールもそうだ。親欧州の新聞はあまり多くないが、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズ、インディペンデントなどが該当するだろう。

 タイムズは反欧州だが、この姿勢が表立って出ないように非常に注意深い報道をしている。

 第3番目には、国民が欧州機関に関してあまりなじみがない、という要素がある。欧州議会と欧州委員会の関連性などが十分に理解されていない。知ろうという強い欲求も国民の側にないようだ。イギリスのEU報道は、こうした国民の姿勢を反映している、とも言える。

―無理解、偏った報道はいつ頃からか?

 1980年代半ば頃からだと思う。(当時の)サッチャー首相は、在任が終わりに近づいた頃に反欧州の姿勢を強め、これが新聞各紙にも反映されるようになった。新聞社側は、一部の読者が、反欧州の記事を読みたがっていることに気づき、それに沿った記事を提供するようになった。

 反ドイツ感情も、最近は高まる一方のように思う。第2次世界大戦が終わってから60年が経っているというのに、(かつての敵だった)ドイツに対する感情は、30年前と比べても、今のほうが悪い。

 例えば、30年前だったら、新聞でドイツ人に対する人種差別的な記事が出ると、「そんなことを言ってはいけない。政治的に正しくない」といえる雰囲気があった。今は、何でも笑いの種として扱う。この点に若干の悪意、敵意を感じ、非常に気になっている。(注:コメディー「フォルティー・タワーズ」の中で、主人公がドイツ人を茶化すというエピソードは有名。「(ドイツ人の前では)戦争の話はしちゃだめ」といいながら、主人公がナチスドイツの兵隊のように歩く。昨年秋、来英したドイツ人の政府高官が「こうしたジョークはもうやめて欲しい」と発言すると、「ドイツ人は冗談が分からない」という意見が英各紙で相次いだ。)

―イギリス人は、フランス人に対してはどういう感情を抱いているのか?

 フランス的ものに対する一種の懐疑の念を常に抱いていたと思う。しかし敵意は少なく、どちらかというと欧州の中の兄弟に対するライバル心のようなものだと思う。

 また、多くのイギリス人がフランスで休暇を過ごす。フランスは、何かしら美徳を持つ国、料理がおいしい、太陽が降り注ぎ、ロマンスが一杯・・・というイメージがある。ドイツは常につまらない国というイメージで、良い点は時間を正確に守る、効率性といった部分だが、こうした特質は好意的に見られていない。ステレオタイプはどこの国でもあるだろうが。

 また、サッチャー氏は反ドイツ主義者だったが、この国の様々な議論は、サッチャー元首相の政策、発言などを反映したものが多い。まるで、フロイトのような、ある心理的影響をイギリス国民にもたらしたと思う。

―何故サッチャー元首相の影響がそれほど大きかったのか。

 サッチャー氏の首相在任は10年だったが、この間、マスコミが巨大になった点があると思う。 1980年代、イギリスのテレビのチャンネルと言えば、4つだけ。全国紙も6紙ほどだった。

 1990年、サッチャー氏が首相の座を去った時には、マスコミの世界は様変わりしていた。発行されている新聞数も増え、ニュース専門のテレビ局や新しいラジオ局もできた。サッチャー氏は、リアルタイムでニュースが報道され出した時代の初めてのイギリスの首相だった。この結果、国民のものの考え方に大きな影響を及ぼすことができたのだと思う。

―現在のブレア首相はどうか?欧州政策に力を入れていると思うか?

 言葉の使い方、政策、全ての面において、欧州派だとは思わない。

 ブレア氏は、様々な勢力が同時発生している状況を眺めて、「さて自分はどのように反応するべきか?」と考える。「どうやって世界を形づくってゆくべきか?」という発想をしない。

 1960年代、(リチャード・オースティン)バトラーという有名な政治家がいた。「可能性の技術」(アート・オブ・ザ・ポシブル)という自伝を書いた。「可能なことばかりに関心を示したが、物事を可能にすることに関心がなかった」と、死後批判が相次いだ。

 私が思うに、サッチャー氏は、物事を可能にすることに関心があったと思う。ブレア氏は、バトラー氏のように、可能なことに関心がある人物のように見える。特に、選挙に関連した「可能なこと」、に。ブレア氏にとって、「次の選挙で誰が自分に投票してくれるだろうか?」が最重要事項なのだ。

―では、ブレア氏は「反欧州」だろうか?
 
 そうは思わない。若いときにフランスで勉学もしている。個人的には親欧州なのだと思う。また、1997年の総選挙で保守党が敗れ政権を失った時、保守党は欧州に対して消極的な姿勢をとっていたので、政権党と差をつけるために労働党党首のブレア氏は、欧州積極姿勢を明確に出していた。

 私は当時保守党の欧州議会議員(1994年―1999年)だったが、ブレア氏が首相に就任したニュースを非常にうれしく思ったものだ。ブレア氏なら、欧州重視の政策を実行してくれるだろうと思ったからだ。

 しかし、首相となったブレア氏は、反欧州という強い流れが国民感情及びメディアの中にあることにすぐ気づいた。そこで、国民やメディアの声に逆らって親欧州という姿勢を出してゆくわけにはいかなくなった。

 ブレア首相の政治スタイルの批判の典型は、「こんなことを言ったら、誰かを侮辱することになるかもしれない、誰も侮辱しないようにはどうするか?」を常に気にかけている。例外もある。イラク開戦までの過程では、逆だった。しかし、他の多くのケースでは、特に欧州問題に関しては、ブレア氏は、「誰も侮辱したくない」政治家、と言えるだろう。

 現在では、心から失望している。

―保守党の中でも、親日派のマイケル・へーゼルタイン議員など、欧州推進派がいると聞いているが。

 数は少なくなっていると思う。

―何故、かつて保守党員だったのに、欧州推進派だったのか?

 保守党が常に反欧州の党だったわけではない。イギリスがEUに加盟したのは1970年代、保守党政権時代だったのがその証拠だ。保守党も労働党も欧州に対する姿勢を変えている。1970年代、労働党は反欧州で、保守党は親欧州。30年後の現在、全く逆になった。

 ブレア氏にとって、「野党保守党は反欧州である」、と定義づけすることは都合がいい。 しかし、自分自身では欧州政策を進めようとしていない。ブレア氏は欧州推進派ではなく、反・反欧州派だと思う。

(続く。)
by polimediauk | 2005-01-25 08:18 | 政治とメディア

生のブレア首相とは?
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ブレア首相の会見がイギリス時間(1月6日)の朝の10時から、始まる。日本時間の午後6時からで、おそらく1時間強ほど続く。

 興味のある方は、BBCのオンラインのニュースサイトhttp://news.bbc.co.uk/1/hi/default.stm を開くと、会見を生中継で見れる。毎月一度開かれる、定例会見だ。

 日本の小泉首相もアメリカのブッシュ大統領も定例会見はないようだから、めずらしい、ということになるのだろう。

 出席者は、殆どが国会記者証を持っている英ジャーナリストたちだが、外国人報道陣も出席できる。私が英外務省担当者から聞いた話だと、国会記者証を持っていない外国人記者には数席用意されているという。

 しかし、首相官邸の広報担当者のさじ加減でどうにでもできるようだ。外国人報道機関の世話は外務省の担当部署が見ているが、希望者が多いので、抽選になる。

 私はしばらく抽選から外れてばかりだった。しかし、例えば政治報道が専門の記者でも特集面担当の記者でも、一律に抽選という方法は公正な方法とはいえないのでないか、と外務省担当者に抗議をしたことがある。

 その後、首相官邸の広報担当者に別件で取材を何度かし、顔を覚えてもらった。その年、所属している外国プレス協会のクリスマス・パーティーで、担当者に「出たい」と言ったら、「何とかする」と言われ、その後は、結構当たる確率が高くなった。

 イギリスは、日本同様、「誰かを知っている」ということが重要なコネ社会だ。

 たいてい昼頃からの会見が多いが、始まる少し前、各国のジャーナリストたちがばらばらに集まってくる。入り口で各自の携帯電話をテーブルに置く。後ですぐ分かるように何らかの目印――ポストイットなどーーをつける人も多い。会談を上って会見室へ。

 30-40名ほどが入る部屋の座席は、基本的にはどこに座ってもいいのだが、最前列はテレビでよく見かけるイギリスの政治記者たちが座る。最初の質問も決まって、ここに座っているイギリスの記者を、首相があてる。

 会見は、ブレア首相が10分ほど何らかのスピーチをしてから、質疑に入る。質問をするには、まずブレア首相の目に留まらないといけない。

 ひとしきり国内の記者をあてると、ブレア氏は中東、欧州などを中心に選ぶ。アジア系は比較的視野に入らないようだが、全体の数が少ないのかもしれない・・・。

 
―どんな人か?

 会見場の生のブレア氏は、どんな人か?

 ジャーナリストたちとのやりとりでは、気さくというか、親しみやすい、フレンドリーな調子で話す人だ。砕けた言葉で話す・・・というのではなく、「だからそれは君も分かっている通り・・・」、「そうやって僕から言葉を引き出そうと思っても無駄だよ」など、仲間内で話すような雰囲気がある。仲間・・といっても、仕事仲間だ。友達では、もちろんない。

 話していて、ある言葉に二重の意味があることに気づき、自分で吹き出してしまう場面もしょっちゅうある。

 しかし、結果、ブレア氏から本音を引き出せたか?あるいは思わず、失言したか?というと、それはゼロと言っていいだろう。

 かつて弁護士だったというだけあって、水をももらさぬ答弁になる。頭が良くて弁が立つ。

 したがって、1時間強という長い時間をもらいながら、かつ、こうした会見が毎月開かれているという、メディア側にすればものすごい恵まれた状況にいながらも、公式見解以外の何ものも引き出せなかった・・・という結果になるのだった。

 それでも、何故ジャーナリストたちは会見場に行くのか?

 「万が一」、ブレア氏が本音を言ってしまうかもしれないから。1つ1つの言葉、表情に、ある政策の行方のヒントをつかみたいから。何か新しいことが出るかもしれないから。他のジャーナリストがキャッチしたのに、自分がそこにいないことで、何かを逃したくないから・・・・。などなど。理由はいろいろある。

 何かがあっても、なくても、とにかく、「その場にいること」が肝心なのだ。

 6日の会見で、ブレア氏が嫌がるだろうけれど記者たちが執拗に質問するだろうトピックの1つは、アジアの津波の件で、何故休暇中のブレア氏が何のメッセージも出さなかったのか?になりそうだ。

 ・・・多分、今回も失言や本音は出そうにないが・・ 。

(写真はBBCのニュースサイトより。)
by polimediauk | 2005-01-06 09:23 | 政治とメディア