小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:欧州のメディア( 31 )

 短いサラエボ滞在を終え、今日、ロンドンに戻る予定。ある意味ではあっという間だった。ここに来たことで、逆に第1次大戦前後にかかわるほかの場所に行きたくなった。サラエボを理解するために、ほかの場所に行く必要がある、と。

 何故、サラエボなのか、何故第1次大戦なのかと不思議に思われる方もいらっしゃるだろうと思う。

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(サラエボ博物館の外に置かれていた、フェルドナント大公夫妻の死から100年を追悼する花束の数々)

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(暗殺者==右のスタンドに立っていた場所の写真=から見た、ラテン橋。この橋に大公夫妻の車があった)

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(ホテルヨーロッパのヨーロッパカフェ。ウイーンの雰囲気で一杯。)

 
 きっかけは原稿を書く機会があったからだが、もともと「100周年」という時にどこかに居合わせるというのもなかなかないだろうから、一度来て見たいと思っていた。

 また、遠い昔、「サラエボ事件があって、第1次大戦が発生した」と、やや紋切り型で学校で教わったことも記憶にあった。一体「サラエボ事件って、何なのか?」、「何故オーストリアとサラエボがくっつくのか?」など分からない事だらけだったが、ピンとこないままに何年もが過ぎていたわけである。

 しかし、それ以上に、2つの強い思いがあった。1つは「自分の居場所を知る」、「知りたい」という思いだ。自分は今、欧州の一国英国に住んでいる。米国とつながりが強い英国だが、欧州連合の加盟国で、欧州ではドイツのフランスがもう戦争はしないことになっている。自分が置かれている状況、つまりは英国や欧州の現在を知るために、過去を知りたいと思ったのだ。

 もう1つは、「戦争を避けるにはどうするか」を知りたかった。その手立ての一つとして、過去におきた大きな戦争がいかにして発生したか、回避することはできなかったのか、人間が戦争に手を染めたとき、どこまでどんなことが起きるのかを知りたいし、知ったことを発信していこうと思った。

 欧州の端っこという感覚の英国にいると、また西欧のいくつかの国を訪ねると、非常に快適な生活空間がある。緑が一杯の公園で、お金を使うこともなく、のんびりしている子供連れの家族の様子を見たり、自分でもぼうっとしていると、こんなに快適でいいのだろうかと思ってしまう。戦火にさらされない生活があるというのは、なんと幸せなことだろう。ドイツとフランスが決して戦争をしないと決めた欧州連合の枠組みがなかったら、どうなっていただろう。

 かつては何百万人規模で人を殺しあった国同士が、手を結ぶことができるなんて驚きだ。一体、どうしたらそんなレベルに到達できるのだろう?それが知りたい。

 ちなみに、サラエボはボスニア・ヘルツェゴビナの首都だが、ボスニア・ヘルツェゴビナは==まだ==EUに加盟していない。

 学んだことはいろいろあったが、これから学ぶこともたくさんある。

 サラエボで見たこと、聞いたことについて、追って少しずつアウトプットしていきたい。

***

ヤフー個人に2つ記事を出しています。

サラエボ事件を現地で辿る 「未解決の問題」

「平和を作る」写真展、サラエボで開催 ―平和組織IPBの日本へのメッセージとは


 

 
 

 
by polimediauk | 2014-06-30 16:11 | 欧州のメディア
 27日は、まず第1次大戦から100周年をテーマにした国際会議があると聞き、タクシーで駆けつけた。タクシーなんて贅沢とも言えそうだが、遅れてはいけないし、片道、4ポンドぐらいだった(600円ぐらいか)。

 非常に有意義な朝のセッションを1つ、聞いた。スピーカーの1人は昨日、私と同じ便でサラエボに着いた人だった。非常に面白いことを言っていたので、名刺を渡し、挨拶。もう1人のスピーカーは米大学の教授。挨拶しようと待っていたら、私の前にいたグループの1人が、怒ったような顔をして、輪から離れた。戦争関係の話、歴史関係の話は議論になるものなのだろう。よっぽど頭に来たのだろうな。

 会議が始まる前、プログラムを見ていたら、主催者の1人から声をかけられた。「何か欲しいものがあったら、何でも言ってほしい」と。オーストリア人で、アイルランドの大学で教えている人だった。

 会場から市内の中心地(「旧市街」=オールドタウン)に行こうとしたら、「トラム」がいいと会場の人に言われる。大通りに出るために歩いていたら、内戦で亡くなった人たちを追悼する記念碑があった。サラエボのあちこちにこんな記念碑があった。一人ひとりの名前が記されていた。記念碑の横にベンチがあって、仕事のあいまらしい人が早めの(?)ランチを食べていた。

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(内戦で亡くなった人の名前がプレートに記されている)

 トラムに乗るには駅を目指しなさいと言われて歩き出したが、車の出入りが結構激しい。ふと横を見たら、線路の上を人が歩いていた。そうか、線路の上だったら、車は来ない。(でも電車は?電車がほとんど止まっているらしいことが後で分かる。)

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(駅構内)

 駅の切符売り場に行ったら、「1番のトラムに乗りなさい。切符は中で買いなさい」と言われる。外の停車場に行ったが、なかなかトラムが来ない。20分近く待ってから、トラムの線路沿いに旧市街に向かって歩いた。

 歩いている途中で、サラエボ歴史博物館に出くわす。チケット代を払うとき、おなかが空いていたので「レストランは中にありますか」と聞いた。「ある」というので、中に入ってみて回ったが、レストランはなかった。相手は英語が分からず、単に「イエス」と言いたかっただけなのかもしれない。半ば「でも、ないだろうな」と思っていたので、がっかりはしなかったが。

 この後、別の博物館近くでサラエボ事件が起きた場所(殺害された場所=「ラテン橋」)、暗殺者がピストルを撃った場所、大公夫妻らが乗っていた車を見た後、1990年代半ばに発生した「スレブレニツァの虐殺事件」(ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件)についての情報を集めたギャラリーに行ってみた。第1次大戦どころではない。後の内戦のほうが現地の人にとっては重いのかもしれない。

 
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 ラテン橋には既に大手放送局がセットを作り、おそらく「平和の印」として空に放たれるであろう鳩を入れた箱・バスケットが置かれていた。明日28日はさらにごった返しそうだ。



 
 
by polimediauk | 2014-06-28 05:49 | 欧州のメディア
 12月に入り、英国ではクリスマスから年末年始にかけてのショッピングシーズンが本格的に到来している。

 毎年、この時期にどれぐらいの売り上げが出るかで景気の動向が分かる。

 会計会社デロイト・トウシュ・トーマツの調査(11月25日発表)によると、12月の小売販売総額は前年比3・5%増の403億ポンドに上る見込み。このうちの50億ポンドがネットショッピングによるが、前年比19%増の大きな伸びになるという。「消費者マインドが上向きになっており、財布の紐を緩める人が増えている」(デロイト社の小売部門責任者イアン・ゲッデス氏)。

 消費者のニーズに合わせて、どれほど柔軟に商品を配達できるかで小売店同士の競争が起きると同氏は予測する。例えば午前、午後など配達時間を指定できる(日本のようにさらに細かい時間指定は一般化していない)のは当然としても、自宅や職場の近くに専用の商品受け取り場所を設置することを望む消費者が増えているという。

 全国展開のドラッグストアBoots、ロンドン東部の巨大ショッピングセンター、Westfieldをはじめとする多くの小売店舗は早朝から真夜中近くまで開店時間を延長させている。スーパーのM&Sは朝5時から開いている。日曜日はほとんどのお店が閉まっていた昔と比べると時代は変わったものだ。

 一方、価格比較サイト「uSwitch」によると、親が子供にクリスマス時に買うテクノロジー機器は一家庭で平均234ポンドに上る。16歳以下の子供たちが最も欲しがるのはタブレット(24%)、ビデオゲーム(17%)、スマートフォン (13%)、デジタルカメラ (12%)、電子書籍閲読端末(11%)の順となった。最も人気が低かったのは基本機能のみの携帯電話だった。

 (週刊「エコノミスト」の「ワールドウオッチ」の筆者担当分に補足しました。)
by polimediauk | 2013-12-13 12:46 | 欧州のメディア
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フランス語の朝刊紙「ルマタン」のロッチ氏(同紙のサイトより)

 8月、英国とスイスで、調査報道を行っていたジャーナリストの関連書類がパートナーあるいは家族から押収されるという事態が続けて発生した。

 まずは英国・スノーデン事件続報(=ミランダ氏拘束事件)である。

 元米CIA職員エドワード・スノーデン氏が情報源となった、米英の諜報当局による膨大な個人情報収集事件で、一連の報道を英ガーディアン紙に書いたジャーナリストのパートナー(デービッド・ミランダ氏)が、8月18日、ロンドン・ヒースロー空港で英捜査当局に拘束される事件が発生した。

 この件の経緯については、読売新聞デジタル&テクノロジー面「欧州メディアウオッチ」で書いている。(19)「ハードディスクを破壊しなさい」と言われた英メディア

 ミランダ氏はブラジル人で、米国人ジャーナリスト、グレン・グリーンウオルド氏のパートナーだ。グリーンウオルド氏は諜報当局による情報収集事件を6月初旬から書いてきた。

 普段はブラジル・リオデジャネイロにグリーンウオルド氏と暮らすミランダ氏は、米ドキュメンタリー作家ローラ・ポイトレス氏に会うために、ドイツ・ベルリンに向かった。ポイトレス氏はグリーンウオルド氏とともにスノーデン事件を追ってきた人物だ。

 リオデジャネイロとベルリン間の旅費はガーディアンが負担しているが、何らかのジャーナリスティックな目的があったのかどうかは、明らかにされていない。

 ミランダ氏はリオデジャネイロに戻る途中に立ち寄ったヒースロー空港で、英反テロリズム法の下で、約9時間にわたり拘束された。この時、所持していたラップトップ、予備のハードディスク、携帯電話、メモリースティックなどを没収された。

 英国では反テロリズム法付則7によって、ある人物がテロ行為にかかわったかどうかについて調べるために、警察がその人物を最長9時間拘束することができる。

―「押収資料には5万8000件以上の重要機密書類があった」と英政府側が主張

 8月20日、ミランダ氏の弁護士は、テレサ・メイ内相とロンドン警視庁に対し、ヒースロー空港での「違法な」拘束に対し書簡を送り、法的措置を取ることを表明した。

 書簡の中で、ミランダ氏側は押収物品を7日以内に返却すること、データの捜査、複製などをしないように、また、もしすでに捜査が進んでいる場合、第3者に漏らさないことを要求した。後、暫定的差止め令の発行を求めて、裁判所に訴えた。

 22日、高等法院が差止め令を発し、捜査に待ったがかけられたが、今後、どのように当局側が押収情報を使用するかが焦点となっていた。

 30日になって、高等法院は、警視庁が反テロリズム法及び公務機密保持法の下で押収物品を広く捜査する権利を認可した。

 具体的には、ミランダ氏が所持していた補助用ハードディスクや暗号化された情報が入っているメモリー・スティックなどから、「敵に情報を渡す通信を行った罪」、または、軍隊あるいは諜報機関に勤める人員についての情報をテロリストに渡した罪に該当するものがあるかどうかを捜査すると見られる。

 裁判で、内務省は、内閣の高級官僚オリバー・ロビンス氏による証言を紹介した。ミランダ氏から押収した暗号化された情報には、英国の諜報機関職員についての情報が含まれており、職員及びその家族の命が危険にさらされる可能性があったという。

 政府がこれまでにアクセスしたファイルの1つには「5万8000件もの英国にかかわる高度の重要機密書類があった」。

 ミランダ氏の弁護士は、裁判所前で発表した声明文の中で、「ミランダ氏は政府側の主張に同意しない。英政府が、根拠のない主張によって」、権力の行使をしたことに「失望している」と述べた。

 一方、英ガーディアン紙のアラン・ラスブリジャー編集長は、「政府側が(押収品の捜査は)国家の安全保障に大きな脅威をもたらす」緊急の事態であると主張したことに触れ、「6月初旬以降の政府の行動を見ると、この主張は当たっていない」と述べた(ガーディアン紙、30日付)。

 編集長によると、英諜報機関GCHQは、7月20日、ガーディアン本社でガーディアンが持っていたスノーデン氏からの情報を保管したコンピューターのハードディスクを破壊させた。

 7月22日、編集長はGCHQについての情報を米ニューヨークタイムズや米サイト、プロパブリカも所持していることを政府側に示唆したが、英政府がニューヨークタイムズに連絡を取ったのはその3週間後だったという。

 8月中旬、ワシントンの英大使館の職員がニューヨークタイムズを訪問したが、「プロパブリカには連絡を取っておらず」、情報の重要性や緊急性を指摘する政府の主張はあたっていないと、編集長は述べた。

―スイスでもジャーナリストの書類が押収された

 スイスでもやや似た事態が発生していた。

 昨年9月から、フランス語の朝刊紙「ルマタン」のルドビク・ロッチ(Ludovic Rocci)記者はスイス西部にあるヌーシャテル大学の経済学部で発生した疑惑を報道してきた。

 世界のメディアが会員となっている世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)ルマタン紙の報道によると、サム・ブリリ(Sam Blili)教授の経歴詐欺疑惑や同氏がかかわった書籍の一部に盗用疑惑が出ているという。

 8月13日午前6時40分ごろ。検察庁職員のニコラス・オーベル(Nicolas Aubert)氏、犯罪調査員4人、IT担当者が、ロッチ記者の自宅にやってきた。記者は出張中で不在だった。代わりに、記者の妻がさまざまな質問を受け、記者のコンピューター関連機材、ノートなどが押収されたという。

 ヌーシャテル大学側はロッチ氏の一連の報道が名誉毀損、中傷、公的機密の暴露であるとして警察に正式に訴えており、これを受けて、早朝の襲撃となった。

 ルマタン紙は「こんな方法を使うことに衝撃を受けた」と表明した。「スイスで、ジャーナリストの自宅が警察の手で捜索されるなんて、聞いたことがない」(サンドラ・ジーン編集長)。

 スイス南部で開催されたロカルノ映画祭を取材中だったロッチ氏は、ルマタン紙の弁護士と相談の上、自分のパソコンを警察に渡した。データを保護するため、弁護士側は警察に対し、情報を捜査対象として使っても良いと裁判所が判断を下すまでは、すべての押収資料に封をするよう求めた。

 ロッチ記者が昨秋から開始した疑惑報道は、大学の経済学部の大きな問題を明るみに出した。学長が内部調査を開始した後も、ロッチ氏の報道は続いた。

 ルマタン紙の報道によれば、内部調査は1000時間にも及んだ。今年4月、大学は政府に調査の依頼を求めた。内部では決着がつかなかった模様だ。

 検察官は早朝の捜索は「適正だった」としたものの、仏調査報道サイト、メディアパートのステファニー・リアン(Stephane Riand)氏は、知る権利や報道の自由がなくなったも同然だと書いた。

***

 英国とスイスの事例を紹介した。

 これまでにも、リークされた書類を政府側に渡すかどうか、情報源・リーク者の名前を出すかどうかで、ジャーナリストやメディア側は戦ってきた。

 書類を絶対に渡さないためには、書類を持っていること自体を認めないやり方がある。政府側に書類の提出を求められても、「持っていないから、提出できない」ことになる。英新聞には「(xxx=情報名)を見たところによると」という表現が使われる時がある。「見た」だけで、自分では持っていない、だから権力側に渡せない、という論理である。

 ガーディアンは、前の編集長時代の1983年、国家機密を記した書類を政府に戻した一件がある。この書類が国防省のファックスから送られたものであったために、誰がそのファックスを使ったかの判定が可能になり、最後にはリーク者が自分から上司に機密をリークしたことを告白する結果となった。この女性は、公務機密保持法違反で、刑務所で数ヶ月を過ごした。

 現在では、コンピューターやメモリースティックが押収されてしまう。その上に、自宅やジャーナリストの家族のところにまで来てしまう、というわけだ。

 デジタル情報には暗号をかけることもできるが、先のミランダ氏の場合、解読するための情報が入った紙を持っていたそうで、政府が少なくとも一部の情報にアクセスすることができた。

 外国だけの話ではなく、日本のメディアやネットで情報を発信する私たちにとっても、決して遠い話ではない感じがした。
by polimediauk | 2013-09-01 07:23 | 欧州のメディア
 イタリア・ペルージャで開催された国際ジャーナリズム・フェスティバル(4月24-28日)で印象に残ったセミナーやワークショップの一部を紹介したい。

***

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 その1つは、イタリアの季刊誌「COLORS」(カラーズ)による様々な実験だ。同誌は斬新な写真と深みのある記事で知られる。

 フェスティバルの初日、編集長のパトリック・ウオーターハウス氏が「ニュースを作る」と題されたプレゼンテーションを行った。同氏によれば、22年前に「カラーズ」が創刊されたときは「グローバリゼーション=多様性=良いこと」という考えがあったという。しかし、今は、「疑問符がついている」。

 毎回、人種、エイズ、宗教など人間にとって大きなテーマを取り上げ、議論を発生させてきた「カラーズ」は、最新号でニュースに注目した。「ニュースを作る」がそのタイトル。ニュースとは何か、ニュースを分析して見よう、というわけだ。

 最初のページにあるのが英大衆紙デイリー・メールの紙面。英国の新聞は企業が送ってくる広報文書(プレス・リリース)に依存するようになっているが、「カラーズ」は、ある日のデイリー・メールの紙面から、プレス・リリースに依拠した記事を取り去って見た。大きな穴が開いた紙面となった。ある紙面は90%近くが、プレス・リリースを基にしたものだった。

 一体、ニュースって何なのだろう?プレス・リリースを書き換えたもの、といえなくないだろうか、という問題提起である。

 2005年4月、イスラム武装集団が、イラクで拘束されている米兵の姿をウェブサイト上で公開した話も紹介されている。兵士の頭には銃が向けられている。武装集団は、米軍によって拘束されているイラク人受刑者を解放しなければ、この米兵士を銃殺すると脅した。

 しかし、実はこの米兵はプラスチックの人形だったー。インターネットの出現でうそのニュースを作ることがより簡単になった、とイタリア人の教師トマッソ・デ・ベネデッティ氏は語る。同氏は英国のベストセラー作家JKローリングや元ローマ法王ベネディクトが死んだと嘘のツイートを流したことで知られている。

 一方、2011年3月11日、日本を大津波が襲った後で、石巻日日新聞が出した「号外」は、紙に手書きで書いた新聞だったー。ネットが発達した現代社会だが、いざと言うときに役立ったのは紙の新聞だった。

 「ニュースは事実を伝えるもの」、「事実とは誰にとっての事実なのか?」、「私たちは先進的なネット社会に生きている」-もろもろの既成概念を問い直し、視覚的に揺さぶりをかけるのが、今回の特集だ。

 ウオーターハウス編集長は、「カラーズ」がある事象を分析するときのアプローチ方法を説明した。

 「視覚化する」、「客観化する」、「モノを通して見る」、「地理情報を加える」、「分解する」、「仕組みを説明する」、「人間の特有性を大事にする」など。

 発想を刺激する「カラーズ」だが、資金繰りはどうしているのだろう?編集長は、衣料メーカーのベネトンが資金を出しているという(ベネトンのリサーチセンター、ファブリカが担当)。

 これで少し納得がいった。ベネトンといえば、度肝を抜くような広告の数々で知られている。例えば、2011年、ローマ法王ベネディクト16世(当時)とイスラム教指導者アフマド・アル・タイーブ師がキスしている合成写真を用いた広告を出し、物議をかもした

 どうやって私たちはニュースとつきあうべきなのだろう?

 ウオーターハウス編集長に会場で聞いてみた。c0016826_18274556.jpg 編集長は自分をアーチストという。以前にファブリカ社で編集にかかわっていたが、いったんやめて南アフリカ・ヨハネスブルクに。プロジェクトに応じて「カラーズ」にかかわるようになり、現在は編集長になった。

 雑誌を見ると、世界中のさまざまな出来事を俯瞰していることが分かる。どうやって世界で何が起きているかを把握するのだろう?毎日、どうやって情報を取得するのだろう?

 「私たちは情報がありすぎる社会に生きていると思う」と編集長。「目利きとなる情報フィルターを持つことが重要になってくる」。

 「カラーズ」に入ってくる情報は、イタリアにある編集部の10人のスタッフ、世界中にいるジャーナリストやリサーチャー、アーチストなど、これまでに「カラーズ」で仕事をした人から入ってくる。

 編集長自身も地元で手に入るニュースに目は通すが、「情報がありすぎるぐらいだ」と繰り返す。

 「肝心な点は、アイデアを見つけること。自分が何を探しているのかを頭において、情報を見ることだ」という。

 フェスティバルの開催中、「カラーズ」は、「ニュースを作る機械」をリパブリッカ広場の一角に置いた。

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 最新号の特集「ニュースを作る」をフェスティバルで紹介したことにあわせ、表紙に描いた「ニュースを作る機械」のイラストを実際に作ってみたのだ。ビデオカメラやラジオ、マイクロフォン、拡声器、録音機、ブラウン管などを組み合わせた、奇妙な格好の機械である。

 その仕組みの一部を簡単に紹介すると、利用者がツイッターで@colorsmachineにメッセージを送ると、文章が音声に変換され、拡声器がこれを発声する。その音声を録音機が録音し、ブラウン管に映し出す。これをビデオカメラが撮影し、再度文字に変換するー。最後に、手前にある装置が、元のツイッターのメッセージと、ニュースを作る機械が生み出した文章とを印刷する。この機械の「編集」過程を経て手にしたメッセージはオリジナルのメッセージとは大きく異なっていることが多い。

 例えば、「今、この機械に向かって叫ぶことを楽しんでいる」が、「今、娘を持っている」に変わっていた。


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 この機械を作ったアーチスト、ジョナサン・ショムコさんは「最初のメッセージが様々な媒体を通してまったく違うものに変わっていくことを示したかった」という。最新のデジタル技術を使い、人的要素を一切排した媒体でも、結果として「間違った、あるいは不正確な情報になった」。教訓は、「新聞や雑誌などの既存メディアであれ、機械であれ、何かを媒体として出てきた情報を鵜呑みにしてはいけないということだ」。
by polimediauk | 2013-05-11 18:19 | 欧州のメディア
 世界中のコンテンツ媒体から情報を集積して、独自のニュースサイトを作るグーグル・ニュース。新聞や雑誌などのコンテンツ制作側は、グーグルから対価を得る権利があるのではないだろうかー?

 そんな意識が強い欧州出版界では、昨年末から今年にかけて、グーグル側から一定の譲歩を引き出す事例が発生している。

 昨年12月、グーグルによる記事利用をめぐり、ベルギー新聞界とグーグルが合意に達した

 これによると、グーグルは記事を利用した際にベルギーの発行元や著者にお金の支払いはしないが、ベルギー側がそれまでの交渉に要した法律上の費用(500万ユーロ=約6億3000万円=といわれている)を負担し、「発行元の媒体にグーグルが広告を出す」という。

 今月1日、グーグルはフランスの出版界と歩み寄りの姿勢を見せた。グーグルが6000万ユーロ(約75億6000万円)に上る「デジタル出版イノベーション基金」を立ち上げ、同国出版社の広告戦略を支援することになったのだ。


 グーグルのエリック・シュミットCEOのブログによると、この基金は「フランスの読者のために、デジタル出版の開始を支援する」もので、「グーグルの広告テクノロジーを使って、フランスの出版社がオンライン収入を増やす」ように、協力関係を深めるという。

 ベルギーとフランスの例では、「記事をリンクしたことに対価を払う」という形にはなっていないので、これに反対してきたグーグルにとっては方針を曲げなかったともいえるし、フランスやベルギー側は資金援助を引き出すことができたので、一定の成果が出たともいえる。互いに自己の主張を曲げなかったように見せながらの、玉虫色の結果となった。

 一方、強気の姿勢を崩していないのがドイツだ。

 ドイツ新聞発行社協会の広報担当者アンヤ・パスキー氏がニュースサイト「ザ・ローカル」に語ったところによると、フランスのようなグーグルとの和解策は拒絶するという。

 パスキー氏は、フランス型の良い点は、「第3者が作ったコンテンツのアグリゲーションというビジネスモデルにはお金がかかるものだ」(ただではできない)ということが周知された点だという。

 残念な点は、合意がグーグルとの間でのみ締結され、ほかのニュース・アグリゲーターには適用されるようになっていないことだ。

 ドイツの国会では、著作権法の一部を強化し、ニュース・アグリゲーターが出版社が作ったコンテンツを利用するときに対価を払うよう、審議が続いている
by polimediauk | 2013-02-04 21:48 | 欧州のメディア
 フランスの日刊経済紙ラ・トリビューンが、ウェブサイト上の記事の課金方法を多様化させる。狙いは完全購読制へと読者を誘うこと。

 「ペイドコンテンツ」の報道によると、ラ・トリビューンは既に毎月10ユーロ(約1160円)の有料購読制を提供している。10ユーロを払うと、紙媒体のオリジナル記事をネット上で読める。ラ・トリビューンの場合、紙面の60%がこのオリジナル記事に相当する。

 毎月一定の料金を払う制度に加えて、新しく導入されるのが、1つ1つの記事に小額を払うという制度。例えば、論説面の記事一本につき49セント払う。この際、マイクロ決済システムの「Cleeng」を使う。http://cleeng.com/

 Cleengの創始者でCEOのガイルズ・ドマルティニによれば、広告を出して無料でニュース記事を提供する場合と、毎月の購読料を課金し、有料で記事が提供されている場合との距離が大きすぎる。そこで、個々の記事や動画視聴の一部に小額のお金を払うという中間に位置する行為を導入し、月間有料購読者となる道につなぎたいという。

 ラ・トリビューンは、一日パス(24時間閲読するサービスに支払う)やウェブのみの過去記事へのアクセスにお金を払う方式を近く導入予定。Cleengの利用者は、ビザやマスターカード、ペイパル、SMS(携帯のテキストメッセージ)、電話料金から差し引かれるなどの形で支払いをする。このサービス提供で得たお金は、ラ・トリビューンが80%、Cleengが20%を取るという。

 ラ・トリビューンでは、「簡単な手順」であることが成功の鍵という。

参考:ペイドコンテンツ記事
http://paidcontent.co.uk/article/419-la-tribune-starts-charging-for-more-online-content/
by polimediauk | 2011-06-28 18:53 | 欧州のメディア
 ドイツのメルケル首相が、「多文化主義社会は失敗した」と言ったそうである。

 http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-11559451

 すごいことになったなあ、と思った。一国の首相が思い切ってよく言ったものである。

 BBCの記事によれば、メルケル首相はいわゆる「多文化主義」の概念―互いに隣同士に幸せに生きるーは機能してないし、移民たちはドイツ社会に融合するために、もっと努力をするべき(例えばドイツ語を学ぶなど)、と言ったそうである。

 ドイツで反移民感情が高まっているそうで、記事の中で紹介されているシンクタンクの調査によれば、30%のドイツ国民が、自分の国が「外国人によって制圧されている」と感じている。また、移民の一部がドイツの社会保障目当てにやってきた、と思っているのだそうだ。
 
 ドイツは1960年代に労働者を外国から呼び、「今その人たちはドイツに住んでいる」とメルケル氏。「私たちは自分たちをしばらくの間、だましてきた。移民たちは長くは滞在しないだろう、いつかはいなくなると」(しかし、そうはならなかった、と言いたいのであろう)。「もちろん、多文化(社会)は失敗したのだ。完全に失敗した」と続けている。

 メルケル首相は移民がドイツに来ることをとめようとしているわけではない。「歓迎する」と述べている。しかし、彼女が問題にしているのは、融合がうまく行っていない、ということなのだろう。

 先週には、別のドイツの政治家が、「トルコやアラブ諸国など別の文化からやってきた移民」は、ドイツ社会への融合に関して、(他の文化を持つ人に比べて)「より困難であるのは明瞭だ」と述べていた。「多文化主義は死んだ」と。

 ドイツには今、1600万人の移民がいて、250万人はトルコ出身者である。トルコの国民はほぼ全員がイスラム教徒である。(*文の最初が「トルコには」となっていたのを、訂正しました。) 

 8月には、ドイツ中央銀行の幹部が、イスラム諸国からの移民が最も強く社会福祉の申請や犯罪に結びついていると発言して、辞職する羽目になった。言ってはいけないことを言ってしまったのである。

 キリスト教をベースにした欧州諸国は、イスラム系移民の取り扱いに苦労しているように見える。

 私はオランダ(映画監督がイスラム系住民に殺害された)やデンマーク(ムハンマドの風刺画事件)を取材したことがあって、欧州とイスラム、あるいはムスリム(イスラム教徒)の問題の意味合いを、折に触れ、考えてきた。

 イスラム教徒がどう考えるか、あるいは価値観がどうだ・こうだというよりも、イスラム教徒を国民・隣人として内包する西欧の国に住む人々の、イスラム教徒に対する見方が気になる。

 一方、フランスでは、公的場所でイスラム女性が体を覆うイスラム教の装束を着てはいけないことになった。この問題に関しては、産経・山口さんの鋭い考察がある。ブルカ禁止法は宗教弾圧や少数民族迫害とはかけ離れた話で、フランスのアイデンティティーの問題―とある。

【緯度経度】パリ・山口昌子 ブルカ禁止法は宗教弾圧なのか
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100925/erp1009250811001-n1.htm

共同通信:フランスでブルカ禁止法が成立 欧州初 イスラム諸国反発も

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100915/erp1009150831003-n1.htm

 フランスの話からはずれるかもしれないが、オランダ(そういえば、イスラム教批判の議員が率いる自由党が、6月の下院選挙で票をかなり集め、閣外協力をしているはずである)やデンマーク風刺画の事件などを見ていて、私が思うのは、多文化主義といったときに(つまるところ、フランスは多文化主義方式を取らず、フランス式を取る、ということなのだろうけれど)、一体どこまで、互いに譲り合えるのだろう、か、と。

 ある社会の中に、別の価値観や文化を持つ人がやってきて、一定の人数に達したときに(それでもまだ数としては少数であるとき)、このいわゆる「少数の人たち」のために、「大部分の人たち」がどこまで太っ腹で、どこまで自分たちの中では普通であったことを、変えられるだろうか?

 もしかしたら、「多文化主義」というのは、そこまで要求するものなのではないか?ただ単に、隣同士にいて、互いから影響を受けない(お互いに変わらない)のであれば、これは融合にはならない気がする。

 メルケル氏が「融合」というとき、本当に単純にドイツ語を話すなどのことを指しているのだろうけれど、ドイツ語を話す、前からいたドイツ国民のほうは、移民が来たことで、「変わる」必要はないのだろうか?

 例えば、具体的な話で言うと、デンマークの風刺画問題で大騒ぎになった時に、ムハンマドの風刺画を再掲載したドイツの新聞のある編集長は、「私たちの文化では、神や権力者を批判・風刺する伝統がある」という言い方をしていた。この時、「私たち」って、どういうことかな?と思った。この「私たちの文化」を、場合によっては変える、という発想はないのかな、と。

 異なる文化を持つ移民がドンドン増えたとき、国としてのアイデンティティーはどうなるのか、とも思う。西欧の各国で、異質な文化を持つ人間が増えたとき、どうするのか、大きな実験が起きている。
by polimediauk | 2010-10-18 06:51 | 欧州のメディア
17歳の独少年の銃乱射で15人が死亡(ベリタ無料記事)

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200903112259223

 こういう事件が起きると、「何故」?を人を探したがるが、なかなか答えが出ない。ターゲットになるのはビデオゲームだが、やはり他になかなか原因が見つかりにくいからかもしれない。

 10代、男性(少年)、暴力、孤立・・・。社会学的な理由ではないのかもしれない、こういう事件が起きるのは。
by polimediauk | 2009-03-11 23:02 | 欧州のメディア
 オンラインの「ベリタ」に「オーストリア監禁事件-3」のつもりで、これまでの経緯や「何故察知できなかったのか」をまとめてみた(無料記事)。ご関心のある方は見ていただきたい(但し、最後の結論のみ、ブログで既報済み)。また、オーストリアに住む方、詳しい方で、「こんな見方がある」というのがあれば、ご一報ください。

http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200805050152361

 リビンストン氏の負けとイブニングスタンダードの関係に関して、後で出します。


 
by polimediauk | 2008-05-05 02:11 | 欧州のメディア