小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:欧州のメディア( 31 )

 オーストリア監禁事件に注目している。同国のナスターシャ事件(2006年明るみに)と今回と、「少女を数年間監禁」ということで共通点があり、オーストリア独自の事態なのかどうか?

 監禁、性犯罪、少女、というキーワードで探せば、世界中に同様のことが起きているのだろうけれども、男性(あるいは大人の側)が「自分のものだけにしておきたい」と、少女・女性(あるいは大人側からすると弱い立場の人間)を監禁する、という発想はどこから出てくるだろう?男性優位・中心主義の考えが強いのかどうか。男性側に相手を支配したいという意識が強いのかどうか。(注:すべての男性=悪人、という見方ではもちろんないことを改めて書いておきたい。この2つの事件で相手を監禁したのが男性だった、という点に注目したのみ。)

 独「シュピーゲル・オンライン」(英語版)2日付に、オーストリア監禁事件の父ヨーゼフの弁護士の話が出ている。「私の仕事はヨーゼフを一人の人間として見せること」と語っている。以下、抜粋。

http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,551049,00.html

 ルドルフ・メイヤー氏はオーストリアでも著名弁護士の一人で、顧客のいいところを見つけ、相手を理解するようにする、と述べる。メイヤー氏の事務所はオーストリア・ウイーンの裕福な層が住む場所にある。例のフロイトも近辺で働いていたことがある。メイヤー氏は自分を「セラピストであり、かつ弁護士」と呼ぶ。

 「ヨーゼフはひどい怪物、性の暴君として紹介されている。私の仕事は彼を一人の人間として見せること」。10分間話をして、「どんな人物かの感触をつかもうとした。論理で考えることをやめ、直感を働かせた。相手の目に注目した」。目を見れば、相手の90%が理解できるという。

 「最初の30秒が肝心だ。私はヨーゼフとつながることができたと思う」。

 「家父長的な、良い面も悪い面もある人物だという印象を持った。感情的に壊れた人物だ」。

 当初の会話ではほとんど反応がなかったヨーゼフは、2回目には、自分のこれまでの人生や何が起きたかを2時間に渡って話したという。「話をさせておいて、私は黙って聞いた」。

 何故自分の人生をめちゃくちゃにするようなことをしたのだろうか?これを探し当てるのが「まさに私の仕事だ」。メイヤー氏のこれまでの経験から、「どんな行為、どんな犯罪行為にも必ず理由がある」のだ。しかし、ヨーゼフの側によりそって、何故こうした行為に走ったのかを探し当てるようなメイヤー氏の態度を不満と思う人もいる。すでに脅しのメールが届いたそうだ。しかし、こうした憎悪のメールは職業上必ず起きるという。

 メイヤー氏はヨーゼフの犯罪に「衝撃を受けなかった」とシュピーゲル誌に答えており、ヨーゼフから弁護士になるように依頼されてまんざらでもなかったようだと、シュピーゲル誌は書いている。

 ヨーゼフが拘留中の刑務所の担当者は、「ヨーゼフは自分のしたことの重大さに次第に気づき始めて」おり、後悔の念も見せだしているという。


 ドイツメディアはこの事件を非常に熱心に追っているようだ。シュピーゲル英語(電子版)は3日付でもさらに新しい情報を入れた話を載せている。

 当初、地下室の部屋は一つしかなかった・・など、詳しい状況は読むだけでも不快である。

http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,551246,00.html

 特筆すべきはヨーゼフ氏が娘をレイプしていたことを「知っていた」という人が出てきているらしい。オーストリアのテレビでそう話したそうだ。でも、ヨーゼフ氏が「怖かったので」通報などをしなかったそうだ。そして今でも「悪夢を見る」とこの人は言っている。(この「通報しなかった」理由が後で分かる。一つの説だけれども。)

 一方、オーストリア政府は「ヨーゼフ事件=オーストリアだからこそ起きた事件」と思って欲しくないと、イメージを改善するのに躍起だ。もちろん、ある1つの事件が起きたからといって、それがそのままその国のイメージになってはたまらない。それでもなんといっても2年前にも同様の事件があかるみに(ナターシャ事件)があるのだから、オーストリア外の人は何らかの関係性を見たがる。

 ネットを見ると、「オーストリア独自のことではない」、「他国がオーストリア独自の事件として見るのはあたっていないし、不快だ」という声もある。

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 ナターシャさん自身は、BBCの取材に応じ、オーストリアだから起きた部分もあったことを示唆している。ナチの国家社会主義があったころ「女性は抑圧されており、全体主義的教育があった」要素をあげている。(ビデオは以下に。)

http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7376667.stm

 そして、ナターシャさんを診た心理学者マックス・フリードマンさんは、BBC「ニューズナイト」の取材の中で、こうした監禁事件が発覚しなかった理由として、オーストリアが未だにナチ時代の後遺症に苦しんでいるから、と述べている。フリードマンさんによれば、「何かを見たり聞いたりしても、それを通報しない傾向がオーストリア人にはある」と言う。「1933年から45年にかけて、たくさんナチのスパイがいた。こういう人たちは、戦後、嫌われた。そのために、今では情報屋とみなされないよう、何かを見ても通報しない。オーストリアは未だにナチの過去に苦しんでいる。過去からヒーリングする途中にある」と述べている。

 今回の事件をナチの過去と結びつけるなんて「ばかげている」、「いいかげんにしてくれ」という人もいるが。

(過去記事)
http://ukmedia.exblog.jp/8766563/
by polimediauk | 2008-05-04 07:52 | 欧州のメディア
c0016826_643575.jpg デイリーテレグラフが、例のオーストリアのアムシュテッテンに住む父親が娘を監禁・虐待していた事件で、犠牲者となった娘エリザベス・フリッツルさんの似顔絵(オーストリア紙掲載)を再掲載している。

 24年間自宅の地下室で監禁され続けた女性は今42歳。しかし、年齢よりももっと年を取っているように見え、母親(68歳)のローズマリーさんにむしろ似ている雰囲気もあるようだ。家族がトラウマから立ち直るのに何年もかかる、と言われている。


http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/austria/1915390/Artist's-impression-of-Elisabeth-Fritzl.html

 父親の写真があちこちに出るようになったが、娘との間に出来た子供の写真も英紙に掲載されており、その子供たちが父親にどこか面影が似ているのが恐ろしい感じもややする。

 娘エリザベスさんが11歳の時から性的暴行を働いていた父親は、エリザベスさんが18歳の時に自宅地下室に監禁した。子供を7人産ませ、1人は亡くなったので遺体は燃やした。子供のうち数人は自宅前にあたかもエリザベスさんが置き去りにしたかのように思わせ、妻のローズマリーさんと育てていた。

 ドイツ・シュピーゲル紙によると、父ヨーゼフ氏には共犯者がいたのではないか?という疑惑があると言う(捜査当局は否定)。ヨーゼフ氏の家に、1996年から1997年、店子として暮らしていたある女性の話が情報源だ。娘1人とその子供3人を地下室に監禁するには、食料などを大量に運ぶ必要があるが、沢山買い物をしていた様子を見たことがなく、1人でできることではない、と説明している。この女性の夫は仕事がパン屋さんで、毎日、様々な時間に家を出たが、ヨーゼフさんの行動に不信な動きを目撃したことはなかった。

 ヨーゼフさんは店子たちに娘のエリザベスさんは宗教にはまったか娼婦になったと説明し、「だから自分の子供の面倒を見たくなくて、ここに置いていったのだろう」と言われていた。同情もされていた、と言う。

 29日の夜にはアムシュテッテンで、悲劇の犠牲者のために祈る集まりがあった。市長は「ここは犯罪者の町ではない」と以前に述べている。2万3000人の小さな町で、事件の調査が終わったら、もうこの家族はここには住めないだろうと言われている。

 この犯罪は、10歳で、ウォルフガング・プリクロピルという男性に8年間監禁され、18歳になってようやく脱出した女性、ナスターシャ・カンプッシュさんの事件をほうふつとさせる。ナスターシャンさんの事件もオーストリアだった。ある日彼の家から逃げ出し、ウィーン近辺で警察に保護された。男性の方は自殺した。

 ナスターシャさんは、エリザベスさんに対し、「何か支援できることがあれば、声をかけて」という公開メッセージを出している。彼女なら何らかのヘルプができるのでは、と。

 この2つのケースをオーストリア特有の話と見るか、偶然だと見るかでは人々の意見は分かれるようだ。

 そして、この2つの事件のほかにも、タイムズで読んだだけだが、ある女性弁護士の母親が子供たちを部屋の閉じ込めて数年という事件もあったと言う。

 AFP電で、フランスの驚くような事件も報道されている。「28年間義父に性的暴行受けていた仏女性、『世界に無視されていた』心情を語る」http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2385211/2883658

 (父による娘のレイプという事件では、定期購読の雑誌「選択」4月号に日本の例が出ていた。このテーマに関心のある方は、ご一読されることをお勧めしたい。)

 一人の人間を自分の好きなようにするために、部屋に監禁する=この恐ろしさ。何故?レイプだけでも屈辱的だが、「監禁+性的虐待」はこれに輪をかけてひどい。相手の自由を奪い、人間としての尊厳を奪う。人間に対する犯罪の中でもかなり重いのではないか。

 それでも、トラウマの後、何とか生きようとし、生き続ける女性もいる。そんな女性の1人がベルギーで起きた同様の事件の被害者サビーヌ・ダルデンヌさん。既に日本でも彼女の体験を書いた本が和訳されているが、ベリタに出した時の話を再録する。本を最後まで読んで、涙が出たが、何か心が励まされるような思いもした。(少々前の記事であることをお許し願いたい。)

2005年04月20日14時25分掲載

80日間の監禁生活つづる ベルギーの少女連続誘拐殺人事件で救出された女性
ーメッセージは「同情しないで」

c0016826_6424289.jpg 1995年から1996年にかけて、ベルギーを揺るがした少女連続誘拐殺人事件で、80日間の性的暴行・監禁生活から救出された当時12歳のサビーヌ・ダルデンヌさんの体験をつづった本の英語版が出版されることになった。事件発生から9年たち、監禁体験は「過去のものになった」とするダルデンヌさんが読者に強く望むのは「同情しないでほしい」という思いだ。英語版の題は「I Choose to Live」(「生きることを選択する」)で、来月の出版を前にダルデンヌさんは英ガーディアン紙のインタビューで現在の心境を語った。 
 
 1996年5月、ダルデンヌさんは通学途中、犯人のマルク・デュトルーに誘拐された。もう一人の当時14歳の少女と一緒に犯人の地下牢に監禁され、性的暴行を受けた。同年8月、少女2人は警察に救出された。デュトルーは2004年、この2人を含む6人の少女を誘拐して性的暴行を加え、その中の4人を殺害した罪で終身刑となった。 
 
 人々はダルデンヌさんに同情するが、ダルデンヌさん自身はこうした同情、共感などをわずらわしいものと感じているようだ。「もう起きてしまったことを嘆いてもしょうがないでしょう」 
 
 「好き好んであんな状況になったわけではない。私はスターでもなければ、歌手でも女優でもない。現在の自分を誇りに思ってはいるけれど、何か特別なことを成し遂げたわけではない」 
 
 しかし、インタビューした記者は、ダルデンヌさんは少なくともこの9年間、「抵抗を続けた」といえるのでないかと分析する。 
 
 デュトルーの自供によると、首輪でつながれた80日間の監禁の間、ダルデンヌさんにオーラル・セックスを強要した後、「口直しのため」お菓子を与えたというが、その度にダルデンヌさんは犯人に対して、抗議をし、不満をこぼし、嘆き、困らせたと言う。 
 
 「私はとても意志が強い人間だと思う。自分が何が欲しいのか、自分にとって何が大切かが分かっている。絶対にあきらめたりしない。(閉じ込められていた部屋でも)私にとって重要なことは家族に会うことだった。だからあきらめなかった」 
 
 1996年8月15日、6日間一緒に閉じ込められていたもう一人の少女レティシア・デレさんと共に監禁状態から解放されてからも、ダルデンヌさんは自分なりの抵抗を続けてきた。 
 
 解放後に敵となったのは、周りの人の善意だった。ダルデンヌさんの苦しみをまるで自分のことのように受け止めた家族、友人、医療関係者、警察、事件に震撼したベルギーの社会全体の空気だったという。 
 
 「一番性質が悪いのは精神科医だった。私は行きたくなかったけれど、お母さんが行かせた。一度だけ行った時に、女性の精神科医の人がいて、インクのしみのような絵を見せられた。何に見えるかと聞かれたので、インクのしみに見える、と言った。花を持った少女の絵を見せられて、何に見えると聞かれたので、花を持った少女に見える、と言った。それだけ?と言われて、もちろん、それだけです、と答えた」 
 
 実際に監禁されたことよりも、その後の、「なぜ」という問いかけに苦しめられたという。 
 
 母親にも苦しめられた。「お母さんは私に秘密を打ち明けて欲しかったのだと思う。私の苦しみの重荷を軽くしてあげたいと思って。でも、秘密を打ち明けるわけがない。そんなことをしてもどうにもならないもの」 
 
 「事件が起きて、それはもう終わった。これで話は終わり。お母さんに話したって、過去を変えることはできない。それに、今の10倍くらいお母さんの気分が悪くなるだけ」 
 
 また、犠牲者として振舞うことを期待されたことも苦しかったと言う。「だんだんよくなってはいるけれど、とってもつらかった。今でも仕事に出かけるために電車に乗るとじろじろ見られる。サインをくださいと頼まれたり、私の苦しみを他の人と共有するべきだと言う長文の手紙をもらったりする。レイプされたほかの女性からも手紙をもらって、私の気持ちが理解できる、と書いてある。頭に来る。何も『理解』することなんかない。あることが起きた、そこで終わりなのだから」 
 
 昨年、暴行犯の公判に出ていたダルデンヌさんは、約1時間にわたり、監禁状態のことを証言した。最後に質問を許され、「どうして私を殺さなかったのか」とダルデンヌさんは被告に聞いた。 
 
 答えは、「次第に心を引かれたから」だった。ダルデンヌさんは、笑いをこられることができなかった。「なんて哀れな男かと思った」。地下牢ではダルデンヌさんを好きなように扱っていた犯人は、今はダルデンヌさんに全く手を出せない状態にいた。「小さく見えた。人生の中で一度も本当のことを言ったことがないんでしょう。全然怖いと思わなかった。笑ってしまうしかなかった」 
 
 ダルデンヌさんが今回ようやく体験本を書こうと思ったのは、周囲の人のさまざまな憶測にきっぱりとけりをつけたいと思ったからだと言う。 
 
 フランス語で昨年発売された本は、ベルギーやフランスで大評判となった。既に22カ国に翻訳されつつあるという。 ダルデンヌさんはベルギーの地方自治体で仕事をしているが、警察に転職する予定だ。事件があったためでなく、父親が警官だったので、小さいときからあこがれていた。2年前から付き合いだしたボーイフレンドもいる。 
 
 過去は過去、とするダルデンヌさんだが、事件に関する新聞記事、関連のテレビ番組のビデオ、監禁中に書いていた日記などを大きなトランクに保管している。時々、読み返すことがあるという。「かつて自分だった12歳の少女がここにいる、と思う。もし将来子供ができて、何が起きたか知りたがったら、これを見せることができると思う」 
by polimediauk | 2008-05-01 06:44 | 欧州のメディア

今、新しい欧州憲法をどうするかの話し合いがブリュッセルで続いているが、第2次世界大戦に関わるポーランド政府の発言に、ドイツが窮地というか、困惑の波が広がっている。

 ポーランドのカチンスキ首相は、新憲法の中の、人口比による多数決制は公正ではない、と反対しているが、1939年9月、ナチ独によるポーランドへの侵攻がなければ、ポーランドの人口ははるかに大きかった、と述べたのである。現在のEUの議長国はドイツ。つらい発言となった。

 テレグラフの記事によると、憲法案が提唱する、人口比による多数決制を基にした議決方法は「ポーランドを傷つける。ポーランドは未だ戦時の損失からまだ回復していない。」、「私たちが望んでいるのは、私たちから取り去られた分を要求しているに過ぎない」、もし1939年から1945年の年月がなかったら、「ポーランドは人口6600万の国になっていた」。

 デンマークのラスムセン首相は「第2次世界大戦を持ち出して、現在の議決案を論じるのはばかげている」としている。

 欧州議会のトップで、ドイツ保守系政党のハンス・ゲルト・ポエッテリング氏は、ポーランドの発言は「非常につらい」。氏は、生まれる前、戦時中に父親を失い、父親の顔を知らずに育った。

 ポーランドは第2次世界大戦で500万人を失った。これは当時の人口全体の18・5%にあたるという。

 テレグラフは、「EU指導者たちは『戦争についての言及はしない』態度でやってきた」、「特に、ナチ独のために多くの人が殺害され、欧州大陸を破壊したが、現在のドイツをこうした破壊の加害国として特定しない」のがルールだった。「国家間の競争心を過去のもの」とし、成功する「貿易圏を作るために力をあわせる」ことを目的としてやってきた、と書いている。

 日本でも従軍慰安婦問題の議論が絶えないが、欧州・EUもそれなりに苦しみがある。
by polimediauk | 2007-06-22 18:17 | 欧州のメディア

トルコとノーベル文学賞

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 トルコに初めて来て、いろいろなことに驚いた。

 英国にいると、というか、英語でトルコの報道を追っていると、ほとんどが否定的なものだ。

 こちらに来て(ほんの)1週間経ち、いろいろな人に生活の具合を聞いてみると、やはり、というか、幸せな人もいるし、欧州では悪名高いのが「表現の自由がない」ということだったが、「そんなことはない」「何でも好きなことを言ってもいいんだよ」などなど。

 今年のノーベル文学賞をとった、パムク氏に関しても、トルコでは文学賞が与えられたことに関して、「当局は複雑な思い(パムク氏がアルメニア人虐殺のことを言っているから・政府はこれを認めていない)だ」などとという報道を英語で読んでいたが、そういういろんな経緯をほとんどのトルコの人は知らないようで(パムク氏のことを知っている人も多くないのかもしれない)が、Aだと思っていたらBだったと現地の人に言われてしまう、という状況があった。

 かといって、Bが正しい、と言い切ることもできないのだが。Bの意見を言った人がどれだけトルコを代表しているかなどによっても変わってくるだろう。

 それはそれとしても、トルコに来て、自分自身の知識や感覚を試されるような部分があった。自分が数年住んできた西欧でもなければ、元々の日本とも違う、全く未知の文化で、言葉も慣習も分からない、と。トルコにはトルコのものさしがあるんだろうなあ、それは一体どんなものさしなんだろう、と。EUが考えるような「こうあるべき」という見方でトルコを判断したくないしなあ、と思った。

 イスタンブールに来て見ると、モスクがもちろん(90数パーセントがイスラム教徒)たくさんあり、朝5時過ぎぐらいには近くのモスクから流れる大きなお祈りの声で起こされてしまう。何世紀も前の建物があるかと思うと、客引きの青年がうるさく声をかけてくる。長年の歴史、豊富な文化がたくさんある都市のように見えた。そして、こういう都市が何故(反語の意味の「何故」だが)EUに入ろうとするのだろう、西欧化する必要など、ないのではないか?失われるものがあるのではないか?

 トルコは、1923年から共和制になったが、それまでのイスラム教の風習を思い切ってどんどん変えていく。服装を西洋式に変え、書き言葉にアルファベット文字を導入し、隠れ家的に存在していた祈りの場所を廃止してしまい、名前も西洋式にみよ字(サーネーム)をつけていく・・・。(詳しい経緯は関連書籍をご参考に!**)こういう経緯を、共和国の創始者のお墓(巨大)+博物館で知った。いわば日本の明治維新のようなものだったのだろうか。それにしても大胆である。

 この荒療治の経緯には、犠牲になった人もずいぶんいるのではないか。イスラム教徒でイスラム風の衣服スタイルを変えない人、秘密の隠れ家のようなところでお祈りを続けている人などがつかまって、場合によっては処刑されたという経緯も、博物館の展示で知った。(記憶をたよりの情報。)

 イスタンブールでなんとなくもの悲しく思っていたら、こういう、失われたものへのメランコリー感覚を書いたのが、ノーベル文学賞パムク氏の最新作「イスタブール」であったということを、トルコの首都アンカラ在住の日本人の翻訳者の方に聞いた。エッセー風なので読みやすい(英語版)。和訳は来年の3月に出るそうである。既に2作品の和訳が出ている。

 ノーベル文学賞の作品は自分には縁遠いと思っていたら、イスラム教世界と西欧の世界との関係などに関して思いをはせた作品を書いたりしていると聞き、大きな関心を持った。例えば、日本の作家谷崎潤一郎が、日本が西欧化する中で、しょせん日本人は西欧人になれないと思い、日本の古典文学に傾倒していく・・・といった件に、パムク氏は共鳴しているのだと言う。

 ノーベル文学賞が突然身近になった思いがした。

 (写真は共和国創始者のアタテュルクの墓+博物館の様子。アンカラにて。)

 
 **(ちなみに、トルコに関して、ウイキペディアはこう書いている。)

19世紀になると、衰退を示し始めたオスマン帝国の各地では、ナショナリズムが勃興して諸民族が次々と独立してゆき、帝国は第一次世界大戦の敗北により完全に解体された。しかしこのとき、戦勝国の占領を嫌ったトルコ人たちはアンカラに抵抗政権を樹立したムスタファ・ケマル(アタテュルク)のもとに結集して戦い、現在のトルコ共和国の領土を勝ち取った。

1923年、アンカラ政権は共和制を宣言。翌1924年にオスマン王家のカリフをイスタンブルから追放して、西洋化による近代化を目指すイスラム世界初の世俗主義国家トルコ共和国を建国した。第二次世界大戦後、ソ連に南接するトルコは、反共の防波堤として西側世界に迎えられ、NATO、OECDに加盟する。国父アタテュルク以来、トルコはイスラムの復活を望む人々などの国内の反体制的な勢力を強権的に政治から排除しつつ、西洋化を邁進してきたが、その目標であるEUへの加盟にはクルド問題やキプロス問題が大きな障害となっている。

by polimediauk | 2006-11-10 05:05 | 欧州のメディア
 昨日英テレビでも少しやっていたようなのだが、日本では報道されているだろうか?(もしされていたら繰り返しになって申し訳ないが。)

 米航空宇宙局(NASA)の広報官が14日語ったところによると、米宇宙飛行士ニール・アームストロング氏がいったOne small step for man, one giant step for mankindでも有名な、人類初の月面着陸の様子を伝えるオリジナルの録画テープが、今どこに行ったか分からなくなっているという。ロイター通信が伝えていた。ニュースそのものは新しくないのかもしれないが、広報官が話した、ということで新しいのだろう。

 アームストロング氏が歩いて見せたのは1969年7月20日。世界中で多くの人がテレビ画面上でこの光景を見たという。しかし、NASAによると、このときのオリジナルのテープが紛失している。このテープには、宇宙飛行士の体調やアポロ飛行船がどんな状態にあったのかを示すデータも入っているという。

 NASAは、テレビ放映したときのフィルムを所有しており、ウエブサイトにもこれを出しているという。しかし、オリジナルに比べると画質が悪いという。当時NASAの機材がテレビ用になっていなかったため、オリジナルの画像をモニターで見せ、これをテレビのカメラが放送用に撮影したものが放映されたという。

 オリジナルテープがないということもあって、英テレビのキャスターの一人が、「月面着陸そのものがうそだったという陰謀説がでたことがある」と話していた。

 一方、9月から、新たな欧州の国際ニュース専門のテレビ局EUX.TVというのができるそうである。www.eux.tv

 プレスリリースを見ると、無料で、欧州の政治及び他のニュースを放映する、ということだ。ブリュッセルや他の欧州都市から、新聞及び放送ジャーナリストたちがニュースを報道する。CNBCヨーロッパという、ビジネス専門テレビ局の欧州特派員だった、レイモンド・フレケン氏が日々のニュースを担当する。

 番組は、ウエブサイトを通じて無料で視聴できる、というから、始まったら、見てみることができる。ケーブルやデジタル放送など、ネットにつながっているテレビ受信機なら世界中のどこでも見れるそうだ。

 今後、「国際ニュース専門のテレビ局」となった場合、ある一定の地域でないと見れないとか、受信料を払わないとダメとか、ホテルでだけ見れる、とか、そいう条件を取っ払って見れるのがいい。

 EUX・TVはそうなるようなので、ちょっと期待している。

 (追記)

 NASAの日本語の記事を、16日付の日本のある新聞のウエブで発見。他紙にはもっと前にでていたかもしれないが。「15日、分かった」と書いてあった。NASAの広報が話したのは月曜日だから14日なるはず。また、その前に英国の新聞に出ていたから、13日ごろかあるいはその前に一部情報が出ていたと思う。それにしても、「15日、分かった」とは????その新聞の特派員が、他紙を見て、気づいて、出した、ということか???疑問が残る。
by polimediauk | 2006-08-15 17:29 | 欧州のメディア

 オランダの右派政治家ヘールト・ウイルダース氏が、自分のホームページに12の風刺画を掲載した。http://www.groepwilders.nl/ (一番最初のストーリーの左下、Lees verderというところを、クリック。)

 若干英語がついているものの、他の言語で表記されている分に関しては、私には全ての意味は分からない。

 オランダのラジオ放送Radio Netherlandsが、風刺画を掲載したドイツの新聞Weltの外報デスクに取材している。

 http://www2.rnw.nl/rnw/en/currentaffairs/ger060202?view=Standard&version=1


 ―何故出版を?

 Jacques Schusterジャック・シュスター氏:報道の自由の戦いをしているデンマークの新聞を支持するためだ。社内で議論し、イスラム教徒の感情を傷つけるかもしれないが、報道の自由の支持に社内の意見が固まったので、掲載を決めた。

―何らかの脅しが来るとは思わなかったか?

 シュスター氏:心配はした。今日、たくさん「攻撃的」メールを受け取った。しかし、検閲を受け入れるわけにはいかない。文化の自由、西欧の自由を弁護する。抽象的な、あるいはリアルな危険があるからといって、隠れているわけにはいかない。

 ―宗教に対する尊敬の念が少ないのでは?

 シュスター氏:それはそうかもしれないが、英「ライフ・オブ・ブライアン」(英コメディアングループのモンティパイソンが製作、出演)を見て欲しい。キリスト教信者の気持ちを傷つけたかもしれない。 しかし、私たちはジャーナリストだし、ニュースを扱うのが仕事だ。ニュースの1つがデンマークから来た。それで、掲載した。宗教的感情と報道の自由のバランスをとることが重要だ。

 ―掲載は挑発的過ぎたのではないか?

 シュスター氏:ある意味では、そうだ。だが一方では、そうではない。アラブ世界からは、ユダヤ人やアメリカに関して随分攻撃的な画像が流れてくる。イラクの犠牲者、ドイツの犠牲者などの画像が出ているが、イスラム教の国のリーダー達がこうした画像や暴力を非難しているのを聞いたことがない。隠れているべきではないと考えている。

 それに、この風刺画はある意味では、それほど危険だとは思わない。
個別に、ある風刺画が出版にたるかどうか、判断していかないといけないと思っているが、今回に関しては、出版してもいい、と判断した。

 ―ドイツで抗議運動などがあるのでは?

 シュスター氏;ありうる。しかし、私たちはジャーナリストであるし、現実を報道したい。それで問題がおきるかも、とは考えない。

 私たちには私たちのルール、原則がある。主原則の1つは、表現及び報道の自由だ。この件に関しては、報道の自由を擁護したい。

(追記)
 夕方のBBCラジオで、英国の新聞の編集長らに、この一連の風刺画を掲載するかどうか、という質問をするコーナーがあった。デイリーテレグラフは答えを返さなかったということだが、タイムズ紙は載せないそうだ。インディペンデントは、編集長が電話インタビューで出演。「政治的宣伝の意味合いが強い」「載せる意味がなければ載せない」「インディペンデント紙は、イラク戦争に反対だったし、ムスリムの読者も多い」「故意に読者の感情を害するような風刺画を載せるつもりはない」、といったことを述べていた。どんどん大きくなる論争に「乗っかる」のはいやなのだろう。ある意味では、ちょっとほっとするスタンスだ。

 一方、フランス・ソワール紙の編集長(Editor in chief)が会見を開いたようだ。この人自身が辞めさせられ人なのかどうか、ちょっと分からなかったが、基本的には表現の自由、報道の自由、を訴えていたようだ。テレビで短い時間映っていただけだが。
 
by polimediauk | 2006-02-02 22:43 | 欧州のメディア

スクープ記事を出した新聞が調査下に

 CIAが「ブラック・サイト」とも呼ばれる秘密の収容所を世界中に設置し、テロ容疑者などを米国の法律が適用されない海外の国―東欧や中東などーに移送し、そこで拷問を含めた尋問をしているのでは?という疑惑が、昨年11月上旬、米新聞で報道されてから2ヶ月ほどが経った。

 米政権は自国の情報機関の活動は合法、としている。テロ容疑者を海外移送している点に関しては否定していないものの、拷問されているとする説は拒絶している。ライス国務長官は、米国の全尋問官は、米国内外において、国連の拷問禁止条約を遵守している、と述べている。

 12月13日、欧州各国が作る人権問題などの協議機関、欧州会議が、CIA運営の秘密収容所疑惑に関し、調査の結果、疑惑は信憑性を増した、とする見解を発表。このときの調査を担当したのがスイス人のディック・マルティー氏だった。スイスの右派急進民主党に所属する国会議員でもある。

 スイス放送協会の国際部門「スイスインフォ/スイス国際放送(SRI)」が、マルティー氏へのインタビューを試みている。http://www.swissinfo.org/sja/swissinfo.html?siteSect=105&sid=6364763 (日本語)

 この中で、氏は、CIA秘密収容所疑惑の調査結果をなるべく多くの人に知ってもらいたいと思っていると語っている。「無実かもしれない人が、違法に拘束され、移送され、拷問されているかもしれない状況をほうっておいて、何の法治国家の意味があるでしょう?」

 「人権侵害に関していえば、どんな理由にしろ、例外を認めるべきではありません。テロであれ、暴力であれ、法治国家の政府である限り、私達は法律に基づいて事を進めるべきです」。

 インタビューは、マルティノ氏の人柄も紹介している。

 一方、8日、スイスの日曜紙「SonntagsBlick」が、スイスの情報機関が傍受した、ある極秘ファックスの内容を掲載。これがCIAの秘密収容所がルーマニアにある「証拠」だ、としている。中身は、エジプト外相がロンドのエジプト大使館に、昨年11月送ったもので、海外から移送された「アルカイダ容疑者を尋問するためにCIAが運営している」、在ルーマニアの収容所に関して触れている。そして、同様の収容所がブルガリア、コソボ、マケドニア、ウクライナにある、としていた。

 この極秘ファックスに関し、スイス政府は情報局が取得したものであることを認めたようだが、日曜紙の報道の翌日となる9日、スイスの国防相が、極秘情報が何故日曜紙に漏れたのかに関して調査を開始することを指示した、という。APやドイツの通信社が報じた内容を、米国人ジャーナリストらが中心になって運営しているCommittee to Protect Jouranlsitsが、まとめてウエブ上に掲載した。http://www.cpj.org/news/2006/europe/switzer10jan06na.html

 これによると、スイス国防相の広報官の話として、国防相は極秘情報が公開された経過に関して調査を指示し、政府がSonntagsBlick紙を訴える可能性もある、としている。

 軍事上の機密を出版したとする疑いで、新聞のGrenacher編集長と記事を書いた二人のジャーナリストを調査中だ。

 在ワシントンのスイス大使館広報官によると、もしスイスの軍事法をおかしたということで有罪となれば、5年間の禁固刑もありうるという。

 編集長は声明文を発表し、ファックス内容の出版の責任は自分にあるとして、国家の安全保障の観点よりも公開することで大衆の利にかなうことを重要視したと述べた。
by polimediauk | 2006-01-11 20:37 | 欧州のメディア

NewsXchange 会議開催へ

 世界のテレビ業界から人が集まり、友好をかねながらも、放送業界の将来に関して意見交換する会議、News Xchange、が、10日と11日、オランダのアムステルダムで開催される。

 今回の出席者のリストを見ていると、場所柄か、欧州メディアとアラブ・中東地域のメディア(アルジャジーラも含め)が多いようだ。日本からも、NHKの方がどなたか、いらしているようだ。

 11日には、イスラムをどう報道するか?というタイトルの議論があり、これを最も楽しみにしている。

 先ほど起きた、ヨルダンでのテロの話で、明日はもちきりになりそうだ。

 http://www.newsxchange.org/agenda.html  
by polimediauk | 2005-11-10 07:11 | 欧州のメディア

イスラム教徒の大国を仲間に入れるか、どうか

 EUとトルコといっても、日本からするとそれほど身近に感じられない話題かもしれないが、イスラム教徒ではない人々(多くの欧州に住む人々や日本人の多くも含め)がイスラム教徒の人たちとどう付き合ってゆくべきなのか、を考えるとき、様々な示唆に富む。世俗分離はしているとはいえ、国民の90%以上がイスラム教徒であるトルコを、キリスト教世界と同一視される欧州が、どう扱うのか?異なる価値観や文化に対して、寛容であるかのようなイメージを与えてきた欧州だが、こと「イスラム教」となると、また違った反応を示すようだ。すると自分自身にも、思わず問わざるを得なくなる。果たして、自分は、どこまで異質なものを受け入れられるのか?トルコ受け入れに難儀するEUを笑うのは簡単だが、果たして、どうなのか?また、国土の大部分がアジアにあるトルコが入った欧州は、果たして、欧州と呼べるのか?

 BBCを中心とした英メディア報道によると、http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4305500.stm
緊急外相理事会のためにルクセンブルグに集まったEU外相らは、4日、トルコがEUに加盟するための交渉手続きや条件を示した枠組み文書の内容について合意に達したという(日本時間の夜中の零時ごろ)。オーストリアは、EUが正規の加盟国になるための交渉ではなく、「特権的パートナーシップ国」(準加盟国)になるための交渉にしてはどうか、と主張していた。しかし、白熱した議論の後、オーストリアはこの案を取り下げたようだ。

 加盟交渉協議に関する枠組み書類はトルコ政府に届けられ、トルコ側がこれを受け入れるかどうかを待っているところだ、という。

 オーストリアの言うような「特別なパートナーシップのある国」は、正式加盟国よりは一段低いステータスとなる。トルコ側は、あくまでも正式加盟のための交渉開始だと主張してきた。

 トルコ政府が4日の枠組み書を受諾すれば、加盟交渉が来週から本格的に始まることになる。時事通信と共同通信によると、EUは、昨年12月にトルコとの交渉開始で合意したが、トルコは昨年5月にEU加盟を果たしたキプロスの承認を拒否し続ける姿勢を示し、これにEU諸国の一部が反発。EUの欧州議会がトルコにオスマン帝国末期の1915年から17年にかけて起きたアルメニア人虐殺の事実を認めるべきだとする決議を採択していた

 オーストリアは準備されていた加盟交渉開始の枠組み書類の書きかえを求めてきた。オーストリアが強硬姿勢をとっているのは、国民がEUの拡大に関して懐疑的であること、トルコの加盟に関して、大衆紙が否定的な記事を出して続けてきたこと、現トルコ政府が孤立していること、外国人嫌いとイスラム教徒嫌いが国内に存在していること、それにオスマン帝国に支配された過去を持つからだ。

 当初の加盟交渉の枠組み書類では、協議の最終的目的はトルコが正式加盟国になることだ、としていた。オーストリアはこれに反対し、「優先的パートナーシップ」の地位を提唱していた。

 オーストリアだけでなく、欧州のほかの国でも、トルコのEU加盟に対する深い反対の声が国民の中に存在している。理由は人口7000万を超える大きな国家であること、貧困度の高さ、国民の大多数がイスラム教徒であることなど。

 もし加盟交渉が開始されると、加盟までには10年ほどかかると見られている。

 今年5月から6月に発表された、ユーロバロメター調査によると、トルコのEU加盟に賛成する国民の割合は、多い順からハンガリー、英国、ポルトガル、スペイン、EU平均、ギリシャ、ドイツ、フランス、キプロス、オーストリアとなっている。
by polimediauk | 2005-10-04 01:21 | 欧州のメディア
 ロシアのプーチン大統領と言論の自由などの関係なのだが、一度、たまたま見たNHKの夜のニュース番組で、やや物足りないものを感じたことがあった。(ベスランでのテロのニュースをトピックにしたものだった。)プーチン大統領への批判で、やや物足りないような、何か情報が欠けているような思いがしたのだった。NHKのほかの番組あるいはNHK以外の別のテレビ局では、このときたまたま目にしたニュース報道よりも、深いものが報道されている可能性はおおいにあり、たまたま私が日本にいなくて見れなかった可能性もある。

 ・・・というようなことを以前このブログで書いたとき、稲垣さんというジャーナリストの方からのコメントがあり、はっとする思いがした。

 つまり、英国では(米国でもそうかもしれない)、プーチン大統領に関しては、「人権を無視する人」「報道の自由を許さない、暴君」というイメージ、あるいは批判があり、これはしょっちゅうテレビやラジオ、新聞で報道されている。

 英国のこうした見方があたっているのかどうか、ロシア語が読めないので、本当には、自分自身は分からない。しかし、こうした批判を裏付ける報道が大量にあり、ロシアのある新聞社の編集長がいかに当局によって弾圧されたかをつづったドキュメンタリードラマなどを見ていると、控えめにいっても、「いくばくかの真実」がある、と一応判断するしかない。

 NHKのニュースを見たときに、プーチン大統領のこうした実情あるいは定説となっている批判がまったく欠けている様に感じ、もしかしたら、日本では「批判」が十分に報道されていないのではないか?と心配になった。「故意に」批判的部分を出していない、ようにもやや見えた。現地からのレポートが入ったものだったので、現地の特派員だったら、分かる(はず)、と思ったからだ。

 このNHKの報道そのものがどう、ということではないのだが、「報道されるべきことが十分に報道されていない」ようなことがあるとしたら、さびしいなあと思ったのだった。

 稲垣氏のコメントによると、、「人権を無視する人」「報道の自由を許さない、暴君」というイメージは:

 
これは、正しいイメージだと思います。実際ロシアのテレビ局は完全にプーチンに操られていて、学校占拠事件でも5分ほど事件のニュースを流しただけで、あとはバラエティとかドラマとか通常の番組を流してました。それを「ロシアのジャーナリズムの死だ」と批判したイズベスチヤ紙のシャキーロフ編集長は、その翌日、プーチンの意向でクビにされました。


また、「人権を無視する人」というのも本当です。学校占拠事件より先に、モスクワで劇場占拠事件というのがあった際も、特殊部隊が「神経ガス」をまきながら突入して犯人たちを射殺したんですが、ガスで人質の多くが人事不正に陥り、120人以上が病院で亡くなりました。しかも病院側が治療のため部隊にガスの種類を教えてくれと頼むと、「機密だから教えられない」との返事で、人質たちは見殺しにされたのです。ノーバヤ・ガゼータ紙のアンナ・ポリトコフスカヤ記者によると、この毒ガスの選定はプーチン大統領自らが行なったとのこと。(彼女の著書「プーチニズム」より)

僕も実はフリーライターをしてまして、ノーヴァヤ・ガゼータの編集長にもインタビューしたのですが、ロシアは今、ますます人権がなくなり独裁が強まっているとのことです。「テロとの戦い」を口実に州知事まで大統領が自ら指名できるようにしてしまったし…例を挙げたら枚挙に暇がありませんが…


 ーーーコメント引用終わりーーー

 私がはっとしたのは、稲垣さんのご指摘部分は、私が英メディアで見た、知った(従って、英国民の一般的知識ともなっている)プーチン大統領やロシアの状況にぴったりと符号するからだった。

 
by polimediauk | 2005-09-18 14:49 | 欧州のメディア