小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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カテゴリ:放送業界( 165 )

(新聞通信調査会が発行する「メディア展望」の筆者記事に補足しました。)

 5月29日、NHKのテレビ放送のインターネットへの常時同時配信を認める改正放送法が、参議院本会議で自民党や立憲民主党などの賛成多数で可決・成立した。

 英国では、現在までにBBCを含む主要放送局が常時同時配信を行っている。過去の番組を再視聴できる「見逃し視聴(キャッチアップ)サービス」も含めて原則無料で提供されており、インターネット視聴も可能なので、ネットに接続していれば「いつでも」「どこでも」「どの端末でも」番組コンテンツを視聴できる環境がある。

 その法的根拠やどのように使われているかについて、ニュースの消費状況を中心に紹介してみたい。

放送と通信の融合

 2003年、電気通信及び放送サービスの在り方を規定する「放送通信法」が成立し、この中で「放送通信庁(Office of Communications)」(通称「オフコム」)が規制・監督を行う組織として新設された。

 放送通信法はいわゆる「放送と通信の融合」を象徴する。BBCを例にすれば、テレビやラジオで番組を放送するばかりか、ネットではニュース情報や動画を配信し、「放送」と「通信」の両方にまたがるサービスを展開している。インターネットの普及を背景にしたメディア環境の激変を反映したのが、この放送通信法と言えよう。

 英国で放送局による番組コンテンツの同時配信が実現したのは、10年ほど前だ。

 テレビ番組視聴の際にはNHKの受信料にあたる「テレビ・ライセンス料」を支払う必要があるが、通信法の詳細を定める「通信(テレビ・ライセンシング)規制」(2004年)は、対象となる「テレビ受信機」をインターネットやそのほかの方法での「放送・同時配信を受信できる装置」と規定している。この「受信機」にはPCやタブレットなども含まれると解釈されている。

 2006年から主要放送局の1つチャンネル4が見逃し番組の視聴サービスを開始し、BBCも2007年には本格的にこのサービスを提供した。翌08年、BBCは放送と同時の番組配信を始め、放送界で同時配信が常態化していく。

 こうした市場の変化を踏まえて、2016年、先の「通信(テレビ・ライセンシング)規制」が改正され、テレビ受信機が「受信」するサービスの中に「BBCが提供するオンデマンド・サービス」が付け加えられた。オンデマンド・サービスには見逃し番組の視聴サービスも含まれる。

 BBCはオンデマンド・サービスや同時配信サービスに対し、ライセンス料の支払い者となる視聴家庭に追加の使用料の支払いを求めていない。ただし、ライセンス料を支払っていることが前提であり、テレビ受信機を持っていなくても視聴できる媒体を持っていれば、支払い義務が生じる。

 PC、スマートフォン、タブレットなどでBBCの番組を視聴する場合、画面上でライセンス料を払っているかどうかを聞かれる。また、ログインIDを作る必要がある。BBCは後者を「利用者のし好にあったサービスを提供するため」と説明している。

24時間報道の生態圏と同時配信

 さて、具体的にはニュースはどのように発信されているのか。

 3月中旬、英政界が大紛糾し、筆者が自宅のテレビ、PC,英議会前と様々な場所で取材した模様を伝えたい。

 3月12日、英国の欧州連合(EU)からの離脱日(予定は同月29日)を間近に控え、英下院の動きが大きく注目された。昨年11月にメイ首相とEU側が合意した離脱条件を決める「離脱協定案」の修正版の採決を取るため、数時間にわたり、議論が続いた。

 流れを追うため、筆者はPC上でBBCのニュースサイトからテレビ番組視聴アプリ「BBC iPlayer」を開き、ニュース専門チャンネル「BBCニュース」を見た(テレビをつけて、BBCニュースのチャンネルを見ることもできた)。画面には、前日深夜、最終交渉のためにフランス・ストラスバーグに出かけたメイ首相の疲れ切った姿があった。

 筆者は、PCがある部屋から出て台所でコーヒーを沸かす間、スマホの同じアプリで同じ番組を視聴し、議員らの発言を聞き続けた。

ライブ・ブログで情報を収集する

ガーディアン紙の政治ブログ(ウェブサイトより)
ガーディアン紙の政治ブログ(ウェブサイトより)

 テレビと同時に、BBCや大手新聞社が立ち上げる「ライブ・ブログ」にも目をやった。それぞれの記者数人が、議論の要点やほかの政治家の言動、コメンテーターの評価などを時系列に記していく。著名なブログが、ガーディアンのアンドリュー・スパロー記者による政治ブログだ。

 海外から、ツイッターで議論に「参加」する人もいる。例えば、修正案の採決直前には、EUの交渉担当官ミッシェル・バルニエ氏が英国の議員らに慎重な対応を求めるというツイートを発信。これをライブ・ブログが拾い、これにまたコメントがついていく。

議会前で人の話を聞く

 午後7時の採決になったため、議論はまだ続いていたが、筆者は夕方、議会前の広場に集まるEU離脱派、残留派の市民の声を拾うために家を出た。

 電車に乗っている間や広場で市民に声を聞く合間に、スマホでツイートをチェックし、ライブ・ブログで議論の進展を確認する。ここでも見ようと思えば、先ほどのアプリで議論の生中継を視聴できる

テレビでも視聴

 帰宅後、今度は居間にあるテレビを先ほどのBBCニュースのチャンネルに合わせ、採決結果を追うと同時に、スマホ上ではライブ・ブログでの識者のコメントを読んだ。もう一度聞きたい表現があった場合は、生番組をリモコンを使って「巻き戻し」ができる。

 これは自分だけの特別の視聴方法ではなく、例えば特定のスポーツに関心がある人は試合の実況中継や関連ツイートを熱心に追っていることだろう。

 英国メディアのジャーナリストはツイッターを頻繁に使うので、ツイッターを追うだけでもいろいろなことが分かってくる。

 大きな事件・事故があったとき、人々はテレビばかりか、ネットで情報を常時探す。

 英国では、テレビ、ラジオ、PC、タブレット、スマホなど媒体を選ばず、常時番組コンテンツに切れ目なくアクセスする生態圏が出来上がっている。

 ニュースに関しては、1990年代後半以降、「24時間ニュース・チャンネル」が存在し、「切れ目ない」報道の生態圏に向かってすでに舵が切られていたということも押さえておく必要があるだろう。

 今はそのようなチャンネルが複数あり、ネットでも視聴できる。例えば、BBCニュース・チャンネルのほかに、スカイニュース、英国発以外では、「フランス24」や「アルジャジーラ」(それぞれ複数言語版がある)など。

なぜ、同時配信が必要か

 英放送業界が同時配信をせざるを得なくなった理由として、メディア消費環境の変化がある。

 オフコムの調査「メディア・ネーションズ 2018」(3月発表)によると、英国でテレビ受信機で番組を視聴する人は、年々減っている。2018年上半期で、1日当たり平均視聴時間は3時間16分(前年同期比4・9%減)だったが、若者層(16歳から34歳)では特に低下した(12%減、1時間51分)。

 代わりに増えているのが放送局以外、例えばユーチューブやネットフリックス、アマゾンプライムなどが提供するコンテンツだ。

 つまり、視聴者がネットに移動したので、これに合わせて放送局もネットに移動した。

 ライバルはユーチューブやネットフリックス、アマゾンプライムになるので、BBCを始めとした主要放送局は、シリーズ物の番組の場合、すべての回がまとめて見られる「ボックスセット」形式での配信を始めている。

 BBCと民放最大手ITVが協力して、新たなオンデマンド視聴サービスを提供するための話し合いも進めている。

 国内の放送局にとって、潤沢な資金をかけて作品を制作・配信するネットフリックスやアマゾンに「勝つ」ことが重要となっている。

負の影響は?

 放送局による同時配信が新聞メディアに悪影響を与えるのかどうかについては、十分な調査が行われていないが、ニュース報道におけるBBCの地方紙・地方テレビへの圧迫問題については、これまでにも指摘されてきた。

 ジャーナリズム業界の今後を考える調査報告書「ケアンクロス・レビュー」(2月12日発表)によると、ネットで無料のニュースがあふれ、人々のメディア消費の動向が大きく変わる中、新聞、放送、ニュースサイトなどで働くジャーナリストの数が減っている。2007年の2万3000人から17年の1万7000人という下落傾向に、歯止めがからないという。

 全国紙の発行部数は1日平均1150万部(2008年)から580万部(18年)に転落し、地方紙も6340万部から3140万部と半分以下となった。

 英国民がニュースにアクセスする媒体として最も大きな位置を占めるのはテレビで、最も頻繁にアクセスするニュースサイトはダントツでBBCのニュースサイトだ。

 「レビュー」は、オフコムに対し、BBCがほかのニュースメディアのビジネスを阻害していないかどうかの調査を開始するよう、提案している。


by polimediauk | 2019-06-13 16:49 | 放送業界

(新聞通信調査会が発行する「メディア展望」2月号の筆者記事に補足しました。)

 誰が高齢者のテレビ視聴料を負担するべきなのか?英国で、そんな議論がひっそりと続いている。

 通常であれば大きな話題になるはずだが、「英国の欧州連合(EU)からの離脱」=「ブレグジット」=についての報道が連日トップニュースとなっており、影に隠れた格好だ。

 

 英国では、視聴家庭が「テレビ・ライセンス料」(NHKの受信料に相当)を払い、これでBBC(英国放送協会)の国内の放送業務を賄う伝統が続いてきた。しかし、2000年からは、75歳以上の高齢者がいる家庭はライセンス料の支払いを全額免除される制度ができた。時の労働党政権が、年金生活者の貧困を緩和するための施策として導入したものだ。

 

 免除されない場合、年間のライセンス料は現行ではカラーテレビで150.50ポンド(約2万円)だ。

 

 過去18年にわたり、高齢者の支払い免除分は政府が税金で負担してきたが、2020年6月以降、BBCが責任を持つことになった。

 今後の高齢者層の支払い免除について、BBCは昨年11月から今年2月中旬まで意見募集を行った。全額免除を踏襲した場合、BBCにとっては大きな負担となるため、なぜそれが現実的ではないかを明らかにして何とか「損害」を最小限に抑えたいという意図が見え隠れする。

 意見募集のためにBBCが作成した文書を参考にしながら、状況を見てみたい。

なぜBBCが高齢者の救済役に?

 その前に、なぜ高齢者のラインセンス料支払い免除がBBCの責任になったのかを説明したい。

 労働党政権が開始した高齢者特別措置は、2010年に発足した保守党・自由民主党連立政権でも続行となった。しかし、15年、保守党単独政権はBBCの経営陣トップと会合を持ち、政府負担を解消すること、代わりにBBCが負担することで合意した。

 BBCトップがこうした条件を呑んだのは、ライセンス料の値上げ凍結の解除をしてもらい、BBCの存立を規定する「王立憲章」更新のための交渉を有利に進める狙いがあった。

 値上げ凍結は、2007年から08年にかけての世界金融危機の発生がきっかけだ。政府は緊縮財政を実行し、凍結を実施させた(2010年から17年)。かつてはインフレ率と連動し、これに上乗せした値上げ率が採用されてきたため、大きな変化となった。

 同時に、政府はBBCに対し様々な業務を肩代わりさせた。例えば放送業界のアナログからデジタルへの移行や人口の少ない地域でのブロードバンドの展開支援など英国のデジタル化進展費用を負担させた。

 こうした要素が背景となって、BBCの計算によれば、過去10年間で実質的にはライセンス料収入は20%減少したも同然となった。ちなみにBBCは国営ではなく「公共サービス放送」だが、ライセンス料の値上げ率は政府との合意をベースにして国会が承認する形を取る。

 2015年時点、ほぼ10年毎に更新される王立憲章の更新が2017年に迫り、識者の間に「ライセンス料制度は廃止されるべき」という声が再燃していた。この制度が廃止されて代わりに視聴したい人が視聴料を払う制度になれば、BBCの収入は大きく減少するといわれている。経営陣としては、確実な将来の計画を立てるためにライセンス料制度を死守し、凍結を何としても解除する必要があった。

 そこで、オズボーン財務相(当時)とBBCのホール会長は更新のための本格的な交渉が始まる前に、「ライセンス料制度は維持される」、「値上げはインフレ率と連動する」などを政府側がBBCに約束する代わりに、政府が2020年6月以降、高齢者のライセンス料支払い免除分を負担せず、免除分の取り扱いはBBCの責任とすることで合意した。

 2017年、通信法(2003年)への補足事項の追加によって、BBCが高齢者(ここでは65歳以上)に対し支払い免除制度を設けるかどうか、設置するとすればどのようにするかについて決定する責任を持つことが立法化された。

 高齢者の支払い免除分はすでにBBCがその一部を負担しており、2020年夏以降、税金による負担が完全停止することになる。現行では446万戸が対象となっている。

高齢化社会の到来と強力なライバルの出現

 BBCが昨年11月20日に発表した、意見募集用の文書「年齢に関係づけたテレビ・ライセンス料の政策」、調査会社「フロンティア・エコノミックス」が作成した2つのリポート「ディスカッション・ペーパー」(同年10月)と「75歳以上の資金繰りの見直し」(同年11月)によると、支払い免除が導入された2000年当時と現在では、状況が様変わりしている。

 例えば年金生活者を主とする高齢者家庭の所得の低さが免除導入の理由となったが、仕事を持つ家庭の収入の伸びよりも、高齢者家庭の所得の伸び率が大きくなっていることが調査で分かった。

 また、免除分の金額は2001-02年度では3億6500万ポンド(約500億円)だったが、2021-22年度では倍以上の7億4500万ポンドに上昇。後者の金額はBBCが2017-18年度に番組制作や関連サービスに費やした総額の18%に当たる。2000年、75歳以上の高齢者は総人口の7%だったが、16年には8%に上昇した。2026年には10%を占めると予想され、2030年では免除額が10億ポンドに上ると推測されている。

 社会の高齢化がこれからも続くことは確かで、国の福祉政策の一端を担うことになったBBCには、免除分の負担が際限なく増えることへの危機感がある。

 将来のメディア環境を展望するとき、BBCは強力なライバルの出現で苦しい展開を強いられているという。例えば、アップル、アマゾン、フェイスブック、BT、ネットフリックスなどが動画コンテンツを英国内の視聴者向けに提供するようになっており、「巨大なグローバル企業が放送業界全体の制作費用を押し上げている」と指摘する。高品質のドラマや不偏不党のニュース、オリジナルの番組を制作することが義務化されているBBCにとって、厳しい時代となっている。

 過去7年間で若者層がBBCのテレビ番組を視聴した時間は週に5時間から3時間に減少している。逆に、ネットフリックスに代表されるオンデマンド動画の同年齢層の視聴時間は、この4年間で週に3時間から7時間に増えた。

 こうしたメディア環境の激変を鑑み、BBCは(1)高品質で、英国を反映した番組作り、(2)オンデマンド・サービスの「iPlayer」の対象番組について、現行では放送から30日以内だが、これを30日以上にする、(3)子供向け番組、教育番組の充実化、(4)信頼できるニュース番組の制作、(5)ロンドン以外の英国の地域の番組の拡充などによって乗り切る予定だ。しかし、これらの実現には十分な収入があることが前提となる。

 意見募集のためのBBCの最初の質問は4択になった。(1)現行の高齢者の支払い免除制度を維持する、(2)年齢層による支払い免除制度を停止する、(3)高齢者の支払い免除制度は維持するが、中身を改変する、(4)分からない。

 もし(3)の「改変する」を選択した場合、(1)高齢者は半額を払う、(2)80歳以上の高齢者のみを支払い免除とする、(3)低収入の高齢者のみを支払い免除とする、の中でいずれかを選ぶ。65歳上に適用するべきかどうか、そして免除制度についての一般的な意見も提出できるようになっている。

 BBCは 6月までに最終的な判断を下す予定だ。「すべての年齢層の国民にとって、最善で最も公正な解決方法」を見つけることを目指しているという。

 BBCは「高齢者層にとってテレビが重要な友人のような役割を持っていること」を認識しているという(フィナンシャル・タイムズ紙、2018年11月20日付)。しかし現行制度をそのまま維持すれば、「BBCは大きく変わらざるを得ない」と指摘する。


by polimediauk | 2019-03-20 18:13 | 放送業界

 英国の公共(サービス)放送大手「BBC」。世界中で広くその名が知られている放送局だが、「国営放送」として紹介される事例をネット上でよく見かける。

 改めて国営放送とは何かというと、例えば「ブリタニカ国際大百科事典」の定義によれば、

 国家自身が管理運営する放送。国家予算や国庫交付金などを主たる財源とし,国家機関の一部局として,あるいは国家の強い管理下で放送事業を行い,営利を直接の目的としない。中国などの社会主義国のほか,開発途上国の放送機関の多くが国営放送である。

 では、公共放送とは何か?

 「百科事典マイペディア」の定義によれば、

 放送事業体が営利を目的とせず,聴視者からの聴視料などをおもな財源として,公共の福祉と発展を事業目的として行う放送を商業放送と対比していう。日本のNHK,英国のイギリス放送協会(BBC)などはその代表的なもの。

 英国の主要放送局はBBC,ITV、チャンネル4、チャンネル5、そして有料放送のトップ、スカイなどがあるが、いずれも国営ではない。

 細かく言えば、最初の4つの主要放送局はすべてが「公共サービス放送」(Public Service Broadcasting=PSB)というカテゴリーに入り、放送業を公共サービスの1つとしてとらえる伝統が続いている。

 ちなみに、BBC以外の放送局ITV,チャンネル4、チャンネル5はその運営を広告収入によってまかなっている。運営資金調達方法からいえば、この3局は「商業放送」と言ってよい。しかし、チェンネル4は政府が所有しており、通常の「公共放送か民放か」の2者択一では分類できない形になっている。

 公共放送と商業放送の違いについて、「世界大百科事典」を見てみると、 

 企業として利潤を得ることを目的とせず,もっぱら広く一般の人々の福祉のために行われる放送。放送事業体の類型の一つで,商業放送との対比で設定されるもの。主として,(1)事業目的 公共放送は一般の福祉向上,商業放送は利潤の獲得,(2)運営財源 公共放送は主として受信料,それに対して商業放送は広告収入,(3)番組編成基準 公共放送は全国民的ニーズ,これに対して商業放送は市場性,以上の3点で公共放送は商業放送との対比において特徴づけられる。

なぜ、区別が大事なのか

 筆者がこの原稿を書こうと思いたった1つの理由は、「国営放送のBBC」,「BBCは国営放送」という表現を日本語のネット空間でよく見かけるからだ。

 当初は、「BBCが国営放送ではないことを知ったうえで、ジョークや皮肉としてそう書いているのだろう」と思ったものだ。「まるで国営放送のように、政府寄りの報道をしている」など、一種の批判として書いているのだろう、と。

 しかし、この頃はジョークや皮肉、批判的表現ではなく、これを事実として認識している人が次第に増えているのではないか、と思うようになった。

 というのも、メディア関係者でさえ、「BBCは国営放送」という前提で話したり・書いたり、あるいはそのような前提での論考や批判を「うっかり(?)」と事実として受け止めている例をたまに見かけるようになったからだ。

 しかし、「BBCは国営放送」とするのは、事実誤認である。もちろん、「国営放送のようだ」と表現するのは大いにありだが。

 BBCを国営放送として認識してしまうと、その存在意義が全く無視されてしまうことになる。誰がその運営費を払い、何を重要視しているのかについて、全く違う理解をしてしまうことになる。

 国営放送では何をどのように放送するかを決めるのは時の政府になるし(政府を「国民の代表」と解釈することもできるが)、公共放送では(受信料を払う)みんな(=国民)が決める。いわゆる「お上」が決めるのか、社会を構成するみんなが決めるのか、という話である。そして、BBCは後者である。

BBCの成り立ち

 英国は、なぜ放送業を公共サービスの1つとしてとらえるようになったのだろうか?

 それは放送業の始まりに由来している。英国の放送業の開始は、BBCの誕生と同義語だ。

 拙著「英国メディア史」に書いた個所を参考にしながら、説明してみたい。

 19世紀後半。世界中の科学者が電波を利用した無線通信の実用の可能性を探っていた。

 1896年、イタリア人の発明家・無線研究家のグリエルモ・マルコーニも自己流の実験に没頭し、投資家を求めて英国に渡った。翌年、英郵政省向けの実演が評価されたマルコーニは無線電信機の英国での特許を取得する。

 マルコーニ無線会社を立ち上げ、1899年、英仏ドーバー海峡横断の無線通信に成功。1901年、大西洋横断の無線通信を成就させ、09年にはノーベル物理学賞を受賞するまでになった。

 第1次大戦(1914-18年)を経て、ロンドン郊外チェルムスフォードにあったマルコーニの通信施設では、実験的なラジオ放送が始まっていた。1920年、「新聞王」ノースクリフ卿が当時の著名なオペラ歌手ネリー・メルバによるラジオ・コンサートを実施させた。

 大好評となったメルバの歌声を聞き、「ワイヤレス」(無線、あるいは無線機。当時はラジオの代名詞)メーカーは大きな市場が生まれることを予感した。そこで郵政省に対し、放送局を設置するための申請書を送るようになった。政府は、周波数の混乱を防ぐため、メーカー側が一つの組織にまとまることを希望した。

 1922年、200以上の無線機メーカーがまとまって民間企業「BBC](British Broadcasting Company)が生まれた。

 BBCは、政府からラジオの販売と放送の事実上の独占権を与えられた。民間企業としてのBBCの収入の大部分はラジオの販売からの売り上げと聞き手が郵政省に払う「受信免許料」(ライセンス料)であった。

「公共」の概念が入るまで

 放送を公共サービスとしてとらえ、そのサービスを提供する組織も公的存在であるべきという考えは、アマチュアの無線愛好家たちや政府のレベルで次第に支持されるようになっていく。

 背景には、英国の政治家や知識人の間に広がっていた「資本主義は悪くないが、市場競争に任せてばかりでは富の配分はうまく行かない」とする考え方があった。郵便体制、漁業、水道、電気が公共体として運営されており、放送も射程に入った。

 政府高官らによる米国への視察も影響を及ぼした。世界に先駆けて放送業が発達した米国では、数千にも上る放送局が乱立していた。英政府は米国が「混とん状態にある」と判断し、中央からの規制体制を構築して、大小の無線機メーカーを統合させて1つの放送体を形成させる道を選んだのである。

 こうして、1927年1月、公共放送としてのBBCが生まれた。

国営化への抵抗

 公共組織に変わる直前の1926年5月、英国でゼネストが発生した。

 公共交通機関がほぼ停止し、新聞は休刊かページを大幅に縮小。唯一の最新ニュースを得られる媒体として、BBC(当時はラジオ)を誰もが聞きたがった。BBCの放送内容を書きとったものがあちこちに貼りだされ、電気店や新聞社など、人々はラジオがあるところに集まって放送を聞いた。

 政府は、ウィンストン・チャーチル財務相(のちに首相となる)に御用新聞「ブリティッシュ・ガゼット」を制作させている。

 チャーチルはBBCに対し、ガゼットの報道を読み上げるよう依頼したが、BBC側に断られた。国家の緊急時には政府はBBCを国の管理下に置くことができたが、今回どうするかについて内閣では意見が割れた。チャーチルはBBCの臨時の国営化を主張する一人だった。

 当時の経営陣のトップ、リース卿はボールドウィン首相との連絡を密にしながらも、ニュースの扱いが公平で、当事者の両方の主張を紹介するよう尽力した。

 BBCは「本当に何が起きているかを知らせてくれる」報道機関として、国民や政治家らから頼りにされて、国営化を免れた。

 現在も、公益を目的として報道する伝統が続いている。BBCばかりではなく、ほかの英国のPSB放送局にもこの精神が根付いている。

情報があふれる時代、公共放送の意義をホールBBC会長が力説

 11月14日と15日、スコットランド・エディンバラで、メディア会議「NewsXchange」(欧州放送連合=EBU=主催)が開催された。EBUは欧州を中心とした56か国の公共放送局が加盟する組織で、毎年、このタイトルでメディア会議を開いている。筆者は2005年頃から、この会議を何回か取材してきた。

 情報があふれるこの時代、公共放送の意義は何なのか?

 14日、BBCのトニー・ホール会長の基調講演を聞いてみた。

 印象深かったのが、「視聴者を中心に置く」という立ち位置だ。「視聴者に対して、責任を持つこと」。

 現在、「自分の意見に同意しなかったら、あなたは自分の敵だ」とみなす風潮が強い。しかし、公共(サービス)放送の役目は片方だけの意見を出すのではなく、「偏らないこと。BBCが理解するところの世界のありようをそのまま出すこと」。

 BBCの課題は「視聴者に仕える・役立つための最善の方法は何か」を考えることだという。

 「トップダウンで、視聴者に向かって放送コンテンツを流す、というのではなくて、視聴者とともにある放送局であるべき」、とホール会長は言う。

 視聴者が「自分たちで物事を決定する」ことを支援する存在としてのBBCである、と。

 そのためにBBCが具体的に手掛けるのは、「フェイクニュース(正しくは「ミスインフォメーション」と言い換えた)の撃退」、「説明する」、「リアリティ・チェックというコーナーで、何が事実なのかを明らかにする」、「専門性を持ったジャーナリズム」。

 何度も会長が繰り返したのが、BBCは「視聴者のために」存在していること。ジャーナリズムの役目は「人々に力をつけさせる(エンパワーする)こと」、「人々が自分たちで物事を決定することを可能にすること」。

 リップサービスだと思うだろうか?

 筆者はそうは思わなかった。この理想が十分に現実化しているかどうかの評価は別にしても、BBCの国内放送の主たる運営費は視聴家庭が払うライセンス料によるので、このような表現は当然であろうし、これが公共(サービス)放送とは何かの意味なのだと思う。

 

 


by polimediauk | 2018-12-06 22:58 | 放送業界

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 (BBCニュースのサイトより)

 BBCが、6月29日、男女の報酬格差に抗議して辞任した元中国編集長の女性キャリー・グレイシー氏に対し、不当に低い報酬の支払いを行っていたことを謝罪した。数年にわたる不足分を支払うという。グレイシー氏は全額を慈善団体「フォーセット・ソサエティ」に寄付する。

 グレイシー氏は今年1月、抗議の辞任をした。その後はロンドンで勤務しながらBBC経営陣との交渉を続けてきたが、今回、両者は和解に至ったことを発表した。

 グレイシー氏は同日、BBCの建物の前で、報酬格差問題を「解決できたことを喜んでいる」と述べた。「私にとって、非常に重要な日。BBCを愛している。過去30年以上、BBCは私の仕事上の家族だった。だからこそ、最高のBBCであってほしい。時として、家族は互いに大声を出し合うこともある。それが収まったら、いつもほっとする」。

 不足分の報酬を全額寄付するのは、交渉がお金のためではなく(男女平等であるべきという)「原則のためだったから」。寄付金は女性ジャーナリストを支援するために使われる予定。

 グレイシー氏は今後半年間の無給休暇を取り、中国や性の平等について本を書いたり、講演に従事したりする。

男性との格差に呆然

 グレイシー氏が抗議の辞任をしたのは、BBCにいる4人の国際版編集長(男性2人、女性2人)の中で、男性陣が女性陣よりも「50%以上高額の」報酬を得ていたことに気づいたためだった。

 同氏が中国編集長に任命されたとき、BBCは北米編集長(男性)と同程度の金額の報酬となることを約束した。これを前提に、グレイシー氏は赴任した。

 ところが、昨年7月、BBCが15万ポンド(約2100万円)以上の高額報酬者のリストを発表した時、自分と同じく女性の欧州編集長の名前は入っていなかったのに、男性2人の国際版編集長の名前は入っていた。当時の自分の報酬(年間13万5000ポンド)よりもはるかに大きな額だった。

 上司と交渉を開始したグレイシー氏に対し、BBCは4万5000ポンドの増額を提示したが、それでも男性陣との報酬に大きな差があったため、グレイシー氏はこれを拒否した。

 今年1月上旬、グレイシー氏は男女の報酬差に抗議するため、中国編集長職を辞任したと自身のブログで発表した。

 同月26日、北米編集長ジョン・ソーペル氏も含め、6人の男性高額報酬者が減額に合意した。

 31日、下院の委員会が男女の報酬格差問題についての公聴会を開いた。

 証言者となったグレイシー氏は、ここで過去の屈辱的な体験を披露する。自分の報酬が同等の仕事をする男性と比較してはるかに低い理由について、上司はグレイシー氏に対し「あなたは開発途中だから」と言ったという。30年以上BBCに勤務し、中国にかかわる報道を統轄するグレイシー氏を「開発途中」というのは、侮辱にほかならなかった。

 性による格差に抗議して職を辞任したグレイシー氏。しかし、格差に不満を持つのは彼女ばかりではない。

 BBCラジオ(「ラジオ4」)の朝のニュース解説番組「トゥデー」で司会者の一人だったセイラ・モンタギュー氏も、同番組の男性司会者の報酬がはるかに高いことに大きな衝撃を受けた。

 現在は「トゥデー」を辞め、午後のニュース番組「ワールド・アット・ワン」で司会役として働きながら、交渉を行っている。

 グレイシー氏からの寄付額は、性別による賃金格差に悩む女性を対象に支援を提供するプログラムに使われ、年内にも稼働予定だ。

 BBCのメディア編集長は「BBCとしては、これで報酬格差問題はいったん終わったと線を引きたいだろう」が、今後、同様に男性と同等の報酬を求める女性が続くことが予想され、これをどうするかが課題となりそうだという(BBCニュース、6月29日付)。

 ちなみに、英国家統計局(ONS)によると、英国全体の男女の賃金格差は昨年時点で18・4%(女性の賃金が男性の賃金よりも18・4%低い)。BBCは、内部調査でその差は9~10%としている。

 経済協力開発機構(OECD)の調べでは、男女の賃金格差が最も大きな国は韓国(約37%、2015年時点)で、これに日本(約26%)が続く。


by polimediauk | 2018-07-12 20:45 | 放送業界

ガーディアン紙(1月15日付)とサン紙(1月19日付)

 (日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」の「世界メディア事情」3月号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

 英リベラル系高級紙「ガーディアン」とその日曜版にあたる「オブザーバー」が今年1月、経費削減のため、縦に細長いベルリナー判から小型タブロイド判に移行した。字体を含めて紙面及びウェブサイトのデザインも刷新した。

 日本同様、英国の新聞も紙版の発行部数が長期にわたり減少傾向にあるが、小型化、デザイン刷新は果たして部数増加に貢献するのだろうか。

 小型化の背景や英メディア界の評価を紹介してみたい。

印刷費用を削減するためタブロイド化

 両紙を発行するガーディアン・ニュース&メディア社(GNM)は、来年4月までに財政を健全化させる3か年計画を実行している。今回のタブロイド化はその一環だ。

 2005年から導入されたベルリナー判での発行には専用の印刷機が必要だったが、タブロイド判であれば他の新聞社の既存の印刷機を使うことができる。

 そこで、全国紙「デイリー・ミラー」や地方紙など約260の新聞を発行するトリニティー・ミラー社がガーディアン(1月15日付から)とオブザーバー(同月21日付から)を印刷・発行するようになった。

 

 小型タブロイド化で「数百万ポンドを節約でき、ガーディアンの長期的将来を確固としたものにする」(プレスリリース)という。

経営状態は?

 ガーディアンとオブザーバーの経営状態を見てみよう。

 昨年4月決算によると、GNMを中核ビジネスとするガーディアン・メディア・グループ(GMG)の収入は前年比2・4%増の2億1450万ポンド(約335億円)、電子版からの収入は9410万ポンド(前年比14・9%増)、営業損失は3800万ポンド(同33%減)となった。

 電子版の収入増の要因は、購読料とは別に設定される会員費(購読者と合わせると、決算時で約40万人)、モバイル版アプリからの収入、読者からの寄付金など。損失の削減は従業員を1860人から1563人と大幅に減少し、費用を削減したことによる。

 

 3か年計画の柱は「新たな収入源の確保」「オーディエンスとより深い関係を作る」「経費を20%削減する」の3つ。GMGのデービッド・ペムセルCEOによると、今年4月までに営業損失を3800万ポンドから2500万ポンドに減少させ、翌年までに解消する見込みだ。

英メディア界の反応は

 ガーディアンはどのように変わったのか?

 小型化以外には、題字を変え、見出しには新規の字体「ガーディアン・ヘッドライン」を導入。「真剣で、信頼できるジャーナリズム」を提供する「質の高い、グローバルなニュース・ブランド」にふさわしい紙面づくりを目指した。

 英メディア界の評価を見てみよう。

 大衆紙サンは「タブロイド判ガーディアンより安い」という表現を1面の題字の上に記載した(1月16日付)。社説では「(ガーディアンは)他では読めない、大きなスクープを載せたらどうか。(高級紙は)そんなことは聞いたこともないだろうが、そうすれば1部か2部でも売れるだろう」と皮肉たっぷりだ。

 左派系高級紙「インディペンデント」の元編集長で現在はBBCのメディア記者アモル・ラジャン氏は、全体的に「魅力的」なデザインであると評価した。

 しかし、1面の題字を2段組にしたことで「最も弱い面」になった、と指摘もした(BBCニュース、1月16日付)。一段組だった「The Guardian」という題字が「The」が上段に、「Guardian」がその下に来る形となったからだ。これによって紙面の縦の間隔が狭くなり、保守系高級紙で同じサイズのタイムズ紙の1面と比べて中面に何があるかを示す情報も少ないという。

 新しい字体と、見開き両面を使って鮮烈な写真を掲載する「アイウイットネス(目撃)」、長文記事が冊子として組み込まれた「ジャーナル」、スポーツのドラマを再現する写真や記事の配置については称賛した。

 紙面刷新の目的が「コスト削減」、「編集長が自分はこれをやったということを示すため」、「デジタル化が進む中、印刷媒体の意義を読者に認めてもらえるかどうか」だったとすれば、もし最初の目的を果たし、黒字化に成功すれば、ガーディアン編集長キャサリン・バイナーとGMGのペムセルCEOは「歴史に名を残すだろう」(ラジャン氏)。

 筆者は新装初日の1月15日にガーディアンを入手し、大きな期待を持って紙面を開いた。全体としては、タイムズの紙面によく似ている印象を持った。

 ガーディアン(1月15日付)とサン(1月19日付)の1面を、この記事の冒頭に入れてみたが、直ぐに目が引き付けられたのはサンの方だ。ウィリアム王子の新しい髪型が180ポンドの高額であったことをユーモアを交えて報道している。

 一方、ガーディアンの方は、内部告発サイト「ウィキリークス」に米軍の機密情報を流したチェルシー・マニング氏の画像を載せている。

 マニング氏は長期の受刑を課せられていたが、昨年1月に恩赦を与えられ、5月からは一般市民の一人として生活している。 

 今回、サンの1面のようなパンチ力が、ガーディアンにはないように感じた。ただし、大衆紙のように「強く叫ぶ」スタイルを取らないのが、ガーディアンやタイムズなどの高級紙の特徴ではあるのだが。

紙は下落傾向、電子版はトップクラス

 英ABCの調査によれば、昨年12月時点でガーディアンの紙の発行部数は約15万部(前年比5・88%減、前月比3・32%増)、オブザーバーは約17万5000部(前年比3・7%増、前月比0.27%減)。

 一方、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのサイトにある)の月間ユニークブラウザーは1億4000万を超え、英国ではトップクラスだ。寄付金、会員費、購読料など何らかの形で資金を提供する人は、年末時点で80万人を超えた。

 電子版で記事を読む人が圧倒的に多く、購読料とは別に会費あるいは寄附金を払う人も相当数いることから、両紙の将来はデジタルにあると見るのが妥当だろう。

 紙の新聞の印刷・発送を他の新聞社に委ねて身軽になったGMG社が、2016年3月に完全電子化したインディペンデントに続く決断をする、つまりガーディアンとオブザーバーを完全電子化する日はそれほど遠くないのではないか。

 


by polimediauk | 2018-04-06 16:55 | 放送業界
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(BBCの年次報告書を掲載するウェブサイト)

 「新聞協会報」(2月14日号)に掲載された筆者コラム「英国メディア展望」に補足しました。

英BBCが新体制に

 英国放送協会(BBC)が4月から、新たな「王立憲章」(ロイヤル・チャーター)の下で活動を始める。BBCはその存立と業務を規定する王立憲章と、BBCと担当大臣との間で交わされる「合意書」(王立憲章で規定された目的に沿って具体的な内容、サービスを詳細に記す)によって運営されている。後者は随時更新されるのに対し、王立憲章はほぼ10年毎に更新されてきた。

 新体制の特徴を見てみたい。

有料契約制、導入せず

 最新の年次報告書(2015-16年)によると、従業員数は1万8920人。英国の成人の96%がBBCのテレビ、ラジオ、オンラインのコンテンツのいずれかに毎週接している。

 主な収入は視聴家庭から徴収するテレビ・ライセンス料(NHKの受信料に相当、以下「受信料」)で、37億4280万ポンド(約5234億円)。これで国内の活動をまかなう。このほかに商業活動(出版、販売など)や交付金などの収入が10億8420万ポンド。合計で48億2700万ポンドに上る。民放最大手ITVの年間収入の約2倍だ。

 近年は、王立憲章更新に向けて活動範囲をできる限り拡大させたいBBCと巨大化への動きを阻止しようとする政治家やライバルメディアとの間で、活発な議論が繰り広げられた。

 争点の一つは受信料制度を存続するかどうかだった。全視聴家庭から徴収する受信料制度を廃止し、視聴したい人が有料契約(サブスクリプション)を結ぶ制度の導入をBBCは迫られた。もし有料契約制度になれば、BBCの収入は大きく減少すると見られている。

 しかし、政府との正式な交渉が始まる前に、BBCは政府と「手打ち」をする。75歳以上の視聴者がいる家庭は受信料の支払いが免除されるが、これまではこの分を政府が税金で負担していた。BBCは免除分を2020年度から全額負担することと引き換えに受信料制度の存続を政府との間で合意した。「正当な手続きを踏まなかった」と大きく批判されたが、いかにBBCにとって受信料維持が重要だったかを物語る。

 今回から王立憲章の有効期間が通常の10年ではなく11年となったことも新しい。英国では5年ごとに下院選挙が行われているが、王立憲章継続の議論が政治に左右されることを防ぐためだ。これに準じて受信料制度も11年間は変更しない。これまで凍結状態だった受信料は2021年度まではインフレ率とともに上がるため、経営陣にとっては朗報だ。

 ただし、動画をネットで視聴する人が増え、オンデマンドの動画サービスで有料契約制を採る米ネットフリックスが大人気だ。BBCのライセンス料制度は未来永劫には続かないだろう。

 大きな動きとしては、NHKの経営委員会にあたる「BBCトラスト」の廃止がある。トラストは新たなサービス導入の是非、経営陣のパフォーマンス、編集上の問題の最終処理に助言を行ってきた。人気テレビ司会者(故人)の性的虐待を追及する番組を取りやめたこと、関連調査報道番組での誤報、巨額を投じたデジタルプロジェクトの失敗が廃止決定につながった。

理事会に最終責任
 
 新たに発足するのが「BBC理事会」で、BBCの戦略、活動、番組制作に最終的な責任を持つ。14人体制で、理事長はイングランド中央銀行のクレメンティ元副総裁だ。4月3日から稼働予定で、クレメンティ氏は「特定の政党に所属する人物はメンバーに入れない」という。

 BBCトラストが担当してきた規制・監督もBBCの外に出る。これまでは、BBC以外の放送メディアは放送通信庁「オフコム」の規制・監督下にあった。今後はBBCもオフコムの管理下に入る。公益目的での番組制作・放送というBBCのミッションから逸脱するようなことがあれば、オフコムは制裁を科す権限を持つ。BBCには外からの風が大きく吹くことになりそうだ。

 BBCまた、4月以降、国際放送「BBCワールドサービス」で、朝鮮語を含む11言語による放送を新たに始め、インドや中東、ロシアを含む旧ソ連圏向けサービスを強化する。

 ワールドサービス放送は過去、政府の交付金で運営されていたが、緊縮財政により廃止され、14年度からBBCが受信料収入で負担している。2015年11月、政府が「安全保障における大綱」を発表し、BBCに対し16年度から政府資金を投入すると発表したことで事業拡大の道が開けた。19年度までの4年間で政府投入総額は2億8900万ポンド。ワールドサービスを含むBBCの国際発信メディアの利用者は世界で約3億人に上る。



by polimediauk | 2017-02-23 19:39 | 放送業界
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 ベルリンで開催された、テレビニュースの国際会議「News Xchange(ニュース・エクスチェンジ)」2日目(10月29日)に登壇したのが、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)のアダム・エリック記者だ(ツイッター:@aellick)。

 NYTは昨年、デジタル戦略をまとめた「イノベーション・リポート」で内外のメディア関係者の度肝を抜いた。もともとは内部用資料だったが、一部がリークされ、多くの人が知るところとなった。
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 メディア関係者が驚いた理由は、NYTは既存メディアとしてはデジタル戦略に積極的で、先駆的な新聞として知られており、リポートはいかに同紙がデジタル化への体制転換に苦しんでいるかを暴露したからだ。新興サイトをライバル視していることも分かった。

 エリック記者がニュース・エクスチェンジにやってきたのは、イノベーション・リポートの後で、NYTがどう変わったか、今はどんな状況かを話すためだった。エリック記者はリポートの執筆者の一人である。

「モバイルからのアクセスは60%」

 記者は長年、外国での報道を中心にやってきたという。2012年にイスラム過激派武装勢力に銃撃されながら一命をとりとめた、マララ・ユスフザイさん(パキスタン出身、現在英国在住)。事件発生前の2009年、エリック記者はマララさんの家を訪ね、マララさんと父をインタビュー取材した。(この点について、記者は会場からの質問を後で受けた。「あなたがマララさんの名前を広げたことで、ターゲットになったのではないか。記者としての責任をどう考えるか」と。エリック記者は「そうは思わない。ほかにもたくさんターゲットになっている人はいて、当時、学校に通う子供たちは完全な対象外だった。取材によって危険が増したとは思わない」と答えている。マララさんは2009年、11歳の時に武装勢力タリバンの支配下でおびえる生活を続ける人々の惨状をBBCに訴えていた。)

 エリック記者によると、リポートはNYT自身の中を調査し、核となる部分を変えるのが目的だった。「デジタル・ファースト文化をいかに作ってゆくか」。

 現在、NYTのサイトへのアクセスは「60%がモバイル機器による。その半分はモバイル・オンリーだ」。次世代は「すべてがモバイルからになる。紙かネットかの選択肢ではもはやない。モバイル・デスラプション(モバイル機器の普及による既存の仕組みの破壊)が起きている」。

 デジタル・デスラプションが発生する現在、NYTの課題は「いかにデジタル読者を増やせるか。困難だが、挑戦しがいのある課題だ。デジタルツールを利用すれば、インフォグラフィックスが作れるばかりか、新たな物語の語り方ができる」。

350人に取材

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 NYTの将来図を作るために、リポートの執筆チームはメディア企業、テック企業50社の350人に取材した。そこで分かったのは、デジタル・デスラプションが起きる現在、つまりは、紙の新聞の部数が減る一方で電子版からの収入が十分に伸びていないという状況を「どの社も解決できていないこと」だった。

 しかし、前向きな動きの兆候も見つかった。米バイラルサイト「バズフィード」はソーシャルメディアを完全にものにしている。英フィナンシャル・タイムズは電子版読者を増やし、紙版の読者を上回るようになった。英ガーディアンは、購読者とは別に、「会員制」を導入。会員として一定金額を払えばガーディアンが主催するイベントに出席するなど特典があり、そうすることで、ガーディアンを中心としたコミュニティーを作っている。

 「NYTの場合は、電子版の購読者100万人を持ち、これだけで収入は2億ドルに上る。こうした数字に支えられ、いわゆる『釣り記事』を出さなくてもよい状況となっている」という。(補足:NYTの紙版の発行部数は約62万5000部)。

 それでも、「質の高いジャーナリズムを発信するだけでは十分ではない」。それは、オーディエンス(読者)を開拓する必要があるからだ。

記事を出した後に仕事が始まる

 エリック記者によると、原稿を書き、記事がウェブサイトに掲載された後に「仕事が始まる」という。せっかく書いた記事を読者に届けるまでの仕事、つまり「オーディエンスに届けること」が重要という。例えばソーシャルメディアを通じて情報を発信する、データを分析していつどのような形で発信すればいいのかを決めてゆく、など。

 ここで私は、ふと、日本のテレビ局のことを連想した。日本でも、定額制の動画配信サービスが徐々に出てきている。しかし、テレビ雑誌やネットで情報を追っていると、「テレビ用に番組を制作する。これをテレビで一定の時間に流す。後は視聴者が来るのを待つ」という姿勢を感じる。つまり、なぜ、いまだに「テレビがあらかじめ決めた時間に流す」ことを最優先しているのだろうか、と。

 視聴者がテレビの前に座ってくれないからと言って、「テレビ離れ」として騒いではいないだろうか?実は、視聴者は忙しい。ほかにもやりたいことがたくさんある。だから、人がいるところにコンテンツを運ばなければ意味がない。人がテレビに合わせるのではなく、テレビ側が人に合わせるべきではないのかー?

 英国で、無料でテレビ番組のオンデマンドサービスを利用していると、日本の様子が非常に不満に思える。

 NTYの話に戻ろう。

 エリック記者によれば、紙の新聞を読者の自宅まで配達したように、デジタル時代の今、オーディエンスにニュースを届けることが必要だという。

 NYTではこれまでにも、オーディエンスを探し、ニュースを届けるために様々な努力をしてきたが、これを「新しくするべきだ」という。具体的には、ソーシャルメディアのエディター、データ分析のエンジニア、デベロパーなどを雇用するよう勧めている――実際に、NYTではもうそうなっている。

動画を世界的に配信するには?

 エリック記者が制作した動画の1つ(2014年)が、「イスラム国」(IS)による殺害を免れた一人の青年の物語。イラクのチクリート近辺に待機していたイラク軍の新兵たちが殺害された時、この青年は運よく生き延びることができた。

 いかに生き残ったかをとつとつとカメラに向かって話す青年の動画を、NYTは英語の字幕付きでサイト上に掲載。これを各国のソーシャルメディアで大きな影響力を持つ人にアピールすることで、世界中から視聴者を得た。

 NYTの調べでは、この動画を見た人の大部分がNYTのホームページではなくてほかのさまざまなサイトを通じて発見し、視聴していた。

 デジタル・ファーストの文化を作るため、3つの方針を作った。1つは「編集室に戦略チームを設ける」、「デジタルスタッフを雇用する」、「編集部門と営業・販売部門と協力を深める」。

 編集部では「デジアルメディアのスタッフをこれまでは紙を中心に作ってきたスタッフの隣にすらわせた」。調査報道のチームと同様に重要なのが「デジタルチームだ」。

 「ページビューよりも、読者をどれだけエンゲージさせたかが重要だ」。このために、データの分析(アナリティクス)が大きな要となる。どこからオーディエンスがやってきて、どれぐらい滞在し、どの記事を読んだのかー。どれぐらエンゲージさせたのか。

 ほかのメディア企業へのアドバイスは5つある。

(1)デジタルスタッフの雇用に力を入れること

(2)編集室にアナリティクスのチームを作ること

(3)編集室にオーディエンス用チームを作ること

(4)編集室に戦略チームを作ること

(5)編集室と商業部門(販売・営業)との関係を円滑にすること

 動画を世界各国に向けて拡散させるNYT。世界を相手にするからには、NYTの記者自身が世界中に飛び、各地から報道をすることも重要だという。

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 エリック記者は世界地図をスクリーンに出した。そのほとんどが水色だ。水色はNYTの記者が今年、現地から原稿を送った場所を指す。1年間で、スタッフが飛行機に乗ったのは「4500回」だという。訪れた国は150か国に上った。記事の信憑性・信頼性がこれまでに以上に鍵を握るようになった。実際に記者が現地に飛んで、生の情報を伝えることの価値がますます高まる。

 オーディエンスの開発、デジタルファーストになったメディアの物語の描き方(記事を1つの物語と見る)の多彩さ、そして、「世界を見る視点」が印象深いセッションだった。

 あるメディアが国際語である英語を使っているからと言って、自動的に「国際的メディア」になれるわけではない。編集スタッフが実際にあらゆる場所に足を運び、地元の事情を知ることで世界各地から記事を配信し、世界中の多くの人の目につくようなやり方で情報を出していくことで、国際的なメディアというブランドを次第につくってゆくのであることも、実感した。

 最後に、エリック記者が継続するイノベーションの1つの具体例として出したのが、アップルウオッチへのニュース配信だ。「ほんの1行で作るニュース記事の作成は難しい。頭を悩ませた」。

 身に着けるウオッチに送るニュースの文章は、よりパーソナルなものになるだろうから、通常の記事よりは「ややくだけた文章スタイルがいいようだ」。ウオッチを使って、写真をNYTに送ってくる読者もいるという。

 ある読者の感想がエリック記者の心をとらえた。「ある人がこう言ってくれた。NYTは『自分が読みたかっただろう記事を配信してくれる』、と。一人一人の読者が読みたいような記事を、メディアが予測することを期待されている。これが未来の1つの道であるかもしれない」。
by polimediauk | 2015-11-15 08:02 | 放送業界
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(「ニュース・エクスチェンジ」のオープニング。筆者撮影)

 秋になると、欧州では様々なメディア会議が開かれる。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)による「世界出版エキスポ」(今年は10月上旬、独ハンブルグ)、フランクフルト・ブックフェア(10月中旬)、アイルランド・ダブリンではスタートアップの巨大サミット、「ウェブ・サミット」(11月上旬)-続々とある。

 しかし、近年、秋になると筆者が最も知的刺激を受けるメディア会議の1つが、テレビニュースの国際会議「News Xchange(ニュース・エクスチェンジ)」だ。今年はベルリンで10月28日と29日が本会議、30日にワークショップが開催された。

 主催は欧州放送連合=EBU=傘下にある組織ユーロビジョンだ。もともとは欧州域内の放送局の集まりだったが、「それだけでは面白くない」ということで、世界のほかの地域の放送局からも人を呼ぶようになった。

 参加者は欧米、中東、アジア諸国の大手放送局の制作者、編集者、学者、ジャーナリストなど約500人。

 テレビニュースの国際会議ではあるのだが、ネットニュースやテック企業、新聞社も巻き込んで、「ニュースの報道はどうあるべきか」について現場を知る者同士が議論をする場所になっている。ニュース好きにとってはたまらなく面白い会議だ。テレビ局がそれぞれのセッションを制作するため、見せ方にも工夫がある。その日のセッションが終われば、パーティータイムで盛り上がる。

 今年の会議の様子は「GALAC 1月号」(放送批評懇談会)や「メディア展望 12月号」(新聞通信調査会)に書いているが、1つか2つの記事で終わらせるにはもったいないほど、中身が濃い。
 
 そこで、興味深いトピックをいくつか、紹介してゆきたいと思う。

シャルリ・エブド事件の現場動画をどこまで出すか

 今年1月7日、パリで発生した風刺雑誌「シャルリ・エブド」での射殺事件は、世界中の注目を集めた。編集会議に出ていた風刺画家ら12が、アルジェリア系フランス人男性二人に襲撃を受け、命を落とした。

 実行犯の兄弟は襲撃後、パトロール中だった警官に銃を放っている(警官は死亡)。この時の模様を市民が撮影した動画を含め、生々しい映像がメディアを通じて拡散された。

 2日後にはパリ東部のユダヤ系スーパーで、別の襲撃犯が人質を取って籠城する事件が発生した。特殊部隊が突入する前に、4人の人質が殺害された。(この襲撃犯は8日、パリ南部で女性警官を一人射殺していた。)

 実行犯―兄弟と別の襲撃犯一人―は全員、捜査当局によって殺害された。

 シャルリ・エブド事件、女性警官殺害事件、スーパーでの人質事件を通して、計17人が実行犯3人の手によって、亡くなった。

 何をどこまでいつ出すか、24時間のテレビニュースの制作者は頭を悩ませた。28日午後のセッションではシャルリ・エブド事件について、英スカイニュースのヘイゼル・ベイカー、米CNNのトミー・エバンズ、フランスのデジタルテレビ局「iTele」のルカ・マンジェが壇上に上がった。

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(左から、マンジェ、エバンズ、ベーカー。News Xchange flickr photo)

 マンジェが事件を発生を知ったのは目撃者の一人となった友人からの電話だった。「銃声が聞こえた」と言われ、すぐに制作スタッフを現場に送った。「情報が真実かどうか、確かめる暇はなかった」。

 フェイスブック上に、ある男性が警官が撃たれた動画をアップロードしていることに気付いた。男性と連絡を取り、動画を静止画の形で放送した。

 スカイニュースのベイカーはフェイスブック上に関連動画がアップロードされていることを知り、放送に使うかどうかをデスクに相談。放送内で使ったのは発見から約30分後だった。

 CNNも慎重だった。エバンズによれば、局内の弁護士と相談し、スカイニュースやロイター通信など、ほかのメディアが使っていることを確認してから、自局でも放送した。

 マンジェによると、警官が撃たれた様子を撮影した男性はのちに動画を削除したという。

 ベイカーは市民がアップロードした生の画像は、今回の事件では「非常に大きなニュース価値がある」。事件が刻々と変化し、「ソーシャルメディアで情報が伝わってゆく」。

 iTeleのマンジェは、後で振り返ると、反省事項がいくつもあるという。一つには、「死者の名前を出すのが早すぎたー放送当時、全員が亡くなっていたわけではなかったから」。改めて、どのようにいつ出すのかについての基準を決めることが重要と思ったという。

 また、ユダヤ系スーパーでの人質事件では、自局も含め、メディア側が事態の推移を刻一刻と報道。これが捜査の邪魔になったというのが今は定説となっている。

みんなが「シャルリ・エブドと共に」ではなかった

 襲撃事件発生後、ソーシャルメディア上で急速に広がったのが、「私はシャルリ」という言葉が入った画像や、ハッシュタグ「#jesuischarlie」。

 ニュースメディアは「私はシャルリ」の画像を報道時に頻繁に使ったが、「その意味をあまり考えずに、使っていたところが多かったのではないか」とエバンズは言う。

 「『私はシャルリ』を意味するハッシュタグは、シャルリの側に賛同する、という1つの政治的姿勢を意味する場合がある」。そこで、CNNではどのようにするか、編集部内でよく話し合ったという。議論をし、局のガイドラインと照らし合わせることで、扱いを決めていったという。(会場内から、「CNNはガイドラインがないと動けないのか?規則にがんじがらめではないのか?」と聞かれ、エバンズが苦笑する場面もあった。)

 iTeleのマンジェは、局で働くジャーナリストの感情と報道姿勢との境界線を明確に引くために、「jesuischarlie」と書かれたバッジをジャーナリストが付けていた場合、放送の前には外すよう指示した。

 しかし、「世界中が『私はシャルリ』ではないことを気付くのに、時間がかかった」という。事件発生から数日後、学校で一連の事件の犠牲者のために黙とうする時間が設けられた。このとき、「黙とうをしたくない」という生徒がいたことを知って、「幅広い意見があることを実感した」という。

 事件後、初めてのシャルリ・エブドの表紙にはイスラム教の預言者ムハンマドのイラストが出た。ムハンマドの描写事態を冒とくとするイスラム教の教えがあることから、各メディアは表紙を出すかどうかで悩んだ。

 スカイテレビのベイカーは「見せないことにした」。CNNでも同様だった。

 フランスでは「出さないわけにはいかなかった」とマンジェ。ただし、1,2回、画像を短い時間出しただけだった。

 マンジェは、さまざまな不備な点、後悔する点がシャルリ・エブド報道にあったことを認める。「しかし、事件発生から24時間、記者たちが編集室で泣いていた。大きなショック状態で、ほかのことを考える余裕がなかった」とも述べた。

 (次回はニューヨークタイムズの記者によるレポートを紹介します。)
by polimediauk | 2015-11-12 18:39 | 放送業界
 (TBSメディア総合研究所が発行する「調査情報」1月号の筆者原稿に補足しました。)

 日本でも、公共放送NHKばかりか大手民放による見逃し番組視聴サービスが近頃、本格化の兆しを見せている。

 英国では、2007年末頃から各局が競うようにオンデマンド・サービスに乗り出した。主要放送局のこうしたサービスはほとんどが無料で提供されており、ネットを使える状態にある人に広く開かれた視聴方法の1つとなっている。

 本稿では、英国放送協会(BBC)が提供するオンデマンド・サービス「BBC iPlayer(アイプレイヤー)」を中心に、テレビコンテンツのネット視聴の現状を紹介した後、昨年の英テレビ界のいくつかの動きに注目したい。

「公共のための放送」という強い概念

 改めて、英国の放送業界の仕組みを若干説明しよう。回り道のようだが、オンデマンド・サービスの普及に深く関係してくるからだ。

 1920年代前半創業のBBCが英国の最初の放送局であったことは良く知られているが、このとき、BBCを公共放送としたことが後々まで英国の放送業に影響を及ぼした。「放送=公益のため」という大前提ができたのである。現在は4大主要放送局(BBCのほかには民放ITV,チャンネル4、チャンネル5)がすべて「Public Service Broadcasting (PSB=公共サービス放送)」の枠に入る。

 視聴者が選択しやすいチャンネルの番号(例えばITVは「3」、チャンネル4は「4」、チャンネル5は「5」)を利用できる代わりに、番組ジャンルの規定、ニュース報道での不偏性、外部制作の比率など、さまざまな規制をかけられている。広告収入で運営されている、いわゆる商業放送であってもPSBの1つになるのが英国の放送業の特色だろう。

 「規制」の監督組織は通称「オフコム」(Office of Communications、情報通信庁)である。ネット時代の新たな通信法によって成立したオフコムが規制・監督の対象とするのは通信インフラ、ネット、放送、郵便だ。放送局もBTなどの回線業者も、ネット企業もすべて同じ傘の中に入る。「放送と通信の融合」を如実に示すのがこのオフコム体制だ。

ネットに近付いていった放送業


 放送業がネット上にもいわば「店を出す」動きを最も明確に実行したのがBBCだろう。

 新聞界が自社のウェブサイトを作り出すのが1990年代の半ばだが、BBCはこの頃、インターネットへの進出を局の方針として掲げるようになった。具体的には、1990年代末からニュースサイトの設置・拡充に取り組んだ。分かりやすい英語で書かれ、動画がついたBBCのニュースサイトは世界中からアクセスされ、英国の大手紙のウェブサイトをニュースの掲載スピードや量、質の面でしのぐレベルに成長してゆく。

 2004年、BBCの経営陣トップに就任したマーク・トンプソン会長が進めたのが、視聴者一人ひとりが好きなときに好きな番組を視聴できる「アイプレイヤー」オンデマンド・サービスの開始だった。

 当時、将来、テレビはどうなるのか、ネットに食われてしまうのかなど、テレビの未来について様々な議論が発生していた。インターネット時代、視聴者は情報にいつでもアクセスできる。「いつでも、どこでも、好きなときに」-ネットの特色を織り込んだ、新たなテレビ視聴の方法としてオンデマンド・サービスが捉えられた。

 2005年、動画投稿サイト「ユーチューブ」が登場した。各局はユーチューブやネット専業動画サービスの存在を意識せざるを得なくなった。

 プロトタイプのアイプレイヤーが試験的に出たのが2005年秋である。その後、改良を重ねているうちに、2006年末、チャンネル4が「フォー・オンデマンド」サービスを開始。BBCは遅れて2007年12月のクリスマスシーズンにアイプレイヤーを本格展開した。これを機に、英国のテレビ局のオンデマンド・サービスが一気に広がった。

 前後して、ITVも何度か改良を加えながら同様の「ITVプレイヤー」を、チャンネル5も見逃し視聴サービス「デマンド・ファイブ」を開始した。主要テレビ局のオンデマンド・サービスが出揃った。日本で言うと、東京の主要キー局全てがオンデマンドを提供している状態である。

 この数局のほかに、「ペイテレビ(有料契約のテレビ)としてほぼ市場を独占しているのが衛星放送のBスカイBがオンデマンド・サービス「スカイ・ゴー」を提供する。主要テレビ局のサービスは無料だが、スカイの場合はBスカイBとの契約が必要となる。

オンデマンドの中身とは

 当初、テレビ局が提供したのは見逃し番組の再視聴サービスで、これは過去一週間に放送した番組(すべてではないが主要な番組はほぼカバーされている)を次週まで繰り返し視聴できるものだった。

 しかし、現在までに視聴期間が延長され、どの主要局も過去30日以内(利用プラットフォームによって7日間の場合もある)に放送された番組の再視聴サービスを提供している。オフラインでも視聴できるよう、番組をダウンロードできるようにしている局もあるほか、BBCの場合はラジオも含み、番組によっては半永久的に再視聴できるようになっている。

 プラットフォームやテレビの種類によって利用手順が若干変わるのだが、ここでは筆者が加入しているケーブル・サービス「バージン・メディア」でのBBCアイプレイヤーの利用を紹介してみる。

 テレビをつけると、番組を映し出す画面の右上に赤い丸印(「レッドボタン」)が出る。リモコン上の赤いボタンを押すと、BBCアイプレイヤー・サービスの画面に変わる。ドラマ、コメディー、事実(ファクチュアル)、スポーツ、ニュースなどのジャンルを選択できるようになっている。どれかを選択し、見たい番組を選ぶ。リモコンで番組を指定すると、数秒後に動画が開始される。ジャンル別のほかに番組のタイトルでも選べるようになっている。

 さらに、バージン・メディアの場合は「ホーム」と題されたチャンネルをリモコンで選ぶと、過去1週間の主要チャンネルの番組が曜日別に並ぶ(既に放送が済んだ当日分も含む)ので、見たい番組を探して選択する。

 BBCで対象となる番組は4つのチャンネル(BBC1、2、3、4)用に制作されたもので、ITVも複数のチャンネル(1、2、3、4など),チャンネル4も同様だ。

 デスクトップPCで利用する場合は、BBCアイプレイヤーのサイトに行って、番組を選ぶ。スマートフォンやタブレットの場合はアプリをインストールした後に、ウェブサイトやテレビで番組を選択したように選び取る。一部のゲーム機器でも視聴できる。PCや携帯機器の場合、「お気に入り」を登録もできる。

 オンデマンド・サービスの対象は、かつては既に放送した番組のみであったが、現在までに放送と同時に、PCやモバイル機器の画面からリアルタイムでも数々の番組を視聴できるようになっている。つまり、テレビは通常リアルタイムでの番組放送となるが、これがPCやモバイル機器でも同様にリアルタイム視聴できるようになった。

 テレビで通常リアルタイムで放送される番組は、同時にほかのデバイスでも見られるし、後からでも見られる、かつ、オフラインでもダウンロードした場合に視聴できる状況になっている。

 そして、ネットの接続料やモバイル機器の購買代金などがかかるといえばかかるけれども、一旦ネットがある環境にいれば、主要テレビ局の番組のもろもろのオンデマンド放送は原則、無料で見られる(有料契約者用のスカイテレビは、ネット専業のナウ・テレビと提携し、番組を販売する形で非契約者にもオンデマンドサービスを提供している)。

 さらに、ITV、チャンネル4、チャンネル5にはリアルタイムでの放送から1時間後、あるいは2時間後に同じ番組を再放送するための特別なチャンネル(タイムシフト・チャンネル)も存在し、例えば帰宅時間が遅くなった場合でも少し待てば、好きな番組を最初から視聴できる環境がある。

 視聴者側からすれば、「いつでもどこでも、見たいときに見たい番組を視聴」できるーしかも、原則無料という世界が出現している。

 このような状況が実現した背景として、国内最大手BBCの影響力は大きい。

 視聴家庭から徴収するテレビ・ライセンス料で国内の活動の原資を作っているBBCからすれば、一旦放送したものを再度放送することで追加の料金を取ることは正当化できない。民放だが視聴者の奪い合いという点ではライバルとなるITVやその他の局も、PSBのグループの中のBBCが無料でオンデマンドを提供しているならば、無料にせざるを得ない。

 視聴者の目の玉がネットに移動し、これに伴って広告主もネットに移動しているなら、テレビ局側もネットの世界で勝負するしかないという認識が英テレビ界で広く認識されている。BBCがスマホやタブレットでサービスを展開するなら、他局もこれに続くしかないのである。

 英国でテレビ界によるオンデマンド・サービスが活発になったほかの重要な要因として、ネット動画サービスの人気が挙げられるだろう。

 アマチュア動画の投稿サイトとして始まったユーチューブにテレビ局が作った動画も並ぶ。動画コンテンツの提供者として、テレビ局はユーチューブの一般投稿者たちと並列に並ぶ。そういう時代になってきたし、英国のテレビ局はこれを強く自覚している。

 英国でのテレビとネットの相関関係を語るとき、もう1つ大きな流れが近年出てきた。それは、毎月定額のサブスクリプション(購読料)を徴収するサービスだ。米国発の有料動画サイト「ネットフリックス」がその代表例となる。

 かつて「ネットは無料」という感覚が支配的であったが、「有料化も可能」であることを具体的に示した例が音楽配信サービスの「スポティファイ」だろう。

 ネットフリックスの場合は月に約5ポンドを支払うことで、提供されている動画ドラマを際限なく視聴できる。英国での大々的なサービスの開始には、もともと英国製の政治ドラマだった「ハウス・オブ・カーズ」を投入。米俳優ケビン・スペイシーが主役で演じ、加入すれば10時間を越えるドラマを一度に連続して見ることができるという触れ込みで、大きな話題となった。9月からはバージン・メディアのプレミアムサービスの中に組み込まれ、利用者を増やした。

 米アマゾンは動画レンタルサービスの「ラブフィルム・インスタント」を買収し、「アマゾン・プライム・インスタント・ビデオ」として提供している。

 注目に値するのが、BBCが制作・放映したドラマ「リッパー・ストリート」の続編の制作資金を出したことだ。これはシリーズ2回目までをBBCが担当していたが、3回目の制作は中止していた。それをアマゾンが拾いあげ、アマゾン・プライム・インスタント・ビデオ用の配信作品として制作されることになったのである。英国のテレビのオリジナルの番組がオンライン動画専用のプラットフォーム用に制作された初のケースである。

 動画アプリをテレビの画面で楽しめるグーグルのクロームキャストサービス(7センチほどの専用端子をテレビに差し込む)も始まっている。

ネットが先に?

 BBCのアイプレイヤーの本格投入から7年が過ぎた。

 オンデマンドサービスはますます拡充し、リアルタイムでの放送を同時にネットでストリーム放送するところまで来た。無料が主であった英国のオンデマンド・サービスの隣にはスカイテレビのスカイ・ゴーやネットフリックスなどの有料サービス制が並ぶ。

 テレビ界がネットに近付く過程で「ネットでも番組を見ることができるようにする」という段階には達したわけだが、一歩進めて「ネットは主でテレビは次」に向かう動きも出てきている。

 先取りの動きとしては、10月にはチャンネル4が、11月にはBBCが特定のドラマを先にオンデマンドのプラットフォームで流し、1週間後などにテレビで放送する仕組みを開始した。また、昨年6月には若者向けチャンネル「BBC3」を閉鎖し、BBC3用に制作した番組を今後はアイプレイヤーのみで放送すると発表した。BBC3の番組のファンが大反対し、国民的議論が発生した。

 今のところ、テレビでのリアルタイムでの番組視聴が最も人気が高い視聴方法だが、もしネット視聴の比率がテレビ視聴と半々ぐらいまでに伸びれば、ネット視聴のみの番組制作・配信が主になる場合もあるだろう。

 かつて、トンプソンBBC元会長(現在は米ニューヨーク・タイムズの最高経営責任者)は「将来、テレビ番組はテレビ受像機では見ないようになるかもしれない」と言ったことがある。テレビ受像機そのものの形も今後変わっていく可能性もあり(1枚の紙のようになる、タブレット状になる、壁にかかった鏡のようになるなど、いろいろ聞いたことがある)、「テレビ視聴」と「ネット視聴」とを分けない未来は近そうだ。

貧しい家庭を描いたドラマ、議論を呼ぶ

 最後に、2014年、英テレビ界で目に付いたニュースについて触れておきたい。

 1月から2月にかけて放送された、チャンネル4のドキュメンタリー「ベネフィット・ストリート」(「給付金通り」の意味)は国民的な議論を巻き起こし、日本でも論争が紹介された。

 5回にわたる番組は、イングランド地方中部バーミンガム市のある通りに住む人々の生活を描いた。この通りの住民は「90%以上が政府から生活保護費用を受けている人」(英ガーディアン紙ほか)と言われる。生活保護の給付金をもらいながら、犯罪を犯す人や勤労意欲の低い人などの生活の様子を記録した。放送後、警察、チャンネル4、オフコムが数百もの苦情を受け、番組に登場した人たちに対し、ツイッターで殺害予告をする人もいた。「貧困ポルノ」(貧困の状態を見せることで性的快感を感じさせる)という批判も出た。

 以前から生活保護費用を悪用している人がいるという疑念が一部の国民の間で存在し、見方によってはこの番組はそんな疑念を裏付ける面があった。一方、実際にこのような貧困に苦しむ人の声が主要チャンネルで出ることは少なく、「別の視点を出す」ことを局の存在理由とするチャンネル4の野心作となった。

 同チャンネルはニュースでも物議をかもした。夕方のニュース番組「チャンネル4ニュース」のメインの司会者ジョン・スノーが7月末、イスラエルによる空爆の被害がおびただしい中東パレスチナ自治区ガザ地区で取材した。その後、「ガザの子供たち」という約3分半の動画を作り、チャンネル4の公式サイトと同局のユーチューブ・チャンネルで流した。平日午後7時から1時間の番組内では放送されなかった。

 スノーは、現場で目撃した子供たちの惨状について、個人の思いせつせつと述べた。動画は数十万回以上、視聴されたが、次第に、番組内で放送されるべきだったという声が大きくなった。「優秀なジャーナリストたちが現場に出かけ、見たことについての自分たちなりの判定を放送できない」のはおかしいというという見かたである(ガーディアン記事、7月29日付)。ネットではさまざまな表現、主張があふれている。テレビのニュースでも強い意見が表明されてもよいのではないか、と。

 オフコムは放送ニュースには「正確さ」が担保されていること、「偏向していないこと」と定めているが、ネット上の動画にはこの縛りがない。

 チャンネル4ニュースを制作する英ITNニュース社の経営陣は「テレビでは放送できなかった。放送ニュースを感傷的な表現が許されるものにしたくない」(9月9日のテレビ会議にて)と語っている。動画はテレビ用に制作されておらず、スノーが番組のウェブサイト上に書くブログの動画版という扱いだったという。

 テレビで放送されるニュースのガイドラインとは別のガイドラインがネット動画に適用されていることが分かる。前者は公的なサービス、後者は独自の意見を述べてもよい、ということだろうか。今後、ネット配信が主になった場合、ガイドラインも変わってくるだろうか。

 8月にはオフコムによる通信市場リポートが出た。毎年、オフコムは「テレビ・オーディオビジュアル」、「ラジオ・オーディオ」、「インターネットとウェブを使ったコンテンツ」、「通信とネットワーク」、「郵便業」についての調査結果を報告している。

 これによると、2013年、通信業界(約600億ポンド)の中で最も大きな収入増加率を見せたのはテレビ界(約129億ポンド、3.4%増)であった。テレビ界の収入増加の理由はサブスクリプションとネット広告の収入の増加による。テレビ業界の全収入の中でサブスクリプションは46%を占めている。

 成人が1日に視聴するテレビ視聴の時間のうち、2時間59分(全体の69%)はライブ視聴だった。録画した番組の視聴は40分(16%)、オンデマンド視聴は19分(8%)であった。一方、過去12ヶ月間にオンデマンドを利用した人は全体の50%に上った。

 英テレビの未来にも影響を及ぼす、BBCの動向についても記しておきたい。

 テレビなのかネットなのか、その境目が限りなく不透明になりつつある現在、日本のNHKの受信料のようなBBCのテレビライセンス料体制が今後維持されべきかについて、大きな議論が起きている。視聴家庭から徴収される形のライセンス料ではなくて、BBCの番組を見たい人がサブスクリプションを払って見るべきだという根強い声がある。政府は今のところ、「今年5月の総選挙後までは変更はない」としているがー。

 昨年本格的に始まったのが新たな地方テレビ局の開局だ。2008-9年の金融ショックで広告収入が激減した地方局は経営難に陥った。打開策の一つとしてテレビ局開局の規則を変え、新しい資本を入れる試みがスタートした。

 昨年11月末までに開局の運びとなったのは12ある。まだその評価は定まっていないが、大手紙数紙を持つイブニング・スタンダード社の持ち主が出資したロンドンの地元局「ロンドン・ライブ」が苦戦している。監督庁のオフコムに対し、開局条件に定められていた地元コンテンツの割合を減少させて欲しいと懇願した。10月、その願いは聞き入れられたが、十分な視聴者がいないことに苦しんでいる。ロンドン・ライブの番組はネットでも同時配信されているが、常時コンテンツを作り、一定の視聴者を集めることの難しさが露呈した一件となった。

 11月に発表されたオフコムの子供の視聴行動についての調査は、大人と子供の間の差を露出させた。成人がリアルタイムでテレビを見る時間は1日に約3時間だが、11歳から15歳では1時間32分となる。テレビを見る代わりに、子供たちはユーチューブなどの短いオンライン動画を見ていた(33分)。この年代が20歳、30歳になる時、テレビはどんな形状になっているだろう。
by polimediauk | 2015-03-06 16:58 | 放送業界
 以下は「メディア展望」(新聞通信調査会発行)9月号に書いた拙稿に若干の補足をしたものです。最新の10月号には、欧州諸国からイラクやシリアに向かう聖戦戦士の話を書いています。購読者のみへの公開になりますが、機会がありましたら、ご覧ください。

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 9月9日、英下院の文化・メディア・スポーツ委員会に、英フィナンシャル・タイムズ・グループの元CEOローナ・フェアヘッド氏(53歳)が姿を現した。

 同氏はBBCトラストの次の委員長になるといわれている。BBCトラストとは、日本で言えばNHKの経営委員会にあたる。トラストは視聴者の代表としてBBCの活動をチェックし、戦略を決めてゆく。

 トラストの委員選考には公募制が導入され,所管の文化・メディア・スポー省内の公職任命チームが選考作業を担当する。メディア担当相の助言に基づき,女王が任命する。

 2011年に任命されたパッテン卿が健康上の理由で職を去り、次期引継ぎ者を探していたが、政府が有力に押しているのがフェアヘッド氏。最終的な任命前に、文化・メディア・スポーツ委員会(下院議員で構成される)に呼ばれ、質疑を受けた。

 「朝起きたときから夜寝るまで、生活がBBCとともにある」と答えたフェアヘッド氏。幅広い番組を視聴しているというフェアヘッド氏の応答はおおむね好意的に受け止められた。公的な「面接」を無事に終えたようだ。トラストの委員長として女性を任命したかったという政府の意向に沿った人事になりそうだ。

 フェアヘッド氏が統括するBBCは、一体どんな状況なのか。7月に発表された最新の年次報告書(2013-14年)を見ながら、BBCの現況、その背景や今後を考えてみたい。

BBCの収入は?

 2013-14年度、BBCが徴収したテレビライセンス料(NHKの受信料に当たる。視聴家庭から徴収)は37億2200万ポンド(約6900億円)となった。ライセンス料でBBCは国内の活動をまかなっている。これを補足するのが商業部門による収入だ。今年度はBBCの番組を海外で販売する「BBCワールドワイド」などによる14億4100万ポンドとなった。

リーチ力は?

 BBCのリーチ力とはどの程度のものか?

 年次報告書によると、英国の成人の96%がBBCのテレビ、ラジオ、オンラインのコンテンツのいずれかに毎週接している。一人当たり週に平均18.5時間接している計算となるという。昨年度と比較して1時間の減少である。

 BBCのテレビ番組に15分以上接したことがある人は国内の99・6%。平均では1人で週に9時間視聴している。最も人気が高い番組はSFドラマ「ドクター・フー」だった。

 英国の民放局では時間をずらせて全番組を放送する「タイムシフト」と呼ばれるチャンネルが複数設定されており、BBC及び他局ではBBCのiPlayer(アイプレイヤー)のような、番組再視聴用のオンデマンドサービスを提供している。それでも、テレビ番組を放送時に見るという人がまだ圧倒的に多い。ただし、その割合は次第に減少している。BBCも例外ではなく、13年度では84%が毎週BBCのテレビを視聴しているが、前年度は86%だった。

 報告書が特記するのはモバイル機器(携帯電話、タブレット)を使って番組を視聴する人の急速な伸びだ。アイプレイヤーでの番組再視聴の数(特定の番組のリクエスト数)は2013年で30億に到達した。前年より33%増である。

 2014年度から、BBCはアイプレイヤーをデジタルでBBCの番組を見る際の基幹プラットフォームとして位置づけるようになっている。

 BBCのニュースサイトには今年年頭時点で2500万人の月間ユニークユーザーがあったという。「BBCのニュースに対する信頼度は依然として高い」。

 ただし、2012年秋、BBCの元人気司会者が性犯罪者であった疑惑が発生し、BBCの管理体制の不備が指摘された。同時期に、老舗のニュース番組「ニューズナイト」での調査報道の失敗が明るみに出た。重なった失態の直前の信頼度よりは「若干低い」状態だという。

いかに経費を節約したかを強調

 年次報告書のBBCやほかの英メディアの報道を見ていると、お金に関するものが多い。BBC自身の報道でも、この1年でいかに経費を節約したかが強調されている。

 背景にはこんな理由がある。日本の放送業では主要民放局が圧倒的な規模を誇るが、英国で予算額で比べた場合に最大級となるのが、ご承知のようにBBCだ。公から集めた資金で活動するBBCに対し、国民(そしてライバルとなる民放局や新聞社、その声を代弁するロビー団体、政治家)から資金の使い道をつまびらかにすること、つまり説明責任を果たすことへの強い要求が存在している。

 「いかに経費を節約したか、いかに無駄なくライセンス料を視聴者のために使ったのか」を示す一つの場が年次報告書となる。

 BBCがライセンス料を十分に効率的に使い、質の高い番組を届けたとなれば、国民に存在を納得してもらえる。同時に、10年に一度更新される、BBCの存在を保証する「王立憲章」や、ライセンス料の値上げや活動内容を規定する(政府との)「合意書」に向けての交渉もスムーズに行く。そんな目論見もBBCの側にある。

 年次報告書によると、BBCはこの1年で3億7400万ポンドの経費を節約できたという。かねてから批判されてきた、一部の人気出演者への高額報酬も是正したと経営陣は述べている。例えば、10万ポンド以上の報酬をもらう「高額タレント」陣への合計の予算は2008年度時点で7100万ポンドだったが、13年度では4900万ポンドに減額された。それでも、他局や国民の一部からも「まだ巨額すぎる」という批判がたえない。

 報告書全体の構成を眺めると、戦略を決める役目を持つトラストの評価と経営陣の見解とが交互に掲載される形となっている。

 トラストがBBCの年間の活動を評価するときに物差しとするのが「(番組の)質と独自性」、「コストパフォーマンス(投資された金額に見合ったコンテンツを生み出しているか)」、「(貧富、性別、居住地域に別にかかわらず)全ての視聴者に仕えているか」、「オープン性と透明性の確保」である。

 この中の「(貧富、性別、居住地域に別にかかわらず)全ての視聴者に仕えているか」に、「公共の利のための放送業」という英国の伝統が根付く。

 BBCのコンテンツを週に一度でも利用する人は英国の成人のほぼ全員に相当するが、トラストは、「全ての視聴者のそれぞれが利用しやすい形でBBCはコンテンツを提供するべき」、「番組や制作スタッフが英国内の多様性(性別、人種など)を反映するものであるべき」と記している。

 BBCアイプレイヤーは(民放局の同様のサービスも同じだが)、最低限インターネットにつながっている家庭に住む人誰もが無料で利用できる。BBCのデジタルサービスの拡充には、放送に関わる最新のテクノロジーやサービスを(無料で)幅広く国民が享受できるようであるべきだ、という考え方が底流にある。

管理職は男性の白人が多い

 ほかにBBCの課題の1つとなっているのが、多様性の確保だ。

 番組制作スタッフや出演者、管理職のメンバーは男性、しかも白人であることが多い。また、男性は中高齢になっても司会者として画面に出演できるのに対し、女性は高齢になると表舞台からはずされるとも言われている(実際に、高齢を理由に職を下ろされたとして何人かの女性がBBCに訴訟を起こしている)。

 あらゆる領域でさまざまなバックグラウンドの人が放送業に参加しないと、多様性にあふれる国民の姿を反映しない番組作りになるし、さまざまな差別の温床になる可能性がある。そこで、BBC経営陣にとって、多様性確保が重要課題となる。

 年次報告書の中で、BBC経営陣は「有色人種、障害者、女性を活用するための管理者プログラムを実行した」「テレビ番組にもっと女性が登場するよう努力している」と説明したが、トラスト側は「黒人、アジア人、そのほかの有色人種のスタッフの割合を12・5%にまで上げる」という経営陣の目標達成への歩みののろさを指摘した。

お金の使い方に疑問符も

 トラストは、BBCのお金の使い方に大きな疑問符が付けられた例を挙げている。そのうちの1つは1億ポンドに上る「デジタル・メディア・イニシアチブ」プロジェクト(ビデオテープの利用を停止し、全てをデジタル化する)が頓挫したこと、また、旧経営幹部退職の際の支払いが過剰であったのではないかという疑念があることだ。

 この「旧幹部」の1人は前会長のジョン・エントウイッスル氏だ。先の人気司会者による児童への性犯罪疑惑を毅然とした態度で対処しなかったことで、会長職就任から54日で自己退職に至った。このときにエントウイッスル氏に支払われた退職金が高額で、支払額を決めたトラスト委員長のクリス・パッテン氏の責任問題にまで発展した。同氏は辞任には至らなかったが、体調を崩し、辞任を申し出た。新委員長が就任するまで、BBCトラストは委員長代理が統率している状態だ。

地殻変動、近し?

 BBCの現在の王立憲章と活動合意書は2016年末に失効する。前回はテレビライセンス料を視聴家庭が払い、これでBBCの活動をまかなうという形は変更しなかった。17年からはさらにライセンス両方式をとるのか、それともネットで見る人が増えることを見込んで、新聞の購読料のような購読料を体制をとるのかー?BBCは購読料体制になれば、収入が大きく減ることを懸念している。ここ1-2年で、ラインセス料体制が崩れる可能性もある。地殻変動の時代がすぐそこまで来ている。
by polimediauk | 2014-10-03 16:40 | 放送業界