小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:放送業界( 162 )

NHKとBBC

 NHKの「新生プラン」が発表になり、受信料を払わない人には民事手続きによる支払い督促の導入が盛り込まれたという報道を昨日読み、BBCを思い出した。

 BBCの年次報告書などに詳しく書いてあり、今それを見ないで書いているが、大体のところでは、BBCの受信料を払わない人は罰せられる。人手をさいて、支払い督促、罰金、場合によっては刑務所送り、といった手段を用意している。実際に、何らかの形で罰せられる人は確実にいる。ある程度年のとった人は、罰せられない。

 電車に乗っていると、駅の構内などに、「テレビ受信料を払わないということは、犯罪です」「後で大金の罰金を払うか?それとも今受信料を払ってしまうか?どっちがいい?」といったような要旨のポスターが貼ってあり、読むたびに、どきっとした。随分厳しいなあ、と思ったからだ。

 今問題になってきたのが、BBC以外のテレビ局の番組を主に見る人、衛星放送のスカイテレビなどで十分に足りていると思う人、などが増えてきた点だ。「ほとんど、あるいは全く見ていないのに、何故受信料を払うのか?」と感じる人がいるのだ。

 BBCの受信料は、テレビ・ライセンス料と呼ばれ、BBCを見ていようといまいと、テレビの受信機があって、何らかの番組を見ていたら、払わないといけない。年に約24000円ほどだ。

 確実に、BBCの番組を見ている人は減り、他のテレビ局に流れており、デジタル・チャンネル化がさらに進めば(2012年にはすべてがデジタル放送になる。日本では2011年)、ますますその傾向が強まる、と見られている。

 一方、BBCとの比較、という側面とは全く別の問題として、NHKの受信料不払いを考える記事が、私も時々書かせてもらっている「日刊ベリタ」(www.nikkanberita.com)に出ているので、ご参考までに。

 
2005年09月21日掲載  無料記事

検証・メディア
不払い問題の原因「考えていない」 「停止運動の会」がNHKを批判

  【東京21日=ベリタ通信】有識者や市民がNHKの受信料支払い停止を呼び掛けている「NHK受信料支払い停止運動の会」は20日、NHKが「新生プラン」として民事手続きなどを通じて受信料を督促する方針を示したことに対し、「不払い問題の根本的原因を考えていない」と批判した見解を発表、橋本NHK会長にも送付した。 
 
 同会は8月にNHKが公表した視聴者の受信料不払いの理由は「不祥事・経営陣への批判」が34%とトップとなっており、受信料を支払わない人がいる「不公平感・制度批判」(33%)を依然上回っていることを指摘。「『不払いをいかに止めるかが信頼回復につながる』のではなく、不信の原因を取り除く改革を実行することが不払いを止める力になる」と訴えている。 
 
 そのうえでNHK再生のためには、朝日新聞などが報じた「番組の政治家に対する事前説明」について「通常の業務の範囲内」とした見解を撤回し、番組の事前説明を禁止する旨をNHK倫理・行動憲章に明記することなどを求めている。 
 
 
 同会は、NHKの番組に対する政治介入について、再三、NHKに質問しているが、「政治の介入によって番組を改変したことは、これまでもなかったし、今後もありえない」という回答を繰り返しているという。 
 
 同会は一方で、受信料支払い停止運動が、受信料の「不払い」ではなく、「停止」であることも強調。「双務契約の相手方であるNHK」が、公共放送に求められる自立した公正な放送の提供を履行すれば、受信料の支払いを再開することも示唆している。 

by polimediauk | 2005-09-22 08:01 | 放送業界

すべてを敵に回したテレビ局の果てしなき闘い


 上のタイトルは私が書いたものではなく、「アルジャジーラ 報道の戦争」と書かれた新刊の副題である。光文社より。ヒュー・マイルズというフリーのジャーナリストが書いたもので、今年の頭ぐらいに英国で出版されたように記憶している。

 書評は悪くなく、私も買ってちびちび読んでいたが、読みきらないうちに、邦訳が出ていることを先日知った。

 かなり情報が詰まっている本で、カタールとはどんな国なのか、アルジャジーラとは何なのかといった説明も加え、なかなかおもしろい。

 今、第4章「9・11はメディア戦争だ」を読んでいるが、一瞬、外の暑さを忘れる。米英メディア、特に米政府・米メディアの偽善的側面が出ており、「もう1つの視点」が分かる。

 ややアルジャジーラを誉めすぎというか、アルジャジーラ寄りのような印象を今のところ受けるが・・・。

 最後の方は、来年から始まる、アルジャジーラの英語放送(これまではアラビア語放送)に関しての見通しが書かれている。この部分だけは、先に英語版で読んでいたが、結構否定的な見方だったように記憶している。つまり、英語放送になったとたん、アルジャジーラはBBCやCNNなど、米英のでかいメディアとの競合に入る。勝てるのか?勝てないだろう・・・というもの(だったと思う)。

 この点を、カタール・ドーハで英語放送の準備をしているアルジャジーラ関係者に直接聞いてみると、「本は読んだが、最後の結論は、あくまでも1つの見方だと理解している。気にしていない」と言っていた。

 アルジャジーラ英語放送のためのスタジオはまだ建設中。「24時間の突貫工事中」だという。ドーハは今日中44度ぐらいあり、昼間は熱風の中を歩くようだ。

 作者のマイルズ氏は2000年、タイムズのヤング・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤーを受賞した人だという。サウジアラビア生まれ。しかし母語は英語のようだ。名門イートン校からオックスフォード大学へ。

 「すべてを敵に回したテレビ局」という副題がぴったりの本だ。 
by polimediauk | 2005-09-04 00:57 | 放送業界
スタートは、来年早々か

 カタールに本拠を置くアラビア語の衛星放送アルジャジーラが、今年年末から英語でも放送を開始する、というニュースが報道されてから久しいが、詳細がなかなか伝わってこない。当初、11月に開始、とされていたが、現在は来年早々と言われている。

 英語放送の本部もカタール・ドーハになるが、アルジャジーラ・インターナショナルのロンドン支部やドーハ本部の広報部に連絡先を登録しておくと、役員にだれそれが決まった、などのミニ・ニュースは入ってくるものの、あえて報道するようなおもしろい内容が、まだない。「時期が来たら、正式に記者会見を開く」というのが、今のところ、広報部の公式見解だ。英語放送のトップはITVというイギリスのテレビ局にいたナイジェル・パーソンズという人で、できればイギリスで会見を開いて欲しいものだが・・・。

 6月4日付けのタイムズ紙に、英語放送の記事が出ていた。〔以下は大体の訳〕。

 「アルジャジーラ英語放送(アルジャジーラ・インターナショナル)は、現在スタッフを雇っている最中で、放送開始は来年早々の予定だ。約250名のスタッフを雇用する予定で、欧米のメディアがカバーしない視点を提供する、としている。」

 「アルジャジーラ・インターナショナルのマネジング・ディレクターであるナイジェル・パーソンズ氏によると、『情報の逆の流れを作りたい。開発途上国から発信される初めての英語放送になる』」。

 「アルジャジーラは9年前に放送開始。世界中に400万人の視聴者がいる。中東諸国に住む国民の声を代弁するメディアとして、他の放送業者では提供できない情報を提供した。特にアルカイダやウサマビンラーディンのビデオを放映したことで有名になり、これがもとで反アメリカという評判を得た。特にこの姿勢を強く持っていたのが初代マネジング・ディレクターのモハメド・ジャッシン・アリ氏で、アリ氏は2003年にアルジャジーラを追われている」

 「英語放送に関しては、パーソンズ氏は、『反アメリカにはならない』という。ビンラーディンがアルジャジーラにテープを持ち込んだのは、アルジャジーラが幅広い視聴者を持っているからで、「アルジャジーラはテープの全貌を放映したわけではない」とした。」

 「イラク戦争で、欧米の軍隊に従軍記者として参加したジャーナリストたちは、『戦争の片側の見方だけを提供したと思う。アルジャジーラ英語放送は、『両方の側を報道したい』」(注:現在、アルジャジーラはバグダッドから追放されているので、直接の報道はできない状況だ。)

 「ライバルのメディアはアルジャジーラ英語放送をどう見ているのだろうか?あるBBCニュースの役員は、『私たちとは異なる視点の報道ができると思うので、歓迎する。イラク戦争の時に、アルジャジーラの番組を見て、自分たちの番組の報道が殺菌された報道に見えた』と語った。」

 「アメリカ側に、アルジャジーラ英語放送は中立だということを納得してもらうのは、困難な仕事かもしれない。『アメリカでは、アルジャジーラがどんな放送か、完全な誤解をしている人もいる』とパーソンズ氏。」

 「現在のところ、4000人がアルジャジーラ英語放送での勤務に応募したという。ドーハ以外には、ロンドン、ワシントン、クアラルンプールに支局を開設予定だ」

 「ちなみに、世界の衛星英語放送を比較してみると、BBCワールドは本部がロンドン、250人の特派員を含め、3400人のスタッフが働く。世界には58支局があり、世界中で2億6600万の家庭が視聴。放送開始は1995年。米CNNは本部がアトランタ。118人の特派員を含め、スタッフは4000人。36支局があり、2億6000万の家庭が視聴。放送開始は1980年となっている。」
by polimediauk | 2005-06-05 00:59 | 放送業界

BBC職員がストを予定


大規模削減の理由

 3000人-4000人の職員の削減計画に抗議するため、BBC職員が5月23日に24時間スト、5月31日からは48時間ストを計画している。どの番組がどの程度の影響を受けるのかはまだ明らかになっていない(12日時点)が、例年5月末に開催され、人気があるチェルシー・フラワーショーの放映、朝のニュース番組、ランチタイムのビジネス番組などに大きな影響がある、と見られているという。(BBCオンラインによる。)

 こうしたストが起きるきっかけとなった削減計画は、BBCの新社長マーク・トンプソン氏が昨年の12月、発表した。今後3年間で全職員の1割に当たる約3000人の職員を削減する、というもの。(BBCの職員は現在約2万7000人。)

 BBCは、2003年、イラク戦争を巡る政府情報操作疑惑(実は、「疑惑」ではなく、イラクの大量破壊兵器の脅威を誇張していた、という部分は事実だったのだが)を発端に、厳しい時期が続いた。「政府はイラクの脅威を誇張していた」としたBBCの報道の匿名の情報源となった元国防省顧問が自殺し、この自殺の原因を解明するために発足されたハットン独立調査委員会が、2004年2月、「BBCの報道には根拠なし」「誇張はなかった」としたため、責任を取って、当時の社長、会長、及び報道をした記者が一斉に辞任したのだ。

 ニュース報道にプライドを持ってきたBBCの威信は傷つき、トップ二人の辞任に、職員の心も揺らいだ。

 2004年6月には、「ニール・レポート」という報告書を出して、「何故正確ではない報道がなされたのか?」を自己検証。「取材時に、必ずメモをとること」など、取材の基本中の基本が書かれていた。

 新しく着任したトンプソン社長、マイケル・グレード会長は、「どんどん改革を推し進める」と確約。数ヵ月後に出たのが、今後のBBCの活動方針をしたためた「公的価値を作る」という報告書だった。同時に、人員削減策も発表。

 しかし、この削減策は、「やりすぎ」という声が当初から出ていた。

 多チャンネル・デジタル放送がさらに進んでいけば、BBCにチャンネルを合わせる視聴者も減るかもしれない、この時、BBCの以外の他者(例えばBBCの予算案の承認に大きな力を持つ、政府など)がBBCにコスト削減を言うようではダメで、自らがコストダウン策を提示しなければ・・・というニュアンスを持たせながら、トンプソン社長は削減計画を発表した。

 しかし、本当に、BBCはこれほどの削減を今する必要があるのだろうか?

 「政府が指一本切れ、といったのに、腕一本を切ってしまった」と評したのは、ジャーナリストの労働組合NUJの幹部の一人だった。

 昨年12月当時、BBCは2007年から実行となるBBCの活動などを定める「設立許可状」の政府案が出るのを、若干こわごわと待っている状態だった。情報操作疑惑の後、BBCの最大の収入源であるテレビ・ライセンス料の廃止論や、BBCの分割論などが新聞各紙でとりざたされ、シンクタンクなどもこうした提唱をしていたからだ。
 
 3月、政府はライセンス料制度は「少なくとも今後10年間は継続する」とする提案を発表。BBC側にとっては、ひとまず胸をなでおろした展開となった。

 今回の削減案は「批判される前に、自分たちで削減してしまえ」という感が、私もどうしても強いように思う。つまり、一種の政治的動きなのだ。

 時の政府からの編集上の介入をさせないように、その時々で闘ってきたBBC。自分自身のサバイバルのためには、時には自分で自分を痛めつける姿を見せることも必要、と考えたのだろうか。

 本当に、これほどの規模の削減が必要なのか、どうか?「組織を守るための削減策」には違いないが、「質の向上のため」というよりも、政府あるいはBBCの批判者に対する一種のポーズという意味合い「も」、多かれ少なかれあって、犠牲になったのは削減されるBBCスタッフ・・・という部分という構図が見えてしまうのだが・・・。

 一時的にスタッフ削減で「涙を飲んでもらった」としても、ゆくゆく、「より強いBBC]になるためには、仕方ない・・と考えているのだろう。

 



 
 
by polimediauk | 2005-05-13 08:54 | 放送業界

テレビで、ウエブサイトで、変化を起こす

 英国のテレビ局の1つ、チャンネル4がらみの動きが、30日、2つあった。

 まず、英国の総選挙の投票日が5月上旬に迫り(まだ正式発表はされていない)政治家の言っていることが嘘か本当かを検証するためのウエブサイト「ファクトチェック」FactCheckを立ち上げた。www.channel4.com/news/microsites/F/FactCheck/index.html

 2003年米国で開始された同様のオンライン・サービスをまねたもの。政治家がスピーチや記者会見、プレス・リリースなどで発言、公約した内容の信頼度を分析する。

 「選挙キャンペーン中、政治家による多くのコメント、スピーチなどが出るが、どれが真実なのか、一般国民には分かりにくい。ファクトチェックのサイトで必要な情報を提供したい」と、チェンネル4のニュース・時事番組のチーフ、ドロシー・バーンズさんはガーディアン紙のインタビューの中で述べている。

 サイトはチャンネル4にニュース番組を提供しているITNが担当するという。

 元のアイデアは昨年の米大統領選挙で活躍した米版「ファクトチェック・オルグ」FactCheck.orgだ。ディック・チェイニー氏がこのサイトについて言及した後からアクセスが急激に増えた。ワシントンにベースを置くチームが運営しており、かつてAP、ウオールストリートジャーナル、CNNなどのジャーナリストだったブルックス・ジャクソン氏が責任者となっている。

 もう1つは、日本でも料理番組「裸のシェフ」シリーズで知られる(シェフが裸になるわけでなく、新鮮な食材をシンプルに料理するなどの意味)ジェイミー・オリバー氏が学校給食の現場に入り、何とか子供たちに質の良い給食を食べてもらえるよう奮闘した番組「ジェイミーの学校給食」(今月上旬放映)の結果、政府が給食費の大幅増額を決定した。

 今後3年間で2億8千万ポンド(約560億円)の資金がイングランド地方の学校給食費として追加されることになった。現在子供1人に使われる学校給食の食材費は37ペンス(約74円)だが、これを小学校では50ペンス(100円)、中学校では60ペンス(120円)に増やすという。栄養基準のガイダンスも即導入され、秋からは実際にどのように運用されているかを政府が検査する。

 BBCのインタビューで、教育文化・スポーツ大臣のルース・ケリー氏は、「3ヶ月前の大臣就任以来、個人的にも学校給食に力を入れたいと思っていた」として、イングランド地方の学校給食の質を変えるために学校を訪ねたオリバー氏の番組が給食費増額の直接のきっかけではないと述べたが、ブレア英首相も英紙でオリバー氏の功績を賞賛するなど、政府は何らかの形で給食向上プランを出す必要に迫られていた。

 オリバー氏は、「増額はうれしいニュースだ。20年前に実行されていたらもっと良かったと思うが」と取材陣に述べている。番組放映後に立ち上げたウエブサイトfeedmebetter.comを通じて、加工食が中心の学校給食の質を上げることを提唱し、27万人からの賛同の声を集めた。これを官邸に提出。多くの議員らも賛同の声をあげており、あっという間の展開となった。

 野党自由民主党のフィル・ウイリス氏は、BBCオンラインのインタビューの中で、「労働党が政権を取ってから8年になるが、学校給食は改善されてこなかった。有名シェフの番組がないと政府が重い腰をあげることなかっただろう」と述べた。

 オリバー氏の番組は、今月末、再放映された。

 テレビの威力、ウエブサイトを通じての反応の迅速さ。放送とネットを組み合わせて何らかの結果を作り出した、おもしろい例となった。
by polimediauk | 2005-03-30 19:27 | 放送業界
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イラク戦争の意義を問い続ける


 BBCの時事ドキュメンタリー番組「パノラマ」の放映が開始されたのは1953年の11月。時の権力の乱用をチェックし、追及するという点が番組の意義の1つだ。

 3月20日放送分は「イラク、トニー、真実」と題され、2003年3月のイラク戦争開始までの過程で、ブレア英首相が戦争の大儀に関して嘘をついたのではないか?という点を、関係者のインタビューを交えて徹底取材したものだった。戦争開始から2周年記念、というのが放送開始のタイミングだ。

 米国と共にイラク戦争を開始した英国だが、イラクの大量破壊兵器の脅威に関して、さんざん脅かされた英国民は、戦後、大量破壊兵器が見つからなかったことで、「十分な開戦理由がなかったのでは?」という疑念を持ち続けてきた。

 開戦後2ヶ月がたった2003年5月、BBCの朝のニュース番組「TODAY」の記者が、「英政府はイラクの脅威を誇張した」と報道した後、この報道の匿名情報源だった国防省顧問が自殺している。この報道はたった1人の人物の自殺では終わらず、自殺に至る経緯を解明するために立ち上げられた調査委員会が、「BBCの報道には根拠なし」としたため、BBCの経営委員長と会長がほとんど同時に引責辞任をする顛末にもなった。「政府側が誇張していた事実はなかった」と調査委員会が結論づけて、政府側には何の辞任もなかった。

 現在までに、他の調査委員会の報告などから、開戦前に言われていたような大量破壊兵器は存在していなかったこと、開戦に至る諜報情報が信頼性の低いソースに依存していたことなどが分かってきた。

 一国の政府の重要な決断の中でも、開戦の決断は最重要の事柄と言えるが、こうした決断の際に、ブレア首相は、情報が信頼性の低いものであったことを「知っていながら」、それでもイラクの大量破壊兵器の脅威を国民に訴え、開戦へと誘ったのだろうか?それとも、信頼性が低いものだと言うこと知らずに、開戦を訴えたのか?

 徹底的な調査報道で知られるパノラマが、この問いに答えを出そうとしたのが3月20日の放送だった。
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 番組は、2002年の時点から、既に、フセイン体制の打破には武力攻撃しかないと見ていた極秘の政府文書を紹介していく。

 2003年3月、武力攻撃を可能にする国連決議採択に向けて努力していた英国だったが、シラク仏大統領がいかなる決議案も否決するとフランスのテレビのインタビューで答え、これを機に、一気にフランス・バッシングの雰囲気が英国内で作られてゆく。

 最終的に英政府が新たな国連決議なしに開戦へと進む動きのよりどころになったのが、ゴールドスミス法務長官の助言だった。法務長官は、かねてから、新たな国連決議なしでのイラク戦争開戦は「違法」としていたのだが、開戦直前になってワシントンを訪問した後、「新たな国連決議なしでも開戦は合法」とする助言を出す。

 これをきっかけにブレア首相は開戦決議案を議会に提出。長丁場の審議の上、開戦が決定されてゆく。

 番組は、開戦までに至る過程で、フセイン政権打倒という米国の方針に、いかに英国が追従していったか、「違法」を「合法」とし、「信頼度の低い情報」を「間違いのない情報」として国民に提示していったかを、明瞭にした。

 昨年まで欧州問題に関する首相アドバイザーだったスティーブン・ウオール氏は、番組の中でこう語っている。「国連の決議なしでもイラクを武力攻撃できるとした法務長官の助言は、法の議論を限界を超えて引き伸ばしたのだと思う。政府側には、そんなことをする権威はないのにそうしてしまったのだから、危険な前例を作ってしまったと思う。ブレア首相に自分の見解を伝えなかったことを後悔している」。

 「戦争に行くということは、国際関係の中でも、最も真剣な行為だと思う。人の命を、国民の命を危険にさらすことなのだから最後の手段であるべきだし、(開戦の決定は〕国際的権威のあるところが決定するべきことだった」。

 番組は、以下の言葉で終わる。

 「大量破壊兵器は見つからなかった。

 政府のイラク文書を作成するのに使われた情報機関MI6の主な情報源の半分は、信頼するに足りなかったものとして取り下げられている。

 首相官邸にコメントを求めたところ、これまでに行われた4つの調査委員会が報告した事実に、これ以上付け加えることはないということだった。

  しかし、どの調査委員会も明らかにしていないことが1点ある。それは、ブレア氏のイラク政策の進化だ。

 ブレア首相が公で言ったこと。個人的に知っていたこと。この2つを自分の中では調和させることができるのか」。

 プリゼンターのジョン・ウエア氏はエディターのマイク・ロビンソン氏とともに、イラク戦争関連で3本の番組を担当した。BBCの報道を巡って自殺した政府高官の話をトピックに、BBCと政府との対立の様子を描いた「死への闘い」は、ロイヤル・テレビジョン協会賞を受賞。政府批判もさることながら、BBCという自社批判が高く評価された。もう1つ、開戦までの諜報情報の不十分さを描いた「諜報情報の失敗」も制作している。

 それぞれ、番組のトランスクリプトがウエブ上からダウンロードできるようになっている。

 関係者へのインタビュー、文書資料、ニュース映像などによって構成され、非常にオーソドックスな作りになっているが、放映終了後、これほど真っ向から、時の政府の重大な決断に関して、鋭く突いたドキュメンタリーをしばらく見たことがないような気がした。

 前に、BBCにも日本のNHKにも、同様にすばらしい番組がたくさんある、と書いた。しかし、政府批判を1つの文化と言えるほど頻繁にしてきたBBCだからこそ、できた番組だった。

 昨年、パノラマの制作者に話を聞く機会があったが、「TODAYの記者が、ネタをこっちに、持って来てくれればなあと、何度も考えた」と言われたことを思い出す。「そうしたら、こっちの調査取材のこれまでの蓄積を十二分に駆使して、もしかしたら、ブレア政権の転覆だって夢とはいえなかったと思う」。

 TODAYの報道の後でトップ2人を失ったBBCは、政府との闘いにある意味では、「負けた」。しかし、BBCというジャーナリズム組織が存在する限り、様々な形で、時の権力をチェックし、パワーの乱用、不正を追及することが、何度も、何度も、できる。TODAYのかたきを別の番組がとった・・・そんな思いもした。


 
by polimediauk | 2005-03-22 09:10 | 放送業界

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究極の目標とは・・・


 英国最大の公共放送BBCの活動内容と資金調達方法などは、10年に一度更新される設立許可状が定めている。現在の許可状が期限切れになるのは2006年末。2007年からの10年間をどうするかに関する議論が続いている。

 これまでに、英文化省の依頼で独立調査委員会などがBBCの活動を様々な観点から調査、分析しこれを報告書にまとめさせている。2004年から活動を開始した、新・通信規制団体オフコムも「公共放送はどうあるべきか」に関しての独自の報告書を数回に渡って発表。BBC自身も、今後10年間で何を目標とするのか、自分たちなりのマニフェストを出している。

 ここ1年ほど、BBCは「危機にある」とされてきた。きっかけは、2003年「英政府情報操作疑惑報道」だった。

 同年5月、BBCの朝のラジオ番組「TODAY」は、イラク戦争開戦に至る過程で、英政府がイラクの大量破壊兵器の脅威を誇張した、と報道した。この報道の匿名の情報源となった国防省顧問が、名前を新聞にリークされた後で自殺。BBCと政府側は「誇張した」「誇張していない」と互いの主張を繰り返す中で、その関係は次第に悪化していた。

 緊急に設置された独立調査委員会(ハットン委員会)は2004年1月、「報道に根拠なし」とし、BBCの編集体制と経営陣を厳しく批判した。これを受けてBBCのトップ二人がほとんど同時に引責辞任。報道をした記者も辞任した。BBC最大の危機の1つ、と言われた。

 BBCはこの先どうなるのか、ジャーナリズムの独立性を保てなくなるのではないか?設立許可状の骨組みを決める実権を握る政府が、BBCに意地悪をするのではないか?そして、メディアと政治の関係や公共放送はどうあるべきかなど、議論が百出した。

 特に人々の注目を集めた提言の1つは、野党保守党が依頼した、BBCの将来に関しての分析リポートで、商業放送チャンネル4の元トップだったデビッド・エルスティーン氏が他のメディアの重鎮数名と書き上げたものだった。視聴者が見たい番組を見るという傾向が強くなる多チャンネル時代が進む将来、BBCを見たい人は相対的に減ってゆく。一種の税金のようになっている受信料をBBCが全て使うのはおかしいのではないか、受信料制度は意味がなくなってくるとして、廃止を求めた。

 英政府は、2012年ごろまでに、全アナログ放送を終了させ、デジタル放送のみに変更する予定でいる。かつては放送の全てを独占し、今でも大きな位置を占めるBBCだが、将来の圧倒的地位に変化が生じる可能性が高い。

 何故受信料収入が必要なのか、公共放送としてのBBCがいかに英国民にとって重要なものかを、BBC側は政府や国民に示さないといけなくなった。

 BBCにやってきた新経営委員長のマイケル・グレード氏は、「公的価値を作る」と題されたマニフェストを発表し、BBCの公共放送としての重要性を強調した。

 3月上旬、文化省はBBCの将来に関し「緑書」と呼ばれる、白書の一段階前の文書を発表した。情報操作疑惑での対立から、政府側が何らかの形でBBCの活動を狭めるような提言を出すのではないかと懸念されていたが、ほぼ現状維持となった。まず受信料は「今後10年間は継続」とした代わりに、ハットン委員会が経営陣との癒着を指摘した経営委員会の廃止を推奨した。この経営委員会の代わりに「信託」を設立することを提言したが、内容を見るとBBCの自主監督を担う組織ということで、現在の経営委員会とほとんど変わらないのだった。

 政府は、現在国民からの緑書に関するコメントを受け付けている。途中5月の総選挙を含み、現在から、最終方針となる白書の発表の秋までが、BBCの、そして英国の公共放送の将来の鍵を握る大事な山場となる。

 BBC側としては、現状ほぼ維持の緑書の結果に胸をなでおろしてばかりもいられない。

 受信料制度の継続は2016年までは(現時点では)保障されたものの、2017年以降どうするかに関して、「数年後に議論する」ことになったからだ。一方、BBC会長マーク・トンプソン氏は、各部門での15%のコストカットと、3000人規模の人員削減を発表している。全従業員が28000人のBBCだが、この数字は「大きすぎるのではないか」というのは、英国ジャーナリスト組合(NUJ)の役員は話す。「無駄をはぶくというならいいが、政府側を見てのコストカットだと思う。政府は指一本切ろといったのに、腕一本をあげたようなものだ」。

 総選挙(正式発表はまだされていない)で与党労働党が過半数を取ることは予想されているものの、「強いBBC,独立したBBC」と繰り返してきた現在のテッサ・ジョウエル文化相が、同職につくかどうか未定であるため、「今回の緑書の提案で首がつながったと思ってはいても、決して楽観してはいけない」(NUJ代表ジェレミー・ディア氏)。

 2012年以降も、現状のままのBBC体制が続くと思っている人は、英国にはいない。

 BBC及び放送業界の未来の論点をこれから細かく見ていきたいが、その前に、こうした議論が国をあげてのものであることに注目したい。

 英国の街角であるいは家庭で、職場で、誰かに「将来、BBCはどうしたらいいと思う?」「最近のテレビ、どう思う?」などと聞いて見ると、それぞれが一家言を持つ。主にテレビやラジオ、新聞などの既存メディアで報道されたことを基にしての意見だが、一般の人が議論に参加できる機会がメディアを通してふんだんにあり、視聴者には幅広い論点にアクセスできる環境がある。

 自分がお金を払う受信料がどう使われるのか、無駄には使ってほしくない、という気持ちも英国民の間では強い。

 「BBCが存在しているから」という要素もある。1927年の創立から1950年代半ばまでBBCが英国の放送業界を独占し、現在も業界トップとしての位置にいるので、放送業界の将来を考えることがBBCの将来を考える行為と重なる。もしBBCほどの大きな影響力のある放送メディアが英国になかったら、これほど議論も高まっていないだろう。

 BBCの初代会長だったリース卿が唱えたBBCの目的「教育、情報を与える、楽しませる」という精神が未だ引き継がれており、BBCの活動、つまりは放送業は英国の国民生活の上で非常に重要な役割を果たすもの、とされている。究極的には、放送業は民主主義社会が健全に機能するための重要な手段の1つ、ということだ。

 ・・・と、書くと格好よすぎるような結論だが、実際、放送業と民主主義を結びつける考えは広く浸透している。





 

 
 
by polimediauk | 2005-03-15 07:30 | 放送業界

BBCとNHK


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(BBCの人気報道番組「TODAY]のスタジオ風景)


等身大で見ると・・・

 一部従業員によるスキャンダル事件、受信料不払い運動、政治権力の介入問題など、NHKが日本で大きな話題になってから数ヶ月が過ぎた。

 時の権力の介入をどうするか?という観点から、メディア論、ジャーナリズム論、日本社会の構造にまで話は広がっているようだ。

 そんな中で、NHKとイギリスのBBCとの比較がなされることがある。同様に受信料(視聴料あるいはイギリスではテレビ・ライセンス料)が主な収入源であること、公共放送であること、など、確かに共通点が多い。

 しかし、NHKとの比較に限らず、BBCというと、日本では随分持ち上げられているような気がしてならない。確かに多くの優れた番組を放映、放送しているが、「日本と比べてことさら優れているのか?」というと、日本でも随分質の高い報道、ドラマなどがあり、甲乙つけがたい。嗜好の問題もあるだろう。

 日本では(あるいはイギリス以外の国で)神格化されているようなBBC。

 イギリスに住んでみると、全く別の側面が見えてくる。

 確かに、BBCは英国民から愛され、支持されてはいる。しかし、一方では、受信料という安定した収入源に支えられているという点をいいことに、例えばデジタル放送の分野にお金を使いすぎている、視聴率が低くても収入は変わらないのに商業放送でもできるような大衆受けする番組を作りすぎている、人気番組の亜流ばかり作っている、他のテレビ局の営業を規模で圧迫している、キリスト教徒に批判的過ぎる、政治・政治家を馬鹿にしている、メディアであるのに野党として振舞っている、傲慢だ、などの批判がある。それぞれに、真実をついている。

 視聴者がこうした様々な批判をするのに加え、シンクタンクなども、十分な調査の上に、BBCの「欧州連合に関する報道は否定的なものが多く、十分とはいえない」と結論づけた。BBCのイラク戦争の報道が偏っていた、とする調査結果まである。他のテレビ局のイラク報道とを比較したとき、英政府から出た情報を基にして報道をする割合がBBCの場合最も多かったそうである。

 ただし、政府の方は、BBCのイラク報道が政府寄りだったとは、思っていない。イラク人側の声を報道し続けたジャーナリストらを英国に帰すよう、プレッシャーをかけた、といわれている。辞任したBBCの元会長グレッグ・ダイク氏の著書「インサイド・ストーリー」によれば、ブレア首相自身もBBCのイラク報道に満足しておらず(政府側からすると、反政府、反イラク戦争過ぎるということらしい)、何とかして欲しいとコンタクトを取った、という。

 また、幻想化・神格化の1例として、BBCがいかに政府から独立しているかを過剰に強調する場合がある。

 確かに、BBCは「編集上」時の政府から独立し、時には対立することも辞さない。しかし、BBCの受信料の値上げ率、BBCの活動内容を規定する設立許可状、放送内容の自主チェックを行うBBC経営委員会及び経営委員長の人選など、様々な骨組み部分は、政府が決定している。

 また、通常の企業の社長職にあたる会長職は、政府とうまくコミュニケーションを取れる人であることが望ましいとされる。

 最終的に、BBCは及び時の政府は、英国のためにあるいは英国人のために良かれと思うことをやるわけだから、協力関係にあっても不思議はない。

 ・・と言った後で何だが、また別のレベルでは、BBCと時の政府はライバルでもある。BBCというよりも、新聞を含めたメディアが、といったほうが正確も知れないが。

 イギリスのメディアは、一種の野党の役目を果たしている。英メディアの中でも最大のパワーを持つのがBBCだ。つまり、政府とBBCの闘いは(闘いがあるとすれば、だが)、イギリスの2大パワーの権力争いでもある。

 イギリスのメディア・パワーは非常に強く、ちょっとでも政府があるいは他の権力団体が干渉、影響を与えようとすると、猛烈な抵抗にあう。おいそれとはいかない。

 BBCの話に戻る。

 1927年創立のBBCだが、現在は大きな変革期にいる。その資金調達体制、英テレビ界での位置が、これまでにないほど変わってしまうかもしれない時期に入りつつある。

 BBCの現状とそれに派生した事柄を、現場訪問、インタビュー、などからたどってみる。
by polimediauk | 2005-03-14 03:30 | 放送業界

「ニュース」?


BBCの夜のニュース解説番組「ニュース・ナイト」の中で、難民申請者用一時宿泊施設の内情暴露のクリップが、放映された。

この宿泊施設の管理は、内務省に依頼された民間の会社がやっている。そこで働く人々が、いかに人種差別主義の傾向があり、まるでモノにあたるかのように申請主義者たちを扱っているか、隠しカメラで撮ったものだ。この職権乱用の結果、15人の職員が停職措置になった、という。

内務省関係者の生のインタビューはなかったが、該当の民間会社のトップ、及び政治家やコメンテーターの分析があり、非常に見ごたえのあるものだった。

その後で、キャスターのジェレミー・パックスマン氏が、「これはxxx曜日の特別番組の一部です」と言ったので、実は、別番組の宣伝・紹介だったことに、改めて気づいた。他の多くの視聴者同様、その「xxx曜日」に、見ようと思って、テレビのスイッチを切った。

就寝前にラジオをつけると、程なくして定時のニュースに。第一報が、この「難民申請者用施設での職権乱用のスクープ」だった。

確かに、調査報道の結果、人が停職処分になっているほどだから、「ニュース」ともいえる。しかし、どうも、BBCが自社番組を宣伝しているという、非常によくあるパターンにも見えてくる。

番組の宣伝そのものが悪い、とは思わない。「お知らせ」がなかったら、せっかくいい番組を作っても、たまたまその時にチャンネルを合わせた人でないと、見ることができない。

しかし、「お知らせ」を、どうして定時のニュースのスロットに、「ニュース」として入れるのか?「ニュース」と「宣伝」とを一緒くたにしては、まずいのではないか?ーーこれが、BBCに対する、イギリスでの批判の1つだ。

BBCの、イギリスの放送業界の中での位置は、大きい。BBC自身で利益を生み出す必要が、基本的にはないので、安定した収入もある。

そんな、「業界の巨人」であるBBCが、自社製作の番組の調査報道で分かった結果を、「ニュース」として出していいのだろうか?

・・メディアがメディア自身のために存在するのでは?と思わせるのがイギリスだ。BBCも、受信料支払い者のためでなく、BBC自身のために存在しているのではないか?そんな懸念を持つのは、私だけではない。
by polimediauk | 2005-03-02 10:28 | 放送業界

日英のギャップ?

 9日発売の「週刊新潮」2月17日号に、BBCで今年後半放映される昭和天皇の生涯を描いたドキュメントに関しての記事が載っている。

 タイトルは

 「昭和天皇」人格が歪んだ「身体欠陥者」! 英国BBCのドラマ「勝利した負け犬」の酷すぎる「偏向脚本」

 記事の中で、BBCを「英国国営放送」としている点が若干気になり、コメンテーターの選択が偏っている感もある。しかし、この記事の主張が正しいか正しくないか、またBBCの脚本が偏向しているかいないか、という点は、まだ番組ができていない・放映されていないので、私には現時点で十分に客観的な判断ができない。
 
―戦争ドキュメンタリーが頻繁に放映されている

 こうした番組が放映される背景として、イギリスでは歴史番組の人気が高く、かつ戦争ドキュメンタリー、戦争ドラマが特に好んで見られているという現状がある。週に数度はBBCのチャンネルに限らず、いずれかのテレビ局が放映している。

 いかに第1次及び2次世界大戦で連合軍が闘い、勝利を得たか、いかにナチ・ドイツが残虐だったか、いかに日本軍が連合軍側の戦争捕虜を不当に取り扱ったか・・・。戦後60年経っても、イギリス人は忘れない。テレビで頻繁にこうしたドキュメントが放映されるので、戦後生まれの若い世代にも知識が広まってゆく。

 先月も、BBCは「アウシュビッツ」というタイトルで、アウシュビッツの強制収容所で働いていた人にインタビューをしたドキュメントを数週に渡って放映したばかりだ。

 何故これほど戦争物が多いのか?

 専門家の分析が必要だが、私の見たところでは、やはり戦勝国であるという理由が大きいように思う。戦争宰相ウインストン・チャーチルの博物館が、11日ロンドンでオープンしたが、チャーチルは、2002年のBBCのアンケートで「最も偉大なイギリス人」に選ばれている。

 日本の過去、特に第二次世界大戦前後の歴史や昭和天皇の役割などに関しては、通常の日本人よりもイギリス人の一定の年齢以上の人たち(50歳以上)の方が、詳しいかもしれないほどだ。

 長崎や広島の原爆の意味、昭和天皇の戦争に対する責任など、イギリス側の認識・解釈は日本側の解釈とは随分違う。

 日本に関しての理解者がいない、という意味ではない。しかし、原爆は「必要だった」とする意見を肯定する雰囲気、昭和天皇は「戦争犯罪人」、「責任を取らなかった人」「ずるい人」という認識が存在することは事実だ。

 週刊新潮の記事は、放映予定のBBCの番組が「偏向」している、とする。しかし、その「偏向ぶり」の箇所は、イギリスに暮らしていると、イギリス人が、あるいはイギリスのメディアが通常考える範囲内にあり、特に飛びぬけて偏向している、ともいえない。

 どちらが正しいか?ということでなく、繰り返しになるが、戦勝国イギリスの見方は日本とは違う、という現実がある。

 また、番組制作のためにBBCなりの調査はやるとしても、ある歴史トピックに関して、「偏向がないように」「中立に」「誰もが賛同するような」ということを、最優先事項としていないだろう点にも、注意したい。

 今まで報道されてこなかったことを明るみに出す、大胆な解釈で人目を引く・・ということがないと、番組としておもしろくならないし、やる価値もないだろう・・と考える部分がある。公共放送とはいえ、決して「無色透明」なものを作ろうとしているのではない。

 これを、BBCは「国営放送」と見て、何らかの中立的、無色透明、「公平」な歴史ドキュメンタリーが放映されると思うと、失望するだろう。

 放映は、「イギリスは、日本を、昭和天皇をこう見ている」ことを改めて知る機会になるだろう。イギリスと日本との間の認識のギャップを再確認する機会でもある。

 イギリスでは、王室批判の番組などが日常茶飯事だ。頭のおかしい王がいた、愛人がいた、血友病の家系だ、王室制度そのものがけしからん、などなど、やりすぎでは?と思われるほどのドラマ、ドキュメンタリーが作られてきた。

 こうした、例え自国の王室といえども下劣すれすれのレベルのアングルも含めて、批判するような番組を作ってきたのが、BBCを含めた英テレビ界だ。

 従って、かつての敵国のトップだった天皇の生涯に関するドキュメンタリーでは、しかもその敵国の戦争中の扱いに今だ恨みを持つ国民もいるイギリスだからこそ、容赦なく天皇を批判し、様々な面を暴露する、あるいは自論を展開するだろうことが、想像できる。

 特に日本を、天皇をターゲットにしているのではなく、いつもやっていることの一環なのだった。

 昭和天皇のエピソードは、BBC2の「タイムウオッチ」という枠の番組の中で放映される。「タイムウオッチ」では、歴史を様々な角度から見たドキュメントを放映してきた。今後の予定を見ると、「ロシアの独裁者スターリンを殺したのは誰か?」「故マーガレット王女の悲劇」などとなっている。

(以下は、週刊新潮の記事の抜粋です。)

昨年の秋から暮れにかけてのこと(中略)。イギリスの国営放送BBCのスタッフから(注:政治家らに)出演や取材協力の連絡が入った。内容は以下のようなものだった。

{BBC(英国国営放送)では、昭和天皇の生涯を描くドキュメンタリードラマを製作いたします。「意志なき立憲君主」か、「意志ある大元帥」か。世界のテレビが未だ伝えたことのない分野を、ドラマ仕立ての構成で検証する教育歴史番組です。イギリスBBCにて、ゴールデンタイムに放送されます」(中略)。

BBCの協力要請に応じた宮内庁元記者は言う。「外国メディアは往々にして、天皇戦争責任論など、最初から結論ありきの姿勢で、断罪することがある。それならいやだよというと、いや、いろんな資料を調べて、真実をついたものを作ります、というので、協力しました」

昭和天皇の服装などについて、問われるままに教えたという。

(中略)

「番組への出演依頼のお話を頂戴しまして、そのつもりで検討していました」とは、中曽根康弘元首相の秘書である。だが、実現には至らなかった。「お話をいただいた後、あるところから番組のシナリオを入手しましたが、その内容をみて非常に驚きました。偏見に満ち、初めから昭和天皇を「悪玉」に仕立てようという意図があまりにも露骨過ぎる内容だったのです。即座に、出演依頼をお断りしました」

(中略)

秘書が本人に脚本を見せるまでもなく、出演を断ったドラマとは一体どんなものなのか。

Hirohito: The Loser Winsというのが、英題。日本語タイトルは「ヒロヒトー勝利した負け犬」。

「意味は、戦争で負けたら元首は普通なら没落する。だが、昭和天皇は生き延びてシンボルになり、その下で日本は高度経済成長を果たした。天皇は連合国側の戦争指導者の誰よりも長生きした。つまり、最後に勝利したのが昭和天皇。そういう皮肉なタイトルにしたいのでしょう」とは、秦郁彦日大元教授だ。

シナリオに従えば、まず最初のシーンは終戦直後の皇居。焚き火に侍従たちが重要文書を投げ入れるところからスタートする。

ナレーションが入る。

「1946年。昭和天皇―裕仁―現人神として、20年もの間、日本国民を戦争の惨禍に巻き込んできた。この戦争によって、アジアの人々2000万人、日本人300万人、連合国の兵士6万人の命が犠牲になった。(中略)終戦後速やかに進駐軍が占領を開始したが、天皇を有罪に導くはずの証拠書類は全て燃やされていた後だった」

アジアの犠牲者2000万人という数字は「東京裁判の判決にある200万人の10倍」(秦元教授)といういかにも誇大なものだが、このドラマに一貫して流れるトーンは、昭和天皇を戦争犯罪人として認識していることだ。脚本にはこんなト書きがある。「残虐さの潜む当時の映像を織り交ぜながら、皇室の絢爛な礼式が、昭和天皇の偽善の隠れ蓑である事実を暴いていく」

精神異常者の父

かつて昭和天皇は、大東亜戦争をとめられなかった理由をこう述べられた。

「かかる国民的憤慨を背景として一度、軍が立ち上がったときに、之を抑えることは容易な業ではない」

昭和21年に昭和天皇が側近に語った「独白録」の中のお言葉だが、ドラマでは科白をこう意訳した。

「私は軍国主義者に対して事実上、無力で為す術もなかった」

ナレーターは言う。

「昭和天皇の言動を追うことによって、この人道にもとる国際犯罪のリーダーがいかに罪を逃れ、その後44年間も君臨し続けたか、そしてその背景にアメリカ政府が関与した事実を暴いていく」

要するに、昭和天皇は戦争責任をすべて軍部のせいにして、逃げているというのだ。

(中略)

・・・昭和天皇のお生まれに関しても、まったく事実と異なった認識の仕方をする。
「昭和天皇の生い立ち。特殊な環境で育ったことにより、人格的に歪んだこと。また、身体的な欠陥を持ち、祖父と比べて見劣りがしたことから、自分に与えられた力に固執し、天皇の座に執着したこと。この報告が、戦争開始からマッカーサーとの関係まで、天皇の全行動の背後に潜む」

 人格的に歪み、身体的欠陥・・・どこをどう押せばこんな話が出てくるのか。

(中略)

「精神異常者の父、大正天皇の崩御に従い、裕仁が新しい時代の天皇に即位した」

この言い方も、なんと刺を含んでいることか。

「大正天皇が脳膜炎をわずらっていたことは事実ですが、精神異常とは違います」とは皇室研究科の1人。

(中略)

日中間で果てしない論争が続く南京事件に関しても、「虐殺は20万人とも30万人とも言われている」と中国のプロパガンダそのものの数字だ。さらに誇張しているのが、毒ガスの犠牲者数である。

「また天皇は国際法の禁じる、毒ガスの使用も許可していた。毒ガスによる中国人の犠牲者は270万人に上ると言われている」

これに対し、「270万人とは根拠不明の途方もない数字」とは前出の泰日大元教授だ。

(中略)

ドラマでは、昭和天皇は終戦後、戦争責任を重臣や軍部に押し付け、マッカーサーの擁護の下、生き残る。

「昭和天皇は1989年、88歳になるまで日本に君臨し続けた。その間、日本は高度成長を成し遂げ、再軍備化に余念がない」

(中略)

「昭和天皇は都合の良い時を選んで崩御した。天皇の死後、日本経済は賃貸し始めた。昭和天皇の人生はすべて偽りであり、ただの幻想だった。強い日本経済もただの幻想であり、終身雇用もただのまぼろしだった。この意味で、天皇は日本の象徴だった」

ここまで来ると、昭和天皇へのただの憎悪でしかない。

「この番組は、おそらくハーバート・ピックスの著書『昭和天皇』をベースにしているのでしょうね」というのは、京都大学の中西輝政教授である。ピックス氏はニューヨーク州立大学教授。著書は、4年前にピュリッツアー賞を受賞している。日本語版は3年前に出版されている。

「賞は獲っていますが、欧米の歴史学者や日本近代史の研究者の間では、『トンデモ本』として認識されている代物です。仮定や推測ばかりが目立ち、学問的な価値が認められません。それをベースにBBCが番組を作るのが不思議です。先般のNHKの「女性国際戦犯法廷」の番組ではありませんが、局内に偏った情報を流す人々がいるんじゃないかと疑念さえ生じます」

NHKとは違い、世界のBBCである。こんな偏向番組を放映することは、よもやあるまいと思うのだが・・・。

(引用終わります。)


 BBCの広報を通じて、見解を聞いてみた。

 「歴史番組で知られる『タイムウオッチ』という番組の中の、第2次世界大戦末期を取り上げるシリーズの一環として、ヒロヒト天皇の生涯に関しての番組を制作中です。収録が始まったばかりの段階ですので、通常のテレビの製作現場で起きているように、台本は何度も書き換えがなされます。したがって、後数ヶ月は製作が完了しないので、現時点で番組の正しい判断をすることは不可能です。BBCとしては、この番組で日本人を侮辱するつもりは全くありません。関係者の皆様方には、今年後半、番組が放映されてからご判断いただくことを切に望んでいます。」
by polimediauk | 2005-02-11 21:03 | 放送業界