小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ:放送業界( 161 )

c0016826_7564355.jpg
 
(海賊のふりをするというアーダン。チャンネル4のサイトより)

 英民放チャンネル4の午後7時のニュースを見て、笑ってしまった動画があった。

 2日に放送された分で、「ソマリアの海賊」のふりをして欧米の著名メディアに取材を受けてお金を稼いでいる人たちの様子を紹介した(動画は日本からは視聴できないことがあります。ご了承ください)。

 自分も時々海外に出て、現地の人を取材する。あれ、あの時は大丈夫だったのかなと少しどきりとした。

 当初は「だますなんて、いい加減な人たちだな」と思ったが、よく聞くと、だまされたほうも十分に取材対象をチェックしていなかったという意味では反省してしかるべきだった。

 動画は、民放チャンネル4のジャーナリストでソマリア人のジャマール・オスマンがケニアのスラム街イーストリーに取材に出かける場面を映し出す。ここは、ソマリア人のたまり場となっているので、ソマリア人の海賊に取材したい人が集まってくる場所にもなっているようだ。

 ここでオスマンが出会ったのが「アーダン」と名乗る人物。きらきらした丸い目が印象的だ。アーダンと数人は世界中のジャーナリストを相手にした、ある商売に従事している。大変繁盛しているという商売とは、ソマリア人の海賊のふりをすることだ。

 アーダンがオスマンに話したところによると、たまり場にはボス=統括者と言うべき人がいる。ケニアに来たジャーナリストたちが「海賊に会いたい」と言ってボスのところに来るので、アーダンたちが海賊のふりをして、お金をもらって取材に応じるというわけである。

 ソマリアの海賊は世界的に有名だし、ジャーナリストたちは取材をしたがる。そこで、欧米のジャーナリストに「海賊」を調達するのだ。「ボス」はジャーナリストたちを車に乗せ、時には数日間かけて、ケニア内を行き来する。「とても危険でまだ顔を出すわけには行かない」などと説明する。この間も、日給が出る。

 「才能があるから、海賊のふりができるんだよ」とアーダン。

 普段はレストランで働いているが、アーダンの日給は微々たるものだ。ところが海賊のふりをすれば、200ドルもらえるという。ケニアではとても大きな金額だ。

 こうして、数々の欧米メディアが「海賊たち」を取材し、記事を書いたり、放送したりしている。その1つは米タイム誌に掲載された。2日時点で、まだウェブサイトに載っていた。

 ニセの海賊たち(アーダンを含め、ほとんどがソマリア人ではない)をデンマークのテレビ局が撮影した動画は世界18カ国で放映されたという。

 アーダンのほかに動画の中に出てくるのが、「バシール」(仮名)だ。彼をソマリア人海賊の一人として書いたのが、上のタイムの記事だ。

 ある動画の中で、バシールは「最も恐れられている海賊」として紹介されている。「私を誘拐しない保証はありますか」とカメラマンがバシールに聞く。「その心配はない」とバシール。

 チャンネル4のジャーナリスト、オスマンがバシールに取材中、「俳優なら、今ここで、どんな感じで海賊のふりをしたのか、やってみてくれないか」と聞く。少し間があって、バシールが「感情を人物に入れ込まないとできないんだよ、気持ちの切り替えができないから」と言って、笑いながら断るあたり、思わず、こちらも噴出してしまった。

 自分はソマリア人ではないし、ソマリアに行ったこともないとバシール。もちろん、ソマリア人の海賊を見たことはない。ただし、「ソマリア人を見たことはある」。

 アーダンが言うには、「西欧人はアフリカ人のことを間抜けだと思っている。でも、アフリカ人は間抜けではない。僕たちは利口だし、西欧人は僕たちをからかってやったと思っているかもしれないが、からかっているのはこっちだ」。

 バシールが言う。「本物のソマリアの海賊がお金をもらって取材に応じるわけがないよ。たくさんのお金を手に入れたんだから。取材に応じる必要がないじゃないか」。

 ニセのソマリア人だと今は分かったという米国とチェコの放送ジャーナリストたちが「自分たちが馬鹿みたいだった、今は本当のことが分かった」と言う場面も入っている。

 タイム誌にチャンネル4がコンタクトを取ったが、返事がなかったそうだ。
by polimediauk | 2013-04-03 07:56 | 放送業界
c0016826_7461734.jpg 放送批評懇談会が発行する月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」の4月号が、現在発売中だ。

 今月号の特集は「独立局のサバイバル術」。

 独立局と言うのはネットワーク系列に入らない放送局を指す。東京近辺で言えば、東京メトロポリタンテレビジョン、テレビ神奈川、テレビ埼玉、千葉テレビ放送など。現在、こうした独立局が全国に13局ある。誌面では、それぞれの局の特徴と看板番組が紹介されている。

 巻頭の人物インタビューの一人が、「ロンドンハーツ」、「アメトーク!」などの人気バラティー番組を手がける、テレビ朝日の加地倫三氏。

 同氏はテレビ業界の仕事のやり方を書いた「たくらむ技術」(新潮新書)を昨年末、出版した。若い人のために書いたそうだ。

 インタビュー記事の最後のほうで、このような箇所があった。

 「不安だからと、人気のタレントをとりあえず並べたり、旬の話題を取り入れたりと、いろいろな要素を加えていったら結局個性がなくなって、誰が作った番組か分からなくなる。そんな番組ばかりでは、テレビを目指す若い人がいなくなりますよ」

 「制作者はときには0点を恐れずにチャンレジし続けないといけないんです。作り手の顔が見えるような番組が増えてほしい」―。

 「あやとりブログ」でたくさんの人が「いいね!」を押した、「テレビがつまらなくなった理由」の答えの1つになっているかのような、インタビューである。

 数人の書き手が交互に書く、「海外メディア最新事情」(私も時々参加)のコーナーは、在米ジャーナリスト、津山恵子氏の番だ。タイトルは、「なぜ日本のテレビはグローバルじゃないのか」。

 ラスベガスで開催される家電ショーを取材した津山氏は、日本のメーカーのブースで既視感におそわれる。高画質、最先端のテレビが展示されているのだが、「画質の向上での勝負にひた走っている」と感じたからだ。画質は変わっても、コンテンツに目新しさがないから、前にどこかで見たような思いにかられたという。

 逆に、新鮮な印象を与えたのはサムソンなど外国のテレビメーカー。コンピューターと結びつけて、「テレビをどう使って欲しいか」を、利用者の立場で提案していたからだ。

 世界を見渡せば、今やテレビ(受信機)は、コンピューター、タブレット、スマートフォンと並ぶ、画面の1つに過ぎない。こうした潮流の中のグローバル戦略を、果たして日本のメーカーは十分に認識できているのだろうかと津山氏は問いかける。

 英国のテレビ界は、まさにこの潮流に乗っている感じがする。テレビがコンピューターと結びついており、視聴者のために様々なサービスを展開している。

 「視聴者のために」というのは、重要なポイントだ。タブレットや携帯電話で見たければそこに向けて、また、時間をずらして見たければ、それにあわせて再視聴サービスを提供し、常に利用者の利便性にテレビ局が心を砕いている感じがする(利他的にそうしているのではなく、そうしないとほかの画面やほかのチャンネルに視聴者が移動してしまうからだ)。

 思い出したのは、日本のある勉強会で、英国のテレビについて話したときのことだ。

 ある放送局のデジタル戦略について説明し、見逃し番組の無料再視聴サービス、生番組のまき戻しサービスなどを紹介したところ、「どうしてそこまでやる必要があるのか」と聞かれて、言葉に窮した。

 「テレビ局だったら、リアルタイムの、テレビ受像機での放送にあわせて番組を制作し、放送するのが本筋だろう」、「余計なことをしたら、リアルタイムで見る人が減るし、広告主も嫌がるだろう」という趣旨の質問だった。

 私が言葉に窮したのは、すぐに理由は頭に浮かんだけれども、「テレビが何故、コンピューターと結びつくのか、なぜデジタル戦略を中心にするのか」を説明するために、ある共通の認識がないと話が進まないことに気づいたからだ。

 この「共通認識」とは、テレビの番組放送はお金儲けのためばかりではないこと、放送局やそこに働く人のため、あるいは広告主を喜ばせるためだけにあるのではないこと、そもそものテレビの存在目的は「番組を放送して、視聴者を楽しませること」であること(きれいごとではなく、本当に単純な話として)。

 メディア環境が変わったら、テレビの側もそれに合わせて、変わらざるを得ない。ネットで何でも情報を取ることに慣れた視聴者が、「ほかの画面(端末機器など)でも見たい、後でもう一度視聴したい」と言うならば、それにできうる限り応えるように、やり方を変えたり、組織を変えたりするしかない。

 こういうもろもろの部分が、日本に住む質問者と、普段は英国に住む私の間で共有されていないことを察知した私は、愕然とし、言葉を失った。「ああ、一体、どこから説明したらいいのだろう」と思い、しどろもどろに「視聴者のためにやっているのです」などを繰り返すだけであった。意味が通じていないだろうなあと思いながら。

 話がずれたが、津山さんの記事(世界の時流に乗ったテレビ・メーカーが「コンピューターと結びつく」、「テレビを使って何ができるかを利用者の立場で提案する」など)には、大いにピンと来るものがあった。
by polimediauk | 2013-03-14 07:29 | 放送業界
c0016826_1010938.jpg
 
(チャンネル4のウェブサイトより)

 今月17日、「もう1つの視点」を出すことを特徴とする英チャンネル4が、「Complicit(コンプリシット)」(共謀)と題するドラマを放映した。 

 英国内でのみ視聴できるドラマなのだけれども、いつか日本で放映されることを願い、内容を紹介してみたい。

 テロネットワーク、アルカイダの首謀者オサマ・ビンラディンの捕獲・殺害までを、CIA局員の視点でドラマ化した米映画「ゼロ・ダーク・サーティ」が今日本で公開中だが、「コンプリシット」は、英テレビ界の「ゼロ・ダーク・サーティ」とも言われている。

 テロを防ぐために、拷問を使ってよいのかどうかを観客に問いかけるという部分で、似ているのだ。

 プロデューサーによれば、ドラマはもともと、ゴードン・ブラウン前英首相が「英国はテロ容疑者に拷問を行わない」と発言したことが発案のヒントになったという。「現実には拷問を行っているのではないか、直接には手を下していなくても、拷問が行われている国に容疑者を運び、拷問で得られた情報を使っているという意味では、英国は『共謀者』なのではないか」と、感じたという(番組のウェブサイト上のインタビューより)。

 ドラマの主人公は、国内の諜報活動に従事するMI5に勤める、黒人の若い男性エドワード。毎日の地道な情報収集作業の後で、アジア系英国人ワリードが、猛毒リシンを使ってテロ攻撃をする可能性を察知する。

 ワリードが中東に出かけ、リシンの手配をすることを知ったエドワードは、上司にワリードを追跡する手配を頼む。

 ワリードはエジプト・カイロで拘束され、エドワードもカイロに入る。十分な情報を握っていることで自信を持っていたエドワードは、現地でワリードを尋問するが、ワリードはなかなか口を開かない。

 リシン・テロ計画についての確固とした証拠が取れないまま、ある日、エドワードは、2日前に既にリシンが入った容器が英国に渡ったことを知る。

 上司や同僚からの支援は少なく、カイロの英国大使館員も官僚主義が強く、思うようにことが運ばない。何とかしてリシン・テロの英国での発生を防ごうと必死のエドワード。自らが拷問を手がけるというエジプトの治安担当者に連絡を取り、ワリードからテロの攻撃地についての住所を聞き出すべきか、それとも、非合法な手段は一切使わずに、テロが起きるのを座して待つべきかという選択を迫られる。

 このテレビ・ドラマの見所の1つは、諜報活動が、ジェームズ・ボンドの映画のような、スタントがいっぱいの派手な行為ではないことを見せていることだろう。

 机がずらりと並ぶ広い部屋で、黙々とコンピューターの前に座って作業を続けるMI5のスタッフ。無機質な廊下にはドアが複数あり、エレベーターが上下する。その冷ややかさに、ちょっとぞっとする。

 エドワードを演じる黒人俳優のデヴィッド・オイェロウォ。大きな瞳が非常に印象的だ。目で語る・・という感じである。

 MI5のオフィスは冷たい感じだが、テロリスト予備軍の電子メールの記録を画面で見ながら、鉛筆でノートに書き留めてゆくエドワードは、パートナーとの間に子供がいて、時には同僚の女性と一晩の冒険を楽しむこともある、一人の生身の人間だ。

 黒人であるがゆえに、昇進が遅いのではないか、自分の分析に十分に信頼が置かれていないのではないか、と気にしたりする。

 圧巻は、テロについて口をつぐむワリードと、真実を解き明かそうとするエドワードの対決場面だ。ワリードを演じるのは、聖戦のためにテロを行おうとする英国の地方都市の若者たちを描いた映画「フォー・ライオンズ」にも出演した、アーシャー・アリ。

 ワリードとエドワードがぶつかるのは取調室の中だ。カイロで拘束され、警察の管理下に置かれているワリードが、手錠をつけられた格好で取調室に連れられてくる。護衛の警察官が外に出て、2人だけの勝負になる。

 どうやってワリードにリシン・テロのことを話させるのか?

 「何も知らない」と言い張るワリードに、エドワードは次第に怒りを募らせる。「お前は英国で生まれ、学校に行かせてもらい、機会を与えられたはずだ。なぜ、英国を攻撃したいんだ?」、「なぜ俺たち(非イスラム教徒)をそんなに憎むんだ?」と、エドワードがワリードに聞く。

 「どこから説明したらいいかだよ(=いっぱいありすぎて話せない)」と言い返すワリード。「(英国を)平和な国にしたいからだよ」と言う場面も。

 ワリードはエドワードに「ニガー(黒人)」という言葉を放ち、エドワードは我を忘れて、ワリードに飛び掛る。

 ワリードは、英国人としての権利を主張し、「ノーコメント」を最後に繰り返す。

 2人の対決場面の緊張感は、まるでドキュメンタリーのようでもあり、芝居の1場面のようでもあった。

 「なぜ、英国を攻撃したいんだ?」、「なぜ俺たち(非イスラム教徒)をそんなに憎むんだ?」―英国に住む、少なからぬ人数の人が思っていることでもある。

 自分の隣人、友人、知人、あるいは家族や親戚かもしれないが、そのうちの誰かが、「テロリスト」になって、2005年7月7日のロンドン・テロのようなことが起きるかもしれないー英国に住んでいるとそんな思いが心のどこかにある。

 別に、毎日びくびくして生活しているわけではない。ただ、いろいろな人種の人がいて、いろいろな宗教を信じたり、政治的信条を持っている人が同じ社会の中にいる、これが現実だということ。

 21日には、英中部バーミンガム出身の男性3人が、テロ容疑で有罪という判決が出た。もし実行されていれば、7・7ロンドン・テロ以上の被害が出ていたかもしれない、という。

 バーミンガムのケースのように実際に有罪までいくことは多くはないが、イスラム教徒の若い男性で、警察にテロリスト予備軍として逮捕されること自体は珍しくない。

 あるいは、このテレビドラマのように、実際にテロ計画に参画していたのかもしれない人が、後で、不当な取調べであったとメディアの前で訴え、そのことで、「自分はテロには一切関係していなかった」というイメージを作ってしまう場合もあるだろう(ドラマは、ワリードが本当にテロに関連していたかどうかを明示していない)。

 拷問は非人間的だ、拷問を使った尋問からは真実が得られないという理由で、拷問を否定するのはいいが(私のように)、その一方では、この映画のエドワードのように、テロから市民の命を守るために、二者択一の選択肢を迫られる人もいる。現実は白か黒かでは割り切れない。

 そんなもろもろの事情を、抑えたトーンで(エドワードとワリードの数回の対決の場面は違うが)このドラマは描く。

 エドワードの「大きな瞳」のことを書いたが、映画の中で、エドワードはよく、自分の周囲のものや風景などを、じっと見ている。ややぼうっとしながら、眺めている。ドラマの展開の間に、こういう、「ぼうっと眺める」場面がよく挿入されるので、展開がややゆっくりする。

 監督ニール・マコーミックによると、これはわざとなのだそうだ。一つ一つの出来事を、視聴者がきちんと咀嚼するよう、故意に時間をあけてあるのだという。だから心に染み入るように感じたのだなあと思った。

 最後に、エドワードの視線が、ある方向に向かう。ここにも深い意味がありそうだ。

 脚本が映画作家でもあるガイ・ヒバート。プロデューサーから企画をもらったあと、主人公には黒人を設定しようと思い、オイェロウォを想定して書いたという。

 日本の放送局が買ってくれるといいのだがー。
by polimediauk | 2013-02-22 10:10 | 放送業界
c0016826_0364734.jpg 放送批評懇談会が出している雑誌「GALAC」3月号の海外メディア報告(リレー連載)のロンドン編に、ネット時代のメディア企業のトップの条件とは何かについて、書いています。

 先日、BBCを辞任した元会長がなぜだめなのかという観点から書いて見ました。もし書店などで見つかりましたら、ご覧ください。

***

 3月号の特集は「2012年 選挙報道を問う」。以下は見出しの一部。

「オセロ政権交代」をテレビはこう伝えた/砂川浩慶

地元局は選挙戦をどう報じたか?
[中部]国の真ん中発! 逆説・ローカル選挙報道/加藤吉治郎
[近畿]精一杯の工夫をこらした在阪広域局/辻 一郎
[沖縄]基地問題への関心に中央との隔たりあり/多田 治
[東北]宮城における低投票率の背景を映し出した/矢田海里

テレビの選挙報道 視聴者はこう見た

“争点”は適切に報道されたのか?
「公平・中立」のために、あるべき争点は隠された/斎藤貴男
post投票日に見えた争点報道のおかしさ/水島宏明


***

 この中で、「絶滅した?『放送と通信の融合』」(書き手は川喜田尚さん)という記事がある。ラスベガスの家電ショーの報告だ。

 これによると、スマートテレビの発展で、もはや「放送と通信の融合」は声高に言われなくなったという。米国ではもう現実化しているからだ。「先進的な国では、もう垣根がないといって過言ではない。日本も急ごう」。

 今、テレビ関係の話題の1つが、ネット上でのテレビ視聴のパイの奪い合い。先日、BBCが、ネット(PC、タブレット、携帯電話)で、テレビよりも先に番組を流す試みをやる、というニュースがあった。

 ネットにつながっている環境で、どんどん番組が流れるのが普通になってきている。ネット専門だったユーチューブも、こちらでは本格的に放送の分野に入ってきた。例えば、家庭にあるテレビのチャンネルの1つからユーチューブによる番組が放映されるのだ。このテレビは、別に「スマートテレビ」ではない。

 米国で大人気なのがネットフリックス(Netflix) というストリーミング・サービス。

 これはネット経由で番組を視聴できるサービス(DVDのレンタルもやっているが)だけど、米俳優ケビン・スペーシーを主人公として、「ハウス・オブ・カーズ」というテレビ映画を制作し、これをネットフリックス「のみ」で視聴できるようにした。13エピソードあるそうで、これを一挙に売りに出した。1つだけ見てもいいし、全部いっぺんに見てもいい。

 すべてのエピソードを部屋にこもりっきりで見る・・・という行為が一部で流行っている。

 私はすべてを一度に見ようとは思わないが、英国でもこのサービスが使えるので(毎月、一定の金額を払う仕組み。ちなみに調べたら、最初の月は無料だが、その後は月に5・99ポンド==約870円==とあった)近く、見てみるつもりだ。ネットフリックスの利用は初めてだ。つまり、私のような、映画に興味があって、スペイシーの映画も好きで、でもネットフリックスを利用したことがない人を、これで一気につかもうとしているわけである。

 なんだかますます、面白くなってきたなあと思う。

 
by polimediauk | 2013-02-13 00:54 | 放送業界
c0016826_16592449.jpg
 
(BBCの国際テレビ放送「ワールドニュース」の新スタジオ、BBC提供)

 英国放送協会(BBC)が、今月中旬、新たな国際ニュースの生成・発信の場を本格的にスタートさせた。

 BBCはこれまで、ニュースの制作を複数の施設で行ってきた。英国内向け、国際ラジオ放送「ワールドサービス」、国際テレビ放送「BBCワールドニュース」、ウェブサイト「BBCニュース」など、BBCのニュースと言っても、たくさんの出力先があるのだ。

 今は、BBCのすべてのニュースの編集・管理部門を一堂に集めた、巨大なニュース編集室(=「ワールドニュースルーム」)を作り上げ、稼動させている。今回は新ニュースルーム訪問記の(2)である。

 米CNNをはじめ、世界に向けて24時間ニュースを発信する放送局は、英国以外でも続々と生まれている。ニュースの世界地図の中で、BBCのワールドニュースルームはどこに位置し、何を目指すのだろう?

 ニュースルームの見学後、BBCの商業部門の1つ「グローバルニュースリミテッド」社(ワールドニュースとオンラインのBBCニュースの国際版「BBC.com/news」を管理)の関係者から、今後の戦略を聞いてみた。

***

ー「ワールドニュース」は日本では300万戸の家庭で視聴されている

 BBCの人気SFテレビドラマシリーズ「ドクター・フー」の登場人物のイラストがガラス製のドアに入った小部屋で、グローバルニュース社の配信責任者で、「BBCワールドジャパン」の代表でもある、コリン・ローレンス氏に話を聞いてみた。

 ローレンス氏によると、日本で国際テレビ放送ワールドニュースの放送を視聴できるのは、ホテルでの視聴者をのぞくと、約300万戸。

 日本での放送分(家庭ではスカパー!やケーブルテレビなどを通して視聴可)では、1日のうちに約18時間がロンドンと東京で日本語の同時通訳や字幕をつけた2ヶ国語放送となっている。

 同氏の職務の目標は視聴者を増やすことだが、既にBBCは知名度がある大きな放送局なので、「既存の視聴者にもっと頻繁に見て欲しい」。

 「インターネットが普及し、人々はさまざまな形でニュースを消費している。BBCのためにどれほどの時間を割いてもらえるのかで、ほかのメディアと競争をしている。視聴者の選択の幅は大きく広がっている」。

 BBCのウェブサイトによると、米ケーブルサービス、コムキャストとの契約によって、ワールドニュースはその配信先をワシントンDC,フィラデルフィア、シカゴ、ボストンなどの大都市に拡大している。欧州ではフランスやギリシャなどでも配信先を大きく増加させた。

 今後も米国での拡大に力を入れてゆくそうだが、携帯電話やタブレットなどで番組を視聴する人が増えており、「いかに新規のプラットフォームからマネタイズするか」に頭を悩ませているという。

 「個人的な意見」として、世界の24時間のテレビニュース市場に、日本がもっともっと出てきてもいいのではないか、という。「日本は世界にとって重要な国だが、『静か過ぎる』のではないか」。

 グローバルニュース社の最高執行責任者ジム・イーガン氏は今後をどう見るか?

 同氏によると、最終的な目標は、「BBCのニュースが世界の国際報道の究極的な基準となること」。なかなか、壮大な目標であると私は感じた。

 そのためには、「3つのR」戦略をとっている。「リーチ、レベニュー=収入、レピュテーション=評判」を高めることだという。「最も大事なのは評判だ」。 

 では、どうやって、BBCの報道についての評判を高めるのだろう?

 最初の鍵は「コンバージョン」(=変換)だという。「インターネットが始まったのは約20年前だ。当時、ネットとテレビ放送は2つの別々の存在だった。今は視聴者はネットでも番組を見る。ネット放送とテレビ放送とは今や一緒になった」。

 こうしたメディアの消費環境の変化に応じ、BBCも「ネットとテレビ受信機へ向けての放送とを区別せず、どちらも放送・配信対象としてやってゆく」。これは技術的な実務から、人の配置、番組放送予定など、ありとあらゆる局面が変わることを意味するという。

 次の鍵は、「ワールドニュースルームへの引越し」だったという。「最新の高度な報道技術が使える。3Dを利用したり、HD映像をこれまで以上に生成・出力できる。結果として、ダイナミックで高度に洗練された報道が可能になる」。

 ダイナミックな番組作りが、広告主を引き寄せ、配信提携先が増えることを期待しているのだ。

 そして、固有な存在となる、「ニュースルーム」自体も大きな鍵の1つだという。これは編集室の大きさそのものを指しているわけではない。イーガン氏が言うのは、人的資源の集積の貴重さだ。

 「ニュースルームで働くスタッフは、一人ひとりが独自の知見と情報を持つ、プロのジャーナリストだ。国際ラジオ放送ワールドサービスのスタッフは、それぞれの言語を話し、現地の事情に通じている。一人ひとりが担当地域の専門家でもある」。いわば、世界各地の知の集積が、このニュースルームなのだ。

 「これほどの規模と深みがあるリソースを持つニュースルームは、世界でもほかにはないと思うよ」とイーガン氏は誇らしげに語る。

 「今後5年間で、グローバルニュースが得る広告収入や配信収入を、30%増にしたい」と述べるイーガン氏。「強気すぎるのではないか」と聞くと、「そうは思わない。楽観的とは言えるかもしれないが」といって、笑顔を返した。具体的な数字目標を聞いたが、「商業部門なので、言えない」と口をつぐんだ(ちなみに、2011-12年の年次報告書によれば、BBCワールドニュースの営業利益は380万ポンド=約5億4200万円=を記録している)。

 現在のところ、BBCの国内放送向けの活動資金は厳しい状態にある。緊縮財政を実行する政府は、公的組織BBCにも予算削減を求めている(2013年から17年の間に7億ポンド分の削減)上に、2014年4月からは、政府からの交付金でまかなってきた、国際ラジオ放送のワールドサービスをBBCが「自力で」運営するように、決定されてしまった。テレビライセンス料(日本のNHKの受信料にあたる)で国内の活動費用をまかなっているBBCにとって、商業部門が生み出す利益は、国内外のBBCのジャーナリズムを支えるために大きな役割を果たすことになる。

 英語が国際的な言語として利用されるようになって久しい。英語による報道機関として世界でもトップを争う位置にあるBBCは、世界を俯瞰し、どこで何が起きているかを世界に向かって伝え、分析し、解説しているー今、この瞬間にも。

 BBCジャーナリズムの新たな活動拠点としてのワールドニュースルーム。24時間、活動停止がない知的頭脳の一端に触れた思いがした
by polimediauk | 2013-01-21 17:00 | 放送業界
c0016826_17304378.jpg
 
(BBCの「ワールドニュースルーム」、BBC提供)

 今月上旬、中東カタールの衛星テレビ放送アルジャジーラが、米元副大統領アル・ゴアが立ち上げた、ケーブル・テレビ「カレント・テレビ」を買収し、ニュース・ウオッチャーをあっと言わせた。世界のテレビ市場(広告収入および有料テレビ)で最大の規模を占める、米国への本格的な足がかりをこれで作ろうとしたと言われている。24時間のニュース放送局アルジャジーラは、もともとはアラビア語で始まったが、今は英語版もある。ライバルは米CNNや英BBCだ。

 24時間ニュースのテレビといえばCNN(1980年開始)が草分けだが、現在では世界各国に同様のサービスを行う放送局が発生している。

 世界のテレビニュース市場で覇権を握る戦いが続く中、ラジオ時代を入れると創立から90年を超える歴史を持つBBCが、今月14日、新たな国際ニュースの生成・発信の場を本格的にスタートさせた。

 BBCの事業は、日本のNHKのように視聴者から徴収する「テレビライセンス料」(NHKの受信料に相当)でまかなう国内向けの制作活動、広告収入と番組配信料で運営し、海外向け事業を担当する商業部門「BBCワールドワイド」、英外務省からの交付金が原資となる国際ラジオ放送「ワールドサービス」などによって構成されている。

 ニュースの制作は、これまで、英国内向け、ワールドサービス、国際テレビ放送「ワールドニュース」、ウェブサイト「BBCニュース」など、複数の施設で行われてきたが、今月中旬からは、BBCのすべてのニュースの編集・管理部門を、ロンドン・オックスフォード・サーカス駅から数分の「新ブロードキャスティングハウス」に一手に集め、巨大なニュース編集室(=「ワールドニュースルーム」)を作り上げた。かかった費用は10億ポンド(約1430億円)に上る。

 「新」というのは、1932年に建設された放送施設用ビル「ブロードキャスティングハウス」(日本での呼称は「報道センター」)の横に、拡張された形で建設されたビルだからだ。

 BBCのすべてのニュース部門が一箇所に結集されたことで、一体、どんな変化が起きるのだろうか?

 新体制に移行してから3日目、この「ワールドニュースルーム」を視察する機会を得た。そのときの模様を紹介したい。

―「6000人が働く」ニュースルーム

 ニュースルームの見学を出迎えてくれたのは、BBCの商業部門の1つ「グローバルニュースリミテッド」社のリチャード・ポーター氏。

 グローバルニュース社は昨年9月、ワールドニュース(国際テレビ放送)とオンラインのBBCニュースの国際版「BBC.com/news」とを統合管理するために創設された。

 ポーター氏が担当するのは、ワールドニュースとオンラインのニュースに加え、ワールドサービス(ラジオ)の英語版のコンテンツ作りと運用だ。

 ちなみに、24時間放送のテレビ・チャンネル、ワールドニュースは世界200カ国に配信されており、3億5000万戸の家庭や180万室のホテルの部屋、152の豪華客船、40の航空会社、23の携帯電話網で視聴できる。

 日本でも人気がある番組の1つが、テクノロジーを扱う「クリック」だが、ほかにも丁々発止のインタビュー番組「ハード・トーク」、ライフスタイル番組「トラベル・ナビゲーター」などがある。

 米CNNに相当する、英国の24時間の報道テレビが放送を開始したのは、1989年。衛星放送スカイテレビが最初だった。現在のワールドニュースの前身「BBCワールド・サービス・テレビジョン」の開局は1991年になる。

 セキュリティー担当者のチェックを受けてガラスの回転ドアの向こうに入ると、眼下に広がるのが、広々としたフロアに並ぶコンピューターのモニターやデスクだ。かつてのバブル時代の証券会社のフロアを思わせる。その巨大な光景に息を呑まずにはいられなかった。

 中央部には、天井部分から丸い輪が下がっている。「ハロー」(星の集まりおよびその周辺の光を発する物質から構成される薄い円盤状の構造)と呼ばれている。この下に位置する机にもたくさんのコンピューター・モニターが並び、忙しそうに画面に向かう人がたくさんいた。

 「この中で、最終的には6000人が働くことになる」とポーター氏。

 これまでは7つのビルにバラバラに存在していたニュース部門の記者や編集者らが一堂に集まるのだという。ハローの下にある机の集積部分には、ニュース生成過程のすべての情報が集まるようになっている。

 世界中に特派員を置き、24時間報道を実行するBBCにとって、情報を一箇所に集めることはとても重要だ。また、例えばテレビの記者がテレビ媒体にのみ情報を出すことはもはやなく、ラジオ、あるいはネット用にも出力することが求められるため、中央の情報集積が必須となってくる。

 スタッフは机に張り付いてばかりいるわけではなく、いざとなったらすぐに専門家の所に飛んでコメントをもらえるよう、余禄のカメラクルーもプールしてあるという。

 この日は、朝、ロンドン・ボックスホール駅近くでヘリコプターがビルに墜落し、新体制になってから、初の大きなニュースが勃発していた。あちこちに設けられたテレビモニターが映し出すのは、現場にいた市民が撮影したと見られる、ヘリコプターの一部が燃えている映像だった。

 ポーター氏によれば、事件・事故現場に出くわした市民がBBCに映像を自発的に送ってくるのが日常的になっている。こうした素材は「ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ」(UGC)と呼ばれ、その信憑性(情報提供者の本人確認、映像が真実を語っているかなど)確認のために、BBCは一定の人員をあてている。

 「確認作業をすれば時間がかかるが、どんなときにも、BBCとして、正確で、信憑性の高い報道を行うことが大事だと思う」(ポーター氏)。

 フロア内をピンクの上着姿の人が時々、歩いていた。「新体制に移行して間もないので、技術的な疑問を持っているスタッフがまだ多い。助けてくれるサポートの人たちだよ」。

 ヘリコプター事故の様子を伝える、ワールドニュースの司会者の姿がモニターの1つに映る。ワールドニュースは英国外向けのテレビ放送となるが、「BBCは英国の放送局なので、今回のような事故は国内のニュースであっても、国際放送で伝えている」。

 テレビモニターがいくつも並ぶ、コントロール・ルーム。あるモニターの中では数人の人物が歩き回り、その周囲を緑のシートが覆っている。緑のシート部分には、3Dを含むさまざまな映像を入れ込むことが可能だ。ポーター氏は、例えば日中の尖閣諸島問題の説明に、周辺の地形を3D化した映像を組み込んだという。

 「どんなセットもこれで作成が可能になった」ー。「ハード・トーク」の収録に、これまでは「本当の家具を周囲に置いていた」。これからは、司会者とインタビュー対象者以外は、「本物でなくても良くなった」。

 新設の放送施設は、地上9階、地下3階の建物で、地下の1つにあるのが、ワールドニュース用の「スタジオB」。引越しの前までは、西ロンドンにある放送施設「テレビジョン・センター」の小型スタジオを使っていた。新スタジオは司会者が座る席の後ろに、横長の大きなスクリーンが設けられている。動画、静止画、グラフィックなどを強いインパクトを与える形で映し出せるという。

 ポーター氏によれば、狙いは「ダイナミックなプレゼンテーションによって、BBCが視聴者を重要に思っているというメッセージを伝えること」。主力ニュース番組「GMT」は英国時間では昼の放送開始だが、日本では時差の関係で午後9時ごろになる。重みのあるニュースが日本に住む視聴者に伝わることを望んでいるという。

 地上5階の一角にあるのが、27の言語で放送される、ワールドサービスのオフィスだ。机とモニターが並ぶ中に、ミニスタジオが散在する。あるスタジオの予定表を見ると、「ブラジル、ウズベキスタン、ロシア・・・」という順番が書き込まれていた。

 BBCの国際ラジオ放送は1930年代に始まったが、最近はラジオよりもテレビで見たいという人も増えているため、各地域の地元テレビ局との協力で、番組作りを始めているという。

 ラジオのワールドサービスと、テレビ放送のワールドニュースのスタッフとが協力して作っているのが、「フォーカス・オン・アフリカ」(「アフリカに焦点を置く」)だ。1つの横長のデスクを、シェアしながら使っていた。

 「こういう共同作業がしやすくなったのも、ニュース部門が一堂に集まったからこそだ」という。

 テレビ放送は英語だが、世界の複数の言語で、「地元の声を入れた報道をBBCニュースという1つのブランドの中で発信できるのが強みだ」。

ー視聴者のために番組作り

 世界に向けてのテレビ放送というと、米国ではCNNが著名だ。アラブ世界ではアラビア語ばかりか、英語でも放送をするアルジャジーラ(アラビア語は1996年、英語は2006年開局)がある。フランスでも、24時間ニュースのテレビ局として、フランス語、英語、アラビア語で放送する「フランス24」(2006年開局)があり、ロシアには「ロシア・トゥデー」(2005年開局、英語、ロシア語、スペイン語、アラビア語でも放送)がある。

 BBCの国際放送は、上記のほかの放送局とどこに違いがあるのだろうか?また、英国内の放送業の巨頭BBCが、商業部門を持つ必要はあるのだろうか?

 ニュースルームの視察を一通り終えた私は、ポーター氏にそんなことを聞いてみた。

 「BBCの基本は、公共サービスの提供者であること」、と同氏は話しだす。

 「BBCの商業部門は広告で運営されているけれども、その収益をBBCの活動のために戻している。これがBBCのジャーナリズムに投資されている」。

 実際に、2011-12年度のBBCの年次報告書によると、商業部門BBCワールドワイド(国際テレビ放送BBCワールドニュースの広告業務を委託されている)は、約2億ポンドを、BBCの国内向け放送のために「戻して」いる。前年比では19%の増加だ。

 BBCの存在目的は「株主の利益を拡大するためではなく、政府に仕えるためでもない。私たちは、視聴者のために活動している」(ポーター氏)。

 世界のニュース報道市場にはさまざまな参加媒体がいるが、「視聴者のために活動」という部分が、BBCが信頼を得ている理由ではないか、と同氏は言う。(続く)
by polimediauk | 2013-01-20 17:28 | 放送業界
 故・人気司会者ジミー・サビルの制犯罪疑惑に端を発し、BBCが揺らいだ。疑惑に関連した調査報道番組での誤報をきっかけに、経営陣トップが辞任。誤報以前には、疑惑を調査していた番組が放送中止となった一件があった。後者の件について、調査報告書が今週、発表される予定だ。

 疑惑報道の発端からこれまでについて、週刊「新聞協会報」12月4日発行号に寄稿した。その後の新情報も含めて、以下に掲載したい。(記事中では敬称略。)

***

英BBC危機の実態と教訓
―疑惑と誤報で崩れる名声  取材の初歩、おろそかに


 英国放送協会(BBC)が、批判の矢面に立つ日々が続いている。きっかけは10月上旬に広く知られるところになった、BBCの元人気司会者ジミー・サビル(故人)による、未成年者に対する性的暴行疑惑だ。

 昨年末、この疑惑について調査を行っていたBBCのテレビ番組「ニューズナイト」が、急きょ、予定番組の放映を中止したことが分かった。BBCが同氏の素行を隠ぺいした疑いが出た。

 追い討ちをかけるように、同番組は今年11月初旬、別の性的暴行疑惑について誤報を出した。BBCへの国民の信頼は下落し、経営陣トップが引責辞任する事態となった。

 事態の拡大を時系列で追いながら、BBCの危機の実態と教訓を考える。

―解明への初動遅れる

 昨年末から年頭にかけて、BBCは慈善活動家としても知られたサビル氏の功績をたたえる複数の番組を放映した。同時期、調査報道で知られる「ニューズナイト」はサビル氏が児童を性的に虐待していたとする番組の制作を進めていた。放送予定になっていたものの、11月末、直前で中止となった。

 今年年頭から、「ニューズナイト」の番組放映中止が一部新聞で報道されていたが、10月上旬、民放最大手ITVがサビルの虐待疑惑を番組化して放映したことで、BBCでの同様の番組の放映中止が大きくクローズアップされた。

 10月2日、「ニューズナイト」の編集長ピーター・リッポンはBBCのウェブサイトに設置されたブログで、BBCによる「事態隠ぺいはない」、「編集上の理由で」放映を中止したと説明した。

 翌3日、ITVは犠牲者らのインタビューが入った、サビルの番組を放送。「自分も虐待にあった」と警察に連絡をする人が出てきて、本格的な捜査が始まった。

 12日、ジョージ・エントウイッスルBBC会長(当時)は記者会見を開き、「ニューズナイト」の番組放映中止問題とサビルの性犯罪疑惑解明のための調査を実施すると発表した。ITVの番組放映から9日後で、活発な24時間報道体制が機能する英国では、遅い決断と見なされた。

―「知らない」で通し、辞任へ

 23日、会長は、下院の文化・メディア・スポーツ委員会の公聴会に召喚され、サビル問題について質疑を受けた。同氏は今年9月中旬、会長職に就任したばかり。前職はBBCビジョン(テレビ部門)の統括者で、問題となったサビルの追悼番組を含むテレビ番組すべてを監督下に置いていた。

公聴会で、エントウイッスルは昨年時点でサビルの性犯罪疑惑に関する番組についてほとんど知らなかったと述べた。疑惑発生後にも番組の関係者と直接話をしていなかった。その理由はBBCの組織が「階層的になっている」ため、つまり、現場に会長の自分が直接連絡をする仕組みになっていないためだという。「知らない」「分からない」の連発の答弁であった。

 前日22日にはBBCの調査報道番組「パノラマ」(テレビ)が、サビル報道の放送中止の経緯を関係者への取材を通して明らかにした。浮かび上がったのは経営陣による現場掌握の不完全さや「ニューズナイト」の編集責任者と制作スタッフとの意思疎通の悪さであった。

 11月上旬、ニューズナイトの制作スタッフは、新たな性的暴行疑惑に関する番組を準備。共同制作者となった非営利組織「調査報道局」の編集長イアン・オバートンは、2日午前中、「大物政治家で児童性愛主義者についての番組が今晩、『ニューズナイト』で放映される」とツイートした。午後1時過ぎ、元「ニューズナイト」の記者で現在は民放チャンネル4のマイケル・クリック記者が「『大物政治家』は主張を否定。BBCを名誉毀損で訴えるという」とツイートし、事実誤認の可能性を指摘した。これと前後して、「政治家」とは保守党政治家アリステア・マカルパインである旨のツイッターが多数流れた。

 2日夜の番組で「ニューズナイト」は、1980年代、ウェールズ地方で発生した性的暴行疑惑を犠牲者のインタビュー付きで放映し、加害者の一人が当時の大物政治家である疑いを報じた。番組は加害者の名前を明らかにしなかったが、放送後に「政治家」とは保守党政治家アリステア・マカルパインンであることがツイッターで多数流れた。

 8日、ガーディアン紙が電子版で(紙版では9日付1面)、BBCが嫌疑をかけた人物はマカルパインではないとする記事を出した。翌9日、犠牲者自身が暴行を行った人物はマカルパインではないことを認め、同氏に謝罪。「ニューズナイト」も番組内で謝罪した。「ニューズナイト」は、マカルパインの写真を犠牲者に見せて本人確認をすることを怠り、同氏に返答をする機会を事前に与えていなかったことが後に分かった。

 10日、BBCラジオの朝の時事番組「トゥデー」に出演した会長は、司会者ジョン・ハンフリーズからサビルや誤報事件について取材を受けた。辞任の可能性については、「十分にやることはやった」と答えた会長だったが、誤報を出した番組を当日は見ておらず、事実誤認を指摘した一連のツイートの存在を認識していなかった。ガーディアンの1面に掲載された関連記事も読んでいなかった。「すべての番組や言論を確認できない」と説明したものの、「番組を見ず、ツイートに気づかず、新聞も読まない」と司会者に評された後、メディア組織のトップとしての地位は大きく揺らいだ。その夜、会長は辞任を発表した。

 12日、「ニューズナイト」による誤報の経緯を調査していたBBCスコットランドの責任者は、「番組内容に誰が最終的に責任を持つかがあいまになっていた」ことを混迷の原因として挙げた。

 BBCはマカルパインに対し、誤報による名誉毀損で賠償金18万5000ポンド(約240万円)を払う羽目になった。マカルパインは、疑惑を報じたITVの番組とも賠償金12万5000ポンドを受け取ることで合意した(11月8日、ITVの朝の情報番組内で、生出演中だったキャメロン首相に、司会者の一人が「ネット上で児童性愛主義者として名前が挙がった人のリスト」を手渡し、コメントを求めた。リストには保守党政治家などの名前が並んでいた)。

 さらに、ツイッターで名前を特定した人のうち、影響力が強いと思われる人も訴えるという。12月中旬、マカルパインは、下院議長夫人で、活発なツイッター利用者であるセーラ・バーコウに対し、名誉毀損の損害賠償として5万ポンドの支払いを求めていることを明らかにした。

 一連の事態の教訓は少なくとも2つある。「メディア組織の幹部は瞬時の判断を求められる」、そして「取材の初歩をどんな状況下でもおろそかにするべきではない」。後者は番組および組織の名声を一瞬にして崩壊させるばかりか、トップの首を飛ばす可能性があるのだ。

***

 12月12日、ロンドン警視庁が発表したところによると、ジミー・サビルによる性犯罪疑惑事件で、同氏に性的虐待を受けたと申告した人の数は450人に上った。また、同氏の関係者による虐待の申告までを含めると、589人になるという。

 申告者のうち、82%が女性で、80%が児童・未成年者だった。

 サビル氏関連の性犯罪捜査は10週間前に開始され、30人の捜査員が関与。これまでの捜査費用は200万ポンドに上っている。

 性犯罪の疑惑件数はこれまでで199件となり、31件がレイプ疑惑だ。

 サビル氏事件に関連して、性犯罪疑惑で逮捕された著名人は、PRコンサルタントのマックス・クリフォード、コメディアンのフレディー・スター、DJのデイブ・リー・トラビス、タレントのゲーリー・グリッターなどがいる。
by polimediauk | 2012-12-16 21:38 | 放送業界
c0016826_22222078.jpg
 
(一日の平均的な「画面」利用 コムストア調べ)

 「テレビはつまらない」-そんな会話を日本語のネット空間で時々、目にする。

 しかし、近年、テレビというメディアが見直されてきたような気がする。決して古色蒼然とした存在ではない。

 夏のロンドン五輪がその一例だ。ウェブサイトと24の追加チャンネルを駆使して、英BBCは、数千時間にものぼる全競技を生放送して見せた。テレビ画面を追いながら、白熱する競技の進展やその結果についてソーシャルメディアで情報を交換し合うのは、スリリングな体験だった。

 デジタル・メディアの1つとなったテレビの将来を探る会議が、今月上旬、ロンドンで開催された(「デジタル・テレビ・サミット2012」、主催はメディアの調査会社インフォーマ・テレコムズ・メディア社)。英国や欧州各国の状況を、紹介したい。

―ソーシャルテレビに注目

 テレビとソーシャルメディアを組み合わせる「ソーシャルテレビ」が、今、注目を浴びている。

 テレビ番組を視聴しながら、友人や知人同士でフェイスブックやツイッターなどで情報交換をする、番組側の呼びかけに応じて情報を送る、指定されたハッシュタグを使いながら意見を述べるなど、双方向性がある視聴が楽しめる。

 こうした視聴方法は、テレビを「第1の画面」とすると、いわば「第2の画面=セカンド・スクリーン」、つまりは携帯機器(携帯電話、タブレットなど)が広く普及したことで注目されだした。

 第1の画面と第2の画面をどうつなげば、どんな視聴が可能になるのか、あるいはどんなビジネスチャンスがあるのか?試行錯誤が続いている。

ーツイッターを見てから、番組を視聴

 会議のスピーカーの一人、ツイッター英国のダン・ビデル氏によれば、英国の利用者は1000万人を超える。つぶやきの40%は、夜のゴールデンタイムに発信されているという。ツイッターでの評判を見てから、どの番組を見るかを決めるという人が76%もいる。

 具体例としては、有名人数人がジャングルなどの過酷な状況で生活する様子をドキュメンタリーとして描く「私は有名人、ここから出してくれ」という番組(英国の民放ITV放送のシリーズ物、最新は11月11日から12月1日まで放送)の場合、生放送中に番組のハッシュタグを作り、利用者にツイートしてもらったところ、番組終了までに44万を超えるツイートがあった。

 数人を一つの部屋に入れ、カメラがその様子を監視する「ビッグブラザー」米国版でも、誰が部屋から退出するべきかをツイートしてもらったところ、6万5000以上のツイートが出た。

 「ツイートと番組の相乗効果で、ツイッターおよび番組の認知度が上がった」(ビデル氏)。これを基にして、例えば、ツイッター社では広告のリーチを広げることができたという。

 英放送局が新たな広告収入源として力を入れているのが、番組のオンデマンド・サービス(再視聴サービス。デジタルテレビあるいはネット上で利用可)だ。

 このサービスを、いち早く2006年から提供しているのが、英民放チャンネル4だ。英国のテレビ局大手は公共放送BBC,民放ITV(最大手)、民放チャンネルファイブなどがあり、チャンネル4は「異なる視点」をキャッチフレーズに番組を制作している。

 チャンネル4のオンデマンドサービスは「4oD」(フォー・オー・ディー)という名称がつけられている。登録しなくても利用できるものの、チャンネル4は利用者に登録を勧めている。目下、600万人が登録中だ。登録者のなかで44%がオンラインでの視聴だった(チャンネル4担当者セーラ・ミルトン氏)。

 サービスについてのメールを週に一度発信しており、このメール内にあるアドレスをクリックすることで番組をネット視聴した人の数は月に30万人に上る。今年1年で、ネット視聴用にストリーム放送した番組コンテンツは5億を超えたという。

 特筆すべきは、4oDの若者層へのリーチ率だ。ミルトン氏によれば、このサービスを通じて、チャンネル4が英国内の16-24歳の30%に届くようになっているというのである。

 チャンネル4は動画の中に入れる広告の出し方(例えば視聴者のプロフィールによって出す広告を変えるなど)について、実験中だ。

ー英国のネット利用は19%が携帯機器から

 世界のインターネットの利用を見ると、米コムストアの「グローバル・インターネット・オーディエンス」(15歳以上の利用者、昨年10月から今年10月。以下もコムストア資料)では、ダントツがアジア太平洋地域の6億2900万人(前年比6%増)、これに続くのが欧州の4億500万人(8%増)、北米2億1400万人(1%増)、中東・アフリカ1億3500万人(8%増)、ラテンアメリカ1億3000万人(3%増)。

 欧州のネット利用者の中で、携帯機器(タブレット、携帯電話など)を使ってネットを閲覧している人の割合が最も高いのが英国(18・7%)。これにドイツ(7・5%)、イタリア(7・1%)、フランス(5・7%)、スペイン(4・7%)が続く。

 日本同様、英国でもテレビはほとんどの人が視聴する媒体だ。スマートフォン、PCなど、何らかの形でインターネットを利用する人の大部分がソーシャルメディアを利用している。

 ソーシャルメディアのリーチが95%にまで上昇するのが、15歳から24歳の若者層。スマートフォンを使ってのソーシャルメディア利用では51%対49%の割合で女性がやや多い。これがタブレットになると、54%対46%で男性がより多くなる。

 英国のタブレット利用者の年齢別内訳は55歳以上が22.8%、これに25-34歳(21・4%)、35-44歳(18.7%)、45-54歳(15・4%)、18-24歳(14・3%)、13-17歳(7・4%)。高齢者の比率が意外と高い。

 1日の携帯機器の利用状況を見ると、朝はスマートフォンの利用率が高く、昼は仕事で使っている人が多いためか、PCの利用率が高まる。午後8時以降は、自宅でタブレットを使う人が増えてくる。

 機器が何であれ、「画面」を見ている時間はどんどん増えている。コムストアの調べでは、テレビの視聴が1日に4時間強、これにタブレットやスマートフォン、PCを入れると、8時間30分にも到達するという。

 画面を制するものがビジネス上の勝者となるのだろう。

 コムストアのグレッグ・デイリー氏は、「デジタル人口の85%がソーシャルネットワークを使っている」、「オンライン上の行動の5分に1分はソーシャル関連」と述べる。

 「ながら視聴で携帯機器を操る人々も取り込むことができる、ソーシャルテレビには、大きな可能性があると思う」。
by polimediauk | 2012-12-12 22:22 | 放送業界
c0016826_22404411.jpg

豪メディアで心境を語る2人のDJ (豪ABCのウェブサイトより)


 英キャサリン妃がつわりで入院していたロンドンの病院に、オーストラリア・シドニーのラジオ局のDJらがいたずら電話をかけ、その数日後に、電話を取り次いだ看護師が亡くなった事件の続報である。

 なぜ看護師が亡くなったのかは、正式に発表されているわけではないが、警察がその死に「不審な点は見られなかった」ということなので、他殺ではないということだろう。もし事故死でもないとしたら、「自殺」という説が今のところ有力だ。電話取次ぎを苦にしたのかどうかは、分からない。

 4日、ラジオ局「2DAY FM」の2人のDJメル・グレイグとマイケル・クリスチャンは、それぞれ英エリザベス女王、チャールズ皇太子であるふりをして、キング・エドワード7世病院に電話をかけ、キャサリン妃の容態を聞きだした。看護師は最初に電話を取り、これを同妃の病棟にいる別の看護師に転送した。自分自身がキャサリン妃の容態をDJらに語ったのではなく、単に電話を取り次いだだけだ。しかし、容態を外に漏らす過程に、はからずも加担してしまった格好となった。

 7日、最初に電話を取った看護師ジャシンサ・サルダナさん(46歳)が、ロンドンの病院近くで亡くなった。


 9日と10日のオーストラリアでの報道や英BBCの報道によると、「2DAY FM」の親会社サザン・クロス・オーステレオ(SCA)は、いたずら電話の会話を放送した番組「HOT 30」を中止することにしたという。

 これ以前に、電話をかけた2人はラジオ局への出演を無期限で停止されている。

 SCA側は、いたずら電話の放送は「法律違反ではなかった」としながらも、「放送方針、過程を抜本的に見直す」(SCA社の声明文)としている。

 放送前に、ラジオ局の制作チームがキング・エドワード7世病院に「数回」連絡を取ったそうだが、病院側の返答はなかったという。

―涙ながらに語るDJたち

 2人のDJは10日、オーストラリアの複数の放送メディアに登場し、「ひどいショックを受けた」、「悲しくて仕方ない」などと述べた。

http://www.abc.net.au/news/2012-12-10/tearful-apology-from-devastated-presenters/4419798

 豪テレビ「チャンネル・ナイン」に出演したクリスチャンは、「電話をかけようと思ったとき、30秒ほどで電話を切られてしまうだろうなと思っていた。本当に無邪気なものだった」。

 グレイグは、「これまでにも何百人もの人たちが(同じことを)やっているんだろうなと考えたわ。(王室のメンバーのふりをして電話をかけるなんて)とても馬鹿げたアイデアだし、私たちの発音はめちゃくちゃだから、ケイト(キャサリン妃)と話せるところまでいくなんて、ちっとも思っていなかった。ましてや、病院の人と話せるなんて。すぐに電話を切られるだろうと思っていた」。

 2人が看護師の死を聞いたのは、8日の朝だった。

 「これまでの人生で最悪の電話だった」(グレイグ)

 「ひどいショックだった、胸が張り裂けそうだった」、亡くなった看護師の「家族や友人たちに心からお悔やみを述べたい」(クリスチャン)。

 また、「いたずら電話は毎日のように、どこの国のラジオ局でも行われている」、「誰もこんなことが起きるとは予測できなかったと思う」(クリスチャン)。

 豪チャンネル・セブンの「トゥデー・トゥナイト」に出演したグレイグは、「電話がかかってきたときのことをよく覚えている」、「最初に頭に浮かんだのは、『子供を持つ母親なのだろうか?』だった」。(実際に、亡くなったサルダナさんには2人の子供がいる。)

 グレイグはまた、同番組の中で、今回のいたずら電話の企画を思いついたのは自分だったと認めた。

 収録の後、放送までの間にラジオ局で異論を挟んだ人はいなかったという。「議論はなく、いつも通りの作業だった」。制作チームがいて、DJたちは「録音をした後は、ほかの担当者に渡すだけ」(グレイグ、チャンネル・ナインの番組で)。

 2人は「2DAY FM」への出演の道を閉ざされ、担当していた「HOT30」も中止になった。

 グレイグは、自分もクリスチャンも「自分のキャリアの行方については、今考えていない。もっと大きくて、逼迫した問題がある。それは看護師の家族がこのつらいときを乗り切られるようにすることだ」と述べた。

 オーストラリアの公共放送ABCのコラムニスト、ジョナサン・ホームズは、2人のDJは今回の悲劇について責められるべきではないと書いた。責められるべきは、親会社の規制体制だ。

http://www.abc.net.au/news/2012-12-10/holmes-an-unforeseeable-but-not-unaccountable-tragedy/4418942

 ホームズは、最初にこの放送のことを知ったとき、「害のない、かなり笑える」内容だ、と思ったそうだ。英メディアはプライバシーの侵害として書いているが、すでにキャサリン妃がつわりで苦しんでいることは正式発表されていたし、それ以上の情報はなかった。

 どこが「笑える」ジョークだったのか?

 ホームズによれば、まずその「悪意のなさ」だ。「あれほど誰にも嘘と分かる電話を病院側がまじめに受け取ったこと」。電話を取った看護師は、「女王が電話したと信じたがためにびっくりしてしまい、通常の判断能力がどこかに行ってしまった」、DJたちが言及した、女王がかわいがる犬のジョークも「畏怖のベールを突き抜けることができなかった」。

 ホームズは、亡くなった看護師が電話取次ぎを苦にして自殺したかどうかはまだ証明されていないとした上で、実際にキャサリン妃の容態を電話で伝えたのは、この看護師ではなく、別の看護師であったと指摘する。「驚くような治安侵害」とする英メディアの報道は行き過ぎではないか、と。

 しかし、これを機にいたずら電話の対応に関する法律、規制を見直すのは一理ある、という。

 英放送監督機関オフコムの規則によれば、「いたずら電話は」、「娯楽を与えるという目的に欠かせないものであり、重大なプライバシー侵害にならないもの」であれば許されるが(若干、言葉を省略)、「関係者の同意が必要」としている。今回は、キャサリン妃側の同意を取っていないケースだ。

 オーストラリアの商業ラジオ規定によれば、「識別できる人物」の声を録音し、その人物の許可なく放送する場合、「放送前に、当人が許可を与える」時にのみ放送できる、とあるそうだ。

 ホームズは「2DAY FM」が放送前に病院側に数回電話をかけたというが、「もし電話していたら、放送は不可になっていただろう」という。病院側が放送を了承するはずがないからだ。

 SCAが「どんな法律も破っていない」と主張するのは、ホームズが推測するところでは、看護師たちが「識別できる人物」にはならないという考えたからだ。番組内では看護師たちの名前は出なかった。そして、シドニーでの放送においては、識別できる人物とは見なされなかった。

 しかし、英国メディアで報道後、英国の病院関係者にとっては、人物が特定されてしまった。

 プライバシー保護については、先のオーストラリアの放送規定によれば、放送業者は「公益がある」という場合にのみ、個人のプライバシーを侵害するような情報を放送できる、とある。

 今回のケースはこれに相当するというには難しいだろう、とホームズは言う。というのも、この規制は報道番組を対象にしており、純粋な娯楽番組「HOT 30」は、実は対象外となるからだ。

 しかし、シドニーを州都とするニューサウス・ウェールズ州では、電話を含め、私的な空間での会話を録音し、これを無断で放送することは違法だ(監視装置法)。オーストラリアからすると外国である英国での電話の会話を録音し、オーストラリアで放送するのは合法なのかどうか、ホームズは疑問を投げかける。

 ホームズは、今回の放送は、オーストラリアの放送業者の規定を無視した可能性があると指摘している。

―「自殺の理由は複雑」

 一方、困難を抱えて自殺を考えている人の相談を受ける、英慈善団体「サマリタンズ」のキャサリン・ジョンストンによると、「自殺は複雑なものだ」(BBCウェブサイト)。

 「自殺を引き起こす要因は明白のように見えるかもしれないが、自殺はたった一つの要素や出来事では決して発生しない。複数の原因がある」。

 「人は、もう自分では処理できない状態にまで陥ることがある」、「一人でいる場合は状況が悪化する。心にひっかかっていることについて、誰かに話すことができないからだ」という。

 サマリタンズは24時間、年中無休で電話や電子メールで相談を受け付けている。

ーーーー

そのほかの関連動画 (日本で全部見れない可能性もあります。ご了承ください。)

'Shattered' DJs discuss prank call tragedy
http://www.abc.net.au/news/2012-12-10/under-fire-djs-discuss-prank-call-tragedy/4419488

Duchess hoax: Australian presenters 'gutted and heartbroken'
http://www.bbc.co.uk/news/uk-20663570
by polimediauk | 2012-12-10 22:43 | 放送業界
c0016826_19234130.jpg
 
(2人のDJの写真、シドニー・モーニング・ヘラルド紙のウェブサイトから)

 キャサリン妃がつわりで入院していたロンドンの病院の女性看護師が、7日、亡くなった。これが今、大きなニュースになっている。

 というのも、この女性(ジャシンサ・サルダナさん、46歳)は、4日、オーストラリアのラジオ局「2Day FM」のDJらによるいたずら電話を最初に受けた人物。キャサリン妃のいる病棟に取り次いだことで、同妃の容態にかかわる情報が外に漏れてしまったのだ。

 7日朝、通報を受けて警官がロンドンのウェイマス・ストリートの住所に行ったところ、サルダナさんが意識不明状態となっており、その場で息を引き取った。詳しい死因などは公表されていないが、ロンドン警視庁は「不審な点は認められなかった」としており、一部では、いたずら電話を取り次いだことを苦にした自殺説も出ている。

 8日朝時点で、サルダナさんがなぜ亡くなったのかは、不明だ。ただ、いたずら電話の一件で相当の恥ずかしさ、ショック、罪悪感などに悩まされていたと見るのは、自然だろう。ただし、繰り返すが、これが直接の引き金だったかどうかは、まだ分からない。病院側はサルダナさんに懲罰的な処分を下しておらず、英王室側も病院に苦情を出していないという。

 死因が不明でも、ラジオ局の親会社「サザン・クロス・オーステレオ」(SCA)側は動き出さざるを得ない。情報がネット上で急速に展開してゆくからだ。

 サルダナさんの死が報道されると、SCAのフェイスブックのページにはラジオ局やDJ2人への批判が殺到。キャサリン妃が住む英国のツイッター界ではDJ2人を追放するべきという声が相次いだ。2人のツイッターアカウントは、現在までに閉鎖されている。

 SCAは声明文を発表した。サルダナさんの訃報に「大きな悲しみ」を表明し、「ショック状態にある」DJ2人が、今後、「追って通知があるまでは」、局の番組には登場しないことを明らかにした。

―DJたちを守るべきという人も

 まず、事件の概要を振り返ると、いたずら電話事件が発生したのは4日午前5時半ごろ。エリザベス女王を装った「2Day FM」のDJメル・グレイグが「私の孫娘のケイトと話せるかしら」とエドワード7世病院に電話をかけた。この病院は王室が頻繁に利用している。

 同じ番組のDJマイケル・クリスチャンがチャールズ皇太子に成りすまし、グレイグとともに、病院側からキャサリン妃の容態を聞くことに成功した。

 当初、「2Day FM」側は、一連の電話の会話をウェブサイトで紹介するなど、「冗談がうまくいった」というスタンスであった。

 一部始終はこのアドレスに記録が残っている。 http://www.cbc.ca/news/world/story/2012/12/07/wrd-london-nurse-death-prank-transcript.html

 しかし、サルダナさんの死、それも自殺である可能性が報じられると、事情が変わってきた。

 オーストラリアの公共放送ABCのウェブサイトなどによると、「2Day FM」の親会社SCAは、8日の時点で、ラジオ局への広告をすべて停止する決定を行っている。停止措置は、少なくとも10日まで続く。マーケティング評論家アダム・フェレルによると、スポンサーからの非難を未然にかわすための措置だという。既に、一部のスポンサー、例えばオーストラリア最大の通信会社テルストラやスーパーのコールズが広告停止を宣言している。

 SCAの広報によると、同社のフェイスブックから、「2Day FM」の表示も消す、という。「『2Day FM』によるいたずら電話の事件が悲劇的な結果に終わったことで、オーストラリア国民が怒り、衝撃を受けていることを理解している」(広報)。

 8日、記者会見を開いたSCAの最高経営責任者(CEO)リース・ホレランは、「予想できなかった悲劇で、非常に悲しい思いをしている」と述べた。「今朝、DJ2人と話したが、2人とも大きな衝撃を受けている」、「2人は機械ではない、人間だ。私たち全員が(看護師の死に)影響を受けている」。

 記者団に放送は法律を違反していたのではないかと聞かれ、ホレランCEOは「いかなる法律も破っていないと自信を持っている」と答えた。「ラジオの1手法として、いたずら電話は何十年も前から行われているー世界中で使われている」。

 オーストラリアのメディア通信監督局(ACMA)は声明文を発表し、今回のいたずら電話の一件を調査すると述べた。

 ABCによると、「2Day FM」は過去に、ACMAから放送内容について警告を受けたことがあるという。その一例は、14歳の少女にレイプされた体験を番組内で告白させ、地元コミュニティに怒りを引き起こした件だ。

 いたずら電話を行ったDJ2人に対する批判が、看護師サルダナさんの死後、殺到しているが、2人を弁護するオーストラリアの知識人も少なくない。

 うつ病や精神障害に苦しむ人を支援する豪非営利団体「ビヨンド・ブルー」の代表ジェフ・ケネット氏は、オーストラリア国民に対し、2人のDJを支えるよう呼びかける。「2人は人に危害を与えようと思ったわけではない」、「現在、2人には大きなプレッシャーがかかっている」。

 看護師の死は「大きな悲劇だが、大げさに考えすぎないことだ」。

 「いつかは2人は表に出てくる。そのとき、メディアは2人に余裕を与えるべきだ」、「このひどい2-3週間をしのぐためのプロとしての支援を与えるようにするべきだ」。

 豪テレビ局チャンネル9の司会者トレーシー・グリムショーは、DJ2人がソーシャルメディア上で怒りの対象となったことに触れ、「若いDJをいじめることで、看護師の悲劇的な死をさらに悪化させないで欲しい」。

 英国のメディア報道を非難する声もある。

 トラウマの分析を専門とする心理学者ポール・スティーブンソンは、単なるいたずらが英国のメディアによって扇情化されたと指摘する。「どうやってこの看護師が亡くなったのかまだ分からない」、「個人的悩みを抱えていたのかもしれない」。

 ある意味では、DJたちが「犠牲者」なのだ、という。「こんな結果を呼び起こすとは思っていなかったのに、責任を負わされている」。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙のジル・スターク記者は「取材相手が自殺するとき」と題する記事を書いている(8日付)。

 スタークの懸念はDJたちの健康状態だ。自分自身が、何年か前に、取材をした相手が自殺した経験があるのだ。その人物は人を癒す力があるふりをしながら、何人もの女性を性的餌食としていた。これを暴露した記事を書いたのがスターク記者。

 自分が記事を書いたから、その男性が自殺したとは必ずしも言えないが、もし記事が出ていなかったら、「まだ生きていたのではないか」と思うそうだ。「罪悪感はいまだに消えていない」。

 ジャーナリストやラジオのDJが誰かを取材するとき、相手にどんな背景があるのかをすべて知ることはできない。取材対象を守ることは取材をお願いする側の義務としても、「時として、どれほど善意でも、入念な事前チェックを行っていても、悲劇的な結末となることはある」と結んでいる。
by polimediauk | 2012-12-08 19:23 | 放送業界