小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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カテゴリ:放送業界( 162 )

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(2人のDJの写真、シドニー・モーニング・ヘラルド紙のウェブサイトから)

 キャサリン妃がつわりで入院していたロンドンの病院の女性看護師が、7日、亡くなった。これが今、大きなニュースになっている。

 というのも、この女性(ジャシンサ・サルダナさん、46歳)は、4日、オーストラリアのラジオ局「2Day FM」のDJらによるいたずら電話を最初に受けた人物。キャサリン妃のいる病棟に取り次いだことで、同妃の容態にかかわる情報が外に漏れてしまったのだ。

 7日朝、通報を受けて警官がロンドンのウェイマス・ストリートの住所に行ったところ、サルダナさんが意識不明状態となっており、その場で息を引き取った。詳しい死因などは公表されていないが、ロンドン警視庁は「不審な点は認められなかった」としており、一部では、いたずら電話を取り次いだことを苦にした自殺説も出ている。

 8日朝時点で、サルダナさんがなぜ亡くなったのかは、不明だ。ただ、いたずら電話の一件で相当の恥ずかしさ、ショック、罪悪感などに悩まされていたと見るのは、自然だろう。ただし、繰り返すが、これが直接の引き金だったかどうかは、まだ分からない。病院側はサルダナさんに懲罰的な処分を下しておらず、英王室側も病院に苦情を出していないという。

 死因が不明でも、ラジオ局の親会社「サザン・クロス・オーステレオ」(SCA)側は動き出さざるを得ない。情報がネット上で急速に展開してゆくからだ。

 サルダナさんの死が報道されると、SCAのフェイスブックのページにはラジオ局やDJ2人への批判が殺到。キャサリン妃が住む英国のツイッター界ではDJ2人を追放するべきという声が相次いだ。2人のツイッターアカウントは、現在までに閉鎖されている。

 SCAは声明文を発表した。サルダナさんの訃報に「大きな悲しみ」を表明し、「ショック状態にある」DJ2人が、今後、「追って通知があるまでは」、局の番組には登場しないことを明らかにした。

―DJたちを守るべきという人も

 まず、事件の概要を振り返ると、いたずら電話事件が発生したのは4日午前5時半ごろ。エリザベス女王を装った「2Day FM」のDJメル・グレイグが「私の孫娘のケイトと話せるかしら」とエドワード7世病院に電話をかけた。この病院は王室が頻繁に利用している。

 同じ番組のDJマイケル・クリスチャンがチャールズ皇太子に成りすまし、グレイグとともに、病院側からキャサリン妃の容態を聞くことに成功した。

 当初、「2Day FM」側は、一連の電話の会話をウェブサイトで紹介するなど、「冗談がうまくいった」というスタンスであった。

 一部始終はこのアドレスに記録が残っている。 http://www.cbc.ca/news/world/story/2012/12/07/wrd-london-nurse-death-prank-transcript.html

 しかし、サルダナさんの死、それも自殺である可能性が報じられると、事情が変わってきた。

 オーストラリアの公共放送ABCのウェブサイトなどによると、「2Day FM」の親会社SCAは、8日の時点で、ラジオ局への広告をすべて停止する決定を行っている。停止措置は、少なくとも10日まで続く。マーケティング評論家アダム・フェレルによると、スポンサーからの非難を未然にかわすための措置だという。既に、一部のスポンサー、例えばオーストラリア最大の通信会社テルストラやスーパーのコールズが広告停止を宣言している。

 SCAの広報によると、同社のフェイスブックから、「2Day FM」の表示も消す、という。「『2Day FM』によるいたずら電話の事件が悲劇的な結果に終わったことで、オーストラリア国民が怒り、衝撃を受けていることを理解している」(広報)。

 8日、記者会見を開いたSCAの最高経営責任者(CEO)リース・ホレランは、「予想できなかった悲劇で、非常に悲しい思いをしている」と述べた。「今朝、DJ2人と話したが、2人とも大きな衝撃を受けている」、「2人は機械ではない、人間だ。私たち全員が(看護師の死に)影響を受けている」。

 記者団に放送は法律を違反していたのではないかと聞かれ、ホレランCEOは「いかなる法律も破っていないと自信を持っている」と答えた。「ラジオの1手法として、いたずら電話は何十年も前から行われているー世界中で使われている」。

 オーストラリアのメディア通信監督局(ACMA)は声明文を発表し、今回のいたずら電話の一件を調査すると述べた。

 ABCによると、「2Day FM」は過去に、ACMAから放送内容について警告を受けたことがあるという。その一例は、14歳の少女にレイプされた体験を番組内で告白させ、地元コミュニティに怒りを引き起こした件だ。

 いたずら電話を行ったDJ2人に対する批判が、看護師サルダナさんの死後、殺到しているが、2人を弁護するオーストラリアの知識人も少なくない。

 うつ病や精神障害に苦しむ人を支援する豪非営利団体「ビヨンド・ブルー」の代表ジェフ・ケネット氏は、オーストラリア国民に対し、2人のDJを支えるよう呼びかける。「2人は人に危害を与えようと思ったわけではない」、「現在、2人には大きなプレッシャーがかかっている」。

 看護師の死は「大きな悲劇だが、大げさに考えすぎないことだ」。

 「いつかは2人は表に出てくる。そのとき、メディアは2人に余裕を与えるべきだ」、「このひどい2-3週間をしのぐためのプロとしての支援を与えるようにするべきだ」。

 豪テレビ局チャンネル9の司会者トレーシー・グリムショーは、DJ2人がソーシャルメディア上で怒りの対象となったことに触れ、「若いDJをいじめることで、看護師の悲劇的な死をさらに悪化させないで欲しい」。

 英国のメディア報道を非難する声もある。

 トラウマの分析を専門とする心理学者ポール・スティーブンソンは、単なるいたずらが英国のメディアによって扇情化されたと指摘する。「どうやってこの看護師が亡くなったのかまだ分からない」、「個人的悩みを抱えていたのかもしれない」。

 ある意味では、DJたちが「犠牲者」なのだ、という。「こんな結果を呼び起こすとは思っていなかったのに、責任を負わされている」。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙のジル・スターク記者は「取材相手が自殺するとき」と題する記事を書いている(8日付)。

 スタークの懸念はDJたちの健康状態だ。自分自身が、何年か前に、取材をした相手が自殺した経験があるのだ。その人物は人を癒す力があるふりをしながら、何人もの女性を性的餌食としていた。これを暴露した記事を書いたのがスターク記者。

 自分が記事を書いたから、その男性が自殺したとは必ずしも言えないが、もし記事が出ていなかったら、「まだ生きていたのではないか」と思うそうだ。「罪悪感はいまだに消えていない」。

 ジャーナリストやラジオのDJが誰かを取材するとき、相手にどんな背景があるのかをすべて知ることはできない。取材対象を守ることは取材をお願いする側の義務としても、「時として、どれほど善意でも、入念な事前チェックを行っていても、悲劇的な結末となることはある」と結んでいる。
by polimediauk | 2012-12-08 19:23 | 放送業界
 BBCのジョージ・エントウイッスル会長(経営陣のトップ)が、10日夜、児童に対する性的虐待についての番組(「ニューズナイト」)内での誤報の責任を取り、辞任した。番組の報道は11月2日であったので、あっという間の急展開である。9月17日の会長就任以来、2ヶ月もたたない中での辞任であった。

 「急展開」は、実は、数時間の出来事であったともいえる。

 10日朝、BBCラジオの時事番組「TODAY」は、エントウイッスル会長をインタビュー。ここでいかに会長が事態を充分に把握しておらず、新聞の関連記事を読んでおらず、関連ツイッターも見ていなかったことが暴露された。「辞めることは考えていないのか?」とまで聞かれ、「できることはやっている」と答えた会長。あまりにも情報収集にうとい会長に、メディ関係者のみならず、国民も大きくがっかりしたのである。

TODAYのインタビュー
http://news.bbc.co.uk/today/hi/today/newsid_9768000/9768406.stm

 1つの番組の誤報ぐらいで、何故辞任?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、もう1つ、BBCがそしてエントウイッスル会長が大きな批判の的になってゆく事態が、発生していた。それは、BBCの人気司会者ジミー・サビル(故人)による性犯罪疑惑で、10月上旬、民放ITVが放映すると、国民は大きな衝撃として受け止めた。人気司会者であったばかりか、慈善事業にも力を入れた人物であった。

 BBCが批判の的になっていったのは、BBCの先の番組「ニューズナイト」が、この疑惑を年末放映予定であったものの、途中で、制作中止となったことが明るみに出てからだ。

 BBCでは、「ニューズナイト」のスタッフがサビルによる性犯罪疑惑の調査を進めていた一方で、サビルの功績を称える番組を制作中だった(後、放映)。

 もしかしたら、BBCはサビルを称える番組を放映したいがために、サビルの評判を傷つけるような番組の放送を「故意に中止させた」のではないか、だとすると、真実を追究するジャーナリズムは犠牲になったのではないか?そんな疑念が出てしまったのである。

 この時点では、「都合の悪い報道を隠ぺいした(かもしれない)」という疑惑であったので、BBC会長の首はまだ安泰であった。

 しかし、その後の対応で、エントウイッスル会長の評価は急降下する。

 まず、「何故、調査番組での報道を中止させたのか」「あなたはどこまで事態を知っていたのか?」という報道陣の質問から、エントウイッスル氏は当初、逃げ回った。「あなたはどこまで・・・」というのは、9月に会長職に就任するまで、同氏はBBCのテレビ部門の最高責任者だったのだ。「ニューズナイト」での疑惑報道の放映中止も、サビルの追悼番組の放映も、すべてがエントウイッスル氏の責任下で行われていたのである。

 会長が記者会見を開き、「真相究明のため、調査委員会を設置する」と発表したのは、ITVでのサビルの性犯罪疑惑番組放映から、10日ほど後であった。これは、活発な24時間報道体制がある英メディア界では、「遅い」対応である。大事件が発覚後、当日には声明文、翌日には責任者などが鍵となる報道番組に積極的に出て事態を説明しないと、遅いと見なされる。

 10月23日、エントウイッスル氏は下院の文化メディアスポーツ委員会の公聴会に呼ばれた。ここで、何をどこまで知っていたのか、どんな手段を講じたのかを下院議員らに問いただされた。ここでの同氏の返答振りも満足できないレベルであった。もし性犯罪の疑惑を解明する番組の制作中止にかかわる背景を熟知していたと認めれば、責任が問われてしまうーそんな風に当人が思ったのか、思わなかったのかは分からないが、エントウイッスル氏は、「知らなかった」で通してしまった。「知らない」=「事態を把握していない」ということで、「この人ではダメだ」感がわいてしまった。

 その後、英国内は児童への性的虐待にかかわっていたかもしれない人物を探す、いわば「悪魔狩り」のような雰囲気にもなったが、「ニューズナイト」が勇み足の失敗をおかしてしまう。

 11月2日、同番組は、英西部ウェールズ地方の児童施設で、1970年代に、保守党のある政治家が性的虐待を行っていたとする報道を行った。犠牲者の声も紹介した。名前は出なかったものの、ネット上では、サッチャー元首相の側近アリステア・マカルパイン元上院議員の名前が出た。

 ところが、これが誤報であることが判明した。番組で紹介された犠牲者が、9日になって、虐待を行った人物はマカルパイン元上院議員ではなかったことを認め、BBCは謝罪を発表した。

 疑惑報道を行う際には、中心人物らに疑惑を問いただし、当人からの返答を入れるのが番組作りの基本だが、「ニューズナイト」は今回の番組内ではマカルパイン元上院議員の名前が出ないとして、マカルパイン氏に事前に連絡をしていなかったことも判明した。

 エントウイッスル氏の辞任の直接の引き金を引いたのは、BBCラジオの「TODAY(ツデー)」である。

 10日朝の放送分で、番組司会者の1人で、厳しいインタビューで定評があるジョン・ハンフリーズがエントウイッスル会長に矢継ぎ早に質問を行った。ここで、会長の「メディア音痴ぶり」が暴露されてしまった。もちろん、実際は音痴ではなく、事情を知っていたが行動を起こさなかったのかもしれない。しかし、知っていて行動を起こさなかったとすれば、責任を問われる。そこで、「無知」の方を選択したのかもしれないがー。

 どこまでメディア音痴だったのだろう?

 例えば、2日の「ニューズナイト」での問題の報道について、「事前には知らなかった」という。夜10時半から放映のこの番組を「見ていなかった」。何が報道されたかなどを知ったのは、「翌日」であるという。

 この「事前には知らなかった」というのが、まずおかしいとハンフリーズは指摘する。「ニューズナイト」の放映24時間から12時間ほど前から、報道に関わった「調査報道ビューロー」という組織などが、「児童への性犯罪に関与した大物政治家についての番組が放映される」とネットなどを通じて宣伝していた。「ニューズナイト」の元政治記者が、ツイッター上で、「その大物政治家が、BBCからまったく連絡を受けていない、おかしいのではないか」と発信し、話題になっていた。

 ガーディアン紙も、9日の朝、「マカルパイン元上院議員ではない」とする記事を一面に出していたが、これも会長は「読んでいない」とした。

 関連のネット情報には一切触れず、新聞も読まず、しかも何故そうなったかの理由は「部下が情報を出さなかったから」「組織がそういう仕組みになっているから」と答えた。

 ハンフリーズが「辞任は考えないのですか」と聞き、「自分は正しいことをしたと思っている」と答えた会長。

 ハンフリーズのインタビューを聞いて、こんな指導者ではもうだめだーそんな印象を持たない人はいないだろう。

 この朝のインタビューから数時間後の10日夜、エントウイッスル会長は「ニューズナイト」による誤報の責任を取って、辞任した。

 大手メディアのトップとして、救いようがないほどの情報収集能力の欠如を示したエントウイッスル氏。こんな人物をトップにつけた、BBCトラスト(NHKの経営委員会に相当)への不信感も高まっている。

関連:
おそらく、誰かが辞任するだろう ―BBCとサビルの不祥事
http://ukmedia.exblog.jp/18597155/
by polimediauk | 2012-11-11 10:59 | 放送業界
 BBCの元司会者・タレント、故ジミー・サビル氏による性的暴行疑惑は、日に混迷を深めている。「犠牲にあった」と警察やメディアに連絡を取る人が増え、警察の捜査件数も増加中だ。

 前回にも書いたが、23日には、下院の文化メディアスポーツ委員会にBBC会長ジョージ・エントウィッスル氏が呼ばれ、質問を受けた。内容は、「なぜBBCがサビル氏の性暴力疑惑に関して、いったんは調査番組を作りながら、放映中止としたか」である。

 慈善事業者としても知られたサビル氏は昨年秋亡くなったが、BBCのいくつかの人気番組のおかげで広く名前が知られていた。

 しかし、40年の長いキャリアの中で、一度のみならず、「未成年(主に少女たち)に性的暴行をしている」という噂がでていた。

 英メディアの報道によると、性的暴行の発生場所は、BBC内のサビル氏の控え室や、慈善目的で参加したマラソンで休む際に使ったトレーラーの中、またBBC以外にも、自分が募金行為を主導していたいくつかの病院の中だ。

 こうした一連の疑惑が公にされないままで時が過ぎた。いくつかの理由があるが、有名であったことが大きな隠れ蓑になっていたのは間違いないようだ。

 有名人であるために「何をしても許される」という雰囲気があったことに加え、複数のテレビ関係者は「男性の有名タレントが若い女性や少女と性的関係を持つことに対し、当時(1970年代、80年代)はあまり目くじらを立てなかった」という。

 確かに、現在、子供とかかわる仕事に就く大人への要求は高くなった。例えば、教育機関を含め児童を扱う仕事に就くには、犯罪者、特に性犯罪者のリストに載っていないかどうかを警察に確認することが、雇用側の必須事項になっている。

 慈善事業に熱心だったことも、サビル氏に特別の地位を与えた。慈善事業への貢献を評価され、1996年には、エリザベス女王から「サー」の称号まで授与されているのだ。

 巨額の募金の受け取り先となっていた病院の1つには、サビル氏の部屋まであった。この病院では障害を持つ子供たちが治療を受けていたが、サビル氏は、病棟に入る鍵も与えられていた。この子供たちの何人かが、最近になって、サビル氏に暴行を受けたと声を上げている。

 BBCの混迷が始まるのは、昨年10月のサビル氏の死後である。

 BBCは、人気者サビル氏の功績をたたえる番組を同年のクリスマス時の目玉として制作しようと計画した。同じ頃、BBCの時事解説番組「ニューズナイト」が、サビル氏の性的暴行疑惑を検証する報道への準備を進めていた。犠牲者の何人かに取材をし、そのうちの一人は、カメラが撮影を続ける中でのインタビューに応じてくれた。この調査報道は、「ニューズナイト」の一部として、放映する予定だった。

 しかし、調査がある程度進み、「ニューズナイト」のエディター(番組内容を統括する人)ピーター・リッポン氏と調査報道担当のプロデューサーが「もうすぐ放送だ」という会話を交わしてまもなく、リッポン氏は「編集上の理由から」、今後の調査停止を指示した。サビル氏の番組は報道されないことになった。

 放映中止を知る人は少なかったが、今年10月3日、BBCのライバル局の1つ、民放ITVが、独自の調査によりサビル氏の性的暴行疑惑を番組化した。犠牲者のインタビューを入れながらの放映で、サビル氏問題がクローズアップされた。

 BBCが直面する問題は2つある。1つは、「サビル氏が長年にわたり、性的暴行を働いていたなら、BBCにはこうした行為を阻止する義務があったのではないか?」という点で、もう1つは、「なぜ、ニューズナイトは先の調査報道を放送しなかったのか?」である。

 BBCの編集幹部や経営陣トップの対応は、後手に回った。

 まず、経営陣トップ、BBC会長のジョージ・エントウイッスル氏が取材陣の前に出てこなかった。「警察の調査が終わるまで、BBCは調査しない」の一点ばり。民放のリポーターが追いかけるのを、逃げるようにして、途切れ途切れに言葉を発した。

 一転して、エントウイッスル氏が「独立調査委員会を立ち上げます」と記者会見で述べたのは10月12日である。3日のITV放送から9日も後だ。書かれた紙を読みながらの答弁だった。9月に会長職に就いたばかりだが、その前は「BBCビジョン」、つまりBBCのテレビ部門のトップだった。元テレビマンとは思えない、パフォーマンス振りであった。

 「編集上の理由」で番組の放送を中止した、「ニューズナイト」のエディター、リッポン氏はことの経緯を10月2日、BBCのブログに書いたが、BBCは22日になって、その内容の3箇所に間違いがあったことを指摘する長い声明文を発表している。

 エントウイッスル会長が設置させた、独立調査委員会は2つあって、1つはBBC内でのサビル氏の性的暴行疑惑の解明と、もう1つは、「ニューズナイト」で放映されるはずだった調査報道の放映中止の真相の解明だ。調査の続く間、エディターのリッポン氏は、一時的に職から離れることになった。

 23日、エントウイッスル会長は下院の文化メディアスポーツ委員会の公聴会に呼ばれた。番組放送中止にかかわる経緯の説明のためだ。ITVの放送に端を発した性的暴行疑惑の発生から、20日以上が過ぎていた。調査委員会を設置する、しないでごたごたしたBBCの「これまでの対応は間違いだったとは思わないか」と委員長に聞かれた会長は、最後まで「間違いだった」とは認めなかった。

 質疑が続くにつれて、会長自身がなぜ番組が放送中止になったのかを十分には知らず、番組のエディターやリポーターと直接は話をしていないことが分かった。その理由は、一つには、BBCの組織が「階層的になっているから」だという。会長が直接、現場のエディターやリポーターにコンタクトを取る仕組みになっていないという。聞きたいことがあったら、自分の一つ下の部下に聞く。その部下がその下の部下に聞く・・・という仕組みになっているからだと。

 あまりにも、「知らない」「分からない」という答えが続くので、質問をする議員らが失笑する場面が何度かあった。痺れを切らした議員の一人が、「『おい、どうなっているんだ』と担当者に直接電話を入れるだけで、答えが分かるはずなのでは」、と会長に進言するほどだった。

 結局、エントウイッスル会長の言葉をまとめると、「自分はことの経緯を十分には知らない。真相を解明するために、2つの調査委員会を立ち上げたので、調査結果を待ちたい」ということになる。

 夕方の民放チャンネル4のニュース番組に出たベン・ブラッドショー議員(文化メディアスポーツ委員会の委員の一人)は、「エントウイッスル会長には、事態の把握を急いで欲しい。事実をつかんで欲しい」と繰り返した。

 ITVの放送から約3週間。この長い間に、ニューズナイトの調査報道の放映中止をめぐって、BBCのニュース幹部の中でどのような話し合いがあったのかさえ解明できていないーこれだけでも、エントウイッスル会長下のBBC経営陣の機動力の遅さが如実になった。

 22日、BBCは調査報道の専門番組「パノラマ」で、「ニューズナイト」でのサビル報道の放送中止を、関係者への取材を通して制作し、放映した。

 自己批判の番組を作ることができるのはBBCジャーナリズムの優れた点ではあるのだが、浮かび上がってきたのはエントウイッスル会長やエディターのリッポン氏の機能不全ぶり。特にリッポン氏は、どちらかというと「悪役」のような描き方をされていた。

 現在、24時間報道体制の世界になって久しい。ある番組の放送中止を説明するのに3週間以上かかっていては、遅すぎる。経営陣トップが、疑惑が大きく注目された後に正式なコメントを出すまでに10日近くかかったのも遅すぎるぐらいなのだから。

 リッポン氏、あるいはエントウイッスル氏、あるいはその直属の経営陣の誰かの首が飛ぶのは避けられない事態ではないかと思う。

 おそらく、現在の経営陣は、サビル氏の暴行疑惑には直接的に間接的にも、関係していない面々ばかりだろう。

 それでも、暴行疑惑を解明するための調査報道番組があったことを知りながら、「もし」サビル氏の業績を大々的にたたえる番組を優先して放送し、調査報道のほうは意図的に切ってしまったとしたら、厳しい目で見ると、BBCの報道機関としての矜持はどうなったのか、と思われても仕方ないだろう。疑惑がある人物サビル氏の伝説作りにBBCが加担してしまったことにもなる。

 エントウイッスル会長は、ニューズナイトの調査報道の存在について、少しは知っていたが、詳しくは知らなかったと23日の委員会で返答した。昨年末、サビル氏の番組が準備されていた頃、エントウイッスル氏はBBCのテレビ番組の責任者だった。「少ししか知らなかった」なら仕事を十分に把握していなかったことになるし、「知っていて、中止させた」なら、編集過程への介入となってしまう。

 「混迷」-という言葉しか、BBCの現況を示す言葉が出てこない。事実をつかむーこの唯一のこと、しかも、自分の局の放送にかかわる決定についての事実関係すら、経営トップは十分に掌握していないのだ。

 ちなみに、BBCはこれまでにも危機状態に陥り、そのたびに何とかこれをくぐり抜けてきた。

 例えば、2003年のイラク戦争開戦をめぐる、首相官邸とBBCとの「戦争」だ。開戦に向けて政府が用意した、イラクの脅威にかかわる文書に「誇張があった」とするBBCラジオ4の報道がきっかけだった。

 2004年、当時の会長とBBC経営委員会(現在のBBCトラスト)の委員長がほぼ同時に辞任するという前代未聞の事態が発生したものの、新経営陣の下で、息を吹き返した。今夏の五輪報道は英国内外で高い評価を受けたのだがー。
by polimediauk | 2012-10-24 07:21 | 放送業界
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 1960年代半ばから、ほぼ40年間にわたり、主としてBBCの司会者・タレントとして、かつ慈善事業者としても有名だったジミー・サビル氏(昨年10月死亡、享年84)が、何人もの10代の少年少女や障害を持つ子供たちに性的暴行を行っていたー。

 この疑惑が英国で大きな注目を浴びるようになったのは、今月3日、民放ITVが犠牲者たちのインタビューが入った番組「エキスポージャー」を放映してからだ。

 サビル氏の最盛期は、残念ながら私が英国に住む前の話で、実際に生で番組を見たことはないのだが、昨年末、BBCは同氏の大々的な追悼番組を放映していたため、存在は知っていた。

 「大きな目玉と三角形の髪型」が、どうにも忘れがたい印象を残した。

 ITVの暴露番組が出たあとで続々と犠牲者が声を上げ始めていると聞き、私は「亡くなったから、一斉に声を上げるとは変だな」「一種の集団熱病的な状態にいるのだろうか」などと思っていた。

 しかし、警察が本格的に捜査を始めている。英メディアの報道によると、200件を捜査中だという。

 BBCは、実は、昨年末のサビル氏追悼番組放映の直前に、独自で同氏の児童性愛主義志向を暴く番組(「ニューズナイト」の一部)を準備していた。それが、なぜか、途中で中止となってしまった。追悼番組を出したいので、同氏の過去を暴露するような番組は、広報上の理由で「だめ」となったのだろうかー?それとも、ほかの理由があるのだろうか?BBCの対応が今、大きな問題になっている。

 ことの経緯を説明してもらうため、23日、BBC会長ジョージ・エイントウィッスル氏が、下院の文化メディアスポーツ委員会に召還され、議員らからさまざまな質問を受けた。果たして、「もみ消し」があったのかどうかー?

 BBCの組織としての問題点は次回以降考察することとして、今回は「なぜ、もう当人が亡くなっているのに、過去の暴行疑惑を追及しなければならないのか?」について思うところを書いてみたい。

 私は当初、「いまさらやっても、当人が亡くなっているのだから、仕方ないだろう」、「当人が弁解できないのだから、犠牲者が言いっぱなしになる。これは公正ではないのではないか」と思った。言いっぱなしになって、どんどん話がふくらみ、「サビル氏=悪魔」という極端な見方になることを危惧した。

 しかし、その後、犠牲者の話の信憑性が高まり(一人ひとりが、一斉にうその話を作れるはずもない)、いろいろな意見を知る中で、積極的に追求するべきと思うようになった。

 英国内で「この事件を徹底的に追及するべき」という考え方の背景には、以下の2つの理由が少なくともある。

 まず、(1)過去の暴行について社会が正当に認識することで、犠牲者にとって新たな人生を踏み出すきっかけができる。それと、(2)現在、暴行の被害者になっている人が、その苦しみを誰かに伝える、当局に通報する機運を作ることだ。

 徹底追及によって、この社会が「性的嫌がらせや暴行を決して許容しない」というメッセージを送ることができる。過去のみならず、現在、そして未来につなぐ動きを作るために、必要なのだ。

 欧州では、カトリック教の神父が少年少女に性的犯罪を行ったケースがあり、児童や弱い立場にいる人に対する性的暴行は、特に忌み嫌われている。

 少し前まで、性的嫌がらせなどがあっても、英国のテレビ界ではこれを大目にみるところがあったという人も多い。その場にいて、通報しなかった人がたくさんいる、と。

 この「その場にいた」ことを非難されたのが、民放ITVやBBCで幹部制作者だったジャネット・ストリート・ポーター氏であった。最近、BBCの討論番組「クエスチョンタイム」に出た同氏は、若い頃に、著名タレントが女性たちに性的嫌がらせなどを行っている場面を目撃した、当時の職場の雰囲気がそうであった、と発言した。

 「上司に訴えるなど、何か行動を起こせなかったのか」と聞かれ、「駆け出しの自分が訴えても、信じてもらえない。左遷されるのが落ちだ」と述べた。

 しばらくして、会場にいた視聴者が「なぜ、あなたは何もしなかったのか。その場にいたあなたも同罪だ」と述べた。

 すると、ストリート・ポーター氏は、質問者の女性をキッとにらみ、「あなた、私がどんな経験をしたかを知ってるの?」と言い返した。

 「私の母親は再婚したのよ、私が10歳のときに。新しい父親は床屋だった。床屋の椅子に座っていたら、その父親に体を触られた。そのことを母親に話したら、どうなったと思う?『嘘つくんじゃない』といって、顔をひっぱたかれたのよ。そこで終わりだったのよ」―。視聴者相手に、啖呵を切った格好だった。「ただテレビを見ているだけのあなたは、一体何をしたっていうの?冗談じゃない」―とは言わなかったが、かなりの迫力があった。

 もはやBBCの話ではなく、サビル氏の話でもなかった。年少者を対象とした性的暴行・性的嫌がらせのトピックは、さまざまな高ぶる感情を触発してしまうようだ。
by polimediauk | 2012-10-24 02:41 | 放送業界
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 日本ではそれほど話題になっていないようだが、英米で大人気となっているのが、英国製時代物ドラマ「ダウントン・アビー」。20世紀初頭の英国の大邸宅を舞台に、伯爵一家の人間模様を描く。

 これまでに英国では民放ITVでシリーズ1、シリーズ2、クリスマス・スペシャルが放映されており、9月16日からは、シリーズ3の放映が始まった。

 ちなみに、日本では映画専門の「スターチャンネル」が放映しており、日本語でウェブサイトを作っている。http://www.star-ch.jp/downtonabbey/  

 この中に、私も英国から見たこのドラマの魅力を書いている。
http://www.star-ch.jp/downtonabbey/essay.php

 10月から、シーズン2がこのチャンネルで放映されるという。私は原稿料はいただいたが、宣伝料をもらっているわけでないのだが(!)、広く視聴できるようにならないかなあと思っている次第だ。

 今回、紹介したかったのが、先日、このドラマの舞台になっている大邸宅=ハイクレア城 Highclere Castle (英南部ハンプシャー州)を訪れたときの話だ。「舞台になっている」というのは、ダウントン・アビーはここで撮影されているのだ。

 一度でもドラマを観たことがある人は、見事な邸宅の建物、広々とした庭にため息をもらしたことがあるかと思う。ここは現在、実際には、カーナヴォン伯爵夫妻が住んでいる。そして、一部を一般に公開しているのだ。

 フィオナ・カーナヴォン伯爵夫人が伯爵(第8代目)と結婚したのは1999年。8年前から息子とともにハイクレアに住んでいる。

 「歴史にとても興味がある」というフィオナ夫人は、第5代目伯爵夫人アルミナ(1876 – 1969)の伝記を、この夏出版している(「アルミナ夫人と本当のダウントン・アビー」Lady Almina and the Real Downton Abbey)。

 その中身を少々紹介すると、遺産相続、恋物語、貴族と召使の関係、20世紀初頭の時代の移り変わりを華麗に描くドラマ「ダウントン・アビー」だが、ハイクレアには邸宅がロケ地として使われているばかりではなく、共通点もあった。

 それは、ドラマ(シーズン2)では第1次世界大戦時、傷ついた兵士たちの回復場所としてお屋敷が使われるが、実際に、アルミナ夫人の主導の下、ハイクレアは兵士たちの休息場所となったのである。

 また、このアルミナ夫人というのが独特のバックグランドの持ち主だ。彼女は18世紀から欧州各地で銀行業を営んできたロスチャイルド家に生まれたアルフレッド・ド・ロスチャイルド(イングランド銀行のディレクター)の隠し子であった。

 アルミナがカーナヴォン家に嫁いだのは19歳。多額の持参金を持っての嫁入りとなった。当初は伯爵家になじめず、つらい思いをしたが、次第にそのウイットやファッション・センスで人気を得るようになったという。ハイクレアで開催される晩餐会には90人ほどのゲストが呼ばれ、盛況を博した。

 しかし、1914年、第1次大戦が勃発。これをきっかけに華やかなハイクレアの生活にも影が落ちる。何世代もハイクレアで働いてきた使用人、その家族らが戦場に向かい、命を落とす、回復できない傷を負うなどの事態が生じた。

 アルミナ夫人は夫を説得して、ハイクレアを傷病兵の癒しの場として提供するようにしたという。また、熱心なアマチュアのエジプト考古学者であった夫を現地探検へと後押しをしたのもアルミナであったという。

 カーナヴォン卿は、古代エジプトのファラオ・ツタンカーメンの王墓発掘の資金提供者として知られている。1922年、英考古学者のハワード・カーター、自分の娘のイーヴリンともにエジプト入りし、ツタンカーメン王の墳墓を開くことに成功した。(ちなみに、カーナヴォン卿は発見から数ヵ月後に病死。)

 現カーナヴォン伯爵夫人のフィオナさんは、ハイクレア城に残されたアルミナにかかわる資料、第1次大戦前後の生活を伝える写真などを元に、「本当のダウントン・アビー」の姿を浮かび上がらせた。

 さて、在英ジャーナリスト団の一員として、実際にハイクレア城を訪れたときの話である。

 ハイクレア城にバスが近づくに従い、ドラマの大邸宅が眼前に姿を現す。バスを降りて、外に出て見ると、ハイクレア城は実に大きい。そして、その真向かいの緑の芝生は本当に広い。思わず、はるか遠くまで歩いて見たい思いにかられる。

 ドラマでは召使たちがずらりと立ち並ぶ圧倒的な場面を提供してくれた入り口で、待っていてくれたのはフィオナ夫人である。カラフルなシャツと真っ青のジーンズ。「ようこそ」。

 ドアから中に入り、小ぶりの待合室に入る。隣はドラマの主人公グランサム伯爵の執務室・ライブラリーである。この執務室、ドラマでは非常に広々と見えたのだが、意外と小さい。テレビカメラを通すとものすごく広々と見える邸宅内部だが、一つ一つの部屋は割りと小ぶりである。これが逆に、実際に家族が暮らしていたことをしみじみと感じさせる。

 フィオナ夫人は、ハイクレア城の簡単な歴史とアルミナ夫人の経歴、アルミナの夫カーナヴォン卿のエジプト考古学にむけた情熱について話してくれた。ツタンカーメンにかかわる資料が邸宅内にあって、生徒たちが学習のために訪れることもあるそうだ。

 その後は、ガイドさんの案内とともに、邸宅内をじっくりと見て回った。ドラマの登場人物のそれぞれの部屋も、撮影セットそのままに再現されていた。

 最後に、応接間のようなところに集まって、改めてフィオナ夫人がアルミナの生涯や、テレビドラマの撮影について話してくれた。

 邸宅内にあるのは「あまり映りのよくない、小さなテレビが1台のみ」という。それでも、ドラマの放映時(2010年に最初のシリーズ開始)には、テレビの前に座って、「とても楽しく鑑賞してきた」という。

 撮影は朝から晩まで、一日中かかることがあり、カメラの位置の具合で壁にかかっている絵画を動かしたり、ソファーの位置をずらしたりなど、とても大掛かりな仕事になるという。

 こんな話を聞いている間、報道陣からのカメラのシャッターが途切れなく続く。私も静止画や動画で、できうるかぎり夫人の姿を撮影した。というのも、フィオナ夫人がとても「フォトジェニック」(あるジャーナリストの声)だからだ。

 これは顔かたちがきれいとかそういうレベルではなく、私が見るところ、「清楚かつエレガント」で、とても親しみやすく話すので、どうにも目を離しがたいのだ。

 いまや、将来の英王妃のトップレスの写真まで、雑誌が掲載してしまうほど、何でもありの世界。こんな世界で、フィオナ夫人はどのようにして、そのエレガンスを維持しているのだろか?生き方の選択があるに違いない。

 そう思った私は、「どうやってそのエレガントさを維持しているのか」と聞いてみた。

―「晩餐の前には着替える」

 少し考えた後で夫人が答えたのは、普通に、まっとうに生活することだった。

 例えば、「ダウントン・アビー」は別としても、「あまりテレビは見ない。特に、「リアリティー・ショー」(視聴者参加型テレビ:俗悪テレビジャンルのひとつと考えられている、具体例は、24時間カメラが回る空間で生活する若者たちを撮影する番組「ビッグ・ブラザー」など)は、見ない」。

 「その代わり、ラジオをよく聞いている。(教養チャンネルとして知られる)BBCのラジオ4をよくつけている」。

 「よく読書をしている」、「本を読むといろいろと考えることができる」

 「邸宅で働く人に声をかけている、話をするようにしている。自分は屋敷の管理人と思っている」

 「いろいろな階層の人と話す機会を持っている。教会に行って、よく来る人と話をしたり、地元のために仕事をしている人を晩餐会に呼んでいる」

 「家族の晩御飯は自分で作っている。料理が好き」。

 そして、「料理をした後、晩御飯を食べる前に、必ず着替えるようにしている」。

 いかがであろうか?

 家族だけの晩御飯でも、正装をする様子がドラマでは描かれていた。おそらく、正装まではいかないにしても、「着替える」という部分にエレガントさの秘密があるように思えた。心の余裕がないと、できないだろう。

 その心の余裕はどこから来るのかー?知的情報のインプット、考える時間、仕事・課題(邸宅の管理)があること―。そして、おそらく健康。カジュアルな格好で、邸宅内をあちこち、飛び回っているという。

 「ダウントン・アビー」のドラマの第3シリーズは、邸宅の将来にまた大きな危機が訪れる形でスタートしたばかり。しかし、本当のダウントン・アビー、つまりハイクレア城のリアルなドラマの方が実は面白いのではないか?そんな感じがした。

***

 ドラマについてもっと知りたい方は、過去のエントリーがあります。

 英ITVの「ダウントン・アビー」が人気に ―時代モノ・ドラマは何故受ける?
http://ukmedia.exblog.jp/15294423/
by polimediauk | 2012-09-18 20:57 | 放送業界
(前回の続きです。)

ー今後は?

 現在のBBCの会長(企業では最高経営責任者にあたる)マーク・トンプソン氏は、パラリンピック終了後に退任することになっている。

 次の会長となるジョージ・エントウイッスル氏(現在、「BBCビジョン」というテレビ部門のトップ)は、どんなBBCを作るだろうか?

 BBCのメディア専門記者トーリン・ダグラス氏は、BBCニュース・サイトの7月4日付コラムの中で、新会長の課題を数点、挙げている。

 ①「幅広い視聴者のニーズを満足させる、かつ質の高い番組を作ること」

 ②「大幅予算削減にもかかわらず、レベルの高い番組を成功させること」

 ③「2017年以降の新たな特許状取得に向けて、準備を開始する」

 ④「急速に動く世界中のメディアおよびテクノロジー企業との競争の中で、今後5年間で重要となる技術に向けて歩を進める」

 ⑤「目減りする受信料収入と増大する商業部門からの収入とのバランスをどうするか」

 ⑥「世界の放送業界やテクノロジー企業から生え抜きの人材を雇用することが必要であるのに、BBC幹部の給与がトラストなどの判断で下がるばかりの現状をどう考えるか」など。

 ②の大幅予算削減だが、ダグラス氏はBBCの縮小策は「実質20%の削減」に等しいと見る。これではレベルの高い番組は作りにくくなるという。実際、年次報告書に目を通すと、いかに削減できたかの部分が前面に出ており、「ではいかにして、資金と人材が少なくなっても、より質の高い番組が制作できるか」の部分がほとんど見受けられなかった。

 「歯を食いしばって、がんばれ」とでも言うかのような報告書の文言に、筆者は将来のBBCの創造性に一抹の懸念を感じた。

 これは⑥にも関連する。「前任者の給与が高すぎた」という見方もできるが、トンプソン現会長よりも十数万ポンド低い給与で会長職を始めるエントウイッスル氏。いくら公共放送とはいえ、どこまで下に行くのかと心配にもなる。

 デジタル放送にますます力を入れるBBCが、例えば米グーグルなどのネット大手からトップクラスの人材を投入することが給与面の縛りからできないとすれば、最後には受信料支払い者、つまりは国民にとっても不利になるのではないか。

 ⑤で指摘された商業部門の成功は、競合他局からの羨望と批判の的だ。

 改めて、BBC全体の構成を収入面から見てみよう。

 事業収入は41億500万ポンド(約5159億円、9月1日計算)。内訳は国内公共サービス(主に受信料収入による)が36億600万ポンド、ワールドサービス(主に政府交付金、14年からは受信料収入でカバー)が2億7700万ポンド、商業活動収入(出版、番組販売など)が2億2200万ポンドだ。国内公共サービスが受信料凍結のために規模を縮小せざるを得ない一方で、商業活動は順調に売り上げを伸ばしている。

 商業活動はBBCの国内サービスの資金作りの1手法として使われており、BBC本体への「戻し」金額(2億1517万ポンド)は前年よりも18・5%増えている。受信料収入総額と比較すると微小だが、さらに拡大して行くようだと英放送業界で規模の面では最大のライバルとなる衛星放送BスカイBを含む商業放送からの批判がより高まるだろう。

 その一方で、いつまで続くか分からない受信料体制が崩壊したとき、BBCが将来的に自力で収益を出す道を余儀なくされた場合、世界の市場を相手にしたビジネスがBBCの生き残りを可能にするかもしれない。

 今後の数年間で、議論に上ってくるのは受信料体制がいつまで続くかであろう。

 前回も、特許状更新までの時期に、「受信料制度はもう必要ない」「有料契約制度で十分だ」という声が出た。「BBCの番組をほとんど視聴しないのに、なぜ受信料を払うのか」という不満だ。

―有料購読制は実現するか?

 BBCが受信料制度を捨てて、有料購読制に切り替える日がいつになるのかは不明だが、アイプレイヤーの成功や五輪のデジタル放送で、BBCはほかを寄せ付けないブランド力を示した。「BBCなら、有料購読してもいいから番組を見たい」-そんなファンが英国内外で増えているとしたら、受信料制度が無くなってもBBCは確実に生き延びるだろう。

***

―BBCにかかわる近年の動き

2007年:BBCトラスト、発足。新たな特許状(=「BBCチャーター)、活動協定書が発効。10年間有効。

4月:テレビ受信料のインフレ率との連動終了。

2010年5月:保守党、自由民主党による連立政権、発足

9月:ライオンズBBCトラスト委員長が任期満了後の辞任を表明。トラストが受信料の2年間の凍結を申し出る。

10月:政府が財政緊縮策の下、公的サービスの大幅削減を発表。10年時点の受信料を16年まで凍結することに。

12月:BBCの今後の戦略を決定するため、BBCトラストが「質を最優先する」と名づけた見直し作業を開始。

2011年1月:トラスト委員長がBBCの費用体系の見直し作業「質を優先して届ける」を経営陣に正式に依頼する。

5月:パッテン卿がBBCトラストの委員長に就任。

10月:経営陣が費用体系を見直すための提案書を出す。5年間で20%予算削減、2000人削減など。意見募集を開始(12月、募集期間終了)。

2012年1月:トラストが費用体系見直しについての中間報告を提出。トンプソンBBC会長の辞任の噂が流れる。

3月:トンプソン会長が秋の辞任を発表。

5月:トラストが最終報告書を発表する。

7月:BBCビジョンの担当役員エントウィッスル氏が次期の会長就任に決定。2011-12年度の年次報告書発表。

(資料:BBC)

―欧州諸国の受信料は?

 年次報告書に記載されていた、欧州各国の受信料(2011-12年)は、

 スイス*が317.7ポンド(約3万9500円、9月1日計算)

 ノルウェー*が277.94ポンド

 デンマーク*が264.27ポンド

 オーストリアが231.14ポンド

 フィンランドが210.7ポンド

 スウェーデンが194.58ポンド

 ドイツが180.22ポンド。

 英国は145.50ポンドで、これより低いのがアイルランドの133.65ポンド、フランスの104.41ポンド、イタリア*の93.55ポンド、チェコの52.48ポンド。

 「*」の数字は付加価値税分を含み、1ポンド=1.20ユーロとして計算されたものだ。

―BBCの受信料の使い道

 年間145・50ポンド(約1万8700円)の受信料は、月計算にすると、何にどれだけ使われているのだろうか?

 BBCの年次報告書によると、テレビに7.45ポンド(61%)、ラジオに2.04ポンド(17%)、オンラインに0.6ポンド(5%)、その他が2.04ポンド(17%)。

 (新聞通信調査会 http://www.chosakai.gr.jp/index2.html が発行する「メディア展望」の筆者原稿に付け足しました。)

 
by polimediauk | 2012-09-03 05:40 | 放送業界
 パラリンピックの競技をチャンネル4という放送局が放送中だ。五輪(オリンピック)を担当したのはBBCだった。パラリンピックがこれまでにないほど人気なので、BBCの五輪番組担当者たちが「パラリンピックもBBCが放送すればよかったのに」とうらやましげに語ったそうだ。

 チャンネル4は形態がやや特殊な放送局だ。運営資金は広告収入によるのだが、チャンネル4テレビジョン・コーポレーションという公共団体が所有・運営している。「もう1つの視点」をだすことを目的に、1980年代初期、放送を開始した。「もう1つの視点」とパラリンピックの放送とはぴったり合っているように思う。

 7月に、英放送界最大手BBCの年次報告書が出た。これを話の序として、BBCの現況を「メディア展望」9月号(新聞通信調査会発行)http://www.chosakai.gr.jp/index2.html に書いている。以下にそれに若干補足したものを出して見たい。長いので①(過去と現況)と②(今後)に分けた。

 その前に、調査会では、「第5回メディアに関する全国世論調査」を9月11日まで実行している。ご関心のある方は、ご参照のこと。http://www.chosakai.gr.jp/notification/index3.html

***

予算縮小の大波にもまれる英BBC

 夏のロンドン五輪で約2500時間に及ぶすべての競技を生放送した英公共放送BBCは、「一瞬も見逃さない」をキャッチワードとして使った。

 通常のチャンネル2つに新たに24の五輪専用チャンネルを設置し、視聴者は選ぶのに困るほどの幅広い選択肢を得た。さまざまなプラットフォームで視聴できる生の動画には、その場で巻き戻す機能もついていた。BBCの五輪放送は、ネット時代の大きなイベントの放送のあり方を示したと言えよう。

 英国の放送業界の粋を見せた感があるBBCだが、現在、急激な予算縮小の渦中にある。

 国内の放送活動をまかなう「テレビ・ライセンス料」(日本のNHKの受信料に相当する、以下「受信料」)が2016年―17年度まで凍結状態となっており、政府の緊縮財政策の下、BBCを含む公的サービスの予算は2ケタ台の削減を余儀なくされている。

 多チャンネル化が進展する英テレビ界で、BBCは今後、どのような存在となるのだろうか?

 7月中旬に発表された最新の年次報告書(2011-2012年度)にも触れながら、BBCの経営現況とその背景、今後の見通しについて考察してみたい。

―小さなBBCへの道

 BBCが縮小化に向かったのは数年前である。

 BBCの運営は、存立・目的・企業統治を定める「特許状」(ロイヤル・チャーター、「BBC憲章」と訳されることもある)と、これに沿った業務の具体的な内容を規定する「協定書」(BBCと所管の大臣との間で交わされる)が基になる。国内の放送活動の原資となる受信料の値上げ率は、所管大臣(現在は文化・メディア・スポーツ相)との交渉で決まる。

 10年毎に更新される特許状と協定書を交わす前の数年間は、BBCにとって、自分たちが望む方向に進むための、いわば自己PRの時期となる。

 現在のBBCを語る時に欠かせないのが、マーク・トンプソン会長の存在だ。

 BBCは、英政府がイラク戦争(2003年)開始前に発表した、大量破壊兵器の脅威に関する文書の誇張性に関して政府と衝突し、04年2月、当時のBBC経営委員会(現BBCトラスト)委員長と会長(=ディレクター・ジェネラル。企業で言うと最高経営責任者)とが同時に辞任するという前代未聞の事態に遭遇した。これを引き取る形で新会長となったのが、元チャンネル4のトップ、トンプソン氏であった。

 同氏が2004年の就任後にすぐ取り組んだのは、次の特許状(2007年から16年まで)更新のための準備であった。

 この時、BBCには強い逆風が吹いていた。先の大量破壊兵器をめぐる報道でトップらが辞任することになったため、BBCのジャーナリズムへの批判が沸騰していた。国内放送業界に占める突出した大きさや、テレビ受像機がある家庭から強制的に徴収する受信料制度への疑問が大きく表面化していた。

 トンプソン氏は、英国のデジタル化を先導し、公的価値を基に番組を制作する将来図を描いた計画書「公的価値を築く」を、特許状策定中の政府に提出した(04年6月末)。

 デジタル化の中には、好きなときに番組を再視聴したりダウンロードができるサービス(現在の「BBCアイプレイヤー」)が含まれ、「ロンドン中心の番組が多すぎる」という批判をかわすために、今後制作の半分をロンドンの外で行う方向で進める、とした(イングランド北西部グレート・マンチェスター地域にある都市サルフォードに、段階的に拠点を移動させている)。「際限なくサービスを拡大させている」という競合メディアからの批判には、新規サービスの開始には「公的価値があるか、民業を圧迫しないか」のテストを行う、と書いた。

 「人員を1割削減する」という箇所もあったものの、それまで毎年値上がりしていた受信料が今後も同様に継続することを想定し、大風呂敷を広げた計画書であった。

―受信料のインフレ率との連動が停止に

 2007年1月、テッサ・ジョウェル文化・メディア・スポーツ相(当時)は、同年4月以降の受信料の値上げ体制を発表した。

 多チャンネル化時代、BBCの番組を見るために強制的に徴収するテレビ受信料という体制そのものが合法性をなくしつつあった。果たして受信料制度が消えるかどうかに注目が集まった。

 結果は、BBCにとって衝撃的なものとなった。

 1つには、受信料体制は維持されたもののインフレ率との連動が停止された。それまではインフレ率に上乗せした値上げ率が設定されたため、景気の動向に左右されにくい経営ができた。代わりに、次の2年間はそれぞれ3%の値上げ率とし、その後は次第に値上げ率を縮小させる形となった。

 もう1つ衝撃となったのは、将来のテレビ界の先行きが不透明であるという理由で、政府が今後6年間(最後は2012-13年度まで)の受信料体制のみを決定した点だ。10年間という長期に渡るスパンでの経営が困難になった。

 当初、インフレ率に2・3%の上乗せ(他局からの批判を受けて、後に1・8%に変更)を希望していたBBC経営陣にとって、「失望」(トンプソン会長)と評される結果となった。

 BBC経営陣は人員や番組製作本数の1割削減、1960年代にテレビ番組制作のために建築された「BBCテレビジョン・センター」の売却など、節約策をまとめざるを得なくなった。

 これと前後して、BBCに起用された人気タレントが不用意な発言をしたり、番組制作に「やらせ」があったなどのスキャンダルが次々と発生し、一部の出演者に対する高額報酬の支払いや経営幹部らの経費使いに批判の声が高まった。

 2008年の「リーマンショック」以降、不景気で広告収入が激減したため、民放テレビや新聞各紙にとって、BBC批判は最も視聴者・読者の反響を得られる話題でもあった。

―規模の大きさへの批判続く

 BBCが大きく「翼を短く切り取られる」状態となるのは、2010年5月、保守党と自由民主党による連立政権が発足してからである。

 現政権は、自民党が閣僚職を少数維持しているものの、ほぼ保守党政権といっても良い。「小さい政府」を目指す政権の発足後、BBCの規模の大きさに対する批判が声高に続いた。BBCトラスト(元BBC経営委員会=視聴者の代表として、経営陣とは独立の立場からBBCの活動を監視し、経営陣の提案を承認する)は、今後2年間、受信料の値上げをしないつもりだと表明せざるを得なくなった。

 10月、政府は歳出見直し策により、公的サービスの大幅削減を発表した。各省庁において、20%前後の予算削減が課された。

 BBCも緊縮策から逃れることはできず、政府は、受信料を2010年度の金額(145.50ポンド、約1万8700円、8月上旬計算)のままで、今回の特許状期間が終了する16-17年まで凍結する決断を出した。さらに、これまで政府の交付金で運営されてきた、国際放送BBCワールドサービスや世界のメディア情報を監視するBBCモニタリングを、2014年から国内向け放送の原資である受信料でカバーすることになった。財政難になっていたウェールズ語の放送局SC4や新規に設置される地方のテレビニュースの運営、ブロードバンド拡大にもBBCは手を貸すことになった。

 将来のワールドサービスを自己資金でまかなう必要性が生じたBBCは、複数の外国語放送の停止を含めた大幅縮小策を実施せざるを得なくなった。

 今年5月、BBCは「質を最優先に届ける」と名づけた、予算の見直し指針をまとめた。受信料の凍結やワールドサービスの運営費の将来の自己負担に準備を進めるため、受信料収入の20%分を削減する必要がでてきた。指針は、生産性の向上やコンテンツやサービスの節約によって乗り切る策を示した。

―「より少ない資金ですばらしい番組作り」?

 今年7月中旬に発表されたBBCの年次報告書(2011-12年度)で、BBCトラストの委員長パッテン卿(元保守党下院議員、最後の香港総督)は、過去1年で最も困難だったのは「少ない資金で、いかにすばらしい番組を作るか」だったと序文に書いた。そして、「変化が必要とされていた分野の1つ」として、経営幹部の給与を挙げた。重点が置かれたのはいかに費用を削減したか、給与を減額させたかである。

 年次報告書の要点を伝えるBBCニュースのウェブサイトの記事(7月16日付)でも、真っ先に来るのが人気出演者の報酬や経営陣の給与がいかに減少したかであり、「人気出演者の報酬が950万ポンド減少」という見出し付き記事も別個に出した(同日付)。

 後者の記事では、BBCの人気出演者の報酬が激減したという最初の段落の次は、「50万ポンドを受け取っていた出演者が16人いたが、これは前年よりも3人減っていた」とある。「3人」という部分が、実に細かい。次の段落では、トンプソン会長の給与は62万2000ポンドで、「前年の77万9000ポンド」より低い、という。次の次の段落では、会長が9月には退任すること、後を引き継ぐのは「BBCビジョン」と呼ぶテレビ部門を統括するジョージ・エントウイッスル氏だと紹介されている。その次の段落では、エントウィッスル氏は「はるかに低い給与をもらう。最初の年は45万ポンドだ」と結んだ。

 ガーディアン紙のメディア記者ダン・サバー氏は、年次報告書が年に一度「給与の支払い状況を示す文書になってしまっている」と批判し、「いつになったら、BBCは視聴者や受信料支払い者に次はどこに向かっているかを説明するのか?」と不満をもらした(7月16日付)。

 確かに、現トンプソン会長が主導した、英国のデジタル化のリーダー的存在としてのBBCという構想は今回の年次報告書からは見えてこない。

 BBCがインターネットに力を入れ始めたのは2つ前の会長ジョン・バート氏(任期1992-2000年)の時代だ。その後、テレビ界が急速にデジタル化する中、「私たちはテレビ番組をテレビ受像機では見なくなるかもしれない」という趣旨の発言を行ったのがトンプソン会長だった。スマートフォンやタブレット型携帯機器で動画を視聴するのが珍しくなくなった現在、目新しい発言には聞こえないが、番組とテレビ受像機とが分かちがたく結びついていた数年前は、新鮮だった。

 2006年末、民放がテレビ番組の再視聴やダウンロードができる、オンデマンド・サービスを開始し、07年からBBCも本格的に参入。英国テレビのオンデマンド・サービスはBBCのアイプレイヤー導入によって、初めて一般的に広がっていった。

 トンプソン時代の最後の業績は、アイプレイヤーの成功を集大成したとも言える、ロンドン五輪での全競技の生放送だった。五輪放送を統括したロジャー・モーズリー氏を、トンプソン会長は次期「BBCビジョン」(テレビ部門)の統括役に抜擢した。BBCの業務の中でも、最も予算が大きい部門だ。

 ちなみに、トンプソン氏は、11月に米ニューヨーク・タイムズの最高経営責任者(CEO)兼社長に就任する予定だ。

ー逆風は保守党から?

 ここで、保守党からの圧力という要素も指摘しておきたい。保守党は小さな政府を目指し、親ビジネスでもある。野党時代、放送通信監督庁オフコムの廃止を提言したり、BBCの規模の大きさの批判でも先頭に立った。世界的に評判が高いBBCワールドサービス(国際放送)は、政府からの交付金で運営するのが常であったが、2014年からはBBC自らに負担させるという荒業を実現させた。

 トンプソン現会長の辞任への動きも、元保守党議員のパッテンBBCトラスト委員長がメディア取材の中で漏らしたことがきっかけだったようだ。本人が辞任するとは言っていないのに、「後任を探している」という話を匂わせた。ある意味、非常に官僚的なBBCにとって、トップの辞任のニュースがこんな形で出るのは好ましくないし、筆者の推測では、誰かがトンプソン会長を追い出すための気運を作った感じがする。周りを固めてしまった、と。(この辺の真偽は、関係者が回顧録を書いた時点で明確になるかもしれない。)会長が辞任の意向を認めたのは、だいぶ後になってからだ。

 親マードック派(衛星放送BスカイBの39%の株を所有し、大手数紙を発行)でもある保守党。

 今後も、BBCをより小さくする方向への風が強く吹くはずである。メディアの消費環境が変わっていることがBBC縮小化の1つの理由だが、政治圧力もかかるだろうと私は見ている。(次回は、「BBCの今後」)
by polimediauk | 2012-09-01 18:47 | 放送業界
c0016826_659077.gif 毎日、熱戦が続けられるロンドン五輪。こんな選手がいたんだなあと思うことばかり。各国選手の顔を見ているだけも、面白い。

 今日は日本の男子サッカーが決勝戦進出は果たせなかったものの、なでしこが残っている。なでしこに、日本女性の姿を重ねてしまう人は私だけではないだろう。世界で、決勝戦まで残る力を持つというのは、それだけで心強い。社会の中でも、女性たちがもっともっと抜擢されてもよいはずではとついつい、思ってしまう。

 放送批評懇談会が出している月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」最新号に、プレミアリーグの放映について書いている。ご関心のある方は、書店などでお手にとって下さると幸いである。今回、プレミアリーグの国内での放送権獲得戦争に本格的にかかわったBT(ブリティッシュテレコム)。これまではほぼスカイテレビの独壇場だった。果たして、これが今後、変わってゆくのかどうか。ただ、放送権獲得戦争は熾烈を極め、価格がものすごく高騰した。スポーツとカネの話は深い。

 以下が雑誌の目次です。(ウェブサイトより)http://www.houkon.jp/galac/index.html

 この雑誌の面白いところは、「こんなにすごい番組があったのか!」と分かるところ。テレビにがっかりしている方に、逆にお勧めします。

***

GALAC/ぎゃらく No.184/2012年9月号
表紙の人/マツコ・デラックス
写真/山﨑祥和

定価780円(税込み) 8月6日発売!
編集・発行 NPO法人放送批評懇談会
発売 角川グループパブリッシング


特集 BS多チャンネル時代がやってきた

BSパラドックスを乗り越えろ/川喜田 尚

インタビュー
住友裕郎(スカパーJSAT取締役)
BS市場の拡大を見込みCSから進出

BS全局まるわかりアンケート

さまざまに深く、さまざまに尖れ/吉岡 忍

Interview
THE PERSON
吉田尚記 デジタルは人と人をつなぐもの。

旬の顔
マツコ・デラックス 知的なトイレットペーパー。

連載

CMアーカイブの旅/高野光平
GALAXY CREATORS[中嶋淳介]/木原 毅
ローカル局の底力[中部日本放送]/小森耕太郎
海外メディア最新事情[ロンドン]/小林恭子
GO!GO!コミュニティFM[KOCOラジ]/鈴木則雄
視聴率リテラシー/藤平芳紀
ニュース・メタボ診断/山腰修三
今月のダラクシー賞/桧山珠美
MEDIA REVIEW[IT/映画/マンガ/MUSIC/ステージ/本]
GALAC NEWS/山本博史
TV BEST&WORST

ギャラクシー賞

月評 2012.6[テレビ部門/ラジオ部門/CM部門/報道活動部門]
   2012.5[マイベストTV賞]

by polimediauk | 2012-08-08 06:59 | 放送業界
c0016826_18325234.jpg TBSメディア総合研究所が出す、メディア雑誌「調査情報」 http://www.tbs.co.jp/mri/info/info.html に、ロンドン五輪をめぐる英国の放送事情についての原稿を寄稿している。

 雑誌の特集は「初参加から100年 オリンピックと日本人」だ。この雑誌は骨のある記事がたくさんあって、編集長のこだわりが良く出ているといつも思う。

 大型書店ーー八重洲ブックセンター、丸善日本橋店、書泉グランデ(神保町)、岩波BS、紀伊国屋書店新宿店、三省堂神田本店、リブロ池袋店、阪急ブックファースト(渋谷店、銀座店)、ジュンク堂(池袋店、新宿店、大阪本店、鹿児島店、京都BAL店、西宮店他)ーーなどで、お手にとってもらえると幸いだ。

 以下は目次のコピーである。

 
初参加から100年 ~オリンピックと日本人

遠いか近いか オリンピック
橋本 治

テレビ放送の革新が促したオリンピック発展史
杉山 茂

ロンドン五輪 放送事情
小林恭子

JCがつくるオリンピック放送の現在と将来展望
鈴木健司

1940、1964、2020
三つの東京オリンピック考
武田 薫

2020年東京オリンピック招致
~私はこう考える

今野 勉、中嶋嶺雄、保阪正康、大宅映子、富野由悠季、松本健一、中野 翠、後藤正治、山内昌之、関川夏央、矢内 廣、内田 樹、田中優子、玉木正之、長田渚左、森永卓郎、斎藤貴男、二宮清純、香山リカ、里見清一、小松成美、茂木健一郎、生島 淳

オリンピックを機に考える2、3の事がら
~昭和史と私の映画人生
篠田正浩(語り下ろし)

連載

ルポルタージュ 被災地再生への歩み

気仙沼発 災害担当記者の独白 第1回
福島隆史

被災地で知った"記者"という仕事
大津実由紀

三陸彷徨 新たな魂との出会いを求めて 第6回
龍崎 孝


好評連載!
同時代を生きる視点
家族のなかの死
----水村美苗『母の遺産 新聞小説』…川本三郎

テレビ日記
日本の家庭と家族の劇【6】
<日本一のお母さん> 役者の何故…鴨下信一

メディア論の彼方へ
今、目の前で進行している<反動>について…金平茂紀

creator's voice
時事放談 戦う80歳~「最期」の日々…石塚博久

著作権AtoZ
「写し込み」は、権利者の許諾を得なければ違法なのか?
~「雪月花」事件判決から得られた教訓~…日向 央

メディア漂流
大学におけるジャーナリズム教育【8】
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by polimediauk | 2012-07-02 18:32 | 放送業界
 14日、BBCの経営陣トップ(ディレクター・ジェネラル)、マーク・トンプソン氏が、ロイヤル・テレビジョン・ソサエティーの会合で、スピーチを行った。

 私も話を聞いた聴衆の1人だった。トンプソン氏はディレクター・ジェネラルになって8年目。そろそろ、辞め時か・・・という噂も出ている。そこで、「いつ辞めるのか?」、「これまでの最大の失敗は何か」という点に、会場の質問が集中した。

 しかし、もっとも刺激的だったのは、「プロジェクト・バルセローナ」(=バルセロナ計画)の話である。この話はその後、ニュース媒体でどんどん配信された。

 これは何かというと、利用者が、BBCの過去の番組(過去といっても、うんと昔というよりも、放送直後にという意味)=デジタルアーカイブを「少額で」買って(ダウンロードして)、永久に所有できるサービスだ。

 トンプソン氏は「オープン・アップ」という言葉を使っていた。複数の販売網から販売する構図が思い浮かぶ。DVDを販売しているお店に足を運んで、BBCの過去の作品を買うのと同じように、デジタル・アーカイブ化した番組を、「デジタル・ショップ」でダウンロード販売する、というわけである。

 ふと、楽曲や映画を販売するアイチューンズのBBC版が登場するかもしれないと思い、なんだか心がときめいた。

 今でもアイチューンズでは、BBCの過去のテレビ番組などがダウンロード購入できる。しかし、BBCのアーカイブ番組は膨大である。これをそのまま、自局のシステムあるいはほかの業者による販売網を通じて売ることができれば、BBCにとっては、非常に大きな収入となることが想像できる。

 前者の場合、つまり、もしBBCが新たな販売システムを作って、利用者が番組を直接買うようにすれば、アイチューンズに任せるより、もっと利益を得られるかもしれないーー例えば、フィナンシャル・タイムズが自社販売網でアプリを提供しているように。(今、デジタル時代の進展で「中抜き」現象がいろいろなところで発生している。そういう文脈の中では、一定のブランド力を持っている、デジタル・コンテンツ所有者の中に、「アイチューンズ抜き・はずし」?のようなことが起きているのかもしれない。――ただし、トンプソン氏がアイチューンズを使わないといったわけではない。ただ、その話し方によって、アイチューンズに依存しない可能性を大きく示唆したわけである。)

 いよいよ、BBCというか、英国のテレビがデジタル化してきたなあと思う。

 BBCが新規のサービスを開始するとき、必ずBBCトラストという、日本のNHKの経営委員会にあたる組織におうかがいをたてなければならない。トラストは内部での議論のほかに、識者に聞いたり、国民から意見を募ったりして、結論を出す。これが今年中に開始され、もしOKとなれば、早ければ来年以降にサービス開始となりそうだ。

 英テレビ界は今、BBCと民放の番組が参加する、ネット上のオンデマンド放送のサービス「ユービュー」の開始に向けて、歩を進めているところだ。「(参加しないテレビ局の)ビジネスを阻害する」などの理由で、実現が難しくなっていた。

 スピーチの中で、ユービューについては7月末開催の「ロンドン・オリンピックまでに開始したい」という箇所があったので、後でトンプソン氏に確認してみると、「そうなるように努力中」と話していた。

 一方、英国のラジオ放送がネット上で一括して聴けるサービス、「ラジオプレイヤー」が人気だ。

 BBC及び民間のラジオ局の番組が、同時放送及びオンデマンド、ポッドキャストでも聴けるサービス、「ラジオプレイヤー Radioplayer」http://www.radioplayer.co.uk/が、好調に成長を遂げているという。

 日本でラジオというと、テレビの後ろに隠れた存在として受け止められているかもしれないが、英国では(というか、欧州では)若者の間でも、かつ知識層の間でも、一定の位置を占める堂々としたメディアだ。

 例えば、BBCラジオの教養番組チャンネルといっていい「ラジオ4」では、毎週、数人の学者を呼んで様々なトピックに関して議論をする、かなりハイブラウな番組「イン・アワ・タイム」があるが、これを後にダウンロードして聞く人が非常に多い。

 「ラジオプレイヤー」のサービスの運営自体は非営利になっており、この組織はBBCと商業放送が資金を出し合って成立している。現在までに、315局の放送が聴ける。

 テレビ界がユービューを開始できずにごたごたしている間に、ラジオ界が先に「ここに行けば、(ほぼ)すべてがある」というサービスを一年前に始めてしまったわけである。しかし、ユービューのサービスにラジオプレイヤーも参加予定となっているそうなので(以下のテレグラフ紙記事参照)、ユービューはテレビもラジオもネットで視聴できるサービスとなりそうだ。

 ラジオプレイヤーはPCやラップトップで使うことを前提に作られているが、5月あるいは6月ごろに、専用の携帯アプリができるという。

 テレグラフ紙の記事によれば、ラジオプレイヤー側は、アップルやアンドロイド携帯の製造会社に対し、携帯がWI-FIや3Gにつながっていない状態でも、ラジオプレイヤーが使えるように、FMチップを入れてもらうなどの方法を工夫するよう、交渉中だという。

BBC chief plans iTunes-style TV download service
http://www.reuters.com/article/2012/03/15/net-us-britain-bbc-idUSBRE82E0TX20120315
Radioplayer: an internet success the TV industry couldn't manage
http://www.telegraph.co.uk/technology/news/9145111/Radioplayer-an-internet-success-the-TV-industry-couldnt-manage.html
by polimediauk | 2012-03-16 23:22 | 放送業界