小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:放送業界( 161 )

 英国のテレビ界の団体、ロイヤルテレビジョン協会(RTS)は、毎年、英国内外の優れたテレビ報道を選定し、これを数々のRTS賞として発表している。23日、2010-11年度の各賞が発表された。

 最優秀ジャーナリスト賞は、「アラブの春」など海外の事件を報道した、スカイ・ニュースのアレックス・クローフォード(女性)が受賞した。彼女は4年連続の受賞である。リビア報道も優れており、特に「カダフィ大佐が自国民を攻撃している証拠を最初にスクープ」するなど、数々の勇気ある報道が高く評価された。

 最優秀チャンネル賞はアルジャジーラ英語チャンネルが獲得。やはりアラブの春での圧倒的な報道がほかと差をつけたようだ。

 スクープ賞、国内の最優秀時事報道賞、若いジャーナリスト賞を取得したのが、BBC1という、BBCの基幹テレビチャンネルで放送された、時事報道番組「パノラマ」及びジャーナリストのジョー・ケーシーであった。制作チームは、ある養護施設でいかに患者が手荒く扱われているか、その虐待ともいえる状況を隠しカメラで捕らえ、これを「パノラマ」で放映した。

 独立部門賞は、ITN/チャンネル4で放送されたクリップを作った、ジャマール・オスマンが受賞。オスマンは政治混迷が続くソマリアで、オリンピック出場を目指す人々を追った。

 最優秀報道番組賞は、BBC2で夜10時半から放映される、ニュース解説番組「ニューズナイト」が取得。

 そして、審査員賞はNHKに与えられた。その受賞理由の説明を抜粋すると、昨年3月11日、大きな地震が日本を襲うと、NHKは「数分で中継のストリーム放送を開始し、NHKの報道チームが目撃者の証言を集め」、津波がやってくることを該当する地域の人に伝えたという。14機のヘリコプターと70台の衛星用トラックを使い、NHKは「巨大な津波がやってくる様子を生中継で伝えた」。

 「NHKには地震の際の緊急体制」があったものの、それでも実際に地震が起きると、大変な仕事であった、世界中の放送局がNHKから画像を取ることができた、「空から、しかも生中継で、津波の全威力の画像を放送するのは、私たちにとって初めてであった」。

参考:
プレスリリース
http://www.rts.org.uk/rts-television-journalism-awards-2010-2011
「プレスガゼット」記事
Alex Crawford is RTS journalist of year for 4th timehttp://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=48820&c=1
by polimediauk | 2012-02-24 21:58 | 放送業界
 以下のエントリーに、間違った表記があることが分かりました。このブログだけでなく、ヤフートピックスなど他媒体に掲載された後、気づかれた方からご指摘をいただきました。 

 爆発的ヒットにならない「NHKオンデマンド」とダントツ人気の英BBCアイプレイヤーhttp://ukmedia.exblog.jp/15953138/


 この中に、ソニーのプレイステーションの話が出てきますが、最初、「パワーステーション」と間違って表記されていました。また、任天堂WiiをWII表記しておりました。訂正しておりますが、間違った情報を出してしまったことを、お詫びします。
by polimediauk | 2011-10-29 07:33 | 放送業界
 BBCのテレビやラジオの番組を放映・放送後7日間再視聴できる、いわゆる「見逃し番組視聴サービス」=BBCアイプレイヤーが、28日から、欧州11ヶ国で利用できるようになる。当初は、アイパッド(アップル)のみのサービスだ。年内には米国を含む、世界他国にも広げる予定だという。

 サービスが利用できる欧州11ヶ国とは、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、アイルランド、オランダ、ポルトガル、スペイン、スイス。毎月6・99ユーロ(約780円、あるいは年間49.99ユーロ、約5000円)の利用料を払う。

 サービスはBBCの商業部門となるBBCワールドワイドが行う。視聴できるのは、放送から7日間の番組ばかりではなく、新旧取り混ぜたラインアップになる模様。

 BBCの担当者は、アイプレイヤーは国内では「見逃し番組のキャッチアップ」サービスだが、海外版は「オンデマンド・サービス」となるという。「過去50―60年間で放送分の番組を混ぜる」という。約1500時間に上る番組の中から視聴したい番組を選べるようになっており、今後、一ヶ月で100時間分の番組が追加されてゆく。

 番組はWIFI環境下ばかりでなく、3Gでも視聴でき、ダウンロードもできるので、ネットにつながっていないときでも番組視聴ができる。番組の60%はBBCが制作・放映したもので、30%が独立制作会社が制作してBBCで放映されたもの、残りの10%は他局ITV,チャンネル4が放映したものになるという。

 フィナンシャル・タイムズ紙の取材に答えた、ブロードバンド及びTVのアナリスト、ニック・トーマス(インフォーマ社)は、欧州で今年販売されたアイパッドの台数は約750万と推測され、その大部分が英国で販売されたものであったので、28日から開始された、国際版アイプレイヤーの市場は「ニッチ(希少な)」ものであるという。

 BBCは経費削減への圧力が、最近非常に大きい。国内では大人気となったアイプレイヤーだが、無料で視聴できるため、投資をしたわりには収入を得られないのが難点だった。今回のグローバル版は1年間のパイロットという面があるそうだが、本格的に稼動した場合、大きな収入が得られる可能性がある。BBCのネームバリューから言って、国境を越えたオンデマンド・サービスの第一人者になる可能性もあると思う。

 ますます、テレビ番組は「受信機の前に座って、テレビ局が設定した時間に見る」ものではない状況が現実化している。

http://www.bbc.co.uk/news/technology-14322604
http://www.ft.com/cms/s/2/0b00eca4-b85f-11e0-b62b-00144feabdc0.html
http://www.guardian.co.uk/technology/appsblog/2011/jul/28/bbc-iplayer-global-ipad-launch
by polimediauk | 2011-07-28 18:19 | 放送業界
c0016826_1761582.jpg 米CNNの看板トーク番組「ラリー・キング・ライブ」が昨年末で終了し、その後を引き継いだ新番組のホスト役に抜擢されたのは、英国人で元デイリー・ミラー紙の編集長ピアス・モーガン(Piers Morgan)であった。

 モーガンは、英兵らによるイラク人への「虐待」写真が本物ではなかったことが分かり、同紙を解雇された過去を持っている。一体どのようにして、米国テレビ界のスター番組を担うところまで上り詰めたのだろう。モーガンの人気の秘密を、「英国ニュース・ダイジェスト」最新号(9日付)にまとめてみた。〔「英国ニュース・ダイジェスト」:http://www.news-digest.co.uk/news/index.php) 以下はそれに補足したものである。

―経歴

 左派系大衆紙デイリー・ミラーの元編集長で、今年1月から米CNNの新トーク番組「ピアス・モーガン・ツナイト」の司会者、ジャーナリスト。熱心なツイート利用者(@piersmorgan)でもある。1965年、英南部サリー州ギルフォード生まれの46歳。幼少時に父を亡くし、再婚した母と3人の兄弟とともに育つ。ハーロー・カレッジでジャーナリズムを勉強後、ロンドンの複数の地元紙に原稿を書く記者となる。大衆紙サンに転職し、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の、そしてデイリー・ミラーの編集長に就任。2004年、ミラーを解任されてからは、月刊誌「GQ」でコラムを執筆するほか、テレビ界に本格的に進出。著名人とのランチの逸話などが入った「ザ・インサイダー」(2005年)など、著書多数。2010年、デイリー・テレグラフの記者シリア・ウォルデンさんと再婚。先妻との間に3人の息子をもうけた。クリケットが大好き。サッカーはアーセナルのファン。

―モーガンのこれまで

 25年間続いた米CNNの看板トーク番組「ラリー・キング・ライブ」の代わりとして、今年から始まった「ピアス・モーガン・ツナイト」の司会者であるピアス・モーガンのこれまでを振り返ってみる。

―28歳で日曜大衆紙の編集長に

 モーガンの幸運は、メディア王といわれるルパート・マードックにその存在を知られたことだった。学業を終えてロンドンの数紙の記者をしていたところ、マードック傘下の大衆紙サンに引き抜かれ、ゴシップ・コラムを担当した。このコラムを通じて芸能界のみならならず幅広い人脈網を築き上げたモーガンは、マードックの一声で、同じく同氏傘下の日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの編集長に、28歳にして抜擢された。

 しかし、日刊紙の編集長を夢見たモーガンは、1995年、ニューズ社のライバルとなるミラー・グループ発行の大衆紙デイリー・ミラーの編集長に鞍替えした。約10年に渡り、同紙の編集長としてダイアナ元皇太子妃やブレア首相(当時)を含む著名人、政治家などと頻ぱんに食事やお茶をともにし、人脈網を拡大させた。

 2004年、イラクのアブグレイブ刑務所での米兵らによるイラク人拘束者への虐待写真が暴露された。モーガンは、頭部に袋をかぶせられた数人のイラク人拘束者に英兵らが放尿するなどの虐待写真を1面に掲載した。衝撃的な写真はミラーの部数を伸ばしたが、この写真が偽物である疑惑が発生した。本物ではないとする見方が確定すると、モーガンは編集室から護衛付きで追い出され、解雇処分となった。

―カムバックへ

 モーガンの評判は地に落ちた。2005年、著名人との交流が興味深い、編集長時代の日記を元にした自著「ザ・インサイダー」が出版されると、「有名人好きの実態のない奴」「傲慢」というイメージがさらに強化された。

 その後、モーガンは政治家や著名人から思いがけない一言を引き出す人物として知られるようになった。2008年、雑誌「GQ」用のインタビューで、自由民主党党首ニック・クレッグの口から「30人ほどの女性と寝た」という文句を引き出した。2010年2月にはITVの番組の中でブラウン首相(当時)をインタビューし、首相が生後まもなく亡くなったジェニファーを思って涙する場面を作った。

 2006年ごろからはテレビ界に進出し、タレント発掘番組の制作者で友人のサイモン・コーウェルの口利きで、「アメリカズ・ガット・タレント」の審査員役になった。「コーウェルが友人だった」-ここに、モーガンの成功の秘密があった。その後は次第にテレビ出演の機会を増やし、米国テレビ界の重要人物になるべく、歩を進めた。

―人懐っこさと真剣さ

 モーガンの魅力は、下世話な話題へのあきることのない関心と普通であれば失礼と思われるような話題を相手に聞いても、決していやな気持ちを与えない、天然のソフトさであろう。今年1月から始まった「ピアス・モーガン・ツナイト」で、モーガンはコンドリーザ・ライス元国務長官に「あなたを誘惑するにはどうしたらいいですか」と聞いている。怒るどころか、ライスはこれに嬉々として答えた。
 「なんだか憎めない奴」として出演者がモーガンを許してしまうのは、モーガンの人懐っこさやその童顔の笑顔が効いているせいもあるだろう。

 その一方で、モーガンは時には「厳しい質問を放つジャーナリスト」という面も見せる。米軍によるオサマ・ビンラディン殺害の是非を映画監督マイケル・ムーアに聞く中で、ムーアが「オバマ米大統領の決断を支持する」、「オバマは言行が一致している」と話すと、「でもキューバの米グアンタナモ基地をオバマは閉鎖するといっておきながら、まだ閉鎖してないではないか」と切り返した。

ムーアのインタビューの一部:http://piersmorgan.blogs.cnn.com/2011/05/06/clips-from-last-night-michael-moore-on-bin-ladens-death-republican-party-focus/

 窮地を一瞬にして自分の利にする手際も抜群だ。米俳優チャーリー・シーンが番組に出演することになっていたある日、シーンは放送の打ち合わせに姿を見せず、番組が成立しない危機に見舞われた。オンエア5分前にシーンが放送局に入ると、モーガンはツイッターで「今、シーンがやってきました。この後、すぐ生中継です」と打った。このたった5分で、約50万人が番組にチャンネルを合わせたという。

 独自に作り上げた人脈網、著名人・有名人を取材対象として限定していること、持ち前のソフトさ、そしてこれに相反するようなジャーナリスティックな視点―そんな複数の要素を内包するモーガンは、これまでにいくつもの人生の浮き沈みを乗り越えてきた。本国英国よりも米国でもっと著名になる可能性もあるだろう。

―モーガンの人生の浮き沈み年表

1965年:誕生。幸福のスタート?
1987年:地元紙の新聞記者として取材に専念
1989年:サン紙の編集長ケルビン・マッケンジーに「才能」を見込まれ、芸能ゴシップ・コラム「ビザーレ」担当として引き抜かれる
1994年:メディア大手ニューズ社の最高経営責任者ルパート・マードックに気に入られ、28歳にしてニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の編集長に就任
1995年:デイリー・ミラーの編集長に就任
2000年:IT企業ビグレン社の株購入にインサイダー取引の疑惑が発生。この件で部下二人が解雇された。
2002年:9・11米国中枢大規模テロの優れた報道で、ミラーが最優秀新聞賞を取る
2003年:BBCのドキュメンタリー番組に出演
2004年:英兵らがイラク人らを虐待する写真を掲載。偽装写真と判明し、編集長職を解任される
同年:チャンネル4の番組で司会役を務める
2006年:米国のタレント発掘番組「アメリカズ・ガット・タレント」の審査員に
2007年:本家英国の「ブリテンズ・ガット・タレント」(ITV)の審査員に
2008年:米著名人版の「アメリカズ・ガット・タレント」で勝利者に
2009年:世界各地を訪れる旅のドキュメンタリー「ピアス・モーガン・オン・・・」(ITV)が人気に。 
同年:著名人の人生を振り返る「ライフ・ストーりーズ」(ITV)開始
2010年9月:米CNNの「ラリー・キング・ライブ」が翌年から「ピアス・モーガン・ツナイト」に引き継がれると発表
2011年1月:「ピアス・モーガン・ツナイト」開始

―関連キーワード

Daily Mirror:デイリー・ミラー。1903年創刊の大衆紙。英国で元祖新聞王といわれるアルフレッド・ハームズワース(後のノースクリフ卿)が、女性が作る女性のための新聞として創刊した。当初部数が伸び悩んだ。1904年、全員が女性だった編集陣は解雇され、男性編集長ハミルトン・ファイフェの下に、写真を中心にした紙面に変えて再出発。第2次大戦中、兵士や国民の思いを汲み取る新聞として部数を大きく伸ばした。1940年代末から1960年代半ばが人気の頂点で、500万部の部数を誇った。その後はセックスとゴシップを前面に出したライバル紙サンの攻勢に、大衆紙トップの座を奪われた。左派系ミラーは労働党を一貫して支持する。現編集長はピアス・モーガンの後を継いだリチャード・ウォレス。
by polimediauk | 2011-06-09 17:04 | 放送業界
(この中に、ソニーのプレイステーションの話が出てきますが、最初、「パワーステーション」と間違って表記されていました。また、任天堂WiiをWII表記しておりました。訂正しておりますが、間違った情報を出してしまったことを、お詫びします。)

 以下は「週刊東洋経済」のテレビ特集号(14日発売)に掲載された分に補足したものであるが、今回、NHKのオンデマンド放送を調べてみて、何故無料で提供されていないのかの根拠が、「放送法第9条第2項第2号」にあることを知った。〔先の段落に情報追加) 

 これによって、NHKオンデマンドサービスは受信料を財源としないことが定められている。そこで、いろいろ工夫をこらしながら、様々なお試しコースを設けて、なんとか利用者を増やそうとしている。

 何故、放送法のこの項目がそうなっているのか(受信料外の業務とされたのか)の背景が、よく分からなかった。これはつまり、「放送と通信の融合」が法律的に実現しなかったことと関係があるようだと推測したのだが、もしご存知の方は教えていただきたい。私が調べたところでは、新たな法律ができることになっていたが、「民主党への政権交代で」、結局法律は成立しなかった、なのでそのままになっている、ということなのかどうか。(総務省の担当部署にメールを送ったが、お返事はなし)。

 そして、何か放送業界〔民放?)からの圧力があったのかどうかー?(ネットでどんどん番組が配信されてもらっては困る、放送と通信は別々であってほしいーとか?)こうした事情に明るい方からのご一報をお待ちしています。

(追加)
放送法
第2章日本放送協会
第2節:業務―第9条2-2をご参照
http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM

放送法第9条第2項第2号の業務の基準

http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/netriyou/index2.html

総務省の基準ーー受信料を使ってやる業務と、受信料以外を使ってやる業務を規定している。
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/netriyou/pdf/netkijyun2.pdf
この文書の「第2」の受信料以外の財源で行う業務として、見逃し番組サービスの提供など。


***
 
ネット対応優等生BBC -「世界制覇」へ挑む! 

 NHKの多メディア展開戦略の一つとして2008年12月から開始された、放送済み番組を有料で視聴できるサービス「NHKオンデマンド」。昨年12月末、PC会員(ブロードバンドにつながったPCでサービスを利用する人)数は57万人に達し、第3四半期(2010年10月―12月)の売上げ総額は過去最高の1億4176万円に達した。3期連続の上昇である(NHK「業務報告」)。

 しかし、いまだ「爆発的成功」とはいえないようだ。NHKオンデマンドの今年度の売上げ収入は昨年12月末時点で総額3億8500万円。今年度末までの達成目標額は11億円となっており、約3割にしか達していない。3月末までの目標達成は、逆立ちしても無理そうだ。

 一方、英国では公共放送BBCの番組再視聴サービス「BBCiPlayer(アイプレイヤー)」が大人気だ。

 アイプレイヤーへの番組視聴リクエスト数は、昨年12月で1億4500万回に上り、これまでで最高となった。前年同月比では27%増だ。民放局や有料衛星テレビのスカイが提供する同様のサービスの利用率と比較すると、BBCアイプレイヤーの人気はダントツだ。

 英国の放送局によるネットを使っての番組配信は2006年頃から本格的に市場に登場し、BBCは後発組。しかし、その後の巻き返しが目覚しい。実験配信の期間を経て、2007年12月、子供から大人まで幅広いファンを持つSF連続ドラマ「ドクター・フー」を再視聴できることを売りものに本格スタート。その後何度かの技術変更を経て、番組(テレビ及びラジオ)の放送から7日間の見逃し番組の視聴、30日間のダウンロードといった基本サービスに加え、連続番組のスタッキング(7日間を過ぎても、シリーズが終わるまで初回放送分から視聴できる)、フェイスブックやツイッターでお勧め番組の情報を友人たちと共有できる仕組みなど、サービス内容を拡充させている。バージン・メディアやBTなどのブロードバンド・プロバイダーと契約すれば、テレビの前に座って、リモコンを使って番組を楽しめる。ソニーのプレイステーション、任天堂のWiiなどのゲーム機、携帯電話からも視聴可能だ。

 アイプレイヤーの最大の功績は、英国の視聴者の行動を変えたこと。オンデマンド・サービスは他局もやっていたが、視聴率シェアが最も高いBBCが2007年末に本格市場参入したことで、サービスが一気に普及した。民放の「プラス・ワン」のチャンネル(あるチャンネルの放送内容を、そっくりそのまま一時間遅らせて放送する)も人気で、放送局側が決めた時間にテレビの前に座るのではなく、「自分の都合がよい時間に、見たい番組を取り出してみる」のが英国で普及している。

―簡単でタダ

 NHKオンデマンドと比較したときのBBCアイプレイヤーの最大の利点は、ズバリ、無料であることだろう。PC上から、アイプレイヤーの独自デスク・マネージャーを立ち上げて選ぶか、テレビの前に座って、リモコンを操れば好きな番組が難なく視聴できてしまう。アイプレイヤーは、とにかく楽なサービスなのだ。どれほど見ても全く懐が痛まない。貧乏人から金持ちまで英国に住んでさえいれば誰でもが視聴できる。

 残念ながらNHKは、国内法の制限から見逃しサービスの提供に受信料を使ってはいけないことになっている。「無料で放送された番組に何故再度お金を払うのか」という視聴者側の割り切れなさがいつまでも付きまとう。

 放送と通信の融合が刻々と進展する英放送業界で、今年最大の注目が無料ネット・テレビのプラットホーム・サービス「YouView(ユービュー)」の開始だ。BBCのほかには民放3局、通信業界からはBT,Talk Talk、 Arqivaが参加する。視聴者はブロードバンド・インターネットに接続された「セットトップボックス」をテレビの上に備え付けて番組を視聴する。高品位画像設定や番組の途中での巻き戻しや録画ができ、有料・無料のオンデマンド番組の視聴ができる上に、インターネットのコンテンツにアクセスできる。複数の配信サービスの一元化で、利用者にとっては、オンデマンドの利便性がぐっと向上することになる。インターネットにつながったテレビは現在英国で200万台ほどで、年内には700万台に増加すると言われている。

―運営予算削減の逆風

 BBCの目下の悩みは予算面での不透明感だ。緊縮財政を進める英政府は、昨年秋、2014年から4年間のBBCの受信料収入を「値上げなし」とする方針を決定した(BBCの受信料収入の値上げ幅は時の政府と交渉の末に決まる。)BBC試算によれば、値上げの凍結は、実質、年率16%の予算削減に当たるという。また、外務省が運営資金を出していたBBCの商業部門、BBCワールドワイドに対し、政府は資金の拠出を14年から停止と決め、BBCが自力で運営することになった。

 BBCオンラインの予算も13年度末までに大幅削減され、今後2年で360の職が消える。アイプレイヤーがどれほど国内で人気となっても、所詮は無料サービス。何とか収入を上げられないかと経営陣は頭をひねる。

 BBCは現在、アイプレイヤーで提供される番組を他のオンデマンド・サービスに組み込んだ形で提供する「シンジケーション」サービスを、原則許可していない(例外がバージン・メディア)が、アイプレイヤーから他局のオンデマンド・サービスに飛べるようにする「アウト・リンキング」の技術を開発中だ。これが実現すれば、トラフィック増大を切望する民放には朗報で、BBCに一定の収入が入る可能性もある。

 BBCが将来の大きな収入源の一つとして期待するのが、現在国内でのみ利用可能なアイプレイヤーの海外展開だ。商業部門BBCワールドワイドの手によって、有料購読サービスとして提供するのである。すでに、約1千本の個別の番組がアイチューンズなどを通して販売されており、2008-2009年で1000万ポンドの売上げとなっている。

 そこで年内に、まず米国で有料サービスを開始予定で、当初はiPadでの視聴のみとなるようだ。「お金を払ってもBBCの番組を見たい」という声は世界中で強い。ネットを利用して番組を視聴する時代となりつつある今、BBCは英国内のみならず世界のオンデマンド市場でトッププレイヤーになる可能性を秘めている。〔終)

 

 
 
 
by polimediauk | 2011-02-21 18:28 | 放送業界
c0016826_2022562.gif 放送批評懇談会が発行する月刊雑誌「GALAC』3月号の「海外メディア最新事情」の中で、英国の新聞界のお助け人、アレクサンドル・レベジェフ氏について、英メディア界の人のコメントを入れて、エッセイ風に書いてみました。書店などで軽い気持ちで読んでくださると幸いです(・・しかし、表紙の人は非常にきれいですね、驚きですー檀れいさんという方だが、昔の松原智恵子を少しほうふつとさせるー知っている人は今は少ないかもしれないけど)。

 この雑誌を読むと、日本のテレビ・ラジオ界でたくさん意欲的な試みがあることが分かる。普段、ネットで日本に関する情報に触れる私からすると、驚きのことが一杯だ。業界は、結構、熱い感じがするー。

http://www.houkon.jp/galac/index.html

****


 フェースブック関連で、日本で、実名を使って登録しなかった人のアカウントが消されたことを知った。

 
「春の垢BAN祭りが始まったよ! 」
http://togetter.com/li/98417

 この件の是非はいろいろあることが分かるが、「実名で書いたことが外に漏れるのが怖いな」ということを書かれている方のコメントが印象に残った。
by polimediauk | 2011-02-09 20:21 | 放送業界
 見逃した番組を無料で視聴できるBBCのアイプレイヤーは大変な人気である。多くの人の生活の一部になっていると思う。私も非常に重宝しているが、今度、これの海外版が出ることになった。

http://paidcontent.co.uk/article/419-bbc-plans-subscription-only-u.s.-iplayer-on-ipad/

 ただし、海外版は有料サービスで、はじめは米国である。また、使える機器はアイパッドのみ。こちらでは大人気の「ドクター・フー」などの番組を提供して収入をあげることを狙っている。
 
 アイプレイヤーは英国で最も人気がある動画サービスで、10月には1億3900万回の視聴リクエストがあったという。

 北米では動画サービス、フールーが人気(ちなみにリクエストは2億6000万回―複数の放送局の番組を提供)だ。

 ペイドコンテンツの調べによれば、BBCの番組だったらお金を払っても視聴したいという人が海外にたくさんいるという。在外英国人のみではなく、いわゆる現地の人もそうだという。だとすれば、BBCにとっての新たな収入源として、大きな期待がかかる分野である。(日本でもそのうち、利用できるようになればいいなと思う。)

 一方、BBCに加え、ITV,チャンネル4などの民放が協力して、動画サービス「ユー・ビュー」を来年から開始するが(現在はそれぞれのサービスが個別に提供されているので、これを一体化する。ただし、個々のサービスが消えるわけではない)、これに加入していない有料ケーブル・サービスのバージン・メディアが、新たにネット・テレビを売り出すサービスを、年末から年明けにかけて、開始する予定だ。これはいわゆるグーグルテレビ、アップルテレビに対抗するような、単にテレビの番組を見れるだけではなく、インターネットも使える、という代物。当初、テレビの機器代を190ポンドぐらい(約2万5000円)払うが、毎月の支払いは、すでに契約をして月間の料金を払っていれば、追加料金として3ポンドぐらいを払う仕組みだ。
 
 今年までに、見逃し番組の再視聴や録画が次第に浸透してきたが、来年からは、ネットが使えるテレビの競争がどんどん起きそうだ。
by polimediauk | 2010-12-03 19:00 | 放送業界
 20日、英政府が、財政再建のために政府の歳出計画を見直す「歳出見直し」を発表した。今後4年間(2014-15年まで)に、政府歳出を各省庁ごとに平均19%削減する予定だ。この結果、政府予測では49万人近くの失業者が出る可能性があるという。

 なんとも大きな削減になりそうで、今日一杯は、このニュースで持ちきりだった。

 メディアがらみであっと驚いたのがBBCの話である。4年で16%の経費削減となったのである。

 振り返ってみれば、BBCも一つの公共機関であるから、何らかの削減をしてしかるべきではないかー?そんな声が政府から聞こえてきた昨今であった。

 一方、BBCは設立許可証と王立憲章でその役割や活動が規定されている、特別な存在である。したがって、政府の大規模歳出削減が行われるからといって、BBCが犠牲を強要されることはないのではないか、という声もあった。

 しかし、BBCには政府に握られている弱みがあった。それは、毎年のテレビ・ライセンス料(受信料に相当)の値上げ率である。10年毎に決定される、先の設立許可証と王立憲章だが、ライセンス料に関しては、政府との交渉で決めることになっている。しかも、今回の10年(2007-8年から、2016-17年)のうちで、ライセンス料の値上げ率を大体決めたのは最初の6年間のみ(2012-13年分まで)だった。

 ライセンス料の2013年分以降をどうするかは、BBCと担当の文化・メディア・スポーツ省の大臣が、来年春ぐらいから交渉するはずになっていた。

 事態が急転したのは、比較的最近である。財務省から歳出カットのプレッシャーを受けて、文化省はBBCに対し、75歳以上の視聴者のテレビ・ライセンス料を、BBC自らが負担するようにして欲しい、と持ちかけたようだ。どういうことかというと、75歳以上の視聴者はライセンス料を払わなくていいのだが、この分を、雇用省が負担していたのである。それを、今度からはBBCに負担してほしい、と。

 BBCは、これに大慌てになったようだ。経営陣もBBCの活動内容を検証するBBCトラストも猛反対。もしBBCがこれを払ったら、まるで「福祉のコストを払ったことになる」「放送業者としてのBBCの活動内容からはずれる」、と。

 すったもんだの交渉があって(一時、トラストのメンバーがもしどうしても政府が言うことを聞かないなら、辞職するという話も出たらしい)、結果は、BBCはこの費用を負担しなくてもよくなった。その代わり、

①ライセンス料は現在の金額のまま、2016-17年度(今回の10年間の最後の年)まで、凍結する。
②外務省が資金を負担していた、商業国際放送のBBCワールドサービスと、世界中のニュースをチェックするBBCモニター(内閣府が資金を出していた)、ウェールズ語放送のSC4を、BBCが面倒を見る
③BBCの予算の中で、テレビのデジタル化への移行資金として使われていた分を、今後は、英国内のブロードバンド敷設費用として使う

 などが決まったのである。非常に急な決定で、最終的にBBC経営陣、トラスト、政府が合意したのは、歳出見直しが発表される前日であった。

 そして、①から③のために、BBCは4年間で実質16%の予算削減となった。

 各政府省庁の歳出が平均19%削減(予定)であるのと比較して、「たいしたことはない」・・・とはいえないだろう。何しろ、これで、新たに3億4000万ポンド(約43億6000万円)ほどの経費を、BBCはまかなわざるを得なくなったのである。これは、もし75歳以上の視聴者のライセンス料をBBCが負担した場合の5億5600万ポンド(約71億4000万円)よりは、確かに少ないが、喜ぶほどではない。何しろ、「新たに」この金額が追加となるのだから。

 私が懸念することの一つは、あっという間にBBCのライセンス料の額やBBCワールドを傘下に入れる、ということが決まってしまったことだ。通常、BBCの一挙一動は、トラストなり、政府なりが、まず国民や視聴者の意見を聞く機会を設ける。委員会が設置されることもあるだろう。意見を聞く前には、提案者が提案書を作る。数ヶ月かけて、大体の枠組みを決めて、最後は議会なり、トラストなりが決定を下す。それが、ほんの短期間にー実質的な交渉は一日か二日でー決まってしまった。

 BBCとしては、今後6年間のラインセンス料収入が、今からきっちりと決まっているため、ある意味では、安定した計画が立てられる。75歳以上の視聴者は今後増えるばかりであろうから、そのライセンス料を負担することを断ったのも、良い展開であった。

 しかし、いざ!というときに、政府側の都合で、急にまた何かをさせられるのではないか、という懸念は残る。

 また、BBCワールドの資金を負担していたのは外務省だが、一種のパブリック・ディプロマシーというか、外交の意味があった。それを今度はBBCが全部資金を出してやる、ということなると、どんな意味合いになるのだろう?また、BBCワールドは商業活動を行っているが、この点から、ますますライバル放送局から批判されないだろうか?

 BBCとは一体どんな放送局で、何を目指すのか?その目的や意味合いが、ぼやけてきたようにも思う。ライセンス料という形で視聴者から運営費を集め、時の政府からは(編集上の)独立を得る、というBBCの枠組みが、なんだかあやうくなってきた。

 お金の采配を政府に握られているために、どこまでもどこまでも、妥協させられるのではないか?そんな危惧を持っている。

(情報源はBBCとガーディアン、テレグラフ)

http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-11572171

 
by polimediauk | 2010-10-21 07:35 | 放送業界
 思わず息を呑み込むほどの大邸宅、これを取り囲む大庭園、たくさんの召使に囲まれて、登場するのはフリルやレース使いがぜいたくな装束に身を固めた美しい男女たちー。こんな登場人物が織り成すドラマに、英国民はついつい熱中してしまう。「コスチューム・ドラマ」(時代モノ・ドラマ)は英国のお家芸の1つだ。英民放ITVの新ドラマ「ダウントン・アビー」を例に、時代劇が受ける理由に注目した。

 以下は「英国ニュースダイジェスト」最新号のニュース解説に補足したものである。(掲載分は電子ブックで読める http://www.news-digest.co.uk/news/index.php )

英国の「コスチューム・ドラマ」は何故受ける?

 英国の民放ITV1で、英国の貴族が住む大邸宅を舞台にした新ドラマ・シリーズ「ダウントン・アビー」(=邸宅の名称)が、9月末から放映中だ。

 ドラマの設定は1912年。第1次世界大戦勃発直前。イングランド地方の田園に建つカントリーハウス「ダウントン・アビー」で暮らすグランサム伯爵一家とその召使たちの数年間が描かれる。グランサム卿の跡継ぎに予定されていた人物が、沈没したタイタニック号に乗船していたことが分かり、一家は大パニックになる。グランサム卿には娘しかおらず、遠縁に当たる人物が邸宅を引き継ぐことになったからだ。「よそ者」に財産を引き渡したくないグランサム卿の母と妻は策謀をめぐらす。果たしてダウントン・アビーの将来はいかにー?

 「ダウントン・アビー」では、巨大な庭を持つお城のような邸宅に住み、毎朝、寝室から使用人を鈴一つで呼びつける貴族の贅沢な暮らしがテレビ画面を通して映し出されてゆく。優雅な暮らしを続けるグランサム伯爵一家を支えるのは、階段を上り下りしながら忙しく働く、使用人たちだ。「使う人」と「使われる人」という対照的な関係にある2つの階級に属する人々のドラマが展開されてゆく。

 「ダウントン・アビー」は、典型的な英国のコスチューム・ドラマ(あるい
はピリオド・ドラマ、日本流に言えば時代劇)の1つといえるだろう。過去のある時代にドラマを設定し、登場人物がその時代の衣装や建物の中で演技する。

 コスチュームドラマはすでに著名な小説などから、テレビ化あるいは映画化が多いが、「ダウントン・アビー」は脚本家ジュリアン・フェローズのオリジナル作品である。

 フェローズは上流社会を描いた映画「ゴスフォード・パーク」(2002年)の脚本でアカデミー賞を受賞している人物だ。1949年、外交官の息子としてエジプトで生まれ、俳優、小説家、映画脚本家、監督になった。妻はケント公伯爵夫人の女官エマ・ジョイ・キッチナーで、90年の結婚後、ジュリアン・キッチナー=フェローズに名前を変えている。

 ケンブリッジ大学やドラマ学校で勉学し、テレビ界で俳優としてのキャリアを積んだ後、「ゴスフォード・パーク」で一段と著名になった。映画監督デビューは「セパレート・ライブズ」(2005年)。ビクトリア女王を描いた「ヤング・ビクトリア」(2009年)のオリジナルの脚本も書いた。上流社会をテーマにした小説「スノッブス」を2004年に上梓。貴族、王室、上流階級の人々のドラマを手がけることが多い。

 コスチューム・ドラマと一口に言っても、選択する時代やドラマの種類は千差万別だ。古代の戦闘映画「ベン・ハー」(1959年)、エリザベス・テーラーが出た「クレオパトラ」(1963年)、シェークスピアもの「マクベス」(1971年他)、タイタニック号沈没を扱ったレオナルド・ディカプリオ主演の「タイタニック」(1997年)など、その扱うテーマや時代は幅広い。


ーオースティンが代表格

 しかし、英国のコスチューム・ドラマの中で一つのジャンルの域に達しているのが、18世紀から20世紀初頭を背景に描かれた、中・上流階級の恋物語と人間ドラマであろう。

 その代表格はなんといっても小説家ジェーン・オースティン(1775年生-1817年没)の数々の作品だ。現代からすれば少々窮屈そうな装束に身を包んだ男女が、直接的な表現が許されない時代の制約を受けながらも、最後はそれぞれの幸せな場所を見つけてゆくドラマは、現代人の心にも強く響く。

 「ダウントン・アビー」もそうだが、使用人を使う側と使用人として使われる側の対比を描くドラマも、繰り返し登場している。ITVが放映した「アップステーアズ、ダウンステアーズ」(1971-75年)は、ロンドンにある大邸宅を舞台に、「アップステアーズ=階上の使用人を使う側の世界」と「ダウンステアーズ=階下での使用人の世界」を描いた。その後、同様の設定のドラマが続出した。BBCはITVドラマの続き物を同題名「アップステアーズ、ダウンステアーズ」で制作中で、年内に放送予定といわれている。

―何故人気?

 時代モノは何故人気があるのだろう?番組制作者側からすれば、「一定の視聴率が稼げる」「すでに評価の高い小説を元にしているので成功率が高い」などの理由があるだろう。

 時代モノの専門サイト「ピリオド・ドラマ」によれば、人気の理由は「視聴者が現実を忘れて、没頭できるから」。つまり、「別世界」だから、と。歴史となった過去の日々へのノスタルジー感も喚起する。

 さらには、「うっとり感」もあるのではないだろうか。多くの人にとって、上流階級の暮らしや贅沢な所持品、装束は手の届かない、憧れの存在だ。その生活をドラマを通して垣間見ることで、一瞬でも、自分もその中の一部になった思いがする。その一方で、使われる側の人間ドラマに共感を抱く人も多いだろう。

 コスチューム・ドラマは、階級制度の名残が残る、英国らしい楽しみごとの1つのようだ。

*英国コスチューム・ドラマのトップ10(選定はPeriod Dramas.com による。www.perioddramas.com)

1 「北と南」(2004年、BBC)(時代設定:1851年、監督:ブライアン・パーシバル、原作:エリザベス・ギャスケル、脚本:サンディー・ウェルチ、主演:ダニエラ・デンビーアッシュ、リチャード・アーミテージ、一言:社会問題と恋愛物語が平行して進む。放映後、すぐにDVD化)

2 「高慢と偏見」(1995年、BBC)(時代設定:1811-12年、監督:サイモン・ラングトン、原作:ジェーン・オースティン、脚本:アンドリュー・デービス、主演:ジェニファー・エール、コリン・ファース、一言:ファースのダーシーを超える人はいまだいないかも)

3 「リトル・ドリット」(2008年、BBC)(時代設定:1805-26年、監督:アダム・スミス他、原作:チャールズ・ディケンズ、・脚本:アンドリュー・デービス、主演:マシュー・マクファーデン、ジュディー・パルフィット、一言:刑務所に入った父の面倒を最後まで見た可憐なドリットに幸せが訪れる)

4 「ジェーン・エア」(1973年、BBC)(時代設定:1829年、監督:ジョアン・クラフト、原作:シャーロット・ブロンテ、脚本:ロビン・チャップマン、主演:ソーカ・キューザック、マイケル・ジェイストン、一言:小説に忠実に作った作品として、米ワシントン・ポスト紙が絶賛)

5 「ジェーン・エア」(2006年、BBC)(時代設定:1829年、監督:スザンナ・ホワイト、原作:シャーロット・ブロンテ、脚本:サンディー・ウェルチ、主演:ルース・ウィルソン、トビー・スティーブンス、一言:ロチェスター役スティーブンスのニヒルな物腰と純真なウィルソンの演技が光る)

6 「分別と多感」(2008年、BBC)(時代設定:1795年、監督:ジョン・アレクサンダー、原作:ジェーン・オースティン、脚本:アンドリュー・デービス、演:ヘイテイー・モラハン、ダン・スティーブンス、一言:これまでなく性を前面に押し出した脚本といわれる。)

7 「ラーク・ライズ・ツー・キャンドルフォード」(2008年、BBC)(時代設定:1891年、監督:ジョン・グリーニング他、原作:フローラ・トンプソン、脚本:ビル・ギャラハー、主演:オリビア・ハリナン、ジュリア・サワルハ、一言:郵便局を舞台にした人間模様。地味だがついつい見てしまう作品)

8 「ある晴れた日に」(1995年、映画)(時代設定:1790年、監督:アン・リー、原作:ジェーン・オースティン、脚本:エマ・トンプソン、主演:エマ・トンプソン、ヒュー・グラント、一言:才女トンプソンが脚本も書いた作品。なぜかグラントが「弟」に見えてしまう)

9 「エマ」(2009年、BBC)(時代設定:1815年、監督: 、脚本:ジェーン・オースティン、サンディー・ウェルチ、主演:ロモラ・ガライ、ジョニー・リー・ミラー、一言:エマがあまりにも憎たらしいので新聞では酷評されたが、女優の名演技の証拠かも?)

10 「ブライト・スター」(2009年、映画)(時代設定:1818年、監督:ジェーン・キャンピオン、脚本:ジェーン・キャンピオン、主演:ベン・ウイショー、アビー・コーニッシュ、一言:詩人ジョン・キーツの恋物語。映画評は、どれも絶賛)
by polimediauk | 2010-10-15 17:23 | 放送業界
 「メディア展望」(10月号、新聞通信調査会発行 http://www.chosakai.gr.jp/index2.html )に、BBCを中心とした放送業界の現状について書いたが、原稿を書いた後で、いくつかの動きがあった。
 
 まず、視聴者を代表としてBBCの活動内容を監視するBBCトラストの委員長が、来年5月、4年間の就任が任期切れとなった時点で委員長職を辞めたい、と申し出た。トラストの委員長職はパートタイム勤務だが、実際の仕事量がパートタイムの仕事の限界を超えている、というのが理由だ。
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-11296324

 BBC批判の矢面に立って、BBCを常に弁護してきたが、重圧に耐えられなくなった、という面もあるかもしれない。

 これに続き、BBCトラストは、BBCの国内活動の主な収入源であるテレビ・ライセンス料の2011年分と2012年分の値上げを辞退する、とも述べた。
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-11325325

 ライセンス料は毎年2-3%程度上がるように設定されていた。これに対し、ジェレミー・ハント文化・スポーツ・メディア大臣は、2011年度の現状凍結については歓迎したものの、2012年分は未定とした。2012年分に関しては、政府は削減を計画しているといわれている。
 
 BBCは、緊縮財政ムードを汲んで行動を起こしている、そして、ライバルメディアがいうところの「際限ない拡大」はしない、というメッセージを内外に伝えているのかもしれない。

 以下は「メディア展望」掲載分である(9月上旬時点の話)

岐路に立つBBC
 -受信料削減、規模の縮小化の先は何か?


 BBC(英国放送教会)の規模の大きさに対する批判が、英国内で年を追う毎に熾烈化している。巨大さ批判は以前から存在していたが、メディア環境の変化や不景気のために広告収入が減少した結果、民放他局が地盤沈下状態になり、BBCの「一人勝ち」状態が目立つことになった。

 BBCには景気の動向に左右されないテレビ・ライセンス料(NHKのテレビ受信料に相当)収入があり、これを原資にしながら、テレビ,ラジオ、ネット、オンデマンド・サービスとさまざまな分野に進出できる。BBCは放送業界の方向性を決めてゆく場所にいる。

 しかし、巨大さ批判はライバル他局からのみではもうなくなった。BBCが使う著名タレントへの高額報酬の提供や経営幹部の高額経費使いが明るみに出たことで、国民の中に、「自分が支払うライセンス料が無駄遣いされている」という思いが強く出てきた。

 不景気で緊縮財政ムードが高まり、BBCが規模の拡大やライセンス料値上げを容易にはできない情勢となった。

 一方、デジタル化の進展で、人々の番組視聴行動は大きく変化している。多チャンネル化が定着し、BBCも含めた各放送局のチャンネル視聴率は低下傾向にある。

 現在のように、視聴者から強制的にライセンス料を徴収し、これをBBCという一つの放送局が独占するやり方は、次第に合法性を失っているのである。BBCは今、岐路にあるといえよう。

 本稿では、来年から始まるBBCと政府との間のライセンス料体制の交渉を前に、BBCの置かれている現況と将来像の可能性を考えてみる。

―「公共サービス放送」が中心に

 1920年代に誕生したBBCは、1950年代半ばで民間放送ITVが参入するまで、放送市場を独占していた。

 1982年にはチャンネル4(政府保有だが広告で運営費を捻出)、89年に衛星放送スカイテレビ(翌年衛星放送BスカイBと合併)、97年に民放ファイブ、と新規放送局の発足が進行した。放送・通信監督団体「オフコム」の計算によれば、地上波・衛星を含めたデジタル放送も入れると、チャンネル数は490に上る(2009年)。

 BBCの初代会長リース卿はBBCの役割を国民に「情報を与え、教育し、楽しませる」ものとして定義したが、放送業を公共の利という観点からとらえる伝統が今でも続いている。

 そこで、公共放送局BBCだけでなく、商業放送としてくくられるチャンネル4(ただし非営利法人が運営という独特のしみ)、株式会社が運営するITV、ファイブなどを、英国では「公共サービス放送」(PSB=Public Service Broadcasting)と分類している。PSBとしての各放送局は、一定の時間数のニュース、時事、事実に基づいた番組、児童番組、ドキュメンタリーを放送するよう義務付けられている。

 この枠の外に、米メディア大手ニューズ・コーポレーションが主要株主となる有料衛星放送BスカイB、ケーブルテレビサービスのバージン・メディアなどがある。

 放送業、通信業の監督・規制団体が先のオフコムで、放送・通信市場の現況についての報告書を定期的に発表しているほか、不祥事があった場合、業者に処罰を課す権限も持つ。

―「身震いするほど恐ろしい」と巨大さ批判

 昨年夏、英スコットランドの首都エディンバラで開催された国際テレビ祭で、ニューズ・コーポレーションの欧州・アジア部門の会長兼最高経営責任者で、BスカイB会長のジェームズ・マードック氏による基調講演が話題を集めた。

 同氏はニューズ・コーポレーション最高経営責任者ルパート・マードック氏の二男である。同社の子会社ニューズ・インターナショナルは英国で高級紙タイムズ、サンデー・タイムズ、大衆紙サン、ニューズ・オブ・ザ・ワールドを発行し、マードック両氏(父及び息子)の発言は市場の動向に大きな影響力を持つ。

 ジェームズ・マードック氏はテレビ祭の基調講演で、「英国の放送市場を支配するBBCが独立したジャーナリズムの存在を脅かしている」と述べ、広告収入の減少で厳しい状態にある民放各局と比較して、その巨大さが目立つBBCを批判した。

 テレビからネットまで、複数の領域に手を広げる「巨大なBBC」の存在は「身震いするほど恐ろしい」とマードック氏は表現した。

 「規制を撤廃し、BBCを縮小させ、『顧客』に選択の自由を与えるべき」と提唱した同氏は、独立したジャーナリズムを保証する唯一のものとして「利益」を挙げて、壇上を降りた。公益を重視する英国の放送業界の常識に、真っ向から挑戦する講演となった。

 BBCの規模に改めて注目すると、従業員は世界で約2万2000人、国内では約1万7000人が働く。BBCのテレビ番組のコンテンツは、スポーツを除く国内の全テレビ番組の3分の2にあたる。

 毎週2900万人がアクセスするウェブサイトへの年間投資額は約1億9900億ポンド(約257億円)。テレビ(約23億ポンド)、ラジオ(約5億ポンド)に比べればはるかに少ないが、全国紙の年間制作経費(紙媒体とウェブ)は1億ポンドと言われており、BBCのウェブ制作経費はその2倍である。

 主要財源はテレビ受信機を所有する者に課すテレビ・ライセンス料だ。現在、カラーテレビで年に145・50ポンドである。今年3月決算のライセンス料収入総額は約34億4000万ポンド。これにラジオ国際放送の「ワールドサービス」(政府交付金で運営、2億9300万ポンド)、商業部門BBCワールドワイドの収入(約10億7400万ポンド)などを加えると、BBCの事業収入は47億9000万ポンドに上る。

 一方、民放最大手ITVの従業員数は約4200人(09年、以下同じ)。BBCの国内の人員の4分の1である。昨年12月決算で総収入は18億7900万ポンド(前年20億3000万ポンド)、利益は2億5000万ポンド(前年は27億ポンドの損失)となった。

 規模で他を圧するBBCの動向が業界の方向性を決めていく構図が出来上がる。具体例が、「いつでも、どこでも、好きな時に視聴できる」をキャッチフレーズとして広がった、番組視聴のオンデマンド・サービス、BBC iPlayer(アイプレイヤー)の人気である。

 番組再視聴サービスは2006年以降、チャンネル4が先陣を切って提供し、他局もこれに続いた。しかし、07年末、BBCが本格的に市場参入した後で、広く利用されるようになった。

 08年、収入の大部分を広告に依存していた地方紙業界がリーマン・ショック以降の広告収入減で大きな苦境に陥ると、BBCは地方支局の拡充を計画。地方ニュースを掲載するウェブサイトに動画を増やし、地方紙がまかないきれない市場のギャップを埋めようとした。地方紙のウェブサイトにとっては大きなライバルができることになる。明らかな民業圧迫であるとして、地方紙の業界団体がBBCの計画の反対運動を展開した。最終的に、BBCは地方サイトの大幅拡充をあきらめざるを得なくなった。

 動画が豊富で充実したBBCのニュースサイトは、新聞各社にとっては大きな競争相手となる。タイムズとサンデー・タイムズが7月以降、ウェブサイトの閲読を有料化したが、ライセンス料を元手に無料でネット・ニュースを提供するBBCは「ニュースは無料」という感覚を利用者に植え付けていく。

 海外でBBCの番組販売や出版を行うBBCワールドワイドに対するほかのメディアからの批判も、毎年、強くなる一方だ。

 ワールドワイドの収入は、今年3月期決算で前年比7%増の10億7400万ポンド。利益は1億4500万ポンドで、前年比36・5%増。民放や新聞各社からすれば、なんともうらやましい数字だ。

 ライセンス料は運営の原資として使われていないが、ライセンス料を使って制作した番組や他のコンテンツを利用してビジネスを行っているのは事実だ。非営利目的のはずの公共放送であるBBCが商業活動に従事する事態が生じている。

 BBCはワールドワイドで得た収入の一部(株主配当金他)をBBC本体に還元しており、これを番組の制作費に投入しているが、商業部門がBBC本体をさらに大きくするためという自己目的化しているという疑念が根強い。

―縮小化、さらなる削減への圧力

 2004年にBBCの会長(=ディレクター・ジェネラル、経営陣トップ)職に就任したマーク・トンプソン氏は、前職のチャンネル4の経営陣であった時から、思い切った経費削減には定評があった。「バリュー・フォー・マニー」(金額に見合う価値)を合言葉に、ライセンス料を払った視聴者が納得するようなサービスや番組の提供に力を入れてきた。トンプソン会長の主導で実現した成功例がBBCアイプレイヤーである。

 BBCの運営は、存立、目的、企業統治を定める特許状と、これに沿った業務の具体的な内容を定める協定書(BBCと所管の文化・メディア・スポーツ相との間で交わされる)が基本になる。

 特許状、協定書ともに10年ごとに更新されるのだが、前回、07年からの10年を対象とする政府との交渉の際に、トンプソン会長からすれば、不服の結果が生じた。

 まず、一時は廃止されるという噂も出たライセンス制度は維持されたものの、インフレ率に数パーセントを上乗せする従来の値上げ方式は停止となった。例えば、インフレ率が2%の時、値上げ率が同率であると実質ゼロの伸びになる。これを避けるために、上乗せする方式が導入された。新たな取り決めでは、前年比2-3%増となったのだが、実質は現状維持か目減りする可能性ができたため、経営陣は活動計画の大幅変更を迫られた。景気の動向に左右されないはずのライセンス料収入が、もはやそうではなくなった。

 さらに、当時の労働党政権は「放送業界の変化の予想は困難」として、具体的な値上げ率が設定されたのは最初の6年間のみ(07年から12年)で、2013年以降は未定となった。ライセンス制度がこれ以降、続くのかどうかさえ、定かではなくなった。

 昨年6月、政府白書「デジタル・ブリテン」が発表された。この中で、政府は、BBCのライセンス料収入の中で、テレビの完全デジタル化(2012年予定)移行準備のために使うためにとっておいた資金を、移行が終了した時点で、地方ニュースの制作費として他局が使う案を提唱した。

 この案は政権交代(今年5月、保守党・自由民主党による連立政権が発足)で廃止されたが、BBCはこれまでにも、チャンネル4がライセンス料の一部を共有したいとする旨の案を退けてきた過去がある。BBCにとっては、ライセンス料は聖域であり、他の公共サービス放送の制作にまわすのは論外だった。

 しかし、「デジタル・ブリテン」は「ライセンス料はBBCだけが独占するものではない」と明記し、BBCのライセンス料=聖域説を脅かした。
 
 多チャンネル化により、BBCが提供するチャンネルの視聴シェアは相対的に低下している。視聴行動の変遷を記録する団体BARBによると、BBCの主力チャンネルBBC1(NHK1チャンネルに相当)の視聴シェアは、ITVとの二大巨頭体制の最後の年1981年には39%だった(ITV1は49%)が、その後年々減少し、09年には約21%にまで下落した。12年からのテレビの完全デジタル化で、各チャンネルの視聴シェアはさらに分散化する見込みだ。徴収した受信料をすべてBBCが使う、という方式がますます正当化できなくなる。

 視聴率シェアでは最大のライバルとなるITVが広告収入減で経営が苦しくなり、チャンネル4も同様の窮状を訴える中、BBCの人気出演者への高額報酬(推定額)の報道や、経営陣の高額経費使いが情報公開法の請求によって、ここ2年ほどの間に明るみに出た。不景気感が募り、「金遣いがあらい」ように見えるBBCへの批判が国民の中からも強く発せられるようになった。

 国民感情や市場動向の変化を察知した「BBCトラスト」(視聴者の代表としてBBCの業務全般を監督する)は、経営陣に対し、戦略見直し策の提出を求めた。

 今年3月、経営陣がトラストに提出した見直し策には「質を優先する」という題名がついていた。「より少ないことをより良くやる」ことを主眼にし、際限のない拡大にストップをかけることを宣言した(ライバル局はこれでも「不十分」とするが)。

 7月、トラストは、見直し策に対する中間報告を発表した。英国が緊縮財政下にあり、ライセンス料を払う視聴者も不景気悪化の影響を受けているとして、さらなる経費削減、節約分野を見つけるように経営陣に注文した。

 また、今後3年間で経営幹部の給与を25%削減するというBBCの経営陣による計画に対し、トラストは3年ではなく1年半で実行するよう要求し、15人の経営幹部は年に一カ月分の給与削減、トラストのメンバー(全12人)も、給与を8・3%削減することになった。

 トラストによる最終評価は今秋までに発表され、年内にはBBCの2016年までの活動計画の大枠が決定される見込みだ。

―将来像は?

 今年のエディンバラ・テレビ祭で、基調講演を行ったトンプソンBBC会長は、前年のジェームズ・マードック氏によるBBC及び伝統的な公共放送体制に対する批判への反論を行った。

 英国の放送界は「公共放送と商業放送の組み合わせで構成されているがゆえに、質の高い番組を制作するための競争が働き、同時に、利益のみでは正当化できない企画に投資できる」。

 また、BBCの年間テレビライセンス料収入34億ポンドをはるかに超える59億ポンドの売上げを持つBスカイBが今後も巨大化すれば、「BBCばかりか、商業放送も含めた英国の放送業全体を取るに足らないほど小さな存在にしてしまう」、と警告した。

 この警告には真実味があった。BスカイBの株を39%所有する米ニューズ・コーポレーションが、最近になって、残りの株の取得の意向を示したからだ。

 トンプソン会長はまた、有料テレビ市場最大手のBスカイBに対してオリジナル番組の制作の投資を増やすべきと注文をつけ、民放ITVなど他局の番組をスカイのサービスの中で放映する場合、「再放映料を払うべきだ」と提案した。

 放送業界関係者一千人近くが集うテレビ祭でのマードック氏、あるいはトンプソン会長の発言は、メディアで大々的に報道される。お互いに自局に好意的な世論を喚起することが基調講演の大きな目的の一つである。

 トンプソン会長は、12年度で終了する現行のライセンス料体制の取り決めに関しては、「BBCの予算の一ポンドの削減は、英国のクリエーティブ産業が一ポンドを失うことを意味する」と述べて、将来の大幅削減が起きないよう、ライセンス料交渉の相手である政府をけん制した。

 さて、今後のテレビ・ライセンス料体制の行方やBBCの規模はどうなるだろう?

 現在のところ、視聴者からライセンス料を徴収し、これを公共サービス放送が使用する方法自体がすぐになくなると見る人は少ない。また、BBCがその規模を自ら大幅削減する可能性も低い。

 したがって、①視聴者から徴収したライセンス料で番組制作などの活動資金に使う仕組み自体は今後も続く、②しかし、BBCがすべてを独占するのではなく、一部は他の公共サービス放送に回る、③ライセンス料の金額の値下げや削減は名目的にはないが、「現状維持」という形での削減はあり得る(注:最初の補足で書いたように、すでに、来年4月からの2%値上げ分をBBC側は辞退)-が、今後2年ほどの動きになろう。

 一方、ライバル局から特に批判の高いBBCワールドサービスについて、ヘイグ外相は、9月上旬、その活動資金となっている政府交付金を削減する意向を表明した。連立政権は財政赤字解消のため、さまざまな分野で平均25%の政府支出削減を目指している。交付金削減もこの一環だが、BBCにとっては、厳しい将来を予測させた。

 英放送業界はBBCが主導役となって発展してきた歴史がある。しかし、旗振り役がいなくなったら、あるいは力を失ったら、放送業界を束ねる役をどこが担うのか?「市場競争=利益を原動力とすればいい」というマードック氏のようには割り切れないように思う。

 まずは今秋以降発表される、BBCの戦略見直し策を注視したい。(終)
by polimediauk | 2010-10-03 18:43 | 放送業界