小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:英国事情( 193 )


日本に来て書店をのぞくと、イスラム過激派関係の本が結構でているのに気づいた。新刊の1つでは、7月のロンドンテロを「イスラム過激派の犯行」としていた。大急ぎでこの部分を入れたのだろう。「イスラム過激派の犯行」とするのは、間違っているわけではない。しかし、どうも、こうやってくくってしまうと、自分が見聞きしたロンドンでの経験と若干の乖離を感じてしまう。それは、「一見、普通の若者」、「近所にいる若者」が起こした犯行だからだ。

 地下鉄で隣に座っていたかもしれない、何の変哲もない若者たちが、自爆テロを起こしたからこそ、英国民は大きな衝撃を受け、痛みを感じた。英国で生まれ育った英国籍の若者が、自国民へのテロを起こしたから、ショックを受け、「何故?」と自問した。
 
 イスラム教過激派の影響を受けての犯行だと、今のところはされているが、どうしてこうした過激思想に影響を受けて、隣人を殺すところまで行ってしまったのか?

 その答えを探す作業は、まだ続いている。

 4人のテロ実行犯(いずれもイスラム教徒たち)が自爆テロを起こした、その責任は「英ムスリム社会にある」、とは、私はあまり思っていない。また、「過激思想の流布を許した英社会の言論の自由に、問題があった」とも思っていない。こういうことを確固として言うには、まだ早すぎるような気がする。

 ただ、英国の専門家(テロの分析など)らが言うには、世界中のイスラム教徒の若者のなかで、アルカイダに代表されるようなテロが、一種のカルトになっている、という説は、あたっているように感じている。

 アルカイダは、もはや直接手を下す必要はなく、指令を出す必要もない。世界中のイスラム教徒の若者たちが、テレビの映像やインターネットのチャットルームを通じて、過激思想に染まり、自分たちで行動を起こす・・・という現象が起きている、ということが指摘されている。

 それでも、「英ムスリム社会とは?」を、一旦見ておくのも、事件の背景を理解する際に役立つかもしれない。

 そう思って、9月1日発行の、「新聞通信調査会報」に、以下の原稿を書いた。8月20日頃までの情報を基にしている。http://www.chosakai.gr.jp/index2.html


ーーーー

英国生まれのテロ犯の衝撃
 ―当惑と驚きの波紋広がる
 
 七月七日のロンドンの地下鉄やバスなどでの同時爆破テロは五十六人の死者を出した。実行犯グループが英国の地方都市で生まれ育ったイスラム教徒で、警察当局が全くマークしていなかった「普通の」青年たちだったことで、英国全体に当惑と驚きが広がっている。一体どれほどの「普通のイスラム教徒たち」が、テロリスト予備軍になるのだろうか?また、英国籍をもち、文化、価値観を十分に理解していたはずの人物が、何故、自国民に対するテロを起こしたのか?政府は新テロ防止策、過激なイスラム教思想の取締り策に取り組みつつあるが、効果のほどは定かではない。

―英国籍の実行犯たち

 実行犯グループは爆破により乗客と共に命を落とし、テロ行為の理由を説明する声明文なども見つかっていないため、現在のところ正確なテロの動機は分かっていない。しかし、テロ犯一人一人の生い立ちや育った場所の背景、急速に熱心なイスラム教徒に変わっていった様子から、社会全体に対する疎外感に加え、イスラム教過激派の教えに影響を受けたのが大きな要因と見られている。

 四人の実行犯の中で三人が英国で生まれ育ったパキスタン系英国人で、残る一人はジャマイカ生まれだが幼少時から英国で暮らしていた。全員が英中部ウエストヨークシャー州のリーズ市(人口約七十万)やその近郊で生活経験がある。

 実行犯らが住んでいた地域には低所得層が多く、白人、パキスタン系イスラム教徒、黒人など、人種間の小競り合い、対立が続いていたという。二〇〇一年六月にはバングラデシュ人が多く住む地区で数百人規模の暴動が発生し、同年七月には近郊のブラッドフォード市で、イスラム教徒の移民と白人市民との間で千人ほどを巻き込んだ暴動事件が起きている。

 それぞれの実行犯の生い立ちを見てみる。

 モハメッド・サディック・カーン容疑者(三十歳)はリーズ市で生まれたパキスタン系英国人で、インド系移民で教師の妻との間に小さな娘が一人いる。昨年秋まで市内の小学校に学習指導員として勤務していた。十一月には、シェザード・タンウイア容疑者とともにパキスタン・カラチに出かけている。イスラム教の学校に入り、過激思想に影響を受けた、と報道された。(パキスタン側は、「今のところ形跡なし」、としている。)家族によると、「優しくて、思いやりのある」人物だった。

 同じくリーズ市で生まれ育ったパキスタン系英国人のハシブ・ミル・フセイン容疑者(十八歳)は、〇三年七月に中等教育を終了し、親戚を訪ねるためにパキスタンを訪問。イスラム教徒の巡礼地メッカも訪れた後、ひげをはやしイスラム教徒特有のローブを着るようになったという。敬虔なイスラム教徒になったにも関わらず、〇四年、万引きで逮捕されている。同年秋には再度パキスタンへ。家族によると、容疑者は「愛情あふれる、普通の若者だった」「もしテロを実行することが分かっていたら、全力で止めていただろう」。

 三人目のパキスタン系英国人シェザード・タンウイア容疑者(二十二歳)もリーズ市育ち。フセイン容疑者の友人で、リーズ・メトロポリタン大学でスポーツ科学を専攻し、クリケットや武道が趣味だった。容疑者の叔父の証言では、「英国人であることを誇りに思っていた」、「親切で落ち着いた性格だった」。

 四人の中で唯一英国以外で生まれたのがジャーメイン・リンジー容疑者(十九歳)。ジャマイカ生まれだが十三歳から十六歳までをウエストヨークシャー州のハダスフィールドで過ごした。ジャマール・リンジーと名前を変え、イスラム教徒に改宗。事件発生後、容疑者の妻は、「あのような恐ろしい出来事に関わっているとは全く知らなかった」「愛情あふれる夫だった」と述べている。

―背景
 
 何故「愛情あふれる」「普通の青年」たちが、テロ犯になったのか?

 家族や知人らの証言によると、青年たちは、暴力を含む聖戦を呼びかけるイスラム教過激派のモスク(イスラム教の礼拝所)に通い、米国主導の「テロの戦争」をイスラム教徒に対する攻撃と感じていたようだ。

 国際テロ組織アルカイダと今回のテロとの直接の関連は証明されていない。しかし、英専門家らによると、アルカイダはテロ実行には直接関わらず、一種のインスピレーションとして世界中のイスラム教徒の若者に影響を与える存在になっており、自爆テロ自体がカルトになっている。英国の地方都市に住んでいた今回の四人もこうした影響を受けていた、と見られている。
また、移民第二世代のパキスタン系英国人であることからくる、疎外感も一つのきっかけになったのではないかと言われている。青年達の親は移民第一世代で、生活の向上を目指して英国にやってきた。一生懸命働き、家庭を作り、自分たちの居場所を作ったが、第二世代の若者たちは、英国が母国。目的意識が親の世代に比べて希薄であるといわれる。親の世代が維持するパキスタン社会の価値観と、コミュニティーの外の英社会の価値観との間でギャップを感じていた、と指摘された。
 
 英国の全人口約六千万人の中で、イスラム教徒は約百六十万人。二〇〇一年の国勢調査によると、六十一万人がパキスタン系、二十万人がバングラディシュ系、十六万人がインド系で、南アジア系だけで約半分となる。(残りの三十五万人が中東、アフリカ系で、三十五万人が中国を含むそのほかの国々。)

 一般的にイスラム系移民の教育程度は非イスラム系国民より低く、失業率は高い。二〇〇一―二〇〇二年の失業率調査を人種別に見ると、白人の失業率は四・七%だったが、パキスタン系は十六・一%。十六歳から二十四歳の若者だけを対象にすると、白人では十・九%だが、パキスタン系は二十四・九%、バングラデシュ系では三十六・九%だった。
四人の青年達自身は比較的高い教育を受けていたものの、自分たちのコミュニティーの中の友人、知人らの処遇を見て、社会全体に対して何らかの否定的な感情を育んだ可能性もある。

―若者ひきつけるイスラム教過激団体

 若者たちは、何故過激思想を持つイスラム教団体に惹かれるのだろうか?

 左派系週刊誌「ニュー・ステーツマン」七月十八日号は、英国で育った若いイスラム教徒が伝統的なイスラム教の教えに違和感を覚えている点をその理由としてあげている。コーランを丸暗記することへの不満もあるという。また、イマーム(礼拝を取り行うイスラム教の導師)は海外から呼ばれてくるために、英語が話せないことが多く、意思疎通が十分にできないばかりか、英国社会のイスラム教徒の実態を把握していないと指摘されている。年長のイスラム教徒たちが若者の気持ちを汲み取れていない、という世代間のギャップの問題もある。

 こうした若者たちの心の隙に入り込むのが、過激派団体だ。メンバーは若者たちに英語で語りかけ、イスラム教の伝統衣装の着用や、一日に五回の祈りなどを強制しない。礼拝の集会もモスク以外の場所で行うなど、親しみやすい形でアプローチするようだ。 

 フランスのイスラム教運動の専門家オリビエ・ロワ氏は、七月十三日付けのフィナンシャル・タイムズ紙で、移民第二世代のアイデンティティーに注目している。

 「親の国の文化には親近感を覚えず、かつ西洋に行けばよい暮らしがあるという期待は打ち砕かれ、一体自分たちは何者なのか?と悩む移民二世の若者たちにとって、宗教というキーワードで世界に意味づけを与えようとするイスラム教の過激派グループの考え方が魅力的に映る」という。
 
 若者たちは、「アフガニスタンやイラクで命を落とすイスラム教徒の同胞の姿をテレビやインターネットの画像で見ながら、怒りや痛みを共有してゆく。ウエブサイトやネットのチャットルームを通して、世界に共通のイスラム・コミュニティーに参加し、過激思想に染まっていく」。

―イスラム教徒が攻撃のターゲットに

 七月七日のテロ発生以降、イスラム教徒や南アジア系移民に対する人々の視線は変わりつつある。テロ後の三週間で、宗教的憎悪を理由とした犯罪が二百六十九件報告された。前年の同時期は四十件で、大幅増加となった。

 犠牲者はなかったものの七月二十一日にも同様の爆破テロの試みがあった。逮捕者の出身は現在分かっているだけでもソマリア、エチオピアなどで英国生まれではなかったが、肌の浅黒いアジア系、アフリカ系の容貌の男性達だった。

 この結果、当局は、イスラム教徒と見られるアジア系の男性を事実上ターゲットにして駅構内や路上での職務質問を行っている。内務省は「イスラム教徒やアジア人をターゲットにしているのではない。差別的な取調べをしないようにしている」とするものの、現実にはロンドン市内に出ると、警察官が声をかけるのは大きな荷物を持ったアジア系の男性たちばかりだ。

 ロンドン警視庁の副長官タリク・ガフール氏は、八月二日、BBCの取材に対し、「『ターゲットにされている』と受けとめるイスラム系住民が増えている。特に、若いイスラム教徒の青年の間で、怒りが強い」と述べている。

ー政府の対応
 
 ブレア英首相は、最初のテロ発生から三時間後のスピーチで、、英国ムスリム評議会によるテロを非難する声明を歓迎し、「テロ犯はイスラム教の名前を使うかもしれないが、国内のそして海外に住むイスラム教徒の大部分は、私達同様、このテロを憎悪している」と続けた。イスラム教徒のコミュニティーに疎外感を感じさせないような言葉遣いが首相のスピーチの定番となり、イスラム教団体の代表たちとの対話の機会も設けた。

 しかし、日増しに、イスラム教徒の市民たちの違和感、疎外感が増大しているのが現状だ。

 八月上旬、ブレア首相は、「英国の寛容精神は少人数の宗教的狂信者たちに悪用されてきた」として、人種及び宗教に関わる憎悪を生み出すような動きを厳しく取り締まることを宣言した。新反テロ法を策定するほか、テロを扇動するような言動を行ったり、暴力を賞賛するウエブサイトや書店を運営する在英外国人の国外退去の実行、既にオランダやドイツで活動が禁止されている「ヒズブタフリール」を初めとするイスラム教の過激思想集団の非合法化などを発表した。

 ヒズブタフリールは会見を開き、平和的な政治運動に従事していると反論。グループの活動が禁止となれば、合法なイスラム教の政治的議論を抑制することになる、と主張した。

 これまでブレア政権と歩調を合わせ過激主義思想の排除に協力してきた英国ムスリム評議会も、声明文の中で、ヒズブタフリールの政治手法に同意はしないが、非暴力組織であり、この団体を非合法化することは「何の問題の解決にもならない」としている。様々な意見が表明されているのが民主主義の基本であることを忘れないようにしてほしい、とも続けている。

 新反テロ法や過激団体の非合法化の実行には時間がかかると見られているが、インターネットが過激主義思想を伝える主要媒体となっている現在、物理的に危険人物を取り除いたり会合を禁止することがどこまで効率的なテロ撲滅策となるのか、という根本的問題も指摘されている。

 一方、七月七日の爆破テロ発生から二ヶ月近くが経ち、警察当局に対する国民の信頼感は揺らぎだしている。

 きっかけは、七月末、ブラジル人男性が警官に誤って射殺された事件だった。この男性は、「テロに直接関係ある人物」と当初発表されたが、後日無実だったことが判明した。「警察苦情処理調査委員会」が経緯を調査中だが、十分な根拠がなく男性を射殺したのではないか、自爆テロを行う疑いのある者はその場で射殺するという方針は間違っているのではないか、などの批判が、連日のように報道されている。

 国内最大のイスラム教徒の団体、英国ムスリム評議会も窮地にある。BBCは八月二十一日、ドキュメンタリー番組「パノラマ」で、評議会がその傘下にある団体や国内のイスラム教学者たちの過激思想の流布に対し何もしていない、と批判した最新作「リーダーシップの疑問」を放映した。評議会は、番組内容が「偏見に満ちている」「魔女狩りだ」と反論したが、BBC側は「偏見はない」としている。「パノラマ」は質の高い時事ドキュメンタリー番組として高く評価されており、その発言内容は世論形成に一定の影響力を持つ。今回の番組は評議会批判でありイスラム教徒全体の批判ではなかったが、イスラム系コミュニティーに対する非イスラム系国民の視線が、今後さらに厳しくなるだろうことを予感させた。
by polimediauk | 2005-09-02 01:36 | 英国事情

「ニュースはいつでもどこでも起きる。あなたに私達の目になってほしい」

 一体どんな写真、画像、動画が視聴者から送られてきたのか?

 BBCに送られた分の一部は、以下のアドレスで見ることができる。

 http://news.bbc.co.uk/1/hi/in_pictures/4660563.stm

 以下のアドレスでは、video と書かれた箇所をクリックすると画面が開く。右横にあるリストから選ぶようになっている。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/technology/4663561.stm

 BBCは常日頃から、視聴者・読者からのニュース情報を募集してきた。「あなたのニュース、あなたの写真」というタイトルがついたBBCオンラインのサイトを見ると、「ニュースはいつでもどこでも起きる。あなたに私達の目になってほしい」と書かれている。

 そして、どんな情報が欲しいのか、送るときに気をつけることなどのアドバイスがある。

 最後は、「条件」の項になる。BBCにニュース情報を送るときは、この条件に合意しなければならない。

 「BBCニュースに情報を送るということは、その情報・材料の使用権をBBCに与えることに合意したことを意味する。情報・材料は、BBCが望む形で、他の世界中のメディアを通して、使用料を払わずに、出版するあるいは他の方法で使用される。(途中略)」「しかし、あなたには著作権が残されている。BBCはできうる限りあなたの名前をBBCのウエブサイト上に掲載する。BCは、送られてきた全ての写真、ビデオを使うことを保証できず、あなたのコメントを編集する権利を持つ」。

 これを踏まえて、BBCオンラインのピート・クリフトン編集長と読者とのやりとりを紹介したい。

 毎週金曜日、クリフトン編集長はコラムを書いているが、読者からのコメントも同時に募り、双方で議論をするような形をとっている。

 七月二十九日付のコラムでは、以下の発言をしている。

 「BBCは、テロ発生から数万のメール、ビデオ画像、静止画像、様々な情報などを受け取ってきた。読者からのこうした投稿は、決して付け足しの出し物ではなく、BBCのニュース報道の中心的役割を果たした」

 「批判も出てきた。サイトの読者の多くが、爆破が起きた時点で、読者からの情報を求めるとは、何事かという苦情の声をあげた。写真を送って欲しいと呼びかけることで、その人を危険な状態に置くことになるかもしれないし、写真を撮られたほうのプライバシーの問題もある。携帯電話で情報を送ることで、緊急時に必要とされる通信網を混乱させることにもなりかねない、と」

 「まず最初に言いたいのは、読者からの投稿を募る、というのは新しい現象ではない。大きな事件に遭遇した人々は、これまでにも、ビデオや写真を送ってきた。写真やビデオをとれる機械を携帯する人々が増えているし、何か起きればこうした携帯機器で写真をとるのが自然な行為になっている」

 「事故の様子を伝えるビデオや画像を、BBCは欲しい、というべきだろうか?私は、そうするべきだと思っている。こうした画像のおかげで、明確で正確な視点を人々が持つことができる。写真通信社からこうした画像を得ることができなかったのは、カメラマンが現場にいなかったためで、また、事件発生後直ちに、当局によって外部の人は現場に入れないようにされたからだ」

 「一般の人から画像を受け取った後、BBCは通常の編集ガイドラインに照らし、使うか使わないかを決める。もしショックが強すぎる、プライバシーの侵害がある、と見なせば、使わない。一般の人々を危険な目にあわせようとは思っていないし、市民たちがBBCのために傷ついた人のプライバシーに鈍感であってほしいとも思っていない。BBCが使った画像は編集ガイドラインにあったものだったと思っているし、読者がBBCと共有したいと思った画像を分別を持って使ったと思っている」
by polimediauk | 2005-08-24 16:28 | 英国事情

「メディアのターニングポイントだ」

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      (7月8日付けのガーディアン紙の1面。市民が撮った写真が使われている。)

 七月七日のロンドンの同時爆破テロは、英国で本格的に「市民記者」が活躍する機会ともなった。

 爆破事故が起きた地下鉄車両内から、カメラ付き携帯電話で画像を送ってきた人もいれば、七月二十一日に起きたテロ事件の実行犯二人が逮捕される様子をビデオで撮り、これを民放テレビ局が独占放映したケースもある。

 しかし、問題も表面化している。例えば、今後何らかの事故があったときに、画像を撮ったり送ったりしているよりも、現場から逃げること、あるいは傷ついている人を助けることの方が大事ではないのか?また、何らかの怪我をして横たわっている人を写真に撮るとき、撮られたほうのプライバシー問題はどうなるのか?さらに、いつか必ず起きるだろう、「やらせ」の画像と本物の画像を、どうやって区別するのか?現在のところ、なんら決まった結論はなく、どんどん、人々は画像や情報を送り続け、既存メディアがこれを喜んで使っている、という状態だ。

 英紙の報道、分析を見てみたい。

 七月十一日付の「メディア・ガーディアン」は市民記者の特集をトップにした。BBCのニュース部門のディレクター、ヘレン・ボーデン氏は、市民がジャーナリストとして画像や情報を送ってきたテロ発生当日の様子を、「新しい世界」が開けた、と述べている。

 ガーディアン紙は、「メディアの民主化」が現実となった、している。

ボーデン氏は「爆発が起きてから数分後には市民から画像が送られてきた。テロ発生から1時間で受け取った画像は50だった」。

 午前中に起きた爆破テロの様子を伝える、市民が携帯から送ってきた現場の画像(車両内の様子、動画など)は、BBCの午後10時のメイン・ニュース枠で放映された。BBCオンラインのサイトでは、事故現場を通りかかった市民が撮った画像が掲載された。ボーデン氏は、事故などの際にBBCに画像や情報を送ることが自然な行為の1つとなってきている、という。

 市民がこうして画像・情報を送ってくるという事態は、メディアにとって「良いことだと思う」。「メディアと視聴者との間に大きな信頼感があるのを示していると思う、かつてなかったほど、親密な関係になっている。BBCニュースのチームと視聴者とがさらに近い関係になった」。

 BBCでは、通常から、オンラインサイトを通じて、市民からのニュース画像や写真を募集している。テロ発生当日には、平均3つの静止画像を含むメールが300通と、30の動画が、yourpic@bbc.co.ukのアドレスに送られてきたという。

 バスの爆破事件が起きたのはロンドンのタビストック・スクエア近くだったが、無残な姿になったバスの姿の画像が送られてきたのは、爆破から45分後で、このときの画像は翌日のガーディアン紙とデイリー・メール紙の1面で使われた。携帯電話からの動画のいいくつかは、テレビ局が市民から受け取って20分後には放映される、という超スピードだった。

 民放のITVニュースのエディター、ベン・レイナー氏は、視聴者から生々しいビデオ画像をテロ当日受け取り、中にはあまりにも鮮明に事故の様子が映っていたので、放映できないものもあったという。しかし、こうした動画を使うことで、迫力のある臨場感を与えることができた、という。「一般の人に関係のあるような事故の場合、こうした速報性のある画像がいきる」。

 携帯から送られた画像と、目撃者からの情報を集めたネットサイトが立ち上げられ、既存メディアでは太刀打ちできないほどの迫力のある情報を出していた、とガーディアン紙は指摘している。

 衛星放送スカイ・ニュースのエディター、ジョン・ライリー氏は、キングスクロス駅とラッセル・スクエア駅で起きた地下鉄爆破テロの様子を伝えたビデオ画像を昼の12時40分に受け取り、これを午後1時のニュース枠の中で放映したという。

 「信憑性に問題はあったが、携帯電話はニュースの民主化に役立つと思う。通常、既存メディアの報道陣は、事件が起きてから現場に向かう。しかし、現場にいる市民から送られた画像は、今起きているニュースをリアルタイムで伝えることができる」。

 あるベテランのBBCのジャーナリストは、自宅で午後10時のニュースを見ていた。市民が送ってきた映像が使われているのを見て、「メディアのターニングポイントだ」と感じたという。

 世界中の1220万のブログをチェックするウエブサイト、テクノラティは、テロの発生日、ブログの書き込みが30%上昇した、と報告している。
by polimediauk | 2005-08-24 01:29 | 英国事情
「いない方が安全」

 米国ではブッシュ大統領が合計5週間に渡る夏休み中で、英国でもブレア首相(8月6日から)、ストロー外相らが夏休み中である。ブレア首相の休暇の場所は、とりあえず秘密になっている(カリブ海のようである)。ロンドン・テロがまた起きるのではないか?イスラム教徒のテロ先導者・政治亡命者を、国外退去させる・させないでもめている、など、問題山積みの中の、休暇である。仕事は仕事、休みは休みーいつどんな風に休みをとるかに関しても、その国によって随分違いがある。

 政治風刺の雑誌「プライベート・アイ」の最新号の表紙に、思わず、笑ってしまった。ブレア首相が飛行機に乗りかけている写真があって、「僕がいない方が安全だから・・・」という吹き出しがついている。ひょっとしたら、そうかもしれないな・・と、思わせてしまう。

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 頁をあけると、英領北アイルランドの政治家ジェリー・アダムス氏の顔写真がある。アダムス氏はシン・フェイン党の党首だ。シン・フェイン党は、カトリック教武装集団IRAの政治団体だ。IRAは、先ごろ、武力闘争をやめる、と宣言している。IRAなどの武装集団のテロが続いた英国では、過去に3000人以上が命を落とした。そこで、アダムス氏の写真があって、「IRAが戦争を終結」という見出しの後で、吹き出しの中のセリフが、「我々の爆撃犯(IRAのテロリスト)にとって、もはや外は安全ではなくなった」とある。ロンドン・テロがあって、いつまた起きるか分からないので、おちおち通常のテロをやっていられない・・・ということだろうが、写真を載せられなくて残念だ。
by polimediauk | 2005-08-12 17:49 | 英国事情
 22日の朝、ロンドンの地下鉄ストックウェル駅の地下鉄車両内で同日午前10時すぎ、警察当局により男性が射殺された。詳細はまだ分かっていないが、前日の同時爆破テロに関連した人物、ということだ。

 警官らが射殺した場合、独立調査会が立ち上げられ、詳細を精査するというのが一般的流れで、現在こうした調査の段階にあるようだ。

 今日は午前中から午後2時ぐらいまでロンドンの中心部にいたが、在英日本人の人から、「物騒なので、家族から帰国するように言われ、迷っている」という声を聞いた。

 一方、午後3時半頃〈日本時間の午後11時半頃)、ロンドン警視庁のトップらが会見を行った。

 最も衝撃的だったのは、21日の爆破事件に関わったと見られる4人のCCTVの画像だ。i以下に貼り付けるが、もし本人を知っている人がいたら、一度で誰か分かってしまうだろう。非常に早いスピードで捜査が進んでいるが、CCTVの威力に、英メディアのレポーターらも驚いているようだ。

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by polimediauk | 2005-07-23 00:14 | 英国事情

再度のロンドン・テロ


 ロンドンで、21日の昼から午後にかけて、また爆破事件があった。

 私がそのニュースを知ったのは午後1時20分頃。ロンドン市内のシンクタンク英王立国際研究所で、過激派イスラムに関する講演が予定されており、スピーカーとなる博士を囲むランチに出ていた。主催者の一人と話をしていたら、プレス担当の人が入ってきて、「話をさえぎって申し訳ないが、今三箇所で爆破があるという予告があった」と言った。〈実は既に爆破事件が起きていたが、その時は予告だけだと思っていた。〉一瞬、沈黙になった。「ちょっと失礼」といって、何人かが自宅に携帯で電話をかけだした。

 午後1時半に講演会場に移る際にも、「予告だそうですけどね」という感じだった。実際に爆破があったことを知ったのは、テレビを見てからだった。

 講演が終わったのは午後3時頃で、研究所に来るときには地下鉄ピカデリーサーカス駅を使っていたが、既に閉鎖されていた。出口に数人いる警察官が、困っている乗客にどのバスを使ったら目的地にいけるのかをアドバイスしていた。

 私も少し歩いてバスに乗ったが、非常に混雑していた。英国のバスは基本的にエアコンが入っておらず、窓も少ししか開かないので、中が暑い。

 警察の車がサイレンを鳴らして走り回り、警察官も数が多い。バスに乗っていると外の様子が良く見える。もし爆破が起きていたら、数百メートル先で誰か傷を負った人がいるかもしれないな、と思った。空気が非常にびりびりしているような感じだった。物騒な、一種異様な雰囲気があた。毎日のようにこういう状態が発生している国に生きている人は、一体どうなるのだろう、と思ったりした。

 実際の講演はマーハ・アッザムという人の「過激派イスラム:脅威を定義する」というもの。アッザムさん〈女性〉はアルカイダのイデオロギーの研究などが専門の1つ。

 前回のロンドンテロは英国で生まれ育ったイスラム教徒が実行犯とされているが、何故先進国に住む若者がこうしたテロを起こすのか?に関して、博士の分析は:

―西欧の一般大衆の目を引きたい
―一種のカルトになりつつある。受難者として注目される。
―アイデンティティーを探している若者性質が、イスラム教にアイデンティティーを感じる。

 また、イスラム教過激派の一部が、テロで西欧に打撃を与える、何らかのインパクトを与えることに成功できることが分かり、道を見つけた、と感じていることを背景としてあげた。

 質疑応答の最後のほうで、「英国で生まれ育ったイスラム教徒」という若い男性が、「英国政府が悪いからテロが起きた、と責めるつもりはないが、今回の事件をきっかけに、英国自身も何らかの意味で自分の行動を省みる、という議論があってもいいのではないか。どうしてこうした議論がでないと思うか?」と聞いた。

 何故か、博士はこの点を明確にしなかった。

 後でこの男性に声をかけてみると、「自分は普通のビジネスマン」だという。「今回のテロの後で、その原因を在英イスラム教徒のコミュニティーに見つけ出そうとする報道ばかり」であることに、不満だと言う。「ムスリムコミュニティーにもそれなりの反省点はあるが、一方で、英政府側が外交方針などをいったん考えなおす、何故こんなことになったのかに関して自分自身を振り返る、といったことをしてもいいのではないか。自分は英国のイラク攻撃をすごくいやだと思った」。

 王立研究所は、2,3日前に、イラクなどの外交政策が今回のテロ攻撃に関連ある、とする報告書を出している。これは新聞各紙に大々的に報道された。この報告書に限らず、イラク戦争が今回のテロを起こしたとは言えないが、背景要因としてはあったという見方が強くなっている。「自分の都合の良い理由で中東の政府とつきあってきた歴代の英政府のダブル・スタンダード」を、ロンドン市長ケン・リビングストン氏が、今週のBBCの朝のラジオ番組で指摘している。

 21日に起きたテロの情報だが、爆破未遂犯を捕まえることに警察当局は全力を集中させている。一部の地下鉄は動かないが、バスは全て運行する。

 
by polimediauk | 2005-07-22 08:38 | 英国事情

「テロを政策として利用する政府が悪い」

 アフガニスタンのカルザイ大統領が訪英し、ブレア英首相などと会見した。20日、ロンドンの王立国際問題研究所で講演を行い、1時間強の間、ジャーナリストや研究者、政府関係者らとの質疑に応じた。

 大統領になる以前からこれまでに何度なくロンドンを訪れており、「また来たの?」と英役人から言われるほどだ、と講演を始めた大統領が選んだテーマは「グローバル・テロリズムとアフガニスタン」だった。

 「ロンドンの同時爆破テロが起きた時、テロで家族を亡くした人たちの痛みが一番良く分かるのがアフガン人ではないかと思った。私達も随分長い間、テロに悩んできた。しかし、今回のロンドンのテロとアフガニスタンの大きな違いは何か?それは、ロンドンのテロでは、BBCや英タイムズ紙などのメディアが連日、大きく報道する。アフガニスタンの場合は、女性、子供達、罪のない市民たちがたくさん殺された。しかし、世界に報道されない長い年月があった」

 「世界はグローバルになった。貧しい国、金持ちの国、どこでもテロが起き得る。アフガニスタンで起きることが、ロンドンやニューヨークでも起きる」

 「ソ連軍がアフガニスタンを占領し、アフガニスタンの人々は抵抗運動を始めた。ソ連はアフガニスタンに異なるイデオロギーを押し付けようとし、アフガニスタンの人々がイスラム教徒である部分を取り去ろうとした。この抵抗運動に参加した義勇軍が、ソ連軍が去った後、国内に残り、過激派になっていった」

 〈注:過激派の一つタリバンが、アフガン全土を90年代半ば頃から支配。タリバンはアルカイダ幹部などを国内にかくまっていた。米軍を中心にした多国籍軍の作戦によりタリバン政権は崩壊。〉

 「1993年ごろから2001年まで、過激派による国内のテロは続いた。モスクや学校が燃やされたりした。でも、世界は誰も目に留めなかった。もしこのとき、こうしたテロが撲滅されていたら、米国の2001年9月の大規模テロも起きなかったもしれない、と考えることがある」

 「地球規模のテロが起きる原因は、個人の一人一人にあるのではなく、宗教の問題でも、イデオロギーの違いによるものでもない。イスラム教徒であることも関係ない。国民がイスラム教のアフガニスタンでもテロはずっと起きていたことを思い起こして欲しい。キリスト教徒だけでなく、世界中の多くのイスラム教徒がテロで殺されている」

 「テロを根絶するには、世界中の国が誠意を持って、テロをなくするよう一致団結することだ。政府が、テロリズムや宗教を、その時々の都合の良いポリシーの1つとして、使ってはいけない。これがテロを作るのだから」

 ・・・以上は講演の一部抜粋だが、「政府がテロをポリシーの一環として使っているから、テロがなくならない」という説には、妙に説得力があった。この「政府」をカルザイ氏は複数で使っていた。「過去の」アメリカ政府を指しているのは明らかとCBSのジャーナリストが後で語ってくれた。

 最後の質問が、チャンネル4というテレビ局の記者だったが、「テロをポリシーの一つとして都合のいいように使う政府が悪い、という話だったが、では、アフガニスタンと国境を隣接するパキスタンをどう評価するか?パキスタンはテロをポリシーとして使っている〈悪い〉政府だと思うか?あるいは、テロ撲滅に力を入れようとしていても、まだ十分に実行しきれれていない国だと思うか?」と聞かれた。

 米ブッシュ大統領の「テロの戦争」の同盟国として扱われたパキスタンだが、ロンドン同時テロの爆破実行犯の数名がパキスタンの過激派イスラム学校に通っていたことなどが分かり、テロリズムの温床となっているとして英国内でも大きな批判が出るようになっている。

 大統領は答えるのに窮してしまう。聴衆席にいた外務大臣と言葉を交わした後、「パキスタンとはこれまでに協力をしてきたが、さらに協力をしていきたいと思っている」と答えた。

 この「さらに」が深いらしい。前に座っていた中東ジャーナリストが「パキスタンにはかなり不満を持っている、ということだ。テロをポリシーとして使っている政府とは、パキスタンのことだ」と周りにささやく。チャンネル4の記者に、「どう思う?」と聞くと、「全くその通り」。

 講演の前の紹介によると、冷戦時代にアフガニスタンに旧ソ連軍が侵攻したのは1979年だったが、カルザイ氏は82年ごろからソ連の軍事支配に対する抵抗運動に参加したという。92年にはゲリラ各派により樹立された政権に入り、米同時テロ後の米英軍によるタリバン掃討作戦が始まった2001年末、親族のいるパキスタンから祖国へ戻り、暫定政権に参加。2004年のアフガニスタン史上初の大統領選挙で当選した。
by polimediauk | 2005-07-21 07:38 | 英国事情

「もう記者の仕事はしたくない」

 18日、ロンドンにある外国プレス協会でBBCの記者たちと協会メンバーのジャーナリスト達との懇親パーティーがあった。雑談めいた話になるが、今回の爆破テロに関し、それぞれの視点があった。

 インドのタイムズという新聞の特派員で10年ほどロンドンに住む女性記者は、爆破テロの実行犯とされる4人のうちの3人がパキスタン系英国人だったということで、「英国のパキスタン人は自分たちでコミュニティーを作り、孤立化している。年齢の高い人は英語が旨く話せない人もいる。多くがパキスタンでもどちらかというと田舎から来ているので、都市生活に慣れていない。イングランド北部のブラッドフォードなどの『アジア人』コミュニティーを訪ねてみて欲しい。貧しくて、固まって住んでいるから、通りにいると、怖くなる」。随分と偏見に満ち満ちた意見に聞こえるが、「インドの」記者の発言ではこういう風になってしまうのだろうか。

 モロッコ人のジャーナリスト(在英30年ほど)は、「随分コメントを聞かれて、ものすごく忙しかった。何故今回の事件が起きたか?ああいう青年達は社会から疎外されている部分がある。でも今回、ある意味では外国のテロリストでなくてほっとしたんだ。英国人だったから、これからどうするべきかを考えるいい機会になると思う。今回の青年たちは、とても頭がいい。大学に行っているし、G8が開催されているときに爆破テロを行った。おかげで、G8が全く目立たなくなった。目的を達した。ものすごく頭がいいやり方だ。これからも起きるか?起きない、とは言えない」。

 イラン人の女性ジャーナリストは、「あの青年達はまだ子供のようなもの。裏で操る外国のテロネットワークを撲滅しない限り、駄目だ」。

 日本人特派員「テロ事件勃発以来、ものすごく忙しい。時間を争って原稿を出している。競走はかなり激しい。あまり寝る時間がない」。

 スペインのラジオのジャーナリスト「英国人のテロ事件後の反応に驚いた。スペインだったら、人々は泣き叫ぶ。英国人は冷静だと思った」。

 フランス人の経済紙のジャーナリスト「普段は英仏間でいろいろあるが、今回は気持ちが一つになったと思う。大戦の時を思い起こさせた。それは、窮乏に耐えながらも、一丸となって戦う、というスピリット」。

 香港のテレビのジャーナリストは「朝の9時ごろ、あのテロが起きたとき、もう会社で働いていた。あわてて現場にかけつけて、レポートした。すごい状況になっていた。もう記者の仕事はしたくない。ああいう現場をリポートするような仕事は、いやだから。」

 昨日のブログで書いた、BBCの「ニューズナイト」で、オランダのテレビのプロデューサーにインタビューをしたキャスター(こちらではプリゼンターという)のギャビン・エスラー氏もいた。

 エスラー氏がインタビューしたのは、昨年殺害されたオランダの監督テオ・ファン・ゴッホ氏の友人だったプロデューサーのハイス・ファン・デ・ウエステラーケン氏。殺害実行犯は若い移民2世で、イスラム教過激派グループのメンバーとされる男性だった。「自国で生まれ育った」「イスラム教徒の移民」という点が、英国とオランダの事件の共通点だ。

 エスラー氏は、どうもインタビューがうまくかみ合わなかったと言い、「ファン・デ・ウエステラーケン氏は全く別なことを考えているようだった」と述べた。「あまりオランダの事件のことは知らないが」と付け加えた。

 英国政治やメディア業界では、他の欧州の国に関する知識や関心が意外と低い(あえて「意外と」とつけるが)ことに、やや驚く。外国では中東やアフリカなどに関する知識のほうが深いかもしれない。アメリカや、欧州でもフランスなどだとしょっちゅう話題に上るがオランダとなると、一気に知識・関心は低くなるようだ。例えばだが、フランスで何かの件で取材したいとき、英ジャーナリストらに聞くと、誰かしらを(少なくとも知っている誰かを)知っている。しかし、オランダとなると、また話は違ってくる。
by polimediauk | 2005-07-20 00:49 | 英国事情

「国際的」「物価が高い」

 東京の大手町にある外国特派員協会に相当するものが、ロンドンの外国プレス協会になる。一種のクラブのようなものだが、協会の建物では会見なども多く開かれている。

 この協会を通して今までに会ったジャーナリストの中では、なぜかドイツから来た特派員たちにはロンドン生活を楽しんでいる人が多く、中国の場合、ややイギリスに関して批判的〔帝国主義の名残など〕な人が多かったように思う。偶然かもしれないが。

 日本からの特派員で、イラクに行って帰ってきた人と会ったときに、「ロンドンは〔イラクやアメリカ・ワシントンに比べて〕退屈だ。何も起きていない」という感想を聞いた。確かに、弾が飛んでくることはなく、大きな政変もないし、平和といえば平和だが。

 インディペンデント紙の6月27日号が、数名の外国特派員に、ロンドンをどう思うか?を聞いている。ほとんどが好意的な意見だが、もし「イギリスに関してどう思うか?」と聞いたら、厳しい分析・意見が出たのではないかと思う。

 「ロンドンは、世界中で最高にすばらしいトピックが常に存在する場所とは言えない。しかし、最高に楽しめる、かつその声が世界に届く場所だと思う。ドイツでも、ロンドン発の報道への関心は高まっている。英国は欧州の経済的奇跡を成し遂げている。その強みは賞賛に値するが、弱点もある。ロンドンは多くの記事の豊富な情報源だ。ネットワーキングは簡単だ。ニューヨークに匹敵するくらいの生き生きするアート・シーンもある」。(ドイツのデル・スピーゲル紙のマチアス・マツセック氏)

 「最初に驚いたのは天候だ。言われているほどひどいとは思わないが。スペイン人がイギリスの生活に関して高い関心を持っていることにも驚いた。関心が高すぎる!独ハノーバーで肉屋が老女を殺しても誰も関心を持たないが、これがロンドンのピカデリー・サーカスで起きたとなると、マドリードの同僚は細かいところまで知りたがる」。(スペインのエル・パイス紙のウオルター・オッペンハイマー氏)

 「ロンドンで生活するのは高額だ。北米から来る特派員はロンドンに赴任するとなると、躊躇する。ロンドンはニュースが発生する場所。アングロ・アメリカ文化の偏見があるからだろうが。公平に見ても、ロンドンにはたくさんニュースがあると思う。イギリスにはビジネスや公共サービスの斬新なアイデアが生まれる文化がある。ロンドンには、ニュースを作る政治的議論があると思う」。(カナダのグローブ&メールのダグ・サンダース氏)

 「ロンドンはニューヨークタイムズの海外支局の中でも最も忙しい支局だ。イギリスはアメリカ人にとって魅力的な国だし、政治、文化、芸術、劇場、時事、知的議論を追いかける記者にとって、報道するネタが一杯だ。ブレア首相とブッシュ大統領が連携しているので、原稿に切迫性がでる。ロンドンは、欧州、中東、そのほかの世界の国々とつながる場所でもある」。(米ニューヨークタイムズのアラン・コーエル氏)

 「オーストラリアのプレスにとって、ロンドンはとっくの昔にワシントンに首位の座をとられている。今はアジアの方が報道の焦点だ。しかし、今でも重要な場所であることは確かだ。ロンドンから、イギリスだけでなく欧州全域をカバーする。利点は、英語が使える点と、飛行機の連絡がいいことだ。悪い点は生活費が異常に高い点と、使い勝手の悪い地下鉄、公的サービスだ」。(ザ・オーストラリアンのピーター・ウイルソン氏)

 「発達したメディア、世界中のリーダーの訪英、トップレベルの会議、著名なシンクタンクの存在など、ロンドンはジャーナリストにとって天国だと思う。イギリスの交通機関、通信網などにも感銘をうけている。予期していなかったのは、インタビューのアポイントがとりにくいことだ。ロンドン支局は中国の人がイギリスに関して知識を得るために大きな役割を果たしている」。(Xinhua New Agencyのリー・ジガオ氏)

 このほかにもあったが、リップ・サービス部分が多いようにも思う。嘘は言っていないと思うが、表立ってネガティブなことは言えないのだろう。一方、人によって全く反対の印象〔交通機関など〕を持っていることが、分かる。

 私自身の印象は、確かにロンドンは国際的で、ここにいると、欧州、アメリカ、中東、アフリカなどの問題が身近に感じられる。アジアは主に中国に関する関心が非常に高い。中国の記者で、取材のアポイントがとりにくい、とあったが、逆に私はとりやすいように感じてきた。ただし、休暇をばらばらの時期にとる人が多く、予期せぬときに相手が出社しておらず、連絡がつかない、という事態は何度も経験した。日本人としては、日本にもっと興味を持って欲しい、と思っている。
 
 
by polimediauk | 2005-06-29 02:35 | 英国事情

再犯の可能性を疑わない英国

 現在、東京に短期滞在中だが、今晩(13日夜)のテレビ番組「TVタックル」で、再犯を防ぐために、性犯罪の前歴のある人の個人情報を警察が把握できるようにする、という流れをどう思うか?に関して議論がなされていた。

 イギリスでは、性犯罪を犯し、刑を終えた人は、刑務所から出る時点で警察に個人情報を登録することが義務となっている。その時点のみでなく、もし住所が変わった場合などは新たに登録する。こうした義務を怠ると、禁固刑になることもある。また、警察のみでなく、地域の保護観察団体や福祉関係の部署などでも同様の情報が共有される。地域ぐるみの監視、保護、といったことになる。

 番組では、様々な論点がとりあげられ、よくできていると思ったが、この番組に限らず、日本の場合とイギリスの場合で考え方に大きな違いがある。それは、日本の場合は、一度性犯罪を起こしたが刑を終えた人を、性善説でとらえ、イギリスでは、いわば性悪説でとらえている。

 いったん、性犯罪を犯したら、再犯する可能性がある、つまり性犯罪者は基本的に直らないもの、という見方がイギリスには、ある。日本は「再犯するとは限らないのだから、前歴者の権利を守ることが大切」と考える傾向が強いようだ。

 もう一つ、日本とイギリスで違うのは、原子力・核エネルギーに対する考え方だ。

 イギリスでは、原子力発電が環境上最もクリーンなエネルギーであること、さらに「安全な」エネルギーであるとされている。もちろん、チェルノブイリは、ある。しかし、こうしたことは例外であって、全体からすると、事故は少ない、と。

 従って、原子力発電・核エネルギーに関しての否定的な意見が出るときには、もっぱら、費用面の話になる。廃棄物をどうするのか、という面も話題に上る。

 日本では、安全性が紙面をにぎわすようだ。

 同じトピックでも、国によって、随分見方が変わる。

 (ここまで読まれた方へー全くの別件だが、読売新聞6・12付けの1面に、地球を読む、というコラムがある。ポール・ケネディーという人の人権に関する記事だ。残念ながらアーカイブには入っていないようで、ここに今すぐ貼り付けができないが、もし入手できるようなら、ご一読を。アメリカの見方が変わる。)
 

 
by polimediauk | 2005-06-13 23:48 | 英国事情