小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
通知を受け取る

カテゴリ:ネット業界( 152 )

 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」9月号掲載の筆者コラムに補足しました。)

 9月28日、フェイスブックの利用者5千万人の個人情報がハッキングによって流出したことが発覚した(FBにハッキング、5千万人の情報が危険な状態に 他サイトのアカウントも)。

 フェイクニュースについて調査を続けている英下院の文化・メディア・スポーツ委員会のダミアン・コリンズ委員長は、「これまで再三依頼しているように、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOにはぜひ委員会の公聴会で事情を説明してもらいたい」とツイートした。

 委員会は今年7月29日、「偽情報と『フェイクニュース』についての調査報告書」(中間報告)を発表している。フェイクニュースが社会に与える影響や、民主主義が今後どうなっていくかを調査したもので、英米両国でメディア関係者、監督組織、テクノロジー企業の経営幹部など61人を召喚して事情を聞き、150を超える参考文書の提出を受けた。現時点での概要を伝えてみたい。

昨年から調査を開始

 対象とした調査項目は「何がフェイクニュースか」、「フェイクニュースが国民の世界観にどのような影響を及ぼしているか」、「年齢、社会的背景、性別などの要素によってフェイクニュースの使い方や反応は異なるか」、「広告の販売方法の変化がフェイクニュースの成長を促したのか」。

 中間報告書の構成は、

 (1)序、これまでの背景(フェイクニュースとは何か)

 (2)テック企業の定義、役割、司法責任

 (3)フェイスブック、GSR(グローバル・サイエンス・リサーチ)社及びケンブリッジ・ アナリティカ(CA)社事件におけるデータ利用

 (4)政治運動

 (5)政治運動におけるロシアの影響

 (6)外国の選挙でのSCL社の影響

 (7)デジタル・リテラシー

 の7章構成となっている(GSR社、CA社、SCL社については後述)。

フェイクニュースは「民主主義への潜在的脅威」

 委員会は、フェイクニュースを「民主主義や価値観に対する」潜在的脅威の1つと捉えている。

 フェイクニュースは「金銭あるいはほかの利を得るために作られ、国家が後ろ盾となるプログラムを通して拡散されるか、選挙に影響を及ぼしたいなどの特定の目的を持っている人々によって、事実を捻じ曲げて広がっている」。

 委員会は民主主義が危機状態にあると認識し、「共有する価値観、民主主義的な組織の品位を守る」ために、何からの行動を起こす「ときが来た」と考える。報告書には次に何をすべきかが記されている。

 委員会の調査はフェイスブック、CA社をめぐる疑惑の発覚に合わせて、臨機応変に進んだ。

 今年3月、英オブザーバー紙や米ニューヨーク・タイムズ、英テレビ局チャンネル4が中心となって、英選挙コンサルティング会社CA社(5月、廃業)がフェイスブックの利用者の個人情報を誤用したとする報道を行った。いわゆる、「ケンブリッジ・アナリティカ事件」だ。

 これまでの報道によると、CA社は2016年11月の米大統領選と、その半年前に行われた英国の国民投票(欧州連合に英国が加盟し続けるか離脱するか)での投票行動に影響を及ぼすために、数千万人分のフェイスブックの利用者の個人データを「不正利用」。データはケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン教授が開発したフェイスブック用アプリを通じて「吸い上げられた」。コーガン教授がアプリ開発のために設置したのが、GSR社である。

 委員会は、事件の関係者を公聴会に召喚し事情を聞いた。質疑に応じたのは、元CA社員のクリストファー・ワイリー氏、同社のCEO(当時)アレクサンダー・ニックス氏、コーガン教授など。ワイリー氏は、オブザーバー紙の情報源である、フェイスブックのザッカーバーグCEOも公聴会に出席するよう何度か依頼されたが、同氏は応じなかった。

「情報やニュースに接触する方法が深い意味で変わっている」

 (1)「序とこれまでの背景(フェイクニュースとは何か)」の中に、テクノロジーと人間の関係を考える「センター・フォー・ヒューメイン・テクノロジー」のトリスタン・ハリス氏の言葉が引用されている。「フェイスブックの利用者は世界で20億人。キリスト教徒の総人口とほぼ同じだ。ユーチューブの利用者18億人はイスラム教徒全員の数とほぼ一致する」。また、先進国に住む人は1日に約150回携帯電話をチェックしているという。

 報告書は、「私たちが情報やニュースに接触する方法が深い意味で変わっている。しかも私たちの大部分が無意識に起きた変化」であると指摘する。

 フェイクニュースとは何か?この言葉には決まった定義がなく、読み手が自分の考えていることにそぐわないニュースをこのように呼ぶこともある。そこで、報告書はフェイクニュースという言葉を使う代わりに「間違った情報・誤情報(ミスインフォメーション)」、「欺くために故意に発信する偽情報(ディスインフォメーション)」という言葉を使うよう推奨している。

テック企業に責任を求める

 (2)「テック企業の定義、役割、司法責任」の項では、誤情報、偽情報が伝播されるのはテクノロジー企業のプラットフォーム上であり、これは「規制がない空間」であることを指摘。個人情報の保護について責任を持つ英規制組織「情報コミッショナーのオフィス」の権限の強化を求めた。

 また、選挙管理委員会の意見を参考にし、ネットを使ったすべての選挙運動はどこの組織が誰の資金で行っているかを簡単に識別できるようにするべき、とした。

 ソーシャルメディアを運営するテック大手に対して、報告書は厳しい姿勢を見せた。

 テック大手が自分たちは「単にプラットフォームに過ぎない」として伝達するコンテンツに責任を持たないやり方はもはや許されないとし、こうした企業に対し、英政府が「プラットフォーム」でもコンテンツの「発行者」でもなく、「新たなカテゴリーを設けるべきだ」という。テック大手はその活動について透明性を欠き、個人情報の保護について不十分であると指摘し、デジタル空間での権利保護のための仕組み作りが必要と述べる。

 特に厳しく批判されたのはフェイスブックだ。

 ミャンマーの少数民族ロヒンギャに対するヘイトスピーチがフェイスブックを通じて拡散され、これが民族浄化行為の発生につながったと報告書は指摘した。テック大手には「グローバルな倫理規定」を設けるよう呼びかけ、もしこれが実現しない場合「政府は倫理規定を強制的に順守させる規制を導入するべき」としている。

 

 (3)「フェイスブック、GSR社及びケンブリッジ・ アナリティカ社事件におけるデータ利用」では事件の一部始終を記し、フェイスブック側の対応が不十分であったために「データの操作、誤情報、偽情報」が拡散されたとして、CA事件の後にも同様の事件が発生したことを記している。

 

 (4)「政治運動」の項では、「政治についての議論を活性化するためにソーシャルメディアが役割を果たすようになったことは知られている」ものの、一人一人の個人に対しほかの人には知られないやり方でメッセージを送ることができるようになってから「まだ日が浅い」。公の場での選挙運動とは異なり、「新たな問題が生まれてきた」。報告書は政府に対し、電子上の政治運動を法律の中で位置づけるよう求めた

 

 (5)「政治運動におけるロシアの影響」の項では他国政府と連携しながら、「ロシアからの政治干渉を防ぐよう」英政府に求めている。

 

 (6)「外国の選挙でのSCL社の影響」のSCLとはCA社の親会社SCLエレクションズ社を指す。

 3月、英メディアは同社がケニア、ガーナ、メキシコ、スロバキアなどの選挙で誤情報、偽情報を流布させ、倫理に反するあるいは違法な行為を行っていた可能性を暴露した。

 報告書はSCL社が複数の国で違法行為の疑いがある活動を行っているとして、その調査は委員会の「対象外」になるため、政府に対し犯罪捜査を開始するよう求めた。

 最後の(7)「デジタル・リテラシー」の項目では、委員会は政府が年内に発表する、インターネットを安全に使うための白書に「リテラシー教育税」の導入を入れるよう提案した。慈善団体や非政府組織が開発するリテラシー教育をこの財源で実施に移す。「デジタル・リテラシーは読み書きと計算に次ぐ、教育の第4の柱だ」。

 7月29日付の社説で、英ガーディアン紙はこの報告書を高く評価した。フェイクニュースがソーシャルメディアを通じて広がる中、何をするべきかが明確に書かれているからだ。フェイクニュース拡散問題において、「中立という選択肢はない」と言い切っている。

***

 参考

 英議会の関連サイト


by polimediauk | 2018-10-02 16:41 | ネット業界


 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」8月号の筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界各国のデジタルニュースの利用状況を調査し、これを「デジタルニュース・レポート」として発表している。

 最新版(6月発表)は7回目のレポートになる。英世論調査会社YouGovが、37か国・地域の約7万4000人を対象に昨年1月末から2月初めにかけて調査した。

 対象地域はインターネットの普及率が高く、民主化が達成されている国が中心で、欧州の比率が圧倒的に高い。中国、中東及びアフリカ諸国は入っていない。調査の資金は米グーグル、英BBC,英国の通信・放送監督組織「オフコム」、各国の大学などが提供している。

 レポートは、「概要」(セクション1)、「さらなる分析と国際比較」(セクション2)、「国ごとの分析」(セクション3)に分かれている。

 今回、日本の項目の中で朝日新聞の信頼度が産経新聞よりも低くなり、これを指摘した複数の記事(「朝日新聞の信頼度、五大紙の中で最下位 産経新聞を下回った理由とは」木村正人氏、ヤフー個人ニュース、6月20日付、「朝日の『信頼度』が産経以下にーロイター研調査」島田範正氏、ブログ「島田範正のIT徒然」6月19日付など)を目にした。

 「概要」で指摘された特徴を紹介するとともに、日本の項目を少々詳しく見てみたい。

米でフェイスブックが人気下落

 今回の調査は、「様々な種類の情報源に対するオーディエンスの懸念」について深い知識を得ることを主眼とした。「フェイクニュース」の流布、プラットフォーム側(米テック大手)の規模拡大に対する不安感が世界的に広がっているためだ。

 

 特徴のいくつかを紹介すると、

 (1)ニュース源としてソーシャルメディアを利用する割合が米英仏で減少したが、これはフェイスブックへの依存率が下がったことによる。

 (2)代わりに利用率が増えたのがメッセージ・アプリだった。

 (3)ニュースの信頼度は平均44%で安定しているが、ソーシャルメディア上で見たニュースの信頼度は23%に下がる。

 (4)ネット・ニュースがフェイクか真実かを気にする人の比率は54%。ソーシャルメディアの利用率が高く、政治が分断化している国(ブラジル、米国、スペイン)で特に高い。

 (5)フェイクニュースを駆逐する責任はメディア(75%)やプラットフォーム(71%)に求める傾向が高い。

 (6)欧州とアジアではフェイクニュース対策に政府の関与を望む人が多いが、米国はその比率が低い。

 (7)初めて調査対象とした「ニュース・リテラシー」については、リテラシーの高い人はテレビよりも新聞をニュース源として選ぶ傾向がある。

 (8)放送局によるメディアの信頼度は新聞やデジタルのみのサイトよりも高い。

 (9)オンラインニュースを有料購読する人の比率はスカンジナビア諸国で高い。

 (10)米英、スペインでメディア媒体の会員になる制度やそのほかの寄付金制度が浸透してきたが、特定の政治信条に基づく場合が多く、特に若者層にその傾向が強い。

 (11)プライバシー情報に対する懸念から、アドブロックを使う人は27%に到達した。

 (12)テレビは継続して重要なニュース源となっているが、視聴者数は減少している。

 (13)ポッドキャストが人気。

 (14)「アマゾンエコー」や「グーグルホーム」の利用が拡大し、将来的に大きなニュース源の1つとなる見込みがある、など。

日本の市場分析

 第3部の中にある、日本についての分析を見てみる。この部分の書き手はロイター研究所の元フェローで、共同通信の澤康臣記者である。

 メディアの信頼度に関しての記述を訳してみると(カッコ内は筆者による補足)、

 「私たちの調査ではNHKと日経が最も信頼されている2つのニュース・ブランドであったが、非常に保守的な産経新聞を含む5大主要全国紙の中で、朝日新聞が最低であったことは特筆に値する」

 「過去数年にわたり、リベラル系高級紙(朝日新聞)は保守系与党・自由民主党の政治家や右派系メディアの両方から批判されてきた」

 「安倍晋三首相はある疑惑についての朝日新聞の反応に対し、フェイスブックにこう書いた。『哀れですね。朝日らしい惨めな言い訳。予想通りでした』」

 「別の件では、別の保守系議員足立康史氏(日本維新の会所属)が『朝日は万死に値する』とツイートし、右派系の(複数の)雑誌は『朝日は廃刊されるべきだ』などの見出しを付けた記事を掲載した」

 「さらなる分析によれば、朝日に対する信頼感が弱まったのは、こうした声高で党派心が露わな右派系の批判者が抱く(朝日に対する)強い不信感の結果ともいえる」

 「今回の調査が行われた後で、朝日は政府を揺るがせ、安倍首相の支持率を大幅に減少させたいくつもの暴露記事を掲載した。今年の調査にはその影響は反映されていない」。

 以上が引用部分である。

 信頼度のランキングを見てみよう。

信頼度のランキング(リポートより)
信頼度のランキング(リポートより)

 

 「その媒体を聞いたことがある」という人の中で、NHKニュースは信頼度が10点満点中6・23のスコアを得て首位に立った。

 これに続くのが日経(6・08)、地方紙(5・87)、日本テレビ(5.86)、TBS(5.78)、読売新聞(5・76)、テレビ朝日(5・7)、産経新聞(5・68)、フジテレビ(5・64)、毎日新聞(5.63)、朝日新聞(5・35)、ハフィントンポスト・ジャパン(5.26)、バズフィード・ジャパン(5.15)、週刊新潮(4.88)、週刊文春(4.63)。

ランキングの読み方は?

 このランキングをどう評価するべきか。

 2014年、朝日新聞は調査報道で間違いを犯し、当時の社長が引責辞任している。これを朝日の報道への信頼度が下落した理由と見ることは可能で、確かに「尾を引いている」(先の木村氏の記事)部分もありそうだが、筆者にはもう1つの面が見える。

 社長の引責辞任前後の保守系メディアや政治家による「朝日バッシング」が強烈だったことを思い出すと、澤氏の分析は信頼度を下落させるほどの勢いを持った日本の右派系ポピュリズムをちくりと批判している、と思うのである。リベラル系毎日新聞も、産経新聞の下になっていることに注目したい。

 「産経よりも下位だった」ことは、今回ネット言論でよく散見された「それ見たことか、朝日」ではないはずだ(先の2つの記事がそう言っているというわけではない)。少なくとも、右派系ポピュリズム・メディアの報道が(超)過激だったことも示すのである。

 次回の調査で、朝日新聞への信頼度がどう変わるかが注目だ。

 ほかに日本の特徴として、オンラインニュース部門ではヤフーニュースが圧倒的な位置を占めていること(これは以前のレポートでも指摘されてきたが、新聞社サイトがデジタル化に出遅れている間に、ヤフーニュースが急速に拡大したことが主因と思われる)、フェイスブックをニュース源として使う比率が他国と比較してかなり少ないこと(日本は9%で最下位)が挙げられている。

 澤氏は、その理由を実名参加を原則とするフェイスブックの方針に日本人がなじまないことが一因ではないかと指摘している。

 日本で最も人気があるソーシャルメディアはユーチューブ(51%)で、ニュース源として使っている人は19%。これにツイッター、ライン、フェイスブック、ニコニコ動画、インスタグラムが続く。

 日本ではオンラインニュースにお金を払う人は10%。全37カ国・地域中、26番目だ。アドブロックの利用率は17%で、36位。

ニュースを受動的に受け取る日本人

 また、日本ではオンラインニュースを基に何らかの行動を起こす割合(「参加度」とも言えよう)が極端に低い。

 例えば、ニュースをソーシャルメディアあるいは電子メールでシェアする割合は13%、ソーシャルメディアやウェブサイトのコメント欄を使ってニュースにコメントを残す割合は8%のみ。どちらも対象国・地域の中で最下位である。ブラジルではシェア率は61%、コメントを残す比率は38%で最高位。ニュースを大いに活用していることが分かる。

 日本では、何故ニュースを他国のように能動的に活用していないのだろうか?何か文化的な理由があるのだろうか?この点の分析が読みたい気がする。原因を探り当て、参加度を上げることが出来れば、オンラインニュースの購読者増加や滞在時間の長期化などに大きな力を発揮するかもしれない。


by polimediauk | 2018-09-06 16:25 | ネット業界

c0016826_21185233.jpg

月刊誌「Journalism」7月号掲載の筆者記事に補足しました。)

「フェイスブック・ショック」

 欧米のメディア界には今、「フェイスブック・ショック」とも呼ぶべき現象が広がっている。その衝撃度と影響、プライバシー保護への動きについて、欧州を中心とした議論を紹介してみたい。

 「ショック」のきっかけは、今年3月中旬。英国の政治コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」(5月上旬廃業、以下CA社)の元社員が、フェイスブックの利用者数千万人分の個人情報がCA社に「不正流出」されていたと内部告発した。この情報を基に投票行動を誘導する広告を2016年の米大統領選で配信したという(CA社側は否定)。

 企業や組織が巨大な量の個人情報を含んだデータを図らずも流出させた事件はこれまでにも数多く発生してきたが、今回の事件は特別の意味合いを持つ。最大の要因は、これがフェイスブックを通じての個人情報の大量流出であったことだ。

 欧米諸国では、フェイスブックは独占的な位置にあるソーシャルメディアだ。毎日何度もアクセスし、自分が最もプライバシーをさらけ出す場所で個人情報の流出事件が発生した。多くの人にとって、ひやりとするような衝撃である。しかも、CA社へのデータ流出についてフェイスブックは2015年時点で承知していたが、内部告発者の証言が出るまで利用者には通知していなかった。

 また、もし投票行動に影響を及ぼしていたとなれば、選挙という民主主義の基礎を揺るがせる事態が発生していた可能性がある。

 フェイスブックを使って有権者に支援を求める手法は、オバマ前米大統領も含め、多くの政治家・政党が利用している。米テック大手による個人情報の取り扱いへの懸念もこれまでに表明されてきた。しかし、CA社の元社員が実名・顔出しで内部告発したことで、様々な問題が急に切実に感じられるようになった。

 伝統メディアには、大きな戸惑いが生じた。情報拡散には有力な助っ人であるはずのプラットフォームがもし個人情報の不正流出を許していたとすれば、今後もビジネス上の提携関係を結ぶに足る存在といえるだろうか?

CA社の疑念が深まる

 情報流出事件のあらましを振り返っておきたい。

 CA社は2013年に設立され、データ解析を基に選挙活動について助言する会社だった。英国の欧州連合(EU)脱退に関する国民投票(2016年6月)では離脱陣営の勝利に、同年11月の米大統領選ではトランプ陣営の当選に貢献したといわれている。

 設立時、CA社はトランプ支持者で投資ファンド経営者のロバート・マーサー氏が資金を提供している。また、同陣営の選対本部長で、トランプ大統領就任(2017年1月)後は右腕とされたスティーブン・バノン氏が一時、副社長を務めていた。

 2014年、ケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン教授が性格診断クイズ「これがあなたのデジタル生活だ」を開発し、フェイスブックのアプリとして公開。主として米国人の約30万人が「学術目的」のアプリをダウンロードした。コーガン教授は利用者に対価を支払い、データを取得する。このアプリを通じ、回答者の友人を含む約8700万人の個人情報が取得された(数字はフェイスブックによる)。

 コーガン教授は取得したデータをCA社に売却していた。アプリの開発者が学術目的で取得したデータを企業に売却する行為は、当時も今もフェイスブックの規約違反だ。

 2015年、フェイスブックはコーガン氏開発のアプリが大量の個人情報を吸い上げていたことを知ったが、これを公にしなかった。ただし、第3者のアプリ開発者がアクセスできるデータの取り扱いについてより厳しい条件を課すように規則を変更している。

 

英オブザーバー紙記者らによる、CA社元社員ワイリー氏の内部告発記事の初報(3月17日付、ウェブサイトから)
英オブザーバー紙記者らによる、CA社元社員ワイリー氏の内部告発記事の初報(3月17日付、ウェブサイトから)

 情報流出が広く知られることになったのは、今年3月17日。

 CA社が英国の国民投票に及ぼした影響について調べていた英日曜紙「オブザーバー」のキャロル・カドワラドル記者が元CA社員クリストファー・ワイリー氏から内部告発を引き出した。オブザーバー紙は同氏から得た情報を米ニューヨーク・タイムズ紙、英放送局チャンネル4と共有し、オブザーバーの姉妹紙ガーディアンを含む各媒体がこの問題を率先して報じた。

 ワイリー氏によると、コーガン氏がアプリ開発のために立ち上げた会社グローバル・サイエンス・リサーチ社(以下、GSR社)は「5000万人以上」(4月4日、フェイスブックは「約8700万人」と発表)の利用者の情報を収集し、これをCA社に販売した。

 アプリ使用に代金を払った利用者約30万人は自分についての情報の収集に同意しており、これは「同時に友人の個人情報も収集できる形になっていた」、ただし友人の情報収集について「オプトアウト」(共有しないという選択肢を選ぶ)した場合は別である(ガーディアン、3月17日)。しかし、「政治運動に使われることや巨大な選挙運動用データベースに情報が加えられることについて同意した人は1人もいなかった」。

 コーガン氏はカドワラドル記者の取材に対し「すべてが合法だった」と述べ、フェイスブック側は「情報漏えいではなかった」としている。コーガン氏は「合法に情報にアクセスした」が、情報を第3者に流したという点では「規約を守らなかった」と認めている(同日付)。

 CA社は入手した個人データと選挙人名簿の情報などを組み合わせて個人の心理特性を築き上げ、特定の政治行動を促す広告を配信したといわれている。CAの戦略がトランプ陣営やEU離脱派の得票にどれほどの効果があったのかについては定かではない。

 4月24日、CA社はコーガン氏から提供された情報は「統計的にあてずっぽうよりは少し上ぐらいのもの」であったために使わなかったと記者会見で述べた。

フェイスブックの信頼問題に発展

 

 CA社による情報不正利用疑惑は、フェイスブックの信用とその個人情報の扱い方の問題に発展した。

 朝日新聞のメディア・ウオッチャー、平和博氏は、「問題のそもそもの発端は、『友達』のデータまで含む大量のデータ取得が可能だった、フェイスブックによるプライバシー管理の仕組みそのものにあったのではないか、という指摘だ」と書いている(ブログ「新聞学的」2018年3月24日付)。

 同ブログによると、フェイスブックは「グラフAP1」という名前のインターフェイスの規格を使っていた。これは、外部で開発されたアプリがフェイスブックの利用者の個人情報を含む内部情報にアクセスし、取得するための規格である。2014年当時、「ユーザー本人だけでなく、その『友達』のデータについても、かなり幅広く入手することが可能だった」。例えば、利用者が同意すれば、データ取得に同意していない友達の名前、性別、経歴、住所、学歴、職業などの情報を取得できた。

フェイスブックのザッカーバーグCEOの米議会での証言を動画付きで紹介するBBCのニュースサイト(BBCのサイトから)
フェイスブックのザッカーバーグCEOの米議会での証言を動画付きで紹介するBBCのニュースサイト(BBCのサイトから)

 

 2015年5月から、フェイスブックはよりプライバシー保護を強化するようにこの規格を変えたが、現在でも友達のアプリを経由して、自分の個人情報がそのアプリに流れている。これを止めたい場合は、「アプリやゲーム、外部サイトで友達に公開する情報の種類」でオプトアウトを選択する必要がある。

 筆者も含めて、フェイスブックの利用者は友達同士で情報が共有されることを認識していたものの、友達がどのようなアプリを使っているのかまでは確認していないことが多い。フェイスブック側は「同意したはず」となるだろうが、利用者としては「虚を突かれた」という思いがあるのではないだろうか。

 フェイスブックは今後、変わるだろうか?

 フェイスブックやほかのテック企業は利用者の個人情報と引き換えに広告を出し、その収入によって無料サービスを提供してきた。事実上「利用者の個人情報を『売る』」ことをビジネスの核としてきたフェイスブック。ここが変わらない限り、「できうる限り、利用者の個人情報を収集する」姿勢は変わり得ないかもしれない。今後、広告を入れない形での有料サービスが1つのオプションになるのかどうか注目だ。

メディア界の視線が変わる

国際ジャーナリズム祭で。左端がジャービス教授、隣がラップラーのレッサ編集長、一人おいて、バズフィードUKのギブソン編集長(撮影 小林恭子)
国際ジャーナリズム祭で。左端がジャービス教授、隣がラップラーのレッサ編集長、一人おいて、バズフィードUKのギブソン編集長(撮影 小林恭子)

 

 フェイスブック、CA社のみにかかわらず、これからのネットビジネスのあり方、メディアのかかわり方、引いてはインターネットの未来にまで議論が及んだのが、今年の「国際ジャーナリズム祭」(イタリア・ペルージャ、4月11日から15日)のセッションだった。

 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが情報流出問題をめぐって4月10日と11日の両日に米上下院に召喚され、合計で10時間にわたって議員からの質問に答えたが、この様子をネットで見聞きした時期とちょうど重なったことも議論に熱気を与えた。

 ネット推進派の見方が大きく変わりつつあることを感じたのは、ニューヨーク市立大学で教える、ジェフ・ジャービス教授の発言だった。著名ブロガーの同氏は、グーグルについての著作もあり、インターネットを「善」とする論客の一人。

 しかし、4月12日のセッション(「メディア側とプラットフォーム側の決断に関連する、道徳上の責務をどう定義するか」)の中で、同氏はこう述べた。「自分はインターネットについて語る時、そのオープン性を常に支持してきた。メディアに対して、オープンであれと言ってきた。しかし、もう簡単にはそう言えない。インターネットは政治操作に対してもオープンであったことを理解したからだ」。インターネットの良さを謳歌する雰囲気は大変わりした。

 フィリピンのウェブサイト「ラップラー」のマリア・レッサ編集長は続ける。「『オープン性』の良さは偽りだった。家を建てて、中にどんどん人を入れたら、互いに攻撃している。家を作った側の責任が問われている」。ネット上でオンラインハラスメントが発生し、テロリストやほかの犯罪者が犯罪行為のために悪用していることを想定に置いての発言である。

 元ガーディアンの編集幹部で現在はバズフィードUKのジャニン・ギブソン編集長は、「既存メディアはソーシャルメディアの要望に合わせようと、努力してきた。動画をやれ、エンゲージメントが大切だと言われ、無理をしてもその要望に応えようとしてきた。今となっては、子供の言うことを聞きすぎた親のように感じている」。

 ギブソン氏を含め、他のパネリストたちも「プラットフォーマーには説明責任が必要。(個人情報の取得について)何らかの規制があるべき」という点ではほぼ一致していた。

オックスフォード大学のラスブリジャー氏(左)と独ビルト紙の元編集長コッチ氏(撮影 小林恭子)
オックスフォード大学のラスブリジャー氏(左)と独ビルト紙の元編集長コッチ氏(撮影 小林恭子)

 

 13日のセッション、「テクノロジーについての道徳上のパニック すべてがそれほど悪いのか」では、パネリストたちの「テックの巨人」とでも言うべきフェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルなどへの強い危機感が露わになった。

 米国の非営利組織「電子フロンティア財団」のジリアン・ヨーク氏は「国家権力や大手プラットフォームが人々の生活に大きな影響力を及ぼすことに懸念を抱いている」という。言論界が「グーグル、フェイスブック、ツイッターなどに牛耳られている」。

 ドイツ最大の日刊紙ビルトの元編集長タニット・コッチ氏は、ドイツでは検索エンジンの95%がグーグルになっており、「グーグル検索で見つからないとその情報は存在しないも同然になる。これが怖い」という。

 パネリストたちの目にはフェイスブックを始めとするテック大手自体がオープン性や透明性に欠けると見える。

 「フェイスブックは2万人を新規に雇用し、ヘイトスピーチを根絶させるという。AI(アーティフィシャル・インテリジェンス=人口知能)も駆使すると。しかし、誰がAIに何がヘイトスピーチで何がそうではないのかを教えるのか?そこに偏向は生じないのだろうか?」(ヨーク氏)。

 一方、「今でもデジタルメディアの可能性を信じる」としたのは、ガーディアンの編集長時代に同紙のデジタル化を強力に進めたアラン・ラスブリジャー氏だ。同氏は今、オックスフォード大学レディー・マーガレット・ホールの学長である。「CA事件が起きたからと言って、慌てて行動を起こす必要はない。じっくり考えるべき」。

 しかし、「個人情報の保護」という観点から、事態は急速に展開している。5月25日から、欧州内で「一般データ保護規則(General Data Protection Rules=GDPR)」が施行されたからだ。

 どんな規則で、何が変わりつつあるのか。

欧州とGDPR

 GDPRとはEUの規制の1つで、「個人、会社、あるいは組織によるEU域内の個人についての個人情報の処理」を対象とする(欧州委員会のウェブサイトより。以下同)。原文(英語版)は「個人」を「individual」としており、国籍については規定してないので域内にいるすべての人、という意味と解釈してよいだろう。

 GDPRによると、域内のすべての人は、自分についての個人情報が保護され、自分についての情報にアクセスし、これを修正する権利を持つ。

 この権利はEU市民や域内の住民の政治的、社会的、経済的権利を法的に定める「欧州連合基本権憲章」第8条で規定されている。

 2012年以降、EUはデジタル時代に適応するよう個人情報保護に関わる規定を改正する議論を開始。2016年4月、データ保護指令(1995年)を置き換えるEU一般データ保護規則(「規則2016・679」)が欧州理事会及び欧州議会で採択された。EU加盟の28カ国は今年5月上旬までに国内法にこの規則を組み込むようにされ、同月25日から適用となった。

 規則の詳細はEUのウェブサイトに掲載されている(URLは最後に表記)。筆者が住む英国で個人情報の保護を管轄する「情報コミッショナーズ・オフィス(ICO)」が作成した概要版にも目を通しながら話を進めたい。

 GDPRは個人情報の「管理者」と「処理者」を対象とする。EU域内で活動する組織がこれに入るが、域外にある組織でも域内にいる個人にモノやサービスを提供する組織も含まれる。グローバル化が進んだ現在、日本企業も含めて世界中の相当数の組織・企業に影響が及ぶ。

 「個人情報」とは当人であることが識別できる情報で、例えば名前、識別番号、位置情報、オンライン識別子(例えばIPアドレスやクッキー)、身体的、生理学的、遺伝子上、精神的、経済的、文化的あるいは社会的な識別情報を指す(第2-1条)。

 また、特別な配慮が必要とされる個人情報の項目では、人種、政治志向、宗教及び哲学上の信念、労働組合に加盟しているかどうか、遺伝子や生体認証情報、医療情報、性的指向についての情報の処理を禁じている(第9条)。ただし、個人が明確に合意を与える場合や、雇用や社会保険などのサービスを受けるなどの目的がある場合は例外となる。

 英ICOによると、GDPRの重点の1つが「説明責任原則」だ。情報の処理者・管理者は第5条で定義される原則にどのように従ったかを個人に示す必要がある。

 その原則とは、個人情報の処理者は、透明な手法で、合法に、公正に処理を行うこと(第5条原則)。情報は正確であるようにし、必要とあれば更新すること(第5-d)。管理者は情報処理が「原則に沿っているものである点について責任を持ち、これを示すことが出来るようにする」(第5-2)。

 「合法」とは、情報処理対象となる「個人の合意があること」(第6条1ーa)や、処理が「個人との契約の遂行に必要であること」(第6条1ーb)などだ。

 「同意」とは、「自由に与えられた、特定の、情報を与えられた、明確な、情報取得対象者の意思であり、声明あるいは明確で肯定的な行動であり、情報処理に対する合意を意味するものである」(第4条―11)という。

 対象者が16歳未満の子供である場合、その子供の親としての責任を持つ人物からの同意が必要となる(第8条)。

 GDPRは個人の権利を強化している。

 例えば、「情報を受け取る権利」(情報管理者は個人に対し、管理者についての情報、情報収集の目的、どの個人情報を収集するか、誰が情報を受け取るかなどを通知する、第12、13,14条)、「アクセス権」(第12条、15条)、「修正権」(第12、16,19条)、「削除権」(継続した情報処理は不必要と個人が見なした場合、削除を求める権利がある。かつての「忘れられる権利」と同様だが、これを強化した。第17条、19条)。

 また、「処理を限定する権利」(第18,19条)、「データを持ち歩く権利」(第12条、20条)、「反対する権利」(第12条、21条)、「自動決定権及びプロファイリングに関係した権利」(「プロファイリング」とは個人情報を使って、雇用、健康、個人の好み、関心、信頼性などの自己像が作られること。情報の収集によってこうしたプロファイリングが生成され、個人が不利益を被ることを防ぐことができる。第4条―4、9条、22条)も含まれる。

 GDPRには情報収集側の説明責任と統治を定義する条項が入っている。EUの以前の個人情報に関する規則では暗黙の前提となっていた部分を明文化した。

 第5条(2)で情報処理者は説明責任を果たしていることを示し、第30条では責務をいかに実行しているかを示す記録を残すことが必要としている。

 また、GDPRは個人情報の取得・管理に関わったすべての組織に対し、情報漏えいが発生した場合に通知することを義務化している。

 個人情報の漏えいとは、この情報の破壊、喪失、改ざん、非合法な開示あるいはアクセスを指す。もし漏えいが起きた場合、管理者は「72時間以内に」事態を規制監督当局に通知する義務がある(第33条)。もし管理者あるいは処理者が漏洩を通知しなかった場合、最大で2千万ユーロ、あるいは企業の場合は全世界における前年の年間売上収入の4%の間で、いずれかの高額な方を最高額とする罰金の支払いが課される場合がある(第84条―4)。

その効果と影響は

 

 5月25日のGDPR施行に向かい、欧州在住者は施行の前に情報の使用について合意をもらおうとする企業・組織からの電子メールを続々と受け取ることになった。この時までに個人情報の利用規則を変えているので「このままサービスを利用できます」というメールもあれば、該当組織のメールサービスを改めて購読することに合意が必要とするメールもあった。

 フェイスブックやグーグルを利用していた場合は、それぞれプライバシー設定を「確認」するよう求められた。

 例えば、筆者はグーグルメールを使っているが、「Googleのプライバシーポリシーとプライバシー設定の改善について」と題するメールをGDPRの施行2週間前に受け取った。メールの中に「ポリシーの改訂版」という表記があり、これをクリックすると、グーグルのプライバシーポリシーについての長い説明があった(印刷すると、A4で30枚分)。

 メール内の「プライバシー設定を改善」の項目では、「マイアクティビティ」で、グーグルのブラウザーであるクロームを使ってどのような作業を行ったかが画面上に出た。検索の結果やどのメールを見たかが一目瞭然だ。これは本人しか見ることが出来ない設定となっている。

 「ダッシュボード」をクリックすると、グーグルアカウントに保存されているデータの表示と管理についての情報が示された。このデータをダウンロードもできる。「プライバシー診断」をクリックすると、「ウェブとアプリのアクティビティ」、「ロケーション履歴」、「端末情報」、「音声アクティビティ」、「YouTubeの検索履歴」などが表示された。

 自分についての情報を自分が管理する権利を明確にし、情報の管理者・処理者に対してその行動に大きな説明責任を持たせたGDPRの施行は、欧州に住み、グーグルやフェイスブック他のソーシャルメディアを使う一人からすれば、心強い動きだ。

プライバシーを守ることはもはや不毛ではない

 1999年、コンピューター会社マイクロソフトシステムズのトップだったスコット・マクネリ氏はデジタル社会でプライバシーを守ることは不毛だと報道陣に述べたことがある。「今や、ゼロ・プライバシーの世界になった」、「あきらめろ」。

 しかし、時代は変わった。フェイスブックの最高執行責任者シェリル・サンドバーグ氏は情報の安全性と保安について「充分な投資をしてこなかった」と述べた(4月5日、フィナンシャル・タイムズ紙)。GDPRについて、サンドバーグ氏は「欧州の方が米国の先を行っている」と述べている。

 GDPRは始まったばかりでその効果はまだ判然としない。施行初日、米国のメディア企業トロンク(ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューンなどを発行)のウェブサイトが欧州からは一時使えなくなった。2年間の準備期間はあったものの、GDPRに対応するシステムの変更ができていないという企業が少なくないと言われている。

 また、EUの加盟28カ国中、オーストリアとドイツのみが施行前に国内法の変更を完了していたが、ブルガリア、ギリシャ、マルタ、ポルトガル、ルーマニアはどのようにGDPRを実行するかについて国民に情報を出しておらず、国会に関連法案を提出していなかった。

eプライバシー法についての提案のウェブサイト(EUのウェブサイトから)
eプライバシー法についての提案のウェブサイト(EUのウェブサイトから)

 今年後半にかけて、欧州内でのプライバシー保護の動きに一層の拍車がかかりそうだ。というのも、EUはGDPR以上に個人情報の保護を強化する「eプライバシー法」を年内に成立させる予定だからだ。

 これは、「eプライバシー指令」(2002年)を改定するもので、2017年1月に最終提案書が発行されている。

 これによると、eプライバシー法はすべての電子的な通信において現在よりも高度のプライバシー保護を達成することを目的とする。電子的な通信及び情報全体を対象とする。特徴は、「新規通信サービス(ワッツアップ、フェイスブック・メッセンジャー、スカイなどによる通信)も対象とする」、「EU域内のすべての人及び企業が持つプライバシーにかかわる情報が保護対象となる」、「クッキーの処理が簡素化され、ブラウザーの設定によってクッキーやそのほかの識別子のトラッキングについて同意するか、拒否するかを決められる」など。

 クッキーについては、「同意しないと、そのサービスが使えなくなるので同意してしまう」という「クッキーの壁」現象が問題視されている(最終提案書、43ページ)。

 「クッキー」は利用者のブラウザーに保存される情報で、サイトの閲覧歴を記録するソフトだ。あるウェブサイトを訪れると、サイトは利用者のデバイスを記憶し、次回そのサイトに来るとそのデバイスを認識する。

 クッキーは利用者のネット利用体験を高めるために役立つ(ログイン情報が保存される、何をショッピングカートに入れたかが記憶されるなど)。閲覧するサイト以外の第3者(例えば広告ネットワーク)はクッキーを使うことによって、ターゲットを絞り込んだ広告の配信ができる。

 欧州発のプライバシー保護の動きは、今後世界に広がり国際基準となっていくと見られている。日本の企業、メディア組織も対応を迫られそうだ。

***

 

参考

一般データ保護規則(EUのウェブサイト)の英語版

英「情報コミッショナーズ・オフィス」の概要版

eプライバシー法についてのサイト


by polimediauk | 2018-08-27 21:16 | ネット業界
 英国のデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカ(5月上旬、閉鎖)が、米フェイスブックから約8700万人分の個人情報を不正取得したとの疑惑が大きな波紋を広げている。情報の使途について利用者の十分な同意を得ていなかった点や、こうした情報を基に、有権者の投票行動を誘導する広告を2016年11月の米大統領選で配信した可能性などが問題視されている。

 先月、イタリア・ペルージャで開催された「国際ジャーナリズム祭」(参加スピーカー700人、セッション総数300)に集まった人々の間で、もっとも熱っぽく語られたのが、このフェイスブックと個人情報流出疑惑だった。インターネットの開放性に大いなる希望を見た私たちだが、そんな楽観的な時代は終わりを告げるのだろうか?

 あるセッションに参加していたフランス人デベロパー、ロイチ・ダシャリ氏の見方を共有したい。ダシャリ氏はジャーナリストと内部告発者が安全に情報を交換できる「SecureDrop」のボランティアでもある。

 生まれも育ちもパリのダシャリ氏は、両親の仕事の関係でサウジアラビアやクウェートに住んだことがある。コンピューターを学ぶために、英語を勉強したという。

ダシャリ氏(筆者撮影)
ダシャリ氏(筆者撮影)

ーなぜデベロパーになったのか。

 ダシャリ氏:分からない。若い時から、コンピューターが必要だと思ったのだろう。今はもうすぐ53歳だが、まだプログラムを書いている。画家は50歳になったからといって、描くことをやめない。それと同じようなものだ。

ーフェイスブックやケンブリッジ・アナリティカのことを聞きたかった。「個人情報が流出した!」と大騒ぎになっているけれど、テクノロジーに詳しい人からすると、一連の事態はどう見えるのか。つまり、サイトの利用者の個人データが収集されており、これがビジネスに使われているという現象は、以前から続いていたわけだが。

 これほど大きな事態になって、非常に驚いている。私はフェイスブックをやらないが、これからもやるつもりはない。まさに個人情報が大量に取得され、使われてしまうと思ったからだ。

 非常に興味深いのは、多くの人が今になって、いかにひどいことが行われているかに気付いた点だ。私にとってはこちらの方が驚きだが、非常にいいことだとも思う。

 今回の事件が広く知られることによって、多くの人が個人情報の利用について意識するようになったからだ。いかに人々が公の空間に個人情報を露出し続けてきたのか、どれほどの問題があるかを意識し出した。選挙の行方を左右する為に、個人データが使われたかもしれないのだ、と。

 個人情報が使われて、「自分は操作されたのかもしれない」と言うかもしれないが、「あなた自身が(情報を出すことで)操作してほしいとお願いしたのでしょう」、と指摘することができそうだ。

 フェイブック側は「情報漏れ」はなかったと言っている。「誰もが見ることが出来る空間に置いてあったのだ」から。フェイスブックのサービスは、そういう風に設計されていた。つまり、情報を公にしてもらい、それを活用するというビジネスモデルだ。

ープライバシーについての意見を聞きたい。グーグルが大量の情報を集めている。人々はこの点について懸念を抱くべきだろうか?実際に、2-3の米テック大手が巨大な量の情報を集めているというのは、恐ろしい感じがするが。

 懸念はするべきだが、恐れる必要はない。逃れることは難しくないからだ。

 コンピューターの歴史はそれほど長くない。例えば誰かがこう言う。「グーグルが情報を集めすぎている。私の人生はグーグルによって破壊された」、と。しかし、グーグルが存在しなかった時代のことを考えてみてほしい。それでも、人生はあった。それに、グーグルよりもプライバシー保護に力を入れるサービスに乗り換えることは不可能ではない。

 懸念はするべきだが、恐れることはない。やり方はある。

―あなた自身はフェイスブックをやらない。個人情報を出さない、と。

 そうだ。私は個人情報を出さなければならないサービスはやらないようにしている。

―インターネットの将来についてはどうか。「インターネットは壊れた」という人もいる

 そうは思わない。

 インターネットの特徴の1つは、中央集権化されていないことだ。誰かがすべてをコントロールできない。

 ある場所では国民のほぼ全体がフェイスブックを使っているのかもしれない。でもそれは、インターネットがそうしろと言っているわけではない。利用者がフェイスブックの利用を選択しているだけだ。ネットのせいではない。

 インターネットが壊れているわけではないが、政府や企業はインターネットの重要な部分を壊そうとしている。それは、「ネット中立性」の問題だ。

 例えば、インターネット接続会社が顧客によって通信速度を変える。ある顧客はたくさんのお金を払ったので、接続速度が速くなり、動画をより快適に視聴できる。しかし、通常の料金を払った人はそうはいかない。インターネットがこういうことをしているのではない。企業が通信速度を変えてしまう。

 ある国の政府は他の国との接続ポイントを支配し、接続を遅くする。自国から出てゆくネット情報をすべて監視し、情報の流れを止める政府もある。人々がネットを壊そうとしている。

 TOR(トーア)ブラウザーを使えば、政府による情報封鎖を迂回することができる。(注:トーアとはThe Onion Routerの頭文字を取った言葉で、ネット上での通信経路の特定を困難にすることで匿名通信ができる手法、及びソフトウエアを指す。)

 TORブラウザーを使えば、例えばスカイプでの会話であるかのように見せかけながら、匿名通信が行える。スカイプを使う人はたくさんいるし、誰が本当にスカイプで会話をしているのかを政府当局はつかみにくい。

 しかし、ある国ではTORブラウザーを使っているというだけで、疑惑の対象になる。ブラウザーをダウンロードするだけで、疑惑の対象になってしまう。

 通信の内容を常時監視して、URLアドレスに応じてアクセスを封鎖する方法(「ブロッキング」)も問題だ。例えば、BBCのウェブサイトに行こうとすると、監視者は利用者がBBCのサイトに向かっていること関知して、BBCには到達できないようにする。私が聞いたところでは、トルコではBBCへのアクセスが時々、このようにブロックされるという。TORを使えば、BBCに向かおうとする過程が暗号化される。その技術は日々、進歩している。


 インターネットは揺り動かされているのだと思う。まだ壊れているわけじゃない。

***

参考

安心ネット作り促進協議会

ブロッキングの仕組み


by polimediauk | 2018-05-09 17:14 | ネット業界

 

英プレスガゼットはフェイスブックとグーグルの「2強」拡大を止める運動を行っている


(日本新聞協会発行の「NSK経営リポート」35号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

懐疑のまなざし

 グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる)など、インターネット業界を席巻する米IT企業大手の振る舞いに、英国を含む欧州諸国は懐疑のまなざしを向けてきた。日本と比べてみた時、このまなざしがあるかないかの違いがあるように思う。

 何故「懐疑」なのか?

 その背景には、一握りの私企業がインターネットがなければ回らなくなった社会の中で独占的な位置を持つことへの危機感、収益に見合う税金を払っていないのではないかという疑念、いずれの企業も利用者の個人情報を利用することでビジネスを拡大させていることへの不安感などがある。欧州であまりにも成功したがために、その巨大さが目立ち、漠とした恐怖感も底流にあると見ていいだろう。

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」は1月18日号で「デジタル時代の競争――いかにテック業界の巨人を手なずけるか」と題する特集記事を掲載した。

 エコノミストは、こうした企業を「悪い=BAAD」だという。「巨大で(Big)、競争を妨げ(anti-competitive)、 ネット中毒を助長し(addictive)、民主主義を破壊(destructive to democracy)」するからだ。 規模が大きいからといって背後に必ずしも悪意があることを意味しないと続くのだが、それでも懸念するべき状態にあると指摘する。

 GAFAと英政界、規制業界、伝統メディアとのぶつかり合いのこれまでを見てみたい。

法人税逃れの疑惑をめぐる衝突

 英国とGAFAとの争いには伏線があった。 やり玉にあがったのは米スターバックス。2012年、同英国法人の売上は直近の3年間で12億ポンド(約1800億円)あったが、法人税納付額はゼロだった。この件でスターバックスの不買運動が起き、続いてメディアはGAFAなどが租税回避する事実を続々と暴露した。

 こうした状況を背景に、15年、英国は「グーグル税」を導入。多国籍企業による租税回避に対し、通常の法人税率(20%)より高い25%を課した。20か国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)の場で税逃れを防ぐ国際課税の新たなルール作りが進む中、GAFAなどは英国での税金支払いの仕組みを変えるようになった 。これによりフェイスブックの英国法人の法人税支払額は14年の4327ポンド(約65万円)から、2年後の16年には510万ポンド(7億6200万円)と急増した。

 ソーシャルメディアを通じてニュースに接する人が増え、その影響力に懸念が出る中、16年米大統領選ではいわゆる「フェイクニュース」が大きな役割を果たしたと言われた。

 そこで、17年1月、下院の文化・メディア・スポーツ委員会(同年7月に改組し、現在はデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会=DCMSC)が、フェイクニュースとその影響についての調査を開始した。現在もその作業が続いている。

 昨年10月、DCMSCが開いた公聴会で何度か取り上げられたのが、「フェイスブックやグーグルなどをどう法的に定義するか」であった。こうしたネット企業はこれまで、自分たちでは情報の中身を作らず、これを運ぶ「プラットフォーム」として機能するが、情報を作成しその中身に責任を持つ「出版社(パブリシャー)」ではないと主張してきた。

 しかし、ブラッドリー文化相(当時)は違法なコンテンツや過激主義を扇動するようなコンテンツがネット上のサービスを通じて拡散されるようになったことを問題視し、「ネットを規制するために新たな法整備が必要だ」という考えを示した。放送・通信業界の規制・監督組織「オフコム」のホッジソン代表も「個人的な意見」として、フェイスブック、グーグルなどを「出版業として規定するべきだ」と述べた。現時点では法制化は実現していない。

 DCMSCはネット企業に対し、16年6月の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票と17年6月の英下院選で、16年秋の米大統領選で発生したようなロシア側によるソーシャルメディアを通じての介入があったかどうかを調べ、報告するように指示した。しかし、報告された件数などがごく少数で影響は限定的であったため、コリンズDCMSC委員長は昨年末、詳細な報告が出ない場合「制裁を科す」と脅しをかけた。

 フェイスブック側は1月18日、「調査の幅を広げる」ことを約束する書簡を委員会に送った。2月8日、DCMSCは米ワシントンでグーグル、ユーチューブ、ツイッター、CNN、ニューヨーク・タイムズの代表者からフェイクニュースについての聞き取り調査を行った 。

 英国の伝統メディアにとって、グーグルやフェイスブック、ツイッターは情報を広めるための重要な役割を担っており、なくてはならない存在だが、同時に「敵」でもある。グーグルやフェイスブックが自社のニュースをどう扱うかで閲読率、ページビューなどに大きな影響があることに加え、両社のサービスを通じて自社のニュースを閲読する傾向が高いためにネット広告から得られる収入が激減してしまう からだ。

 新聞業界のニュースサイト「プレスガゼット」はグーグルとフェイスブックを「2人組(デュオポリー)」と呼び、「ジャーナリズムの破壊を停止し、ニュースの発行者にもっと代金を支払うべきだ」と両社に要求する取り組みを17年4月から開始している。同年末には仏ルモンドの紙面を使って、欧州委員会や欧州議会議員に対し公開書簡を発表。フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストリア、オランダ、ベルギーの各通信社の連名で、オンライン広告収入の70%を占める2社の「ニュース事業は成長著しい一方で、他のメディア企業のビジネスは崩壊している」と主張した。

グーグル、メディア支援を表明

 グーグルは「無断でニュース記事を使って収入を得ている」という欧州新聞界からの批判をかわす一策として、15年末にデジタル化を支援する「デジタル・ニュース・イニシアティブ(DNI)」を開始している。英メディアも支援対象に入っているが、伝統メディアからはグーグルだけでなく、ほかの米テック企業にも英国のジャーナリズムを助けるために一肌脱いでほしいという声が挙がる。

デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから
デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから

 ウィッティングデール元文化相は新聞編集幹部が集まったイベントで、苦境にある地方新聞界にグーグルやフェイスブックが手を貸すアイデアを打診したことを明かした(プレスガゼット、1月18日付)。BBCは地方紙業界と協力し、150人の新規雇用を提供する仕組みを開始している。この「地方ニュース・パートナーシップ」にはBBC の受信料が原資として活用される。

 ウィッティングデール氏はグーグルとフェイスブックにこの制度に何らかの形で 供参加しないかと呼びかけたが、「それほど良い反応はなかった」という。同氏は「これからも説得を続ける」と語った。両者にはメディア業界の支援者としての役割も求められるようになってきたのである。

 生活のあらゆる面で米テック企業の存在感が増す中で、ネット上に広がる悪しき情報、例えばフェイクニュース、児童を性愛対象にするコンテンツ、憎悪を育んだり、テロを扇動するようなコンテンツなどを一掃する役割も期待されている。子供たちがネットに夢中になり、「中毒」となる現象への対処も求められている。

 今年1月に スイス・ダボスで開かれていた世界経済フォーラムで、メイ首相はテロ、過激主義、児童虐待などコンテンツを「自動的に削除する」ため、テック企業が一層努力するよう呼びかけた。欧州内ではこれらの企業がネットの監視人になるべきだとの風潮は強まるばかりだ。グーグルはユーチューブ上のコンテンツの監視人員を1万人以上に増やすと述べ、フェイスブックは年内に倍増の約2万人にするという。

 その規模や影響力が拡大すればするほど、テック企業への要求も大きくなる。昨今、ネット上に横行する有害なコンテンツの締め出しなどの社会的役割をすべてこうした私企業に押し付けるような論調が続いているが、政府、伝統メディアあるいは市民側ができることはないのかと筆者は思う。

 前述のメイ首相による「過激主義、児童虐待などのコンテンツを自動的に削除すべきだ」という要求について、フェイクニュースに関する著作物を持つジャーナリスト、ジェームズ・ボール氏は「漠然とした表現で失望した」という(BBCニュース1月24日放送)。グーグルやフェイスブックに効果的な行動を期待するのであれば、「何が過激主義あるいは児童虐待とされるコンテンツになるのか、政府側で明確に定義するべきではないか」と主張している。

 今年3月中旬、データ解析を基に選挙のコンサルティングを行う英企業ケンブリッジ・アナリティカ社が、8700万人にも上るフェイスブック利用者から個人情報を不正に取得し、有権者の投票行動に影響を及ぼそうとしたとする疑惑が大々的に報じられた。

 ケンブリッジ社は非難の的になったが、そんな流用を許してしまったフェイスブックに対する視線も、ますます厳しいものになっている。

 


by polimediauk | 2018-04-08 23:01 | ネット業界


(新聞通信調査会の「メディア展望」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界主要国のデジタル・ニュースをめぐる状況について調査を行い、その結果を発表している。最新版「デジタルニュース・リポート 2017」を紹介してみたい。

 今回で6年目となるリポートは36カ国・地域の7万人を対象にし、英YouGovが昨年1月から2月にかけて調査を行った。調査費用の一部はBBCを含む英メディア、複数の大学、米グーグルなどが負担した。

メッセージアプリが人気、SNSへの不信感

 36カ国・地域全体の特徴として、いくつか拾ってみる。

 

 (1)ソーシャルメディアからメッセージアプリへ。前者の拡大が停滞気味で、プライバシーをより保てる後者の人気が高まっている。

 

 (2)ソーシャルメディアが事実とフィクションとの区別を十分に行っていると答えた人は24%のみ。伝統メディアの場合は40%。


 (3)ニュースメディアへの信頼性は、国によって大きく異なる。フィンランド(62%)が最も高く、最も低いのはギリシャと韓国(23%)だった。


 (4)メディアへの不信感の高さと政治的偏向には強い相関関係があった。特に政治見解が分極化している米国、イタリア、ハンガリーでこの傾向が見られた。

 

 (5)約3分の1がニュースに接触することを避けることが多い、あるいは時々そうすると答えている。理由は気持ちが沈むから、あるいは真実とは思えないからだった。


 (6)パソコンよりも携帯機器でニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (7)携帯機器でキュレーションされたニュースを読む人が多い。特に伸びたのがアップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバー。

 

 (8)外出時だけではなく、家でも主としてスマートフォンでニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (9)アマゾンのエコーなど音声で動作を開始する機器でニュースに接する人が米英で増えている。

 

 (10)オンラインニュースの有料購読率は、「米トランプ大統領効果」によって大きな伸びを見せた。

 2016年11月の大統領選から昨年の年頭までにニューヨーク・タイムズ紙はデジタルの有料購読者を50万増やし、ウォールストリート・ジャーナル紙は25万増加させた。寄付の比率も増えた。新規購読者の大部分は左派系の若者層だった。

 何故有料購読するかと聞かれ、「ジャーナリズムを助けたい」という人が米国では29%いた。

 (11)オンラインニュースの有料購読率が特に高いのは北欧のノルウェー(15%)、スウェーデン(12%)、フィンランド(10%)だった。最も低いのはギリシャの2%。日本は6%。

 何故有料購読するかと聞かれ、全ての国・地域で最大の理由として挙げられたのは「スマートフォンやタブレットでアクセスしたいから」(30%)。これに「広い範囲の情報源のニュースに接したいから」(29%)、「割安サービスを提供されたから」(17%)が続いた(複数回答)。「ジャーナリズムを助けたいから」は13%だった。

 

 逆に、何故有料購読しないかを聞かれ、最大の理由は「無料でニュースが閲覧できるから」(54%)で、これに続いたのが「最も好むニュースサイトが無料で記事を出しているから」(29%)、「オンラインのニュースはお金を払う価値がないから」(25%)。

 (12)インターネット広告をブロックする「アドブロック・ソフト」の導入はデスクトップでは21%で、これは現状維持。スマートフォンでは7%。

 一時的にアドブロックを行ったという人はポーランド、デンマーク、米国で半数以上を占めた。国別では導入率が最も高いのはギリシャ(36%)、韓国が最も低く(12%)、日本も12%と低い。

 (13)特定の媒体のニュース記事が複数のプラットフォームで配信されるとき、どこでその記事を見つけたかは記憶に残るが、どこの新聞あるいはニュースサイトが制作した記事かは覚えていない傾向が見られた。

 

 (14)ニュースへのアクセスで、紙の新聞を最も好むのはオーストリア人、スイス人。ドイツ人やイタリア人はテレビを最も好む。中南米諸国ではソーシャルメディアやチャット用アプリを最も好む傾向があった。

日本の閲覧傾向は?

 ロイターのリポートは全体の傾向を説明する部分の後に、各国の状況をつづっている。日本の現況を紹介してみたい。

 テレビ、ラジオ、新聞・雑誌を合わせた中で、最も利用するニュース媒体はNHKがトップ(56%)。

 これに続くのが日本テレビ(44%)、テレビ朝日(40%)、TBS(39%)、フジテレビ(36%)、地方紙(23%)、テレビ東京(18%)、朝日新聞(17%)、読売新聞(17%)、民間ラジオ局(13%)、日経新聞(13%)、米CNN(6%)、毎日新聞(6%)、5%が産経新聞、BBCニュース、スポーツ紙(複数回答)。

 オンラインではヤフーニュースが断トツ(53%)で、これに続くのがNHKニュースオンライン(23%)、日本テレビ(15%)、TBS(13%)、テレビ朝日(13%)、朝日新聞(12%)、フジテレビ(12%)、日経新聞(12%)、MSNニュース(8%)、産経新聞(8%)、テレビ東京(7%)、読売新聞(7%)、民間ラジオ局(6%)、毎日新聞(6%)、日経ビジネス(5%)、地方紙(5%)。

 NHKを好む理由は「正確で安心できる」(59%)、「複雑な事柄を理解できる」(43%)、「強い視点がある」(33%)、「面白い、娯楽性がある」(22%)。

 一方、ヤフーニュースを好む人は「面白い、娯楽性がある」がトップの理由で63%、これに「正確で安心できる」と「複雑な事柄を理解できる」がそれぞれ32%、「強い視点がある」は27%だった。

 日本の項目は共同通信社の澤康臣記者の執筆による。澤氏はロイター・ジャーナリズム研究所のフェロー(2006-07年)だった。

 同氏は他国では人気が高いソーシャルメディアのフェイスブックが日本ではユーチューブやLineに続く、第3位の位置にあることを指摘する。

 ニュースにアクセスする際に最も人気があるソーシャル・メディアとメッセージアプリのランキングでは、フェイスブックは第4位となり、ツイッターの下に来る。

 その理由について、澤氏は総務省の2014年の調査を例に出す。これによると、日本人はオンライン上では匿名であることを好むという。これが、ビジネス上のネットワークを作るソーシャルメディアのリンクトインが他国では人気が高いのに、日本では有効回答者の1%しか使っていない理由ではないか、という。

 筆者は毎年、このリポートに目を通してきたが、いつも気になるのが「オンラインニュースへの参加度」という指標の結果だ。

 「参加度」には様々な意味合いがあるが、「ソーシャルメディアなどで共有した」、「コメントを残した」と定義した場合、最もその度合いが低いのが日本だ。トップは中国(64%)とブラジル(同)で、ほぼ真ん中にあたる米国が41%。筆者が住む英国は後ろから3番目の22%。日本は最後で13%だ。

 国民性と関係があるのだろうか?日本のニュースサイトはコメントができない場合も多いので、これが関係しているのかどうか。興味は尽きない。

今年のトレンドは?

 さて、今年、ニュース業界はどうなっていくのだろうか?

 ロイター・ジャーナリズム研究所は、今年のトレンドを予測するリポート(「ジャーナリズム、メディア、そしてテクノロジーのトレンドと予想 2018」)も発行している。

 世界29カ国のメディアで働く、194人のデジタル・ニュース担当者に聞いたところ、最も懸念しているのはフェイスブック、グーグル、アップルなどのいわゆる「プラットフォーム」と言われる企業が影響力を増していること(44%)だった。

 半数に近い担当者が有料購読をデジタル収入の要と考えていた。

 成功の鍵とされているのが「音声」だ。58%がポッドキャストや音声で作動するスピーカーを使うことに力を入れるつもりであるという。また、72%が人工知能(AI)を使った実験を行うことによって、記事のおすすめ機能を向上し、記事の制作を効率化させたいと考えている。

 筆者は先月、日本に一時帰国していたが、家電販売店で見かけたのがアマゾンのエコーなど、音声でニュースなどを流す機器だった。高額というイメージがあったが、機器によっては3000円という価格のものもあり、買いやすくなっているようだ。実際に利用しているという人も友人の中にいた。「音」が確かに鍵になりそうだ。


by polimediauk | 2018-04-05 16:25 | ネット業界
 (月刊誌「新聞研究」7月号に掲載された筆者記事に補足しました。)

 昨年来、メディア界でコメント欄を閉鎖するあるいは一部縮小する動きが目立つ。

 米ウェブサイト「ザ・バージ」や「デイリー・ドット」などが、「管理が困難になった」という理由でコメント欄を閉鎖し、今年年頭には開かれたジャーナリズムを実践する英ガーディアン紙が「移民」や「人種」など大きな論争を呼びそうなトピックの記事の一部にコメントを受け付けないように変更した。

 オンラインの言論空間で他者を不当に貶めたり、誹謗中傷するなど、いわゆる「オンライン・ハラスメント(嫌がらせ)」をどう対処するかに注目が集まっている。

 5月12日、ロンドンで「ニュースインパクト・サミット」(オランダの非営利組織「欧州ジャーナリズムセンター」主催、グーグルニュースラボ協力)が開催された。

 オンライン・ハラスメントの対処法やコメント欄改良の試みを取り上げたセッションを紹介したい。

反撃のためのウェブサイトを設置

 「荒らし、オンライン・ハラスメント、メディア界の女性たち」と題されたセッションで最初に登壇したのが、米オハイオ大学で教鞭をとるミシェル・フリエリ氏だ。

 2007年、同氏はフロリダ州のある地方紙で初の女性コラムニストになった。有色人種としても初だった。就任後、「リンチするぞ」など憎悪に満ちた手紙が送られてくるようになったという。3年間、同じ人物からの手紙は途切れることがなかった。しかし、実際にはたった一人が書き続けていたのではなく、「女性や有色人種の書き手の声を消そうとする、ヘイト・グループの手によるものだった」。

 フリエリ氏は警察の助けを求めたが、具体的な犯罪行為を特定できなかったため、刑事事件として捜査が行われることはなかった。身の危険を感じたフリエリ氏は新聞社を辞め、家族とともにフロリダを離れざるを得なくなった。

 ネット時代になり、ジャーナリストはソーシャルメディアや自分の記事についたコメントなどを通じて、「読者とインタラクティブな関係を持つことになった」。結果として、「心無いコメントやヘイト・スピーチの対象になる危険性が増している」と言う。「女性や有色人種はハラスメントの対象になりやすい」。

c0016826_17492121.jpg
 
 そこで同氏が立ち上げたのがハラスメントを受けた女性ジャーナリストを助けるウェブサイト「トロール・バスターズ」(「荒らしをやっつける」)。オンライン上で攻撃を受けたことをサイトに知らせると、1時間以内にネガティブなメッセージを打ち消すような前向きのメッセージを発信したり、バーチャルな「ハグ(抱擁)」のサインを送ったりする。オンライン上の脅しがオフラインの生活に影響を及ぼさないよう、ネット上でいかに個人情報の思わぬ漏えいを防ぐかについて情報を提供するほかに、法的手段を取りたい場合のアドバイスも与える。

 非営利のナイト財団から3万5000ドル(約350万円)の投資を受けて立ち上げられたサイトは、ボランティアを含めた数人で運営され、24時間、活動を続けている。

ガーディアンがコメント欄を再考

 同じセッションの中で、ガーディアン紙のコメント欄の分析結果を報告したのは元同紙のコメント欄担当編集者だったベッキー・ガードナー氏だ。現在はロンドン大学ゴールドスミスカレッジで教えている。

 ガーディアンはコメント欄の質を向上させるため、2006年以降に掲載された記事についた約7000万のコメントを分析した。その結果を4月に紙面やサイトで「私たちが望むウェブ」という見出しを付けて発表し、読者から意見を募った。

c0016826_17505333.jpg
 
 ガードナー氏によると、ガーディアンに記事を書いた記者、寄稿者の中で、最も多く悪質コメントが寄せられた10人のうち8人が女性で、2人は黒人男性だった。ハラスメントの対象になりやすいのは「女性」、「有色人種」という特色がここでも繰り返されていた。

 ガーディアンのサイトによると、同紙が「口汚い、破壊的なコメント」と見なし、ブロックする対象となるのは、例えば「殺す」、「レイプする」、「バラバラにする」などの脅しの表現だ。ヘイト・スピーチもブロックの対象となる。
 
 ほかには「書き手を罵倒する」(例えば中絶クリニックについての記事に、「お前があまりにも醜いので、妊娠したら、俺がクリニックに連れていくぞ」)、「書き手及び読者を個人攻撃する」(「これでもジャーナリストかい?」、「お金をもらって書いてるんだろう?」)「軽蔑的なコメント」(「落ち着けよ」)、「過去の事象について繰り返し相手を責める」コメントがブロックされる。ブロックの判断はガーディアンの「コミュニティ運営の規則」による。

 セッションではメディアサイトのコメント欄は管理者が適正化できるが、ソーシャルメディアなどほかのウェブ空間では「野放し状態になっていることへの不公平さ」が指摘された。

 5月末、グーグル、ツイッター、フェイスブックなどの大手プラットフォームは、ヘイトスピーチやテロリストによる害悪なメッセージの拡散を停止するための欧州連合(EU)の新たな規則に対応することに合意した。これによると、指摘があったヘイトスピーチなどについて24時間以内に対応し、場合によっては削除するかあるいは反論に匹敵するメッセージを流すよう、求められている。
by polimediauk | 2016-08-12 17:44 | ネット業界
c0016826_17585961.jpg
 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」2月号の筆者記事に補足しました。)

 近年、デジタル・テクノロジー関係の新興大手と言えば、アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、ツイッターなど、米国発が圧倒的な位置を占める。スカイプ(スウェーデン)をはじめとして欧州発もいくつかあるものの、やや影が薄く、米企業ほどには世界的に知られていない。

 欧州内のテクノロジーや起業(スタートアップ)の動きを追うネットサイト「テック・イーユー(Tech.eu)」のロビン・ワウタース編集長によると、国によってそれぞれ異なる言語・文化を持つ欧州各国の場合、ビジネスが国内に留まりがちで、そのほとんどの活動は「外からは見えない」状態になっているという。 

 しかし、世界のほかの地域同様に、欧州でもテクノロジー関係の起業の波は年を追うごとに大きくなっている。

 テック・イーユー共同創業者の一人アイボ・シュピゲル氏が最近上梓した、スタートアップ関係者へのインタビュー集『欧州スタートアップ革命』の紹介を兼ねながら、現状を見てみたい。

今年は「欧州の起業家の年」


 テック系スタートアップの記事を掲載するサイト「ルード・バゲット」の記事(1月4日付)は、2016年こそが「欧州の起業家の年となる」と予測している。2015年第1から第3四半期までの間に、欧州で新興企業に投資された金額は88億ユーロ(約1兆1280億円)に上った。これは前年同期比40%増だ。

 欧州各国政府は起業振興のための生態圏を作るために予算を充てており、ロンドンは「フィンテック」と呼ばれる、金融関連のサービス業、アムステルダムはモバイル・アプリ、パリはデジタル広告の技術など、主要都市が得意な業態を持つようになってきた。

 テック・イーユーのシュピーゲル氏は、『欧州スタートアップ革命』の中で、現状をこう説明している。5年程前まではロンドンを含むいくつかの主要都市をのぞくと、起業のために必要なリソース(オフィススペースを共有するコワーキング・スペース、教育、資金など)が欠けていたという。

 しかし今は、スタートアップの数よりも起業を奨励する教育の機会の方が多い場合があり、毎日のように欧州域内で資金調達のイベントが開かれているという。

 欧州のスタートアップ市場の中で特に目立つのがロンドンだ。

 調査会社CBインサイトとロンドン&パートナーズの調べによると、2015年、英国のテック企業がベンチャー投資家から集めた金額は36億ドル(約4227億円、前年比70%増)。資金の大部分(22.8億ドル)がロンドンのテック企業に投資された。世界の金融センターの1つシティの存在が貢献したようだ。

 しかし、スタートアップの本家ともいえるシリコンバレーには及ばない。全米ベンチャー・キャピタル協会よると、2014年、シリコン・バレーに投資された金額は357億ドルに達している。

 スタートアップ企業は投資家からの支援を受けながら、成長するにしたがってその価値を増大させてゆく。

 テック・イーユーが分析した、欧州スタートアップの評価額ランキング(2015年8月時点)によると、1位はSpotify(音楽配信サービス、スウェーデン、85億3000万ドル)。これに続くのがGlobal Fashion Group(ファッション商品のネット販売、ドイツ、34億ドル)、Delivery Hero(オンラインでの食べ物の注文、ドイツ、31億ドル)、Klarna(電子コマース、スウェーデン、25億ドル)、Adyen(国際決済サービス、オランダ、15億ドル)、FanDuel(オンラインのスポーツ・ゲーム、英国、13億ドル)、Infinidat(データ管理、イスラエル、12億ドル)、Home24(オンラインの家具販売、ドイツ、10億ドル)、Shazam(音楽認識アプリ、英国、10億ドル)、Farfetch(世界のファッション物品のネット販売、英国、10億ドル)となった。

真の「汎欧州テック・コミュニティ」はない?

 投資金額は次第に増えているものの、「グローバル化」への壁は厚い。

 『欧州スタートアップ革命』の中で紹介された企業の1つが、フランス発の大手電子コマース会社PriceMinister(2010年、楽天に2億ユーロで買収された)。ドットコム・バブルが始まった2001年にサービスを開始し急成長したが、フランス以外ではほとんど知られていなかった。ほかの多くの欧州発のスタートアップ同様、グローバル化を目指していなかったからだという。

 共同創業者ピエール・コスシュイスコモリゼ氏は欧州市場が国によって分断化されていると指摘する。「税金、雇用関連法、企業法などがそれぞれの国によって異なる。あまりにも多くの異なる言語、文化、消費習慣がある。欧州と一口で言うが、小さなそれぞれの国の集まりに過ぎない」。同氏は「本当の意味での、汎欧州コミュニティは存在しないのではないか」とさえいう。

 汎欧州用にスタートアップ支援ファンドSeadCampを2002年から運営してきた、南アフリカ出身のソール・クライン氏も、「本当にグローバルなビジネスを作っていくのは並大抵ではない」という(『欧州スタートアップ革命』)。「インターネットがあればグローバルに展開できそうだが、それでもそれぞれの国・地域の司法体制や習慣、文化に配慮する必要がある」からだ。

 2005年から、欧州委員会は「スタートアップ欧州イニシアティブ」を実施中だ。域内で起業を希望する人を支援し、投資家が出会う場を各国で開催している。シリコンバレーの成功例を学ぶイベントも開いている。

 願わくば、欧州発で世界に翼を広げる大手スタートアップが出てほしいーそんな欧州官僚の思いが形になったのが、単一デジタル市場を立ち上げるための動きだ。「汎欧州で機能する通信ネットワーク、国境を超えるデジタル・サービス、斬新な欧州スタートアップの波を作りたい」。2015年5月、ジャンクロード・ユンカー欧州委員長はこう宣言した。

 委員会の調べによれば、3150万人の欧州市民が毎日インターネットを利用しているが、その54%は米国を拠点とする企業のサービスを使っていた。42%がそれぞれの国の企業によるサービスを利用し、汎欧州で展開されているサービスは4%のみだった。欧州連合(EU)市民の中でEUのほかの国からオンライン・ショッピングで物品を買った人は15%のみ。中小企業の中で国境を超えた物品販売をしている人は7%だけだった。

 欧州委員会は、2014年から20年の間に200億ユーロを規制撤廃、高速通信、教育などに投資し、EU内でのデジタル利用を国別から汎EUに変える予定だ。

 単一デジタル市場へと動く欧州委員会の視線の先には、欧州内でも圧倒的位置を占める米国発デジタル・サービスを欧州発に変えてゆきたいという狙いがあるようだ。

 最後に、『欧州スタートアップ革命』が取り上げたスタートアップ、および投資会社の概要の一部を紹介しておきたい。社名、創業者の出身国、創業年、サービス内容の順に記した。

c0016826_17522790.jpg

(音楽ファイル共有サービスのSoundCloud)

 Seesmic (フランス、2008年、複数のソーシャルメディアのアカウントを同時に管理するフリーウェア)、Last.fm(英、2003年、音楽特化型ソーシャルメディア)、Dailymotion(フランス、2005年、動画共有)、Mendeley(英国、2007年、学術論文の管理とネットでの共有)、SoundCloud(ドイツ、2007年、音楽ファイル共有)、Atlas Ventures(米国、1980年、投資会社)、Accel Partners(米国、1983年、投資会社)、Prezi(ハンガリー、2009年、プレゼンテーション用ソフト)、500 Startups(米国、2010年、投資会社)、TransferWise(エストニア、2011年、銀行手数料がない、国際送金サービス)。

 最後に挙げたTransferWiseはロンドンに本社を置き、300を超える通貨を扱う。英国の国際送金市場の2%を占めるまでに成長している。
by polimediauk | 2016-03-08 17:52 | ネット業界
c0016826_22322977.jpg

(オランダ生まれのサイト「Blendle (ブレンドル)」)

 オランダで生まれた、マイクロ・ペイメント制のメディア・サービス「Blendle(ブレンドル」が、立ち上げ(2014年4月)から1年余を経て、海外展開を始める予定となっている。

 20代後半のオランダのジャーナリスト2人が立ち上げたサービスで、一本ごとに記事を買える仕組みだ(1本15セントから30セント=約20円から40円)。記事の販売価格は出版社側が決めるため、場合によっては30セント以上になる場合もある。読んでみて気に入らなかったら、返金もできるという(その場合は理由を伝える)。返金率はこれまでに全体の約5%で、ほとんどの人が満足して読んでいるようだ。

 現在のところ、利用者はオランダ国内の25万人で、人口全体の2%にも満たないものの、60%が20歳から35歳の若者たちで、最も多い読者層は20歳から25歳まで。「新聞を読まない」とされる層であることが強みの1つだ。

 ブログ「メディアの輪郭」によると、政府の助成金や自分たちで貯めた資金でサービスを立ち上げた。販売する記事価格の約70%を出版社が受け取り、30%をブレンドルが受け取る仕組みだ。

記事バラ売りのアイデアは前からあったが

 「欧州ジャーナリズム・オブザーバトリー」の記事によれば、 ニュース記事を1本毎に売るというアイデアはブレンドルが初ではない。6年前に米ニュース週刊誌タイムの編集幹部だったデービッド・カーとジャーナリストのウオルター・アイザックソンがすでに思いついていたという。私自身も、英新聞のいくつかのサイトで、前に似た様なことをやっていたことを記憶している(1本購入した後で、知りたかったことが書いておらず、がっかりしたり、など)。

 ブレンドルはフリーランスの書き手にも道を開く。欧州オブザーバトリーの記事の中で紹介されているように、フリーランサーたちが便宜上1つの集団としてまとまり、「出版社」として記事を提供するのだ。その具体例が「TPOマガジン」だ。

 読んだ記事はソーシャルメディアでシェアでき、友人たちや著名人がどんな記事を読んでいるか、どんな記事がトレンドになっているのかが分かるようになっている。

 ブレンドルのウエブサイトによれば、利用者が読みたがるのは深みのある、じっくり書かれた記事、分析、論説などだという。

 ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガー社や米ニューヨーク・タイムズが投資をしていることでも知られているブレンドル。若者層が利用者となっている部分が、大手メディアにとって、何物にも変えられない、大きな魅力なのだろう。

 「ジャーナリズムのアイチューンズ化」を目指すと創立者たちは言ってきたが、アップルが音楽のストリーミングビジネスに入るという大きな決断を発表した今、果たしてマイクロペイメントから閲読ストリーミング(?)、例えば毎月一定額(ただしそれほど大きな額ではなく)を払って存分に読める形も、将来的には考えることになるのだろうか?

 ただし、もちろん、毎月一定額を払えば掲載記事が全部読める、という形はすでに存在はしているが。

 例えば私が参加している朝日新聞の有料サイト(無料記事もある)「WEB RONZA」は、さまざまな記事の配信方法を試みている。また、記事の有料配信と言えば日本では「ケイクス」(週に150円)が人気だ。他にも大手メディアは紙媒体の購読者となっていれば、自社記事に限れば、電子版でもすべてを読めるようにしているところが多い。

 英語あるいは日本語でブレンドルのサービスが始まったら、少しは私も利用してみようかなと思っている。

 私自身、いくつかのメディアについては有料購読(毎月あるいは年間)しているが、興味があるメディアすべてを有料購読したら、財布がパンクしてしまうので、無料記事だけを読む場合がある。そこで、トライアルとして読みたい記事をバラ買いするのもいいかな、と。読むことで紹介されている媒体の定期購読をすることもあり得るかもしれない。

 また、フリーランスのジャーナリストへの道が開けるという可能性も魅力的だ。


どんな記事が読めるかが鍵に


 書き手として気になるのは、「お金を払ってもらえるほどの価値あるコンテンツを、生み出せるだろうか」と。

 紙媒体の定期刊行物であれば、他の記事とセットになるわけだが、ブレンドル形式だと、1本1本の記事が勝負になる。

 また、読み手として考えた場合、1本毎にお金を出して読むほどの興味深い記事を果たしてどれだけ見つけられるかな?と。

 日本ではニュースのキュレーションサービスがどんどん出てきており、もはや「どうやって配信するか」「お金をもうけるのか」よりも、「どんな内容だったら、読んでかつお金を払ってもらえるのか」の段階に来ているように思っている。とにもかくにも「内容」なのだ。

 ということで、ブレンドルが英語でサービスを開始した時、何が読めるようになっているのか、この点が最も肝心だろうと思っている。
by polimediauk | 2015-06-09 22:33 | ネット業界
 オランダのスタートアップ・メディア「コレスポンデント」については、これまでにも何回か書いてきたが(記者と読者の関係を変える、オランダの「コレスポンデント既存メディアの枠を打ち破るオランダでの試み世界新聞大会で気づいた7つのことなど)、13日、アムステルダムで開催された「出版エキスポ2014」(世界ニュース発行者協会=WAN IFRA=主催)のイベントの一環として、実際にオフィスを訪ねる機会を得た。

 コレスポンデントはオランダの日刊紙「Nrc・next」の元編集長ロブ・ワインバーグ氏と同紙のブロガーの一人で、NRCメディアのインターネット部門の編集長だったエルンストヤン・ファウス氏が中心となって立ち上げたウェブメディアだ。クラウドファンディングでほんの数日で約1万5000人から総額100万ユーロ(約1億3900万円)を集め、オランダ内外で注目を集めた。広告収入には頼らず、購読料(年間60ユーロ=約8000円)で運営をまかなう。読者は「メンバー」と呼ばれ、記事に対するインプットを「コントリビューション」(貢献)として扱う。記者(=コレスポンデント)は読者との「会話」を奨励され、「会話を始める人」という役割も持つ。書き手と読者が知識を持ち寄り、より充実したジャーナリズムを作り上げることを狙う。オランダ語サイトだが、一部の記事は英訳されている。

 昨年9月のサイト開始から1年余りが過ぎた。現在、購読者数は2万8000人。(ファウス氏自身による1年を振り返るブログポストは「ミーディアム」に掲載されている。)

c0016826_18103032.jpg コレスポンデントの狙いや今後について、ワインバーグ氏とファウス氏が報道陣の前で話した内容の一部を紹介したい(以下、敬称略)。

 コレスポンデントのオフィスはアムステルダム市内のビルの一角にある。ドアを開けると白い壁の細長い部屋がある。左手にはグレーのソファーがあり、右手にはミニ・バーがある。木製のカウンタートップに、2人が次々と報道陣向けに飲み物を並べてゆく。

 部屋の奥には長い机があり、いくつものコンピューターが並ぶ。ここが「編集室」のようだ。報道陣が訪 れたのは午後7時半過ぎ。2人の女性がコンピューターの画面に向かって作業をしていた。

***

読者の知識=ジャーナリズムの宝庫


エルンストヤン・ファウス:読者の知識は今までに手がつけられていなかったジャーナリズムの領域ではないか。考えてみて欲しい。3000人の医者がいたら、その人たちの医療知識はたった一人の医療問題の記者の知識よりはるかに深く、広い。

 今はそれぞれ専門知識をシェアできる時代だ。オランダはツイッターも流行っているし、多くの人がネットでつながっている。知識をシェアするジャーナリズムをやりたかった。

 自分はロブ・ワインバーグがいたNRCのウェブサイトのブロガーだった。市民の意見・コメントではなく、専門知識をシェアする試みを行っていた。サイトの閲覧者も倍に増えた。

 しかし、ロブが「解任」されてしまったので、プロジェクトはつぶされてしまった。これが2012年の秋だった。

「一から始めよう」


ロブ・ワインバーグ:NRCの全ての編集者たち、ジャーナリストたちは質の高いジャーナリズムを作るという使命を共有していた。しかし、会社側はこれをあまり共有しておらず、利益を生み出すことをそれ以上に重要だと考えていた。

 私たちは新聞でイノベーションを起こそうと思った。私たちのプロジェクトはすぐに利益を生み出さない種類のものだ。株主がいる会社組織では、株主が3ヶ月で結果を出しなさいというだろう。

 私が前にいたNRCでは、100年前とまったく同じことをやっている。それを変えるのはとても大変だ。組織としても巨大だ。
 
 私たちは自分たちで一から始めることにした。

ファウス:それが2012年の秋だった。立ち上げについてのアドバイスはほとんど無視した。つまり、最初は小規模で、コーヒーショップの片隅で始めなさいとか、ニュースは商品なのだから、そのように扱いなさいとか。

ワインバーグ:ニュースをやるなら、ビジネスプランを持て、とかね。広告をどうするのか、とか。たくさんのオーディエンスを持つことを目的にしてしまうと、試験的な記事が出せなくなってしまう。

ファウス:広告記事を書くようなジャーナリストを雇え、という人もいた。いわゆるブランデッド広告だ。ウェブサイトの一部にこうした広告記事を出して、お金をもうけなさい、と。読者が欲しいものを与えなさい、つまりはネット時代なのだから短い記事をどんどん出しなさい、とか。

 そんなもろもろのアドバイスは私たちがやろうとしていたこととは正反対だった。

 まず、小さく、コーヒーショップの片隅で始めるということ。これはダメだ。

デザイナーとの共闘作業

 私たちが生きているこの時代に、デザイナーがどうやって物語を語るかは記事の中身と同様に重要なんだ。私たちは今、どのようにジャーナリズムを出していくのか、作っていくのかを考えている真っ只中だ。そんなとき、デザイナーと一緒になって、どうやってやるかを考えるべきなんだ。

 そこで、デザイナー&デベロプメントの会社「モンカイ」と一緒にやることにした。でも、普通に仕事を依頼すれば、すごく高い料金を払わなければなくなる。そこで、ビジネス上のパートナーになってもらい、低コストでやってもらえるようにした。

c0016826_1855973.jpg

(画面の例。モンカイ社のデザインが光る)

c0016826_1863563.jpg

(上の画像の右端、記者部分をクリックすると、記者専用の画面になる)

ワインバーグ:広告は入れない。これはある意味ではリスクだ。メンバーからの購読料だけで運営するのだから。

 広告を入れないことにした理由は、そうすることによって、自分たちが本当に重要だと思うことや、社会や読者が本当に読みたいと思うことに集中できると思ったからだ。

 私たちは読者を(何かを売るための)「ターゲット」としては捕らえていない。読者の特性を広告主に売りつけたりはしない。

 広告主がいないと、ジャーナリズムに対する考え方ががらりと変わる。広告主を悪魔のような存在だと言っているわけではない。

読者のバックグラウンドは何でもいい


 要は、私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ。読者には、記事以外にはほかに何も売りたくはない。これは永遠にそうだ。私たちがやるジャーナリズムの根本なんだ。

ファウス:運営費は完全にメンバーからの購読費による。

 短い記事が良いというアドバイスがあったけれど、私たちはまったく違う。長い、深みのある記事を出す。ネットでは長く書いたり、説明したり、リンクやシェアができる。

ワインバーグ:だからと言って、「ロングフォーム」(長い形の)ジャーナリズムであれば何でも良いという意味ではない。また、手がけているプロジェクトはその過程を読者に公開している。

ファウス:記者は2-3ヶ月、半年、あるいは1年をかけて記事を仕上げる。

 あるトピックが今話題になっているかどうか、「ニュース」かどうかなんて、関係ない。記者が「これがこんな理由で重要なトピックだ」と説明したら、それが取り上げるに足る理由になる。

―資金作りはどうやったのか?

ファウス:クラウドキャンペーンを使った。年に60ユーロで、もし1万5000人集まったら、何とか始められるだろうと思っていた。でも、実現の可能性は50%ぐらいかなと思っていた。ロブ(ワインバーグ)があるテレビ番組に出て、資金を募ったらー。

ワインバーグ:テレビ出演から8日間で1万5000人以上が購読者になったんだ。このときの購読者を私たちは「創設メンバー」と名づけている。

 記者には1800人ほどから応募があり、3ヶ月かけて、これはと思う人物を選んだ。8人がフルタイムで、20人がフリーランス。5人のサポートスタッフがいる。

 ある記者は教員でもある。記事の発想が教育の現場から生まれる。元NRCにいた女性記者が今はアフリカの紛争について書いている。

ファウス:独自のコンテンツマネジメントシステム(CMS)があるべきだと思い、モンカイと協力しながら作り上げた。

 開始から1年後の今年9月末でメンバーは2万8000人だ。

 記者は原稿を仕上げるまで、いわば「旅」をする。記者にお願いしたのは「読者=メンバー=との会話のリーダー役になってくれ」、と。記事を出して終わりではなく、メンバーからの知識を引き出すようにサイト上で情報を出し合う。

 メンバーにはそれぞれ自分の専門の知識がある。例えばホームレスであった経験を持つ人がいたり、ポルノ女優であった人も。それぞれの知識をサイトにインプットしてもらう。

ワインバーグ:前に新聞社にいた記者は、読者との会話をするという作業に対し、「追加の仕事が増えた」という。私たちが言うのは、「追加の仕事じゃない。これこそが仕事なんだよ」。オーディエンスにエンゲージするのが仕事なんだ。

 コレスポンデントの記者は記事を出してからの仕事がある。読者には「コメント」ではなく、自分が知っていることを「コントリビュート」(貢献)してもらう。「どう思ったか」ではなく、「これについて何を知っていますか」と読者は聞かれる。

ファウス:知識を共有しましょう、ということだ。

―オーディエンス、あるいはメンバーを増やすためのマーケティング戦略は?

ファウス:ほとんどしていない。フェイスブックのページを持っている。これは「いいね」が8万回、ついている。

 記事自体をメンバーがシェアすることで広がっている部分もある。シェアすると、誰がシェアしたかが分かるようになっている。非メンバー、つまり購読者になっていない人もメンバーがシェアした記事は読める。

****

 2人の話を世界中からやってきた報道陣が聞いた。小さいオフィスながら、大きな大志を持つ2人。

 「私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ」--ワインバーグ編集長のこの言葉を聞いて、思わずほろっとしたのは私だけではなかったように思う。

 とは言え、将来性はどうなのだろう?また、この動きがメディア界全体に広がる見込みは?

 エキスポの会議に出席していた、アムステルダム大学のメディア学教授マーク・デューズ氏に聞いてみた。「将来性はあると思う。これからも続くだろう」。ただし、「コレスポンデントはあくまでもニッチ=隙間のジャーナリズムだと思う。いくつかの特定された分野のトピックを深く追いかけているから」だ。

 コレスポンデントのワインバーグ編集長によれば、ジャーナリズムのスタートアップのやり方やCMSなどを他のメディア機関に販売することも予定(遠い先の話のようだが)しているという。一部の記事をまとめた書籍(紙の本)もあり(電子本もすでに出している)、10月初旬、フランクフルトで開催されたブックフェアで披露したばかり。今後が楽しみなメディアであることは間違いない。
by polimediauk | 2014-10-23 17:42 | ネット業界