小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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カテゴリ:ネット業界( 149 )

 英国のデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカ(5月上旬、閉鎖)が、米フェイスブックから約8700万人分の個人情報を不正取得したとの疑惑が大きな波紋を広げている。情報の使途について利用者の十分な同意を得ていなかった点や、こうした情報を基に、有権者の投票行動を誘導する広告を2016年11月の米大統領選で配信した可能性などが問題視されている。

 先月、イタリア・ペルージャで開催された「国際ジャーナリズム祭」(参加スピーカー700人、セッション総数300)に集まった人々の間で、もっとも熱っぽく語られたのが、このフェイスブックと個人情報流出疑惑だった。インターネットの開放性に大いなる希望を見た私たちだが、そんな楽観的な時代は終わりを告げるのだろうか?

 あるセッションに参加していたフランス人デベロパー、ロイチ・ダシャリ氏の見方を共有したい。ダシャリ氏はジャーナリストと内部告発者が安全に情報を交換できる「SecureDrop」のボランティアでもある。

 生まれも育ちもパリのダシャリ氏は、両親の仕事の関係でサウジアラビアやクウェートに住んだことがある。コンピューターを学ぶために、英語を勉強したという。

ダシャリ氏(筆者撮影)
ダシャリ氏(筆者撮影)

ーなぜデベロパーになったのか。

 ダシャリ氏:分からない。若い時から、コンピューターが必要だと思ったのだろう。今はもうすぐ53歳だが、まだプログラムを書いている。画家は50歳になったからといって、描くことをやめない。それと同じようなものだ。

ーフェイスブックやケンブリッジ・アナリティカのことを聞きたかった。「個人情報が流出した!」と大騒ぎになっているけれど、テクノロジーに詳しい人からすると、一連の事態はどう見えるのか。つまり、サイトの利用者の個人データが収集されており、これがビジネスに使われているという現象は、以前から続いていたわけだが。

 これほど大きな事態になって、非常に驚いている。私はフェイスブックをやらないが、これからもやるつもりはない。まさに個人情報が大量に取得され、使われてしまうと思ったからだ。

 非常に興味深いのは、多くの人が今になって、いかにひどいことが行われているかに気付いた点だ。私にとってはこちらの方が驚きだが、非常にいいことだとも思う。

 今回の事件が広く知られることによって、多くの人が個人情報の利用について意識するようになったからだ。いかに人々が公の空間に個人情報を露出し続けてきたのか、どれほどの問題があるかを意識し出した。選挙の行方を左右する為に、個人データが使われたかもしれないのだ、と。

 個人情報が使われて、「自分は操作されたのかもしれない」と言うかもしれないが、「あなた自身が(情報を出すことで)操作してほしいとお願いしたのでしょう」、と指摘することができそうだ。

 フェイブック側は「情報漏れ」はなかったと言っている。「誰もが見ることが出来る空間に置いてあったのだ」から。フェイスブックのサービスは、そういう風に設計されていた。つまり、情報を公にしてもらい、それを活用するというビジネスモデルだ。

ープライバシーについての意見を聞きたい。グーグルが大量の情報を集めている。人々はこの点について懸念を抱くべきだろうか?実際に、2-3の米テック大手が巨大な量の情報を集めているというのは、恐ろしい感じがするが。

 懸念はするべきだが、恐れる必要はない。逃れることは難しくないからだ。

 コンピューターの歴史はそれほど長くない。例えば誰かがこう言う。「グーグルが情報を集めすぎている。私の人生はグーグルによって破壊された」、と。しかし、グーグルが存在しなかった時代のことを考えてみてほしい。それでも、人生はあった。それに、グーグルよりもプライバシー保護に力を入れるサービスに乗り換えることは不可能ではない。

 懸念はするべきだが、恐れることはない。やり方はある。

―あなた自身はフェイスブックをやらない。個人情報を出さない、と。

 そうだ。私は個人情報を出さなければならないサービスはやらないようにしている。

―インターネットの将来についてはどうか。「インターネットは壊れた」という人もいる

 そうは思わない。

 インターネットの特徴の1つは、中央集権化されていないことだ。誰かがすべてをコントロールできない。

 ある場所では国民のほぼ全体がフェイスブックを使っているのかもしれない。でもそれは、インターネットがそうしろと言っているわけではない。利用者がフェイスブックの利用を選択しているだけだ。ネットのせいではない。

 インターネットが壊れているわけではないが、政府や企業はインターネットの重要な部分を壊そうとしている。それは、「ネット中立性」の問題だ。

 例えば、インターネット接続会社が顧客によって通信速度を変える。ある顧客はたくさんのお金を払ったので、接続速度が速くなり、動画をより快適に視聴できる。しかし、通常の料金を払った人はそうはいかない。インターネットがこういうことをしているのではない。企業が通信速度を変えてしまう。

 ある国の政府は他の国との接続ポイントを支配し、接続を遅くする。自国から出てゆくネット情報をすべて監視し、情報の流れを止める政府もある。人々がネットを壊そうとしている。

 TOR(トーア)ブラウザーを使えば、政府による情報封鎖を迂回することができる。(注:トーアとはThe Onion Routerの頭文字を取った言葉で、ネット上での通信経路の特定を困難にすることで匿名通信ができる手法、及びソフトウエアを指す。)

 TORブラウザーを使えば、例えばスカイプでの会話であるかのように見せかけながら、匿名通信が行える。スカイプを使う人はたくさんいるし、誰が本当にスカイプで会話をしているのかを政府当局はつかみにくい。

 しかし、ある国ではTORブラウザーを使っているというだけで、疑惑の対象になる。ブラウザーをダウンロードするだけで、疑惑の対象になってしまう。

 通信の内容を常時監視して、URLアドレスに応じてアクセスを封鎖する方法(「ブロッキング」)も問題だ。例えば、BBCのウェブサイトに行こうとすると、監視者は利用者がBBCのサイトに向かっていること関知して、BBCには到達できないようにする。私が聞いたところでは、トルコではBBCへのアクセスが時々、このようにブロックされるという。TORを使えば、BBCに向かおうとする過程が暗号化される。その技術は日々、進歩している。


 インターネットは揺り動かされているのだと思う。まだ壊れているわけじゃない。

***

参考

安心ネット作り促進協議会

ブロッキングの仕組み


by polimediauk | 2018-05-09 17:14 | ネット業界

 

英プレスガゼットはフェイスブックとグーグルの「2強」拡大を止める運動を行っている


(日本新聞協会発行の「NSK経営リポート」35号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

懐疑のまなざし

 グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる)など、インターネット業界を席巻する米IT企業大手の振る舞いに、英国を含む欧州諸国は懐疑のまなざしを向けてきた。日本と比べてみた時、このまなざしがあるかないかの違いがあるように思う。

 何故「懐疑」なのか?

 その背景には、一握りの私企業がインターネットがなければ回らなくなった社会の中で独占的な位置を持つことへの危機感、収益に見合う税金を払っていないのではないかという疑念、いずれの企業も利用者の個人情報を利用することでビジネスを拡大させていることへの不安感などがある。欧州であまりにも成功したがために、その巨大さが目立ち、漠とした恐怖感も底流にあると見ていいだろう。

 英ニュース週刊誌「エコノミスト」は1月18日号で「デジタル時代の競争――いかにテック業界の巨人を手なずけるか」と題する特集記事を掲載した。

 エコノミストは、こうした企業を「悪い=BAAD」だという。「巨大で(Big)、競争を妨げ(anti-competitive)、 ネット中毒を助長し(addictive)、民主主義を破壊(destructive to democracy)」するからだ。 規模が大きいからといって背後に必ずしも悪意があることを意味しないと続くのだが、それでも懸念するべき状態にあると指摘する。

 GAFAと英政界、規制業界、伝統メディアとのぶつかり合いのこれまでを見てみたい。

法人税逃れの疑惑をめぐる衝突

 英国とGAFAとの争いには伏線があった。 やり玉にあがったのは米スターバックス。2012年、同英国法人の売上は直近の3年間で12億ポンド(約1800億円)あったが、法人税納付額はゼロだった。この件でスターバックスの不買運動が起き、続いてメディアはGAFAなどが租税回避する事実を続々と暴露した。

 こうした状況を背景に、15年、英国は「グーグル税」を導入。多国籍企業による租税回避に対し、通常の法人税率(20%)より高い25%を課した。20か国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)の場で税逃れを防ぐ国際課税の新たなルール作りが進む中、GAFAなどは英国での税金支払いの仕組みを変えるようになった 。これによりフェイスブックの英国法人の法人税支払額は14年の4327ポンド(約65万円)から、2年後の16年には510万ポンド(7億6200万円)と急増した。

 ソーシャルメディアを通じてニュースに接する人が増え、その影響力に懸念が出る中、16年米大統領選ではいわゆる「フェイクニュース」が大きな役割を果たしたと言われた。

 そこで、17年1月、下院の文化・メディア・スポーツ委員会(同年7月に改組し、現在はデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会=DCMSC)が、フェイクニュースとその影響についての調査を開始した。現在もその作業が続いている。

 昨年10月、DCMSCが開いた公聴会で何度か取り上げられたのが、「フェイスブックやグーグルなどをどう法的に定義するか」であった。こうしたネット企業はこれまで、自分たちでは情報の中身を作らず、これを運ぶ「プラットフォーム」として機能するが、情報を作成しその中身に責任を持つ「出版社(パブリシャー)」ではないと主張してきた。

 しかし、ブラッドリー文化相(当時)は違法なコンテンツや過激主義を扇動するようなコンテンツがネット上のサービスを通じて拡散されるようになったことを問題視し、「ネットを規制するために新たな法整備が必要だ」という考えを示した。放送・通信業界の規制・監督組織「オフコム」のホッジソン代表も「個人的な意見」として、フェイスブック、グーグルなどを「出版業として規定するべきだ」と述べた。現時点では法制化は実現していない。

 DCMSCはネット企業に対し、16年6月の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票と17年6月の英下院選で、16年秋の米大統領選で発生したようなロシア側によるソーシャルメディアを通じての介入があったかどうかを調べ、報告するように指示した。しかし、報告された件数などがごく少数で影響は限定的であったため、コリンズDCMSC委員長は昨年末、詳細な報告が出ない場合「制裁を科す」と脅しをかけた。

 フェイスブック側は1月18日、「調査の幅を広げる」ことを約束する書簡を委員会に送った。2月8日、DCMSCは米ワシントンでグーグル、ユーチューブ、ツイッター、CNN、ニューヨーク・タイムズの代表者からフェイクニュースについての聞き取り調査を行った 。

 英国の伝統メディアにとって、グーグルやフェイスブック、ツイッターは情報を広めるための重要な役割を担っており、なくてはならない存在だが、同時に「敵」でもある。グーグルやフェイスブックが自社のニュースをどう扱うかで閲読率、ページビューなどに大きな影響があることに加え、両社のサービスを通じて自社のニュースを閲読する傾向が高いためにネット広告から得られる収入が激減してしまう からだ。

 新聞業界のニュースサイト「プレスガゼット」はグーグルとフェイスブックを「2人組(デュオポリー)」と呼び、「ジャーナリズムの破壊を停止し、ニュースの発行者にもっと代金を支払うべきだ」と両社に要求する取り組みを17年4月から開始している。同年末には仏ルモンドの紙面を使って、欧州委員会や欧州議会議員に対し公開書簡を発表。フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストリア、オランダ、ベルギーの各通信社の連名で、オンライン広告収入の70%を占める2社の「ニュース事業は成長著しい一方で、他のメディア企業のビジネスは崩壊している」と主張した。

グーグル、メディア支援を表明

 グーグルは「無断でニュース記事を使って収入を得ている」という欧州新聞界からの批判をかわす一策として、15年末にデジタル化を支援する「デジタル・ニュース・イニシアティブ(DNI)」を開始している。英メディアも支援対象に入っているが、伝統メディアからはグーグルだけでなく、ほかの米テック企業にも英国のジャーナリズムを助けるために一肌脱いでほしいという声が挙がる。

デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから
デジタル・ニュース・イニシアティブのサイトから

 ウィッティングデール元文化相は新聞編集幹部が集まったイベントで、苦境にある地方新聞界にグーグルやフェイスブックが手を貸すアイデアを打診したことを明かした(プレスガゼット、1月18日付)。BBCは地方紙業界と協力し、150人の新規雇用を提供する仕組みを開始している。この「地方ニュース・パートナーシップ」にはBBC の受信料が原資として活用される。

 ウィッティングデール氏はグーグルとフェイスブックにこの制度に何らかの形で 供参加しないかと呼びかけたが、「それほど良い反応はなかった」という。同氏は「これからも説得を続ける」と語った。両者にはメディア業界の支援者としての役割も求められるようになってきたのである。

 生活のあらゆる面で米テック企業の存在感が増す中で、ネット上に広がる悪しき情報、例えばフェイクニュース、児童を性愛対象にするコンテンツ、憎悪を育んだり、テロを扇動するようなコンテンツなどを一掃する役割も期待されている。子供たちがネットに夢中になり、「中毒」となる現象への対処も求められている。

 今年1月に スイス・ダボスで開かれていた世界経済フォーラムで、メイ首相はテロ、過激主義、児童虐待などコンテンツを「自動的に削除する」ため、テック企業が一層努力するよう呼びかけた。欧州内ではこれらの企業がネットの監視人になるべきだとの風潮は強まるばかりだ。グーグルはユーチューブ上のコンテンツの監視人員を1万人以上に増やすと述べ、フェイスブックは年内に倍増の約2万人にするという。

 その規模や影響力が拡大すればするほど、テック企業への要求も大きくなる。昨今、ネット上に横行する有害なコンテンツの締め出しなどの社会的役割をすべてこうした私企業に押し付けるような論調が続いているが、政府、伝統メディアあるいは市民側ができることはないのかと筆者は思う。

 前述のメイ首相による「過激主義、児童虐待などのコンテンツを自動的に削除すべきだ」という要求について、フェイクニュースに関する著作物を持つジャーナリスト、ジェームズ・ボール氏は「漠然とした表現で失望した」という(BBCニュース1月24日放送)。グーグルやフェイスブックに効果的な行動を期待するのであれば、「何が過激主義あるいは児童虐待とされるコンテンツになるのか、政府側で明確に定義するべきではないか」と主張している。

 今年3月中旬、データ解析を基に選挙のコンサルティングを行う英企業ケンブリッジ・アナリティカ社が、8700万人にも上るフェイスブック利用者から個人情報を不正に取得し、有権者の投票行動に影響を及ぼそうとしたとする疑惑が大々的に報じられた。

 ケンブリッジ社は非難の的になったが、そんな流用を許してしまったフェイスブックに対する視線も、ますます厳しいものになっている。

 


by polimediauk | 2018-04-08 23:01 | ネット業界


(新聞通信調査会の「メディア展望」3月号に掲載された筆者原稿に補足しました。)

 英オックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所は、毎年、世界主要国のデジタル・ニュースをめぐる状況について調査を行い、その結果を発表している。最新版「デジタルニュース・リポート 2017」を紹介してみたい。

 今回で6年目となるリポートは36カ国・地域の7万人を対象にし、英YouGovが昨年1月から2月にかけて調査を行った。調査費用の一部はBBCを含む英メディア、複数の大学、米グーグルなどが負担した。

メッセージアプリが人気、SNSへの不信感

 36カ国・地域全体の特徴として、いくつか拾ってみる。

 

 (1)ソーシャルメディアからメッセージアプリへ。前者の拡大が停滞気味で、プライバシーをより保てる後者の人気が高まっている。

 

 (2)ソーシャルメディアが事実とフィクションとの区別を十分に行っていると答えた人は24%のみ。伝統メディアの場合は40%。


 (3)ニュースメディアへの信頼性は、国によって大きく異なる。フィンランド(62%)が最も高く、最も低いのはギリシャと韓国(23%)だった。


 (4)メディアへの不信感の高さと政治的偏向には強い相関関係があった。特に政治見解が分極化している米国、イタリア、ハンガリーでこの傾向が見られた。

 

 (5)約3分の1がニュースに接触することを避けることが多い、あるいは時々そうすると答えている。理由は気持ちが沈むから、あるいは真実とは思えないからだった。


 (6)パソコンよりも携帯機器でニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (7)携帯機器でキュレーションされたニュースを読む人が多い。特に伸びたのがアップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバー。

 

 (8)外出時だけではなく、家でも主としてスマートフォンでニュースを閲覧する人が増えている。

 

 (9)アマゾンのエコーなど音声で動作を開始する機器でニュースに接する人が米英で増えている。

 

 (10)オンラインニュースの有料購読率は、「米トランプ大統領効果」によって大きな伸びを見せた。

 2016年11月の大統領選から昨年の年頭までにニューヨーク・タイムズ紙はデジタルの有料購読者を50万増やし、ウォールストリート・ジャーナル紙は25万増加させた。寄付の比率も増えた。新規購読者の大部分は左派系の若者層だった。

 何故有料購読するかと聞かれ、「ジャーナリズムを助けたい」という人が米国では29%いた。

 (11)オンラインニュースの有料購読率が特に高いのは北欧のノルウェー(15%)、スウェーデン(12%)、フィンランド(10%)だった。最も低いのはギリシャの2%。日本は6%。

 何故有料購読するかと聞かれ、全ての国・地域で最大の理由として挙げられたのは「スマートフォンやタブレットでアクセスしたいから」(30%)。これに「広い範囲の情報源のニュースに接したいから」(29%)、「割安サービスを提供されたから」(17%)が続いた(複数回答)。「ジャーナリズムを助けたいから」は13%だった。

 

 逆に、何故有料購読しないかを聞かれ、最大の理由は「無料でニュースが閲覧できるから」(54%)で、これに続いたのが「最も好むニュースサイトが無料で記事を出しているから」(29%)、「オンラインのニュースはお金を払う価値がないから」(25%)。

 (12)インターネット広告をブロックする「アドブロック・ソフト」の導入はデスクトップでは21%で、これは現状維持。スマートフォンでは7%。

 一時的にアドブロックを行ったという人はポーランド、デンマーク、米国で半数以上を占めた。国別では導入率が最も高いのはギリシャ(36%)、韓国が最も低く(12%)、日本も12%と低い。

 (13)特定の媒体のニュース記事が複数のプラットフォームで配信されるとき、どこでその記事を見つけたかは記憶に残るが、どこの新聞あるいはニュースサイトが制作した記事かは覚えていない傾向が見られた。

 

 (14)ニュースへのアクセスで、紙の新聞を最も好むのはオーストリア人、スイス人。ドイツ人やイタリア人はテレビを最も好む。中南米諸国ではソーシャルメディアやチャット用アプリを最も好む傾向があった。

日本の閲覧傾向は?

 ロイターのリポートは全体の傾向を説明する部分の後に、各国の状況をつづっている。日本の現況を紹介してみたい。

 テレビ、ラジオ、新聞・雑誌を合わせた中で、最も利用するニュース媒体はNHKがトップ(56%)。

 これに続くのが日本テレビ(44%)、テレビ朝日(40%)、TBS(39%)、フジテレビ(36%)、地方紙(23%)、テレビ東京(18%)、朝日新聞(17%)、読売新聞(17%)、民間ラジオ局(13%)、日経新聞(13%)、米CNN(6%)、毎日新聞(6%)、5%が産経新聞、BBCニュース、スポーツ紙(複数回答)。

 オンラインではヤフーニュースが断トツ(53%)で、これに続くのがNHKニュースオンライン(23%)、日本テレビ(15%)、TBS(13%)、テレビ朝日(13%)、朝日新聞(12%)、フジテレビ(12%)、日経新聞(12%)、MSNニュース(8%)、産経新聞(8%)、テレビ東京(7%)、読売新聞(7%)、民間ラジオ局(6%)、毎日新聞(6%)、日経ビジネス(5%)、地方紙(5%)。

 NHKを好む理由は「正確で安心できる」(59%)、「複雑な事柄を理解できる」(43%)、「強い視点がある」(33%)、「面白い、娯楽性がある」(22%)。

 一方、ヤフーニュースを好む人は「面白い、娯楽性がある」がトップの理由で63%、これに「正確で安心できる」と「複雑な事柄を理解できる」がそれぞれ32%、「強い視点がある」は27%だった。

 日本の項目は共同通信社の澤康臣記者の執筆による。澤氏はロイター・ジャーナリズム研究所のフェロー(2006-07年)だった。

 同氏は他国では人気が高いソーシャルメディアのフェイスブックが日本ではユーチューブやLineに続く、第3位の位置にあることを指摘する。

 ニュースにアクセスする際に最も人気があるソーシャル・メディアとメッセージアプリのランキングでは、フェイスブックは第4位となり、ツイッターの下に来る。

 その理由について、澤氏は総務省の2014年の調査を例に出す。これによると、日本人はオンライン上では匿名であることを好むという。これが、ビジネス上のネットワークを作るソーシャルメディアのリンクトインが他国では人気が高いのに、日本では有効回答者の1%しか使っていない理由ではないか、という。

 筆者は毎年、このリポートに目を通してきたが、いつも気になるのが「オンラインニュースへの参加度」という指標の結果だ。

 「参加度」には様々な意味合いがあるが、「ソーシャルメディアなどで共有した」、「コメントを残した」と定義した場合、最もその度合いが低いのが日本だ。トップは中国(64%)とブラジル(同)で、ほぼ真ん中にあたる米国が41%。筆者が住む英国は後ろから3番目の22%。日本は最後で13%だ。

 国民性と関係があるのだろうか?日本のニュースサイトはコメントができない場合も多いので、これが関係しているのかどうか。興味は尽きない。

今年のトレンドは?

 さて、今年、ニュース業界はどうなっていくのだろうか?

 ロイター・ジャーナリズム研究所は、今年のトレンドを予測するリポート(「ジャーナリズム、メディア、そしてテクノロジーのトレンドと予想 2018」)も発行している。

 世界29カ国のメディアで働く、194人のデジタル・ニュース担当者に聞いたところ、最も懸念しているのはフェイスブック、グーグル、アップルなどのいわゆる「プラットフォーム」と言われる企業が影響力を増していること(44%)だった。

 半数に近い担当者が有料購読をデジタル収入の要と考えていた。

 成功の鍵とされているのが「音声」だ。58%がポッドキャストや音声で作動するスピーカーを使うことに力を入れるつもりであるという。また、72%が人工知能(AI)を使った実験を行うことによって、記事のおすすめ機能を向上し、記事の制作を効率化させたいと考えている。

 筆者は先月、日本に一時帰国していたが、家電販売店で見かけたのがアマゾンのエコーなど、音声でニュースなどを流す機器だった。高額というイメージがあったが、機器によっては3000円という価格のものもあり、買いやすくなっているようだ。実際に利用しているという人も友人の中にいた。「音」が確かに鍵になりそうだ。


by polimediauk | 2018-04-05 16:25 | ネット業界
 (月刊誌「新聞研究」7月号に掲載された筆者記事に補足しました。)

 昨年来、メディア界でコメント欄を閉鎖するあるいは一部縮小する動きが目立つ。

 米ウェブサイト「ザ・バージ」や「デイリー・ドット」などが、「管理が困難になった」という理由でコメント欄を閉鎖し、今年年頭には開かれたジャーナリズムを実践する英ガーディアン紙が「移民」や「人種」など大きな論争を呼びそうなトピックの記事の一部にコメントを受け付けないように変更した。

 オンラインの言論空間で他者を不当に貶めたり、誹謗中傷するなど、いわゆる「オンライン・ハラスメント(嫌がらせ)」をどう対処するかに注目が集まっている。

 5月12日、ロンドンで「ニュースインパクト・サミット」(オランダの非営利組織「欧州ジャーナリズムセンター」主催、グーグルニュースラボ協力)が開催された。

 オンライン・ハラスメントの対処法やコメント欄改良の試みを取り上げたセッションを紹介したい。

反撃のためのウェブサイトを設置

 「荒らし、オンライン・ハラスメント、メディア界の女性たち」と題されたセッションで最初に登壇したのが、米オハイオ大学で教鞭をとるミシェル・フリエリ氏だ。

 2007年、同氏はフロリダ州のある地方紙で初の女性コラムニストになった。有色人種としても初だった。就任後、「リンチするぞ」など憎悪に満ちた手紙が送られてくるようになったという。3年間、同じ人物からの手紙は途切れることがなかった。しかし、実際にはたった一人が書き続けていたのではなく、「女性や有色人種の書き手の声を消そうとする、ヘイト・グループの手によるものだった」。

 フリエリ氏は警察の助けを求めたが、具体的な犯罪行為を特定できなかったため、刑事事件として捜査が行われることはなかった。身の危険を感じたフリエリ氏は新聞社を辞め、家族とともにフロリダを離れざるを得なくなった。

 ネット時代になり、ジャーナリストはソーシャルメディアや自分の記事についたコメントなどを通じて、「読者とインタラクティブな関係を持つことになった」。結果として、「心無いコメントやヘイト・スピーチの対象になる危険性が増している」と言う。「女性や有色人種はハラスメントの対象になりやすい」。

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 そこで同氏が立ち上げたのがハラスメントを受けた女性ジャーナリストを助けるウェブサイト「トロール・バスターズ」(「荒らしをやっつける」)。オンライン上で攻撃を受けたことをサイトに知らせると、1時間以内にネガティブなメッセージを打ち消すような前向きのメッセージを発信したり、バーチャルな「ハグ(抱擁)」のサインを送ったりする。オンライン上の脅しがオフラインの生活に影響を及ぼさないよう、ネット上でいかに個人情報の思わぬ漏えいを防ぐかについて情報を提供するほかに、法的手段を取りたい場合のアドバイスも与える。

 非営利のナイト財団から3万5000ドル(約350万円)の投資を受けて立ち上げられたサイトは、ボランティアを含めた数人で運営され、24時間、活動を続けている。

ガーディアンがコメント欄を再考

 同じセッションの中で、ガーディアン紙のコメント欄の分析結果を報告したのは元同紙のコメント欄担当編集者だったベッキー・ガードナー氏だ。現在はロンドン大学ゴールドスミスカレッジで教えている。

 ガーディアンはコメント欄の質を向上させるため、2006年以降に掲載された記事についた約7000万のコメントを分析した。その結果を4月に紙面やサイトで「私たちが望むウェブ」という見出しを付けて発表し、読者から意見を募った。

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 ガードナー氏によると、ガーディアンに記事を書いた記者、寄稿者の中で、最も多く悪質コメントが寄せられた10人のうち8人が女性で、2人は黒人男性だった。ハラスメントの対象になりやすいのは「女性」、「有色人種」という特色がここでも繰り返されていた。

 ガーディアンのサイトによると、同紙が「口汚い、破壊的なコメント」と見なし、ブロックする対象となるのは、例えば「殺す」、「レイプする」、「バラバラにする」などの脅しの表現だ。ヘイト・スピーチもブロックの対象となる。
 
 ほかには「書き手を罵倒する」(例えば中絶クリニックについての記事に、「お前があまりにも醜いので、妊娠したら、俺がクリニックに連れていくぞ」)、「書き手及び読者を個人攻撃する」(「これでもジャーナリストかい?」、「お金をもらって書いてるんだろう?」)「軽蔑的なコメント」(「落ち着けよ」)、「過去の事象について繰り返し相手を責める」コメントがブロックされる。ブロックの判断はガーディアンの「コミュニティ運営の規則」による。

 セッションではメディアサイトのコメント欄は管理者が適正化できるが、ソーシャルメディアなどほかのウェブ空間では「野放し状態になっていることへの不公平さ」が指摘された。

 5月末、グーグル、ツイッター、フェイスブックなどの大手プラットフォームは、ヘイトスピーチやテロリストによる害悪なメッセージの拡散を停止するための欧州連合(EU)の新たな規則に対応することに合意した。これによると、指摘があったヘイトスピーチなどについて24時間以内に対応し、場合によっては削除するかあるいは反論に匹敵するメッセージを流すよう、求められている。
by polimediauk | 2016-08-12 17:44 | ネット業界
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 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」2月号の筆者記事に補足しました。)

 近年、デジタル・テクノロジー関係の新興大手と言えば、アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、ツイッターなど、米国発が圧倒的な位置を占める。スカイプ(スウェーデン)をはじめとして欧州発もいくつかあるものの、やや影が薄く、米企業ほどには世界的に知られていない。

 欧州内のテクノロジーや起業(スタートアップ)の動きを追うネットサイト「テック・イーユー(Tech.eu)」のロビン・ワウタース編集長によると、国によってそれぞれ異なる言語・文化を持つ欧州各国の場合、ビジネスが国内に留まりがちで、そのほとんどの活動は「外からは見えない」状態になっているという。 

 しかし、世界のほかの地域同様に、欧州でもテクノロジー関係の起業の波は年を追うごとに大きくなっている。

 テック・イーユー共同創業者の一人アイボ・シュピゲル氏が最近上梓した、スタートアップ関係者へのインタビュー集『欧州スタートアップ革命』の紹介を兼ねながら、現状を見てみたい。

今年は「欧州の起業家の年」


 テック系スタートアップの記事を掲載するサイト「ルード・バゲット」の記事(1月4日付)は、2016年こそが「欧州の起業家の年となる」と予測している。2015年第1から第3四半期までの間に、欧州で新興企業に投資された金額は88億ユーロ(約1兆1280億円)に上った。これは前年同期比40%増だ。

 欧州各国政府は起業振興のための生態圏を作るために予算を充てており、ロンドンは「フィンテック」と呼ばれる、金融関連のサービス業、アムステルダムはモバイル・アプリ、パリはデジタル広告の技術など、主要都市が得意な業態を持つようになってきた。

 テック・イーユーのシュピーゲル氏は、『欧州スタートアップ革命』の中で、現状をこう説明している。5年程前まではロンドンを含むいくつかの主要都市をのぞくと、起業のために必要なリソース(オフィススペースを共有するコワーキング・スペース、教育、資金など)が欠けていたという。

 しかし今は、スタートアップの数よりも起業を奨励する教育の機会の方が多い場合があり、毎日のように欧州域内で資金調達のイベントが開かれているという。

 欧州のスタートアップ市場の中で特に目立つのがロンドンだ。

 調査会社CBインサイトとロンドン&パートナーズの調べによると、2015年、英国のテック企業がベンチャー投資家から集めた金額は36億ドル(約4227億円、前年比70%増)。資金の大部分(22.8億ドル)がロンドンのテック企業に投資された。世界の金融センターの1つシティの存在が貢献したようだ。

 しかし、スタートアップの本家ともいえるシリコンバレーには及ばない。全米ベンチャー・キャピタル協会よると、2014年、シリコン・バレーに投資された金額は357億ドルに達している。

 スタートアップ企業は投資家からの支援を受けながら、成長するにしたがってその価値を増大させてゆく。

 テック・イーユーが分析した、欧州スタートアップの評価額ランキング(2015年8月時点)によると、1位はSpotify(音楽配信サービス、スウェーデン、85億3000万ドル)。これに続くのがGlobal Fashion Group(ファッション商品のネット販売、ドイツ、34億ドル)、Delivery Hero(オンラインでの食べ物の注文、ドイツ、31億ドル)、Klarna(電子コマース、スウェーデン、25億ドル)、Adyen(国際決済サービス、オランダ、15億ドル)、FanDuel(オンラインのスポーツ・ゲーム、英国、13億ドル)、Infinidat(データ管理、イスラエル、12億ドル)、Home24(オンラインの家具販売、ドイツ、10億ドル)、Shazam(音楽認識アプリ、英国、10億ドル)、Farfetch(世界のファッション物品のネット販売、英国、10億ドル)となった。

真の「汎欧州テック・コミュニティ」はない?

 投資金額は次第に増えているものの、「グローバル化」への壁は厚い。

 『欧州スタートアップ革命』の中で紹介された企業の1つが、フランス発の大手電子コマース会社PriceMinister(2010年、楽天に2億ユーロで買収された)。ドットコム・バブルが始まった2001年にサービスを開始し急成長したが、フランス以外ではほとんど知られていなかった。ほかの多くの欧州発のスタートアップ同様、グローバル化を目指していなかったからだという。

 共同創業者ピエール・コスシュイスコモリゼ氏は欧州市場が国によって分断化されていると指摘する。「税金、雇用関連法、企業法などがそれぞれの国によって異なる。あまりにも多くの異なる言語、文化、消費習慣がある。欧州と一口で言うが、小さなそれぞれの国の集まりに過ぎない」。同氏は「本当の意味での、汎欧州コミュニティは存在しないのではないか」とさえいう。

 汎欧州用にスタートアップ支援ファンドSeadCampを2002年から運営してきた、南アフリカ出身のソール・クライン氏も、「本当にグローバルなビジネスを作っていくのは並大抵ではない」という(『欧州スタートアップ革命』)。「インターネットがあればグローバルに展開できそうだが、それでもそれぞれの国・地域の司法体制や習慣、文化に配慮する必要がある」からだ。

 2005年から、欧州委員会は「スタートアップ欧州イニシアティブ」を実施中だ。域内で起業を希望する人を支援し、投資家が出会う場を各国で開催している。シリコンバレーの成功例を学ぶイベントも開いている。

 願わくば、欧州発で世界に翼を広げる大手スタートアップが出てほしいーそんな欧州官僚の思いが形になったのが、単一デジタル市場を立ち上げるための動きだ。「汎欧州で機能する通信ネットワーク、国境を超えるデジタル・サービス、斬新な欧州スタートアップの波を作りたい」。2015年5月、ジャンクロード・ユンカー欧州委員長はこう宣言した。

 委員会の調べによれば、3150万人の欧州市民が毎日インターネットを利用しているが、その54%は米国を拠点とする企業のサービスを使っていた。42%がそれぞれの国の企業によるサービスを利用し、汎欧州で展開されているサービスは4%のみだった。欧州連合(EU)市民の中でEUのほかの国からオンライン・ショッピングで物品を買った人は15%のみ。中小企業の中で国境を超えた物品販売をしている人は7%だけだった。

 欧州委員会は、2014年から20年の間に200億ユーロを規制撤廃、高速通信、教育などに投資し、EU内でのデジタル利用を国別から汎EUに変える予定だ。

 単一デジタル市場へと動く欧州委員会の視線の先には、欧州内でも圧倒的位置を占める米国発デジタル・サービスを欧州発に変えてゆきたいという狙いがあるようだ。

 最後に、『欧州スタートアップ革命』が取り上げたスタートアップ、および投資会社の概要の一部を紹介しておきたい。社名、創業者の出身国、創業年、サービス内容の順に記した。

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(音楽ファイル共有サービスのSoundCloud)

 Seesmic (フランス、2008年、複数のソーシャルメディアのアカウントを同時に管理するフリーウェア)、Last.fm(英、2003年、音楽特化型ソーシャルメディア)、Dailymotion(フランス、2005年、動画共有)、Mendeley(英国、2007年、学術論文の管理とネットでの共有)、SoundCloud(ドイツ、2007年、音楽ファイル共有)、Atlas Ventures(米国、1980年、投資会社)、Accel Partners(米国、1983年、投資会社)、Prezi(ハンガリー、2009年、プレゼンテーション用ソフト)、500 Startups(米国、2010年、投資会社)、TransferWise(エストニア、2011年、銀行手数料がない、国際送金サービス)。

 最後に挙げたTransferWiseはロンドンに本社を置き、300を超える通貨を扱う。英国の国際送金市場の2%を占めるまでに成長している。
by polimediauk | 2016-03-08 17:52 | ネット業界
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(オランダ生まれのサイト「Blendle (ブレンドル)」)

 オランダで生まれた、マイクロ・ペイメント制のメディア・サービス「Blendle(ブレンドル」が、立ち上げ(2014年4月)から1年余を経て、海外展開を始める予定となっている。

 20代後半のオランダのジャーナリスト2人が立ち上げたサービスで、一本ごとに記事を買える仕組みだ(1本15セントから30セント=約20円から40円)。記事の販売価格は出版社側が決めるため、場合によっては30セント以上になる場合もある。読んでみて気に入らなかったら、返金もできるという(その場合は理由を伝える)。返金率はこれまでに全体の約5%で、ほとんどの人が満足して読んでいるようだ。

 現在のところ、利用者はオランダ国内の25万人で、人口全体の2%にも満たないものの、60%が20歳から35歳の若者たちで、最も多い読者層は20歳から25歳まで。「新聞を読まない」とされる層であることが強みの1つだ。

 ブログ「メディアの輪郭」によると、政府の助成金や自分たちで貯めた資金でサービスを立ち上げた。販売する記事価格の約70%を出版社が受け取り、30%をブレンドルが受け取る仕組みだ。

記事バラ売りのアイデアは前からあったが

 「欧州ジャーナリズム・オブザーバトリー」の記事によれば、 ニュース記事を1本毎に売るというアイデアはブレンドルが初ではない。6年前に米ニュース週刊誌タイムの編集幹部だったデービッド・カーとジャーナリストのウオルター・アイザックソンがすでに思いついていたという。私自身も、英新聞のいくつかのサイトで、前に似た様なことをやっていたことを記憶している(1本購入した後で、知りたかったことが書いておらず、がっかりしたり、など)。

 ブレンドルはフリーランスの書き手にも道を開く。欧州オブザーバトリーの記事の中で紹介されているように、フリーランサーたちが便宜上1つの集団としてまとまり、「出版社」として記事を提供するのだ。その具体例が「TPOマガジン」だ。

 読んだ記事はソーシャルメディアでシェアでき、友人たちや著名人がどんな記事を読んでいるか、どんな記事がトレンドになっているのかが分かるようになっている。

 ブレンドルのウエブサイトによれば、利用者が読みたがるのは深みのある、じっくり書かれた記事、分析、論説などだという。

 ドイツの新聞最大手アクセル・シュプリンガー社や米ニューヨーク・タイムズが投資をしていることでも知られているブレンドル。若者層が利用者となっている部分が、大手メディアにとって、何物にも変えられない、大きな魅力なのだろう。

 「ジャーナリズムのアイチューンズ化」を目指すと創立者たちは言ってきたが、アップルが音楽のストリーミングビジネスに入るという大きな決断を発表した今、果たしてマイクロペイメントから閲読ストリーミング(?)、例えば毎月一定額(ただしそれほど大きな額ではなく)を払って存分に読める形も、将来的には考えることになるのだろうか?

 ただし、もちろん、毎月一定額を払えば掲載記事が全部読める、という形はすでに存在はしているが。

 例えば私が参加している朝日新聞の有料サイト(無料記事もある)「WEB RONZA」は、さまざまな記事の配信方法を試みている。また、記事の有料配信と言えば日本では「ケイクス」(週に150円)が人気だ。他にも大手メディアは紙媒体の購読者となっていれば、自社記事に限れば、電子版でもすべてを読めるようにしているところが多い。

 英語あるいは日本語でブレンドルのサービスが始まったら、少しは私も利用してみようかなと思っている。

 私自身、いくつかのメディアについては有料購読(毎月あるいは年間)しているが、興味があるメディアすべてを有料購読したら、財布がパンクしてしまうので、無料記事だけを読む場合がある。そこで、トライアルとして読みたい記事をバラ買いするのもいいかな、と。読むことで紹介されている媒体の定期購読をすることもあり得るかもしれない。

 また、フリーランスのジャーナリストへの道が開けるという可能性も魅力的だ。


どんな記事が読めるかが鍵に


 書き手として気になるのは、「お金を払ってもらえるほどの価値あるコンテンツを、生み出せるだろうか」と。

 紙媒体の定期刊行物であれば、他の記事とセットになるわけだが、ブレンドル形式だと、1本1本の記事が勝負になる。

 また、読み手として考えた場合、1本毎にお金を出して読むほどの興味深い記事を果たしてどれだけ見つけられるかな?と。

 日本ではニュースのキュレーションサービスがどんどん出てきており、もはや「どうやって配信するか」「お金をもうけるのか」よりも、「どんな内容だったら、読んでかつお金を払ってもらえるのか」の段階に来ているように思っている。とにもかくにも「内容」なのだ。

 ということで、ブレンドルが英語でサービスを開始した時、何が読めるようになっているのか、この点が最も肝心だろうと思っている。
by polimediauk | 2015-06-09 22:33 | ネット業界
 オランダのスタートアップ・メディア「コレスポンデント」については、これまでにも何回か書いてきたが(記者と読者の関係を変える、オランダの「コレスポンデント既存メディアの枠を打ち破るオランダでの試み世界新聞大会で気づいた7つのことなど)、13日、アムステルダムで開催された「出版エキスポ2014」(世界ニュース発行者協会=WAN IFRA=主催)のイベントの一環として、実際にオフィスを訪ねる機会を得た。

 コレスポンデントはオランダの日刊紙「Nrc・next」の元編集長ロブ・ワインバーグ氏と同紙のブロガーの一人で、NRCメディアのインターネット部門の編集長だったエルンストヤン・ファウス氏が中心となって立ち上げたウェブメディアだ。クラウドファンディングでほんの数日で約1万5000人から総額100万ユーロ(約1億3900万円)を集め、オランダ内外で注目を集めた。広告収入には頼らず、購読料(年間60ユーロ=約8000円)で運営をまかなう。読者は「メンバー」と呼ばれ、記事に対するインプットを「コントリビューション」(貢献)として扱う。記者(=コレスポンデント)は読者との「会話」を奨励され、「会話を始める人」という役割も持つ。書き手と読者が知識を持ち寄り、より充実したジャーナリズムを作り上げることを狙う。オランダ語サイトだが、一部の記事は英訳されている。

 昨年9月のサイト開始から1年余りが過ぎた。現在、購読者数は2万8000人。(ファウス氏自身による1年を振り返るブログポストは「ミーディアム」に掲載されている。)

c0016826_18103032.jpg コレスポンデントの狙いや今後について、ワインバーグ氏とファウス氏が報道陣の前で話した内容の一部を紹介したい(以下、敬称略)。

 コレスポンデントのオフィスはアムステルダム市内のビルの一角にある。ドアを開けると白い壁の細長い部屋がある。左手にはグレーのソファーがあり、右手にはミニ・バーがある。木製のカウンタートップに、2人が次々と報道陣向けに飲み物を並べてゆく。

 部屋の奥には長い机があり、いくつものコンピューターが並ぶ。ここが「編集室」のようだ。報道陣が訪 れたのは午後7時半過ぎ。2人の女性がコンピューターの画面に向かって作業をしていた。

***

読者の知識=ジャーナリズムの宝庫


エルンストヤン・ファウス:読者の知識は今までに手がつけられていなかったジャーナリズムの領域ではないか。考えてみて欲しい。3000人の医者がいたら、その人たちの医療知識はたった一人の医療問題の記者の知識よりはるかに深く、広い。

 今はそれぞれ専門知識をシェアできる時代だ。オランダはツイッターも流行っているし、多くの人がネットでつながっている。知識をシェアするジャーナリズムをやりたかった。

 自分はロブ・ワインバーグがいたNRCのウェブサイトのブロガーだった。市民の意見・コメントではなく、専門知識をシェアする試みを行っていた。サイトの閲覧者も倍に増えた。

 しかし、ロブが「解任」されてしまったので、プロジェクトはつぶされてしまった。これが2012年の秋だった。

「一から始めよう」


ロブ・ワインバーグ:NRCの全ての編集者たち、ジャーナリストたちは質の高いジャーナリズムを作るという使命を共有していた。しかし、会社側はこれをあまり共有しておらず、利益を生み出すことをそれ以上に重要だと考えていた。

 私たちは新聞でイノベーションを起こそうと思った。私たちのプロジェクトはすぐに利益を生み出さない種類のものだ。株主がいる会社組織では、株主が3ヶ月で結果を出しなさいというだろう。

 私が前にいたNRCでは、100年前とまったく同じことをやっている。それを変えるのはとても大変だ。組織としても巨大だ。
 
 私たちは自分たちで一から始めることにした。

ファウス:それが2012年の秋だった。立ち上げについてのアドバイスはほとんど無視した。つまり、最初は小規模で、コーヒーショップの片隅で始めなさいとか、ニュースは商品なのだから、そのように扱いなさいとか。

ワインバーグ:ニュースをやるなら、ビジネスプランを持て、とかね。広告をどうするのか、とか。たくさんのオーディエンスを持つことを目的にしてしまうと、試験的な記事が出せなくなってしまう。

ファウス:広告記事を書くようなジャーナリストを雇え、という人もいた。いわゆるブランデッド広告だ。ウェブサイトの一部にこうした広告記事を出して、お金をもうけなさい、と。読者が欲しいものを与えなさい、つまりはネット時代なのだから短い記事をどんどん出しなさい、とか。

 そんなもろもろのアドバイスは私たちがやろうとしていたこととは正反対だった。

 まず、小さく、コーヒーショップの片隅で始めるということ。これはダメだ。

デザイナーとの共闘作業

 私たちが生きているこの時代に、デザイナーがどうやって物語を語るかは記事の中身と同様に重要なんだ。私たちは今、どのようにジャーナリズムを出していくのか、作っていくのかを考えている真っ只中だ。そんなとき、デザイナーと一緒になって、どうやってやるかを考えるべきなんだ。

 そこで、デザイナー&デベロプメントの会社「モンカイ」と一緒にやることにした。でも、普通に仕事を依頼すれば、すごく高い料金を払わなければなくなる。そこで、ビジネス上のパートナーになってもらい、低コストでやってもらえるようにした。

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(画面の例。モンカイ社のデザインが光る)

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(上の画像の右端、記者部分をクリックすると、記者専用の画面になる)

ワインバーグ:広告は入れない。これはある意味ではリスクだ。メンバーからの購読料だけで運営するのだから。

 広告を入れないことにした理由は、そうすることによって、自分たちが本当に重要だと思うことや、社会や読者が本当に読みたいと思うことに集中できると思ったからだ。

 私たちは読者を(何かを売るための)「ターゲット」としては捕らえていない。読者の特性を広告主に売りつけたりはしない。

 広告主がいないと、ジャーナリズムに対する考え方ががらりと変わる。広告主を悪魔のような存在だと言っているわけではない。

読者のバックグラウンドは何でもいい


 要は、私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ。読者には、記事以外にはほかに何も売りたくはない。これは永遠にそうだ。私たちがやるジャーナリズムの根本なんだ。

ファウス:運営費は完全にメンバーからの購読費による。

 短い記事が良いというアドバイスがあったけれど、私たちはまったく違う。長い、深みのある記事を出す。ネットでは長く書いたり、説明したり、リンクやシェアができる。

ワインバーグ:だからと言って、「ロングフォーム」(長い形の)ジャーナリズムであれば何でも良いという意味ではない。また、手がけているプロジェクトはその過程を読者に公開している。

ファウス:記者は2-3ヶ月、半年、あるいは1年をかけて記事を仕上げる。

 あるトピックが今話題になっているかどうか、「ニュース」かどうかなんて、関係ない。記者が「これがこんな理由で重要なトピックだ」と説明したら、それが取り上げるに足る理由になる。

―資金作りはどうやったのか?

ファウス:クラウドキャンペーンを使った。年に60ユーロで、もし1万5000人集まったら、何とか始められるだろうと思っていた。でも、実現の可能性は50%ぐらいかなと思っていた。ロブ(ワインバーグ)があるテレビ番組に出て、資金を募ったらー。

ワインバーグ:テレビ出演から8日間で1万5000人以上が購読者になったんだ。このときの購読者を私たちは「創設メンバー」と名づけている。

 記者には1800人ほどから応募があり、3ヶ月かけて、これはと思う人物を選んだ。8人がフルタイムで、20人がフリーランス。5人のサポートスタッフがいる。

 ある記者は教員でもある。記事の発想が教育の現場から生まれる。元NRCにいた女性記者が今はアフリカの紛争について書いている。

ファウス:独自のコンテンツマネジメントシステム(CMS)があるべきだと思い、モンカイと協力しながら作り上げた。

 開始から1年後の今年9月末でメンバーは2万8000人だ。

 記者は原稿を仕上げるまで、いわば「旅」をする。記者にお願いしたのは「読者=メンバー=との会話のリーダー役になってくれ」、と。記事を出して終わりではなく、メンバーからの知識を引き出すようにサイト上で情報を出し合う。

 メンバーにはそれぞれ自分の専門の知識がある。例えばホームレスであった経験を持つ人がいたり、ポルノ女優であった人も。それぞれの知識をサイトにインプットしてもらう。

ワインバーグ:前に新聞社にいた記者は、読者との会話をするという作業に対し、「追加の仕事が増えた」という。私たちが言うのは、「追加の仕事じゃない。これこそが仕事なんだよ」。オーディエンスにエンゲージするのが仕事なんだ。

 コレスポンデントの記者は記事を出してからの仕事がある。読者には「コメント」ではなく、自分が知っていることを「コントリビュート」(貢献)してもらう。「どう思ったか」ではなく、「これについて何を知っていますか」と読者は聞かれる。

ファウス:知識を共有しましょう、ということだ。

―オーディエンス、あるいはメンバーを増やすためのマーケティング戦略は?

ファウス:ほとんどしていない。フェイスブックのページを持っている。これは「いいね」が8万回、ついている。

 記事自体をメンバーがシェアすることで広がっている部分もある。シェアすると、誰がシェアしたかが分かるようになっている。非メンバー、つまり購読者になっていない人もメンバーがシェアした記事は読める。

****

 2人の話を世界中からやってきた報道陣が聞いた。小さいオフィスながら、大きな大志を持つ2人。

 「私たちは読者の特性(性別、年齢、社会的バックグラウンドなど)をまったく気にかけもしないんだ。良いジャーナリズムの記事は18歳の読者にも80歳の読者にも読まれるだろう。お金持ちか、貧乏かも関係ない。読者が金持ちだろうが、貧乏だろうが、どちらでもいいんだよ」--ワインバーグ編集長のこの言葉を聞いて、思わずほろっとしたのは私だけではなかったように思う。

 とは言え、将来性はどうなのだろう?また、この動きがメディア界全体に広がる見込みは?

 エキスポの会議に出席していた、アムステルダム大学のメディア学教授マーク・デューズ氏に聞いてみた。「将来性はあると思う。これからも続くだろう」。ただし、「コレスポンデントはあくまでもニッチ=隙間のジャーナリズムだと思う。いくつかの特定された分野のトピックを深く追いかけているから」だ。

 コレスポンデントのワインバーグ編集長によれば、ジャーナリズムのスタートアップのやり方やCMSなどを他のメディア機関に販売することも予定(遠い先の話のようだが)しているという。一部の記事をまとめた書籍(紙の本)もあり(電子本もすでに出している)、10月初旬、フランクフルトで開催されたブックフェアで披露したばかり。今後が楽しみなメディアであることは間違いない。
by polimediauk | 2014-10-23 17:42 | ネット業界
「ネット上でいつも面白いことを探していた」

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 ハッカー集団「アノニマス」の分派として、2011年に活動した「ラルズ・セック」(ラルズ・セキュリティー)。広報担当役としてメッセージを発信した青年ジェイク・デービス(現在21歳)にインタビューした(写真右、撮影はMinako Iwatake)。

 デービスは2年間の実刑判決を受けたが、身柄が拘束されていた期間を加味し、実際に刑務所に入っていたのは38日。出所後には夜間外出禁止令が課され、足には行動を追跡するために電子タグがつけられた。2年間、インターネットの利用が禁止された。

 ラルズ・セック参加当時、デービスは18歳。自分でも認める「引きこもり」状態で、コンピューターにかじりつく日々をすごしていた。

 以下はデービスのインタビューの後半である。(前半はこちらから。)

―ウィキリークスが2010年ごろから「メガリークス」の発信を開始した。あなたは当時アノニマスにいたのだろうと思う。ウィキリークスについて、どう思った?

 当時、自分は17歳ぐらいだった。ネット上でいつも面白いことを探していた。ネットで何かできないものか、と。そして、ウィキリークスが作った「コーラテルマーダー(「巻き添え殺人」)(=イラク米軍による民間人の誤射映像。2010年4月公開)の動画を見た。

 とても衝撃的な動画だった。ネットの情報配信力のすごさを示していたと思う。普段は猫の動画を流しているようなユーチューブがすばらしいことを達成できる。その後には米国の外交文書をばらした「ケーブルゲート」事件(2010年11月)があった。大きなパワーを感じた。


―アノニマスに関わるようになったのは?

 ケーブルゲート事件の後で、あるオンラインの友人がケーブルゲートについての記事のリンクを教えてくれた。ウィキリークスが資金を受け取るために使っていたマスターカードやビザ、ペイパルなどのサービスが使えなくなっているので、アノニマスがこうした企業のサーバーを攻撃しようとしていると書かれてあった。そこで、「トピアリ」として中に入り、どんなものなのか見てみようと思ったんだ。

 このときまでに、7000から8000人が参加していたな。みんながウィキリークスのことを話題にしていた。何とかウィキリークスにお金が流れるようにしたがっていた。私は攻撃には参加しなかったが、これほどの数の人がものすごく熱くなっていて、行動を起こそうとしていた状況はこれまでに見たことがなかった。4チャンのようにとても早いスピードで、変化の波が起きていた。

 すごいなと思ったよ。でも、一旦は通信を閉じてしまおうと思った。そこでラップトップを閉じて、何か別のことをやって、眠ってしまった。起きてからラップトップを開けてみたら、まだスイッチが入っていたことが分かった。

 8000ぐらいの反応が数十万規模に膨れ上がっていた。政治運動に変わっていた。そのときは、「アラブの春」のチュニジアの市民を助けたがっていた。市民がフェイスブックにアクセスできるように、行動を起こそうとしていた。

―自分はハッカーの活動家=ハクティビストであると思っていたか?世界を変えようと?

 17か18歳の頃、インターネットは世界を変えるほどの力を持っていると思っていた。だから、反政府の動きを見ているのはとても刺激的だった。政府がネットへのアクセスをブロックできると思っていた国で、状況を変えることができるなんて。この頃から、トピアリとしての活動に熱中するようになった。

―ラルズ・セックの活動を振り返って、どう思うか。

 今から3年ほど前のことで、現在の自分にとっては言葉遣いなどについて赤面するばかりだ。ただ、何かは分からないが何かをやろうとしていたのは確かだ。

「逮捕されるかもしれないとは思っていた」

―何故50日間で、活動を停止したのか。

 英国に住むメンバーの数人が状況を俯瞰して眺めたとき、思いがけずこんな大きなハッカーの集団を作ってしまったことに驚いた。大きな数の支持者たちができていた。同時に、すべての権威に反抗する人たちが出てきた。特定の個人や組織を過激な手法で攻撃しようとしていた。この時が分かれ目となった。

 私は当時16歳の(といっても当時年齢は知らなかった)「Tフロウ」(実名はムスタファ・アルバッサム)とチャットをしていた。普段、私たちは真剣なことを話し合ったりはせず、個人的なことも話さなかったが、ある日、自分たちが思うような方向ではない方向にラルズ・セックが進んでいると2人とも思っていることが分かった。そこで、すべてを止めることにした。逮捕されたのはその直後だ。

―逮捕の予感は?

 閉鎖の2-3週間前には逮捕されることもあるかもしれないとは思っていた。

―警察が来たときは、どんな感じだったのか?

 他の人間との接触が少ないところで1人で住んでいたので、ドアの外に人がやってきたのを見たとき、自分のこととは思えなかった。

 トピアリという名前のオンライン上の人物と生身の自分とが乖離していた。オフラインでは、トピアリがまったく存在していないように感じていた。刑事がトピアリとしての自分について話していたが、奇妙な感じがした。

―いつ、ぴんと来たのか。

 逮捕から6-7ヵ月後にやっと意味が分かった。あまりにもいろいろな感情があってー。

 その後、ネット活動を2年間、禁止された。時々、怒りを感じたが、当初はネットが使えなくなってほっとしたぐらいだった。次に進むための唯一の道だったと思う。誰かに止めて欲しいという思いもあった。

ーネットが使えなくなって、どうやって時間を過ごしたのか?

 事件の関連書類を見ながらすごした。検察側が印刷したものを自宅に送ってくれた。ネットの活動を紙で読むという体験だ。裁判のために準備をしたり、仕事を見つけようとしたり。ただ、職探しをするとメールアドレスを聞かれる。何故メールが使えないかを説明しなければならず、複雑になった。

―家族とはどうなったか。

 逮捕後は母と一緒に暮らした。夜間外出禁止令があって、足首には電子タグがついた。

 家族は非常にサポーティブだった。複雑な事件だったけれど、物を盗んだようなシンプルなことではないと分かってくれた。幸運だったと思う。これほどのサポートを家族から得られない人もいる。

 2011年に逮捕され、2013年に2年の実刑判決が出た。フェルタム少年院で38日間を過ごした。

―刑務所での周囲の反応は?

 他の受刑者はほとんどの人がギャングやドラッグ関係の犯罪で入っていた。いろいろな人がいたよ。自分はインターネットの犯罪だったということで、一目置かれていた。最初は独房で、次に父の車を壊した青年と共同部屋となった。

―空き時間はどのように使ったか。

 ほかの受刑者で単語のつづりを知らない人につづりを教えていた。文章を読んだり書いたりできない人がこんなにも多いことを初めて知った。

 どんな受刑者も家族に手紙を送りたがる。家族もどんな様子かを知りたがる。他の受刑者が書いた手紙をチェックしたりした。

―以前は引きこもりで、人との付き合いが苦手だったようだが、刑務所でもまた今も、非常に社交的に見えるが。

 2年間、ネットへの接続を禁止されていたので、オフラインでの友達を作るようにしてきた。複雑な、本当の人間と話すのはとても面白い。

―現在、ネット利用にはどのような制限がつくか。

 当局が監視していると思う。利用履歴を消すことを禁止されている。ファイルを暗号化して使ったりなどができない。遠隔操作で人のコンピューターを使うことも禁止されている。

 2018年5月までは、私のネット上の行動を当局がいつでも必要に応じて見ることができるようにしてある。といっても、テクノロジーの進展はあっと言う間なので、今後2年で規制の中身がどれほど意味を成すのかは分からないがー。

 例えば、コンピューターの利用のすべてが暗号化されているのがデフォルト設定になっていたら、どうするか。暗号化されているものはすべて使ってはいけないというのでは、何も使えなくなる。規制は変わってゆくだろうと思う。

 こうした規制を非常に厳しいものだと受け止める人もいるが、もっと厳しい条件の人もいる。

「事件についてどう思うかを答えるのは難しい」

―逮捕直前の自分の行動をどう思うか。過去の行動を否定したいという思いはある?

 その時々によって、思いは変わる。今からだと3年前の話だ。ずいぶんと昔のことに思える。2-3年前までは話しにくかった。生々しい記憶だったからだ。

 どう思うかについて、答えるのは難しい。

 多くの若い人が、自分たちがどんな人間で何を到達したいのかを理解する過程で、いろいろな馬鹿げたことをする。

 当時自分たちが使っていた言葉とかやっていたことを考えると、寒気がする。困惑する。10代の少年たちの苦悶がぶちまけられるのを見ることになるからだ。自分は非常に未熟だった。

 しかし、あんな体験をしてよかったと思う。

 アラブの春への支援については、今でもすごいことだったと思っている。ハクティビズムのよい例だった。

 検察からの書類を見ながら、自分がやったことを確認していった。どこで間違えたか。知ることには自己治療な意味があると思う。起きた事の良い部分を拾い上げ、これからも続け、悪い部分は後に残していこうと思っている。

―他のメンバーに対してはどう思う?米当局に通報した形になったサブーについては、怒っている?

 怒ってはいない。

 後でラルズ・セックのメンバーの何人かと英国で会った。以前は互いと連絡を取り合うことを禁止されていたが、この春から許されるようになった。初めて顔を合わせたが、いい感じだった。

 サブーがラルズセックの活動に一番思い入れがあった。誰よりも。彼は私たちよりかなり年上だし、何が起きているかを知っていた。私たちは何が起きているかを理解できないままに動いていた。急激にいろいろなことが起きて、それぞれ学びながら対応していた。

 サブーはラルズ・セックに一番力を入れていた人物だったー。彼が今どう思っているのかは分からないけれど。

―彼に会う予定は?

 計画はないが、他のメンバーには会った。ムスタファは、当時16歳で頭脳明晰な男性だった。会ってみると、お互いにルービックスキューブが好きだったことが分かった。ムスタファは頭がいいので、数十秒で完成させてしまう。私は2-3分かかるので、教えてもらっている。互いに互いのことをいろいろ知るようになった。

―今は何をしているのか?

 映画や芝居の台詞についてコンサルティングしたり、映画会社でパートタイムで働いている。

「子供たちを助けたい」

―今後は?

 いろいろなイベントで話してみたい。パネリストとして出てみたい。テーマはデジタルスキルなど。

 今後2-3年は、学校などで多くの若い人に向けて話しても見たい。引きこもりや人と接触することができない症状に悩む子供たちが助けを必要としているかもしれない。

 自分が13-14歳の頃、誰か自分と同じような症状を克服した人ととても会いたかった。どうするべきかを教えてもらうというよりも、知識を増やしたかった。だから、自分の経験を共有できればと思う。

 14-15歳の少年たちで、何かをやりたくても、実際には何をやったらいいか分からない人たちがいる。報酬をもらうためと言うよりも、ほかのことをやって家賃を払い、それとは別にやってみたい。

―以前に、ラルズ・セックで架空の名前を使ってネット活動をやることで、大きな高揚感、興奮を体験したという話を聞いた。現在、高揚感を持てる対象は見つかったのか?

 今何かそういうものがあるかと聞かれれば、今はすべてに、毎日の出来事に触発されている。もっと旅行もしてみたい。13-14歳の頃は、いつか飛行機に乗って、いろんな人に会って、いろんな文化を知りたいと夢見ていたから。今年は、パスポートが返ってきて、外国に行けることになった初めての年だ。人生で初めて外国に行ったのが10歳の時だ。学校でイタリアに旅行に出かけた。今年はアムステルダムに初めて行った。美しい都市だった。パスポートを手にし、普通の市民のように滞在できた。

―ラルズ・セックでは広報担当としてさまざまなメッセージを出していた。言葉遊びもたくさんあった。どこで文学的能力を取得したのか?

 自分はとても自分に対する批判が強いので、若いときに書いたものは困惑しすぎて読めないぐらい。怒りに満ちていて、ダークだ。そのときにいた場所の雰囲気を反映している。

―刑務所では読み書きがまともにできないばかりか、きちんと文章を話せない人がいたと聞いたが。

 悲しかった。多くの若者は何度も刑務所を出たり入ったりしていた。家がないも同然で、刑務所が家になっていた。言葉を学ぶ機会を持てなかったのだろう。人によって、何が普通かの定義が違う。刑務所にいることが普通だと思う人もいる。

 私が刑務所に送られる車の中にいたとき、隣に座っていた人が「家に帰る」という話をしていた。その「家」とは刑務所であることを知るには時間がかかった。

 コンピューターのスキルを持っていること、普通に読んだり書けたりすることが特別なことであることを、刑務所に行って実感した。

―たくさん、本を読むのだろうか?言語能力の高さの源を知りたい。

 テレビがないので、読むことは読むよ。1つの言語しか分からないので、複数の言語を理解できる人にジェラシーを抱く。他の言葉も勉強したい。

―どんな本を?

 本と言うより、学術論文、マニュアルを。古い機械の作り方とか。フィクションなら面白い視点があるもの。村上春樹は好きだよ。娯楽だけではなくて、何か新しい発見がある小説がいい。家には大きな本棚があったことを覚えている。

―日本について

 村上を読み、最近は見ていないが、日本のアニメのスタイルが好きだ。日本は一度ぜひ行って見たい国の1つだ。

―日本で見たいものは?

 秋葉原のアーケードに行くだろうな。秋葉原の。スーパーモンスターのゲームなど。カラフルな大きな音がするようなものが好きなので。

ーネットについての考え方は、変わったか?

 特には変わっていない。

―元CIA職員エドワード・スノーデンのリーク情報を元にして、米英政府が大規模な監視行動をネット上で行っていることがわかった。国家的な監視に対する警戒感が広がったが、これについてどう思うか。

 報道によれば、英情報収集機関の1つGCHQでも、意外と若い人が監視員であったりする。諜報機関に勤める人が離婚して、元の妻を監視するために監視機能を使っていたという記事を読んだことがある。誰かがあなたの行動をいつも見ている、すべてを見ている、と。怖い状況だ。

 フェイスブックも秘密裏に心理テストをやっていた。将来、政府が秘密裏に収集した情報を使うかもしれない。実際に、政府がどんなことをやっているのかは分からない。こうしたことを若い人に教えるべきだと思う。

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 ジェイク・デービスに興味をもたれた方はツイッターや「ASKFM」のサイトをのぞいてみてはと思う。

 また、アノニマスとラルズ・セックの事件の一部始終は、「我々はアノニマス」という本(邦訳はヒカルランド社から刊行、著者は米フォーブス誌のパーミー・オルソン氏)に詳しい。ご関心のある方は一読をお勧めしたい。
by polimediauk | 2014-10-21 17:11 | ネット業界
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(英ロイヤルコート劇場前のジェイク・デービス。撮影 Minako Iwatake)

「何かをやりたかったけど、それが何か分からなかった」

 3-4年ほど前、一定の社会的意図を持って大企業や政府のウェブサイトを攻撃し「泡を吹かせる」-そんな行動に熱狂した若者たちが英語圏で注目を浴びた。話題をさらったのは「アノニマス」、そしてその分派「ラルズ・セキュリティー」(通称「ラルズ・セック」)。「ラルズ」は「Lulz」とつづり、「大笑い」を意味する。「大笑いのセキュリティー」とは、名前からしてユーモラスだ。

 今月末まで、ロンドンのロイヤル・コート劇場ではラルズ・セックの活動をドラマ化した芝居「インターネットは真剣なビジネス」が上演されている。

 台本を書いたティム・プライスは、アノニマスやラルズ・セックのメンバーたちの行動を一種のハクティビズムと捉えている。ハクティビズムとは「ハッカー行為をする」「問題を解決する」という意味の「ハック(hack)」と社会的・政治的な改革を目指す行動主義「アクティビズム(activism)」を合成させた言葉で、政治的な目的のためにコンピューターを使って行動を起こすことを指す。若者たちは、寝室でラップトップを操りながら「大きな資本主義の権力に集団として戦った」のだ、と。

 米フォーブス誌のパーミー・オルソン記者によると、アノニマスとは悪ふざけ、あるいは抗議の手段としてインターネットを混乱させる人々の名称で、利用者が匿名を使う画像掲示板「4chan(フォー・チャン)」に書き込むときに、特定のハンドル名を使わずに「アノニマス」(名無し)として投稿することに由来している。アノニマスには明確な指導者はおらず、「ゆるやかなネットのルールを順守する流動的な集まり」だ。

 アノニマスの名前が広く知られるようになったのは、内部告発サイト「ウイキリークス」によるメガリーク。サイトの創始者ジュリアン・アサンジは、英ガーディアン、米ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、仏ルモンドなど欧米の主要紙と協力し、2010年以降、米軍や米政府の機密書類を続々とリークして、世界中の注目を浴びた。

 米クレジットカード会社ビザカード、ネットの決済サービス、ペイパルはウィキリークスがサービスを使えないようにし、資金を得る手段を奪った。このとき、アノニマスのメンバーはビザカードやペイパルのサイトを攻撃し、ウィキリークスを援護射撃的に支援した。

 2011年、中東の複数の国で民主化を求める運動が発生。「アラブの春」と呼ばれる現象となってゆく。運動を抑えようとするチュニジア、エジプトなどの政府サイトにアノニマスが攻撃をかけ、一時使えないようにしたこともあった。

ラルズセックの勃興と顛末

 ラルズ・セックはアノニマスの分派として2011年春、活動を開始。ハンドル名「トピアリ」と「サブー」が他数人のアノニマスの参加者とともに立ち上げた。「権威ある対象に恥をかかせ、笑う」目的でのサイバー攻撃を次々と手がけた。

 米国のタレント勝ち抜き番組「Xファクター」の出演者のデータベース、米映画会社フォックスのウェブサイトのユーザーのパスワード、ソニー・ピクチャーズのユーザー情報、FBI関連のインフラガード社のウェブサイトなどを攻撃した。米CIAのサイトを一時ダウンさせたのもラルズ・セックだった。

 「大笑いセキュリティー」と名づけるだけあって、ラルズ・セックが自分たちのイメージとして使ったイラストもユーモラスだった。シルクハットをかぶり、モノクルをつけた男性が葉巻を吸っているイラストだった。現在も30万人を超えるフォロワーがいるツイッター・アカウント(今は活動停止中)から発信されたつぶやきはユーモアや言葉遊びに満ちていた。

 ラルズセックは2011年6月26日、50日間の活動を終了すると宣言した(ただし、7月にもハッキングを一度行っている)。その後、メンバー数人らが続々と逮捕された。後で分かったことだが、リーダー格の米国人ヘクター・ザビエル・モンセガーが米当局に逮捕され、司法取引に応じていた。これがグループのメンバー摘発につながった。

 2013年5月、コンピューター関連法に違反したとして有罪となっていた英国在住のライアン・クリアリー(当時21歳)、ライアン・エイクロイド(26歳)、ジェイク・デービス(20歳)、ムスタファ・アルバッサム(18歳)に判決が下された。クリアリーには32ヶ月の禁固刑、エイクロイドには30ヶ月、デービスには24ヶ月、アルバッサムには2年の執行猶予付きの20ヶ月の実刑が下った。

何故?を聞いてみた

 その後の英国在住のハッカーたちがどうなったのか?私は気になっていた。何故こうした行為を行ったのか。現在はどう思っているのだろう?

 ラルズ・セックの広報担当役として、ユーモラスなメッセージを発信し続けた青年ジェイク・デービス(現在21歳)に昨年秋、あるイベントで出会った。その後、何度か会話を重ね、長いインタビューを記録する機会を得た。

 デービスは2年間の実刑判決を受けたが、身柄が拘束されていた期間を加味し、実際にロンドン郊外のフェルタム少年院に入っていたのは38日。出所後には夜間外出禁止令が課され、足には行動を追跡するために電子タグがつけられた。2年間、インターネットの利用が禁止された。

 パスポートの利用も禁止されていたが、国外に出ることが許されたのは今年夏以降。現在はネットの利用が可能だが、2018年まで、暗号化ツールを使えないことになっており、ネットの利用状況は当局が監視している。利用履歴を消すことができない状態だ。

 ラルズ・セック参加当時、デービスは18歳。自分でも認める「引きこもり」状態で、コンピューターにかじりつく日々をすごしていた。昔、自分が発信していたメッセージや書き込みの文句を目にすると、「ぞっとする」と今では言う。

 犯行当時はスコットランドに住んでいたが、生まれはイングランド地方。英国では家庭環境や教育程度によって話し方が変わる。デービスはスコットランド特有のアクセントはなく、ロンドンで生まれ育った、かつ非常に聞きやすい発音で話す。饒舌に、社交的に話す様子を見ていると、かつて引きこもりであったことが信じられないほどだ。

 デービスの生の声をお伝えしたい。

―生まれはどこか?

ジェイク・デービス:イングランド地方だ。それから遠く離れたシェトランド諸島に引っ越した。

―イングランドのことは何か覚えている?

 本当に小さい頃だったので、覚えていない。ホステルに住んでいた。転々としていたらしい。普通の家というものはなかった。5歳から6歳の頃、シェットランド諸島に行ったのだけれど、これが最初の記憶かな。町には89人しか住んでいなかったんだよ。孤立した場所だった。そこに12年ぐらい住んでいた。

―最後のほうは1人暮らしだったんだよね。

 そうだ。17歳で家族を離れた。1年ぐらいして、逮捕された。当時は1人で住んでいた。一人暮らしをしているといろんな事が起きる。

―10代の頃は数学にとても興味があったと聞くが。

 そうだったよ。最初にコンピューターを買ったとき、うれしくて。どうやってウインドウを開けたり、閉じたりできるのか、学んでいた。ある場所をクリックすれば何らかの機能を実行できることは分かったけど、どうしてそうなるのか、知りたかった。

―それは何歳のときか。

 12か13歳ぐらい。ダイアルアップ接続がブロードバンドに変わりつつある頃だった。だんだん処理速度が速くなっていた。コンピューターをつけていると、ハミング音が出る。何故こんな音が出るのか、知りたかった。何故ハードライブの中であんな風に部品が回るのか知りたかった。そんな興味がたくさんあった。コンピューターにとりつかれていたと言ってもいい。何故かを知りたかった。

―自分で学習したのか?

 そうだよ。学校は13歳でドロップアウトしたから。退屈でたまらなかった。あの学校の教育体制はだめだった。自分は無視されていた。

 インターネットは質問をするためには最高だった。だからいろんなフォーラムやヤフーで質問をすれば答えてくれるサービスなどに加入した。答えを知りたかった。

 インターネットに行けば、誰かしら必ず専門家がいる。知っている人がいる。たくさんのコミュニティーがある。例えば、どうやって洗濯機を直すのか、100のアイデアを持っている人がいるとかね。

 フォーラムなどにたくさん加入して、ばかげた質問をしたよ。何も知らないアマチュアのような、単純な質問だ。きつい言葉がよく返ってきた。でも、試行錯誤を重ねながら、いろいろなことを学んでいた。そうやって何年もが過ぎた。

ー質問をするとき、実名を使っていたの?

 うーん、覚えていない。13か14歳の頃は実名を使っていたんじゃないかな。でもどこかで、架空の名前を使うべきと言う投稿を見た。そこで架空の名前をたくさん使った。14歳ぐらいから。17から18歳にかけて、それまでの投稿をすべて消すようにした。投稿それ自体が命を持つようにしたくなかった。ネットの外に本当の生活があるようにしたかった。

―1日中ネットを使っていたとき、どんなことに一番時間を費やしたか?チャットルーム?

 チャットとかフォーラムとか。自分は常にいろいろな文化を持つさまざまな種類の人と知り合いたいと思っていた。自分が住んでいた小さな町では不可能だった。だから、コンピューターは「窓」だと思っていた。世界について知るために、世界の違う場所にいる人と友達になるために。チャットルームに集まって、何でも話したよ。これから公開される映画や本のこととか。他の人の視点を知りたかった。知識とか意見とかに飢えていた。とても孤立した住環境、家庭環境だったから。

―家を出て、遠くの都会例えばロンドンに行きたいとか、思わなかったの?

 自分はナイーブだったんだ。何か大きなことをやりたかったけど、それがなんだか分からなかった。どこからも遠く離れた場所に住んでいたので、外に出たら何があるのか、想像できなかった。何かやりたいということは分かっていたけど、それが何か分からない。そしてインターネットに吸い込まれていったんだ。

 日本語で、こういう状況を説明する言葉があるね。コンピューターづけになって、部屋にずっといること。

―引きこもりのこと?

 そうだ。自分は少しそうだったんだ。

ーテレビは見なかったの?

 テレビを持っていなかった。インターネットだけだ。ユーチューブで動画を見た。

ー家族(母と弟)は何も言わなかったの?部屋から出てきなさい、インターネットをやめなさいとか?

 そう言っていたよ。でも、最後はあきらめたようだ。17歳で1人暮らしを始めるまで、インターネットを1日中やっていた。1人になってからはもっとコンピューターにのめりこんだ。家族は僕をサポートしてくれた。たぶん、僕はコンピューターに時間を割きすぎていたんだと思う。

―自分ではこんなことをしていてはいけない、外に出なきゃとかは思ったのか?

 難しいバランスだった。自分では外に出て、いろいろなところに行って見たい。何かしてみたい。でも、それがなんだか分からない。あんなさびしいところでは、何かをすることが難しかった。何かをしようとしてもがいていた。自分に刺激を与えるほどの何かを見つけることができなかった。悪しき循環というわけだ。何かをしたかったけど、町が小さすぎた。はるかに面白いことにインターネットに行けば毎日、出会えた。健康的ではなかっただろうけど、それが現実だった。

ーアノニマスやラルズセックのメンバーたちも出没した4チャン(日本の2チャンネルの英語版)だが、掲示板の書き込みを見ると、会話のスピードがものすごく早い。「このホモ野郎」とか、攻撃的なあるいは差別的な言葉も頻繁に使われている。どう受け止めていたのか?

 当時は14か15歳。使っているうちに慣れた。使い始めてすぐに分かったのは、4チャンを使う人はとても攻撃的に、侮辱的に振舞うようにとある意味では期待されているということだった。利用者と4チャンの場以外で会ったことがあって、4チャンというのはインターネット上の舞台なんだと思った。あそこに行って、見世物を演じる。できうる限り攻撃的になるんだ。

 4チャンでの言動を実際にオフラインでする人に会ったことがない。4チャンに行けば、あんなふうに発言する。誰しもがそうする。

 4チャンを使うなら、あの雰囲気に適合しないと。利用する人はみんなそうしてる。普段利用しない人からすれば、確かに異様かもしれない。誰しもが最も早く、最も攻撃的な言動をしようとするのだから。

―一種のゲームのような感じ?

 一瞬、4チャンの場にいるときだけかぶるマスクのようなものだろう。過激な4チャンの場は必要だろう。その後で、穏やかな普通のインターネットの世界に戻るためにも。4チャンもそうだし、アノニマスのイメージボード(掲示板)もそうだ。使うときには一種の仮面が必要となる。

 心理学にとても興味を持っている。自分が利用者になるというよりも、どうやって機能しているのか、知りたかった。

―15-16歳ごろ、よく行っていたウェブサイトは?

 ソーシャルメディアを使ったことはなかった。ツイッターの人気が出始めた頃だった。時間を最も費やしたのはオンラインゲームだろう。ゲーム類のサイトだな、よく行ったのは。すばやくカーソルを動かすようなサイト。それと、ウィキペディアをよく読んでいた。マニュアル類も毎日のように読んでいた。特に目標があったわけではない。時間をつぶすためだ。ネット上で他の人と話したり、静かに知識を蓄積していた。新しい友達を作ろうとしていた。
 
 友達を作るって言うのが本当に大きな問題だった。引きこもりだったから、実際に友達が誰もいなかった。オンラインで話ができる、最高に面白い人を探していた。スカイプ、音声チャットなんかをやっていたな。ヘッドフォンをつけてね。

―ネットの上では友人たちがいたわけだ。

 そうだ。オンラインコミュニティーに参加していた。実際には誰かを互いに知らずに通信していた。

―オンラインの匿名での会話は特別な感情を引き起こすことがある。時として、オンライン上での自分の発言を後悔するとき、リアルの人生で言ったときよりも強い感情を引き起こす。そういう経験はないか?
 
 その意味はよく分かる。その逆の場合もあるだろう。自分の場合は文字の裏に人がいることが実感できなかった。逮捕されてからやっと、人間がいることが実感できた。

―ラルズ・セックでは「トピアリ(Topiary)」という名前を使っていたが、その前にどんな名前をオンライン上で使っていたのか?

 覚えていない。14か15歳の頃、仮名を使っていたとき、きっとコンピューターのオタクがするように、異様に長い名前だったんじゃないかな。数字と文字、大文字小文字とかを組み合わせて。

―仮名を使っていると、その仮名が生み出す、1つの性格ができていくね。

 そうだ。だから、2-3ヵ月に一度、名前を変えていた。でないと、1つの性格に固まってしまう。周りの人はあるプロフィールを作り上げてしまう、1つの名前に。後でそんなプロフィールにそぐわない発言をしたりするようになる。だから、時々変えた。

 でも、トピアリについては長い間使っていた。おそらく、間違いだったと思う(逮捕につながったから)。7-8ヶ月ぐらいだろうか。ほかの名前はたくさんあったので覚えていない。(つづく)
by polimediauk | 2014-10-20 20:57 | ネット業界
 世界10カ国・地域を対象とした、デジタルニュースの利用についての調査で、日本はニュースをソーシャルメディアで共有したり、ウェブサイトにコメントを書く比率が他国と比べてかなり低いことが判明した。

 英ロイタージャーナリズム研究所が毎年出している「デジタルニュースリポート」の最新版は、各国の市民がどのようにネット上でニュースを閲覧しているかをさまざまな角度から分析している。(その概要については読売オンラインにまとめている。)

 調査の対象となった国・地域は、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、デンマーク、フィンランド、スペイン、イタリア、ブラジル都市部。対象者は全部で約1万9000人。

 ニュースをどのように利用しているかについて調べたところ、「ニュースの参加度」という点では日本の数字が極端に低い。これは前年もそうだった。以下はリポートの中の「国別参加度」の表である(上記リポートの73ページ目)。

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 左から、米国、英国、ドイツ、フランス、デンマーク、フィンランド、スペイン、イタリア、ブラジル都市部、日本の順だ。

 項目は、上から「ソーシャルメディアでシェアする」、「電子メールでシェアする」、「記事を評価する・いいねをつける」、「ソーシャルメディアでコメントする」、「ニュースサイト上でコメントする」、「ニュースについてブログ記事を書く」、「ソーシャルメディアに写真をアップロードする」、「ニュースサイトに写真をアップロードする」、「オンライン投票をする」、「キャンペーンをオンラインで行う」、「オンライン上で友人にニュースについて話す」、「誰かと会った時にニュースについて話す」だ。

 日本の項目を眺めると、ほとんどが一ケタ台で、「ニュースサイトにコメントを書く」は3%のみ。二ケタ台(14%)になったのは、「誰かと会った時にニュースについて話す」のみ。

 逆に、非常に活発にオンライン上で活動をするのがブラジル都市部の市民だ(会った時にニュースについて話す人は44%、ソーシャルメディアで共有は42%、ソーシャルメディアでコメントが33%)。イタリア、スペイン、米国の市民たちもネット上でニュースについて盛んに会話を行っている。

 リポートはなぜ日本で「ニュースの参加度」が低いのかについて、分析していない。ロイター研究所にはぜひこの点を解明していただきたいものだ。

 自分自身の体験から言えば、自分あるいは自分の友人たちあるいはフォロワー同士の反応を見ると、面白い、興味深いトピックがあれば、すぐにシェアがあるので、こうした結果は必ずしもぴんとは来なかった。ただ、「一部の人が盛んにシェアしている・ニュースを広めている」という状況にある可能性もある。ほとんどの人が、いわばニュースを受動的につまり、ただ読むだけという場合が圧倒的なのかもしれない。少なくとも、このリポートはそんな読み手の姿を浮き彫りにしている。

英国とスペインを比較

 日本の状況の分析はないのだが、その代わり、英国とスペインとの比較が出ている。

 そのきっかけは、米国と英国のニュースの参加度を見たときに、母語が同じ英語であり、ネットの接続度も同様であるのに、米国市民のほうが参加度が非常に高いことだった。これはもしかして、「プライバシーやネット上の透明性について、異なる感覚を持っているからではないか」と思ったそうだ。
 
 「英国人は自分の意見を表明したがらない傾向が(米国に比べて)強いのではないか」という仮説を立てた。そして、米国よりもいくつかの項目で参加度が高いスペインと英国とを比較した。
 
 「ニューサイトにコメントを残したときに、実名を使ったか」では、英国が9%、スペインが21%。

 「ソーシャルメディアで使うユーザーネームを使った(これで実名が分かる」は英国で8%、スペインが16%。

 分析の結果、スペインの市民と比べたとき、英国市民は「実名を使うよりも匿名を好む」傾向があったという。

 また、ニュースサイトにコメントを書き込むのは「若い男性」が主だという。英国の21-24歳の47%が、スペインの25-34歳の75%がコメントを書き込んだことがあると答えている。

 リポートは、結論として、米バズフィートのようなサイトはどれだけトピックが広がるかで成功の度合いを測っているけれども、これからのニュースサイトにとって重要になるのは「いかに利用者に参加してもらえたか」だろう、と書く。

 競争が激化する中で、「単にリーチや頻度で計測するのではなく、意味のあるエンゲージメント(従事度・没頭度)が鍵を握るだろう、と。エンゲージメントを高めるのは「コンテンツとブランドへの忠誠心」だという。平たく言えば、面白い・興味深い中身があることと、「このブランド=媒体=なら読みたい」と思う人を増やすことだろう。
by polimediauk | 2014-06-25 14:46 | ネット業界